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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/3スレ目短編/251 - (2010/02/03 (水) 13:27:14) の最新版との変更点
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街を1人歩く御坂美琴。
そのスカートのポケットから軽やかな電子音が流れて出ると、立ち止まってポケットから取り出したのは携帯電話だった。
「え? アイツから……」
通話ボタンを押して恐る恐る耳に当てると、
『お、繋がった』
「アンタ! 今何処から電話してるの!?」
『うひゃ!? く、空港だけど』
「空港? 何でまた……」
美琴は耳に当てた携帯に――その向こうで電話をしている上条を睨む様な気持ちで鋭い視線を送る。
「アンタ。今度は何に首突っ込んでんのよ?」
『またっておま、ちょっと人聞き悪くねえか?』
「どぉおせまたどこぞの困った女の尻でも追っかけてたんでしょ?」
『カ――――ッ。お前の中のカミジョーさんは一体どう言う位置付けになってるんですか?』
「無鉄砲。鈍感。無礼。無節操。女ったらし。非常識。自意か――」
『も、もおいい!』
「まだ有るんだけど?」
『もう結構です。結構ですから止めて下さい。そうでなくてもカミジョーさんのガラスの心はもうボロボロです』
「ふん」
まだ言い足りない美琴だったが、それよりも気になる事が有ったのでそれをぶつけてみる事にする。
「で、何で電話なんかして来たの?」
『俺だって頑張ってるのに、不幸だ……え? 何の話?』
「アンタは電話掛けた相手までスルーすんのか! 何しに電話して来たのかって聞いたの!」
『あ、忘れてた忘れてた――御坂、明日時間取れるか?』
「う、うーん、取れなくも無いけど……」
『何か用事があんのか? なら諦め――』
「簡単に引き下がってんじゃないわよアンタは! もうちょっと粘りなさいよ、男でしょ!」
『うわッ!? 何怒ってんださっきから? 大体お前が先に用事が有りそうなそぶり見せたんだろ?』
「そ、そりゃそうなんだけど……。も、と、とにかく何があんのよ!!」
『うがッ! み、耳がぁ……』
「アンタの耳なんかどうでもいいから早く話せ」
『な、何か御坂が恐いんですけど? は、反抗期?』
上条の一言に、美琴は携帯を耳から離してじっと見つめた後、
「……アンタの携帯、保険入ってる?」
『ま、待て。俺には携帯を買い換える様な金……』
「だったら早く話す」
美琴の突き放す様な言葉に、電話口の向こうから不幸だと言う何時もの呟きが聞こえた後、
『クラシックコンサートのチケットがな、2枚手に入ったんだよ。最近世話になってばっかりだろ? 埋め合わせと言っちゃ何だけど、どうかと思って』
「え?」
『前にヴァイオリン弾くって言っただろ?』
(私がヴァイオリン弾くって事憶えてくれてたんだ……)
『俺はそう言うのさっぱりだから良く判らなくってさ。ま、だからあんまり期待しないでくれ』
(アイツが、アイツが私の事……ほぁぁぁぁぁああああああああははははははあああああ……)
先ほどまでの心の中の暗雲が綺麗さっぱり取り除かれた、春の日差しにも似た温かいものに包まれる。
思わず目じりに涙が浮かんでしまう――それ程嬉しかったのだ。
『で、どうなんだ? 返事は?』
「し、仕方ないわね。い、いいい、いいわよ。付き合ってあげても。つ、つつつつ、次逃したら、い、いいい、何時返してもらえるか判らないから」
『う! 言い得てるだけに返す言葉も無い』
「あ!? あああ、き、気にしないで、ここ、言葉のあやだから、ふふふ、深い意味は無いから」
何時もの言葉の掛け合いの筈だった。
ところが、
『フォローはいいよ。本当の事だから』
「なッ、何でマジで凹んでるの!? ただの冗談じゃないよ。そんな事気にするアンタじゃ無いでしょ!?」
『カミジョーさんにもたまには自分を顧みて落ち込むことだってあるんですよろ。おお……、ここの吹き抜けって高いのな。落ちたら死ねるか?』
「ま、ちょ、ちょっとアンタ何馬鹿な事言ってんの!?」
『はい、カミジョーさんは馬鹿ですが何か?』
「あ゛?」
『あー、あの丸い印なんて如何にもここにダイブして下さいって感じ……』
「ちょ、ちょっと待って!」
『はい? いいですよ。カミジョーさんの無駄な時間を有意義にしてくれるのは御坂さんだけですから何時までもまちますよ?』
「うぐッ」
上条から帰ってくる言葉が全部マイナス思考な事に、美琴は思わず言葉に詰まる。
(うわぁ……、最悪に扱いづらぁ……。この落ち込んだ時の暗さは黒子以上だわ)
一瞬投げ出してしまおうかとも思ったが、ここで逃げては御坂美琴の名が廃る。
「ん、オホン。いい」
『はい』
「アンタはもっと自信を持ってもいいのよ。アンタは沢山の人を助けてるんだから。ホントの事言えば、私だってアンタにおっきな借りが有るんだから。中々返せないけど……。だから、それに比べたらアンタの言ってる借りなんて借りの内にも入らないわよ」
『そう言うもんか?』
「そう言うもんよ。むしろアンタに借りた何て言われたら、こっちの方が恐縮しちゃうわ」
『俺は貸したつもりは無いんだけど? ありゃ全部自分の為で――』
「そりゃ方便よ」
『お、お前なぁ……』
上条の言葉に何時もの調子を感じて、美琴の言葉にも勢いが付いてくる。
「お返しは素直に受けるものよ。アンタ借りた方の事少しも考えて無いでしょ?」
『だから要らないって』
「好意を素直に受け取るのも大事だって話してんのよ? 判る?」
『そ、そりゃまあ……、しかし……』
「いいから早く帰ってきなさいよ。愚痴でも何でも聞いてあげるから」
『お、おいおい、また大きく出たな』
「美琴さんはアンタと違って器がでっかいの。何処かの誰かさんみたいに好意にすら苦悩する様なちっちゃいハートは持ち合わせていませんので」
『さすがビリビリはすごい自信だ』
美琴は、何だかんだで何時もの上条に戻った事に少しほっとする。
普段は言われるとムキになって言い返した呼び名も、何だか安心させるものが有った。
だから、
「ビリビリって言うなビリビリって。ほら、アンタはさっさと帰って――」
「おう、ただいま」
「!?」
いきなり背後から肩を組まれるまで、上条の接近に気付かないほどだった。
「おっと、電撃は無しだぜ。折角のチケットが」
「い、何時から……?」
「ずっと。俺のナイスな演技力に感服しましたか?」
「ア、アンタ……」
あんなに必死になってフォローしたのに、全部演技だったと!?
その言葉に美琴は怒りで唇を震わせた。
ところが、
「ありがとな、美琴」
そう言って至近距離ではにかむ上条に、
「…………………………………………………………………………………………………………いいわよ、もう」
美琴には許す以外の選択肢は無かったようだ。
「ところで聞いて下さいよ御坂さん。カミジョーさんこれでも3回くらい死線をさ迷って……」
「馬鹿アンタ何勝手に死にそうになって来てんのよ!? ちょ、詳しく話しなさいよ! 一体全体何処の女にうつつを――」
「だから何でそこで女が出てくんだよ!」
「じゃあ女はひとりも居なかったんでしょうね?」
「そ、それは……」
「吐け。洗いざらい全部吐け」
「何ですかお前は? 浮気を目撃した新妻かなんかの設定ですか?」
「に、新妻って……、もうっ」
「おい、そこ照れる所じゃないから」
「ぇ!? ああああああああああああああああああああ!! アンタ引っ掛けたわね!?」
「引っ掛けたっつか、勝手にお前が乗ったんだろ?」
「ううううう、うっさいわね! アア、アンタに合わせてやったのよ!」
「おうおう、そりゃかわいい事言うね美琴ちゃん」
「か、かわいいって、もう……やだぁ」
「だ、か、ら。そこ照れる所じゃないし」
「くあッ! ア、アンタまたッ!?」
「何か面白いぞ今日のお前」
「…………」
真顔、ましてや相変わらず肩を組んだままの至近距離で上条にそう言われると、美琴はやっぱり言葉に詰まってしまう。
(み、認めたくないけど、こ、これが惚れた、よ、弱みってやるかしら……?)
一瞬そう考えて、急いでそれを頭の中から追い出した。
「何急に頭振ってんだ? そう言えばさっきからずっと顔真っ赤だし。もしかして具合悪いのか?」
「え?」
「こっち、向いてみろ?」
無理やり顔の向きを変えられると、
「痛ッ!? 何す――」
美琴の視界に映ったのはどアップの上条の顔だった。
そして次の瞬間、美琴は額の辺りに軽い衝撃を感じた。
「!?」
「んー……。ちょっと熱いか?」
上条がそうひとりごちると、美琴の唇の辺りに吐息がかかる。
その温かく微かに湿った感触に、
(やだ私、何かもう、我慢が……でき、な、い)
そう美琴が思った時には、彼女の体は自然に動いていた。
「!?」
今度は上条が驚く番であった。
自分の唇にふわりと羽でなぞるかの様に柔らかい美琴の唇が重ねられた。
上条はその事実に身を硬くする。
その強張りは唇を伝って美琴にも伝わり、彼女の心を急速に冷えさせた。
やがて硬直した体をふるい起して上条が体を離すと、目の前には泣きそうな顔をしている美琴が居た。
「御坂おま……」
「何よ!」
その瞬間美琴の頬を涙が一筋滑り落ちた。
「ごめん……」
「何でアンタが謝んのよ?」
「いや、何となく」
「何と無くで謝んないでよ!」
「悪い」
「ほらまた!」
「ごめ……」
「…………」
押し黙ってしまう2人。
その沈黙に先に耐えられなくなった美琴は、上条に背を向けると逃げて仕舞おうと考えた。
(もう駄目、抑えきれない……。こんな私、私じゃ――)
そんな美琴の手を上条は咄嗟に掴んで、
「待て御坂!」
「離してぇ!」
「馬鹿やろッ! そんなんなってる奴放っておけるかッ!」
「ヤダヤダヤダヤダ――――――――――ッ!!」
「お、おい、落ち着けって」
「離してぇ! もうヤなの! 思い通りにならないアンタも思い通りにならない自分も嫌ッ!!」
「御坂……」
「アンタが好きッ! 大好きッ! もうどうしてくれんのよこの気持ち! どうしてぇ……、ふ、ふえ、えっ、え……」
「お、おい」
怒っていたかと思えば、突然告白されてた上に、その告白してきた相手に泣かれて上条は盛大にうろたえた。
(御坂が俺の事を好き!? 嫌われてるとは思ってなかったけど、ま、まさか……)
「ど、どっきりじゃねえよな?」
「ホントにぶっ殺すわよアンタ!!!!」
「わッ!? 悪い……」
涙目に本気の殺気を感じて上条は、たじたじと一度引き下がると、
「御坂」
「何よ?」
名前を呼ばれた美琴はツンとそっぽうを向いたまま返事を返す。
「みさ……み、みこ、と?」
「な……、何よ?」
上条の掌を通して感じる緊張感に、冷え切っていた美琴の心に徐々に熱が帯びる。
「美琴」
「だ、だから何だっ――」
美琴は上条のはっきりとした呼びかけに何かを期待して勢い良く振り返った。
そして、
「!?」
美琴の唇は上条に奪われた。
掴まれた腕から、重なり合った胸から、そして……、唇から感じる上条の熱さに美琴は文字通り身も心も蕩けた。
次に気付いた時には、上条の胸の中に顔を埋めていた。
「アンタ、何のつもりよ」
「悪い」
「ほら、また謝ってる」
「ああ悪いな」
「だから何で謝んのよ?」
「何と無く」
「何と無くで謝んな。軽いのよアンタ」
「申し訳な――」
「ほらまた」
振り出しに戻ったかのような2人のやり取り。
しかし今回は――、
「「ぷっ」」
二人は同時に吹き出すと、お腹が痛くなるまで笑いあった。
「はぁ苦し……。よぉし、今日はアンタの女関係全部聞くまで帰さないんだからね!」
「おう! 俺もきっちりその辺りの誤解は解いておかないといけないと思っていた所です」
何時もと変わらぬ2人がそこには居た。
実は何処か変わったのかも知れないがそれは本人にも判らない。
ただ、いつかこの関係が良い方向に変わったらいいなと思う辺り、やはり2人は、自分は何か変わったのだろうと感じていた。
上条が美琴を振り返る。
「じゃあ御坂、取り合えず目的地はどーする?」
「もう美琴って呼んでくれないんだ」
「へ?」
「よぉーんでくれないーんだぁー。ふぅーん」
そう言って美琴は不貞腐れた様に地面を蹴る。
そんな姿に上条は頭を掻くと、
「みこ……と」
「あぁーん、聞こえんなぁー」
「お前はどこぞの刑務所の獄長か?」
「ほらほら、もう一度っ」
「美琴ッ!」
「もッ、怒鳴る事無いでしょ!」
「恥ずかしいんだよ!」
「人の名前が恥ずかしいですって!?」
「美琴美琴美琴美琴美琴美琴美琴美琴みこみこみこみ――――!」
「キ――――――――――ッ!! 人の名前を安売りすんなッ!」
怒った美琴からの雷撃が、いつも通り上条の右手の中に消えて行く。
「たまには食らえってのこの馬鹿ッ!」
「食らったら俺が大変だろぉが!」
「アンタなら平気よ!」
「勝手に決めんな! 上条当麻は今の判決に異議を唱えるのであります!」
「その発言は却下します。以上で法廷は終了しました。またの御越しをお待ちいたしております」
「何だその閉店間際に立いな言い草は!? 民衆はその横暴に立ち上がるぞッ! 政権交代政権交代ッ!」
「も、馬鹿言ってないでさっさと歩けッ!」
まさに馬鹿騒ぎをする上条に、自動販売機相手に鍛えた美琴の鋭いキックが決まる。
「おふッ!? 蹴るのは反則じゃね……? 不幸だ……」
「こっちは時間が無いの。ファミレスでいいわよね? 意見は聞いて無いけど」
「だろうと思った」
美琴にするずると引き摺られて行く上条はしたり顔でうんうんと頷く。
その後、お互いチラリと視線を交錯させて小さく笑いあう。
この関係もまんざら捨てがたいと感じて。
END
}}}
#back(hr,left,text=Back)
*コトバ、アソビ。キモチ、・・・
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街を1人歩く御坂美琴。
そのスカートのポケットから軽やかな電子音が流れて出ると、立ち止まってポケットから取り出したのは携帯電話だった。
「え? アイツから……」
通話ボタンを押して恐る恐る耳に当てると、
『お、繋がった』
「アンタ! 今何処から電話してるの!?」
『うひゃ!? く、空港だけど』
「空港? 何でまた……」
美琴は耳に当てた携帯に――その向こうで電話をしている上条を睨む様な気持ちで鋭い視線を送る。
「アンタ。今度は何に首突っ込んでんのよ?」
『またっておま、ちょっと人聞き悪くねえか?』
「どぉおせまたどこぞの困った女の尻でも追っかけてたんでしょ?」
『カ――――ッ。お前の中のカミジョーさんは一体どう言う位置付けになってるんですか?』
「無鉄砲。鈍感。無礼。無節操。女ったらし。非常識。自意か――」
『も、もおいい!』
「まだ有るんだけど?」
『もう結構です。結構ですから止めて下さい。そうでなくてもカミジョーさんのガラスの心はもうボロボロです』
「ふん」
まだ言い足りない美琴だったが、それよりも気になる事が有ったのでそれをぶつけてみる事にする。
「で、何で電話なんかして来たの?」
『俺だって頑張ってるのに、不幸だ……え? 何の話?』
「アンタは電話掛けた相手までスルーすんのか! 何しに電話して来たのかって聞いたの!」
『あ、忘れてた忘れてた――御坂、明日時間取れるか?』
「う、うーん、取れなくも無いけど……」
『何か用事があんのか? なら諦め――』
「簡単に引き下がってんじゃないわよアンタは! もうちょっと粘りなさいよ、男でしょ!」
『うわッ!? 何怒ってんださっきから? 大体お前が先に用事が有りそうなそぶり見せたんだろ?』
「そ、そりゃそうなんだけど……。も、と、とにかく何があんのよ!!」
『うがッ! み、耳がぁ……』
「アンタの耳なんかどうでもいいから早く話せ」
『な、何か御坂が恐いんですけど? は、反抗期?』
上条の一言に、美琴は携帯を耳から離してじっと見つめた後、
「……アンタの携帯、保険入ってる?」
『ま、待て。俺には携帯を買い換える様な金……』
「だったら早く話す」
美琴の突き放す様な言葉に、電話口の向こうから不幸だと言う何時もの呟きが聞こえた後、
『クラシックコンサートのチケットがな、2枚手に入ったんだよ。最近世話になってばっかりだろ? 埋め合わせと言っちゃ何だけど、どうかと思って』
「え?」
『前にヴァイオリン弾くって言っただろ?』
(私がヴァイオリン弾くって事憶えてくれてたんだ……)
『俺はそう言うのさっぱりだから良く判らなくってさ。ま、だからあんまり期待しないでくれ』
(アイツが、アイツが私の事……ほぁぁぁぁぁああああああああははははははあああああ……)
先ほどまでの心の中の暗雲が綺麗さっぱり取り除かれた、春の日差しにも似た温かいものに包まれる。
思わず目じりに涙が浮かんでしまう――それ程嬉しかったのだ。
『で、どうなんだ? 返事は?』
「し、仕方ないわね。い、いいい、いいわよ。付き合ってあげても。つ、つつつつ、次逃したら、い、いいい、何時返してもらえるか判らないから」
『う! 言い得てるだけに返す言葉も無い』
「あ!? あああ、き、気にしないで、ここ、言葉のあやだから、ふふふ、深い意味は無いから」
何時もの言葉の掛け合いの筈だった。
ところが、
『フォローはいいよ。本当の事だから』
「なッ、何でマジで凹んでるの!? ただの冗談じゃないよ。そんな事気にするアンタじゃ無いでしょ!?」
『カミジョーさんにもたまには自分を顧みて落ち込むことだってあるんですよろ。おお……、ここの吹き抜けって高いのな。落ちたら死ねるか?』
「ま、ちょ、ちょっとアンタ何馬鹿な事言ってんの!?」
『はい、カミジョーさんは馬鹿ですが何か?』
「あ゛?」
『あー、あの丸い印なんて如何にもここにダイブして下さいって感じ……』
「ちょ、ちょっと待って!」
『はい? いいですよ。カミジョーさんの無駄な時間を有意義にしてくれるのは御坂さんだけですから何時までもまちますよ?』
「うぐッ」
上条から帰ってくる言葉が全部マイナス思考な事に、美琴は思わず言葉に詰まる。
(うわぁ……、最悪に扱いづらぁ……。この落ち込んだ時の暗さは黒子以上だわ)
一瞬投げ出してしまおうかとも思ったが、ここで逃げては御坂美琴の名が廃る。
「ん、オホン。いい」
『はい』
「アンタはもっと自信を持ってもいいのよ。アンタは沢山の人を助けてるんだから。ホントの事言えば、私だってアンタにおっきな借りが有るんだから。中々返せないけど……。だから、それに比べたらアンタの言ってる借りなんて借りの内にも入らないわよ」
『そう言うもんか?』
「そう言うもんよ。むしろアンタに借りた何て言われたら、こっちの方が恐縮しちゃうわ」
『俺は貸したつもりは無いんだけど? ありゃ全部自分の為で――』
「そりゃ方便よ」
『お、お前なぁ……』
上条の言葉に何時もの調子を感じて、美琴の言葉にも勢いが付いてくる。
「お返しは素直に受けるものよ。アンタ借りた方の事少しも考えて無いでしょ?」
『だから要らないって』
「好意を素直に受け取るのも大事だって話してんのよ? 判る?」
『そ、そりゃまあ……、しかし……』
「いいから早く帰ってきなさいよ。愚痴でも何でも聞いてあげるから」
『お、おいおい、また大きく出たな』
「美琴さんはアンタと違って器がでっかいの。何処かの誰かさんみたいに好意にすら苦悩する様なちっちゃいハートは持ち合わせていませんので」
『さすがビリビリはすごい自信だ』
美琴は、何だかんだで何時もの上条に戻った事に少しほっとする。
普段は言われるとムキになって言い返した呼び名も、何だか安心させるものが有った。
だから、
「ビリビリって言うなビリビリって。ほら、アンタはさっさと帰って――」
「おう、ただいま」
「!?」
いきなり背後から肩を組まれるまで、上条の接近に気付かないほどだった。
「おっと、電撃は無しだぜ。折角のチケットが」
「い、何時から……?」
「ずっと。俺のナイスな演技力に感服しましたか?」
「ア、アンタ……」
あんなに必死になってフォローしたのに、全部演技だったと!?
その言葉に美琴は怒りで唇を震わせた。
ところが、
「ありがとな、美琴」
そう言って至近距離ではにかむ上条に、
「…………………………………………………………………………………………………………いいわよ、もう」
美琴には許す以外の選択肢は無かったようだ。
「ところで聞いて下さいよ御坂さん。カミジョーさんこれでも3回くらい死線をさ迷って……」
「馬鹿アンタ何勝手に死にそうになって来てんのよ!? ちょ、詳しく話しなさいよ! 一体全体何処の女にうつつを――」
「だから何でそこで女が出てくんだよ!」
「じゃあ女はひとりも居なかったんでしょうね?」
「そ、それは……」
「吐け。洗いざらい全部吐け」
「何ですかお前は? 浮気を目撃した新妻かなんかの設定ですか?」
「に、新妻って……、もうっ」
「おい、そこ照れる所じゃないから」
「ぇ!? ああああああああああああああああああああ!! アンタ引っ掛けたわね!?」
「引っ掛けたっつか、勝手にお前が乗ったんだろ?」
「ううううう、うっさいわね! アア、アンタに合わせてやったのよ!」
「おうおう、そりゃかわいい事言うね美琴ちゃん」
「か、かわいいって、もう……やだぁ」
「だ、か、ら。そこ照れる所じゃないし」
「くあッ! ア、アンタまたッ!?」
「何か面白いぞ今日のお前」
「…………」
真顔、ましてや相変わらず肩を組んだままの至近距離で上条にそう言われると、美琴はやっぱり言葉に詰まってしまう。
(み、認めたくないけど、こ、これが惚れた、よ、弱みってやるかしら……?)
一瞬そう考えて、急いでそれを頭の中から追い出した。
「何急に頭振ってんだ? そう言えばさっきからずっと顔真っ赤だし。もしかして具合悪いのか?」
「え?」
「こっち、向いてみろ?」
無理やり顔の向きを変えられると、
「痛ッ!? 何す――」
美琴の視界に映ったのはどアップの上条の顔だった。
そして次の瞬間、美琴は額の辺りに軽い衝撃を感じた。
「!?」
「んー……。ちょっと熱いか?」
上条がそうひとりごちると、美琴の唇の辺りに吐息がかかる。
その温かく微かに湿った感触に、
(やだ私、何かもう、我慢が……でき、な、い)
そう美琴が思った時には、彼女の体は自然に動いていた。
「!?」
今度は上条が驚く番であった。
自分の唇にふわりと羽でなぞるかの様に柔らかい美琴の唇が重ねられた。
上条はその事実に身を硬くする。
その強張りは唇を伝って美琴にも伝わり、彼女の心を急速に冷えさせた。
やがて硬直した体をふるい起して上条が体を離すと、目の前には泣きそうな顔をしている美琴が居た。
「御坂おま……」
「何よ!」
その瞬間美琴の頬を涙が一筋滑り落ちた。
「ごめん……」
「何でアンタが謝んのよ?」
「いや、何となく」
「何と無くで謝んないでよ!」
「悪い」
「ほらまた!」
「ごめ……」
「…………」
押し黙ってしまう2人。
その沈黙に先に耐えられなくなった美琴は、上条に背を向けると逃げて仕舞おうと考えた。
(もう駄目、抑えきれない……。こんな私、私じゃ――)
そんな美琴の手を上条は咄嗟に掴んで、
「待て御坂!」
「離してぇ!」
「馬鹿やろッ! そんなんなってる奴放っておけるかッ!」
「ヤダヤダヤダヤダ――――――――――ッ!!」
「お、おい、落ち着けって」
「離してぇ! もうヤなの! 思い通りにならないアンタも思い通りにならない自分も嫌ッ!!」
「御坂……」
「アンタが好きッ! 大好きッ! もうどうしてくれんのよこの気持ち! どうしてぇ……、ふ、ふえ、えっ、え……」
「お、おい」
怒っていたかと思えば、突然告白されてた上に、その告白してきた相手に泣かれて上条は盛大にうろたえた。
(御坂が俺の事を好き!? 嫌われてるとは思ってなかったけど、ま、まさか……)
「ど、どっきりじゃねえよな?」
「ホントにぶっ殺すわよアンタ!!!!」
「わッ!? 悪い……」
涙目に本気の殺気を感じて上条は、たじたじと一度引き下がると、
「御坂」
「何よ?」
名前を呼ばれた美琴はツンとそっぽうを向いたまま返事を返す。
「みさ……み、みこ、と?」
「な……、何よ?」
上条の掌を通して感じる緊張感に、冷え切っていた美琴の心に徐々に熱が帯びる。
「美琴」
「だ、だから何だっ――」
美琴は上条のはっきりとした呼びかけに何かを期待して勢い良く振り返った。
そして、
「!?」
美琴の唇は上条に奪われた。
掴まれた腕から、重なり合った胸から、そして……、唇から感じる上条の熱さに美琴は文字通り身も心も蕩けた。
次に気付いた時には、上条の胸の中に顔を埋めていた。
「アンタ、何のつもりよ」
「悪い」
「ほら、また謝ってる」
「ああ悪いな」
「だから何で謝んのよ?」
「何と無く」
「何と無くで謝んな。軽いのよアンタ」
「申し訳な――」
「ほらまた」
振り出しに戻ったかのような2人のやり取り。
しかし今回は――、
「「ぷっ」」
二人は同時に吹き出すと、お腹が痛くなるまで笑いあった。
「はぁ苦し……。よぉし、今日はアンタの女関係全部聞くまで帰さないんだからね!」
「おう! 俺もきっちりその辺りの誤解は解いておかないといけないと思っていた所です」
何時もと変わらぬ2人がそこには居た。
実は何処か変わったのかも知れないがそれは本人にも判らない。
ただ、いつかこの関係が良い方向に変わったらいいなと思う辺り、やはり2人は、自分は何か変わったのだろうと感じていた。
上条が美琴を振り返る。
「じゃあ御坂、取り合えず目的地はどーする?」
「もう美琴って呼んでくれないんだ」
「へ?」
「よぉーんでくれないーんだぁー。ふぅーん」
そう言って美琴は不貞腐れた様に地面を蹴る。
そんな姿に上条は頭を掻くと、
「みこ……と」
「あぁーん、聞こえんなぁー」
「お前はどこぞの刑務所の獄長か?」
「ほらほら、もう一度っ」
「美琴ッ!」
「もッ、怒鳴る事無いでしょ!」
「恥ずかしいんだよ!」
「人の名前が恥ずかしいですって!?」
「美琴美琴美琴美琴美琴美琴美琴美琴みこみこみこみ――――!」
「キ――――――――――ッ!! 人の名前を安売りすんなッ!」
怒った美琴からの雷撃が、いつも通り上条の右手の中に消えて行く。
「たまには食らえってのこの馬鹿ッ!」
「食らったら俺が大変だろぉが!」
「アンタなら平気よ!」
「勝手に決めんな! 上条当麻は今の判決に異議を唱えるのであります!」
「その発言は却下します。以上で法廷は終了しました。またの御越しをお待ちいたしております」
「何だその閉店間際に立いな言い草は!? 民衆はその横暴に立ち上がるぞッ! 政権交代政権交代ッ!」
「も、馬鹿言ってないでさっさと歩けッ!」
まさに馬鹿騒ぎをする上条に、自動販売機相手に鍛えた美琴の鋭いキックが決まる。
「おふッ!? 蹴るのは反則じゃね……? 不幸だ……」
「こっちは時間が無いの。ファミレスでいいわよね? 意見は聞いて無いけど」
「だろうと思った」
美琴にするずると引き摺られて行く上条はしたり顔でうんうんと頷く。
その後、お互いチラリと視線を交錯させて小さく笑いあう。
この関係もまんざら捨てがたいと感じて。
END
}}}
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