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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/16スレ目短編/807 - (2011/05/15 (日) 10:32:36) の編集履歴(バックアップ)


スレチガイ



「つっかれたぁ………」

 本日も小萌先生の愛ある補習を終えた上条。
 色んな事情が重なり溜りに溜っていた補習を今日一日で片付けるという、超強行軍により疲労困憊もいい所だ。
 おかげで折角の土日の休みも明日の日曜だけにになってしまった。

「うへぇ……、もう真っ暗じゃねぇか……」

 呟きカバン片手に項垂れるその姿は、普段の不幸のせいも相まって中学生にして何処となく哀愁漂う背中となっていた。
 補習を終え、その疲れ切った体で夕食を自炊する気にはなれず、ファミレスで食事を済ませた頃には外はすっかり真っ暗だ
 休日を朝から丸々1日勉強に使いつくすという不幸を骨身の髄まで味わっていた上条は油断していた。今日はもう不幸は無いと。

「……………………………」

 しかし、少年にとって不幸とはこの上なく身近な物である事は、もはやある種の摂理と言えるだろう。
 現に、目の前に『ソレ』があるのだから。
 目を疑う。目の前の光景はいくらなんでも目を疑う。
 目の前ではビリビリ姉ちゃんが道のど真ん中で倒れていた。そしてその隣ではビリビリ姉ちゃんそっくりな人が「み、美琴ちゃーん!? こんな所で寝ないでちょうだーい!?」と慌てふためいていた。

「お、そこを行くのは当麻君! いい所に現れた! ちょっと手伝って!」
「…………………何してんの美鈴さん…………」

 以前、ちょっとした事で面識を持ったビリビリ姉ちゃんそっくりの美鈴さん。
 唯でさえ疲れている上条はさらにげんなりした様子でとりあえず尋ねる。

「いやぁ、美琴ちゃんにちょっとお酒飲ませたら酔っ払っちゃって……」
「アンタ娘に何させてんの!?」
「久しぶりに会ったからつい♪」
「つい♪ じゃねぇ!」
「って事で任せた少年! 私もう帰らないと!」
「ってちょっと!? おーい!?」

 脱兎の如くその場から離脱する美鈴の背に叫ぶが、さも当然のように見向きもせずタクシーを捕まえてどっかへ行ってしまう。
 残ったのはこれ以上ないほどげっそりした上条と、酒のせいで顔を真っ赤にして上条に抱きつきながら「うへへへ……」とにやけている美琴。

「どうすんだよ、コレ……」

 抱きつかれながら『コレ』をどうしようかと途方にくれる。
 普段なら心ときめくイベントなのだろうが、この状況でも同じ反応が出来る訳無かった。

「ビリビリ姉ちゃんの寮の場所なんか知らないし、空間移動の姉ちゃん呼ぼうものなら俺が殺されそうだし。………………詰んでない? コレ」

 他に何か無いかと元々無い上に使いきった頭をさらにフル稼働させるも、何も思い浮かばない。
 ガシガシと乱暴に頭をかいてる所に、ようやく美琴が行動を開始した。

「こらぁ、らきんちょ~」
「呂律が回ってないし酒臭い……。美鈴さん、ホント何してんだよ……」
「わらしのことはぁ! おねえちゃんとよべといっられしょうがぁ!」
「あーはいはい、わかったよお姉ちゃん」
「んふふー、よろしいー♪」

 と今度は上機嫌になって頬を擦り寄せてくる。
 酔っ払いは好きにさせておくのが結果的に被害が少ない。以前、美鈴さんで美琴と一緒にそれを思い知った上条だった。

「それはともかく、お姉ちゃん? 帰れる?」
「おー、かえれるぞー」
「すんごいフラフラしてるんですけど……。って、あれ?」

 千鳥足ながらも歩いている美琴が進んでいる方角は上条の寮の方向。
 酔っ払いは何をするか分からない。何となく嫌な予感がしつつ尋ねる。

「お、お姉ちゃん?」
「んー? らによー」
「お、お姉ちゃんの寮もそっちなの……?」
「あぁにいってるのよ~。アンタのりょーにかえるんでしょうが~」
「……………………………………………………はぁ」

 やっぱりなー、そんな気がしてたんだーあははー。とすっかり投げやりな上条少年。
 その間も美琴はフラフラと、しかし確かに上条の寮の方へと歩いている。

「にゃ!?」

 その途中、まるでギャグの如く電柱に正面衝突し、美琴は尻もちを付いて倒れた。

「あによー! でんちゅうのくせにー!」

 酔っ払いとは何故かくもこんなに面倒なものなんだろうか。
 電柱にまで喧嘩を売り始めた美琴にため息しか出ない。
 疲れ切った表情のまま、彼女に歩み寄り傍らにしゃがみ込む。

「お姉ちゃん、大丈夫?」
「だぁめー」
「どっか捻った? ちょっと見せて?」
「だめだからぁ、だっこして?」
「んー、どこも捻ったようには…………は?」
「だっこ♪」

 突然の要求に上条が固まる。
 無邪気な顔で手を広げて抱っこを要求してくるビリビリ姉ちゃん。
 普段の雰囲気や威厳と言った物が微塵も感じられない。
 固まっている上条に何を思ったのか、酔っ払いは酔っ払いなりに訂正した。

「じゃあ、おんぶして♪」

 そういう事じゃない。

「おーんーぶー! しーてー!」
「どわぁ!?」

 ついにはだだをこね始め、上条の背後からのしかかり彼を押しつぶす。
 不意の衝撃に為す術なく、あっさりと押しつぶされる上条だが、その上では、

「いえーい! みことちゃんのかちー! さぁおんぶするのだー!」

 と勝手に騒いでいた。
 押しつぶされた体勢のまま、上条は自分の思考がひどく短絡的になっている事を自覚していた。
 と言うと小難しく聞こえるが、要は腹を括った。

「……、はぁ。わかったから。おんぶするからまずどいて」
「やったぁー♪」

 思いのほか素直に上条の上からどく美琴。
 服に付いた汚れを払い落してから、上条は美琴の前にしゃがみ込む。今度はおんぶをするために。

「ほら、おんぶするから」
「いえーい♪ ガキンチョだいすきー♪」
「っ!? ……、い、いいから立つぞ!」

 相手は酔っ払い相手は酔っ払い。自分にそう言い聞かせて逸る鼓動を押さながら立ち上がる。
 少しはドキッとしたが、所詮は酔っ払いの戯言。何も意味はない。
 しかし気のせいか、顔が凄く熱い。

「おー! めせんがひくいー!」
「余計な御世話だわ!」

 失礼な事を言う酔っ払いに怒鳴り返すが、思うにこの状況はすごいんではないだろうか。

(か、顔が近いって姉ちゃん!!)

 美琴は上条の肩に顔を乗せて「んふふー♪」ととても上機嫌だった。
 さっきは頬を擦り寄せられていたというのに、何故か今はとても気になり、視線が奪われる。
 上気し赤く染まっている頬。眠そうにまどろんでいる顔。
 そして思わず目が行ってしまう。

(綺麗な唇だなぁ…………)

 まるでCMか何かの唇を生で見ているようだ。見ただけで相当な弾力が伺える潤った唇。
 前を注意しつつも、どうしてもそれに意識を取られてしまう。
 無意識に顔が近付いて行く。
 ついに動いていた足が止まり、往来の真ん中にいるとい事も忘れ上条は美琴の唇に意識を支配される。
 ただ、その唇の感触を知りたい。確かめたい。
 少年の頭は徐々にそれに支配されていった。

(触ったら気持ちいいのかな……)

 相手の息遣いが感じられる距離。
 酔っているからだろう。些か荒い呼吸を肌に感じる。向こうも上条の呼吸を肌に感じくすぐったそうにしている。
 二人の鼻の頭が擦れるようにぶつかり交わり、二人の距離はより無くなっていく。
 一ミリ。また一ミリと僅かだが確かに無くなっていく隙間。
 まるで熱病にうなされているかの様に熱くなっていく上条。苦しそうであり、けれどどこか充足感にも似た表情を見せる。
 風が吹いただけで埋りそうな程しかない隙間。しかし、だというのにその隙間がまるで決定的な溝だとでも言う様に、何故かそれ以上狭める事が出来ない。

(な、何でかな……。これ以上いったら、なんか、ダメになる気がする……)

 確かめたい。美琴の唇の感触を確かめたい一心だのに、何故か自分の中の何かがそれを拒む。
 己の中の欲求と感情がせめぎ合い、僅か1ミリしかないその溝を飛び越える事が出来ずにいた。

「くしゅんっ」
「っ!?」

 突然のくしゃみだったが、寸での所で美琴の鼻がむずむずいっているのに気付き、互いの唇が触れる事は無かった。
 それで急に我に帰り、ハッとして美琴から顔を離す。

(何やってんだ俺……。相手は酔っ払いだろ…………)
「……………この意気地なし………………バカ…………」
「……ん? なんか言った?」
「んー? どしたガキンチョー?」
「……、やっぱなんでもない」

 嫌悪感にも似た罪悪感が心に降り積もり、ちょっとは紛れないかと深く重いため息を吐く。
 ついでに美琴の身体が下がってきたので、体勢を整える。と、美琴の身体が小さくピクッと確かに反応した。

「お尻触ったな~。えっち~」
「な、なぁ!? さ、触って無い触って無い!」
「うーそだぁ。触られたもーん。えっちー」
「ぐえ……、ぐ、ぐる、じい……」

 急に後ろから首を絞められる。
 酔っ払いのくせに力が強く、頭を振る程度では腕は外れないだろう。
 が、それ以上に問題なのは、

「お、お姉ちゃん……、く、苦しい……!」
「じゃあ早く『お尻触ってごめんなさい』って言うのー」
「い、言う! 言うから離してー!」
「先に言いなさいー」
「(い、言えって言われたって、背中が! 背中がぁ!?)」

 今の今まで全力を振り絞って無視してきた上条の努力が今水泡に帰した。
 態度は怖い(上条談)が、容姿・スタイル共に美琴は相当に優れている。あの母ありにしてこの子あり、という言葉が見事に当てはまるほどに。
 つまり、高校1年生にして誰もが羨むスタイルという事である。

「早く言うのー!」

 そんな上条の心境など知りもせず美琴はさらに身体を押し付けてくる。
 美琴マスターを目指している黒子(道は9割9分9厘ほど崩れている)曰く「中3から高1に掛けてミカンが特大オレンジになりましたの」が上条の背中と美琴の間で押し潰されていた。

「(さっきからぐにゃふにゃぽふと背中で幸せな感触がー!?)」
「はーやーくー!」
「わ、わかりましたっ!」

 思春期真っただ中の少年にこれは厳しい。
 これ以上は何か色々と大変な事になりそうだったのでとりあえず勢いに乗せて言う。
 上条さんは中学生ながらにして紳士を目指す男の子なのです。えっへん。
 説得力の有無は、まぁ別として。

「おしりさわってごめんなさい! だから離して!」
「よく言えましたー♪ 許しあげましょうー♪」
「……ありがとうございます………」

 満足した顔で、唯でさえげんなりとしていた顔がさらにげんなりとした上条の頭を撫で、今度は自然体で体重を預ける。
 まだ背中に感触は感じるが、さっきのように押し付けられていないのでまだマシだ。
 だというのに、

(…このがっかり感はなんでせう……?)

 何とも言えない、けれど確かに残念さを感じている自分。
 その得も言われぬ感情を抱きながら、少年は酔っ払いを自分の部屋まで運んでいく。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして場所は上条の部屋。
 部屋まで運ぶのまでに誰かに見られないかとヒヤヒヤしたが、時間帯もあって人に見つかる事は無かった。
 で、その運ばれてきた酔っ払いは、

「ふかふか~♪」

 ベッドを占領していた。
 掛け布団の上から寝っ転がり、枕に顔を埋めて体全体でベッドの感触を堪能していた。
 そのベッドの持ち主は、照れたような恥ずかしい様な、どちらにせよ「気にしてませんよ? ええ気にしてませんとも」と、とても気になっていた。

(俺のベッド、なんだけどなぁ……)

 大人ぶっていてもやはりそこは男の子。
 自分のベッドで女の子が寝ていたら気にならない訳がない。ましてや、ただ寝ているだけならまだしも、体全体でその感触を確かめようとゴロゴロと動きまわっている。
 そして上条が気になっているのはそこだけではない。

(姉ちゃん、自分がスカートだって覚えて……ないよなぁ……)

 いくら短パンを履いていようとも、スカートから伸びるその足にどうしても目が行ってしまう。
 少女らしらの抜けきらない艶やかさがまだ足りない瑞々しい、すらりと長く伸びたその足は、男の子を魅了するには十二分過ぎた。

(なっげぇ足……。モデルみてぇ……)

 実際モデル顔負けのスタイルだろう。
 ぽーと、実に間の抜けた顔で眺める上条。とはいえ、それも仕方ない。
 普段とのギャップ、そして先ほどまでの経過もあり、上条は美琴の一挙手一投足に気が向いていた。

「うーん……」

 と、ベッドの上でいつの間にか眠っていた美琴がその身を起こした。
 ぽやーとした顔のまま、徐にブレザーのボタンに手を掛ける。

「ね、姉ちゃん……?」
「熱い……」
「わっ!?」

 言いながらブレザーを脱ぎ捨て放り投げる。
 投げられたブレザーは図ったかのように上条の顔に直撃し、数秒その視界を奪う。
 突然の事に慌てて顔にかかった物を、床に叩きつけるように乱暴に取り除ける。

「っ!?」

 が、それもすぐに後悔した。こんな光景があったのなら取るんじゃなかったと。
けれど、取らなかったら取らなかったで後悔しそうだとも、心の正直なところが反論していた。

「おいおい……」

 美琴は中に着ているシャツと短パンだけでベッドに寝っ転がっている。
 熱い、という言葉通りか、中のシャツのボタンも上の数個は開けられており、肌色がその隙間から覗き、腹部からも肌色が覗いていた。
 わざわざ見せつけるかのように横向きになり、腕と身体にと押し潰されシャツが内側から無理に引き延ばされ、ボタンが取れそうになっていた。

「うーん……、とーまぁ……」

 瞬間、何か獰猛な物が顔を覗かせた。

「なぁ、姉ちゃん……」

 聞こえてはいないだろう。だがそれでも口を吐いた。
 普段からは想像もつかない、力強さとはまた違う、けれどとても荒々しい声。
 その声とは裏腹に行動はゆっくりだった。だがそれが怖い。
 ゆっくりであるからこそ、爆発までため込んでいる。そんな感じだ。

「俺の事ガキンチョだなんだと言ってるけどさ……」

 ベッドの傍らに立ち、美琴に影を作る。
 目を閉じている美琴には分からないが、仮に開けていてもその表情はわからなかっただろう。
 顔は見えているのに、その表情が見えない。
 男の子の顔にも見え、男の顔にも見える。それでいてどちらにも見えない。
 そして、とても痛そうだった。

「俺だってさ……」

 美琴をまたぐ形でベッドに膝を付き、彼女の肩を掴んで乱暴に上を向かせる。
 よほど深い眠りにあるのか、美琴はそれでも起きる気配はなかった。
 それを気にした素振りを見せず、上条は美琴の頭の左右に手を付き、覆いかぶさるようにその身体を徐々に下げていく。

「男なんだぞ……?」

 数センチしかない隙間の中、小さく呟く。
 思春期のくせに、いや、思春期だからこそ誰よりも男と女の違いを意識し、また誰かに自分と周りの差異に気付いて欲しく、自制がまだ甘いその年齢だからこその呟き。
 ここで一歩を踏みこめば上条に確実に他との差が出来る。思春期の少年が望む、他者との決定的な違いが、今、目の前にある。
 だけど……。

「……ッ。…………くそッ!」

 毒づきながら上条はベッドから下りる。
 新しい掛け布団を取り出し、美琴の体に静かにかける。
 そのまま上条は浴室へ引っ込む。

「……………………」

 服を着たまま冷たいシャワーを頭からかぶる。
 なんでもいい。何でもいいから今は頭を冷やしたかった。

「……ッ!」

 そのまま壁に自ら頭を強打する。
 少し血が出た。水と一緒に視界の中央を流れる血を感じながら思い出す。
 とても、幸せそうな美琴の寝顔。

「…………ッ」

 ギリッ、と口の中から歯が強く擦れる音が聞こえた。
 上条は確かに他の人との何かしらの差を求めている。彼女に、他の男とは違う目線で見て欲しいから。
 でも、いくら差が欲しいからと言って『コレ』ではダメだ。
 欲しいのは彼女の、自分だけを見てくれるその優しい目。少年が求めているのは『コレ』じゃない。


「…………ごめん…………」


 誰にも聞こえない二つの声は、誰にも聞こえないまま奇しくも重なり空気に溶けて消えた。


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