「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox/Part04」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox/Part04」(2010/02/21 (日) 13:05:25) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox)  さんざんな一日だった。 『白井さんには内緒で』と初春飾利と佐天涙子に呼び出されてファミレスに来てみれば監視カメラによる記録映像と思しき『上条からおでこにキスされる美琴』の姿をネタにあれやこれやを聞き出されたのでマニカーニのケーキをおごると約束して口止めした後二人と別れてゲームセンターにでも行って気晴らししようと思ったら命知らずの男達に絡まれたので面倒だから雷撃の槍を連発して追い払ったら逆に警備ロボに追い駆けられて、何かもうあんまりなので上条にメールでもしてみようかなと携帯電話をポケットから取り出したところで黒髪ポニーテールの長身で美琴では到底太刀打ちできない母性の塊を持った女性と上条が仲良く歩いているところを見かけて『グラマラスな女隣に侍らせて鼻の下伸ばしてんじゃないわよアンタはーっ!』とバッチンバッチン言わせて上条を追い回し問い詰めるつもりが逃げられた。 「はぁ、いろいろゴロゴロと面倒ばっかり……もうどうなってんのよ」  クリスマスが近づき浮き足立つ街角で、御坂美琴は薄っぺらなカバンを肩に担いでお嬢様らしからぬため息を一つ。 「でもアイツ、マフラーちゃんと着けてたな……」  先日、美琴は上条当麻にお手製のセーターとマフラーを一揃いプレゼントした。  美琴の前で上条がそれを初めて身につけて、嬉しそうに笑って『似あうか?』と聞かれたときはさすがの美琴も卒倒しそうになった。改めて私ってコイツの彼女なんだなあとこみ上げるものを実感してから早三日でもう『あれ』だ。上条のフラグ体質は理解していないわけではないけれど、いい加減落ち着いて欲しいと美琴は思う。上条の母・詩菜も夫・刀夜に対してほぼ同じ感想を持っているがこちらは年季が入っている上に美琴と詩菜はこの件について話しあうほど深い付き合いもない。  美琴の視界の先で、走って逃げる上条の首元に『ここまでおいで』と手招きするがごとく風になびくマフラーを見て、上条の浮気疑惑に怒りで頭が沸騰しそうになりながら同時に緩む口元を抑えきれず、それが邪魔して上条を追いきれなかったのだがそのあたりは脇に置く。  ガラス張りの何処かの店頭で美琴はもう一度はぁ、とため息をつく。私今どんな顔してるんだろとぐったりしながら振り返って 「わぁ……新作かな、これ…………」  そこに展示されていたのは一着のウェディングドレスだった。  美しく着飾ったマネキンの足元にはとあるデザイナーの名前が刻んだプレートが置かれている。美琴がショーウィンドウに顔を近づけてのぞきこむと、やはり美琴の好きな有名デザイナーの手による逸品だ。純白のウェディングドレスはいつの時代も女の子の憧れだが、美琴は特にプリンセスラインという豪奢なドレープのついたデザインが好きだ。どんなものかわかりやすく一言で言うとフリフリのひらひら、である。 「良いなぁ。私もいつかこういうのを……いやいやいやそうじゃなくって!」  美琴は首をぶんぶん横に振り、ここ数日立て続けに美琴を見舞った腹立たしさの原因を思い出す。  何度ああいった光景を目にしただろう。  上条の隣に最初は霧が丘女学院の制服を来た眼鏡で巨乳の女の子、その三日後には二重まぶたがぱっちりとした巨乳の女の子、さらには金髪年上セクシー系でどう見ても上条のストライクゾーンな女性、そこから行って緑のジャージを来た巨乳の……あれは警備員だったから大方上条は叱られていたのだろう。そして最後に黒髪ポニーテールで―――いくつなんだあの女は。 「次から次へと巨乳、しかも全員私より、いや下手するとあの馬鹿より年上ばっかり……アンタは姐さん女房系巨乳マニアかっつーの」  私だってちょっとはその……とぶつぶつ何事かを呟いてから美琴はうつむき視線を胸元へ。  日頃から上条に中学生だのガキだのと言われては何故か無性に腹が立つ美琴としては、後輩・白井黒子の指摘通り心の奥底に早く大人なボディになりたいといった密かな願望を持っている。故に母・美鈴の言うとおりいっぱい食べればいっぱい育つのかとハンバーグをぱくついてみたり風紀委員の固法美偉を見習ってムサシノ牛乳を白井と二人でがぶ飲みしたこともある。上条が自分の外見ではなく年齢を気遣うあまり『本気で』相手にしないように意図しているのもわかっているが 「……何でアイツの知り合いは次から次へと……揃いも揃って……よりによって」  ―――気になる。  やっぱり大きさは正義なのだろうか。  心の中で上条に変な設定のレッテルをベタりと貼りつけてから、美琴は呟く。 「アイツに『本命』がちゃんといればこんなに騒がないで済むんだけどさ……」  美琴と上条は恋人同士だが、今の状態は限りなく美琴の片思いに近い。美琴が告白し、上条がそれを受け入れて、晴れて二人は彼女彼氏となったのだがまだまだ上条を『彼氏』と言って周囲に紹介できるほどの段階ではないと美琴は考えている。  まず上条の反応が薄い。それでも最近は改善の余地が見えてきたが、恋人っぽいイベントにはあまり関心を示さないし自分から動くこともない。普通の恋人同士なら彼女の誕生日と血液型くらい知ってそうなものだが、美琴は上条からそれを聞かれたことはない。聞かれない事に腹が立って美琴から教えた事もない。美琴は以前上条の能力を調べるため書庫に侵入を試みて、その時上条の誕生日と血液型を『偶然』知ったのだが、あとになって占い雑誌で調べてみたら星座別でも血液型別でも二人の相性は最悪だった。上条が美琴をスルーし続ける源はここにあるのかもしれない。  反応が薄いことよりもっと問題なのは、当の上条から美琴のことを『好きかどうかわからない』と言われている事だ。これについて美琴は上条に『一生片思いで構わない』と宣言しているが、上条に誰か特定の人がいるのではなくあっちへふらふらこっちへふらふらしている(ように見える)のがとにかく気に食わない。  目下上条の『本命』に一番近いはずの『彼女』でありながら、美琴の心は落ち着かない。こんな調子で一生かかって上条を振り向かせることなんてできるのだろうか?  あの馬鹿どこに行ったのよと周囲をキョロキョロしてみると、美琴のポケットの中で携帯電話がカエルの鳴き声に似た着信音を響かせる。美琴はスカートの脇に手を突っ込んで二つ折りのそれを取り出し、パカッと開いて着信画面を確認した。  噂をすればあの馬鹿だ。  美琴は心を鎮めて二回大きく深呼吸すると、通話ボタンを押しながら受話器を耳に当て腹の底に力を込めて 「こ」 『おいこら、出会い頭に電撃は止めろって。大事なマフラーが焦げちまうだろが』  上条の大げさなほどにため息混じりの声が、美琴の『こらーっ! アンタ今どこにいんのよ!?』と続く叫びを遮る。 『っつーかさ、俺に説明する間も与えずいきなりビリビリしながら追いかけてくんじゃねーよ。……お前、今どこにいる? GPS認証用のコードメールよこせ。そっちに迎えに行くから』  受話器の向こうでガリガリと頭をかく音が聞こえる。どうせ『しょうがねえなあ』とか『面倒臭えなあ』って思ってんでしょとぼやきながら美琴は携帯電話のボタンをポチポチと操作して画面を切り替えると内蔵アプリを呼び出し、次にメール送信ボタンを力いっぱい押し込んで 「……送ったわよ」 『…………ん。今届いた。えーっと……』  上条はメール受信画面に切り替えたらしく、声がしばらく途切れた。 『こっからだとちっと遠いな。五分……いや、一〇分くらいかかるけど待てるか?』  美琴は『アンタどんだけ遠くに逃げたのよっ!?』と怒鳴りつけたくなるのをこらえて 「わかった。待ってる」 『勝手にどっか行くなよ? じゃあな』  プツッと言う音と共に、回線は途切れた。 「……こんなところにいたらナンパされちゃうじゃない。さっさと来なさいよ、あの馬鹿」  携帯電話を折りたたんでポケットにしまい、上条が迎えに来てくれると言う嬉しさを先程の腹立たしさでごまかして、美琴は手近な壁に寄りかかって背中を預けると両手で薄っぺらなカバンの取っ手を持ってブラブラさせた。 「早く来ないかな……」  ジングルベルが絶え間なく流れる街角で、美琴は彼氏のお迎えを待っている。 「うす。待ったか?」  眠そうな目の端に、無用な運動の結果による疲労を浮かべた上条が美琴の前に現れた。 「……遅いわよ」 「あーはいはい悪うござんしたね」  必死にいら立ちの表情を作っていかにも『私怒ってるんだけど』と演技する美琴に、上条は悪びれない素振りで明後日の方向を向いて美琴の右手を取った。 「お前、今から時間あるか?」 「寮に帰ってもすることないから時間はあるわよ。何か用?」  平静を装い横目で上条を見ながら声の震えを抑えつつ、美琴は『やっとデートに誘ってくれる気になったのかしら』と上条の次の言葉を待つ。期待することはあきらめたつもりだが、いざとなるとドキドキしてしまう。 「あれこれ考えてみたんだけど思いつかねーからもうこの際お前に聞いちまおうと思って」 「何を?」 「お前のサイズ」  なっ……!? と美琴は言葉に詰まり、続いて手に持った薄っぺらなカバンで慌てて胸元をガードして 「何考えてんのよ!?」 「何って……だって俺お前のサイズ知らねーし。こないだセーターとマフラーもらったしさ。だからってわけじゃないけどクリスマスプレゼントは服あたりがいいのかなって。ああ、俺のセンスには期待すんなよ? そのためにお前に一緒に来てもらおうと思ってっから」  女もフライドポテトみたいにSサイズとかMサイズなのか? と上条が無頓着に問いかける。美琴は両手で頭を抱えたかったがあいにく両手がふさがっていたので代わりに盛大なため息をついた。 「……アンタね、女に服贈る意味って知ってんの?」 「知らねーけど。何か意味あんの?」 「じゃ、そこの店員にでも聞いてきたら?」  美琴が少し離れたところでガラス越しに二人の様子を伺うブランドショップの店員をしれっと指差すと、 「わかった、ちょっくら行ってくる」  美琴とつないでいた手を離し、素でその場を離れようとした上条の首根っこをとっさに美琴が掴んだ。 「ばっ、馬鹿! んな事人に聞くんじゃないわよっ!」 「人に聞けって言ったり聞くなって言ったりどっちなんだよ?」 「いっ、いっ、いっ、良いでしょそんなのどっちでも!」  相手に服を贈る意味は諸説あるが、男性が女性に衣類を贈る場合はその服を『脱がせる』下心が含まれるという都市伝説が存在する。美琴は遠まわしにそれを指摘したのだが、上条は知らなかったらしい。 「……服じゃダメなのか? じゃあ下着とか」 「もっとダメに決まってんでしょ!」  下着の場合はさらに危険だ。詳しくは白井黒子を参照されたい。白井の場合は美琴に防御力の低いものを着せて恥じらう様を楽しむ事も含まれているのでもっともっとまずいと思う。  美琴は羞恥に染まる頬を隠すべくその場で自分の腰を軸に体を右回転。左手に持った薄っぺらなカバンに遠心力によって発生した運動エネルギーをすべて乗せて型崩れしないよう革で補強された細い側面を力いっぱい上条の顔面に向かって叩き込む。美琴に襟足をつかまれた上条は逃げることもできず美琴の体重と遠心力が余す所なくかかった常盤台中学指定学生鞄の一撃に 「ぷげぼばっ!?」  細く長く続く職人芸の縫い目跡をくっきりと頬に刻んで為す術も無くその場に崩れ落ちた。  右手は鞄、左手は美琴の手を握っているため細長に腫れ上がった頬をさすることもできない。美琴の隣を歩く上条は『不幸だ……』とうなだれながら自分の何が悪かったのか理由を探し続けている。 「なんで俺は彼女からカバンでひっぱたかれなくちゃならないんでしょうか……?」 「アンタが無神経なのが悪いんでしょ。自業自得よ」 「無神経ってそんな……意味わかんねーぞ」  上条の目には冗談でも何でもなく大粒の涙が浮かんでいる。よっぽど痛かったらしい。  鈍い男への制裁は終わった。仕方ないからクリスマスの予定について自分から水を向けてみようと美琴は思い直して 「そうだ。二四日、もちろんアンタ空けてあるわよね?」 「……いや、もう先約が入ってる」 「はぁ?」 「と言うより、二四日込みでその前一週間びっしり埋まってる。だからその週はお前、うち来なくて良いぞ」 「ちょっとそれってどういう……まさかアンタ、また『外』に行くわけ?」  美琴はこれなら納得できる、という答えを即座に取り出す。以前にも上条が美琴に黙って外へ出て、連絡が取れなくなった事態を身を持って体験していることもあり、美琴の表情が不安で曇っていく。 「そうじゃねえって。……ちっと用事があってその間は抜けられそうにねーんだ。帰りもたぶん遅くなるし。お前、その日何か俺に用事でもあんの?」  クリスマスは救世主誕生前夜の二四日にお祝いのごちそうを食べ、生誕当日は質素に過ごすのが一般的な十字教徒の過ごし方だ。クリスマスプレゼント、というのも一二月六日の聖ニコラウス生誕日にオランダ系十字教徒がプレゼントを贈り合ったのが、いつの間にかクリスマス合わせにずれ込んだだけに過ぎない。ましてや日本ではレストラン業界やホテル業界その他もろもろによる奇妙な圧力のおかげでクリスマスと言えばデートの日と歪んだ風習が広まり、真の意味で一二月二四日が何のために存在するのかを知らない人間のほうが圧倒的だ。赤髪の神父ステイル=マグヌスも自らの破戒ぶりを棚に上げて日本の堕落さ加減を罵っていたが、ローマ教皇以下お歴々がこの街の景色を見たら揃ってひっくり返って腰を抜かすかもしれない。  上条は『竜王の殺息』の余波を頭に受けて七月二八日以前のエピソード記憶を失っている。つまり今年のクリスマスは上条にとって『初めて』迎えるクリスマスである。加えて以前同居していた銀髪碧眼の敬虔なるシスターによるありがたい薫陶もあって、一二月二四日はちょっと奮発したご飯を食べて親しい人にプレゼントを贈る日という知識だけを持っており、美琴とデートすると言う意識はほとんどない。 「あ、あ、あ、アンタねぇ………………」  美琴は上条の記憶喪失を知ってはいるが、何をどう失っているのかまでは上条の懇願により深く把握していない。だから上条の答えは上条自身にとって当たり前のことでも、美琴にしてみればあまりにも酷な一撃だった。 「ん? どうした? 何かあったのか?」 「……何でもない。アンタがそういう奴だって言うの忘れてただけ」 「ああ、あと冬休みはほぼ全部補習が入ってっから。今年は実家に帰れそうにねーな」  上条はうわー俺って改めて不幸だと嘆息するが、むしろそれ以上に悲しい思いをしているのは帰省の日程を全面的に書き換えてローテーションで上条の補習を受け持つ担当教諭月詠小萌以下不幸な教師の面々だ。中には親がセッティングしてくれたお見合いを蹴って人生のチャンスを棒に振った教師の鑑もいる。 「そう。……私は二八日に実家帰って、四日こっちに戻るから」  美琴は心の中で密かに立てた年末年始の上条との予定を丸めてゴミ箱に叩き込んだ。 「ふーん。……じゃあ駅までの送り迎えはしてやんよ。時間が決まったら後で教えてくれ」 「うん。ありがと」  一生片思いで構わないと言った手前、顔をひきつらせながら物分かりのいい彼女を演じる美琴はきっと、世界で一番不幸な『彼女』だろう。  せっかくアイツが気に入るかと思って髪を伸ばしてみたけれど、あの馬鹿クリスマスにも気づかないしアッタマきたからこの際バッサリ切ってやる。  美琴の今の心境を文字にして表現するならこんな感じだろうか。  美琴は携帯電話の登録番号リストを開いてとある美容院の番号を呼び出し、通話の準備を始める。空いているなら予約を入れてさっさと切ってしまいたい。 「黒子ー、坂島さんっていつごろ空いてるかアンタ聞いてる?」  坂島道端は常盤台中学指定美容院の店主だ。髪と血液、そして唾液は能力者のDNAマップを回収する格好のサンプルとなるため、入学条件は強能力者以上と基準を設けている常盤台中学では特定の『身体』に関係する業者について徹底的なチェックを行い、条件を通過した相手のみと提携し生徒への利用を徹底させている。美琴から見ると坂島はやる気はおろかファッションセンスも欠けているように思えるが腕は確かだ。そして何故か白井と馬が合うように見える。学校指定の美容院は他にも存在するが、白井と同じく美琴も坂島の美容院で定期的に髪を整えてもらっている。 「二四日は予約でいっぱいだそうですけれど、その前まではガラッガラで閑古鳥が鳴いてるっていじけてましたわ。お姉様、御髪に手を入れられるおつもりですの?」 「そうそう、『おつもり』ですのよー。ここらでバサッとイメチェンでも図ろうかなーってね」  厭わしげに髪を手で払う美琴のおちゃらけたような言葉に顔をしかめて 「お姉様、乙女が長く伸ばした髪を切り落とすときは失恋の時と申しますけれど、まさかお姉様を振るような馬鹿な殿方がこの世に存在しますの?」  白井は太股に巻きつけたホルダーから一本の金属矢を引き抜き、目の高さに持ち上げると美琴の前で『そんな命知らずがいるならこの金属矢をお見舞いしますの』と構えて見せる。美琴はその言葉をそっくりそのまま上条に叩きつけてやりたいと言う思いを口の中で噛み砕いて 「そそそ、そんな奴いないわよ。だいたい私誰とも付き合ってないし? ただね、伸ばすの飽きちゃったから思い切って切りに行こうかなってね?」 「そう言えば、近頃お姉様は週二回寮の夕食をキャンセルされてらっしゃると土御門から聞いてますけれど、それは何か……夕食の時間に定期的に戻って来れない理由でもございますの? ……殿方がらみで」  近頃、常盤台中学ではとある噂話が校内を賑わせている。  生徒達の声を拾い上げてみると『以前から御坂様はお美しかったですけれども最近はその美しさに磨きがかかられて』『御坂様の心を射止めた素敵な殿方がいらっしゃるようですのよ』『もしかしてその方は夏休みに御坂様が逢引されたお方かしら』『御坂様があのように頬を染めてらっしゃるなんてその殿方はどんな方なのでしょう』『御坂様、瞳が潤んで何だか可愛らしいですわ』以下略。  男性であれば見逃しがちな女性のわずかな変化を同性は見逃さない。それが本人が希望しないにも関わらずファンと言う名の信奉者が山ほどついてくる御坂美琴相手であればなおさらだ。美琴がヘアピンを変えたときには学内が蜂の巣をつつくほどの大騒ぎになったものだが、美琴いわくほんのちょっと髪型を変えてほんのちょっとリップを変えてほんのちょっと下着の趣味を変えただけで、美琴を遠巻きに囲むように噂が波紋を作って広がっていく。  小倉百人一首に詠まれる平兼盛の『忍ぶれど色に出でにけり我が恋は』を地で行く今の美琴は、以前にも増して校内の注目の的なのだ。  自称美琴のスポークスマンである白井のところにも美琴本人に直接質問をぶつけられない上級生同級生下級生が連日わんさと押しかけて噂の真相を尋ねに来ても、当の美琴から何も聞かされてない上に人のプライベートをペラペラ喋ることについて白眼視している白井としては『そのような噂など』と一蹴しているが、誰よりも何よりも真っ先に美琴に問い質したいのも他ならぬ白井自身である。 「あ? え? ちっ、違うわよ黒子! 殿方とかは関係なくて……だ、だ、ダイエット! そうダイエットしてんのよ私。アンタほどじゃないけど私もちょっとはスタイルに気を遣って……」 「お姉様のスレンダーなスタイルでダイエットなどされたら……即! 胸にダメージが行くのでは?」  美琴の次の反応を大胆に予測した白井がぷぷぷと笑う。  初春も佐天も何か情報を握っているらしいのだが、いくら買収しようとしても頑として首を縦に振らない事に業を煮やした白井は直接行動に出ることにした。すなわちそれは、わかりやすいほどに反応を返す美琴への挑発。  白井をどつき回す態度に出れば白、初心な反応を見せれば黒だ。 「黒子……」  美琴の声色は聖母の慈悲のように柔らかく変化する。 (来た! やっぱり食いついて来ましたのねお姉様! 近頃のお姉様はすっかり色や艶が出てきましたし、誰かしら特定の殿方がお姉様のお相手を務めていることは間違いありませんの!! ここで相手があの類人猿である裏取りをしたらそのまま風紀委員権限であの類人猿を拘束してあの類人猿にこの金属矢を予備も含めて全弾叩きつけて再起不能にしてやりますの!! そして黒子はこの手にお姉様を取り戻し傷心のお姉様をお慰めしてその後はお姉様とうっへっへっあっはっはーっ!!)  美琴にくるりと背を向けノーガードの姿を晒し、その影で邪な笑みを浮かべて後の手はずを整えるべく算段にまで気を回す白井。  美琴は白井を傷つけないよう小さな声で語りかける。 「そろそろお互い胸の話題からは卒業しよっか。言うだけ虚しくなるからさ」  答えは限りなくグレーだった。ブルーかもしれない。  ……地雷を踏んでしまった。踏み抜いてしまった。  言うだけ言って顔に変な陰影を浮かび上がらせて妙に落ち込む美琴の姿に 「お、おおお、お姉様? 髪をお切りになるのでしたら黒子が付き添いますし何でしたら荷物持ちも使い走りもどんどん申し付けてくださって構いませんからお姉様? 元気を出してくださいませお姉様! お姉様? おーねーえーさーまーっ!?」  ああどうしようこんなお姉様は見たことがないと慌てふためきカメラを構えるかどうしようかいやここは素直にケーキ屋でも誘って自分の非礼を詫びた方が早いのか落ち着かないくせっ毛をぶんぶん上下に揺らしながら白井黒子は今まで使ったことのない種類の悲鳴を上げた。  美容室の外へ出ると、以前と同じように肩先で揃えられた美琴の髪を北風があおるように通り抜ける。ピンクのマフラーを首に巻いているので襟足はそれほどでもないが、髪が短くなった分寒さのようなものを感じる。  バッサリ切ろうと意気込んで来たけれど、大きな鏡の中に自分一人だけにはっきりわかる『私落ち込んでます』という姿を認めてうつむく美琴に坂島は 「ああ、御坂ちゃんいらっしゃい。結構伸びてきた事だしここらで一つドカンとドレッドヘア行ってみない? エクステばんばん追加してさー。御坂ちゃん髪が天然で茶色だから結構軽い感じに仕上がると思うんだよねぇ。それとも白井ちゃんには毎回断られるんだけどアフロどう、アフロ? サッカーやるにも隠し芸やるにもお勧めだよ。そう言えば常盤台中学にサッカー部ってあったっけ?」  アフロもドレッドも趣味じゃないからナチュラルに勧めないで欲しい。本当にこの美容室は常盤台中学の指定認可を受けているのだろうか?  賑わう街へ重い足を向けると、楽しそうに笑うカップルが何組も一人ぼっちの美琴を追い越して行く。  行き過ぎる彼らの背中に上条と自分の姿を重ね合わせて、どこでボタンを掛け違えてしまったのだろうと美琴は遠い目で世界を追い駆ける。  一体何をどうすれば上条は自分を本当に好きになってくれるのか。  レベル1からレベル5までの道のりを、美琴は振り向かず真っ直ぐに歩いてきた。正しい手段、正しい方法、正しい努力が今の美琴を作り上げ、それは誰にも恥ずべきところはないと美琴は自信を持って言える。  美琴は胸の内を正直に明かし、震える自分を叱咤して上条に対峙し、そして上条の彼女になった。それでもまだ上条は美琴を受け入れてはくれない。年齢ではなく、身体ではなく、もっと根本的な何かが足りない。恋に正しい道筋があるのなら教えて欲しいと美琴は願う。自分の何が間違っていると言うのだろう。  わからない。学園都市第三位の頭脳をもってしても答えが導き出せない。  切り落とした髪のようには振り払えない憂鬱と肩を並べてトボトボと街の中を歩いていると、一軒の花屋が美琴の視界に入った。店頭には溢れんばかりのポインセチアの鉢植えが置かれ、敷き詰められた赤と緑のクリスマスカラーが今の美琴の目には苦しいほどにまぶしく映る。数を数えるのも嫌になるほどたくさんの鉢植えの中で一つだけ異質な赤を見つけて 「あれ?」  大ぶりのポインセチアと同じくらいの高さに揃えられたそれは、南天の木だった。冬の寒さに負けないよう強く身を守った樹皮と、鈴なりの赤い実が目を引く。植木にしては小さいけれどこんな形でもちゃんと育つんだと感心し、美琴は身をかがめて南天の実にそっと左手を伸ばす。 「いらっしゃい」  初老の男の声が頭上から優しく響き、美琴はひくっと動きを止めて、そこからゆっくりと顔を上げた。店名らしいロゴが刺繍された、デニム地のエプロンを付けた男はもう一度美琴にいらっしゃい、と声をかけ 「南天が気に入ったのかな?」 「あ……えっと、気に入ったと言うか珍しいなって」  この季節に飛ぶように売れるポインセチアに比べれば、南天が学生の歓心を買うことはないだろう。売れないものを仕入れる不思議さに美琴が首を傾げていると 「南天の名前の由来はご存知かな、お嬢さん?」 「……はい。『難を転ずる』ですよね」  かつて美琴が自力で解決できなかった『難』は上条が転じてくれた。今はその上条がらみの『難』で美琴は懊悩する。 「さすが学園都市の学生さんだ。よく勉強していらっしゃる」  花屋の店主らしき男は美琴の答えに相好を崩した。 「今の季節、ポインセチアに比べたら南天なんて地味で売り物にはならないんだけど、私はこれが好きで毎年一つは仕入れてるんだ。難を転ずるようにと願ってね。お嬢さんは南天の花言葉をご存知かな?」 「いえ……何て言うんですか?」 「『私の愛は増すばかり』だよ」 「そうなんですか……。ありがとうございました」  美琴は丁寧に頭を下げると花屋を辞し、また人ごみの中へ戻った。  ぼんやりと北風に吹かれながら美琴は思う。  上条への思いは増すばかり、けれど上条の気持ちはわからない。  だんだん自分が欲張りでわがままになって行く。  上条の反応が薄い理由も、冷たいのもわかってて上条の反応ばかりを求めているような気がする。片思いでも良いと言いながら、やっぱり上条の心が欲しいと願ってしまう。  上条に恋を告げる前も、告げた後も、胸がこんなにも苦しい。  美琴はいつぞやのショーウィンドウに行き当たると、美しく魅せるようにライトアップされたウェディングドレスを見て感嘆のため息をつく。 「……やっぱりきれいよね……」  学園都市第三位だ超電磁砲だと言われても、蓋を開ければ美琴も一四歳の女の子だ。人並みに結婚、というよりウェディングドレスを着てみたいと言う漠然とした憧れはある。そこで上条が隣に並ぶ光景を想像して――――すぐに首を横に振った。  上条と美琴が二人並んでその日を迎える景色が心にうまく浮かばない。  美琴にとって上条への思いは生涯ただ一度のものだ。それを疑ったことはないが、何故か上条と肩を並べる未来の風景がどうしても美琴の心の中で像を結んでくれない。 「私達、ダメなのかな……片思いじゃやっぱ無理かな。アイツの気持ちを求めるのは……」  時間をかけて上条を振り向かせようと誓った決意が美琴の中でわずかに揺らぐ。 「何であんなの好きになっちゃったんだろ。……ねぇ?」  美琴はどこか悲しげな笑みを浮かべて。  瞳のないマネキンが美琴にこの上なく幸せな笑顔を向けた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox) 永遠 If_tomorrow_comes.  さんざんな一日だった。 『白井さんには内緒で』と初春飾利と佐天涙子に呼び出されてファミレスに来てみれば監視カメラによる記録映像と思しき『上条からおでこにキスされる美琴』の姿をネタにあれやこれやを聞き出されたのでマニカーニのケーキをおごると約束して口止めした後二人と別れてゲームセンターにでも行って気晴らししようと思ったら命知らずの男達に絡まれたので面倒だから雷撃の槍を連発して追い払ったら逆に警備ロボに追い駆けられて、何かもうあんまりなので上条にメールでもしてみようかなと携帯電話をポケットから取り出したところで黒髪ポニーテールの長身で美琴では到底太刀打ちできない母性の塊を持った女性と上条が仲良く歩いているところを見かけて『グラマラスな女隣に侍らせて鼻の下伸ばしてんじゃないわよアンタはーっ!』とバッチンバッチン言わせて上条を追い回し問い詰めるつもりが逃げられた。 「はぁ、いろいろゴロゴロと面倒ばっかり……もうどうなってんのよ」  クリスマスが近づき浮き足立つ街角で、御坂美琴は薄っぺらなカバンを肩に担いでお嬢様らしからぬため息を一つ。 「でもアイツ、マフラーちゃんと着けてたな……」  先日、美琴は上条当麻にお手製のセーターとマフラーを一揃いプレゼントした。  美琴の前で上条がそれを初めて身につけて、嬉しそうに笑って『似あうか?』と聞かれたときはさすがの美琴も卒倒しそうになった。改めて私ってコイツの彼女なんだなあとこみ上げるものを実感してから早三日でもう『あれ』だ。上条のフラグ体質は理解していないわけではないけれど、いい加減落ち着いて欲しいと美琴は思う。上条の母・詩菜も夫・刀夜に対してほぼ同じ感想を持っているがこちらは年季が入っている上に美琴と詩菜はこの件について話しあうほど深い付き合いもない。  美琴の視界の先で、走って逃げる上条の首元に『ここまでおいで』と手招きするがごとく風になびくマフラーを見て、上条の浮気疑惑に怒りで頭が沸騰しそうになりながら同時に緩む口元を抑えきれず、それが邪魔して上条を追いきれなかったのだがそのあたりは脇に置く。  ガラス張りの何処かの店頭で美琴はもう一度はぁ、とため息をつく。私今どんな顔してるんだろとぐったりしながら振り返って 「わぁ……新作かな、これ…………」  そこに展示されていたのは一着のウェディングドレスだった。  美しく着飾ったマネキンの足元にはとあるデザイナーの名前が刻んだプレートが置かれている。美琴がショーウィンドウに顔を近づけてのぞきこむと、やはり美琴の好きな有名デザイナーの手による逸品だ。純白のウェディングドレスはいつの時代も女の子の憧れだが、美琴は特にプリンセスラインという豪奢なドレープのついたデザインが好きだ。どんなものかわかりやすく一言で言うとフリフリのひらひら、である。 「良いなぁ。私もいつかこういうのを……いやいやいやそうじゃなくって!」  美琴は首をぶんぶん横に振り、ここ数日立て続けに美琴を見舞った腹立たしさの原因を思い出す。  何度ああいった光景を目にしただろう。  上条の隣に最初は霧が丘女学院の制服を来た眼鏡で巨乳の女の子、その三日後には二重まぶたがぱっちりとした巨乳の女の子、さらには金髪年上セクシー系でどう見ても上条のストライクゾーンな女性、そこから行って緑のジャージを来た巨乳の……あれは警備員だったから大方上条は叱られていたのだろう。そして最後に黒髪ポニーテールで―――いくつなんだあの女は。 「次から次へと巨乳、しかも全員私より、いや下手するとあの馬鹿より年上ばっかり……アンタは姐さん女房系巨乳マニアかっつーの」  私だってちょっとはその……とぶつぶつ何事かを呟いてから美琴はうつむき視線を胸元へ。  日頃から上条に中学生だのガキだのと言われては何故か無性に腹が立つ美琴としては、後輩・白井黒子の指摘通り心の奥底に早く大人なボディになりたいといった密かな願望を持っている。故に母・美鈴の言うとおりいっぱい食べればいっぱい育つのかとハンバーグをぱくついてみたり風紀委員の固法美偉を見習ってムサシノ牛乳を白井と二人でがぶ飲みしたこともある。上条が自分の外見ではなく年齢を気遣うあまり『本気で』相手にしないように意図しているのもわかっているが 「……何でアイツの知り合いは次から次へと……揃いも揃って……よりによって」  ―――気になる。  やっぱり大きさは正義なのだろうか。  心の中で上条に変な設定のレッテルをベタりと貼りつけてから、美琴は呟く。 「アイツに『本命』がちゃんといればこんなに騒がないで済むんだけどさ……」  美琴と上条は恋人同士だが、今の状態は限りなく美琴の片思いに近い。美琴が告白し、上条がそれを受け入れて、晴れて二人は彼女彼氏となったのだがまだまだ上条を『彼氏』と言って周囲に紹介できるほどの段階ではないと美琴は考えている。  まず上条の反応が薄い。それでも最近は改善の余地が見えてきたが、恋人っぽいイベントにはあまり関心を示さないし自分から動くこともない。普通の恋人同士なら彼女の誕生日と血液型くらい知ってそうなものだが、美琴は上条からそれを聞かれたことはない。聞かれない事に腹が立って美琴から教えた事もない。美琴は以前上条の能力を調べるため書庫に侵入を試みて、その時上条の誕生日と血液型を『偶然』知ったのだが、あとになって占い雑誌で調べてみたら星座別でも血液型別でも二人の相性は最悪だった。上条が美琴をスルーし続ける源はここにあるのかもしれない。  反応が薄いことよりもっと問題なのは、当の上条から美琴のことを『好きかどうかわからない』と言われている事だ。これについて美琴は上条に『一生片思いで構わない』と宣言しているが、上条に誰か特定の人がいるのではなくあっちへふらふらこっちへふらふらしている(ように見える)のがとにかく気に食わない。  目下上条の『本命』に一番近いはずの『彼女』でありながら、美琴の心は落ち着かない。こんな調子で一生かかって上条を振り向かせることなんてできるのだろうか?  あの馬鹿どこに行ったのよと周囲をキョロキョロしてみると、美琴のポケットの中で携帯電話がカエルの鳴き声に似た着信音を響かせる。美琴はスカートの脇に手を突っ込んで二つ折りのそれを取り出し、パカッと開いて着信画面を確認した。  噂をすればあの馬鹿だ。  美琴は心を鎮めて二回大きく深呼吸すると、通話ボタンを押しながら受話器を耳に当て腹の底に力を込めて 「こ」 『おいこら、出会い頭に電撃は止めろって。大事なマフラーが焦げちまうだろが』  上条の大げさなほどにため息混じりの声が、美琴の『こらーっ! アンタ今どこにいんのよ!?』と続く叫びを遮る。 『っつーかさ、俺に説明する間も与えずいきなりビリビリしながら追いかけてくんじゃねーよ。……お前、今どこにいる? GPS認証用のコードメールよこせ。そっちに迎えに行くから』  受話器の向こうでガリガリと頭をかく音が聞こえる。どうせ『しょうがねえなあ』とか『面倒臭えなあ』って思ってんでしょとぼやきながら美琴は携帯電話のボタンをポチポチと操作して画面を切り替えると内蔵アプリを呼び出し、次にメール送信ボタンを力いっぱい押し込んで 「……送ったわよ」 『…………ん。今届いた。えーっと……』  上条はメール受信画面に切り替えたらしく、声がしばらく途切れた。 『こっからだとちっと遠いな。五分……いや、一〇分くらいかかるけど待てるか?』  美琴は『アンタどんだけ遠くに逃げたのよっ!?』と怒鳴りつけたくなるのをこらえて 「わかった。待ってる」 『勝手にどっか行くなよ? じゃあな』  プツッと言う音と共に、回線は途切れた。 「……こんなところにいたらナンパされちゃうじゃない。さっさと来なさいよ、あの馬鹿」  携帯電話を折りたたんでポケットにしまい、上条が迎えに来てくれると言う嬉しさを先程の腹立たしさでごまかして、美琴は手近な壁に寄りかかって背中を預けると両手で薄っぺらなカバンの取っ手を持ってブラブラさせた。 「早く来ないかな……」  ジングルベルが絶え間なく流れる街角で、美琴は彼氏のお迎えを待っている。 「うす。待ったか?」  眠そうな目の端に、無用な運動の結果による疲労を浮かべた上条が美琴の前に現れた。 「……遅いわよ」 「あーはいはい悪うござんしたね」  必死にいら立ちの表情を作っていかにも『私怒ってるんだけど』と演技する美琴に、上条は悪びれない素振りで明後日の方向を向いて美琴の右手を取った。 「お前、今から時間あるか?」 「寮に帰ってもすることないから時間はあるわよ。何か用?」  平静を装い横目で上条を見ながら声の震えを抑えつつ、美琴は『やっとデートに誘ってくれる気になったのかしら』と上条の次の言葉を待つ。期待することはあきらめたつもりだが、いざとなるとドキドキしてしまう。 「あれこれ考えてみたんだけど思いつかねーからもうこの際お前に聞いちまおうと思って」 「何を?」 「お前のサイズ」  なっ……!? と美琴は言葉に詰まり、続いて手に持った薄っぺらなカバンで慌てて胸元をガードして 「何考えてんのよ!?」 「何って……だって俺お前のサイズ知らねーし。こないだセーターとマフラーもらったしさ。だからってわけじゃないけどクリスマスプレゼントは服あたりがいいのかなって。ああ、俺のセンスには期待すんなよ? そのためにお前に一緒に来てもらおうと思ってっから」  女もフライドポテトみたいにSサイズとかMサイズなのか? と上条が無頓着に問いかける。美琴は両手で頭を抱えたかったがあいにく両手がふさがっていたので代わりに盛大なため息をついた。 「……アンタね、女に服贈る意味って知ってんの?」 「知らねーけど。何か意味あんの?」 「じゃ、そこの店員にでも聞いてきたら?」  美琴が少し離れたところでガラス越しに二人の様子を伺うブランドショップの店員をしれっと指差すと、 「わかった、ちょっくら行ってくる」  美琴とつないでいた手を離し、素でその場を離れようとした上条の首根っこをとっさに美琴が掴んだ。 「ばっ、馬鹿! んな事人に聞くんじゃないわよっ!」 「人に聞けって言ったり聞くなって言ったりどっちなんだよ?」 「いっ、いっ、いっ、良いでしょそんなのどっちでも!」  相手に服を贈る意味は諸説あるが、男性が女性に衣類を贈る場合はその服を『脱がせる』下心が含まれるという都市伝説が存在する。美琴は遠まわしにそれを指摘したのだが、上条は知らなかったらしい。 「……服じゃダメなのか? じゃあ下着とか」 「もっとダメに決まってんでしょ!」  下着の場合はさらに危険だ。詳しくは白井黒子を参照されたい。白井の場合は美琴に防御力の低いものを着せて恥じらう様を楽しむ事も含まれているのでもっともっとまずいと思う。  美琴は羞恥に染まる頬を隠すべくその場で自分の腰を軸に体を右回転。左手に持った薄っぺらなカバンに遠心力によって発生した運動エネルギーをすべて乗せて型崩れしないよう革で補強された細い側面を力いっぱい上条の顔面に向かって叩き込む。美琴に襟足をつかまれた上条は逃げることもできず美琴の体重と遠心力が余す所なくかかった常盤台中学指定学生鞄の一撃に 「ぷげぼばっ!?」  細く長く続く職人芸の縫い目跡をくっきりと頬に刻んで為す術も無くその場に崩れ落ちた。  右手は鞄、左手は美琴の手を握っているため細長に腫れ上がった頬をさすることもできない。美琴の隣を歩く上条は『不幸だ……』とうなだれながら自分の何が悪かったのか理由を探し続けている。 「なんで俺は彼女からカバンでひっぱたかれなくちゃならないんでしょうか……?」 「アンタが無神経なのが悪いんでしょ。自業自得よ」 「無神経ってそんな……意味わかんねーぞ」  上条の目には冗談でも何でもなく大粒の涙が浮かんでいる。よっぽど痛かったらしい。  鈍い男への制裁は終わった。仕方ないからクリスマスの予定について自分から水を向けてみようと美琴は思い直して 「そうだ。二四日、もちろんアンタ空けてあるわよね?」 「……いや、もう先約が入ってる」 「はぁ?」 「と言うより、二四日込みでその前一週間びっしり埋まってる。だからその週はお前、うち来なくて良いぞ」 「ちょっとそれってどういう……まさかアンタ、また『外』に行くわけ?」  美琴はこれなら納得できる、という答えを即座に取り出す。以前にも上条が美琴に黙って外へ出て、連絡が取れなくなった事態を身を持って体験していることもあり、美琴の表情が不安で曇っていく。 「そうじゃねえって。……ちっと用事があってその間は抜けられそうにねーんだ。帰りもたぶん遅くなるし。お前、その日何か俺に用事でもあんの?」  クリスマスは救世主誕生前夜の二四日にお祝いのごちそうを食べ、生誕当日は質素に過ごすのが一般的な十字教徒の過ごし方だ。クリスマスプレゼント、というのも一二月六日の聖ニコラウス生誕日にオランダ系十字教徒がプレゼントを贈り合ったのが、いつの間にかクリスマス合わせにずれ込んだだけに過ぎない。ましてや日本ではレストラン業界やホテル業界その他もろもろによる奇妙な圧力のおかげでクリスマスと言えばデートの日と歪んだ風習が広まり、真の意味で一二月二四日が何のために存在するのかを知らない人間のほうが圧倒的だ。赤髪の神父ステイル=マグヌスも自らの破戒ぶりを棚に上げて日本の堕落さ加減を罵っていたが、ローマ教皇以下お歴々がこの街の景色を見たら揃ってひっくり返って腰を抜かすかもしれない。  上条は『竜王の殺息』の余波を頭に受けて七月二八日以前のエピソード記憶を失っている。つまり今年のクリスマスは上条にとって『初めて』迎えるクリスマスである。加えて以前同居していた銀髪碧眼の敬虔なるシスターによるありがたい薫陶もあって、一二月二四日はちょっと奮発したご飯を食べて親しい人にプレゼントを贈る日という知識だけを持っており、美琴とデートすると言う意識はほとんどない。 「あ、あ、あ、アンタねぇ………………」  美琴は上条の記憶喪失を知ってはいるが、何をどう失っているのかまでは上条の懇願により深く把握していない。だから上条の答えは上条自身にとって当たり前のことでも、美琴にしてみればあまりにも酷な一撃だった。 「ん? どうした? 何かあったのか?」 「……何でもない。アンタがそういう奴だって言うの忘れてただけ」 「ああ、あと冬休みはほぼ全部補習が入ってっから。今年は実家に帰れそうにねーな」  上条はうわー俺って改めて不幸だと嘆息するが、むしろそれ以上に悲しい思いをしているのは帰省の日程を全面的に書き換えてローテーションで上条の補習を受け持つ担当教諭月詠小萌以下不幸な教師の面々だ。中には親がセッティングしてくれたお見合いを蹴って人生のチャンスを棒に振った教師の鑑もいる。 「そう。……私は二八日に実家帰って、四日こっちに戻るから」  美琴は心の中で密かに立てた年末年始の上条との予定を丸めてゴミ箱に叩き込んだ。 「ふーん。……じゃあ駅までの送り迎えはしてやんよ。時間が決まったら後で教えてくれ」 「うん。ありがと」  一生片思いで構わないと言った手前、顔をひきつらせながら物分かりのいい彼女を演じる美琴はきっと、世界で一番不幸な『彼女』だろう。  せっかくアイツが気に入るかと思って髪を伸ばしてみたけれど、あの馬鹿クリスマスにも気づかないしアッタマきたからこの際バッサリ切ってやる。  美琴の今の心境を文字にして表現するならこんな感じだろうか。  美琴は携帯電話の登録番号リストを開いてとある美容院の番号を呼び出し、通話の準備を始める。空いているなら予約を入れてさっさと切ってしまいたい。 「黒子ー、坂島さんっていつごろ空いてるかアンタ聞いてる?」  坂島道端は常盤台中学指定美容院の店主だ。髪と血液、そして唾液は能力者のDNAマップを回収する格好のサンプルとなるため、入学条件は強能力者以上と基準を設けている常盤台中学では特定の『身体』に関係する業者について徹底的なチェックを行い、条件を通過した相手のみと提携し生徒への利用を徹底させている。美琴から見ると坂島はやる気はおろかファッションセンスも欠けているように思えるが腕は確かだ。そして何故か白井と馬が合うように見える。学校指定の美容院は他にも存在するが、白井と同じく美琴も坂島の美容院で定期的に髪を整えてもらっている。 「二四日は予約でいっぱいだそうですけれど、その前まではガラッガラで閑古鳥が鳴いてるっていじけてましたわ。お姉様、御髪に手を入れられるおつもりですの?」 「そうそう、『おつもり』ですのよー。ここらでバサッとイメチェンでも図ろうかなーってね」  厭わしげに髪を手で払う美琴のおちゃらけたような言葉に顔をしかめて 「お姉様、乙女が長く伸ばした髪を切り落とすときは失恋の時と申しますけれど、まさかお姉様を振るような馬鹿な殿方がこの世に存在しますの?」  白井は太股に巻きつけたホルダーから一本の金属矢を引き抜き、目の高さに持ち上げると美琴の前で『そんな命知らずがいるならこの金属矢をお見舞いしますの』と構えて見せる。美琴はその言葉をそっくりそのまま上条に叩きつけてやりたいと言う思いを口の中で噛み砕いて 「そそそ、そんな奴いないわよ。だいたい私誰とも付き合ってないし? ただね、伸ばすの飽きちゃったから思い切って切りに行こうかなってね?」 「そう言えば、近頃お姉様は週二回寮の夕食をキャンセルされてらっしゃると土御門から聞いてますけれど、それは何か……夕食の時間に定期的に戻って来れない理由でもございますの? ……殿方がらみで」  近頃、常盤台中学ではとある噂話が校内を賑わせている。  生徒達の声を拾い上げてみると『以前から御坂様はお美しかったですけれども最近はその美しさに磨きがかかられて』『御坂様の心を射止めた素敵な殿方がいらっしゃるようですのよ』『もしかしてその方は夏休みに御坂様が逢引されたお方かしら』『御坂様があのように頬を染めてらっしゃるなんてその殿方はどんな方なのでしょう』『御坂様、瞳が潤んで何だか可愛らしいですわ』以下略。  男性であれば見逃しがちな女性のわずかな変化を同性は見逃さない。それが本人が希望しないにも関わらずファンと言う名の信奉者が山ほどついてくる御坂美琴相手であればなおさらだ。美琴がヘアピンを変えたときには学内が蜂の巣をつつくほどの大騒ぎになったものだが、美琴いわくほんのちょっと髪型を変えてほんのちょっとリップを変えてほんのちょっと下着の趣味を変えただけで、美琴を遠巻きに囲むように噂が波紋を作って広がっていく。  小倉百人一首に詠まれる平兼盛の『忍ぶれど色に出でにけり我が恋は』を地で行く今の美琴は、以前にも増して校内の注目の的なのだ。  自称美琴のスポークスマンである白井のところにも美琴本人に直接質問をぶつけられない上級生同級生下級生が連日わんさと押しかけて噂の真相を尋ねに来ても、当の美琴から何も聞かされてない上に人のプライベートをペラペラ喋ることについて白眼視している白井としては『そのような噂など』と一蹴しているが、誰よりも何よりも真っ先に美琴に問い質したいのも他ならぬ白井自身である。 「あ? え? ちっ、違うわよ黒子! 殿方とかは関係なくて……だ、だ、ダイエット! そうダイエットしてんのよ私。アンタほどじゃないけど私もちょっとはスタイルに気を遣って……」 「お姉様のスレンダーなスタイルでダイエットなどされたら……即! 胸にダメージが行くのでは?」  美琴の次の反応を大胆に予測した白井がぷぷぷと笑う。  初春も佐天も何か情報を握っているらしいのだが、いくら買収しようとしても頑として首を縦に振らない事に業を煮やした白井は直接行動に出ることにした。すなわちそれは、わかりやすいほどに反応を返す美琴への挑発。  白井をどつき回す態度に出れば白、初心な反応を見せれば黒だ。 「黒子……」  美琴の声色は聖母の慈悲のように柔らかく変化する。 (来た! やっぱり食いついて来ましたのねお姉様! 近頃のお姉様はすっかり色や艶が出てきましたし、誰かしら特定の殿方がお姉様のお相手を務めていることは間違いありませんの!! ここで相手があの類人猿である裏取りをしたらそのまま風紀委員権限であの類人猿を拘束してあの類人猿にこの金属矢を予備も含めて全弾叩きつけて再起不能にしてやりますの!! そして黒子はこの手にお姉様を取り戻し傷心のお姉様をお慰めしてその後はお姉様とうっへっへっあっはっはーっ!!)  美琴にくるりと背を向けノーガードの姿を晒し、その影で邪な笑みを浮かべて後の手はずを整えるべく算段にまで気を回す白井。  美琴は白井を傷つけないよう小さな声で語りかける。 「そろそろお互い胸の話題からは卒業しよっか。言うだけ虚しくなるからさ」  答えは限りなくグレーだった。ブルーかもしれない。  ……地雷を踏んでしまった。踏み抜いてしまった。  言うだけ言って顔に変な陰影を浮かび上がらせて妙に落ち込む美琴の姿に 「お、おおお、お姉様? 髪をお切りになるのでしたら黒子が付き添いますし何でしたら荷物持ちも使い走りもどんどん申し付けてくださって構いませんからお姉様? 元気を出してくださいませお姉様! お姉様? おーねーえーさーまーっ!?」  ああどうしようこんなお姉様は見たことがないと慌てふためきカメラを構えるかどうしようかいやここは素直にケーキ屋でも誘って自分の非礼を詫びた方が早いのか落ち着かないくせっ毛をぶんぶん上下に揺らしながら白井黒子は今まで使ったことのない種類の悲鳴を上げた。  美容室の外へ出ると、以前と同じように肩先で揃えられた美琴の髪を北風があおるように通り抜ける。ピンクのマフラーを首に巻いているので襟足はそれほどでもないが、髪が短くなった分寒さのようなものを感じる。  バッサリ切ろうと意気込んで来たけれど、大きな鏡の中に自分一人だけにはっきりわかる『私落ち込んでます』という姿を認めてうつむく美琴に坂島は 「ああ、御坂ちゃんいらっしゃい。結構伸びてきた事だしここらで一つドカンとドレッドヘア行ってみない? エクステばんばん追加してさー。御坂ちゃん髪が天然で茶色だから結構軽い感じに仕上がると思うんだよねぇ。それとも白井ちゃんには毎回断られるんだけどアフロどう、アフロ? サッカーやるにも隠し芸やるにもお勧めだよ。そう言えば常盤台中学にサッカー部ってあったっけ?」  アフロもドレッドも趣味じゃないからナチュラルに勧めないで欲しい。本当にこの美容室は常盤台中学の指定認可を受けているのだろうか?  賑わう街へ重い足を向けると、楽しそうに笑うカップルが何組も一人ぼっちの美琴を追い越して行く。  行き過ぎる彼らの背中に上条と自分の姿を重ね合わせて、どこでボタンを掛け違えてしまったのだろうと美琴は遠い目で世界を追い駆ける。  一体何をどうすれば上条は自分を本当に好きになってくれるのか。  レベル1からレベル5までの道のりを、美琴は振り向かず真っ直ぐに歩いてきた。正しい手段、正しい方法、正しい努力が今の美琴を作り上げ、それは誰にも恥ずべきところはないと美琴は自信を持って言える。  美琴は胸の内を正直に明かし、震える自分を叱咤して上条に対峙し、そして上条の彼女になった。それでもまだ上条は美琴を受け入れてはくれない。年齢ではなく、身体ではなく、もっと根本的な何かが足りない。恋に正しい道筋があるのなら教えて欲しいと美琴は願う。自分の何が間違っていると言うのだろう。  わからない。学園都市第三位の頭脳をもってしても答えが導き出せない。  切り落とした髪のようには振り払えない憂鬱と肩を並べてトボトボと街の中を歩いていると、一軒の花屋が美琴の視界に入った。店頭には溢れんばかりのポインセチアの鉢植えが置かれ、敷き詰められた赤と緑のクリスマスカラーが今の美琴の目には苦しいほどにまぶしく映る。数を数えるのも嫌になるほどたくさんの鉢植えの中で一つだけ異質な赤を見つけて 「あれ?」  大ぶりのポインセチアと同じくらいの高さに揃えられたそれは、南天の木だった。冬の寒さに負けないよう強く身を守った樹皮と、鈴なりの赤い実が目を引く。植木にしては小さいけれどこんな形でもちゃんと育つんだと感心し、美琴は身をかがめて南天の実にそっと左手を伸ばす。 「いらっしゃい」  初老の男の声が頭上から優しく響き、美琴はひくっと動きを止めて、そこからゆっくりと顔を上げた。店名らしいロゴが刺繍された、デニム地のエプロンを付けた男はもう一度美琴にいらっしゃい、と声をかけ 「南天が気に入ったのかな?」 「あ……えっと、気に入ったと言うか珍しいなって」  この季節に飛ぶように売れるポインセチアに比べれば、南天が学生の歓心を買うことはないだろう。売れないものを仕入れる不思議さに美琴が首を傾げていると 「南天の名前の由来はご存知かな、お嬢さん?」 「……はい。『難を転ずる』ですよね」  かつて美琴が自力で解決できなかった『難』は上条が転じてくれた。今はその上条がらみの『難』で美琴は懊悩する。 「さすが学園都市の学生さんだ。よく勉強していらっしゃる」  花屋の店主らしき男は美琴の答えに相好を崩した。 「今の季節、ポインセチアに比べたら南天なんて地味で売り物にはならないんだけど、私はこれが好きで毎年一つは仕入れてるんだ。難を転ずるようにと願ってね。お嬢さんは南天の花言葉をご存知かな?」 「いえ……何て言うんですか?」 「『私の愛は増すばかり』だよ」 「そうなんですか……。ありがとうございました」  美琴は丁寧に頭を下げると花屋を辞し、また人ごみの中へ戻った。  ぼんやりと北風に吹かれながら美琴は思う。  上条への思いは増すばかり、けれど上条の気持ちはわからない。  だんだん自分が欲張りでわがままになって行く。  上条の反応が薄い理由も、冷たいのもわかってて上条の反応ばかりを求めているような気がする。片思いでも良いと言いながら、やっぱり上条の心が欲しいと願ってしまう。  上条に恋を告げる前も、告げた後も、胸がこんなにも苦しい。  美琴はいつぞやのショーウィンドウに行き当たると、美しく魅せるようにライトアップされたウェディングドレスを見て感嘆のため息をつく。 「……やっぱりきれいよね……」  学園都市第三位だ超電磁砲だと言われても、蓋を開ければ美琴も一四歳の女の子だ。人並みに結婚、というよりウェディングドレスを着てみたいと言う漠然とした憧れはある。そこで上条が隣に並ぶ光景を想像して――――すぐに首を横に振った。  上条と美琴が二人並んでその日を迎える景色が心にうまく浮かばない。  美琴にとって上条への思いは生涯ただ一度のものだ。それを疑ったことはないが、何故か上条と肩を並べる未来の風景がどうしても美琴の心の中で像を結んでくれない。 「私達、ダメなのかな……片思いじゃやっぱ無理かな。アイツの気持ちを求めるのは……」  時間をかけて上条を振り向かせようと誓った決意が美琴の中でわずかに揺らぐ。 「何であんなの好きになっちゃったんだろ。……ねぇ?」  美琴はどこか悲しげな笑みを浮かべて。  瞳のないマネキンが美琴にこの上なく幸せな笑顔を向けた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー