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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/633」を以下のとおり復元します。
*ラプラスの神様 6
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 楽しい時間というものはあっという間に過ぎるものだ。
 あれから美琴は上条と波打ち際でバシャバシャ水をかけ合ったり、ビーチボルをぶつけあったり、浮き輪の上に乗って二人でただプールを漂ったりして散々遊び倒した。
 昼に食べた弁当は、朝と同じメニューなのにもかかわらず非常に好評で、二人はペロリと平らげてしまった。少し足りなかったのか、食べ終わるなり売店で焼きそばを注文した上条を見て、もう少し作ってくれば良かったなと美琴は少し後悔した。

 時刻は17時半。ほとんど真上にあった人工照明は、同じく人工の海に向かってゆっくりと落ちていく。天井に張り巡らされたスクリーンは、そんな太陽の動きに合わせて夕空へと姿を変えていった。
 もう少し遊びたい気持ちもあったが、ここでは完全下校時刻を過ぎると大学生以下の学生は追い出されてしまうため、そろそろ帰宅しなくてはならない。
 美しい人工の夕日の中、ぐったりと遊びつかれた美琴と上条はレジャーシートの上で、見事な景色を眺めていた。
「案外綺麗なもんだなー」
「そ、そうね…」
 時刻が迫る。普段ならこのまま寮へ帰るのも良かったのかもしれない。しかし、今日ばかりはそうする訳にはいかなかった。占いが本当であるならば、今日が上条との仲を深める最後のチャンスなのだ。美琴は手の中に収まった携帯をぎゅっと握り締めた。
「うっし、疲れたし今日はここらで帰るか。楽しかったな今日は」
 そう言って立ち上がろうとした上条の腕を美琴は遠慮がちにつかんだ。
 確かに上条の言う通り今日は楽しかった。しかし美琴は、これが人生最高の幸せであるとは認めたくなかった。美琴が本当に望むものはこの先にあるのだ。
「ど、どうした御坂?」上条は美琴の挙動に動きを止めた。

「……ねえ、アンタはさ、どうして今日私を誘ってくれたの?」
 気になっていた事だった。
 遊びに行くなら、友達だって、いつも一緒にいるあのシスターだって良かったはずだ。でも、上条は自分を選んだ。理由を聞いておかなければいけないような気がした。
「…?なんだよ急に」
「いいじゃない別に…」
 そう言った美琴は、気恥ずかしさから上条の目をみることが出来なかった。精一杯勇気を振り絞って言った言葉だったから、そんな余裕が残っているはずはなかった。
 美琴は願うような思いでギュッと目を閉じ、上条の言葉を待った。

 しかし、次の瞬間上条の口から出た言葉は、美琴の願望を裏切るものだった。
「うん、いやあ、実はお前を誘う前にも高校の奴とか他にもいろいろ誘ってはみたんだけどな。あ、吹寄と土御門は知ってるよな。誘った奴みんな都合つかなくてさ」
 吹寄は確か上条のクラスの女だ。土御門とは舞夏のことだろうか。二人の女性の顔が美琴の頭に浮かんだ。
「インデックスなんて死んでも行かないとか言うんだぜ。ひでーよな。お前がたまたまヒマで助かったよ」
 青髪ピアスは元々誘っていなかった。トラウマが蘇るからだ。


「………そう」
 上条の言葉を聞いた美琴は、ほんの数秒だけ視線を宙に漂わせてからそう答えた。
 道理で誘われたのが前日だった訳だ。
「あん?さっきからどうしたお前」
「なんでもない」そう言った美琴はゆっくりと立ち上がった。
「ええ!?おい、ちょっと待てよ御坂」
 そのまま立ち去ろうとした美琴を上条は呼び止めようとした。
「…ついてくんな」
 静かにそう言った美琴の唇はわずかに震えていた。しかし上条からは彼女の表情までは見ることが出来なかったようだ。
「ちょっとちょっと、なにいきなり不機嫌になってるんですか?御坂さ…」
「うるさい!!ついてくんなって言ってんのよ!!」
 次の瞬間、ズドンという凄まじい轟音と共に10億ボルトの電撃が迸った。衝撃で砂塵が舞い散り、着弾地点から10メートルも先にあったヤシの木が根元から吹き飛ばされそうになる。客も監視員も近くにいなかったのは幸いだった。
「あぶねえ!!だから水辺で電撃は撃つなって―――」
「…………御坂…?」砂塵が晴れたとき、美琴の姿はそこになかった。
 御坂美琴は夕焼けの砂浜を一人で歩いていた。ここに来るまでの10分足らずの間、大学生と思しき2人組みから声をかけられたが、まとめて電撃でなぎ払った。美琴はいま機嫌が悪かった。
「…あのバカ…………」
 砂浜の端までたどりついた美琴はようやく足を止めて呟いた。独り言だったが、こんな外れには誰もいないので関係ない。
 上条は自分以外の女の子も遊びに誘っていた。それも自分より年上の娘も沢山。舞夏の名前も中には上がっていた。上条から告げられたその事実は美琴の心を激しく揺さぶった。
 上条はそれを告げたとき、特に悪びれた様子も慌てた様子もなかった。つまり、自分は上条から女として見られてなどいなかったのだ。ただの友達。いや、一番最後に自分に声が掛かったことを考えると、自分を友人として見てくれていたかどうかさえ怪しく思えてきた。
 結局ただの空回りだったわけだ。なにも知らずにはしゃいでいた自分が馬鹿みたいに思えてきた。

 もう帰ろうか、と思ったとき自分の荷物が一つもないことに美琴は気付いた。その場から逃げ出すようにここまで来たため、荷物は全部元の場所に置きっぱなしだ。持っているのは携帯電話だけだった。
 思えば、上条とここに来たのはコイツのせいだった。
「なによ…こんなもの………!!」
 美琴は握り締めていた携帯を力いっぱい投げ捨てた。
「…ちっとも………当たんないじゃない…………」
 急に力が抜けた美琴はがくりとその場にヘたり込んだ。
 そのまま膝を抱え、しばらく夕日を眺めていると、砂地用に特殊改良を施されたドラム缶型の清掃ロボットが近づいてきた。昼間に散らかされた浜の掃除に動き回っているらしい。大学生以下の客の退園時間が迫っているということだ。しかし、美琴はその場から動く気にはなれなかった。荷物を取りに戻るのも億劫だ。
(うるさいな…)
 せわしなく動き回る清掃ロボットのモーター音がやかましかったせいだろう。美琴は背後から近づく少年の気配に気付かなかった。
 「御坂…!!」
 不意に声をかけられた美琴は少しだけ驚いたが、息を切らした少年に振り返ることはなかった。意外ではなかった。なんとなく、彼なら自分を追いかけてきてくるような気がしていたのだ。
 心のどこかで自分がそんな期待をしていたことに気づいた美琴は心底嫌になった。

「……なによ?」美琴は振り向かずに応えた。
「はあっ…はあ………何って…お前、急に電撃かまして行っちまうもんだから追いかけてきたんだよ…ほら荷物」
 ようやく美琴は少年の方を見ると、彼は一人で二人分の荷物を抱えていた。放っておけばいいのに、レンタルパラソルまで抱え込んでいる。
 彼の手を見ると先程美琴が投げ捨てた携帯電話が握られていた。肩で息をしながら。後生大事にといった風に。
「いいわよそんなもの…さっき自分で捨てたんだから」
「…何で急にそんなこと言うんだよ」
「………」美琴は答えられなかった。
「この携帯さ、一応二人で契約するときに買ったもんだろ…中身のチップだけだけど…」
「…………」
「何度かコイツには助けられたんだ。そんなに粗末にしてくれるなよ」
 そう言った上条は、美琴に携帯電話を差し出してきた。美琴が黙って受け取ると、上条は少しだけほっとしたような表情を作った。
「なあ、御坂」
「…なによ」
「お前さ、もしかして俺が誰からも相手にされなかったから、仕方なくお前を誘ったと思って怒ってるの…?」
 上条の言葉に美琴は呆れた。
「…………アンタはこの期に及んで、まだそんなことを私に訊くのね…」
 少し考えればわかるような事をこの男はちっともわかってくれない。そんな上条を見ていると、美琴はなんだか馬鹿らしくなってきた。
「……そうよ。アンタが一番に私を誘ってくれなかったから私は機嫌が悪いのよ。単なる……ヤキモチよ」
「すまん御坂…」
「謝んないでよ」
 謝罪の言葉を述べられた美琴は、逆に惨めな気持ちにさせられた。勝手に期待していただけというのは自身も自覚するところだったのだ。ただ、やり場の無い憤りと恐怖に似た感情が美琴をあの場に留まらせることを許さなかった。
 美琴の言葉を聞かずに上条は続けた。
「……確かにさ、お前を誘ったのは最後だし、一緒に行くことになるなんて最初は考えてもなかった」
「………」
「でもさ、俺、今日すげえ楽しかったぜ。それは本当だ。嘘じゃない」
 上条の言葉に嘘がないのは、声を聞けば明らかだった。

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