「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ/Part8」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ/Part8 - (2010/01/30 (土) 22:24:56) の編集履歴(バックアップ)




12/25 AM4:11 曇り


 美琴は寮の裏手にいた。
 まず侵入者検知装置を誤魔化し、忍者のように磁力で壁に張り付く。
 そして自室である208号室の窓を3回、1回、2回のリズムでノックすると、内側から窓が開かれた。
 もちろん開けたのは黒子である。

美琴「よっと」

 美琴は勢いを付けて中へ入る。

黒子「ふぁ~あ。お帰りなさいましお姉様。こんな日にグッズ蒐集ツアーだなんて、一体どこまで行ってらっしゃいましたの?」

 黒子は、彼女にしては落ち着いた大人っぽい厚手のネグリジェを着ていた。恐らく半分寝ていたのだろう。
 美琴はこの日(正確には前日)、黒子に『クリスマス限定ゲコ太をたずねて三千里ツアーに行く』と嘘を言っていた。ゲコ太グッズ
に目がないのは黒子も知っているので、あまり止められないし、半分くらいは本当のことであるためばれにくいという利点があった。

黒子「ぇ!?」

 美琴は部屋に入るなり唐突に黒子を抱きしめる。

黒子「お、お姉様??」
美琴「ごめんね黒子、遅くなっちゃって。今日はほんっとにありがと。チュッ」

 そして頬にキス。
 黒子の目が一気に覚めてテンションが天井を突き破る。
 美琴のコートがびしょ濡れなせいで黒子のネグリジェも濡れるが全く気にしない。

黒子「お、おね………おね、おおおおねおねお姉様ー!!」

 ガバッ!と抱き付こうとするが、一瞬前に美琴は黒子から離てしまっていた。黒子の両手と唇はスカッと宙を切る。

黒子(………う、取り乱しましたの)

 とりあえず約2秒で精神統一し、美琴の唇の感触を脳の皺にギリギリと刻み込む作業に入る。

美琴「あーあーコートも手袋もビショビショじゃん………えへへ。シャワーは、さすがにこの時間じゃまずいわよね………ふへへ」
黒子「お姉様………またいつかのように変になってますわよ?何か凄いグッズでも手に入りましたの?」
美琴「え?ああ、うん。凄いの、手に入れちゃった。というか、手に入れられちゃったというか……ふっ、ふふふ」
黒子「???」

 黒子は美琴が床に置いた大きな紙袋の中を覗き込と、そこにはクマのぬいぐるみが入っていた。

黒子(これが凄いグッズ?ゲコ太じゃありませんし、妙に素人臭いですわね。まぁお姉様の感覚はよく分からない部分があります
    ので別に違和感は感じませんが…………しかしこのぬいぐるみの顔、どこかで見たことあるような………??)

 黒子はうーんと悩むが思い出せない。というか何故か思い出したくない気がする。
 黒子が悩んでる内に美琴は鼻歌混じりに冬用のケロヨンパジャマへと着替えてしまう。汗が気持ち悪いが微塵も嫌に思わなかった。
その汗は今日の出来事を思い出させる。



美琴「んじゃ明日も朝早いだろうし、さっさと寝よっか。電気消すわよ?」
黒子「え、あ、はいですの」

 黒子は最後まで納得いかなかったが、明日は10人程度が集る女子だけのパーティーがある。その準備を朝から始めなければ
ならないので早めに寝る必要があった。
 仕方ないのでベッドに潜り直す。それを確認して美琴が電気を消した。
 しかし美琴は真っ直ぐベッドへ向かわずに妙なステップを踏みながら大きな紙袋へ向かい、中をガサゴソ漁り始めた。

黒子「お姉様?今日はそのクマと寝るんですの?」

 黒子は普通に指摘しただけだったが、美琴は悪事を見られた子供のようにビクッ!と震えた。

美琴「へっ!?う、うん。気分転換よ、気分転換」
黒子「んー。本当にそのぬいぐるみ、どっかで見たような気が…………」
美琴「お、おやすみ!!」
黒子「おやすみなさいませですの………、うーん」

 悩んでいる黒子を放っておいて、美琴はクマのぬいぐるみ(通称Tベアー。今命名)をベッドに入れて自分も潜る。
 黒子はその後も少しだけ何かを思い出そうとしていたが、やがて諦めて寝息を立て始める。
 それを確認すると、美琴はTベアーを思い切り抱きしめて鼻で大きく息を吸った。

美琴(…………アイツの匂いがする)

 色んな事件に巻き込まれてばかりの上条がその合間を縫って作ったそのぬいぐるみは、何度か上条と夜を共に過ごしている
ため匂いが染みついていた。
 美琴はそれを嗅ぐと途端に居心地が良くなっていく。とは言っても漏電するような変なものではない。
 自然と頬が緩んでいくのを感じる。

美琴「……………当麻」

 ほとんど聞こえないくらいの声でそう喋ってみる。するともはや顔が完全にニヤケ状態から戻らなくなり、毛布を頭まで
被ってしまう。幸せすぎて頭がトロトロに溶けてしまいそうだった。

美琴(私、今夜眠れるのかしら?)

 沸き上がる興奮で徐々に目が冴えていく気がする。それを沈めようとTベアーを強く抱きしめるのだが、すると余計に上条の
ことが頭に浮かんできてしまうのだった。

美琴(ま、いいわ。幸せだし………私、当麻の彼女だし………えへへ)

 まだまだ当分眠れそうにない。



12/25 AM8:03 雪


 美琴は微睡みの中にいた。

初春「はー。暖かくて生き返ります」
佐天「ほんっと寒かった!何でこんなホワイトすぎるクリスマスになってんの!?初春が居なかったら凍え死んでたよ~」
初春「だからってずーっと抱き付くことないじゃないですか。皆じろじろ見てましたよ」
佐天「だってー初春の体あったかいんだもん!」
黒子「あー、確かにそれは分かる気が……」
初春「どういう意味ですかそれ」

 遠くで誰かが話しているのがぼんやりと聞こえる。

初春「御坂さんまだ起きないんですか?」
黒子「帰りが夜中だったんですの。まったくグッズ求めてどこまで行ってきたのやら。急に遅くなるなんてメールが来ましたし………
    まさか本当に三千里なんてことはないでしょうけれど」
初春「…………………」
佐天「…………………」

 初春と佐天はチラッとお互いを見て、無表情で小さく頷く。思わず頬が崩れそうになるのを抑えるため顔に思い切り力を入れる。

初春「そういえば白井さん。常盤台中学のジャッジメントから、白井さんの年末年始の予定を書いた書類を提出するよう言伝を
    頼まれたんですが」
黒子「え………、ああっ!今年から提出が必須になったのをすっかり忘れてましたわ」
佐天「もしアレなら留守番してますけど。飾り付けとかしながら」
黒子「それじゃぁお言葉に甘えてお願いしますの。往復でそんなに時間も掛からないでしょうけれど」

 ジャッジメントの管轄は基本的に校内に限られているので、学生が校内から居なくなる長期休暇はアンチスキルからの要請でも
無い限りそれほど忙しくない。とは言っても全員が一気に帰省することになると何かとまずいので、この時期専用にシフト表を
組むことになった。積極的に事件に首を突っ込むなら暇はほとんど無いのだが、さすがに年末年始は自重しようと黒子と初春
は既に打ち合わせている。
 黒子は外出するためにコートを着込み、扉に手を掛けた。

黒子「あ、くれぐれもお姉様に見蕩れて変なことなさらないように!」
初春「そんなことしませんよー白井さんじゃあるまいし」
美琴「…………ふぇ?黒子、あんたどっか行くの?」

 ようやく半分だけ目が覚めた美琴は今にも外出しようとしている黒子を発見した。

黒子「ちょっと用事があるので学校まで。すぐに戻って参りますので」
美琴「そー。いってらっひゃい」
黒子「行って参りますわ」

 ニコッと笑顔でそう言って黒子は出て行く。足音が徐々に小さくなって、やがて聞こえなくなった。

美琴「佐天さんと初春さんもおはよう。ごめんね私寝起きで………って、そういえば随分早く来たのね。まだ8時じゃん」

 そう話し掛けると、黒子を見送る格好で扉の方を見ていた二人は突然グルッと美琴の方を向き、ダッシュで美琴のベッドへと
駆け寄ってくる。二人の顔は物凄くニコニコ―――いや、ニヤニヤしていた。

佐天「御坂さん御坂さん!どうだったんですか!?」
美琴「え?え??」
初春「昨日のことです。是非教えて下さい!!」

 二人の剣幕にたじろぎ美琴はベッドの端まで下がる。

佐天「上条さんと御坂さん、デートだったんですよね!?」
初春「どこまでいったんですか?あれから御坂さんに会えなくて、もう私ほんと気になって気になって気になって!!」
佐天「詳しく!是非詳しく!!お土産話をー!!!」
美琴「―――――ッ!!?」

 美琴はそこでようやく思い出す。
 眠る前からずーっと上条のことばかり考えていたためすっかり忘れていたが、二人は昨夜、美琴と上条が一緒に過ごしたこと
を知っているのだ(正しくは過ごす予定だったことであるが)
 ちなみに朝早く来たのも初春が『寝起きの方が奇襲には良い』と判断したためである。
 それが功を奏したのかは定かではないが、心の準備なんかしていなかった美琴は昨晩のことを思い出して、顔がみるみる耳まで
赤くなってしまう。



佐天(こ、これはもしやーっ!?)
初春(ビンゴ!ビンゴですねっ!)

 行かなかった可能性も想定していた二人は、美琴のその反応を見て更にテンションを上げる。

初春「大丈夫です御坂さん。秘密は絶対に守りますから!!」
美琴「………む、無理無理無理無理ぜっっったいに無理!!!言わないし言えないし言えるわけないわよ!!!てか、何かアンタ
    達キャラ変わってない!??」
初春「そりゃそうですよ。友達の、それも超お嬢様の恋バナだなんて、気にならないわけないじゃないですか!!」
佐天「うんうん。友達が恋に悩んでいやしないか、泣いていやしないか心配で心配でっ!!」

 というのは半分嘘で。本当にただただ聞いて盛り上がりたいだけである。
 二人は瞳をキラキラさせながら更に美琴に迫った。
 美琴はその迫力に押されて更に下がろうとするが、もうその先にはベッドが無い。危うく落ちそうになる。

美琴「友達でもなんでも駄目なものは絶対駄目ー!!ていうかアイツとは何でもないってば!!」

 手をバタバタ振ってとにかく色んなものを否定する。

初春「……………………はぁ、そうですか。仕方ないです」
美琴「わ、分かってくれた?」

 美琴は額から汗を垂らしつつ愛想笑いをする。
 気になるという気持ちは解らないでもないが、昨日のあんなことやそんなのことなんて誰にも話せるわけがない。

初春「佐天さん。どうしましょう?」
佐天「うむむむむ!………分からない!!あ、そーだ閃いた」

 佐天は開いた左手に握った右手を打ち付けるという、いかにもわざとらしいジェスチャーをした後、おもむろに携帯を取り出す。

佐天「分からないから白井さんに相談しようっと」
初春「それは名案ですね!!」
美琴「ちょっとたんまーーーー!!!」

 二人は白々しくもキョトンとした顔で美琴の方を見つめる。
 どうやら諦めるしかないようだ。
 黒子にはいつの日か打ち明けようと思っているが、さすがに今は駄目だ。今ばれたら上条の命が危ない。幻想殺しがあるから
などと侮る無かれ。死には肉体的なものの他に、精神的なものや社会的なものも存在するのである。例えば学校中に噂でも流さ
れたら、上条と美琴はお互い会えなくなり、両者が精神的に死んでしまいかねない。

美琴「分かったわよ。教える。でも………す、少しだけだからね!!」
佐天「あ、ありがとうございます!」
初春「よろしくお願いいたします!」

 二人はかしこまって一礼した。
 とりあえず美琴は二人を黒子のベッドに待たせ、先に顔を洗ったり髪を整えるなどして寝不足の頭を無理矢理起こす。

美琴(えーと。何を話せば……というか話せることなんてあるのかしら?とりあえず付き合い始めたことは絶対に隠さないと)

 二人から偶発的に情報が漏れる可能性だってあるし、何より単純に恥ずかしい。きっといつかは話すと心の中で言い訳するが、
恐らく自然にばれるまで隠し続ける気がする。

美琴「んで、何聞きたい?」

 とりあえず様子見。あまりに直接的な質問はもちろん言わないか嘘を付くつもりだ。さすがに二人も全部話せだなんて言わない
だろう。
 そのことは初春も薄々感づいていた。佐天は全面的にその点を初春に任せている。
 つまりこれは質問者初春VS回答者美琴のどれだけ情報を聞き出せるか、どれだけ誤魔化せるかという戦いである。タイムリミット
は黒子が帰ってくるまで。
 初春は手を顎に置き質問を考える。

初春「えーっと………御坂さんは結局どういうプレゼントを上条さんに渡したんですか?一応お手伝いしかけたので私達も気に
    なってしまって……」

 いきなりクリティカルな質問が来る。しかも嘘を付きにくくする呪文付き。

美琴「結局マフラーにしたわ。上手くできなかったのを手直ししてね」

 下手に嘘を付くのも危ないので、半分本当のことを話す。



佐天「おおー。手編みのマフラーって王道だなー」
初春「上条さんからは何か貰いました?」
美琴「うん……これ」

 美琴はベッドに転がっていたTベアーを膝の上に置いた。
 もしかしたらこれも隠すべきところかもしれないが、美琴の中に少しだけ自慢したいという欲求があった。

佐天「えっ、これ手作りですか!?凄い。男の人なのに」
初春「わぁお上手ですね!中々このサイズになると気軽に作れるものではないですよー」
美琴「そ、そうかな。えへへ……」

 美琴はまるで自分が褒められているような気がして心踊ってしまう。

初春「しかも御坂さんの好みをきちんと捉えてますし、どことなく本人に似てますし……」
佐天「御坂さん、上条さんにかなり大切にされてますね~」
美琴「そ、そんなこと………そんなこと無いってー………」

 否定しつつもウキウキする気持ちは隠せない。
 照れながらTベアーの両腕を持ってパタパタと弄び始める。

初春「しかもそれを抱きしめて寝るだなんて、御坂さんも上条さんのこと愛されてるんですね!」

 初春はやや興奮気味に言う。
 Tベアーの両腕がピタリと止まった。

美琴「…………だ、抱いて寝てなんか、ないわよー」

 目を逸らしつつ嘘を付く。

佐天「え、でも私達が入ってきた時は思いっきり抱きしめてましたよ?ぎゅーって。とても幸せそうに」
美琴「あれー、そ、そう?…………おっかしいわねー」

 二人の様子をチラッと見ると、『分かっています分かっていますよ』といった風にニヤニヤしながら頷いていた。

美琴(まずい。この流れかなりまずい!)
美琴「あ、一応勘違いしないで欲しいんだけど、私とアイツは本当に何でもないんだからね?恩人だから感謝はしてるんだ
    けど、なんて言うか……………そ、そう、喧嘩ばっかりしてるしね私達。しかもアイツは女にだらしないし、鈍感だし
    馬鹿だしまぬけだし鈍感だし!」
初春「分かってますって。でも良いところもあるんですよねー」
佐天「そうそう。えーっと、困った人を見過ごせないとか、意外としっかりしてるとか、御坂さんを守ってくれるとか!」

 それは数日前に美琴が言ったことだった。

美琴「~~~ッ!!と、とにかく、私はこれっぽっちもアイツに気は無いんだからね!?せいぜいミジンコ………いやそれは言い
    すぎか、オカメインコ………違うわね、あそだ、兄妹、せいぜい仲の悪い兄妹くらいにしか思ってないわよ!!」
佐天(衝撃的事実。既に家族同然!!)
初春(うわぁ妬けますね。良い流れです。どんどん攻めますよー)

 初春は徐々に聞き出すことが楽しくなり始める。

初春「えっと、手は……繋いだりしたんですか?」
美琴「………い、一応。たまたま偶然仕方なくだけどね?」
佐天「どっちからですか!?」

 思わず佐天も質問に参加する。

美琴「どっ………ちって、えっと…………」
初春「どちらともなくですか!?」
美琴「違う違う!えーっと、私から、と、アイツからと………」
初春(え、何回ですか!?)
佐天(もはや常時!?)
佐天「あ、えっとキスは」
美琴「してない!」
佐天「ぇ」
美琴「してない!!」

 そこだけは有無を言わさず完全否定する。

初春(とりあえずここはもう攻めても意味無さそうですね)
初春「なるほどー。ところでレストラン以外にどこか行ったんですか?」
美琴「………………………」

 ここで美琴は悩む。
 黒子が出て行って結構時間は経っている。だから帰ってくるまでそれほど時間は無いと予想する。
 今ここで『行っていない』と言うとファミリーレストランでのことを聞かれるだろう。しかしあそこでの出来事は地雷が
多すぎる。ならばまだ話すことが多いゲームセンターの話に持って行くべきだろう。

美琴「ゲーセンにも行ったわ。『総合能力開発研究グループ第三支部試験場』っていう特殊なところだけどね」

 『変わった名前ですね』という返答を期待する。

佐天「随分変わった名前ですね」
美琴(よし!)
初春「あ、ちょっと失礼します」

 初春はそう言うと手のひら大のPC端末を取り出す。学園都市製にしては少し厚めの、しかしスペックが高い代物だ。



美琴(調べ物?)
佐天「どんなところなんですか?」
美琴「え、うんとね、学園都市の研究所が半分実験目的で立てたゲーセンでね。ヘンテコなゲームがあるヘンテコなとこよ。
    店長が白衣着てたりするし。あ、ちなみに別にアイツが特別ってわけじゃないのよ?黒子とも結構前に行ったことあるし。
    ただ私一時期ゲームやり過ぎてね、ちょっとした有名人状態になっちゃってるから、クリスマスとか平日くらいしか行き
    にくいのよねあそこ」
佐天「へー。初めて聞きました」
初春「あ、ありましたー!」

 初春は端末を覗きながら嬉しそうな声を上げる。
 ゲームセンターについてでも調べていたのだろうか、と美琴は思う。

初春「ふむふむ。なるほどなるほどー」
美琴「?」
初春「プリクラに始まり、レースゲーム、メダルゲーム、音感ゲームなんかをして、最後は最新型嘘発見器。その後展望台ですかー」
美琴「――――ッ!!???」

 ドッキー!!!と誇張無く心臓が跳ねた。汗もどっと噴き出す。

美琴「な、なななな、なな、なん、何で?何でー!?」

 美琴は目の前でニヤニヤする小さな初春に初めて恐怖を覚える。

初春「掲示板に書いてました。『伝説の常盤台中学生であるゲーセンマスターがツンツン頭の男を連れで色んなゲームで勝負して
    いった。しかもその男は数回ゲーセンマスターを負かしていた。あの男は何物だ』みたいな感じで」
佐天「うわーさすが初春。よくそんなのすぐ見つけられるね」
美琴「…………………」
初春「あと、そのプリクラの噂も面白いですね。ラブリーミトンのフレームも入っているっぽいです。あと、変なポーズを要求
    されるとか。特に恋人のカテゴリは酷すぎるという情報がありますねー。肩車とかお姫様抱っことかとても口では言えな
    いようなものとか」

 美琴は初春の情報検索能力とそのスピードに戦慄する。
 思わずTベアーを抱きしめて震え出す。

佐天「ん?んー??…………って、いうことは!?プリクラの写真が!!あるって!!!ことですか!!!?」

 佐天は興奮して腕をブンブン振り回しながら言う。その後両方の手のひらを美琴へ向けて、満面の笑みで『ちょうだい』の
ポーズをする。

美琴「駄目駄目駄目駄目駄目!!絶対ほんと駄目!!!喩え地球が爆発するとしても駄目ー!!!」
佐天「…………あ、やっぱ写真はあるんですね」
美琴「うっ……………」

 墓穴。

佐天「どうか、どうか見せ下さいまし御代官様ー!!このままだと気になって夜も眠れません」

 現在その写真は机の引き出しの中にある財布に収められている。
 美琴は首をブンブンと勢いよく横に振った。

佐天「そこを何とかー!!」

 何がなんでも見たい佐天はガバッと立ち上がると床に膝をついて美琴を拝みまくる。

佐天「ってあれ?」

 美琴はそれにビクッと驚き、思わず机をガードするように立ってしまう。

佐天「ほっほー。そこ………ですかぁ」

 佐天はついに獲物を見つけたと言わんばかりにニタ~と笑い、手をワキワキと嫌らしい感じで動かす。

美琴「ほんと、二人ともお願い勘弁して。これは、これだけはほんっとまずいんだって!」
佐天「御坂さん、そんなに拒絶されると余計気になっちゃうんですけど……………でも、うーん、どうしましょう初春隊長」

 さすがに悪ふざけの範疇を超える気がしてきて、少し気後れした佐天は初春に相談する。

初春「うーん。倫理的に考えてそろそろ限界かもしれませんねー」

 PC端末を操作しながら言う。

美琴「そ、そうよねそうよねさすが初春さん解かってるわ」
初春「ですねー。さすがに防犯カメラの映像をハックするというのは…………」
美琴「…………………………………………」
初春「はぁ、でも私、何だか男の人の前で可愛らしくなってる御坂さんを見たくて見たくて堪りません。御坂さんと上条さんは
    どういう状況だったんでしょう。展望台では何があったのでしょうか。本当にキスしてないんでしょうか。気になって
    気になって、今にもエンターキーを押してしまいそうです」

 初春の人差し指がエンターキーの手前でプルプル震えている。

美琴(ど、どっちか選べって…………………そういうこと??)

 美琴はダラダラと滝のように汗を流し始める。



美琴(無理!どっちも無理!!………でもどっちも無理だけど、展望台のは恥ずかしすぎて死んじゃう!!その上付き合ってる
    こともばれちゃう!!)

 そもそも夜のうちに展望台の防犯カメラの映像は消去しておくべきだった、と今更ながら後悔する。

美琴「写真…………………見せたら…………………それで終わりにしてくれるかしら?」

 それが最低条件だった。

初春「み、みみみ、見せて頂けるんですか!?」

 半分以上悪ふざけでやっていた初春は二重の意味で驚く。
 一つは恐らくかなり恥ずかしいポーズをしているであろう写真を見せてくれるということ。もう一つは、それを見せるという
ことはすなわち、防犯カメラの映像にはもっと凄いものが記録されているということだ。

初春(ぼ、防犯カメラの方は後で本当にハッキングしてじっくり一人で楽しみましょう)
初春「もちろん。や、約束します!!」

 美琴は溜息を一つつくと、引き出しから財布を取り出し、そこからゆっくり件の写真を抜いた。
 二人に見せずに自分だけ改めてそれを眺める。切り分けていないので、五つの写真が一つの紙に繋がっている。

 一つ目―――二人で微妙な距離を空けて棒立ち。既に美琴の表情は固い。
 二つ目―――上条が美琴の肩を抱いている。上条の視線が美琴とは逆の方を向いている。二人の重心が微妙に外側に寄っている。
 三つ目―――お姫様抱っこ。上条は相変わらず変な方向を向いてる。美琴は酷い固まりようで、何故か上条の顔を見つめている。
 四つ目―――肩車。倒れそうだからと言って上条が美琴の膝下あたりをガッチリ掴んでいる。その感触はまだ覚えている。
 五つ目―――あまりコメントしたくない。本当にキスしてるようにしか見えない。

 美琴はもう一度溜息をする。
 正直付き合い始めた今でもこのポーズメニューをこなすのははキツイだろうと思える。

美琴(これを、見せんの?正気?)

 写真を持つ手が震える。
 しかしそれより選択肢は無さそうだ。展望台の防犯カメラの映像を見られるよりはましである。
 裏を上にして、美琴はそれを佐天に差し出す。
 佐天は息を飲み、それをゆっくりと、両手で恭しく受け取ろうとした――――とその時

黒子「ただいま戻りました」

 その瞬間、208号室に阿鼻叫喚がこだまする。

佐天「うひゃああああああああああああああああああ!!!!!!」

 佐天はお化けにでも出会ったかのように驚き、手を万歳させて写真を上に放り投げてしまった。

美琴「っわあああああああああああああああああああ!!!!!!」
初春「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!」
黒子「な、何事ですの!?」

 写真がヒラヒラと上空を舞う。
 初春が焦ってジャンプしそれを掴もうとするが、上手く掴めずより黒子の方へ押しやってしまう。

初春「きゃあああああっ、わっ!!と、取れません。白井さん駄目ー!!」
黒子「へ??」
美琴「黒子っ、だめえええええええええええ!!」
黒子「何ですのこの紙?」

 黒子がその写真を取ろうと手を上に伸ばした瞬間。
 黒子の頭上、数十センチのところを青白い電撃の槍が一直線に飛んだ。

黒子「っふえ!?」

 呆ける黒子の手元に、炭になってしまった写真が舞い降りる。
 黒子はそれを掴むが、結局何が何だか分からない。

黒子「何ですのこれ???」

 数秒の静寂。

美琴「…………ウッ………エウッ………ウウッ」

 美琴はガックリと肩を落してよろよろとベッドに崩れ落ち、シーツに顔を押しつけて肩を振るわせ始めた。

佐天「うわあああああああああ御坂さん。ごめんなさいごめんなさい、ほんっとごめんなさいー!!!」
初春「す、すいませんでした。御坂さんすいませんでしたー!!!」

 二人はその打ち震える美琴に寄り添い、必死の形相で心の底から謝りまくる。
 しかし黒子には一向に何が何だか理解できない。

黒子「……………だから、この状況は何なんですのよー!!?」

 叫んでみたが誰も答えてくれなかった。



目安箱バナー