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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/12スレ目短編/720 - (2011/01/21 (金) 22:06:12) の編集履歴(バックアップ)


四月朔日―その後―



大事な気持ちと大事な人に気づかされた4月1日も終わり、上条は新たな学年の新しいクラスで新鮮味のない一日を味わっていた。

「なんつーか、ほんとに2年になったんだよな?俺・・・」
「せやね~。それはボクも思てたわぁ」
「実はこれはカミやんの夢で、実はもっかい1年でした~。ってオチかもしれないにゃ~」
「…」
「痛い!無言でしかもいきなり上条さんのほっぺ抓らないでください!姫神さん!?」
「よかったね。夢じゃない」
「…痛くない確認の方法はなかったのでせうか?」
「カミやん相手やとないなぁ」
「カミやんにそんなのあるわけないぜよ」
「残念。私も思いつかない」
「ひどい!上条さん泣いちゃいますよ!?」
「デルタフォース+1な人たちうるさいですよ~。これからの宿題、倍を希望ですね~」
「子萌裁判長!それはあまりに横暴やと思います!あぁ!でも子萌先生の愛の鞭なら全身全霊で受け止めたるでぇ!!バッチコーイ!!」
「前半は同じ気持ちだにゃ!それはカミやんだけで十分だと具申するぜよ!」
「お前ら!俺を生贄に出して助かろうとしてるんじゃねぇ!!」
「+1…。私も入ってる…?…でも上条君と一緒なら…」

上条のクラスには去年と同じメンツが大勢いた。デルタフォースは当然のようにいるし姫神だっている。ほかにも去年見た顔も多い。加えて今年も担任が子萌先生だ。

デルタフォース。とくに上条を任せられるのは子萌先生しかいない。との声が職員室で上がり、本人もそれを承諾した。加えて今年の副担任は――

「ほらほら、そこの4人静かにするじゃん。騒ぐと早く終わる物も遅くなるじゃん。子萌先生も泣いちゃうじゃんよ?」
「う~…」
「やっぱり。私も入ってる…」

じゃんじゃん先生もとい黄泉川先生だった。なんでも、彼女は優等生を相手にするよりも手のかかる馬鹿を相手にする方がいいらしく、今年はその意見が通り上条たちのクラスの副担任をすることなった。さらには、生活指導やら何やらいろんな教師の視線がこのクラス、とくに上条に注がれていた。

(なんでせう?この新年度早々の四面楚歌な感じは…)

ひとまず子萌先生の泣きそうな顔で4人だけでなくそれを見ていて笑っていたクラスメイト達も一瞬で静かになる。青髪だけは「子萌先生の泣き顔は相変わらずそそるわぁ」とか言っていた。

「は~い。じゃあ話を始めますよ~。といっても、ほとんどの人が顔見知りなので挨拶は省きますね~」

今日は新学年に入って初めての始業式。明日には入学式があるので今日は簡単な話だけで帰れる。

「――ということなので、係りになっている人はこの後頑張ってくださいね~。そうじゃない人は適当に過ごしてください」

(テキトーだなぁ・・・)

クラス一同の心がシンクロする。とはいえ、これで帰れるのだから誰も何も言わない。話も全て終わり、これで今日は解散だ。挨拶がすんで、クラスメイト達はそれぞれ帰ったり喋ったりしている。

「カミや~ん。この後暇かいな?どっかいかへん~?」
「オレも行くぜよ青ピ」
「はいな~。姫やんはどないする?」
「ごめん。今日は用事がある」
「そっかぁ、そりゃ残念やね。次遊ぼうや。で、カミやんは?」
「あ~、悪い。今日は俺も用事あるんだ」
「なんや、カミやんもかいな。じゃあつっちー、ボクとデートやね」
「まさか青ピ…。そっちの趣味もあるのかにゃ…?」
「どう思う?」
『お前(貴方)ならありそうで怖い(にゃー)』

好きなタイプを語らせたら原稿用紙が何枚も埋まりそうな奴だ。そんな趣味があっても何も不思議ではない。

「とにかく、俺は用事があるから先に帰るな」
「ばいばい~カミやん~」
「またにゃ~」
「また明日」

上条が去ってすぐ3人もお開きになり、姫神は用事に出かけて行った。土御門は青髪とデート、ではなく途中であった義妹に二人ともども荷物持ちをやらされた。

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いつもの自販機の前。あの日から二人は付き合うことになり、何かあればここの自販機が待ち合わせの場所になった。美琴の性格からしてもういそうなのだが、今日は上条の方が早かったようだ。

「こういうこともあるんだなぁ」

今日はこれといって不幸に巻き込まれずにたこともだが美琴より早く着いているというのが何だか珍しい。いや、彼女を待たせないのは重要でせう?

「インデックスの昼飯は用意してきたし大丈夫だろ。晩飯は……なんとかするだろ、きっと…」

ここ最近、インデックスに料理を教えこみ、少なくとも最低限の料理ができるまでにさせた。ここまでになるのに本当に大変だった。それはもう涙ぐましい努力があった。それが実を結んだ時は本当に泣きそうになった。

「完全記憶能力があるくせに不器用とはこれいかに」
「ちょろっと、独り言って傍から見てるとちょっと気持ち悪いわよ?」
「よぉ。御坂、今日は遅かったな」
「さっきまでコンビニで立ち読みしてて、そろそろ来るんじゃないかと思ってね。20分前には着いてたわよ」
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「か、か、彼女を待たせないのも大事なのよ。わ、私の、かかかか、彼氏さん?」

上条を注意する美琴の顔はゆでダコ以上に真っ赤で火でも出そうだ。

「そんな真っ赤になるくらい恥ずかしいなら最初から言わなきゃいいのに」
「ち、違うわよ!恥ずかしくなんかないわよ!」
「はいはい。俺の可愛い可愛い彼女さんは素直じゃないツンデレですもんねぇ」
「ツンデレじゃない!」
「じゃあデレデレ?」
「…む~…わかってて言ってるでしょ…好きなんだもん……デレデレしても…いいで、しょ?…」

上目遣いで赤らめた表情で上条を見つめる。

(なんでせう!?この可愛すぎる生き物は!?これはハグしたくなっても仕方ないですことよ!?)

と、思考がそのまま行動につながり美琴を思いっきりハグしていた。

「ふにゃ!?」
「ああ…落ち着く…。御坂さんはマイナスイオンでも出してらっしゃるんですか?とっても気持ちよくて落ち着きます…」

出てます。マイナスイオンじゃないけどバリバリ出てます。上条に対する愛が溢れんばかりに出ています。

(御坂が抱き枕だったらいいなぁ。…って、相手はまだ中学生!何危ないこと考えてるんだ俺!!)

しかし美琴に抱きついているのは本当に心地いい。女の子特有のやわらかさに髪の毛のいいにおい。何より相手が美琴だというが何においても重要だ。と、自然に考えるあたり、美琴中毒になりつつある上条少年である。

幸せ状態である上条に対し、その状態+混乱状態に陥っている美琴だった。

(ふにゃ~~~~!!!離れてほしいけど離れてほしくない!どうすればいいのでせう!?)

抱きしめてくれるのは文字通り天へ登りそうなほどに気持ち良くてうれしい。上条の匂いと体を全身で確かめ、意識がとろけ落ちそうだった。

ここでとろけ落ちそうなのはなんかいやだった。ずっと味わっていたいけど、今でもう限界なのだ。このままじゃふにゃ~となってしまう。こんなとき美琴さんはどうしたらいいのでせう!?

結論。口調が移っている時点でどうしようもありません。素直に気絶しましょう。

「ふにゃ~~……」
「って美琴さん!?」
「にゃふ~~……」
(あ、猫耳付けたい)

とっても幸せそうな表情で意識を失った美琴。そんな彼女を見て結構飛んだことを思いつく彼氏さん。いやまー、ものすごく似合うだろうけども。ものすごく愛らしいだろうけども、たぶん最初にすることはそれじゃないです。

(くそぅ。手元に猫耳がないことがこんなに悔しいなんて…!)

青髪や土御門あたりなら持っているかもしれない。あの二人は上条にはよく理解できない『萌え』という物には詳しい。とくに青髪。猫耳くらいなら持っていて、なおかつすぐ取り出してもおかしい気がしない。

にゃ~

「今は猫じゃなくて猫耳がほしいのですよ。上条さんは」
「猫耳ならあります。とミサカはあの医者に無理やり持たされた物を貴方に差し出します」
「おお!さすがだ御坂妹!…って妹ぉ!?」
「はい。そう何度も言わなくてもミサカはお姉さまの妹とわかっています。と、ミサカは真昼間からイチャイチャしやがってこのやろうと悪態をつきながら答えます」
「いいいいいい、いつからそこに居られたのでしょう?」
「貴方がお姉さまを抱きしめる少し前あたりからです。と、ミサカはイヌを抱えながら答えます」

ほとんど最初からじゃないでせうか。と上条さんは内心で呟いてみます。

「それでお姉さまはどうしたのです?と、ミサカはお姉さまの幸せそうな顔を見て少しいらだちながら聞きます」
「いやな、抱きしめたらこうなっちまって…」
「お姉さまは相変わらずですね。と、ミサカはお姉さまのほっぺを少し抓ってみます」
「抓ったら起きるんじゃねぇか?」

むに~と御坂妹にほっぺを引っ張られても美琴は起きない。ああは言ったが上条も早く起きてほしかった。今日は特別な買物だってしたいのだから。

「起きませんね。と、ミサカは抓るのに飽きて手を離します」
「起きねぇなぁ。ところで御坂妹」
「なんですか?と、ミサカは今度は腕の中のイヌで遊びながら聞き返します」
「お前、俺たちが抱き合ってるの見て不思議に思わないのか?」
「バカップルが抱き合うのは何の不思議もありません。と、少し呆れながら答えます」
「バカップル…に見えてるのか?俺達…。って、御坂妹。俺たちが付き合い始めたって誰から聞いた?」
「バカップル以外の何物にも見えませんし、貴方はしばらく前からお姉さまと付き合っているように見えましたが?と、ミサカは二つの疑問に答えつつ逆に質問してみます」
「いや、俺たちが付き合い始めたのはつい最近なのですが…」
「付き合ってもいないのにあんなにイチャイチャしていていたのですか…。もう手遅れですね、このバカップルは。と、ミサカは片手でヤレヤレのポーズをしてみます」

イチャイチャしていた覚えはないんだけどなぁ。と上条さんは再び内心で呟いてみます。

お互い一緒にいるのが当たり前でイチャイチャしているという意識がない。無論、今もその意識はない。当たり前、というよりもこうしないと何か変な感じがして落ち着かないと言ってもいい。それが付き合ってからより顕著に、より大きくなった。

「それにしてもそろそろ起きてくれねぇかなぁ…上条さんお腹が空いてきました」
「ではとっておきの秘策を授けましょう。と、このバカップル専用の解決策を提示します」
「おお?何だ?」

どうせ美琴には聞こえていないので上条に堂々と御坂妹は解決策を授ける。

「そんなんで起きるのか?」
「普通のカップルでは起きないでしょう。しかし貴方達は群を抜きすぎた感のあるバカップルですから効果は絶大なはずです。と、ミサカは断言します」
「そんなバカップルに見えてるのか?俺達…」

よっ、っと美琴の体勢を腕の中で直し上条は彼女の耳元へ唇を近付ける。そして、生まれて初めて出す低めの力強い声で囁く。

「…起きないと、帰るぞ?…」
「にゃ~!?起きるから帰っちゃダメ!帰っちゃイヤ!!」
「おお!本当に起きた。上条さん軽く感動」
「ケッ、やってられねぇやこの野郎。と、ミサカは改めてバカップルぶりを確認します」
「ありがとな、御坂妹」
「礼はいらねーですよ、このバカップル。と、ミサカは甘い空気に砂を吐きそうな気分です」

今も上条の腕の中で「帰らない!?ちゃんと起きたから帰らないのでせう!?一緒にいてくれるのよね!?にゃ~!」と、最後は猫語になる美琴。その美琴の頭を撫で、さらには額に軽くキスをして美琴を黙らせる、という光景が御坂妹の前で繰り広げられた。

そんなことをされても美琴は今回は気絶せずにこらえていた。どうやらさっきのセリフはよほど効いたらしい。

「いい加減この空気に耐えられないので退散します。とミサカは空気を読んでみます」
「おお。またな~」

イヌという名の猫を両手で抱きながら御坂妹は来た方向とは逆方向に歩いて行った。

「さて、と。落ち着いたか?」
「にゃ、にゃんとか…」
(ああ、ほんと猫耳付けてぇ。って、そうだよ。妹がくれたのがあるじゃないか)

美琴の後ろに回している右手に持っている猫耳に気づく上条。さっそく愛らしい猫美琴を見るため行動に移す。

「なぁ御坂。目、閉じてくんない?」
「にゃ、にゃんで?にゃにする気?」
「まぁまぁ、いいから閉じてくれ。なっ?」

言われ目を閉じる美琴。内心、心臓が破裂するんじゃないかってくらいドキドキしていた。

(ま、まさかキスでもするの!?にゃ~!?こ、心の準備が…!!)

顔を真っ赤にして心なしか唇を前に突き出す少女をしり目に、背中に回していた両手を外し美琴の頭に猫耳を装着させる。

(にゃ?にゃんか頭に乗った?)
「おお~!さすがだ御坂さん!恐ろしいまでのジャストフィット!愛くるしすぎる!!」
「ふにゃ?」

上条の言っていることがよくわからないので目をあけると、正面にはなんかすっごく輝いている彼氏さんが居た。その視線が自分の顔より少し上、頭に向けられている。確認しようと頭に手を伸ばす。

ふに

(ふに?)

頭に柔らかいのが二つある。まるで耳のような。

「猫御坂!!可愛すぎる!」
「猫?って、これ猫耳!?」
「さっき御坂妹がくれてな。似合いそうだったんでつけてみました。しかもほら」

と、美琴の頭から猫耳を取り折りたたむと、それはコンパクトに手の中に収まっていた。

「このようにコンパクトになるのでいつでもどこでも猫御坂が!」
「つけるな!!」
「え~…。ダメ?」
「…だ、ダメじゃ…ない、けど…。…アンタ以外に見られるのは…、いや…」
「ああ~!可愛すぎる!俺は初めて萌えという感情を理解できた気がする!!」
「にゃ、にゃ~!?いきなり抱きつくにゃ!!」

グ~

気の抜ける大きな音がムードもいきなり全てぶち壊した。言わずもがな、空腹ということを忘れていた上条の腹から出た音である。

「…アンタ、空気を読めないのは腹もなの?」
「と、申されましても…。はい、すみません。正直に言います。お腹が空きました」

仕方ない、と言わんばかりのため息を腕に収まったまま吐きだす美琴は、腕から抜け出し彼氏の腕を引っ張るように歩きだした。

「ほら、どっか食べに行くわよ。私も空いてきたしね。ファミレスでいいわよね?」
「ファミレス以外は上条さんのお財布事情的にヤバいです」
「そんなのわかってるわよ」

上条の貧乏具合をよくわかっている彼女は、彼にしてみればあまり満足がいかないであろうがこちらが少しずつ彼の金銭感覚に合わせていこうとをひそかに決意していた。

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美琴がいつも行っているファミレス、ではなく上条が時々行くファミレス、でもなくお互い初めて行くファミレスで食事を済ませて、今は食後のティータイムを味わっていた。

お互いが知っているファミレスでどちらかの知り合いに会い、何かと落ち着かないことになりそうなのでやめた。とくに、上条にとっては切実だ。見つかったその次の日に血を見ることになりかねない。自分の。

上条はコーヒーを。美琴は紅茶を飲みながらこれからどうしようか話していた。

「アンタどっか行きたいとこある?」
「ちょっと買い物したいなぁ」
「まさかまたどっかの特売に付き合えってんじゃないでしょうね?」
「違う違う。今日は本当に買い物がしたいんだ」
「へぇ~。珍しいわね。何買うの?」
「それは秘密だ。それより」
「ん?」
「いい加減彼氏の名前くらい名前で呼んでくれませんかね、美琴さん?」
「え、あ、な、ちょ、えっと…」
「彼女にはやっぱり名前で呼んでほしいのですよ」
「ぅ~……………………………………………………と、当麻……………」
「はい、何ですか?美琴さん」

聞こえるか否か、そこまで小さい呟きだろうと上条が愛しの彼女の声を聞き洩らすことは付き合う前とは違い、もうない。

初めて名前を上条の名前を呼んだ美琴は顔を真っ赤にして煙を出しながら紅茶を飲んでいた。一方、名前を呼ばれた当麻は満足そうに笑みを浮かべ、コーヒーを飲みほしていた。

「さて、そろそろ行こうぜ、美琴」
「ちょ、まだ飲み終わって…って、待ってって!ねぇ当麻!!」

伝票を持ってレジへ進む上条を美琴は急いで紅茶を飲みほしついて行った。今回はなぜだろう。自然に呼べた。一回呼んでしまえばあとは自然と出る物なのだろうか。

(やっと出たかバカップル)

という店の中の人全員の思いは2人は知らないまま、買い物に行った。

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「で、セブンスミストに来たんだけど、ここには何が置いてあるんだ?」
「知らないでここに来たの?」
「いやぁ、あまりこういうとこには来ないからなぁ」
「服を中心にいろいろ置いてあるわね。ほかにはアクセサリーとか小物もいくつかあるはずよ」

美琴の言葉を聞きながら上条はエレベータ近くに案内板を見つける。

「え~っと…美琴、4階行こうぜ」
「4階…?アクセサリーショップじゃない。当麻もこういうのつけるの?」
「これでも年頃の少年です。可愛い彼女といる時くらいかっこよくしたいのですよ」
「…………そのままでも、かっこいいのに……………」
「ありがとな、美琴」
「ふにゃ!?」

聞かれることのないと思っていた呟きに返され猫化する美琴の腕を引っ張り、上条たちはエレベータの中に消えた。ちなみに――

(ったく熱いなぁ。この店、空調効いてねぇんじゃねぇの?)

と、1階のお客様店員問わず全員が内心で呟いていた。

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アクセサリーショップというのも、言い方が悪いがピンからキリまである。庶民には手を出せないようなものもあるし、数千円ほどで買える物もある。

セブンスミストの中にあるアクセサリーショップはその全部が入っており、上条たちはその後者よりの店に入っていた。比較的安い商品が並んでいるが、素人目にはそのどれもが高級品に見えた。

「高そうなのに何でこんなに安いんでせう?」
「あ、ねぇねぇ当麻。ここになんか書いてあるわよ」
「ん~?どれどれ…って、ちょっと古臭いか?」

アクセサリーが置いてある商品棚の端に『当店で扱っている宝石は研磨の際、本来は捨てられるはずの粉上の物を押し固めたて作ったものです。そのため加工が容易で、様々な形で販売することが出来るのが売りです』と書いてあった。

「ふ~ん。だからこんなに安いのね。原価はないようなもんだし」
「にしてもすげぇなぁ、学園都市の科学力は。これが粉だったなんて思えないぞ」

上条たちの目に映る宝石はそれこそ高級店に置いてあるのと大差いないようにしか見えなかった。これが粉だというのは、たとえ店内にこう書かれていても信じきれないところがある。

「でさ、何を買うの?」
「2つ買う予定なんだけど、あと1つが決まらないんだよなぁ」
「ちなみに、決まっているのはどれ?」
「それはお楽しみだ」
「む~。ケチ。教えてくれもいいじゃん。いいもん。私も勝手に見てるから」

そう言って美琴は同じ階の別の店のアクセサリーを見に行こうとしたがその歩がすぐに止まる。アクセサリーというは本当に種類がある。何も宝石や金属で作る物ばかりではない。ビーズでもアクセサリーは作れるのだ。

そのビーズで作ったアクセサリーを隣の店が置いてるのだが、アクセサリーだけではなくキャラクターを模したキーホルダーもあったようだ。

イヌやネコもあればペンギンもあった。しかし美琴の目を一番引いていたのは言わずもがな、ゲコ太である。しかもケロヨンとセットであるからして、止まらないのが不思議というものだ。

「ん?どした?ほかの店見に行くんじゃなかったのか?」

上条はいったん探すのをやめて不意に止まった美琴の元へ歩み寄る。彼女の視線の先にはビーズで作られた、確かゲコ太とケロヨン。なるほど、と上条は変に納得していた。

値段を見ると1つ数百円という安い値段だったので当麻は深く考えずその店のレジへ向かった。インデックスが自炊を覚えてから以前よりも金銭的余裕の生まれた上条さんだった。

「すいません、あそこに並んでいるゲコ太とケロヨンが欲しいんですが」
「お買い上げありがとうございます。1,500円になります」

店員は値段を告げながら後ろの箱から同じ物を取り出し、上条はその間にお金を用意する。

と、いまだゲコ太たちを見つめたままの美琴のそばで会計が恙無く終わる。

「ほれ、美琴」
「ん?なに?…って、ゲコ太とケロヨン!!嘘!買ってくれたの!?」
「そりゃあ彼女があんだけ欲しそうな顔をしてたら買うのが彼氏でしょう」
「ありがとう!当麻!!」

人目もはばからず美琴は抱きつく。アクセサリーショップというのは存外人が多い場所で、このビーズショップもそれには漏れないようだ。したがって、人の目がとっても痛い。

「…あ~、美琴さん?ここでは迷惑になるから離れましょうね~」
「むぅ」

普段なら顔が真っ赤になって火を噴くか煙を出すのに、買ってもらったのがよほどうれしかったのか、今回は残念そうに離れた。もちろん、手は握ったままだ。

ビーズのキャラクターに見惚れている美琴を引っ張り、上条はさっきの店で欲しい物を探し続けた。1つはもう決まっているのに、残り一つがなかなか決まらない。

「う~ん、ないのかなぁ。…っと、あるにはあったけど、どれがいいんだ?」

目的の物は見つけたが、どの宝石が1番なっているのかわからない。宝石のことを何も知らないのだから当然と言えば当然か。もう1つの方を調べただけで終わってしまったし。

「あ、これ綺麗だし、これでいいか。美琴、会計してくるから少し待っててくれ」
「うん」

そう言って2つのアクセサリーを手にレジへ向かう。

「すいません、お願いします」
「お買い上げありがとうございます。2つで1万円丁度ですね」
(さよなら諭吉さん。これを買うなら貴方を失うことに悔いはない)
「あ、プレゼント用にラッピングお願いします。2つ別々に」
「かしこまりました。少々お待ちください」

などと内心で呟きながらレジに諭吉さんを差し出す。それと代わりに割とすぐにきれいにラッピングされた2つのアクセサリーが手渡された。さて、後は渡すタイミングだけど、どういうタイミングがいいのでせう?

とりあえず買った物を丁寧にポケットにしまう。

「お待たせ~。次どこ行く?」
「ん~、そうだ。私、久々に遊園地行きたい」
「っても、今から行ったんじゃそんなに遊べないぞ?」

時間はもう4時を回っている。ほかのとこへ行った方がより遊べるんじゃないだろうか。

「というよりも、あそこの観覧車から見る夕日が綺麗なのよ」
「…夕日を見るために遊園地へ。さすが、お嬢様は違うのですね…」
「なによ~。一緒に見ようって言ってるんじゃない」
「いや、わかってますよ?」
「わかってるなら最初から素直に言え!」
「おっとぉ!? ローキックは危ないのですことよ!? それに素直に言えとは貴女様にはあまり言われたくないような!?」

どっちもどっち。五十歩百歩だ。

「あたしはいいの!! 可愛いから!」
「こら待て自分で言うな」
「だってホントでしょ?」
「いやまぁ、確かに可愛いですけどね」
「当麻が可愛いって言ってくれるから、誰がなんて言おうと、私は私が可愛いって思えるの」
「…美琴は時々恥ずかしいことをさらりと言うよな…」
「当麻ほどじゃないけどね」
「うおぅ!? 聞こえてました!?」
「バッチリ」

と、バカップルがイチャイチャしながら店を出て行った。

(彼女(彼氏)欲しいなぁ)

本日の砂を吐いた人数。数知れず。これから超イチャイチャ気圧は遊園地へ
移動するでしょう。砂を吐く人数はこれからも増えるでしょう。

________________________________________


新年度が始まったばかりに加え平日の今日、当然と言うべきか人はそれほどいなかった。こんな感じならどのアトラクションもさして待たず乗れそうだ。しかし美琴の目は先ほどから観覧車に釘付けだ。よっぽどここからの夕日がお気に入りなのだろう。

(と、当麻と観覧車! 密室! 2人っきり! なんかあるかも!? ふにゃ~!?)
「お、おい?美琴?顔が真っ赤になっていくぞ?」
「ふにゃ!? にゃ、にゃんでもにゃい! 気にしにゃいで!」
(あ~、なんか考えてたな。猫化してる)

ふと思った。ここは遊園地。ここで猫耳をつけても大して目立たないのでは? いや待て、美琴は俺以外に見られたくないとうれしいことを言ってくれたから、観覧車までは何とか我慢しよう。うん。

「とはいえ、夕日まではまだ時間があるな」
「なんか乗る?それともどっかでお茶する?」
「今はお茶を飲んでまったりしたい気分でございます」
「じゃああそこに入ろっか。あそこ、結構コーヒーとか紅茶が美味しいのよ」
「お~。それじゃ楽しみだ」

美琴にリードされながら入った店は人もまばらで、しかしそれがあまり気にならない、こう言っては失礼だが遊園地には似合わない落ち着いた空気をしていた。

これならイチャイチャ被害にあう人も少なくて済むだろう。

しかし、夕日が見える時間まで結局2人の会話を聞かされていた店員たちと少ない客たちは砂を吐きまくっていた。2人がどんな会話で砂を吐かせたのか。それは聞いていた人たちしかわからない。

         ☆

今の時間は5時20分。今の季節だと日の入りは大体6時くらい。この観覧車は1周20分くらいなのだそうだ。大きさもさることながら、ここはわざとゆっくりと回っているらしい。今乗れば丁度よく夕日が見れるだろう。

「って美琴さん、やけに詳しいですね?」
「そう?」

と、ポーカーフェイスを気取っているが、いつか上条と見たくて実は調べていたことは秘密だ。

「ま、美琴と見られるなら何だっていいか」
「そうそう。可愛い彼女さんと見られることに感謝しなさい」
「ありがたや~ありがたや~」
「それなんか違う!!」
「*@□♯♪ζ~*@□♯♪ζ~」
「何語!?」
「どっかのテレビで流れたのをうろ覚えで言ってみました」

とか何とかやっていると、上条たちの順番が回ってきた。遊園地全体でみると空いているのに、ここの観覧車だけは人が多かった。結構人気があるのだろう。ここから見える夕日というのは。

「へえ~。中って結構広いのな」
「…だからって向かいに座らなくても…」
「ん?どした?」

と、わざと明らかに横のスペースを空けながら尋ねる上条に、美琴はちょっと恨めしい視線を返した。わざとだ。絶対わざとだ。こっちの反応見て楽しんでるんだ。

「はいはい、今そっち行きますよ」

笑顔を浮かべながら腰を上げ、上条は美琴の隣に座り大胆にも肩に手を回し抱きしめていた。

「にゃ!?」
「そんで、これをつけて…」
「にゃ? また猫耳?」
「そうそう。猫美琴の完成~。あ~、ほんっと可愛い」
「にゃ、にゃ~…」

そこから抱きしめたりと猫美琴で遊びまくる上条。本当に楽しそうだし、本当にイチャイチャしまくっている。

観覧車というのは外から見る分にはゆっくりと回っているが、乗ってみると結構速い。遅めに回っているというここも、それは同じだったみたいだ。とくに、カップルで乗ってればなんでも速く感じる。もう少しで頂上だった。

「お、見ろよ、美琴。綺麗だぞ」
「ふにゃ?…にゃ~!」
「こりゃ思ってたよりも綺麗だな」
「ふにゃ~!」
「って、すっかり猫化してるな、お前…」
「にゃ?」
「いや、まぁいいけどさ。それより、美琴」
「にゃふ?」
「これ、プレゼント」

上条がポケットから出したのは今日買ったアクセサリーの片方だった。同じラッピングをされたもう1つは上条がもっていた。

「開けてみ」
「…あ、これグリーンフローライトね。でも、T?なんでTなの?」
「んで、これ見てみ?」
「ん?…あ」

上条の首に掛かっているのは赤い色をしたロードナイトという宝石をあしらったMの形をしたネックレスだった。

「そういうことだ。俺はお前。お前は俺のイニシャルをっ,てな。でな、お前は知ってるかもしれないけどさ、この赤い宝石、優しさとか穏やかな心とか、愛とかの意味があるんだってさ。お前にぴったりだと思ってさ。優しいし、俺に穏やかな気持ちをくれるし、何より俺のこと好きでいてくれるしな」
「…っ」

泣きそうだった。あの時とは全然違う。うれしくて、うれしすぎて、涙が溢れ出てきそうだった。こんなに幸せな気持ちをくれる少年の方が、その言葉そのままだと美琴は思っていた。

でも、今美琴の手の中にあるグリーンフローライトという宝石。こちらもまた優しさを意味する宝石だが、本来込められている意味はそれではない。

自分の力で取り組んで最後までやり抜く力。希望や新しい始まり。これらを意味している。何ともこの少年にぴったりではないか。だれにも頼らないのが玉に瑕だが、目の前の少年はやりぬく力を確かに持っている。そして、いつも、新しい希望をくれる。

上条以上にこの宝石が似合う人はいないと、美琴は本気で思っていた。

「エイプリルフールの時さ、お前のこと泣かしちまっただろ?そのお詫びってわけじゃないんだけど、何かプレゼントしたくてな。で、白井に相談したんだよ」

その時にアクセサリーと聞いてから上条はいろいろネットで調べた。アクセサリーで一番付けやすいのはネックレスかイヤリングだろうと目星をつけ、まずはネックレスの方から調べた。

調べている最中、宝石のページに飛び何かの参考になるかと思い見ているときに、あのロードナイトという宝石を知った。そしてセブンスミストのあの店が取り扱っていることも知った。とぼけてはいたが、最初からあの店が目的だったのだ。

しかしそこでその宝石をあしらったイニシャル型のネックレスがあったのは本当に偶然だった。

感極まって夕日を見ていること忘れ、手元のネックレスに視線を奪われている美琴は気付かない。上条はおもむろに立ち上がり、美琴の正面に膝をついき、その手元のネックレスを手に取る。

「あの時ははっきり言わなかったから改めて今言うぞ。美琴。大好きだ。俺とずっと一緒に居てくれ」

ネックレスを美琴の首に付けながら改めて告白する上条。それに、薄く涙を浮かべながら笑いながら美琴が答えた。

「…………そんなの、決まってるじゃない。このバカ当麻」

頂点から降りたが、夕日が照らすゴンドラの中。二人の影が一つとなった。


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