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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/20スレ目ログ/20-175 - (2012/02/11 (土) 09:09:59) のソース

*それでも私は、きっとアンタに生きて欲しいんだと思う 2
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―第七学区・とある学生寮にて―
珍しく土曜日に補習の無かった上条は、だらだらと寝転びながらテレビを観ていた。
珍しく、本当に珍しく平和なひとときである。
時刻は午前11時をまわり、そろそろゴクツブシもとい、白い同居人にエサをやる時間だなーなんて考えていた時、御坂から電話がかかって来た。
「あ、もしもし?少しお願いがあるから、いつもの公園に来て欲しいんだけど。ま、無理なら別に諦めるんだけどね…」
上条は、普段とは違う御坂の大人しい態度に少し違和感を感じたが、茶化すようにして返す。
「へー。ビリビリでもお願いなんて出来るんだな!」
「うっさいわね!とにかく来れるんならすぐに来て!」
「へいへい。さっさと行きますよー」

そんなやりとりを隣で聞いていた、寄生獣もとい、白い同居人は
「とうま短髪の所へいくの!?お昼ご飯まだなのに!?ねえ私のご飯は!?」
という慈愛の心に溢れたラブコールを発する。
「だいじょーぶだって!すぐに帰って来るから!」
そう返答しながら、上条は内心ブチ切れていた。
(これに『歩く図書館』とか名付けた奴どんな神経してんだよ…)
(図書館がこんなにうるさい訳がねぇだろうがよ…)
(どう考えても『生きるダイソン』の方がピッタリだろうがよ…)
(『吸引力の変わらない、ただ一人の人間です。』ってな…)
(少しはゴキブリを見習えっつーの。あいつら静かだし、燃費は恐ろしくいいし、黒いし…あぁ…不幸だ…)
キラウエア火山の如く沸き立つ不満や愚痴を押さえ込み、いつかイギリスの産業廃棄物処理業者を呼んでやろうと心に決め、寮をとび出した。

そして、これまでの経験と不幸センサーをフル活用し、お願いの内容について考えてみる。

人の都合など一切考慮せずに勝負を挑まれ、秋田県に生息する某妖怪の如く一晩中追いかけ回される。
詰まったキャッシュカードを出す手助けをしてもらえたと思った瞬間警報が鳴り響き、人生の経歴に「前科一犯」と記載する寸前まで追い込まれる。
自販機にミルコ・クロコップ顔負けのハイキックをブチかまし、人生の経歴に「前科二犯」と記載する寸前まで追い込まれる。
端的に言ってしまえば「あいつに関わるとロクなことがない」が結論である。
故に今回のお願いもロクなことがないだろう。
(はぁ…不幸センサーがビンビンだ…) 


公園に着いた時には、既に御坂も到着していた。
むしろ、缶ジュースを飲み終えていることから、かなり前からここにいた事が読み取れる。
お互いに軽く挨拶を済ませ、御坂にお願いの内容を伺う。
しかし、御坂は恥ずかしそうに、気まずそうにモジモジと体をくねらせ、なかなか話し出そうとしない。

(あれを言うのは恥ずかし過ぎる!やっぱり無理!レベル5いや、人間としての沽券と尊厳に関わる…!)

ぬがー!と雄叫びをあげ、悶え苦しむ御坂。
ユーラシア大陸もかくやと称される程の懐の広さを持つ上条だが、いつまで経っても事情を話さない御坂に、いいかげん痺れを切らしはじめていた。
「なぁ…用事が無いなら俺もう帰っていいか?」
「分かった!言うから!説明するから!」

御坂はかく語りき。

「で、要するに。
お前が中学生向けの服屋のデザインを担当することになって
↓
ゲコ太まみれのデパートに仕立て上げようとしたら全力で止められて
↓
結局プロのデザイナーがデザインしたものをお前が選んだだけの店になった上に、
↓
学園都市最高の『電撃使い』だからっつって工事してるオッサン達に電気に関する授業をして
↓
現場にまで駆り出されて仕事しまくっていい汗流した挙句、停電時には非常用バッテリーにされたってか?」
「なによー!文句あんの!?」
御坂は顔を真っ赤にして反論する。上条はぷるぷると震えながら笑いを堪える。しかし、
「ぶはははは!お前俺より不幸じゃねぇか!ひー!腹いてー!」
ついに堪えきれず吹き出してしまった。そこへ御坂は無言で近づき、コインを取り出す。
「ごごごごごめんなさい!ゼロ距離超電磁砲はおやめください!股間では『幻想殺し』は発動しません!『竜王の息子』を殺さないでください!」

世界を救った英雄も、右手以外はただの人。
こうなってしまえば、蛇に睨まれたゲコ太ならぬ、蛙である。 


「で、お願いってのは、その建設中のビルでたまに謎のジャミングがかかるから俺の右手で何とかしろって事だな?」
「そいうこと。ま。影響はほとんどないんだけど、ただ…」
ただ…と続けた御坂は不安そうな顔を浮かべる。
「普通のジャミングなら私の能力で原因が分かるんだけど、それがうまくいかないのよ。なんか気味が悪いっていうか…」

何度も繰り返すが、御坂は学園都市最高の電撃使いである。少々のジャミングなど歯牙にもかけず能力を行使できる。
ジャミングが機械や能力によるものであれば、原因となるものを突き止め、破壊すればいいだけの話だ。

しかし、言葉では言い表せない得体の知れないイヤな雰囲気は、ロシアやハワイで経験したオカルトを思い出させる。
科学によって構成された『自分のだけの現実』を、根底からひっくり返すような非科学的現象。
オカルトはあまり認めたくないが、現実に起きたオカルトは嫌が応にも認めざるをえない。

「もしこの前みたいにオカルトの仕業だったらどうにもならないじゃん。そこで右手よ。アンタなら能力でもオカルトでも関係なく破壊できると思って」
ネジを開きたいのだが、プラスドライバーで開くのかマイナスドライバーで開くのか分からない。ならば、ネジそのものを破壊すればよい。というものである。
お願いを聞いた上条は、思いのほか深刻なお願いでなかった事に安堵していた。

しかし、そうは言っていられない。
これがもし『グレムリン』や『魔術サイド』からの攻撃の前兆であれば、一刻も早く原因を突き止めねばならない。
「行くぞ、ビリビリ。早く案内してくれ」
「御坂美琴だっつってんでしょうが!」 


―セブンスミスト・7階にて―
新・セブンスミストは、大方建設完了というところまで来ていた。
7階建てのビルの外観は完成していたし、内装もあとは細かな装飾とテナントの入店を待つ、といったところだ。
ビル内の壁や天井には淡いパステルカラーが用いられ、床にはポップな動物達の絨毯が敷かれている。
隣に並び立つ本館のセブンスミストに比べ、若干内装が子供っぽい気がするのは、やはり『御坂美琴デザイン』の影響だろう。

上条はファンシーすぎる店舗の内装に居心地の悪さを感じていた。
女子中学生向けの店舗とはいえ、いくらなんでもこれは酷い。酷過ぎる。もっとも、
『新・セブンスミストなう。デザイン酷すぎワロタwww』
などとこの女子中学生の前でつぶやけば、0距離超電磁砲というフォローが返って来ることうけあいだ。
(こりゃ営業始まったらぜってー来ねえな…)
そんな事を考えながら、御坂に続いて7階への階段を登る。

本来ならエレベーターでの移動だが、名目上建設中ということもあり、非常階段を登っていく。
殺風景で無骨なデザインの非常階段だが、今はなにより目の保養になる。
「ここが問題の部屋よ。この階はお店じゃなくて水族館って感じなんだけど…」
御坂に促され7階の扉を開けると、そこには幻想的な風景が広がっていた。

プラネタリウムのように光度を落とされた室内。
その真ん中には、天井、壁、床、全てをガラスに覆われ、その中にたっぷりと水をたたえている球体の形をした部屋があった。
入って来た非常階段と、その対極に備えられたエレベーター、球体の部屋の横に設置されたポンプと思しき大型の機械、そして青白く輝く球体の部屋。
それ以外は何も無いというその姿は、宇宙に浮かぶ地球を彷彿とさせる。 


圧倒され声も出せない上条であったが、御坂に促されて球体の部屋へ入る。
(自分が熱帯魚になったみたいだな)
上条が部屋に入って最初に持った感想はそれだった。

「すげえなこの部屋!正直下の階は心配だったけど、これだけで客呼べるぞ!」
「それどういう意味!?しかもこの部屋は私のデザインじゃないんだけど!」
あまりの感動に思わず本音が出てしまう。しかし、そんなことも気にならないぐらい上条は感動していた。

すると、奥から人が歩いて来る。
「気に入ってもらえましたぁ?」
間延びした素っ頓狂な声の主は、ひょろりと縦に長く伸びた男性であった。
年齢は上条より幾分上のようだが、いかにも頼りなさそうだし、覇気も感じられない。
「こんにちは源本さん!例のアレを連れてきました!」
例のアレ扱いされたことに少し苛ついたが、かまわず自己紹介をする。
「はじめまして。上条当麻です。ド素人なのでお役に立てるか分かりませんが…」
「あぁ。きみが噂の上条くんかぁ。」

源本と呼ばれた男性は、朝顔の観察をする小学生のように上条を眺めたかと思うと、唐突に、そして飄々と自己紹介を始める。
「はじめましてー。ビル全体とこの部屋の設計をした建築家の源本海貫(みなもとうみぬき)ですー。ノロケ話はいつも御坂さんから聞いてるよー」
「ちょちょちょちょちょ!なに言ってるんですか!ノロケてなんかいません!…とにかく、今日はジャミングの解決の為に来たんだからね!」
顔を真っ赤にしながら無理矢理話題を逸らせる御坂。それをニヤニヤ眺める源本。

再びイヂメられることを危惧した御坂は、さらに話を逸らそうとする。
「そっそういえばもう水入ったんですね!確か源本さんは水流操作の能力者ですよね?これもご自身で?」
「そうだよー。液体限定だけど、このビルの範囲内ぐらいならどこへでも転移させれるからねー。ポンプなんて必要ないない」
目論み通り、話題を逸らすことに成功した。この人に建築の話をすると、饒舌になるのはお見通しだった。
さらに畳み掛ける。
「とてもきれいですよねー!このビルの目玉っていうか!」
「これをやるためにこのビル作ったようなもんだからねぇ。というか、ぼくはこれの為に生きてるようなもんだしねぇ。いやはや、待ち遠しかったよー」
そう言いながら感慨深げな表情を浮かべ、球体の部屋を慈しむように撫でる。
「大げさすぎですよー!で、ジャミングの件なんですが…」
だが、意外な一言で問題は霧消してしまった。

「ああ。それもう解決しちゃったんだよー」

「「ええー!?」」

上条と御坂の絶叫が部屋にこだまする。
「たぶんこの機械のせいだねぇ。何せ世界でたったひとつの特注の機械なんだから。御坂さんも理解できない変な電磁波もでるさー。でも電源を切ったら何も無いだろー?」
源本の言うとおり、この部屋に漂っていた不可思議な妨害電波は感じられなかった。
灯台下暗しという言葉の通り、答えは目の前に転がっていたのである。

なんというあっけない幕切れであろうか。
「ってことは俺、いらない子?」
捨てられた子犬の様な目を二人に向ける上条。
「「まあまあまあまあ!ゆっくりしていきなよ!」」
という二人からの哀れみのこもったフォローが返ってきた。
悲しみは増す一方だった。 


そこから約30分。二人は上条そっちのけにし、ずっと設計の話で盛り上がっていた。
あまりにも気持ちのよい放置っぷりに上条は疎外感を感じる。
感覚的には友人が昔の同級生と再会した時のようなものだろうか。

上条はあまりにも手持ち無沙汰なので、ここはひとまず戦略的撤退をしようと試みる。
「すいませーん。男子トイレってどこです「無いわよ」か?って無いだと?」
「あるわけないでしょ。ここが誰向けの店か分かってんの?」

何と言う合理主義。
何と言う現実主義。
女子しか来ないからといって、男子トイレを取っ払うとは。
事業仕分けの魔の手がこんな所にまで及んでいるとは思ってもみなかった。
「ま。身障者用のでっかいトイレなら下の階にあるわよ。場所はテキトーに探して頂戴。で、さっきの続きなんですけど…」

嫌でも追跡してくるいつもの態度とは裏腹の、存外にぞんざいな扱いを受けた上条は、テンプレートな台詞と共に悄々と非常階段へ向かって行った。
そしてこうつぶやく。
「不幸だ…」 


―セブンスミスト・6階身障者用トイレにて―
(はぁ…不幸だ…このまま帰ってやろうか…)
上条は洋式便器に腰掛けながら、一人ごちる。
昼飯も食わず、白い悪魔もとい、同居人からの噛み付き攻撃を回避し、大急ぎで駆けつけた結果がこれではあんまりだ。

(不幸だぁ…とにかく戻るか)
ふぅ、とひとつ息を吐く。細かい不満は排泄物共々水に流そうと、心に『フン』切りをつけ、壁に備え付けられたボタンを押す。

しかし、一向に水は流れない。水に流すなということか?再びボタンを押す。
しかし、一向に水は流れない。もう一度ボタンを押す。
しかし、一向に水は流れない。不思議に思った上条はボタンを見る。

そこには『呼出』と書かれていた愛嬌あるボタン。
さらに、その下部にはこう書かれていた。

『このボタンは水を流すボタンではありません。
気分が悪くなられた方はこのボタンを押してください。
なお、非常事態の際は3回押してください。
直ちに警備員、風紀委員に通報いたします』

「不幸だああああああー!しかも俺、3回押したよな?」
上条は思わず立ち上がり叫び声をあげる。そこへ、
「ジャッジメントですの!通報を受けて…」
通報を受けてやってきた白井黒子が見たものは、下半身がダビデ像状態で頭を抱え、叫び声をあげる上条当麻であった。

身障者用トイレを包む静寂。
ぴくりとも動かない二人。
プラプラとこうべを傾げるアレ。

そんな硬直状態から先に立ち直ったのは、白井であった。
「もしもし初春?トイレに侵入した露出狂を発見しましたの。いえ、こちらで拘束いたしますから御心配なく。それでは」
「ちょっと待てやー!トイレでズボン脱がない方がおかしいだろ!?つかなんで白井が!?」
「それはこちらの台詞ですの。女性向けショッピングセンター、それも建設中で一般人は立ち入り禁止。そのトイレにどうして色情盗撮魔さんが?」
「俺はそんな破廉恥極まりない名前じゃねぇ!話すと長くなるが、御坂が…」

御坂、という単語を発した瞬間、目の前の白井が豹変した。
「おィ変態クソ猿。お姉様に欲情した時がテメェの人生の最期だぞ?そこンところ正しく理解してンのかァ?」
「節子、それドロップやない。おはじきや」
「異教のサルがぁぁぁぁ!」
「それも違う!」 


「つまり、お姉様に付き添われたが、置いてけぼりで話が盛り上がり、手持ち無沙汰なのでトイレに逃げ込んだと?」
「何回もそうだっつってんだろうが!」

さながらキューバ危機の如く、一触即発状態から和平交渉へと漕ぎ着けた上条だが、その心はベトナム戦争で焼かれた森林の如く荒みきっていた。
「つまり…今でもお姉様はその殿方と二人っきりで睦言を…?」
「睦言じゃねぇけどな。ま、あの調子ならまだまだかかりそうかな…」
「その男、ンなに死にたきゃギネスに載っちまうぐれェ愉快な死体(オブジェ)に変えちまおうかァ!?」
「だからそれお前のキャラやない!一方通行や!」

やいのやいの。

「それにしても、やけに来るの早かったよな?」
「たまたま近くを通りかかっておりましたの。決してお姉様のストー…失礼。お姉様の動向が気になるからではありませんの」

白井の話によると、御坂は全没されたデザインの件で一度は落ち込んでいたものの、建築に携わっていた源本と意気投合。
そこからのテンションは、まるで曲芸飛行を魅せる戦闘機の様な奇跡のV字回復を見せた、ということらしい。
「全く…お姉様には私というものがありながら…」

普段ならば「なんでやねん!」の一言でも入れるところであったが、上条はおおむね白井の考えに同調していた。
昔はなんだかんだで仲が良かったが、最近では街中で遭遇する事すら無かった。
その理由が男とは。

しかも、このデザインの件も今日まで聞かされていなかった。それにあの態度…
(これじゃ嫉妬深い女々しい男じゃねえか!彼女でも何でもないのに…)
上条はぶるぶると頭を振ったのち、立ち上がって白井に呼びかける。
「白井、とりあえず御坂のところへ行くぞ。上の階にいるはずだ」
白井は決まりが悪そうに視線を逸らしながら、こう告げた。

「…で、その股間に鎮座まします、ミシシッピニオイガメはいつしまわれますの?」

勇者(ヒーロー)は、ひどく赤面した。 







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