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*サクラの並木 L:サクラの並木 = { t:名称 = サクラの並木(アイテム) t:要点 = 道,たくさんのサクラの樹,咲いているサクラ t:周辺環境 = 花に気付く通行人 t:評価 = なし t:特殊 = { *サクラの並木のアイテムカテゴリ = 藩国保有アイテムとして扱う。 *サクラの並木の効果1 = 藩国内にサクラの並木道を作る事ができる。 *サクラの並木の効果2 = 花見もできるので自然や季節を愛でるようになる。 *サクラの並木の効果3 = 人の集まる場所に植える事で治安を+1上昇させる } t:→次のアイドレス = サクラ花見ブーム到来(イベント) } #contents() **桜爛春暄 「黄にして春の“はる”は誓う――」 /*/ 荒涼とした風が、薄桃の花びらを散らす。 歓声。 桜の舞う様は、確かに風情だった。 世は花見ブームである。 「予定通りだな」 「うそばっかり」 刀を地面に突き刺してさかづきを煽る髭男。 さかづきの水面に、少女の顔がひょいとのぞくように映る。 「なにしてるの」 「実は俺が植えた桜を見ていた」 その台詞に、少女の顔が露骨に歪む。 「...信じられない、こんな砂漠地帯に桜を植えるなんて。非常識」 「第二階層でオアシス、それなりに涼しい場所を選んだつもりだがな。」 「うそばっかり。いやがらせよ」 「去年はクリスマスプレゼント忘れてたんでな。いいじゃないか。 なにせ、ヘソ出しの愛と芸術と学問の国にだって桜は咲くんだぜ」 ため息が漏れた。 得意になって笑う。 砂漠に桜が咲くのはいいことだ。 だが世話をする自信はなかった。 自分は浅田ではない、植物の知識もない。 「予定通り?」 「嘘じゃないさ。水は高きから下へと流れる。流行も同じ」 「...たとえ、おかしいよ」 「過牛考」 「それなら――わかるけど」 「30マイルで桜並木が買えるなんて、安いと思わないか」 「ですから、その後の世話のことを考えないと...」 「それは高原に任せるよ」 くうと寝ころがる。 背中を蹴られたのだった。 偶然だろうけど、背後から花見客の笑い声がした。 /*/ 「なにしてんだ」 「笑ってる」 ふん、と鼻で笑われた。 「酔っぱらいめ」 髭の男はくつくつと笑う。 設定状未成年なので酒は呑んでない、酩酊しているわけではない。 「やい、俺と勝負しろ」 「やめとけ、番長力5じゃ話にならん」 くそじじい、 つぶやいて、興味を失ったのだろう。 きびすを返して歩き出す音。 「――あいにく人は斬らんと誓ったんでな」 「いつ、誰にさ」 「この春に」 「軟弱め」 「そういうところは真似せんでもいい」 /*/ 「なにを、してるんですか」 「桜を見て、呑みあっている」 「誰と」 それには答えずくつくつと笑う。 「なんで、桜の花びらは仄紅いのか――知ってるか?」 「くだらない話なら、聞く耳持ちませんよ」 「今は、それを信じたい気分なんだよ」 髭の男は、地面に突き刺した刀に酒を浴びせて、自らもさかずきを飲み干す。 刀を滴るアルコールは、刃をつたい地面の奥へと染み込む。 「俺は、この桜の花びらの一枚一枚の紅が血の色に見えてくる...」 「感傷に浸りたくて桜を買ったのですか」 「まさか。花見ブームが起こったときに桜がないと寂しいだろ」 「...そんな理由で、NWCで喧伝してたんですか」 「まあ、俺が花見したいだけだよ」 風が吹いている。悲鳴のような荒涼とした風だった。 「桜が紅いのは、木の下に死体が埋まっているからだ――なんて、まさか本気で思ってるんですか。そんなの、悲しくないんですか?」 「まさか。」 頭を振る。 「桜が赤いのは桜のせいだ。 だが、この地はあまりにも多くの血が流れすぎた。 幾千万の生命と赤き血潮が、砂の一粒一粒にまで染み込んで、滞っているのさ。 理不尽な死の無念を俺たちに訴えるかのようにな。 ――だから、さ」 立ち上がり、男はまっすぐなまなざしで桜を見上げる。 その瞳は、満開の桜のように爛々と輝いている。 「もし、桜がその血の赤きを、熱く暗くたぎる恨み、情念をくみ取って、最後に見事な花としてくれるっていうんなら。 俺はそれを信じてもいいんじゃないかって、思うんだよ」 /*/ 風向きが変わり、暖かな春の風が頬をなでて通り過ぎる。 その場にはもう誰もいなかった。 男はしばらく飲んだくれていた。 やがて、口を開く。 「命を運ぶと書いて運命と呼ぶ。なら、その命を運ぶモノとは何だ」 胸のペンダントが、春の陽気に当てられて淡く黄色く灯る。 太陽にも、春に咲く野花の色にも似た薄黄色。 「人は風に命を流され、運ばれていく。 風に吹かれながら歩き、やがて風を背に走り出す。 そしていつか風を追いかけて、風と共に進み、やがて風を追い越して先を走ろうとする。自らが定めた理想へと。」 暖かな風は、地表に残っていた冷えた空気に押し上げられて上昇気流を生んだ。 桜がうねり、幾千もの花びらを散らす。 「だが、その風があまりにも強ければ、風に巻き込まれて吹き飛ぶこともある。 巡り合わせの不幸で、向かい風が吹くこともある。」 地面につき立つ刀を引き抜く。 酒に湿る土を払い、鞘に収めて身を引いた。 「おまえ達は、俺らの勝手に選んだ運命に巻き込まれ、強い風になぶられて...吹き飛ばされて、 ――それでも、必死に生きようとした。 俺は知っている。 この風を懸命に走ろうとしたお前たちを。 ――だから、」 金属の打ち合う小さな音。 キンという響きの過ぎた後には、風の境目が斬れ溶けていた。 風のうねりがほつれ、春の暖かな空気が地面へと降り落ちていく。 「黄にして春のはるは誓う。 いつか、この運命を追い越すと。 この地に眠る全ての無念を背負って、それでも走りきってみせる。 冬が過ぎれば春がくるように、俺たちの運命にも春があったのだと、無駄な命ではなかったのだと証明してみせる。 だから、」 髭面の男は顔を上げて、桜吹雪に笑いかける。 「まあ、ここで見てやがれ」 春の陽気の様な笑い顔で。 (はる)
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