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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life)

日曜日。上条は例によってユニットバスの中で眠れないなー、と思いながらぼーっとしていた。
とあるきっかけで始まった、美琴の来訪は一ヶ月経った今でこそ落ち着いたものの、2週目は上条にとって記憶に残るものであった。
つまりは、インデックスと鉢合わせた時の話であるのだが、思い出すのも恐ろしい、というよりも不思議な空気だった。
様々な魔術師や能力者との死線を潜り抜け、『神の右席』の4人全員と向き合ったことのある上条であったが、それの比ではないくらいだ。
あまり思い出したくもない過去であるが、今でも上条はその時のことを思い出してしまう。

マンガ雑誌を購入した後、上条は美琴と出会うことなく部屋についた。
おかえり、とうまー。今日の晩御飯は―?というインデックスの声を軽くスルーしてしまうほど、上条は憂鬱であった。
この後、シスターvs超能力者という年末の格闘技もビックリな異色対決を見ることになるのかと思うと憂鬱にもなる。
というか、不幸体質の上条にとって、その戦いを見るくらいでは凹まない。重要なのは『巻き込まれる』という事態だ。
「不幸だ」
「とうまー、晩御飯は何って聞いてるんだよ。無視しないで欲しいかも」
「あー、今日はお客さんが来るからな。それからだ」
少し頬を膨らませる食うだけの居候を適当にあしらう。深く聞かれては面倒にことになることは明白だ。
美琴には事前にメールで連絡を入れてあり、インデックスを『釣る』意味も含めて、美琴が料理を披露する事になっている。
何を作るかも聞いていないし、そもそもシスターとの戦いで有耶無耶になりそうな気がするが。
それでも、上条は楽しみであった。生姜焼きを知らない世間知らずのお嬢様が繰り出す料理とはどんなものか。
「お客さん?なにか嫌な予感がするけど、私は敬虔なるシスターであるから一応話は聞いてあげるんだよ。誰が来るの?」
「………御坂」
「とうまの頭をカミクダク!」
「ぎゃあっぁぁぁぁぁっ!?インデックスさんっ!?話聞くんじゃなかったんですかぁっ」
「アンタらなにやってんの?」
いつの間にか入ってきていた美琴はシスターに噛まれる高校生と言う奇妙な図を白い目で見ていた。
その後は目も覆いたくなるような戦いが繰り広げられるかと思ったが、意外にも2人は打ち解けていた。
もっとも、いきなり打ち解けたわけではなく、戸主である上条が部屋を追い出され、20分ほど外で佇む羽目になったのだが、帰って来たっころにはそれなりに仲良くなっていた。
驚くことに、食後――夕食はとんでもなく美味いハンバーグだった――には、一緒にマンガを読むという仲にまで発展。
更には、「みことー、一緒にお風呂に入るんだよ」「じゃぁ、その長い髪を洗ってあげる」「洗いっこするんだよ」なんて羨ま…奇跡的な状態になっていた。

「はぁ、なんていうか不幸だ」
そこまで急速に仲良くなられては裏で何かがあるのではないかと勘ぐってしまい、1人置いてかれた気分になる。
3人でいるのに1人で蚊帳の外、といった感じだ。
「でもまぁ、仲良くなってくれてよかった、かな」


翌日。昨日が日曜日であったので今日は月曜日である。通常ならあちこちで授業風景が見れたであろうが、今日は祝日。
授業風景どころか、浮かれた学生たちが楽しげに遊んだりしている。
しかし、不幸なる上条は今日の午前に行われた補習に体力を削られ、トボトボと足取りが重い。
心なしか俯き加減であり、その口から時々、不幸だ、と漏れている。傍から見れば少年犯罪に走りそうなくらいの悲壮感が漂っている。
「よーう、どうした、元気ないぞ」
「……この声は御坂か。どうした?」
上条は横からひょっこり現れた美琴に眠たそうな顔を向け、大きなあくびを1つつく。
「な、なんかおかしいわよアンタ」
「ん?」
「いっつもなら電撃飛ばすまで気づかないのに、なんで?」
「言ってることはよくわからんが、上条さんは朝から補習でブルーなんですよ」
自分で言ってて悲しいぜ、と涙を流す上条に少し同情しながらも美琴は意を決して尋ねる。
「まぁ、いいわ。それよりアンタ、このあと暇?」
「暇っちゃぁ暇だな。夕飯までには戻らないとインデックスに噛まれることになるけど」
「じゃ、ちょっと付き合って」
そういうと美琴は上条の右手を掴んで引っ張る。
「ちょ、ちょっと待て、御坂。俺はマンガ買って家に帰りたいんだが」
読ませてやるから帰らせてくれ、と目で訴えかけてみる。
そんな上条の表情を正確に読み取ったのか、美琴はふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべ言い返す。
「アンタ忘れたの?今日は休刊日よ」
「そういやそうか……って、だったら休むっ寝るっ、寝かせてください」
うだー、っと肩を落とし、眠たいアピールをしてみるが美琴はそれがどうしたと言わんばかりにグイグイと上条を引っ張っていく。
「アンタ、先週偶になら付き合うって言ったわよね?」
「……言いましたね」
「じゃぁ付き合え」
「何処に連れて行かれるんでせうか?」
「Seventh mist。買い物、付き合ってくれる、わ、よ、ね?」
「はい」
「よろしい」
―――不幸だ―――
げっそりとした上条は不幸だ思いつつも、どこか楽しい気分になるのを感じていた。


上機嫌の美琴に引かれ、上条はSeventh mist前まで連行されてきていた。
美琴には初春や佐天らと度々訪れている半ば常連と化している店であるが、上条にとっては馴染みがない。
以前、小さな女の子を連れて訪れ、不幸にも事件に巻き込まれたりしているのだが、上条の記憶には残っていない。
「なぁ、御坂、ホントにこんな店に入るのか?」
「ん、なんで?」
「いやー、上条さん的にはちょっとハードルが高いのですよ」
ごくごく普通の洋服店ではあるが、全体的に女性向けであり、そもそもあまりファッションを気にしない上条にはあまり居心地のいいものではない。
「別に1人で歩けって言ってるわけじゃないんだし、大丈夫でしょ?」
「いやいや、むしろ1人じゃないからキツいわけでして」
「何?アンタ、私と一緒なのがそんっなに嫌なわけ?」
腰の引けている上条。純情青年にとって女の子と一緒にお店を歩きまわってあれこれするのはどうも受け入れがたい。
「そういうわけじゃねぇ。御坂と一緒にいるのが嫌なんじゃなくて、女の子と一緒にお買い物とかそういうのはなんというか……」
「……何がいいたいの?」
「だからですね、こういうのは恋人同士で行くもんじゃないんですか、ってことなんですが…」
上条の一言――本人は何気なく発しているのだが――で美琴の顔が一気に赤く染まる。
「あはははは。気にしなくていいのよ、そんな事。あはははは」
「上条さんは気になるんですけど」
大げさに笑ってみせる美琴を見て、上条はよりげっそりとする。
「アンタは―――」
「あん?」
「アンタは、私が恋人だと、嫌?」
「……………………はい?」
「…………」
沈黙。上条は美琴が何を言いたいのかが良く分からなかった。
―――コイツ、『私が恋人なら嫌?』とか言いやがりましたか?アレ?ここ笑うとこ?アレ?―――
「あ、れ、と……いやいやいや、忘れて!何言ってるんだろ、私。あはは、あはははははっ。それ、行くわよっ!!」
―――だあぁぁぁっ!?私、何言ってんのよっ!自爆?自爆した!?もう、不幸だあぁぁ―――
違う意味で混乱した2人は、頭の回らないままSeventh mistに突撃していった。


「で、御坂。何を買いに来たんだよ?」
「ひゃうっ!?」
いち早く復帰した上条に声をかけられ、美琴は素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。
女性物のパジャマ売り場の前まで来て美琴は何を見るでもなくウロウロしている。
上条は行ったり来たりせわしない美琴を見て声をかけたのだった。
ついさっき自らの発言で自爆した美琴の心臓は口から飛び出しそうなくらい暴れており、心ここにあらずなくらいにパニックになっていた。
「おい、大丈夫かよ?」
「大丈夫!落ち着いた」
深呼吸をして落ち着いた風に取り繕ってみる。鼓動は落ち着いたものの、赤いままの顔を見せたくなくて顔を逸らしてしまう。
「で、何を買いに来たんだよ?」
「……考えてない」
「はぁ?」
どういうことだよ、と、上条は美琴の肩に手をやり詰め寄る。身体はこちらに向けたものの、美琴は顔をこちらに向けない。
「……遊びに行きたかっただけ」
「っ!」
上条は気付いた。美琴が少し涙を浮かべている。これはまずい。精神衛生上非常にまずい。
「アンタと、ゆっくり遊びたかったの。取り繕ってない、真っ白な御坂美琴として」
美琴がこちらを向く。涙を浮かべた美琴は、笑っていた。
嬉しいから、楽しいからの笑顔ではなく。自分を、素直になりきれない自分の心を嘲笑するかのような、寂しい笑顔。
―――俺は、何をやってるんだ―――
上条は思う。自分は美琴の事を考えていたか。見せかけの、自己満足の優しさで満足していなかったか。
答えは出ない。一朝一夕で、弾き出して言い答えじゃない。自分の心の中の『何か』に向き合って出すべき大切な答え。
今まで右腕で殺してきた幻想ではない、護るべきもの。今は未だ淡い幻想でも、いつかは鮮明なる現実になるかもしれない。
―――少なくとも、御坂にこんな顔させて、自分の幻想にすがりついてんじゃねぇよ―――
気付いた時、上条は美琴を抱きしめていた。
「すまん、御坂。何も気づけなくて。俺は――」
美琴は目を丸くしたまま固まる。
「俺には、まだ何も分からないけど。答えが出たら、聞いてくれるか?」
「……馬鹿、気にしなくていいのに」
美琴の目から、涙がこぼれる。
「待ってる」
頬を伝い零れた涙が上条の服を濡らした。

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