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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/13スレ目ログ/13-406 - (2010/12/05 (日) 09:20:51) の編集履歴(バックアップ)
とある姫と勇者のRPG 1
上条と美琴、別々の場所で二人は同じ物を受け取っていた。中に何か書かれた手紙。二人は別の場所で同時に開いた。その中には―
『勇者』
『姫』
その単語だけが書かれていた。
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「………………不幸だ………………………」
不幸が代名詞の上条少年は生まれて初めての衝撃に意識や気力と言った物がみるみる減退していった。やる気なんてものは既にマイナスの領域だ。倦怠感が心身ともに隅々まで支配し、挙句の果てには心のどこかで死すら希求している気さえした。
笑いに笑った、それはもうここ何カ月か纏めて笑った感じさえしている一緒の部屋にいた白髪の少年は詫びの代わりにと彼なりに上条に発破をかけた。
「ハッハァ!中々愉快に素敵に似合ってるじゃねェか!三下ァ!アレですかァ?どこぞの髭オヤジがジャンプして助けに来てくれるの待ってるんですかァ?」
「んな助けいるかぁ!!上条さんは今傷心の身なの!少しは労わってくれても罰は当たらないですの事よ!?」
「オゥオゥ!元気に吠えるなァ!お姫様!!そんだけ元気ならねぎらう必要もねェだろ!!」
「とか何とか言って~。実は心配してたんだよね。あなたってツンデr」
「お前は黙ってろ」
「んー!んー!」
余計な事を言いかけた口を手で無理やり塞いで強制的に黙らせる。ともかく、何とか彼の発破は功を奏したようだ。上条らしさが戻ってきた。多分。
(大体励ますなンて俺に似合わないだろうが。というか、ホント何でこンな格好してンだ?)
彼、一方通行は改めて上条の格好を観察する。しかし目の前の光景は何も変わらない。正直、変わってほしかった。されどもちろん、その間も笑いを全力でこらえている。腹筋が痛い。
一言で言うなら某桃のお姫様。アレをさらに派手にしたドレスだった。一目でお姫様とすぐに連想されるような物で、ここまで来るとコスプレとしても少々引かれる感のあるほどに豪奢なドレスだ。
それを上条が着ていた。何故だ。ああ腹筋が痛い。
そして今度は自分たちの服装を見直す。
一方通行は悪者が着そうな赤と黒を基調としたデザインだった。打ち止めも一言で言えば魔女っ子だ。お互いゲームや漫画の登場人物ですか?と言われそうな服だが、この場においてはこれがある意味正装だ。
それでも上条の格好はないだろう。けれどやっぱり腹筋が痛い。
「うう…、何で上条さんがこんな恰好を…」
泣いてもいいよ。思わずそう言ってしまいそうな程に悲痛な声が上条の口から零れる。しれでも彼らは腹筋を押さえていた。呟きながら彼はこれまでの事を思い返していた。
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突然届いた身に覚えのない招待状に上条は戸惑っていた。何かに応募したわけもなければパーティーに招待される覚えもない。一体なんだこれは。
「宛先はちゃんと俺の名前になってるし…」
宛先はこの寮のこの部屋に住んでいる上条当麻となっていた。何だか開けるのも怖いので上条はここ10分ほどこの招待状とにらめっこをしていた。
そこに風呂からあがり、頬に朱が入ったインデックスがやってきた。ちなみに今は日曜の昼の少し前。昨日の夜、風呂に入らずに寝てしまい今入ってきたという訳だった。
「あー!届いてたんだぁ!」
と言いながら上条の手の中から招待状を毟るように取るインデックス。ベットにちょこんと座り封を開ける。
「おい、インデックス。なんだそれ?」
「これ?えーっとね、とうまの雑誌にあった『最新ゲーム無料体験』っていう奴に応募してみたんだよ」
あー、確かにそんなページがあった。懸賞とか応募とか、その類に当たった試しが一度たりともないので今の今まで忘れていた。確か、抽選で400人200組が選ばれるらしい。っていうかゲームに興味あったんかい。
「ってぇと、それが当たったのか?」
「そうなんだよ!」
「…………マジでか!?」
「本当なんだよ」
「ペアってことは…?」
「もちろんとうまなんだよ」
「本当に…?」
「少ししつこいかも」
もう一度改めてインデックスに確認する。返ってくる答えは聞き間違いではなかった。
どうしよう。なんか、赤点を取らなかった事よりも補習がない事よりも嬉しい。
懸賞とかそういうの一度どころか掠りもしない上条少年。それが例え応募者はインデックスでも自分の名前で当たるのはとっても嬉しい。
そして少し気を落ち着けて上条はインデックスに招待状の中身を確認する。
「えーとね、これならとうまの方が分かりやすいかも。はい」
「どれどれ…?あー、これならあん時の地下街じゃん」
「あの時って?」
「ほら、風斬と一緒に行った時の。あそこの新しいゲーセンでやるみたいだな」
「おお!またあの地下世界に行けるんだね!」
どうもインデックスは学園都市の地下を別世界と認識している節がある。上条はよく知らないが、実際学園都市においても、これは未来世界の何かだろうと言われている学区もあるらしい。そんなとこにインデックスを連れて行ったらどうなる事やら。
「って、これ今日じゃねぇか!?」
招待状に書かれている時間は2時。今は12時になるかならないか。時間に余裕がない。上条は遊びに行く時は1時間前に着く事を目標としている。地味な不幸の連発で時間の大幅なロスがあるからだ。
「インデックス!今すぐ用意しろ!!」
「ふえ?」
どたばたとイベントへの準備を始める上条家。ちなみに招待券は本来なら一週間前に届いていたが、手違いで今日になっていたのだった。
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それで来てみれば何故か自分はこんな恰好をしていた。
今日のイベントでの最新ゲームというのは一言で言うとバーチャルゲームだ。こと学園都市においては珍しい技術ではない。実際にいろんな所で運用されている。それを最新と言うのにはもちろん理由があった。
よくアニメなどであるだろう。意識だけを『仮想世界(バーチャル)』の世界を飛ばしてその世界を冒険したり楽しんだりする物が。学園都市はそれを現実世界に引っ張ってきたのだ。
何のために作られたのかはわからないが―まぁ学園都市の娯楽品の大半がそうだが―、より多くの人目に着くようゲーセンに配置したという事だ。今回はその試験運用。体験できる世界も在り来たりなRPG一つだけ。
アクションゲームとかの方が再現するのが簡単そうだが、RPGを忠実に再現すると今あるゲームの大半が再現できるらしい。戦闘(アクション)、ダンジョン(謎解き)、乗り物(レーシング)など。
総勢400名と大人数がその場にいると思っていたが実際にいたのは80名ほど。どうやら何日かに分けて行うらしい。上条たちはその初日に当たったようだった。
その場に揃ったメンツに相当驚いたが、それでも上条はこのゲームを話に聞いただけで楽しみにしていた。さっそくカプセル状の物に入りゲーム世界を堪能しようと目を閉じた。
それで目を開ければ見知らぬ石造りのやたら広い部屋の中。縦長の窓から見える景色はいかにもラスボスがいそうな背景効果の塊だった。ぐるりと部屋の中を見渡せばでっかい扉から一直線に通じる豪華な玉座。玉座に座る見覚えのある白髪の少年、一方通行。隣に美琴そっくりの小さい少女がいる。場面と場所的になんか一方通行がラスボスっぽい。
(ちょっ!?いきなりラスボスか!?)
と思ったのもつかの間。現実は余りに残酷だった。ぶっちゃけいきなりラスボス戦の方が良かったくらいに。
一体誰が想像するだろうか。誰から見ても男でその手の趣味の欠片も見いだせない少年がコスプレ会場においても引かれるほどに豪奢なピンクのドレスを着ているなど。
そして上条は素晴らしいほどに「orz」という形を忠実に再現していた。
一方通行と打ち止めの爆笑をBGMに上条はしくしくと泣いていた。
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上条の知り合いで同じ日に同じイベントに参加している人は他にも何人かいた。その一人である御坂美琴は少しドキドキしていた。
上条当麻が見えるところにいる。理由はわからない。それだけで普段緊張しない自分が緊張している。顔もほのかに暖かい。赤くなっているかもしれない。顔にも出ているかもしれない。それでも美琴は全力で内に留めておいた。
「お姉さま?少し電磁場が乱れてませんか?と、ミサカはお姉さまの感情の高ぶりを気にします」
「ふぇ!?だだ大丈夫よ!問題ないから!」
「大方こんな想像をしていたんでしょう。と、ミサカはお姉さまの想像を想像してみます」
在り来たりなRPGであること、この場にいる人物からこんなもんだろうと当りをつけ、御坂妹はちょっと強引に電磁波を通じて美琴に自分の想像した映像を送りつける。
―以下御坂妹による美琴の妄想の再現―
『美琴に…!!触るなぁーーー!!!!』
全てを圧倒する怒号と共に上条の右腕が一方通行の顔面に突き刺さり数メートルほど吹っ飛ばす。吹っ飛んだ一方通行の体はその勢いのまま玉座にぶつかり、背もたれを真っ二つに折りその場に崩れ落ちる。
満身創痍。死なないのがおかしい傷を負いながらもそれでも上条は倒れない。まだやる事がある。そう言わんばかりに、倒れそうな足には力がこもり、閉じそうな瞼の内側にある瞳には力が宿っている。
一歩、確実にその一歩を重ねていき上条は一方通行の傍らにいた少女へ歩み寄っていく。
駆け寄りたい。今すぐにでも駆け寄って支えてあげたい。それでもなぜか少女は出来なかった。もしかしたら、その少年の意地を尊重したかったのかもしれない。他にも何かあったのかもしれない。しかし少女は涙を浮かべながらその場で待っていた。
永遠とも感じられる時間、実際にはとても短い時間なのかもしれない。けれど今まで一番永い時間を感じた。ようやく上条が最後の一歩を踏みこみ、美琴の前に傷だらけの体と疲労しきった心で、それでも笑顔で言ってくれた。
『へへ、遅くなったけど…、助けにきた、ぞ。美琴…』
『…ばか…』
『馬鹿とは、失敬だ、な。命がけ、で助けに来たっ、てのに…』
乱れている呼吸が定まらず上条の言葉も途切れ途切れになる。
わかってる。そんなことはわかってる。言いたい事はそれじゃない。もっと言いたい事があるはずだ。だと言うのに、それが素直に出てきてくれない。今ほど素直になれない自分の性格が恨めしいと思った事はない。
山ほどある言いたい事、万感の思いを込めたたった一言を、至宝を扱う丁寧さでもまだ足りない丁寧さで、愛を誓うよりもまだ足りない誓いを込め、絆の深さよりもまだ足りない深さで、たった一言を言った。
『ありがとう、当麻』
少年はまぶしい笑顔を返すだけだった。
―以上で御坂妹による美琴の妄想劇場終幕―
「ま、くさ過ぎるでしょうけどあの人ならこの位はやるでしょう。と、ミサカは茹でダコなお姉さまを観察します」
美琴の意識はどっかに飛んでいた。最初の上条の叫びがよほど来たらしい―何が来たのかは知らないが―。そこでいきなり顔面を真っ赤にして、徐々に顔の表情筋がゆるくなり、今では擬音で言うと『にへらー』みたいな顔になっている。
「よー、御坂に御坂妹じゃないか。お前たちも来てたのか」
「あなたが来ている事の方がびっくりです。と、ミサカは突然声をかけられて驚きます」
「悪い悪い。ところで、御坂、どうかしたのか?顔が真っ赤だぞ?」
「ふにゃ!?にゃにゃにゃにゃんでもにゃいわよ!?」
(にゃ?)
ただでさえ赤い顔がさらに赤くなり爆発するんではないかと不可思議な心配をする上条。あとなんか急に猫っぽくなったのも気になった。
「気にしなくても大丈夫です。ゲームが楽しみなだけらしいです。と、ミサカはお姉さまに代わり答えます」
「へー、お前もそう言うところあるんだなー」
「それより、そろそろ時間ですよ。と、向こうでシスターが手を振っているのを教えます」
「お、そうだな。じゃまたゲームでな」
インデックスの方に戻り彼女の隣のカプセルの中に収まる上条を見てから、御坂妹は隣を見る。まだ半分以上どっか行ってるようだった。よくありそうな妄想でこんな風に旅立てるとはまだまだ子供だなと、御坂妹はどこか達観していた。
直後、たら~と鼻から赤い物が流れた。
「うお、まさか鼻血が出るとは…。と、ミサカは自分も興奮していた事を今知りました」
ついでに言うと、好きな人やHなシーンで鼻血を出すことは現実ではまずないが『絶対ない』と言う訳ではない。瞬間的な興奮から鼻血を出す事も極々稀にだがある。それでもまだ『絶対ない』と言う方に近いほどに稀だが。
鼻血をふき取り、御坂妹は姉をカプセルに押し込み自分もその隣のカプセルに収まる。入ると無害の催眠ガスが流れ込み二人をすぐに眠りに誘った。
次に目を覚ますとなんかコメントのしにくい格好をした姉がいた。
鎧、なのだろう。ゲームにありがちな防御力皆無そうな鎧―必要最低限あるかも怪しく、へそ出しでなんでかスカート―と触った事もないだろう西洋風の剣と楯に身を包んだ姉がいた。
そして少し慌てて自分の格好を確認する。
幸いにして自分は違う格好だった。一言で言うなら魔法使い。とんがり帽子を被り長いコート―ローブ?―に体を覆われ、露出らしい露出は顔と手先くらいだった。その手には自分の身長よりも少し長い槍にも使えそうな杖だった。
「コスプレ趣味に目覚めないでくださいねお姉さま。と、ミサカは仄かに危惧を抱きます」
「そんなのに目覚めないわよ!!すっごい恥ずかしいんだからこの格好!」
まぁそれもそうだろう。コスプレしているようなものなんだから。幸いにして短パンは履いたままだった―何故か―が、それでもこの格好は恥ずかしすぎる。
「それにしてもお姉さまの格好は何なんですかね?ぱっと見戦士だと思いますけど。と、ミサカはお姉さまの格好を確認します」
「ちょっ!!そんな見るなっ!」
「もしかしてアレですか?雷系の魔法を使えるのは勇者だけとかいう設定そのままにもしかしてお姉さまが勇者とか?と、ミサカは少々時代を感じます」
時代を感じるってお前は何歳だと突っ込みたい。そしてそんな事を言うならお前も勇者だ。
なんとお決まりの設定だろう。むしろ、既にその設定は死んでいるんではないだろうか。と、美琴の役が地味に気になるところに何の脈絡もなく上から手紙が落ちてきた。
美琴はもちろん、御坂妹にも周りの人たちにも落ちてきていた。中を開くと一言書かれていた。
勇者。と。
「ずいぶん古い設定が好きなんですね、このゲーム作った人は。と、ミサカはこの制作者の年齢を推測します」
そう言う御坂妹の手紙には案の定、魔法使いと書かれていた。
「てっきりあの人が勇者だと思っていたんですがこれは意外です。と、ミサカはあの人の役がとても気になります」
「それは私も思った」
ド派手なドレスを着たお姫様役です。と言う事は彼女たちはもちろん知らない。
「まいいや。少し歩きましょ」
「もうその格好に慣れたんですか、さすがですお姉さま。と、ミサカはお姉さまにコスプレ趣味が目覚め始めているんではないかと心配します」
「目覚めてないわよ!!」
全く。と言いながら美琴は妹を引き連れ近くに見える街へ歩を進めた。
(はぁー…。本当に黒子じゃなくてよかった…)
本当にそう思った。今の格好を見たら間違いなく暴走する。いや、暴走で済めばいいだろうと言う気さえしてくる。こうなると今隣にいるのが妹でよかったと思う。
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時間は少しさかのぼりイベント当日のお昼頃。
一週間前から楽しみにしていた事がついにやってきて美琴は朝からご機嫌だった。
「ふんふんふん♪ふんふんふん♪ふんふんふーん♪」
「あら?お姉さま。何だか機嫌がいいですわね。何かあったんですの?」
常盤台寮の一室、美琴は機嫌よさそうに身だしなみを整えていた。休みだろうが何だろうが問答無用で制服の常盤台だが、それでもちょっとは小細工している。たとえばネックレスを隠してしている人もいたし、長い髪でイヤリングを隠している人もいた。そして美琴はほのかに香る程度に香水をつけていた。
「待ちに待ったこの日が来たのよ!」
「まぁ!ついに黒子の愛を受け入れてくださるんですね!?黒子感激ですのーー!!」
「だあぁーっ!飛びかかってくんな!!」
「お゛ぅふ!?」
「ったく…」
黒子をちょっと焦がし、美琴はポケットから招待状を取り出し確認する。新しいゲーセンで新作ゲームの無料体験の招待券だ。ゲーム好きの美琴先生としては外せないイベントだ。
(それに、あの子も少しは楽しまないとね~)
この招待券はペアチケットだ。最初は黒子を誘おうとしたがその日は風紀委員の仕事があるんだと血涙を流していた。当然初春も風紀委員の仕事だ。ならば佐天はと思い誘うも、土日は久々に家族がこちらに来るらしいのでこれもやめた。
誰を誘おうかと街をぶらぶらしているところに丁度よく妹が通りかかった。
『その日ですか?確かに暇ですが。と、ミサカはよくわからずに首をかしげます』
『ちょっとしたイベントがあんのよ』
『イベント、ですか。それならあの人を誘えばいいのでは?と、ミサカはお節介をかけてみます』
『なななんなんでアイツを誘わないといけないのよっ!?』
『おや?ミサカは「あの人」と言っただけですが?と、ミサカはにやにやしながら少し意地悪してみます』
『ぐっ…。アンタ性格悪くなったわね…』
『子は親に似ると言う話を聞いた事があります。と、ミサカはさらに意地悪してみます』
『いや、その関係は何かおかしくない?』
(全く、優しいお姉さまの気持ちがわからないのかしら、あの子は。それにあの子に言われなくても…)
―以下妄想―
『ちょろっとー』
『げっ、ビリビリ!』
『ビリビ…っ(落ち着け私…ふー…)』
『なんだ?どした?』
『わわわっ!?顔が近い!!』
『お、わりぃわりぃ』
『あっ…(もうちょっと……って違う!!)』
『今度は急に頭振ってどうしたよ?』
『き気にするなっ!それより!今度の日曜暇!?』
『なっ、なんだよ、その果たし合いでも申し込む勢いは…』
『いいから!暇なの!?暇じゃないの!?』
『今日のお前なんかおかしいぞ?まぁ、暇だけどよ』
『(やったぁ!)じゃ、じゃあその日ちょっと付き合いなさいよ』
『やだ』
『なっ!?なんでよ!?』
『だってまた勝負だろー?上条さんいい加減めんどくさいです』
『違うわよ!!電撃ぶちこむわよ!?』
『だあぁー!ちょっと待て!!じゃあ何なんだよ!?』
『こ、これよ!』
『ん?あー、これってあの新しいゲーセンの招待券だろ?すっげーな。当たるなんて。あ、でもこれペアだろ?誰と行くんだ?』
『(鈍いわね…!)…アンタ…』
『ん?悪い、聞こえなかった』
『だからぁ!これに付き合えって言ってるの!!』
『へー…。俺にねぇ。…マジですか!?』
『マジよ!!いいから!詳しい事決めたいから電話の番号教えなさいよ!』
―妄想終了―
(ってなるんだk………うわぁ!?違う違う!!こんなんじゃないっ)
妄想にはまりだし次第に電気が外に漏れ始める美琴。
(で、でも、アイツのアドレスとか知りたいなぁ……………いい!知らなくていい!!で、でも…!)
「おっお姉…あう゛!?…さまっ。電気が漏…おふ!?…れて…ますのっ!あ゛ぁう゛ふ!?」
レアからウェルダンへ徐々に進化していく黒子の焼き加減。今はミディアム辺りかその少し手前か。どちらにせよ黒子ステーキが出来るまであまり時間はかからないかもしれない。
バチバチと無意識に黒子を焼いている最中、美琴のスカートのポケットからカエルの鳴き声が響いた。電気使いの彼女の持つ携帯は帯電装備はバッチリだ。雷の直撃を受けても平気というキャッチコピーもある。
「あっヤバ。遅れちゃう!じゃあ言ってくるね黒子!」
部屋の惨事も確かめず一目散に部屋から出ていく。残ったのはウェルダンになりかけた黒子だけだった。
「く…癖になり‥ますの…。あぁ…もっと……してくださいましぃ…」
…。
美琴がいたらきっとこういったに違いない。
真っ黒焦げになってしまえ。
ちなみにこの後、能力使用を察知した寮監により連帯責任の名の元、黒子は首を刈られた。
合掌。
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心行くまで笑い、十分満足した一方通行は玉座に座っていた。打ち止めはその隣にある少し派手さを抑えた椅子に座っていた。
「つーかよォ。ホント何でこンな事になってんだ?」
一方通行の役は魔王。ラスボスだ。狙い澄ましたかのようにぴったりな役柄だ。ちなみに打ち止めは魔王の使い魔のポジションだ。こちらもまぁ、あってはいる。
彼が気になっているのは上条の格好だ。何がどうなってあの服が宛がわれたのかわからない。囚われている役をさせるなら何もお姫様でなくてもいいではないか。囚われの王子様、と言うのも変な感じがするが今の格好の万倍はマシだろう。まぁ、十分に笑わせてもらったが。
「ねーねー!暇だよ~!ってミサカはミサカはバタバタしてみたり」
「うっせェな!ちったァ静かにしてやがれ!」
「そうは言っても暇なものは暇なんだよー!ってミサカはミサカは暇さを猛烈アピール!」
彼らが今いるのは無意味に広い石造りの部屋。多分、RPGのラストダンジョンの最後の部屋だろう。ゲームのダンジョンと言うのは例え城であっても生活感とかそういうのは全てどっかに放り投げたものだ。やっている最中は気にも留めないが、実際その中に入ると「あいつらどうやって生活してンだ?」と思う。
気になったので打ち止めを引き連れ中をいろいろ歩き回ったが、空っぽな部屋と迷路の如くやたら長い廊下と不必要としか思えないオブジェの数々。そこのボスだから見えるのだろう、いくつか罠もあった。まさしくダンジョンだった。
迷いはしなかったが来た道を戻るのが面倒だったので壁をぶち抜いて戻ろうとするも、壊した直後に壁が直る。時間にして1秒足らず。どうやらこういう『反則』は出来ない仕組みらしい。
そして壁をぶち抜いて気付いた事が一つ。歩くことや喋る事は元より、能力使用に何の制限もなかった。どうやらこの『仮想世界』においては自分はあの日以前の状態らしい。
仕方なく来た道を戻る。その往復の中、人の姿は見なかった。どうやら本当に無人のようだ。
部屋に戻ってくると上条は窓の縁に座り、何かを悟った爽やかな笑みを浮かべて外の景色を眺めていた。
「案外つまんないもんだねー。ってミサカはミサカは少しがっかりしてみたり」
「ああ、全くだァ」
戻ってくる途中、書斎らしい部屋があったのでそこから本を数冊引っ張ってきた。マンガからよくわからない論文まで何でもそろっていた。ホントにゲームか?
とにかくそのおかげで暇はつぶせそうだが、それよりも何よりもコーヒーが飲めないのが一番つらい。最低一日五本だ。飲まないと落ち着かない。
「あァ、クソッ。コーヒーが飲みてェがこンなとこじゃあるわけねェしな」
黄泉川の野郎、メンドクセェ事押しつけやがって。
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「一方通行ー?いるじゃんかー?」
「あァ?ンだよ、黄泉川」
「あたしの代わりに明日この子とコレに行って欲しいじゃん」
「メンドイ」
「イエーイ。いつか以来の即答速攻大否定♪そんなこと言わず行こうよー。ねーねー。ってミサカはミサカはすごく楽しみにしている事を全身で猛アピール」
現在、諸事情により一方通行と打ち止めは黄泉川という教師の世話になっていた。常にジャージを着ているこの巨乳教師、周りから「残念美人」という称号をつけられているらしい。
それはともかく、明日あるイベントは本来は黄泉川と打ち止めが行く予定だったが警備員も務めている黄泉川に、緊急の集会があると連絡が入りそれが出来なくなってしまった。そこで一方通行に白羽の矢が立ったのだが、当然彼がそんな物に行くはずがなかった。
「ンな物俺に頼まなくてもいいだろうが」
「あなたと行きたいんだよ!ってミサカはミサカは大胆発言してみたり!キャッ」
「うぜェなこのガキ」
「ま、よろしく頼むじゃん。じゃ、あたしは夕食の買い物に行ってくるじゃんよー。大人しく待ってるじゃーん」
「じゃンじゃンうっせェ!!後、押しつけンな!!」
「イエーイ。やったぁ!一緒に行ってくれるんだね!ってミサカはミサカは小躍りしてみる!」
「踊んじゃねェ!鬱陶しい!!誰も行くなンて言ってねェだろうがァ!!」
「えー…、行ってくれないのぉ…?ってミサカはミサカはがっくりって涙目になっちゃう…」
「~~~~~!!!!!………だァクソ!!行ってやるよ!行きゃァいいンだろうが!!」
「やったー!!嘘泣き作戦大成功!!ってミサカはミサカは自分の演技力に惚れぼれしてみたり!」
「嘘泣きだァ!?ふざけンな!!今の話は無しだ!!」
と、一方通行が怒鳴りそっぽを向けたところに何かスイッチが入る音が聞こえた。その直後、聞かない日はない声を聞いた。
『~~~~~!!!!!………だァクソ!!行ってやるよ!行きゃァいいンだろうが!!』
紛れもなく自分の声だった。驚き声のした方を向くとボイスレコーダーを持った出かけたはずの黄泉川がいた。
「あれあれ~?学園都市の第一位様は子供に嘘をついちゃう奴だったじゃんか~?」
「黄泉川の言ったとおり大成功だね!ってミサカはミサカは黄泉川とハイタッチ!」
「だから言ったじゃん?一方通行は案外押しに弱いんじゃんって」
キャッキャッと楽しそうにはしゃいでいる打ち止めと残念美人を睨みつけ、体は小刻みに震え、ギリッという音が一方通行の口から聞こえる。そして万感の思いこめ小さく呟いた。
「………こういう時は不幸って言えばいいンだっけかァ?……………」
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『仮想世界』にあるとある教会の中。インデックスは服装の一切の変更もなく居た。周りには誰も居ない。さっきまで隣にいたはずの上条も居ない。
「とうまー?どこー?」
声を出すも返事はない。並んでいる椅子の間を一列ずつ確かめているがそこにもいない。どうしようと沈んでいるところに教会の音がぎぎぎと音を立てゆっくり開いた。
「とうま!?」
開いた扉から見えた姿は確かに知り合いであるがしかし上条の姿ではなかった。それでも一人ぼっちだった事に比べれば何倍も心強い。
少々目に着く衣裳ではあるが、彼女を知っている人たちから見れば何の違和感のない衣装だ。巫女服に身を包んだ姫神秋沙が魔法のステッキ(自称)片手に立っていた。まぁ、今回ばかりはステッキというか、穂先が十字の形をした槍だが。というかどんなミスマッチだ。戦う巫女さんにでもなるつもりか。
「あいさー!あいさも参加してたんだー」
「実は一番最初に会場入り。でも。誰も気付かなかった」
「そうですよー。みんな私たちをスルーしていくんだから失礼なのですよー」
「こもえも居たんだー」
子萌先生も姫神の後からひょこという擬音と共に顔を出した。こちらも姫神と同じく何故か巫女さんの格好をしていた。こちらは他に装飾品らしい物も持っていない。何も知らない人が見ると、巫女さんの『姉妹』に見える事だろう。片方槍持ってるが。
というかこのゲームの世界観がさっぱりわからない。
「聞いた話によると。プレイヤーの衣裳と役柄はランダムで決まるらしい」
「先生は着た事ない服を着れて少し嬉しいですー」
「コスプレ趣味?」
「違います!!」
「こすぷれーって何?」
このゲームの世界観そのものは中世ヨーロッパをゲーム風にアレンジした物をモチーフにしたものだ。また、役によっては女性物の服に当たってしまう男性やその逆になってしまう事がある。その時はちゃんとそのプレイヤーの性別の服装に代わる。
例えば、シスター役に男性が当たった場合は服装は神父服に代わりまた役も神父になると言った具合だ。が、とくに役を宛がわれなかった場合はコンピュータが記憶している服装がランダムに宛がわれた。
「あ、そうだ。あいさにこもえ。とうま知らない?」
「知らない。隣にはいなかったの?」
「このゲーム、隣のカプセルに入った人はすぐ隣にいる事が多いみたいですよ~?」
「で、でもとうまがいないんだよー!?」
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その頃の現実は混乱していた。
開発者やら関係者がゲームシステムのチェックに右往左往していた。
「おい!原因はわかったか!?」
「システムそのものに不備はありませんよ!?」
「一から洗いましたけど、バグも外部からの侵入もありません…」
「じゃああの少年と役は一体何だ!?」
責任者と思しき男性が指さした画面には何かを悟った顔をした少年がいた。煌びやかなドピンクのドレスに身を包んで。
これを見た瞬間、彼らはこのゲームのシステムをすべて見直した。直接脳に干渉する機械だ。万が一ということもある。しかし全てを徹底的に見直しても何もおかしなところはない。あの少年の状況を含めてもなお正常に働いていた。
「全く、今はまだ何も異常がないからいいが気は抜けんなこれは…」
「ですね。一応病院などに連絡は入れておきました。万が一ということもありますから」
子供たちに楽しんでもらおうと思ったゲーム体験は一変し、責任者たちにとっては気の休まることのない時間になってしまった。せめてもの救いと言えば、体験している子供たちが一名を除いて楽しんでいる事だった。
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窓のないビルの一室。
巨大なビーカーの中に漂う、誰にでも見えて誰にでも見えない人物、学園都市を束ねる男、アレイスター・クロウリーは目の前に映し出されている映像を面白そうに見ていた。
「おい、アレイスター」
「なにかね?」
用事ついでにその映像を一緒に見ることになった土御門は、腹筋に全力を注ぎ笑うのをこらえていた。今にも笑いだしそうでその声は震えている。
「これは、お前の仕業だな…?」
「こういうシチュエーションも面白かろう?勇者と姫の逆転。『姫』の方の衣裳を変え忘れたがね」
「…間違いなくわざとだろう」
そう、犯人はアレイスターだった。学園都市全体に張り巡らせた彼専用の回線でゲームに直接干渉し、上条の役を弄っていた。ついでに他も進行に支障のないように弄っておいた。
本来は上条が勇者で美琴が姫役だったのだが、アレイスターは気紛れで逆転させていた。もちろん、気紛れであるからして衣裳を変え忘れたというのも嘘だ。わざと本来の倍は派手な衣装を与えた。
「それより、用事というのは何かね?」
「ぷッ…ああ、そうだな、クッ…アハハ!!ダメだカミやんが面白過ぎる!!」
ついに我慢の限界を超え土御門は腹を押さえビーカーを叩き爆笑していた。事情を知っていればこれほど愉快な物はない。
「ハァハァ…。すまん、取り乱した。……ククク…」
「構わんよ。それより、その紙が用事かね?」
「ああ、そうだ…。……プッ。ダメだ!やっぱり笑っちまう!!アハハハハハ!!」
このネタで上条で一カ月は遊べる。いいネタを仕入れたと土御門は内心思っていた。
腹を抱えて笑っている土御門とは対照的にアレイスターはそれはそれは深刻そうに呟いた。その紙に書かれているのは彼がパトロンとなっている会社の売れ行きを示していた。
「…………ゲコ太の売れ行き、落ちているな………………」
…………………………………………………………………………………………………………。
学園都市は今日も平和です。