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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こいぬのおくりもの/Part01 - (2010/07/18 (日) 13:47:25) のソース

*こいぬのおくりもの 1
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 十月のある穏やかな日曜日。残暑が終わりを告げ、ようやく秋の足音が聞こえてくる季節。
 上条当麻は昼寝にちょうど良い季節だと言わんばかりに、貴重な高校一年生の日曜日を惰眠をむさぼることで過ごしていた。
 以前なら同居人である暴食シスターが夕食の用意をせかすためここまでぐうたらなことはできなかったのだが、今ではそんな彼女も故郷であるイギリスに帰ってしまっている。
 結果として上条の怠惰な昼寝を妨げる者は誰もいない。
 とはいえ時刻はもう夕方、日も落ちかけなので昼寝というよりそのまま夜寝になりそうではあるのだが。

 そんなとき上条の携帯が激しく鳴り響いた。
 やたらと大きい音。普通の携帯の着信音の何倍もするほど、むしろベル式の目覚まし時計並の大きな音だ。
「……ん? むにゃ」
 さすがの上条もこれには起きざるをえない。寝ぼけまなこでのろのろと携帯電話に手を伸ばし、発信者も確認せず着信ボタンを押した。
「もしもーし。上条さんの意識はただいま留守にしておりまーす。ご用の方はピーとわたくしが言ったら――」
 そのままふざけたセリフを口にした上条だったが、電話口から聞こえてくる聞き覚えのある声、しかもそのただならぬ様子に一気に上条の頭は覚醒した。
「……御坂、どうした! 何があった!」
『と、当麻、助けて、助けて……』
 電話口から聞こえる御坂美琴の声。その声は明らかに泣いていた。
「落ち着け御坂。落ち着いて何があったか話してくれ」
『死んじゃう。血が……いっぱい……で……ハァハァ言ってて……大変で……』
「血? いっぱい? くそ……なんかよくわかんねえけど、場所はどこなんだ! 今すぐ行ってやるから待ってろ! 絶対諦めるんじゃねえぞ!」
 何が起こっているかはわからないが悠長に話している暇はない、そう判断した上条は急いで着替えを済ませて家を飛び出した。

 絶対能力進化の実験が中止になった今、一方通行が美琴や妹達に危害を加えるはずはない。だが美琴は明らかに「死」や「血」などといった尋常でない言葉を口にしていた。
 ではいったい美琴の身に何があったのだろうか、死に瀕しているのは誰なのだろうか。
 間に合ってくれ、上条は必死にそう願いながら美琴の待つ場所へ走り続けた。
「御坂! 無事か!」
 上条は美琴から連絡を受けた場所、大通りから少し外れた路地裏にあるビルの影にやってきた。
 そこには通りに背を向ける格好で地面に座り込み、肩を震わせる美琴の姿があった。
 その様子に言い知れぬ不安を覚えた上条は美琴を強引に振り向かせた。
「御坂、何があったか知らないがもう大丈夫だぞ、さあ、何が……あ」
 上条は言葉を失った。こちらを向いた美琴の顔は涙で汚れており、彼女が着る常盤台の制服のブレザーは血だらけだったからだ。
「当麻、助けて、どうしたらいいの、私、私……」
 美琴は虚ろな目でこちらを見ていた。
 美琴の身に何かが起こった?
 そう思った瞬間、上条はカッと頭に血が登った自分がいるのを理解した。しかしまずは状況判断だ、冷静にならなければいけない。
 上条はブンブンと頭を横に振ると、一度深呼吸をした。そして暗がりの中の美琴をもう一度よく見てみた。
 すると美琴自身の体にはなんら乱暴されたような跡などはなく、ただ血で汚れているだけだと気づいた。
 上条は期待通りの返事を美琴が返すことを願いながら、美琴に声をかけた。
「御坂、お前、なんともないのか? そ、その、乱暴とか、されてないか?」
 こくりとうなずく美琴。
「そうか」
 美琴自身が無事なことにひとまず安堵のため息をついた上条だったが、今度は美琴が何か小さなモノを抱きかかえていることに気づいた。
「御坂、それは?」
 上条に抱きかかえてるモノを指さされた美琴ははっと息を呑むと、縋り付くように上条に近づいた。
「そ、そう、これ、こののこの、この子! この子大変なの、なんとか、なんとかして当麻!!」
「お、おい。落ち着け、とりあえず落ち着け御坂、な?」
 鬼気迫る美琴の様子に上条は圧倒され、なんとか彼女を落ち着かせようとした。だが美琴はそんな上条を気遣う様子もなく、必死に言葉を繋げながら上条に迫り続けた。
「だって、だだだって、この子、このままだと、し、死んじゃう、だから……だから……」
「死ぬって……この子……?」
 上条は美琴が抱きかかえているモノをよく見た。
 それは怪我をして血だらけの子犬だった。美琴のブレザーが血で汚れた理由はこれだろう。
 上条の表情がさっとこわばった。
「御坂、どうしたんだよコイツって、そんなこと聞いてる場合じゃないな。とにかくなんとかしないと。けど、学園都市に獣医なんてもんが……」
 病院にやっかいになることが多い上条は、自然と学園都市にある病院の位置に詳しくなっている。しかしそんな上条の脳内地図にも獣医の場所までは記録されていなかった。そもそも学園都市に獣医がいるのかさえ疑わしい。
「人間も動物も命を助けることには変わりないよな。背に腹は代えられないし……よし」
 上条は美琴の頭に手を置くと、すっと立ち上がった。
「御坂、行くぞ」
 きょとんとした美琴は首を傾げた。
「え? ど、どこに?」
「話は後だ、とにかくソイツを助けたいんだろ? だから病院行くんだよ」
「病院って?」
「リアルゲコ太先生のとこだ。さあ行くぞ。しっかりソイツ抱いてろよ、落とすんじゃねえぞ」
「う、うん」
 二人は冥土帰しが勤務する病院へ向かった。
「うーん、確かに変わった治療もよく行うけど、ここは一応人間の病院なんだよ?」
「そこをなんとか、お願いします! コイツを助けて下さい!」
 十分後、上条は病院前に呼び出した冥土帰しに頭を下げていた。
「うーん」
 冥土帰しはチラと、美琴と彼女の抱いている犬を見た。
 美琴は顔を伏せたままだったが震えている肩からその表情は容易に想像できた。
 また抱いている犬があまり楽観視できない状態だというのもわかった。すぐに治療しなければならないだろう。
 冥土帰しは再度上条を見た。
 上条は必死な形相で自分に頭を下げ続けている。
「わかったよ」
 冥土帰しは頭をかきながら呟いた。
 その声に上条と美琴はばっと顔を上げた。
「本当ですか!?」
「ああ、動物も人間も、命は一つだろ? それに君はお得意様だし、君の彼女をこれ以上泣かせるのも気が引ける」
「え、いや、その、俺と御坂は別に――」
「さ、おしゃべりはここまでだ。そこの裏口から入って奥のエレベーターを使って上に上がってくれ。さすがに病院だから普通に子犬を入れるわけにはいかないからね。けどあのエレベーターなら誰にも文句は言われない。さあ、急ぐんだ」
 冥土帰しはあわてた上条の抗議をさらっと流すと病院内に入っていった。
 冥土返しの言葉に頬を染めていた美琴と顔を見合わせうなずいた上条は、彼女を伴い指示された裏口に向かった。
 冥土帰しに指定された階にあった手術室の扉が閉められた。
 ここから先は冥土帰しの戦いだ、自分たちはただ彼を信じて待つだけ。
 そう思いながら、上条はうつむいたまま待合い者用の長椅子に座る美琴の手をそっと握った。その手は小さく震えている。

 上条は大きくはないが努めて明るい声を出した。
「心配するな、カエル、いやゲコ太先生を信用しろよ。知ってるだろ、あの先生は本当にすごいんだ。俺がこうして五体満足で生きてられるのもあの先生のおかげだ、アイツだってきっと治してくれる」
「うん」
 だがうつむいたままの美琴の手は相変わらず震えたままだ。
 上条は心持ちその手を握る力を強くした。
「それにさ、犬って人間が思ってるよりも結構生命力あるんだ。だから大丈夫、もう泣くな、な」
 上条はハンカチを取り出すと、そっと美琴の涙を拭った。
「……ありがとう」
 美琴は絞り出すような声を出した。
 当然とはいえ、いつにもなく殊勝な態度の美琴を見ながら上条は小さくため息をついた。

 しばらくして美琴が泣きやんだのを確認した上条は彼女に話しかけた。
「なあ、少しは落ち着いたか? だったらそろそろ何があったのか教えてほしいんだけど。いけるか?」
 こくりとうなずいた美琴は上条を見つめた。
「うん。アンタさ、最近爆弾魔がこの学園都市で騒ぎ起こしてるの知ってるわよね?」
「ああ、結構な騒ぎになってるからな。直接事件現場に居合わせたことがないから詳しいことまでは知らないけど、確か爆弾を作る能力者が無差別に爆発事件を起こしてるってんだろ? で、犯人のレベルが低いから死者が出てないのが不幸中の幸いだって話だったよな」
「うん、正解。もうちょっと詳しく言えば犯人の能力はレベル2の『化学実験』(エクスペリメント)。材料さえあれば活性化エネルギーをいじってそこから自由に化学物質を合成できるっていう、地味だけど結構汎用性の高い能力なの。言うなれば超能力による錬金術ってところかしら。で、高レベル能力者になるほど合成できる物質の種類に制限がなくなったり、生成物の純度が高くなる。ただ、今回の事件の犯人は低レベルってことで単一物質しか合成はできなかったのよ。けれど今回はその生成物がまずかった。知ってるわよね、TATP(過酸化アセトン)って?」
「ああ結構有名だしな。でもマジかよ、それって……」
「そう、よく知られた爆薬の原料。で、ソイツは材料となる過酸化水素とアセトンを常に持ち歩いてて気が向くままにあちこちでTATPを作って爆発させていたってわけ。不純物が多いから威力は低くなってたんだけど。これが事件の概要」
 上条は面倒くさそうに頭をかいた。
「……くだらねえ奴だな。もしかしてソイツ、そんな馬鹿なことやってれば自分のレベルが上がるとか勘違いしてたんじゃねえだろうな」
「動機なんか知らないわよ。行動だけ見てると愉快犯みたいだけどね。とにかくソイツはあっちこっちで騒ぎを起こしまくっていた。それで、悪さが過ぎるってことで警備員に捕まったのよ。ついさっきね」
「なるほどな」
 上条は路地裏に行く途中、多数の警備員がいたことを思い出した。
 物々しい装甲車があったことからも爆弾犯人に対する装備だったことは間違いない。彼らの慌てた様子からすると本当に犯人を逮捕した直後だったのだろう。
「話の流れからすると、もしかしてあの子犬はその捕り物のときに巻き添えを食ったってことなのか?」
 美琴はこくりとうなずいた。
「察しが良いわね。そう、危険だからって捕縛活動が始まる前に人間は基本的に避難してたんだけど、さすがに野良犬までは手が回らなかった、当然だけど」
「それで、そこを通りかかったお前が被害にあった子犬を偶然助けた、ということか?」
「うん」
「念のために聞くがお前があそこにいたのはただの偶然か? 捕り物に参加したなんて馬鹿なこと言わないよな?」
「言わないわよ、本当にあそこにいたのは偶然。暇だったから、ぶらぶらとショッピングしてた帰り」
 上条は疑わしそうに美琴を見た。
「本当か?」
「信じなさいよ。あれだけ警備員がいるのに私が何かしたら邪魔になるでしょ。私一人だったら犯人なんてぶっ倒してやるけど」
「あのな、それを俺は心配してるんだ。普通の能力者相手ならともかく、TATPなんて爆発物相手ならお前の能力なら大怪我するだけだろ。異能の力なら無条件に無力化する俺とは違うんだぞ、そういう無茶は止めてくれ」
 上条の言葉に反応した美琴は、ずいと上条に詰め寄った。
「何よ、アンタ私を馬鹿にしてるわけ? そんな奴を相手にしたときの応用力が私にないって言うつもり、仮にもレベル5の私に向かって? 対処法ぐらいいくらでもあるわよ」
「落ち着けよ。応用力とかそういう問題じゃなくて、危ないことに首突っ込むなって言ってるんだ」
「いっつも危ないことにしか首突っ込まないアンタに言われたくないわよ。偉そうに人のこと心配する前に自分、の……心配? アンタ、私の心配、して、くれたの?」
 美琴は自分の言葉にはっとして声を詰まらせた。
 その様子に上条はつまらなそうに口を尖らせた。
「当たり前だろ。俺がお前の心配するのが、そんな悪いのかよ」
「そ、そんなこと、ない。ありがとう……」
「お、おう……」
 急にしおらしくなった美琴の態度に、辺りは妙な空気に包まれた。
 空気を変えるため、美琴はこほんと咳払いをした。
「え、えと、とにかく、その犯人を捕まえるときの騒ぎで大怪我してたあの子を見つけたんだけど、そこで私の思考が完全にストップしちゃったのよ。自分のことならともかくあんな大怪我した犬を見たこともないし、助けたいけどどうしたらいいのかもわからないし。それで、気がついたらアンタに電話してた。でも良かった、アンタがすぐに出てくれて」
「出るに決まってるだろ。あんなバカでかい音がするんだ、昼寝してたのに一発で目が覚めた」
「へえ。じゃあアンタの携帯、あの着信音に設定してあげて正解だったわけね」
 美琴は楽しそうに言ったが、一方の上条は面白くなさそうな顔になった。
「まったく、なんなんだよあの着信音は。勝手に人の携帯いじってお前からの着信音だけあんな傍迷惑な音に変えやがって。いったい何考えてんだ」
「アンタが私からの連絡をいっつも無視してるからでしょ。ああでもすればさすがに気づくと思ってね。実際今日だって気づいたでしょ?」
「そりゃそうだが。ならなんでお前からの着信だけあれなんだよ、しかもメールまでお前からのだけバカでかい音」
「他の人のまで変えたらアンタの感覚も逆に麻痺するでしょ。アンタは私からの連絡にだけ気づけばそれでいいからよ」
「……自己中」
「何よ」
「いーえ、なんでも」
 とぼける上条にそれをにらみつける美琴。
 だが美琴はすぐに上条をにらみつけるのを止めた。
「……まあいいわ。えっと、どこまで話したんだっけ? そうそう、アンタが電話に出てくれたってとこね。とにかくわけがわからなくて気がついたらアンタに電話して、アンタは来てくれた。それから後はアンタも知っての通りよ」
「なるほどな。怪我した子犬、か。まあなんにせよ良かったぜ、な」
「何が?」
「もちろんあの子犬が助かって、だよ。そんな下らない奴のせいで子犬の、小さな命がなくなるなんて絶対に許せねえ」
 上条の言葉に美琴は表情を暗くした。
「で、でも本当に助かるかはまだ……」
「大丈夫だって、何度も言うけどあの先生は本当にすごいんだ。絶対助けてくれる!」
「う、うん」
「それからさ、ちょっと話はずれるけど、お前が電話をかけてきてくれたことも結構嬉しかったんだ」
「どうして?」
「お前が俺を頼ってくれたってことがな。なんでも一人で抱え込むお前が俺を頼ってくれたってことと、後、白井とかを頼ったっていいのに俺を頼ったってことも、良かったことの一つだな。上条さんも男だし、女の子に頼られて悪い気はいたしません」
 そう言うと上条は照れくさそうに頬をかいた。
 一瞬きょとんとした顔をした美琴だったが、何かに気づいたかのようにぽんと手を叩いた。
「そっか、黒子に頼めば良かったんだ。そうすれば一瞬で病院にも来られたし。なーんだ、わざわざアンタ呼んで損した」
「お、おい。それはいくらなんでも上条さんのガラスのハートを傷つける発言ですよ!」
 憮然とした表情になった上条を見て、美琴はちろりとかわいらしく舌を出した。
「なーんて嘘」
「へ?」
「アンタが言ったんでしょ、何かあれば自分を頼れって。だから、その、私は何かあったときはその、あ、アンタに頼ろうって、その、決めてるから。それで、あのとき、アンタのこと以外頭に浮かばなかったのよ。うん、私が頼るのは、アンタだ、けだから……」
「そ、そうか、そりゃ光栄だな、うん……」
「そ、そうよ、光栄に思いなさい、光栄に……」
 美琴が呟くように漏らした言葉に、再び待合いは妙な空気に包まれた。

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