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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/8スレ目ログ/8-661 - (2010/04/25 (日) 21:09:42) の1つ前との変更点

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#asciiart(){{{ 『ただいま~美琴~』 『おかえり、お兄ちゃ…ってどうしたのその傷!?シャツまでボロボロじゃない!!』 『ははは…前にぶん殴った奴に因縁つけられてナイフで切り付けられたんだ…まあ俺には慣れたことなん―――』 『慣れたとかの問題じゃないでしょ、バカ兄貴!!警備員に通報しなさいよ!!もう喧嘩とかのレベルじゃないでしょ!』 『いや~ははは、逃げ込んだ先でケータイが圏外じゃ通報しようにもできないじゃねーか。  それにこのくらいの傷なら絆創膏貼っとけばすぐに治るよ。シャツを買いなおさなくちゃならない…って美琴?』 『…うっ……ぐすっ、だってお兄ちゃん、幼稚園の時からそうじゃない。ひっぐ…いつも出かけると傷だらけで帰ってきて…  中学の入学式のときだって新品の学ランが、次の日にはボロ雑巾に変わり果てて…』 『そのボロ雑巾は今でも着ているぞ?いつもお前が仕立て直してくれるから明日も同じように―――』 『だから心配してんのよ!!いつも同じように傷ついて帰ってきて…それでも強がり言って…まるで自分がすべての不幸を吸収するかのように…  それでも誰かのために動かなきゃ気が済まないし…このままじゃいつか私から離れていっちゃうような気がして……私の大好きなお兄ちゃんが…』 『………………美琴』 『ぐすっ…何よ……』 『こんな兄貴でごめんな。誰かのために本能のままで動いちゃうからな』 『…い、今さらいいわよ…そんなこと…』 『でもな、俺は必ずお前の元に帰ってくるよ。どんなに傷ついても、どれだけ服をダメにしても、どんなに不幸を吸収しても、  お前の笑顔を見るために必ず帰ってくるよ。だから美琴、お前の大好きなお兄ちゃんにお前の笑顔を見せてくれ。  やっぱり泣いている顔よりも笑っている顔の方が俺は好きだ』 『……お兄ちゃん…』 『だから約束するよ。どんな状況になっても、どんなにつらいことに巻き込まれたとしても、どれだけ引き離されたとしても、  俺はお前の笑顔を見るためにここに戻ってくるよ。だから美琴も約束してくれ。  何が起きても、つらく悲しいことが起こったとしても俺たちの場所を守っていてくれ。美琴ならできるよ』 『…わかった…じゃあお兄ちゃん約束の証としてさ――――』 「……うう~ん、てっあれ?朝?」 学園都市第三位のレベル5『超電磁砲』こと上条美琴は目を覚ました。 7月20日 午前6時半 隣で寝ている上条当麻と美琴の物語が始まる日の早朝だった。 美琴は夢の内容を思い出していた。昔あった記憶と一致していたのだ。 (たしか私が小学6年生でまだお兄ちゃんと一緒に暮らしていた頃だったな。  私のレベルがそのころだともう5に認定されていて、常盤台への入学もすでに決まっていて、基礎学力を上げているときだったかしら。  当麻お兄ちゃんはそのころからすでに出席日数が足りなくなっていて夏休みは毎日補習だったな。  それだけいっぱい怪我して帰ってきて、それでも強がりして笑いかけてくるからつい悲しくなって泣きだしたんだっけ) 美琴は幸せそうに眠る当麻の顔を見ながらさらに思い出していた。 (あんまり怪我して帰ってくるからそのうち帰ってこなくなるんじゃないかって、本気で心配したなー。  だってそのころだってすでに能力開発に躍起になっていて友達と遊ぶこともなかったし、いつも一緒にいてくれるのはお兄ちゃんだけだったもんなー) と自分の孤独だったころの記憶を思い出した。 今ではルームメイトである白井黒子のおかげでいろんな友達ができた。学内の人だけでなく他校の初春さんや佐天さん、風紀委員一七七支部の固法先輩などと親しくお喋りしている。 お兄ちゃんの高校の友達ともすでに顔見知りだ。隣で暮らしている土御門兄妹や青髪にピアスを付けている学級委員(名前は知らない)、デコ頭で根っからの委員長気質の吹寄さん、 どこか影の薄い転校生の姫神さんなど多くの仲間ができた。 だが友達や仲間を作らずレベル5になろうと躍起になっていたころは同級生も猫と同じように自分から離れて行った。自分が悪いわけではない。 ただレベルが上がるにつれ同級生が羨んだようなまたは恨めしな視線で見つめるようになった。自分を『上条美琴』ではなく『超電磁砲』として見られ始めたころだった。 (私の事をいつも同じように見ていてくれてレベルが上がって行くたびに自分のことのように喜んでくれたのはお兄ちゃんだけだったな。  だからあの時も私のお兄ちゃんがどこかに行っちゃうような気がして、逃がさないようにお兄ちゃんを抱きしめて胸の中で泣いたんだ。  それであの時、絶対に離れたりしないって宣言したから私が約束の印としてキスしようって…) 夢の内容を思い出し美琴は顔を真っ赤にした。昔はよくしていた行動も今から思い出すと恥ずかしい黒歴史の一つだ。 (でででも、さすがにあの時のお兄ちゃんはそういうのに敏感になってたから全力で拒否して、代わりに指切りで済ましたんだっけ……  てかなんで期待しちゃってんのよ、ワタシ!!べべ別に私はお兄ちゃんの事なんか―――) と美琴は当麻の寝顔を見て、なぜか胸がときめいてしまった。この顔には女を引きつける何かがあるのだろうか? そしてわずかに湿っている当麻の唇を見ると急に奪いたくなってしまった。 (―――べべべべ別に将来彼氏ができたときのための練習台として思えばなんでもないわよね…  私だって上手にできなきゃ彼氏に嫌われちゃうもんね。よ、よし!集中、集中!しっかり距離を測って……) 美琴は唇の形を整えてゆっくり当麻の顔に近づいて行った。 ……10cm……5cm…うっすらと目を開けて確認をとる美琴だが、 「……何してんだ、お前?」 目標の当麻は既に目を開けていた。 「………………」 「…………おい?」 「……わわわ私は…その…なんていうか…だから、えーと……」 ベッドの中で美琴は至近距離にいる兄に向かって言い訳を必死になって考えたが空回りするばかりだ。 そんな美琴を見て当麻は昔から変わらないなと思いながら言った。 「お前のその堂に入ったツンデレっぷりは相変わらずだな。そんな言い訳考えなくてもお前の考えていることぐらい兄貴なんだからすぐわかるよ」 「!…ツン…デ、ていうか何よ!私の考えている事って!?」 「いやだからさ、お前全然彼氏とかできないじゃん。だから俺に慰めてもらおうと――っぐへぁ!?」 「アンタね~。いい加減そのデリカシーのない事平気で口走るんじゃないわよ!!」 当麻は妹の鉄拳を鳩尾に直で喰らってベッドから転げ落ちた。彼らにとっていつもとは違う日のいつもと同じ不幸な朝であった。 兄が言う事なんだが、妹の私はしっかり者だそうだ。私が兄のそばにいれば兄の言う『不幸』な事は軽減される。 何故だかは知らないが昔からいつもそうだった。 だからこの日だって、雷で電化製品を全てパーにする事もなければ、カップ焼きそばの中身を湯切りの際にこぼすこともないし、 机に置いといたのだからキャッシュカードを踏み潰すこともないし、担任からの補習の連絡も素直に受け答えできる。全く不幸ではない普通の朝の様子がそこにあった。 二人は朝食を食べ終わるとそれぞれの制服に着替えた。顔を洗い歯を磨き化粧を整えた美琴は兄に洗面台を譲る。 ツンツン頭をぼりぼりとかきむしりながら兄が洗面台に向かって行く間に脱ぎ捨てたパジャマを洗濯機に投げ込みスイッチを押す。 朝の大体の作業が終わり美琴は二人が寝たベッドを見た。 「少し干しておこうかしら?天気もいいし、予報だと雨も降らないようだから」 ふと思いついた美琴は枕と掛け布団をどけて、敷き布団を抱えてベランダへ向かった。カーテンを開けて日差しが差し込んでくると思わず目を瞑ってしまった。 「うーん、夏の日差しは強いなー。今度みんなでプールにでも行きたいなー」 そんなことを呟きながらドアを開け、ベランダに出た。 「……って、あれ?なんで既に布団が?」 美琴はベランダのひさしに引っかかっている先客を見つけて首を傾げた。だが次の瞬間、美琴は予想外の事実に直面した。 「って、これってまさか、修導服!?てことは、シスター!!?なななんで家のベランダに!?」 美琴は予想外すぎて思わず布団をどさっと落としてしまった。すると白い修導服を着た幼いシスターは目覚めたようで、顔を上げてきた。 シスターのフードからはみ出ている髪の毛は銀色で顔立ちからしてどう見ても日本人ではなかった。 (どどどうしよう…やっぱり外国人だったら日本語喋れないよね?英語かな?それともイタリア語?はたまた全然知らないような言語だったらどうしよう…) 美琴は常盤台で英語やロシア語などを履修しており高い成績を取っているので外国人ともある程度コミュニケーションをとれるのだが、 こんな状況でしかも身元が全然わからないような人を見かけるとなるとやはりパニックになる。 美琴があせって何もできずいると後ろから当麻がやってきた。 「美琴、そんなところで何固まってるんだ?布団干すんならさっさと……」 当麻も美琴の後ろからベランダの様子を見てしまい固まった。 「え、え、えーーー!!?ななな何なんだよ美琴!?これがまさか盛夏祭の出し物なのか!?」 「んなわけないでしょ!!ベランダに来てみたら引っかかってたのよ!」 「んなばかな!こんなどっきりイベント俺には見に覚えがないぞ!!」 二人で議論しているとそのシスターは口を開き始めた。 「お…………」 「「お?」」 「おなかへった……」 「「…………?」」 「おなかへった」 「「…………」」 「おなかへったって言ってるんだよ?」 いつまでも自分を無視されているそのシスターは少しむっとしながら二人に問いかけた。その言語は日本語以外の言葉には聞こえなかった 仕方がないので兄である当麻が先に口を開いた。 「あー、まさかあなたはこの状況で自分は行き倒れですとかおっしゃりやがるつもりでせう?」 「倒れ死に、とも言う」 「…超日本語ぺらぺらじゃない…」 「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」 「…あんたねそれは少しずうずうし―――」 「あー、わかった。ならこれならどうだ?」 当麻は美琴の文句を遮ると、学生鞄の中からラップに包まれた焼きそばパンを取り出した。この夏の暑さのせいであろう。焼きそばから変なすっぱい匂いがする。 「(ちょっとお兄ちゃん!いくら何でもこれは…)」 「(いや美琴、あの子にはどっか遠いところで幸せになってもらおう。このすっぱい匂いを嗅げば逃げ出すに違いない)」 当麻と美琴が裏でこそこそ話していると、 「ありがとう、そしていただきます」 そのシスターはがっつりラップごと喰った。ついでに言うと当麻の腕ごと。 「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」 幸運の女神である美琴もこればかりは固まってしまった。 「まずは自己紹介からしなくちゃいけないね。私の名前はインデックスって言うんだよ?」 「誰がどう聞いても偽名じゃねーか!お前は『目次』か!」 「見ての通り教会の者です。あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」 「誰も聞いてないわよそんなこと!それよりどうしてベランダに引っかかっていたのか答えなさいよ!!」 「うーん、禁書目録のことなんだけど?それに追われていたからね」 ベランダに引っかかっていたこの少女は今、ガラステーブルを挟んで美琴と当麻の反対側に座っていた。 腹が減って動けないと言うので冷蔵庫の中にあった野菜を全部中華鍋に放り込んで山盛りの野菜炒めを作ったのだが5分もかからずに平らげてしまった。 恐るべき大食漢である。 皿を片づけて当麻が深呼吸をして事情聴取し始めると、少女はそんなことを言ってきた。 「追われてる?ならなんでベランダなんかに?もしかして空から飛んできたの?」 「隣のビルから飛び降りたんだよ。ああするしか他に逃げ道がなかったもんね」 「ふーん、じゃあ誰に追われてたんだ?どんな能力者に?」 「いや、魔術師だよ」 「「………………はい??」」 上条兄妹は予想外すぎてまたしても唖然とした。 この町は学園都市である。230万人人口を抱え、日々能力開発を進めており実際に数多くの能力を産みだし能力者も増え続けている。 一方でオカルトだのマジックだの非現実すぎるものは一切信じられていなかった。物語や空想でしか語られてないものを美琴や当麻は学園都市に来る前に非現実だと軽くあしらっていた。 「「………………」」 「ところでさ二人は一体どういう関係なのかな?雰囲気は兄妹ってかんじだけど見たところ似てないよね?もしかして恋人同士?」 突然のことで呆気にとられている二人にインデックスと名乗る少女は逆に質問してきた。 はっと、我に返った美琴は突然の質問にあわててしまった。顔を真っ赤にしてあわあわと手を振りながら、 「え、いや、恋人って言うか、なんというか―――」 「俺と美琴はよく言われるけど恋人じゃないんだ。2つ年の離れた兄妹だよ。俺は父さんによく似てるって言われるけど美琴は親戚の御坂叔母さんによく似てるって言われてるんだ」 「ふーん、全然似てないから恋人同士で同棲しているかと思ったんだよ」 「まあな。俺はもてないから恋人と同棲なんてありえないけどな」 美琴は心の中で落ち着きを取り戻し、んなわけねーだろと呟いた。実際こいつの人助けのせいで何人もの女性に対してフラグを立て続けている。 自分もその一人なのだが自他ともに認めるツンデレなので想いを打ち明けられずに悶々としている。 「それはさておきとして、魔術師、だっけ?なんでそんな奴らに追われてたんだ?」 「私には10万3千冊の魔道書があるから、それを狙ってたんだと思う。エイボンの書、死者の書、ネームレスに―――」 「まーてまてインデックスさん、あなたは今10万3千冊の魔道書があるって言ったよな?それは主に国語辞典ぐらいの大きさなんだろ?」 「?それは原典によって種類はあるけど大体そんなかんじだよ」 「で、10万冊ってのは一体どこにあんだ?10万冊って言ったら図書館ぐらいの大きさじゃないと収まらねーよな?」 「鍵とか持ってるんじゃない?なんかの倉庫の管理人とか?」 「ううん。ちゃんと10万3千冊、1冊残らず持ってきているよ?」 「「………は??」」 上条兄妹は眉をひそめた。まさかバカには(もしくは天才には)見えない本でも持っているのだろうか?けれども少女の周りにはそれといったものは見当たらなかった。 美琴はわけのわからないことを次々と言ってくるこのシスターの事に腹が立ってきた。 「あーーもう!!一体何なのよアンタは!?突然ベランダに舞い落ちてきて、ご飯をねだるは、自分の名前は『禁書目録』だって言って、  魔術師に追われてるだの、10万3千冊の魔道書を持っているだと変なことばっかり言って!!  ここは学園都市よ!最先端の科学が結集する街なのよ!そんなオカルトなことがあるわけないでしょ!!」 「そんなことないもん!魔術はあるもん!!外の世界じゃそれが当然なんだよ!!」 当麻も美琴も学園都市に入ってからあまり外の世界に出たことがない。だからインデックスがそんなこと言っていても頭ごなしに否定することができなかった。 美琴がそんな風に考えていると今度は当麻が口を開けた。 「魔術魔術って言うけど、魔術ってなんだよ?お前にもできるのか?」 「私には魔力がないから私には使えないの」 「「…………」」 「ところでさ、さっき能力者とか言ってたよね?学園都市は科学の力で意図的に生み出してる聞いたことあるけど、ホントにそんなのあるのかな?」 「な…あんたね、私が誰だか知っているの!?この学園都市の第3位の超能力者と言ったら『超電磁砲』である私なのよ!!  そこらへんの変なインチキ魔術なんかと一緒にしないでよ!!」 「むきー!インチキとはひどいんだよ!!じゃあ言わせてもらうんだけど私の着ているこの修道服、『歩く教会』って呼ばれてるけど、  トリノ聖骸布を正確にコピーしたものだから強度は法王級なんだよ!物理・魔術を問わず全ての攻撃を受け流して吸収しちゃうんだから」 さっきのベランダに飛び降りたってのはそれでかと当麻は納得したが、美琴は折れなかった。 ムキになった美琴はインデックスの横に立ち仁王立ちになった。 「じゃあ私のレールガン喰らって吹き飛んでも文句は言わないでよね」 美琴は頭に青白い火花を散らしながらポケットの中からゲームセンターのコインを取り出した。 「!!美琴よせって!当たったら危なすぎるだろ!」 「だってあいつがむかつくのよ!攻撃が全く効かないって言うんならやってみようじゃない!!」 「だからよせって!部屋をふっ飛ばす気か!!」 当麻は右手で美琴の頭を抑えた。すると頭にたまっていた電撃は嘘のように消えて行った。 「……?いま何の魔術を?」 「いや魔術じゃねーよ。生まれつきのものらしいから正確には超能力でもないけど、俺の唯一の能力で『幻想殺し』って言うんだ。  人が持たざる異能の力なら原爆級の炎でも超強力な超電磁砲でも神様の奇跡でさえも打ち消せます、はい」 「「……」」 「…ってなんなんだよ!!二人してそのジト目は!!」 「…お兄ちゃん…超電磁砲までは認めるけど、神様の奇跡ってのはないよ」 「神様の名前も知らない人に、神様の奇跡でさえも打ち消せますとか言われてもねー。 それに魔術のことを知らないとか言ってる人がどんな異能の力でも打ち消せるとか言えるわけないんだよ」 確かに当麻は今まで魔術というものを右手で打ち消したことはない。だが当麻が打ち消せなかった超能力は一つもなかった。 だから今まで幻想殺しは異能の力にしか効果がないと思われていた。もし魔術というのが本当にあって幻想殺しが打ち消せなければ、その名を返上しなければならないのだろうか。 すると当麻は立ち上がってインデックスの隣に行った。 「お兄ちゃん?どうしたの?」 「…お前さっき自分の着ている修道服の魔術によってどんな攻撃からも身を守ってきたって言ったよな?」 「?確かにそんなこと言ったけど…何する気?」 「俺がこの幻想殺しでその修道服を掴んだらその魔術が消え失せて効果がなくなるだろ?それで俺はお前の言ってる魔術を信じる。 そしてお前も俺のこの右手の力を信じられるだろうが!」 確かにそうだと美琴は思った。これで両者文句はないはず。だが美琴は女の第六感がなぜか止めるようにと警告を送っていた。 だがインデックスはニヤニヤとしながら余裕たっぷりにこう言った。 「君の力がホ・ン・トならね~~~」 「(ブチッ)上等だゴラァァ!やってやろうじゃねーか!!」 思わずあっと叫んだが、当麻は構わずインデックスの肩を右手で掴んだ。だが全く変化がない。やはり効果がないのだろうか。 「…別に何も起きないんだけど?」 「…あれ?ってことはやっぱりこれはただの修道服何じゃ?」 「違うって言ってんだよ!!」 少女は小さな胸をむんと張り上げて勝者の顔を見せつけてきた。だが次の瞬間、 プレゼントのリボンをほどくようにインデックスの修道服はすとんと落ちた。 インデックスは修道服以外何も着ていなかったのだ。だからインデックスは頭のフードで隠されているところ以外生まれたままの幼い体が丸見えとなった。 「「………」」 「…ん?どうしたの、二人とも?」 「「………いや、その…」」 「?…………!!??」 いやあああああああ ぎゃあああああああ 朝の学生寮に盛大な悲鳴が轟いた。今日が夏休みの初日でなければ警備員に通報が入り上条兄妹は大恥をかいていただろう。 美琴は棚から救急箱と裁縫箱を持ってきた。時刻は既に8時10分前である。 美琴は既に夏休みであるから用事はないのだが、当麻は学校で補習の授業がある。だから家でのんびり過ごす訳には行かないのだが、 布団にくるまって破れた修道服を修復するインデックスを置いていくわけにも行かないのだ。 「痛ててて…ちくしょう、なんなんだよシスターって。いちいち怒るときには人の体に噛みつくんですか?」 当麻は救急箱から痛み止めスプレーとガーゼを取り出すと、未だにくっきりと残る噛まれた跡一つ一つに吹きかけていく。 「……うぅ……ぐすっ…」 インデックスは裁縫箱から安全ピンの箱を取り出し破れた布地一枚一枚を丁寧に繋げていく。 布団にくるまっているのでその表情は見えないが、自慢の修道服が破けてしまったからであろう、ショックで泣き崩れていた。 美琴は自分の能力を使って兄の携帯電話の充電をして見せたときのことを思い出した。あのときは兄が小学校一年生で美琴が幼稚園に通っていた頃だった。 レベルは2であったがそのころでは異例のスピードだともてはやされていた。大好きな兄が学園都市に来たのでこれまでの自分の成果を見てもらおうと兄の携帯電話を使って充電して見せた。 その時の兄はすごいすごいととても喜んでくれた。だが誉めようとして右手で美琴の頭を撫でた瞬間、今まで使っていた能力が使えなくなり充電できなくなってしまった。 いくら集中してもできず、かなりムキになっていた。そんな様子を見た兄は思わず右手を離してしまった。 すると突然能力が回復し許容範囲を大きく超える電圧を流してしまい携帯電話を壊してしまった。 買ったばかりの携帯で新品だったものが一瞬にして使いものにならなくなってしまったが、兄は笑って許してくれた。 その時美琴は自分の能力が簡単に打ち消されてしまい挙げ句の果てにコントロールのすべも忘れてしまい悔しくてぼろぼろと涙をこぼしてしまった。 兄はとても困惑したが美琴を抱き寄せて右手で頭を撫でて慰めてくれた。その優しい撫で方に安らぎを感じ、ぼろぼろと流れていた涙が止まっていくのを今でも忘れてはいなかった。 だから今のインデックスの気持ちも分からなくもなかった。自慢の能力が絶対的な自信があの右手が触れた瞬間にいとも簡単に崩れ去っていくとき、その絶望感は果てしないものだった。 だがその瞬間、素の自分が出てきた様な気がして(インデックスの場合はスッポンポンであるが)なにか束縛から外れて自由になった気がする。 美琴はその時の気持ちが癖になってしまい兄から撫でられるのを楽しみにしていた。そのことが超能力開発を躍起になって進める原動力の一つになったのかもしれない。 そんなことを思い出していると不意にインデックスが布団から出てきた。だがすでに裸ではなく修道服を着ていた。 「これでもう大丈夫なんだよ!!」 「……あのインデックスさん?体中に付いている安全ピンはやばくないですか?一応美琴の服を出しておいたんだけど?」 「…………」 「…まるで針のむしろね。私が縫っておいてあげるからこれ着なさいよ」 「……別に無理しなくていいんだよ。私はシスターさんなんだし修道服以外は着れないんだよ。それにいつまでも長居していると追手が来て君たちに迷惑をかけるかもしれないしね」 「…追手って言うとさっき言ってた魔術師だよな?そんなにやばい連中なのか?」 美琴はまたかと思い少しため息をついた。そう、これが上条当麻の人助けスキル発動の瞬間だ。どんな時でも困っている人(主に魅力的な女性)がいるとすかさず助けに行き、 最終的にフラグを立てて去っていく。だからその女性たちは無駄にその気になってしまいどうしようもなくなってしまう。 一番の被害者である美琴がそう思うからこのスキルは非常に危険だ。早くなんとかしないと。 「……お兄ちゃん、まさかその魔術師から守ってやるよとか言うんじゃないでしょうね?」 「ん?いや、今日は補習で忙しいけどこんなか弱いシスターさんを見捨てるわけにはいかないだろ?」 「アンタねぇ、そんなわけもわからない連中相手にできるわけないでしょう!!いくら右手で魔術とかいうものを打ち消したとしても危なすぎるよ!!」 「とうまって言ったかな?君の親切はありがたいんだけど、これは私の問題だし赤の他人を巻き込むわけにもいかないんだよ。  みことの言った通り君たちには危険すぎるし、第一オカルトなんか信じない学園都市の人間が魔術なんかに関わるのもよくないんだよ」 美琴はインデックスの言ったことが少々胸を痛めた。確かに得体のしれない魔術なんかに関わるべきではないが、確かに自分たちは赤の他人でしかないのかもしれないが、 インデックスは明らかに困っていた。そんな人をただ見捨てたくはなかった。 そんなことを思っている美琴も当麻と同じ血が流れているのだろう。二人は自分たちにできることはないのかと唇を噛んだ。 「それでもよ!見捨てるわけにもいかないだろう!こんなに色んなことしちゃってただ外に追い出すようなことはできねえだろが!!」 当麻は声を荒げながら反論した。だがインデックスは、 「…じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」 とニッコリ笑顔で言った。インデックスは暗についてこないでほしいと言ったのだ。上条兄妹は言葉を失ってしまった。どんな言葉をかければいいのかわからなかったのだ。 「大丈夫だよ。私も一人じゃないもん。とりあえず教会まで逃げきれば匿ってもらえるから」 「……教会がどこにあんのかわかるのか?」 「ロンドン」 「遠すぎよ!ここは日本よ。もっと近くにないの?」 「うーん、あ大丈夫だよ。日本にもいくつか支部はあるし」 インデックスは安全ピンまみれの修道服を着てニッコリと答えた。シスターとしての性なのであろう。なんとか心配させまいとしている感じであった。 「英国式の教会までたどり着けるかが勝負だからそろそろ行かないとね」 「え!もう行っちゃうのか!?なんなら風紀委員にでも連絡すれば―――だあああぁぁ!!」 突然立ち上がった当麻は悲鳴を上げて床に転げ回った。どうやら小指をどこかにぶつけてしまったようだ。 「お兄ちゃん!大丈夫!?」 「ううう、不幸だ…」 「不幸というより、ドジなだけかも」 美琴は心配して痛み止めスプレーを吹きかけたが、インデックスはちょっとだけ笑っていた。 「けど、幻想殺しっていうのが本当にあるなら、仕方ないかもしれないね」 「え、どういうことよそれ?」 「うん、こういう魔術の話なんてあまり信じないかもしれないけど、神様のご加護とか、運命の赤い糸とかそういうものをまとめて打ち消してしまっているんだと思うよ?」 「待てよ!幸運だの不幸だのそういうことは確率と統計のお話だぜ?んな訳―――ッ!」 言った瞬間、思わず手を触れたドアノブから強烈な静電気が走り、反射的に体がビクンとふるえた。すると筋肉が変な風に動いたのかいきなり右足のふくらはぎがつり、 そのまま美琴の方へ倒れ込んできた。 「え、ちょっと、きゃあ!!」 「わわ悪い!美琴!今どくから――ッ!?」 当麻は足を美琴のそれと変な風に絡ませてしまい余計ふくらはぎを痛め悶絶した。 5分後じたばたしていた二人がようやく落ち着いた。だが美琴はまだ顔を真っ赤にしていた。 「…すまなかったな美琴。それでえーとシスターさん?」 「なに?」 「この不幸がどういう意味か説明してくれないか?」 「説明って言うか、君の右手の話が本当なら、その右手があるだけで幸運ってチカラもどんどん消していってるんだと思うよ?」 「つまり、それってことは…」 「とうま君の右手が空気に触れているだけで、バンバン不幸になっていくってことだね♪」 「ぎゃああああああ、不幸だああああああああ!!」 オカルトを全く信じていなかった当麻であったが、この奇跡なまでの不幸体質については別だった。自分の右手のせいで不幸になっていたなどと言われてだいぶショックだったに違いない。 「それじゃあ、ご飯を食べさせてくれてありがとう。二人とも元気でね」 インデックスは玄関に向かい別れの挨拶をした。 「おい!なんか困ったことがあったら、また来ていいからな」 神様の奇跡でさえも殺せる男は結局こんな事しか言えなかった。学園都市第3位の超能力者でさえ何も言うことができなかった。兄妹にして情けない話だ。 「うん。おなかへったら、またくる」 だからインデックスもこんなことしか言わなかった。助けを求めることはなく冗談のような事しか言わなかった。 ドアを開けて辺りを確認すると足早に去っていってしまった。 「…………」 「………これでよかったんだよ、お兄ちゃん。あんな変なシスターさんなんかと関わって良い事なんてないわよ」 「……そうかもな。でもなんだかやり切れねーよな、美琴?」 確かにそうだと思った。明らかに助けを求めている少女に結局自分たちは何もできなかった。それはとても悔しかった。 でもしょうがないではないか。私たちが関わったところでどうなるのかわかったもんじゃない。結局自分たちが足を引っ張ってあの子に迷惑がかかるのは嫌だった。 美琴がそんな言い訳を考えていると美琴の携帯が突然鳴り出した。 「黒子からだ、何だろう?もしもし?」 『お姉さま?今どちらにおいでで?』 「お兄ちゃんのとこだけどどうしたの?なんかあわててるようね?」 『…まだあのお兄様の家に……まあいいですわ。急いで病院まで来てくださいませ。この前の虚空爆破事件の容疑者の介旅初矢が意識不明になりましたの!』 「え!なんであいつが!?てか私そんなに強く殴ってないと思うんだけど…」 『とにかく急いで来て下さいませ。病院には大脳生理学の専門家も呼んでいるので話を伺いますの。それではお姉様、病院でまた後ほど』 通話を切ると美琴は出かける支度をした。 「お兄ちゃん、悪いけどこれから出かけてくるね。今日は寮に帰るから」 「…お前な、あんまり白井の邪魔ばかりすんなよ。それに変な事件とかに巻き込まれても、俺はあまり助けになんかに行けないぞ」 「大丈夫よ。なんたって私は超電磁砲なのよ。魔術師とかいう訳の分からないような連中はさておきとして、能力者相手だったら負けたことないんだから――ってこれは?」 ふと支度をしている美琴はベッドの上にフードが落ちているのを見つけた。たぶんあのシスターのものだろう。 「あー、インデックスってやつのだろ。あわてて出て行くもんだから忘れちまったんだろうな。置いといてくれ、俺が預かる」 当麻も補習に出かけるのだろう。既に学生鞄を担いでいた。 「インデックスが取りに来たら渡しておくから。…ってもうこんな時間だ。行くぞ、美琴」 「あ、うん、待ってよお兄ちゃん!」 二人は学生寮の部屋を出ると鍵を閉めてエレベーターに乗り込んだ。 「あのシスターさん、無事に教会までたどり着いていればいいね?」 「ああ、魔術師なんかに見つからずにな」 エレベーターの中でそんな風に話し合っていると、ドアが開き二人は出た。 当麻は学校へ、美琴は病院へ向かって走って行った。 そうして二人の日常が始まった。これから壊れていこうとは知らずに。 }}} #back(hr,left,text=Back)
*上条兄妹シリーズ 2 とある魔術の上条兄妹 前編 #asciiart(){{{ 『ただいま~美琴~』 『おかえり、お兄ちゃ…ってどうしたのその傷!?シャツまでボロボロじゃない!!』 『ははは…前にぶん殴った奴に因縁つけられてナイフで切り付けられたんだ…まあ俺には慣れたことなん―――』 『慣れたとかの問題じゃないでしょ、バカ兄貴!!警備員に通報しなさいよ!!もう喧嘩とかのレベルじゃないでしょ!』 『いや~ははは、逃げ込んだ先でケータイが圏外じゃ通報しようにもできないじゃねーか。  それにこのくらいの傷なら絆創膏貼っとけばすぐに治るよ。シャツを買いなおさなくちゃならない…って美琴?』 『…うっ……ぐすっ、だってお兄ちゃん、幼稚園の時からそうじゃない。ひっぐ…いつも出かけると傷だらけで帰ってきて…  中学の入学式のときだって新品の学ランが、次の日にはボロ雑巾に変わり果てて…』 『そのボロ雑巾は今でも着ているぞ?いつもお前が仕立て直してくれるから明日も同じように―――』 『だから心配してんのよ!!いつも同じように傷ついて帰ってきて…それでも強がり言って…まるで自分がすべての不幸を吸収するかのように…  それでも誰かのために動かなきゃ気が済まないし…このままじゃいつか私から離れていっちゃうような気がして……私の大好きなお兄ちゃんが…』 『………………美琴』 『ぐすっ…何よ……』 『こんな兄貴でごめんな。誰かのために本能のままで動いちゃうからな』 『…い、今さらいいわよ…そんなこと…』 『でもな、俺は必ずお前の元に帰ってくるよ。どんなに傷ついても、どれだけ服をダメにしても、どんなに不幸を吸収しても、  お前の笑顔を見るために必ず帰ってくるよ。だから美琴、お前の大好きなお兄ちゃんにお前の笑顔を見せてくれ。  やっぱり泣いている顔よりも笑っている顔の方が俺は好きだ』 『……お兄ちゃん…』 『だから約束するよ。どんな状況になっても、どんなにつらいことに巻き込まれたとしても、どれだけ引き離されたとしても、  俺はお前の笑顔を見るためにここに戻ってくるよ。だから美琴も約束してくれ。  何が起きても、つらく悲しいことが起こったとしても俺たちの場所を守っていてくれ。美琴ならできるよ』 『…わかった…じゃあお兄ちゃん約束の証としてさ――――』 「……うう~ん、てっあれ?朝?」 学園都市第三位のレベル5『超電磁砲』こと上条美琴は目を覚ました。 7月20日 午前6時半 隣で寝ている上条当麻と美琴の物語が始まる日の早朝だった。 美琴は夢の内容を思い出していた。昔あった記憶と一致していたのだ。 (たしか私が小学6年生でまだお兄ちゃんと一緒に暮らしていた頃だったな。  私のレベルがそのころだともう5に認定されていて、常盤台への入学もすでに決まっていて、基礎学力を上げているときだったかしら。  当麻お兄ちゃんはそのころからすでに出席日数が足りなくなっていて夏休みは毎日補習だったな。  それだけいっぱい怪我して帰ってきて、それでも強がりして笑いかけてくるからつい悲しくなって泣きだしたんだっけ) 美琴は幸せそうに眠る当麻の顔を見ながらさらに思い出していた。 (あんまり怪我して帰ってくるからそのうち帰ってこなくなるんじゃないかって、本気で心配したなー。  だってそのころだってすでに能力開発に躍起になっていて友達と遊ぶこともなかったし、いつも一緒にいてくれるのはお兄ちゃんだけだったもんなー) と自分の孤独だったころの記憶を思い出した。 今ではルームメイトである白井黒子のおかげでいろんな友達ができた。学内の人だけでなく他校の初春さんや佐天さん、風紀委員一七七支部の固法先輩などと親しくお喋りしている。 お兄ちゃんの高校の友達ともすでに顔見知りだ。隣で暮らしている土御門兄妹や青髪にピアスを付けている学級委員(名前は知らない)、デコ頭で根っからの委員長気質の吹寄さん、 どこか影の薄い転校生の姫神さんなど多くの仲間ができた。 だが友達や仲間を作らずレベル5になろうと躍起になっていたころは同級生も猫と同じように自分から離れて行った。自分が悪いわけではない。 ただレベルが上がるにつれ同級生が羨んだようなまたは恨めしな視線で見つめるようになった。自分を『上条美琴』ではなく『超電磁砲』として見られ始めたころだった。 (私の事をいつも同じように見ていてくれてレベルが上がって行くたびに自分のことのように喜んでくれたのはお兄ちゃんだけだったな。  だからあの時も私のお兄ちゃんがどこかに行っちゃうような気がして、逃がさないようにお兄ちゃんを抱きしめて胸の中で泣いたんだ。  それであの時、絶対に離れたりしないって宣言したから私が約束の印としてキスしようって…) 夢の内容を思い出し美琴は顔を真っ赤にした。昔はよくしていた行動も今から思い出すと恥ずかしい黒歴史の一つだ。 (でででも、さすがにあの時のお兄ちゃんはそういうのに敏感になってたから全力で拒否して、代わりに指切りで済ましたんだっけ……  てかなんで期待しちゃってんのよ、ワタシ!!べべ別に私はお兄ちゃんの事なんか―――) と美琴は当麻の寝顔を見て、なぜか胸がときめいてしまった。この顔には女を引きつける何かがあるのだろうか? そしてわずかに湿っている当麻の唇を見ると急に奪いたくなってしまった。 (―――べべべべ別に将来彼氏ができたときのための練習台として思えばなんでもないわよね…  私だって上手にできなきゃ彼氏に嫌われちゃうもんね。よ、よし!集中、集中!しっかり距離を測って……) 美琴は唇の形を整えてゆっくり当麻の顔に近づいて行った。 ……10cm……5cm…うっすらと目を開けて確認をとる美琴だが、 「……何してんだ、お前?」 目標の当麻は既に目を開けていた。 「………………」 「…………おい?」 「……わわわ私は…その…なんていうか…だから、えーと……」 ベッドの中で美琴は至近距離にいる兄に向かって言い訳を必死になって考えたが空回りするばかりだ。 そんな美琴を見て当麻は昔から変わらないなと思いながら言った。 「お前のその堂に入ったツンデレっぷりは相変わらずだな。そんな言い訳考えなくてもお前の考えていることぐらい兄貴なんだからすぐわかるよ」 「!…ツン…デ、ていうか何よ!私の考えている事って!?」 「いやだからさ、お前全然彼氏とかできないじゃん。だから俺に慰めてもらおうと――っぐへぁ!?」 「アンタね~。いい加減そのデリカシーのない事平気で口走るんじゃないわよ!!」 当麻は妹の鉄拳を鳩尾に直で喰らってベッドから転げ落ちた。彼らにとっていつもとは違う日のいつもと同じ不幸な朝であった。 兄が言う事なんだが、妹の私はしっかり者だそうだ。私が兄のそばにいれば兄の言う『不幸』な事は軽減される。 何故だかは知らないが昔からいつもそうだった。 だからこの日だって、雷で電化製品を全てパーにする事もなければ、カップ焼きそばの中身を湯切りの際にこぼすこともないし、 机に置いといたのだからキャッシュカードを踏み潰すこともないし、担任からの補習の連絡も素直に受け答えできる。全く不幸ではない普通の朝の様子がそこにあった。 二人は朝食を食べ終わるとそれぞれの制服に着替えた。顔を洗い歯を磨き化粧を整えた美琴は兄に洗面台を譲る。 ツンツン頭をぼりぼりとかきむしりながら兄が洗面台に向かって行く間に脱ぎ捨てたパジャマを洗濯機に投げ込みスイッチを押す。 朝の大体の作業が終わり美琴は二人が寝たベッドを見た。 「少し干しておこうかしら?天気もいいし、予報だと雨も降らないようだから」 ふと思いついた美琴は枕と掛け布団をどけて、敷き布団を抱えてベランダへ向かった。カーテンを開けて日差しが差し込んでくると思わず目を瞑ってしまった。 「うーん、夏の日差しは強いなー。今度みんなでプールにでも行きたいなー」 そんなことを呟きながらドアを開け、ベランダに出た。 「……って、あれ?なんで既に布団が?」 美琴はベランダのひさしに引っかかっている先客を見つけて首を傾げた。だが次の瞬間、美琴は予想外の事実に直面した。 「って、これってまさか、修導服!?てことは、シスター!!?なななんで家のベランダに!?」 美琴は予想外すぎて思わず布団をどさっと落としてしまった。すると白い修導服を着た幼いシスターは目覚めたようで、顔を上げてきた。 シスターのフードからはみ出ている髪の毛は銀色で顔立ちからしてどう見ても日本人ではなかった。 (どどどうしよう…やっぱり外国人だったら日本語喋れないよね?英語かな?それともイタリア語?はたまた全然知らないような言語だったらどうしよう…) 美琴は常盤台で英語やロシア語などを履修しており高い成績を取っているので外国人ともある程度コミュニケーションをとれるのだが、 こんな状況でしかも身元が全然わからないような人を見かけるとなるとやはりパニックになる。 美琴があせって何もできずいると後ろから当麻がやってきた。 「美琴、そんなところで何固まってるんだ?布団干すんならさっさと……」 当麻も美琴の後ろからベランダの様子を見てしまい固まった。 「え、え、えーーー!!?ななな何なんだよ美琴!?これがまさか盛夏祭の出し物なのか!?」 「んなわけないでしょ!!ベランダに来てみたら引っかかってたのよ!」 「んなばかな!こんなどっきりイベント俺には見に覚えがないぞ!!」 二人で議論しているとそのシスターは口を開き始めた。 「お…………」 「「お?」」 「おなかへった……」 「「…………?」」 「おなかへった」 「「…………」」 「おなかへったって言ってるんだよ?」 いつまでも自分を無視されているそのシスターは少しむっとしながら二人に問いかけた。その言語は日本語以外の言葉には聞こえなかった 仕方がないので兄である当麻が先に口を開いた。 「あー、まさかあなたはこの状況で自分は行き倒れですとかおっしゃりやがるつもりでせう?」 「倒れ死に、とも言う」 「…超日本語ぺらぺらじゃない…」 「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな」 「…あんたねそれは少しずうずうし―――」 「あー、わかった。ならこれならどうだ?」 当麻は美琴の文句を遮ると、学生鞄の中からラップに包まれた焼きそばパンを取り出した。この夏の暑さのせいであろう。焼きそばから変なすっぱい匂いがする。 「(ちょっとお兄ちゃん!いくら何でもこれは…)」 「(いや美琴、あの子にはどっか遠いところで幸せになってもらおう。このすっぱい匂いを嗅げば逃げ出すに違いない)」 当麻と美琴が裏でこそこそ話していると、 「ありがとう、そしていただきます」 そのシスターはがっつりラップごと喰った。ついでに言うと当麻の腕ごと。 「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」 幸運の女神である美琴もこればかりは固まってしまった。 「まずは自己紹介からしなくちゃいけないね。私の名前はインデックスって言うんだよ?」 「誰がどう聞いても偽名じゃねーか!お前は『目次』か!」 「見ての通り教会の者です。あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」 「誰も聞いてないわよそんなこと!それよりどうしてベランダに引っかかっていたのか答えなさいよ!!」 「うーん、禁書目録のことなんだけど?それに追われていたからね」 ベランダに引っかかっていたこの少女は今、ガラステーブルを挟んで美琴と当麻の反対側に座っていた。 腹が減って動けないと言うので冷蔵庫の中にあった野菜を全部中華鍋に放り込んで山盛りの野菜炒めを作ったのだが5分もかからずに平らげてしまった。 恐るべき大食漢である。 皿を片づけて当麻が深呼吸をして事情聴取し始めると、少女はそんなことを言ってきた。 「追われてる?ならなんでベランダなんかに?もしかして空から飛んできたの?」 「隣のビルから飛び降りたんだよ。ああするしか他に逃げ道がなかったもんね」 「ふーん、じゃあ誰に追われてたんだ?どんな能力者に?」 「いや、魔術師だよ」 「「………………はい??」」 上条兄妹は予想外すぎてまたしても唖然とした。 この町は学園都市である。230万人人口を抱え、日々能力開発を進めており実際に数多くの能力を産みだし能力者も増え続けている。 一方でオカルトだのマジックだの非現実すぎるものは一切信じられていなかった。物語や空想でしか語られてないものを美琴や当麻は学園都市に来る前に非現実だと軽くあしらっていた。 「「………………」」 「ところでさ二人は一体どういう関係なのかな?雰囲気は兄妹ってかんじだけど見たところ似てないよね?もしかして恋人同士?」 突然のことで呆気にとられている二人にインデックスと名乗る少女は逆に質問してきた。 はっと、我に返った美琴は突然の質問にあわててしまった。顔を真っ赤にしてあわあわと手を振りながら、 「え、いや、恋人って言うか、なんというか―――」 「俺と美琴はよく言われるけど恋人じゃないんだ。2つ年の離れた兄妹だよ。俺は父さんによく似てるって言われるけど美琴は親戚の御坂叔母さんによく似てるって言われてるんだ」 「ふーん、全然似てないから恋人同士で同棲しているかと思ったんだよ」 「まあな。俺はもてないから恋人と同棲なんてありえないけどな」 美琴は心の中で落ち着きを取り戻し、んなわけねーだろと呟いた。実際こいつの人助けのせいで何人もの女性に対してフラグを立て続けている。 自分もその一人なのだが自他ともに認めるツンデレなので想いを打ち明けられずに悶々としている。 「それはさておきとして、魔術師、だっけ?なんでそんな奴らに追われてたんだ?」 「私には10万3千冊の魔道書があるから、それを狙ってたんだと思う。エイボンの書、死者の書、ネームレスに―――」 「まーてまてインデックスさん、あなたは今10万3千冊の魔道書があるって言ったよな?それは主に国語辞典ぐらいの大きさなんだろ?」 「?それは原典によって種類はあるけど大体そんなかんじだよ」 「で、10万冊ってのは一体どこにあんだ?10万冊って言ったら図書館ぐらいの大きさじゃないと収まらねーよな?」 「鍵とか持ってるんじゃない?なんかの倉庫の管理人とか?」 「ううん。ちゃんと10万3千冊、1冊残らず持ってきているよ?」 「「………は??」」 上条兄妹は眉をひそめた。まさかバカには(もしくは天才には)見えない本でも持っているのだろうか?けれども少女の周りにはそれといったものは見当たらなかった。 美琴はわけのわからないことを次々と言ってくるこのシスターの事に腹が立ってきた。 「あーーもう!!一体何なのよアンタは!?突然ベランダに舞い落ちてきて、ご飯をねだるは、自分の名前は『禁書目録』だって言って、  魔術師に追われてるだの、10万3千冊の魔道書を持っているだと変なことばっかり言って!!  ここは学園都市よ!最先端の科学が結集する街なのよ!そんなオカルトなことがあるわけないでしょ!!」 「そんなことないもん!魔術はあるもん!!外の世界じゃそれが当然なんだよ!!」 当麻も美琴も学園都市に入ってからあまり外の世界に出たことがない。だからインデックスがそんなこと言っていても頭ごなしに否定することができなかった。 美琴がそんな風に考えていると今度は当麻が口を開けた。 「魔術魔術って言うけど、魔術ってなんだよ?お前にもできるのか?」 「私には魔力がないから私には使えないの」 「「…………」」 「ところでさ、さっき能力者とか言ってたよね?学園都市は科学の力で意図的に生み出してる聞いたことあるけど、ホントにそんなのあるのかな?」 「な…あんたね、私が誰だか知っているの!?この学園都市の第3位の超能力者と言ったら『超電磁砲』である私なのよ!!  そこらへんの変なインチキ魔術なんかと一緒にしないでよ!!」 「むきー!インチキとはひどいんだよ!!じゃあ言わせてもらうんだけど私の着ているこの修道服、『歩く教会』って呼ばれてるけど、  トリノ聖骸布を正確にコピーしたものだから強度は法王級なんだよ!物理・魔術を問わず全ての攻撃を受け流して吸収しちゃうんだから」 さっきのベランダに飛び降りたってのはそれでかと当麻は納得したが、美琴は折れなかった。 ムキになった美琴はインデックスの横に立ち仁王立ちになった。 「じゃあ私のレールガン喰らって吹き飛んでも文句は言わないでよね」 美琴は頭に青白い火花を散らしながらポケットの中からゲームセンターのコインを取り出した。 「!!美琴よせって!当たったら危なすぎるだろ!」 「だってあいつがむかつくのよ!攻撃が全く効かないって言うんならやってみようじゃない!!」 「だからよせって!部屋をふっ飛ばす気か!!」 当麻は右手で美琴の頭を抑えた。すると頭にたまっていた電撃は嘘のように消えて行った。 「……?いま何の魔術を?」 「いや魔術じゃねーよ。生まれつきのものらしいから正確には超能力でもないけど、俺の唯一の能力で『幻想殺し』って言うんだ。  人が持たざる異能の力なら原爆級の炎でも超強力な超電磁砲でも神様の奇跡でさえも打ち消せます、はい」 「「……」」 「…ってなんなんだよ!!二人してそのジト目は!!」 「…お兄ちゃん…超電磁砲までは認めるけど、神様の奇跡ってのはないよ」 「神様の名前も知らない人に、神様の奇跡でさえも打ち消せますとか言われてもねー。 それに魔術のことを知らないとか言ってる人がどんな異能の力でも打ち消せるとか言えるわけないんだよ」 確かに当麻は今まで魔術というものを右手で打ち消したことはない。だが当麻が打ち消せなかった超能力は一つもなかった。 だから今まで幻想殺しは異能の力にしか効果がないと思われていた。もし魔術というのが本当にあって幻想殺しが打ち消せなければ、その名を返上しなければならないのだろうか。 すると当麻は立ち上がってインデックスの隣に行った。 「お兄ちゃん?どうしたの?」 「…お前さっき自分の着ている修道服の魔術によってどんな攻撃からも身を守ってきたって言ったよな?」 「?確かにそんなこと言ったけど…何する気?」 「俺がこの幻想殺しでその修道服を掴んだらその魔術が消え失せて効果がなくなるだろ?それで俺はお前の言ってる魔術を信じる。 そしてお前も俺のこの右手の力を信じられるだろうが!」 確かにそうだと美琴は思った。これで両者文句はないはず。だが美琴は女の第六感がなぜか止めるようにと警告を送っていた。 だがインデックスはニヤニヤとしながら余裕たっぷりにこう言った。 「君の力がホ・ン・トならね~~~」 「(ブチッ)上等だゴラァァ!やってやろうじゃねーか!!」 思わずあっと叫んだが、当麻は構わずインデックスの肩を右手で掴んだ。だが全く変化がない。やはり効果がないのだろうか。 「…別に何も起きないんだけど?」 「…あれ?ってことはやっぱりこれはただの修道服何じゃ?」 「違うって言ってんだよ!!」 少女は小さな胸をむんと張り上げて勝者の顔を見せつけてきた。だが次の瞬間、 プレゼントのリボンをほどくようにインデックスの修道服はすとんと落ちた。 インデックスは修道服以外何も着ていなかったのだ。だからインデックスは頭のフードで隠されているところ以外生まれたままの幼い体が丸見えとなった。 「「………」」 「…ん?どうしたの、二人とも?」 「「………いや、その…」」 「?…………!!??」 いやあああああああ ぎゃあああああああ 朝の学生寮に盛大な悲鳴が轟いた。今日が夏休みの初日でなければ警備員に通報が入り上条兄妹は大恥をかいていただろう。 美琴は棚から救急箱と裁縫箱を持ってきた。時刻は既に8時10分前である。 美琴は既に夏休みであるから用事はないのだが、当麻は学校で補習の授業がある。だから家でのんびり過ごす訳には行かないのだが、 布団にくるまって破れた修道服を修復するインデックスを置いていくわけにも行かないのだ。 「痛ててて…ちくしょう、なんなんだよシスターって。いちいち怒るときには人の体に噛みつくんですか?」 当麻は救急箱から痛み止めスプレーとガーゼを取り出すと、未だにくっきりと残る噛まれた跡一つ一つに吹きかけていく。 「……うぅ……ぐすっ…」 インデックスは裁縫箱から安全ピンの箱を取り出し破れた布地一枚一枚を丁寧に繋げていく。 布団にくるまっているのでその表情は見えないが、自慢の修道服が破けてしまったからであろう、ショックで泣き崩れていた。 美琴は自分の能力を使って兄の携帯電話の充電をして見せたときのことを思い出した。あのときは兄が小学校一年生で美琴が幼稚園に通っていた頃だった。 レベルは2であったがそのころでは異例のスピードだともてはやされていた。大好きな兄が学園都市に来たのでこれまでの自分の成果を見てもらおうと兄の携帯電話を使って充電して見せた。 その時の兄はすごいすごいととても喜んでくれた。だが誉めようとして右手で美琴の頭を撫でた瞬間、今まで使っていた能力が使えなくなり充電できなくなってしまった。 いくら集中してもできず、かなりムキになっていた。そんな様子を見た兄は思わず右手を離してしまった。 すると突然能力が回復し許容範囲を大きく超える電圧を流してしまい携帯電話を壊してしまった。 買ったばかりの携帯で新品だったものが一瞬にして使いものにならなくなってしまったが、兄は笑って許してくれた。 その時美琴は自分の能力が簡単に打ち消されてしまい挙げ句の果てにコントロールのすべも忘れてしまい悔しくてぼろぼろと涙をこぼしてしまった。 兄はとても困惑したが美琴を抱き寄せて右手で頭を撫でて慰めてくれた。その優しい撫で方に安らぎを感じ、ぼろぼろと流れていた涙が止まっていくのを今でも忘れてはいなかった。 だから今のインデックスの気持ちも分からなくもなかった。自慢の能力が絶対的な自信があの右手が触れた瞬間にいとも簡単に崩れ去っていくとき、その絶望感は果てしないものだった。 だがその瞬間、素の自分が出てきた様な気がして(インデックスの場合はスッポンポンであるが)なにか束縛から外れて自由になった気がする。 美琴はその時の気持ちが癖になってしまい兄から撫でられるのを楽しみにしていた。そのことが超能力開発を躍起になって進める原動力の一つになったのかもしれない。 そんなことを思い出していると不意にインデックスが布団から出てきた。だがすでに裸ではなく修道服を着ていた。 「これでもう大丈夫なんだよ!!」 「……あのインデックスさん?体中に付いている安全ピンはやばくないですか?一応美琴の服を出しておいたんだけど?」 「…………」 「…まるで針のむしろね。私が縫っておいてあげるからこれ着なさいよ」 「……別に無理しなくていいんだよ。私はシスターさんなんだし修道服以外は着れないんだよ。それにいつまでも長居していると追手が来て君たちに迷惑をかけるかもしれないしね」 「…追手って言うとさっき言ってた魔術師だよな?そんなにやばい連中なのか?」 美琴はまたかと思い少しため息をついた。そう、これが上条当麻の人助けスキル発動の瞬間だ。どんな時でも困っている人(主に魅力的な女性)がいるとすかさず助けに行き、 最終的にフラグを立てて去っていく。だからその女性たちは無駄にその気になってしまいどうしようもなくなってしまう。 一番の被害者である美琴がそう思うからこのスキルは非常に危険だ。早くなんとかしないと。 「……お兄ちゃん、まさかその魔術師から守ってやるよとか言うんじゃないでしょうね?」 「ん?いや、今日は補習で忙しいけどこんなか弱いシスターさんを見捨てるわけにはいかないだろ?」 「アンタねぇ、そんなわけもわからない連中相手にできるわけないでしょう!!いくら右手で魔術とかいうものを打ち消したとしても危なすぎるよ!!」 「とうまって言ったかな?君の親切はありがたいんだけど、これは私の問題だし赤の他人を巻き込むわけにもいかないんだよ。  みことの言った通り君たちには危険すぎるし、第一オカルトなんか信じない学園都市の人間が魔術なんかに関わるのもよくないんだよ」 美琴はインデックスの言ったことが少々胸を痛めた。確かに得体のしれない魔術なんかに関わるべきではないが、確かに自分たちは赤の他人でしかないのかもしれないが、 インデックスは明らかに困っていた。そんな人をただ見捨てたくはなかった。 そんなことを思っている美琴も当麻と同じ血が流れているのだろう。二人は自分たちにできることはないのかと唇を噛んだ。 「それでもよ!見捨てるわけにもいかないだろう!こんなに色んなことしちゃってただ外に追い出すようなことはできねえだろが!!」 当麻は声を荒げながら反論した。だがインデックスは、 「…じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」 とニッコリ笑顔で言った。インデックスは暗についてこないでほしいと言ったのだ。上条兄妹は言葉を失ってしまった。どんな言葉をかければいいのかわからなかったのだ。 「大丈夫だよ。私も一人じゃないもん。とりあえず教会まで逃げきれば匿ってもらえるから」 「……教会がどこにあんのかわかるのか?」 「ロンドン」 「遠すぎよ!ここは日本よ。もっと近くにないの?」 「うーん、あ大丈夫だよ。日本にもいくつか支部はあるし」 インデックスは安全ピンまみれの修道服を着てニッコリと答えた。シスターとしての性なのであろう。なんとか心配させまいとしている感じであった。 「英国式の教会までたどり着けるかが勝負だからそろそろ行かないとね」 「え!もう行っちゃうのか!?なんなら風紀委員にでも連絡すれば―――だあああぁぁ!!」 突然立ち上がった当麻は悲鳴を上げて床に転げ回った。どうやら小指をどこかにぶつけてしまったようだ。 「お兄ちゃん!大丈夫!?」 「ううう、不幸だ…」 「不幸というより、ドジなだけかも」 美琴は心配して痛み止めスプレーを吹きかけたが、インデックスはちょっとだけ笑っていた。 「けど、幻想殺しっていうのが本当にあるなら、仕方ないかもしれないね」 「え、どういうことよそれ?」 「うん、こういう魔術の話なんてあまり信じないかもしれないけど、神様のご加護とか、運命の赤い糸とかそういうものをまとめて打ち消してしまっているんだと思うよ?」 「待てよ!幸運だの不幸だのそういうことは確率と統計のお話だぜ?んな訳―――ッ!」 言った瞬間、思わず手を触れたドアノブから強烈な静電気が走り、反射的に体がビクンとふるえた。すると筋肉が変な風に動いたのかいきなり右足のふくらはぎがつり、 そのまま美琴の方へ倒れ込んできた。 「え、ちょっと、きゃあ!!」 「わわ悪い!美琴!今どくから――ッ!?」 当麻は足を美琴のそれと変な風に絡ませてしまい余計ふくらはぎを痛め悶絶した。 5分後じたばたしていた二人がようやく落ち着いた。だが美琴はまだ顔を真っ赤にしていた。 「…すまなかったな美琴。それでえーとシスターさん?」 「なに?」 「この不幸がどういう意味か説明してくれないか?」 「説明って言うか、君の右手の話が本当なら、その右手があるだけで幸運ってチカラもどんどん消していってるんだと思うよ?」 「つまり、それってことは…」 「とうま君の右手が空気に触れているだけで、バンバン不幸になっていくってことだね♪」 「ぎゃああああああ、不幸だああああああああ!!」 オカルトを全く信じていなかった当麻であったが、この奇跡なまでの不幸体質については別だった。自分の右手のせいで不幸になっていたなどと言われてだいぶショックだったに違いない。 「それじゃあ、ご飯を食べさせてくれてありがとう。二人とも元気でね」 インデックスは玄関に向かい別れの挨拶をした。 「おい!なんか困ったことがあったら、また来ていいからな」 神様の奇跡でさえも殺せる男は結局こんな事しか言えなかった。学園都市第3位の超能力者でさえ何も言うことができなかった。兄妹にして情けない話だ。 「うん。おなかへったら、またくる」 だからインデックスもこんなことしか言わなかった。助けを求めることはなく冗談のような事しか言わなかった。 ドアを開けて辺りを確認すると足早に去っていってしまった。 「…………」 「………これでよかったんだよ、お兄ちゃん。あんな変なシスターさんなんかと関わって良い事なんてないわよ」 「……そうかもな。でもなんだかやり切れねーよな、美琴?」 確かにそうだと思った。明らかに助けを求めている少女に結局自分たちは何もできなかった。それはとても悔しかった。 でもしょうがないではないか。私たちが関わったところでどうなるのかわかったもんじゃない。結局自分たちが足を引っ張ってあの子に迷惑がかかるのは嫌だった。 美琴がそんな言い訳を考えていると美琴の携帯が突然鳴り出した。 「黒子からだ、何だろう?もしもし?」 『お姉さま?今どちらにおいでで?』 「お兄ちゃんのとこだけどどうしたの?なんかあわててるようね?」 『…まだあのお兄様の家に……まあいいですわ。急いで病院まで来てくださいませ。この前の虚空爆破事件の容疑者の介旅初矢が意識不明になりましたの!』 「え!なんであいつが!?てか私そんなに強く殴ってないと思うんだけど…」 『とにかく急いで来て下さいませ。病院には大脳生理学の専門家も呼んでいるので話を伺いますの。それではお姉様、病院でまた後ほど』 通話を切ると美琴は出かける支度をした。 「お兄ちゃん、悪いけどこれから出かけてくるね。今日は寮に帰るから」 「…お前な、あんまり白井の邪魔ばかりすんなよ。それに変な事件とかに巻き込まれても、俺はあまり助けになんかに行けないぞ」 「大丈夫よ。なんたって私は超電磁砲なのよ。魔術師とかいう訳の分からないような連中はさておきとして、能力者相手だったら負けたことないんだから――ってこれは?」 ふと支度をしている美琴はベッドの上にフードが落ちているのを見つけた。たぶんあのシスターのものだろう。 「あー、インデックスってやつのだろ。あわてて出て行くもんだから忘れちまったんだろうな。置いといてくれ、俺が預かる」 当麻も補習に出かけるのだろう。既に学生鞄を担いでいた。 「インデックスが取りに来たら渡しておくから。…ってもうこんな時間だ。行くぞ、美琴」 「あ、うん、待ってよお兄ちゃん!」 二人は学生寮の部屋を出ると鍵を閉めてエレベーターに乗り込んだ。 「あのシスターさん、無事に教会までたどり着いていればいいね?」 「ああ、魔術師なんかに見つからずにな」 エレベーターの中でそんな風に話し合っていると、ドアが開き二人は出た。 当麻は学校へ、美琴は病院へ向かって走って行った。 そうして二人の日常が始まった。これから壊れていこうとは知らずに。 }}} #back(hr,left,text=Back)

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