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「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life/Part13」(2011/04/17 (日) 00:06:42) の最新版変更点
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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life)
「んっ…………朝か」
上条は眠い目を擦りながら起き上がると、リビングへと向かう。
綺麗に片付いたリビングの中心には磨かれた黒檀のテーブルがある。
「よっと」
上条が椅子を引いて腰をかけると、目の前に白い腕が伸び、コーヒーの入ったマグカップが置かれる。
「おはよ、当麻」
「あぁ、おはよう。美琴」
エプロン姿の美琴はにっこりと笑うと鼻歌を歌いながらキッチンに戻って行った。
上条は目の前のカップを手に取り口をつける。独特の香りと味によって、上条の脳細胞に覚醒を促していく。
ふぅ、と一息つき、上条はカップをテーブルにおいた。
「なぁ、美琴。豆変えた?」
「あ、分かった?新しいのが出てたから気になっちゃって」
美琴は嬉しそうな表情を浮かべてコーヒー豆の入った袋を掲げる。
キッチンから漂ってくるパンの焼ける香りに、上条は空腹感を感じる。
そんな上条の状態を知ってか知らずか、美琴はトーストとベーコンエッグを運んできた。
「はい、どうぞ」
「おう、さんきゅーな。上条さんはもう腹ペコですよ」
「当麻、まだその口癖抜けないのね。今は、私も上条さんなんだけど?」
私も使ってみようかな、と言いながら美琴は上条の向かいに座る。
「「いただきます」」
上条はトーストにかぶりつく。バターを多めに塗ってくれているのも、コーヒーにミルク多めなのも上条の好みどおりだ。
上条は美琴の気配りに心の中で感謝する。口に出してやれば彼女も喜ぶだろうが、それは少し恥ずかしい。
「なぁ、美琴」
「なに?」
上条は壁に貼られたカレンダーに目をやると、今日が休日であることを確認する。
「今日は、久々にどっか行こうか」
「えっ……そ、それって………デート?」
美琴はバッと音が鳴るような速度で上条を見ると、仄かに頬を染める。
付き合い始めてそれなりに経つどころか、結婚して半年が経つというのに、美琴は相変わらずこの手の言葉に恥じらう。
そんないつまでも初心な所がまた可愛いところなのだが、そういうのを見てしまうとついついからかってしまう。
「ん?嫌だったか?」
「いいいいいい嫌なわけないでしょうがっ!」
ぶんぶん、と首を横に振り、顔を真っ赤にまで染め上げる。
美琴の反応を見て、上条は満足げに頷くとベーコンエッグに取り掛かった。
「しっかしお前は相変わらず、すぐに赤くなるよな。これじゃ、この先どうなるんだよ」
「う、うるさいわね!っていうか、この先ってなによっ、この先って」
(そんだけ真っ赤な顔で否定されてもな)
上条は呆れたように卵を口に入れる。半熟にされた黄身が口の中で潰れる。
「まだ朝だけど……言った方がいいか?」
「いいいいいいいい言わなくていいっ!!」
「どっちだよ」
上条はベーコンエッグを平らげると、再びトーストをかじった。
(ま、これでも随分マシになった方か)
上条は昔の美琴を思い出し、吹き出しそうになるのだった。
「こんなところに呼び出して、何の用よ?」
美琴は上条の呼び出しを受けて、例の自販機前まで来ていた。
といっても、あの壊れかけの自販機は某お嬢様の暴行の数々によってリタイアしており、妙にコーヒーばっかり扱う自販機が代わって君臨していた。
以前の地雷原のような内容ではないものの、コーヒーだけではそれほどの購入も見込めず、利用客は滅多に見られない。
偶に白髪の青年と、妙な喋り方をする中学生くらいの女の子が大量に買っている姿が目撃されるらしい。
そんな場所ではあるが、この2人、特に上条にとっては思い出の場所だ。
「愛しの彼氏相手に連れねぇな。やけに不機嫌だがどうした?」
「ったく、アンタが相変わらずタイミングの悪い奴だってことは良く分かったわよ」
美琴は上条の隣にドカッと腰掛ける。彼女を『御坂様』と慕う人間から見れば異様な姿だろう。
「もしかして、俺はまたやっちまったのですか?」
「そうね、愛すべき後輩達による『卒業祝いパーティ』の真っ最中だったけど?」
先日…といっても、つい2日前に美琴は高校を卒業した。上条があれほど苦労した大学入試も一瞬でパスしていた彼女は優雅な春休みライフに突入したところであった。
「愛すべき後輩ってぇのは………アレか?」
「アレ扱いはないでしょ。黒子と飾利と涙子。すぐ帰ってくるから待ってて、って言って抜けてきたのよ?あの子らにも感謝しなさい」
美琴は不躾な態度は許さない、とでも言いたげな目で上条を見る。上条も『そういう意味で』アレと言ったつもりはない。
英語で言う『that』で表現したのは、文字通りその3人が美琴の来た方向の茂みに隠れるのが見えたからである。
(気付いてないんかよ………まぁ、いいか)
バラしても良かったが、大騒ぎになって有耶無耶にされては敵わない。せっかく決意したのだから早めにケリをつけたかった。
知っている人に見られているというのは勿論、恥ずかしくはある。しかしながら、どうせ後で根掘り葉掘り聞かれるのだ。
白井ならともかく、残り2人は3つも年上である上条でさえ手を焼くのだから。
「まぁ、そうだな。感謝がてらじゃねぇが…パーティにでも誘うかな」
「アンタ、まさかデートに誘うつもりじゃないでしょうね?」
「んなわけねぇだろ」
上条はビリビリと帯電しだした美琴の肩に手を置く。
「そもそも何よ?パーティって。統括理事会関係?それとも十字教関係?」
「そっから聞いてくるとはさすがは美琴センセー。でも、両方ハズレ。今回は個人的なもんです」
上条は大学に入って以来、学園都市の統括理事会の一員として活動している。といっても、正式メンバーではなく形式上はバイトというものである。
第3次世界大戦が終わった後、その功績と『上条勢力』と呼ばれる各方面へのコネクションを買われ、学園都市代表として外交に駆り出されることがよくある。
その仕事をこなす為の肩書としての『統括理事』である。もちろん、『上条勢力』を恐れて暗殺を企てる者もいる。
そこは『統括理事』として、公的にボディーガードをつけることが出来るので、かえって安全が保障されるのだ。
ちなみに、上条はボディーガードの存在を知らないが、やたらと土御門や一方通行に会うことが増えたことを気にしてはいる。
「じゃぁ、なに?私の大学合格祝いならわざわざやらなくてもいいわよ?」
「まぁ、落ち着け。ちょっとは俺に話をさせろ」
上条は人差し指を立てて、自分の口の前に持ってくる。美琴はしぶしぶ、と言った顔で黙る。
「俺が言いたいことを全部言い終わったら、その後でお前の話を聞いてやる。分かったか?」
「………うん」
「よし。まぁ、そんなに長くするつもりはねぇから、すぐにでも戻れるパーティにはずだ」
上条は頷くと美琴の肩から手を離し、例の3人のいる茂みをちらりと見る。慌てたように3つの頭が隠れた。
「単刀直入にいくぞ?美琴、俺と結婚してくれ」
「…………………は?」
「いきなり過ぎて分からんかったか……もう1度言うぞ、美琴。俺と結婚してくれ」
上条はゴソゴソとポケットを漁ると、小さな小箱を取り出す。仲に入っているのは銀の結婚指輪。
上条は箱から取り出すと、まだ現状を把握できずにフリーズしている美琴の左手の薬指に指輪をはめる。
「…………い、いきなり過ぎんのよ!もっと、雰囲気とか色々あんでしょうが」
「すまん!お前が高校卒業したらプロポーズしようと前々から決めてたんだ………我慢できなくてな」
「…………ばか」
そんなムードもへったくれもないプロポーズから半年が過ぎて今に至る。
ゴールデンウィークを利用し、イギリス清教の教会にて簡単に結婚式をあげたのだが、その結婚式も波乱含みであった。
そもそも『バージンロードを新郎新婦で歩く』という例外がメインイベントととして用意された。
通常、バージンロードというものは『新婦が親元から離れる』という意味を儀式化したものであり、文字通り父親と歩くものだ。
だが、これに関して美琴の父である旅掛は、『君らで歩けばいいじゃないか』と言ってのけたのである。
御坂家に挨拶したときのことである。
「い、今なんと言われましたか?」
「ん?良いんじゃないか、と言ったんだが。聞こえなかったかね?」
旅掛はカラカラと笑っている。予想を裏切る事態に、上条は呆気にとられている。
「え、あーっと……」
「当麻くん、と言ったかね。君は美琴と結婚したかったんだろう?」
「そ、そうですけど」
上条はイマイチ納得しきれない。隣で美琴と美鈴は他人事のように見ていた。
「えーっと、旅掛さん?こういう場面では『君には娘をやれん』とかそういう展開になるんじゃないですか?」
「そんなテンプレみたいな父親をした方が良かったのか?世の中に足りない物は、物わかりのいい父親と思ったのだがね」
「いやいやいや、そういうわけじゃないですけど…」
上条は旅掛のペースに飲まれてしまい、助け船を求めて美鈴を見る。
美鈴は上条のアイコンタクトを受け取ると、にっと笑う。
「まぁまぁ、上条くん……当麻くんの方がいいかな。彼、困ってるでしょー。そんな意地悪しなくても」
「むむむ、別に意地悪と言うわけではない」
御坂夫妻は上条らを放置してわいわいとやっている。上条はほぅと溜息をつき、美琴を見る。
美琴は幸せそうな表情で上条を見ている。
「お前の両親、いっつもあんな感じか?」
「あんな感じよ。あんまり会うわけじゃないからね、何とも言えないけど」
上条はふぅんと漏らして、御坂夫妻を見る。上条夫妻ほどではないものの、どうにも母は強いらしい。
(美琴もこうなるんかね)
上条は再び美琴を見る。今でこそまだ対等――だと、上条は思っている――でいられているが、将来はどうなるだろうか。
「アンタ、私もあぁなるんじゃないかって思ってるでしょ?」
「うっ!?」
「まぁ、大丈夫よ、多分ね。当麻を立てるとは言わないけど……」
「へいへい。期待して待ってますよー」
「ちょっと、アンタ!人が折角っ!?」
美琴が上条の方を見ると、彼は『あはははは』といった顔で苦笑している。
(すっごい、嫌な予感がすんだけど…)
美琴はゆっくりと御坂夫妻を見る。美鈴はにまぁっと、旅掛はニヤリと、不敵な笑みを浮かべている。
「ふふーん?美琴ちゃんは親の前でも当麻くんといちゃいちゃしたいと?」
「当麻くんも……鈍感だと聞いてはいたが、なかなかいい度胸じゃないか?」
「「ふ、不幸だ……」」
2人そろってがくりとうなだれる。息もぴったりである。
「そこまで息もぴったりだと、安心して美琴を任せられるな」
「はぁ、そりゃどうも」
「結婚式でも、君ら2人で自由にやりたまえ。バージンロードも2人でいいだろう?」
相変わらずカラカラと笑う旅掛。その言葉には、上条どころか美琴さえ口を開けたまま動かなくなった。
「ちょっと!いくら忙しいって言っても、娘の結婚式くらい来れないの?」
「落ち着け、美琴。君らは小さいころから自分で選んで育ってきたんだからな。君ら2人で歩くべきだろう」
途中からは2人で選んで育ったんだったか、と言って旅掛はまた大笑いする。
(そんなもんなんかね)
上条は思いの外緩かった旅掛を思いだし、口元を緩めた。
「当麻、大丈夫?」
「っ!?あ、あれ…」
上条は我に返り、周りを見回す。目の前には心配そうな美琴がいた。
「トーストかじったと思ったら、どっか飛んで行くんだもん。ほんとに大丈夫?」
「いや、わりぃ。大丈夫だ」
上条は大急ぎでトーストを平らげてコーヒーを飲む。冷めてしまったそれは妙に苦く感じる。
「最近、忙しいみたいだから…体調悪いんだったら無理しないでよ?」
「あぁ、心配かけちまったな」
「当麻が倒れる方が心配なんだから…」
美琴は上条の隣まで来ると、額に手を当てる。ひんやりとした手が心地よい。
熱はないみたいだけど、という美琴の表情はまだ心配そうだった。
「ちょっと昔を思いだしててさ」
「昔?」
美琴は上条の額から手を離すと、キョトンとした顔で上条を見る。
「プロポーズしたときとか、結婚式のときとかな」
「んなっ!?な、なんでそんな時の事思いだしてんのよ」
「いやぁ、お前も随分と変わったよなぁ…昔は会えばビリビリやってたのにな」
上条ははっはっはと笑って美琴の頭をポンポンと叩く。
「あ、あれは、アンタが私をスルーするから悪いんでしょうが」
「良く考えたらあれだけ一途だった美琴たんの気持ちに気付かなかったなんて、上条さんは鈍感ですよー」
美琴はふんっと顔を逸らすと、空いた皿を持ってキッチンに向かう。
「なぁ、美琴。今日は久しぶりに第7学区に行ってみるか?」
「あら、昔を懐かしもうっての?」
「なんなら呼び方も変えるか、ビリビ…」
上条がそう言ってキッチンの美琴を見た瞬間、青白い雷撃が飛ぶ。上条はどこか嬉しそうにそれを打ち消した。
「1日中、追いかけ回してやる」
美琴は幸せそうに笑った。
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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life)
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#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life)
「んっ…………朝か」
上条は眠い目を擦りながら起き上がると、リビングへと向かう。
綺麗に片付いたリビングの中心には磨かれた黒檀のテーブルがある。
「よっと」
上条が椅子を引いて腰をかけると、目の前に白い腕が伸び、コーヒーの入ったマグカップが置かれる。
「おはよ、当麻」
「あぁ、おはよう。美琴」
エプロン姿の美琴はにっこりと笑うと鼻歌を歌いながらキッチンに戻って行った。
上条は目の前のカップを手に取り口をつける。独特の香りと味によって、上条の脳細胞に覚醒を促していく。
ふぅ、と一息つき、上条はカップをテーブルにおいた。
「なぁ、美琴。豆変えた?」
「あ、分かった?新しいのが出てたから気になっちゃって」
美琴は嬉しそうな表情を浮かべてコーヒー豆の入った袋を掲げる。
キッチンから漂ってくるパンの焼ける香りに、上条は空腹感を感じる。
そんな上条の状態を知ってか知らずか、美琴はトーストとベーコンエッグを運んできた。
「はい、どうぞ」
「おう、さんきゅーな。上条さんはもう腹ペコですよ」
「当麻、まだその口癖抜けないのね。今は、私も上条さんなんだけど?」
私も使ってみようかな、と言いながら美琴は上条の向かいに座る。
「「いただきます」」
上条はトーストにかぶりつく。バターを多めに塗ってくれているのも、コーヒーにミルク多めなのも上条の好みどおりだ。
上条は美琴の気配りに心の中で感謝する。口に出してやれば彼女も喜ぶだろうが、それは少し恥ずかしい。
「なぁ、美琴」
「なに?」
上条は壁に貼られたカレンダーに目をやると、今日が休日であることを確認する。
「今日は、久々にどっか行こうか」
「えっ……そ、それって………デート?」
美琴はバッと音が鳴るような速度で上条を見ると、仄かに頬を染める。
付き合い始めてそれなりに経つどころか、結婚して半年が経つというのに、美琴は相変わらずこの手の言葉に恥じらう。
そんないつまでも初心な所がまた可愛いところなのだが、そういうのを見てしまうとついついからかってしまう。
「ん?嫌だったか?」
「いいいいいい嫌なわけないでしょうがっ!」
ぶんぶん、と首を横に振り、顔を真っ赤にまで染め上げる。
美琴の反応を見て、上条は満足げに頷くとベーコンエッグに取り掛かった。
「しっかしお前は相変わらず、すぐに赤くなるよな。これじゃ、この先どうなるんだよ」
「う、うるさいわね!っていうか、この先ってなによっ、この先って」
(そんだけ真っ赤な顔で否定されてもな)
上条は呆れたように卵を口に入れる。半熟にされた黄身が口の中で潰れる。
「まだ朝だけど……言った方がいいか?」
「いいいいいいいい言わなくていいっ!!」
「どっちだよ」
上条はベーコンエッグを平らげると、再びトーストをかじった。
(ま、これでも随分マシになった方か)
上条は昔の美琴を思い出し、吹き出しそうになるのだった。
「こんなところに呼び出して、何の用よ?」
美琴は上条の呼び出しを受けて、例の自販機前まで来ていた。
といっても、あの壊れかけの自販機は某お嬢様の暴行の数々によってリタイアしており、妙にコーヒーばっかり扱う自販機が代わって君臨していた。
以前の地雷原のような内容ではないものの、コーヒーだけではそれほどの購入も見込めず、利用客は滅多に見られない。
偶に白髪の青年と、妙な喋り方をする中学生くらいの女の子が大量に買っている姿が目撃されるらしい。
そんな場所ではあるが、この2人、特に上条にとっては思い出の場所だ。
「愛しの彼氏相手に連れねぇな。やけに不機嫌だがどうした?」
「ったく、アンタが相変わらずタイミングの悪い奴だってことは良く分かったわよ」
美琴は上条の隣にドカッと腰掛ける。彼女を『御坂様』と慕う人間から見れば異様な姿だろう。
「もしかして、俺はまたやっちまったのですか?」
「そうね、愛すべき後輩達による『卒業祝いパーティ』の真っ最中だったけど?」
先日…といっても、つい2日前に美琴は高校を卒業した。上条があれほど苦労した大学入試も一瞬でパスしていた彼女は優雅な春休みライフに突入したところであった。
「愛すべき後輩ってぇのは………アレか?」
「アレ扱いはないでしょ。黒子と飾利と涙子。すぐ帰ってくるから待ってて、って言って抜けてきたのよ?あの子らにも感謝しなさい」
美琴は不躾な態度は許さない、とでも言いたげな目で上条を見る。上条も『そういう意味で』アレと言ったつもりはない。
英語で言う『that』で表現したのは、文字通りその3人が美琴の来た方向の茂みに隠れるのが見えたからである。
(気付いてないんかよ………まぁ、いいか)
バラしても良かったが、大騒ぎになって有耶無耶にされては敵わない。せっかく決意したのだから早めにケリをつけたかった。
知っている人に見られているというのは勿論、恥ずかしくはある。しかしながら、どうせ後で根掘り葉掘り聞かれるのだ。
白井ならともかく、残り2人は3つも年上である上条でさえ手を焼くのだから。
「まぁ、そうだな。感謝がてらじゃねぇが…パーティにでも誘うかな」
「アンタ、まさかデートに誘うつもりじゃないでしょうね?」
「んなわけねぇだろ」
上条はビリビリと帯電しだした美琴の肩に手を置く。
「そもそも何よ?パーティって。統括理事会関係?それとも十字教関係?」
「そっから聞いてくるとはさすがは美琴センセー。でも、両方ハズレ。今回は個人的なもんです」
上条は大学に入って以来、学園都市の統括理事会の一員として活動している。といっても、正式メンバーではなく形式上はバイトというものである。
第3次世界大戦が終わった後、その功績と『上条勢力』と呼ばれる各方面へのコネクションを買われ、学園都市代表として外交に駆り出されることがよくある。
その仕事をこなす為の肩書としての『統括理事』である。もちろん、『上条勢力』を恐れて暗殺を企てる者もいる。
そこは『統括理事』として、公的にボディーガードをつけることが出来るので、かえって安全が保障されるのだ。
ちなみに、上条はボディーガードの存在を知らないが、やたらと土御門や一方通行に会うことが増えたことを気にしてはいる。
「じゃぁ、なに?私の大学合格祝いならわざわざやらなくてもいいわよ?」
「まぁ、落ち着け。ちょっとは俺に話をさせろ」
上条は人差し指を立てて、自分の口の前に持ってくる。美琴はしぶしぶ、と言った顔で黙る。
「俺が言いたいことを全部言い終わったら、その後でお前の話を聞いてやる。分かったか?」
「………うん」
「よし。まぁ、そんなに長くするつもりはねぇから、すぐにでもパーティに戻れるはずだ」
上条は頷くと美琴の肩から手を離し、例の3人のいる茂みをちらりと見る。慌てたように3つの頭が隠れた。
「単刀直入にいくぞ?美琴、俺と結婚してくれ」
「…………………は?」
「いきなり過ぎて分からんかったか……もう1度言うぞ、美琴。俺と結婚してくれ」
上条はゴソゴソとポケットを漁ると、小さな小箱を取り出す。仲に入っているのは銀の結婚指輪。
上条は箱から取り出すと、まだ現状を把握できずにフリーズしている美琴の左手の薬指に指輪をはめる。
「…………い、いきなり過ぎんのよ!もっと、雰囲気とか色々あんでしょうが」
「すまん!お前が高校卒業したらプロポーズしようと前々から決めてたんだ………我慢できなくてな」
「…………ばか」
そんなムードもへったくれもないプロポーズから半年が過ぎて今に至る。
ゴールデンウィークを利用し、イギリス清教の教会にて簡単に結婚式をあげたのだが、その結婚式も波乱含みであった。
そもそも『バージンロードを新郎新婦で歩く』という例外がメインイベントととして用意された。
通常、バージンロードというものは『新婦が親元から離れる』という意味を儀式化したものであり、文字通り父親と歩くものだ。
だが、これに関して美琴の父である旅掛は、『君らで歩けばいいじゃないか』と言ってのけたのである。
御坂家に挨拶したときのことである。
「い、今なんと言われましたか?」
「ん?良いんじゃないか、と言ったんだが。聞こえなかったかね?」
旅掛はカラカラと笑っている。予想を裏切る事態に、上条は呆気にとられている。
「え、あーっと……」
「当麻くん、と言ったかね。君は美琴と結婚したかったんだろう?」
「そ、そうですけど」
上条はイマイチ納得しきれない。隣で美琴と美鈴は他人事のように見ていた。
「えーっと、旅掛さん?こういう場面では『君には娘をやれん』とかそういう展開になるんじゃないですか?」
「そんなテンプレみたいな父親をした方が良かったのか?世の中に足りない物は、物わかりのいい父親と思ったのだがね」
「いやいやいや、そういうわけじゃないですけど…」
上条は旅掛のペースに飲まれてしまい、助け船を求めて美鈴を見る。
美鈴は上条のアイコンタクトを受け取ると、にっと笑う。
「まぁまぁ、上条くん……当麻くんの方がいいかな。彼、困ってるでしょー。そんな意地悪しなくても」
「むむむ、別に意地悪と言うわけではない」
御坂夫妻は上条らを放置してわいわいとやっている。上条はほぅと溜息をつき、美琴を見る。
美琴は幸せそうな表情で上条を見ている。
「お前の両親、いっつもあんな感じか?」
「あんな感じよ。あんまり会うわけじゃないからね、何とも言えないけど」
上条はふぅんと漏らして、御坂夫妻を見る。上条夫妻ほどではないものの、どうにも母は強いらしい。
(美琴もこうなるんかね)
上条は再び美琴を見る。今でこそまだ対等――だと、上条は思っている――でいられているが、将来はどうなるだろうか。
「アンタ、私もあぁなるんじゃないかって思ってるでしょ?」
「うっ!?」
「まぁ、大丈夫よ、多分ね。当麻を立てるとは言わないけど……」
「へいへい。期待して待ってますよー」
「ちょっと、アンタ!人が折角っ!?」
美琴が上条の方を見ると、彼は『あはははは』といった顔で苦笑している。
(すっごい、嫌な予感がすんだけど…)
美琴はゆっくりと御坂夫妻を見る。美鈴はにまぁっと、旅掛はニヤリと、不敵な笑みを浮かべている。
「ふふーん?美琴ちゃんは親の前でも当麻くんといちゃいちゃしたいと?」
「当麻くんも……鈍感だと聞いてはいたが、なかなかいい度胸じゃないか?」
「「ふ、不幸だ……」」
2人そろってがくりとうなだれる。息もぴったりである。
「そこまで息もぴったりだと、安心して美琴を任せられるな」
「はぁ、そりゃどうも」
「結婚式でも、君ら2人で自由にやりたまえ。バージンロードも2人でいいだろう?」
相変わらずカラカラと笑う旅掛。その言葉には、上条どころか美琴さえ口を開けたまま動かなくなった。
「ちょっと!いくら忙しいって言っても、娘の結婚式くらい来れないの?」
「落ち着け、美琴。君らは小さいころから自分で選んで育ってきたんだからな。君ら2人で歩くべきだろう」
途中からは2人で選んで育ったんだったか、と言って旅掛はまた大笑いする。
(そんなもんなんかね)
上条は思いの外緩かった旅掛を思いだし、口元を緩めた。
「当麻、大丈夫?」
「っ!?あ、あれ…」
上条は我に返り、周りを見回す。目の前には心配そうな美琴がいた。
「トーストかじったと思ったら、どっか飛んで行くんだもん。ほんとに大丈夫?」
「いや、わりぃ。大丈夫だ」
上条は大急ぎでトーストを平らげてコーヒーを飲む。冷めてしまったそれは妙に苦く感じる。
「最近、忙しいみたいだから…体調悪いんだったら無理しないでよ?」
「あぁ、心配かけちまったな」
「当麻が倒れる方が心配なんだから…」
美琴は上条の隣まで来ると、額に手を当てる。ひんやりとした手が心地よい。
熱はないみたいだけど、という美琴の表情はまだ心配そうだった。
「ちょっと昔を思いだしててさ」
「昔?」
美琴は上条の額から手を離すと、キョトンとした顔で上条を見る。
「プロポーズしたときとか、結婚式のときとかな」
「んなっ!?な、なんでそんな時の事思いだしてんのよ」
「いやぁ、お前も随分と変わったよなぁ…昔は会えばビリビリやってたのにな」
上条ははっはっはと笑って美琴の頭をポンポンと叩く。
「あ、あれは、アンタが私をスルーするから悪いんでしょうが」
「良く考えたらあれだけ一途だった美琴たんの気持ちに気付かなかったなんて、上条さんは鈍感ですよー」
美琴はふんっと顔を逸らすと、空いた皿を持ってキッチンに向かう。
「なぁ、美琴。今日は久しぶりに第7学区に行ってみるか?」
「あら、昔を懐かしもうっての?」
「なんなら呼び方も変えるか、ビリビ…」
上条がそう言ってキッチンの美琴を見た瞬間、青白い雷撃が飛ぶ。上条はどこか嬉しそうにそれを打ち消した。
「1日中、追いかけ回してやる」
美琴は幸せそうに笑った。
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