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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド/Part04」(2010/05/16 (日) 14:39:36) の最新版変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド)  学園都市を襲った魔術師に上条当麻と御坂美琴が共同戦線を張って立ち向かった事件。  その結果美琴が入院し、上条が自分の中にある美琴の存在とその大切さを確認するきっかけともなった事件。  その事件が解決してからの三ヶ月。それは二人の仲を近づけるためにあったような三ヶ月だった。  その三ヶ月のおかげで、今では週末のデートや美琴による上条の家庭教師が当然のように行われており、端から見れば二人は完全に恋人同士のようにまでなっていた。  しかし実際のところは、二人は互いに告白もしていないし、デートの時もキスどころかまともに手すら握っていないのが現実で、本人達の認識としてはあくまでも友達以上恋人未満であった。  なぜそのような歪な現象が起きているのか。  原因としてはいろいろあるのだが、大きなものとしては二つある。  一つは上条が決定的にニブい事。  「フラグ男」などと不名誉なあだ名で呼ばれて女性とのフラグを数多く立てたりはするものの、当の本人は恋愛ごとにひどくウブである。他人の気持ちどころか自分の心ですらよくわかっていない。  それでも、美琴のことを誰よりも大切にしたい、というところまではようやく自覚できたのだが、なぜかそれが好きという感情にまで到達せず、なかなか認識の進化が進まないのだ。    もう一つは素直になれない美琴の性格。  上条のことが好きで好きでたまらなく、その度合いは「自分だけの現実」を破壊するほどにまで達しているにもかかわらず、素直にその想いを表に出せない。  かなりいい線にまで状況を持っていっても、結局その性格のせいで最終的には状況を破壊してしまう。  これでは上条に想いが届くわけもない。  そんなわけで二人の仲は肝心なところまではなかなか進展しないのである。  しかしそれでも刻は流れていく。  ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。  少年も少女も成長していく。心も体も大人になっていく、変わっていく。  人間同士の関係も、本人達の望む望まざるに関わらず、良くも悪くもあるべき姿に向かって行くものなのだ。  そしてその刻は、とうとう訪れようとしていた。 「あー、もうどうすればいいのよ」  学校から帰ってきた美琴は自室のベッドにだらしなく寝そべると、誰に聞かせるともなく呟いた。  最近の彼女の癖である。なかなか進展しない上条との関係を嘆いているのだ。  御坂美琴は夢見ている。  上条当麻と付き合いたい、恋人になりたい。上条当麻と結婚したい。そして、そして――。  色々と妄想は尽きない。  そのためには今の自分たちの置かれている状況を変えないといけない。だから美琴はそのための努力をしている。  一日一度は上条との接点を持とうと下校途中の彼を待ち伏せたり、会えない日でも電話もしくはメールで必ず何らかの接点を持つようにしたり。  上条へ電撃を浴びせる頻度も一日一度までと決めたし、様々な言い訳を駆使して上条の住む寮へ訪問することもできるようになった。  美琴は吹寄制理と上条の勉強会の様子をデートと誤解したあの日から、「上条が振り向いてくれるのを待つ女」から「素直になり上条の想いを自分に向ける努力をする女」へと変化している。  結果として今も続く上条とのデートがあり、また上条の家庭教師をする美琴があるのだ。  だが今の美琴としてはそこまでが限界であった。  努力の結果一番仲が良い異性にはなれたが、それでも恋人ではない。  そんなやや馴れ合いのような状況を打破し、上条と正式な恋人になる手段。それがどうしてもわからない。  いやわからないのではない、今以上の頑張りができないのだ。  普通に告白してしまえば後はとんとん拍子に話は進む、美琴はそう初春や佐天からアドバイスを受けたことがある。  美琴の方から好きだと告白してしまえば、ややショック療法的ではあるものの、上条も美琴をそういった対象として考えざるをえなくなり、そうなれば上条も煮え切らない自分の想いを自覚できる。  上条本人すら自覚していない彼の本心を見抜いた上での極めて適切なアドバイスで、まず間違いなく成功するやり方だ。  岡目八目とはよく言ったもので、恋愛も端から見た方が状況がより良く理解できるのは今も昔も変わりないらしい。  しかしその事実に気づいていない美琴は、恋愛に対する臆病さから初春達の言う最後の一歩を踏み出す勇気がなかなか出せない。  もし万が一告白を断られ、それをきっかけに今の居心地のいい関係すら壊れてしまっては元も子もない、そう思い躊躇してしまうのだ。  壊れるくらいなら今の関係のままでもいいか、そんな弱い心が頭をもたげてしまう。  だからこそ美琴は考える、関係を壊すことなく上条を振り向かせるいい方法はないものか、と。  ここ最近の美琴の悩みは全てそれである。 「ていうか、どうしてあそこまでやったげてるのにアンタは告白してこないわけよ。私が一番大切だって言ってくれたくせに」  美琴は枕に顔を埋めたまま、心に浮かんだ上条の姿に悪態をつく。  実際には上条は初春達に言っただけで、当の美琴本人には告白をしていないのだからややお門違いな悪態ではあるのだが、そんなものは恋する乙女には関係ない。  好きな人に自分の思う通りに振る舞ってほしい、誰だって思うことだ。  けれどそんなことを思ったところで何かが変わるわけでもない。  結局思考は振り出しに戻ってしまう。 「もう、このままでいいのかな? アイツが一番大切にしてる女の子は私なんだし」  振り出しに戻り、更には弱い心で安定しようとしてしまう。 「でもさ」  美琴は上条の女性関係を頭に巡らせる。  インデックス、二重まぶたの巨乳、やたら露出度の高い侍、巫女、妙なしっぽを生やしたイギリス人、巨乳金髪シスター――。  びきっとこめかみに青筋が立ったところで思考を止めた。  ダメだ。  確実に上条に強い好意を持つであろう人物を数えるだけでも両手で足りない。しかもインデックスを除けば確実に自分よりスタイルが女らしい女性ばかり。  年上の巨乳好きだと公言する上条のこと、今あんなことを言っていてもいつ彼が心変わりするかわかったものではない。  なぜなら自分は上条の「恋人」ではないのだから。  それに自分がいるから遠慮してくれてはいるものの、初春や佐天が上条に対し好印象を持っていることも知っている。  上条のことだからこれからだってどんどんそんな女の子を増やしていくだろう。  やはり上条と恋人になりたい、自分だけが上条の「特別」になりたい、美琴はそう強く願った。  むん、と両拳を握って気合いを入れた美琴はばっとベッドから飛び降りた。そしてドレッサーを開け鏡で自分の容姿をチェックしていく。 「顔は……うん、かわいい! アイツだって私の笑顔は最高だって言ってくれたし」  美琴は鏡に映る自分にウインクする。次に腰に手を当てた。 「腰なんかも細くていい感じだし、手も脚もすらっとしてる。お尻は……小さいけど形はいいわよね。結構いいんじゃない、私? あ、でも」  美琴はじっと自分の胸を見た。 「お母さんはあんなに大きいのに、どうしてわたしの胸、ちっちゃいんだろう……」  美琴はぺたぺたと胸を触りながら盛大なため息をついた。 「アイツ、大きな胸の方がいいって言ってたよね……大きくならないかな、私の胸」 「いーえ、お姉様はその慎ましい胸が似合っているのです。黒子のこの小さな手でもすっぽりと包めるナイムネ具合。素晴らしい! モデル体型のお姉様はそのままでいいのです。そのままのお姉様が至高の品なのです!」 「そう言いながら何アンタは人の胸揉んでるのよ」 「いえいえ、お気になさらずに。お姉様がどうしてもお胸を大きくしたいとお思いなのでしたら黒子が揉んで差し上げようと思いまし――へぶしっ!」  いつのまに帰ってきたのかテレポートで自分の背後に立ち胸を揉み始めた黒子の頭に、美琴は肘打ちをたたき込んだ。 「いらんことすんな! ちょっと、アンタいい加減に離れなさい!」  だがこんな程度でセクハラを止めるようならそれは白井黒子ではない。まがい物、タレ目でツインテールがポニーテールになっているようなニセ白井黒子だ。  もちろん本物であるこの白井はしつこく美琴に食い下がっていく。 「何を照れていらっしゃるんですの? お姉様はそのお体をさらに女性らしくしたいんですわよね? ならばこの黒子の愛のマッサージをお受けになってくださいまし」 「やめんか、この馬鹿!」  結局今日の美琴の思案は黒子の乱入により途中で終わることになった。 ――やっぱり、もうちょっと頑張ってみよう! どんなにかわいい女の子が相手だって私は負けない! アイツの彼女になるのは絶対、絶対、私なんだから!  数日が過ぎ、金曜日の放課後。買い物帰りの上条を捕まえた美琴は明日の予定を上条と相談していた。  予定、もちろん退院以降恒例になっているデートの予定である。  もっともこの期に及んで、未だに美琴も上条もこの手の話をする際に「デート」ではなく「遊びに行く」という言い方を使っており、こういうところにも親密になりきれない二人の心の距離がよく表されている。 「なあ御坂、何度も言うようだけどお前、最近ちゃんと友達付き合いはしてるのか? 俺なんかにばっか構ってないで自分の付き合いもちゃんと大事にしろよ」 「わかってるわよ、そんなこと。私は私でちゃんと考えてるの、別に友達をないがしろにしてるわけじゃないわ。アンタにはわからない女の付き合いってのがあるのよ」 「そんなもんか」 「そういうこと。ところでね、明日のことなんだけど」  明日のデートに思いを馳せ、美琴は半ば無意識で笑顔を浮かべながら上条を見た。  穏やかな風が吹き、美琴の柔らかい髪がふぁさと風にそよいだ。 「あれ?」  その笑顔を見た瞬間、上条はなんとも言えない違和感を覚えた。  いつもの美琴。  出会った当初はともかく、最近はしばしば見せてくれるようになった柔らかい表情の彼女。  そのはずである。  だが何かが違う。  上条は訝しげな視線を向けたままぽつりと呟いた。 「なんか妙だな」 「な、み、妙って何が?」  戸惑う美琴だが上条はそれを無視して美琴の全身をくまなく観察していく。 「ちょっと、恥ずかしいじゃない」  照れた美琴は体を隠すようにするが上条はお構いなし。不思議そうに首を傾げた。 「なあ、御坂。お前、なんっか、いつもと違わないか?」 「え、そ、そう?」  慌てて美琴はコンパクトを取り出し自分の顔や髪型をチェックする。  けれどどこも変わったところはない。体調だって健康そのもの、病気で顔色が悪いなどということもない。 「大丈夫なはずだけど。何が気になるの?」 「上手く言えないんだけど、なんかオーラが違うっつーか、雰囲気が違うっつーか」 「雰囲気って言われても……あ」 「どうした?」 「ううん、なんでもない」  美琴はようやく思い当たる節に気づいた。今日は朝シャワーを浴びる際、間違えて白井のシャンプーを使っていたのだ。  普段なら間違うはずもないのだが、今朝は寝ぼけた白井にシャワールームを強襲されそのドタバタの最中に間違えたのだ。  だがそれも朝の話、放課後の今までシャンプーの香りが続くとも思えない。 「違うのは……香り?」 「…………!」  だが美琴の考えは間違っていた。  上条は当の美琴本人が気づかない程度でしかない、わずかなシャンプーの香りの違いに気づいていた。  それはすなわち上条がそれだけ美琴のことを気にしている、ということに他ならない。  その事実に気づいた美琴の顔は徐々に朱くなっていった。  だが上条は美琴のその変化を別の意味に捕らえると、顔をさっとこわばらせて慌てて弁解を始めた。 「いや、あのその、ご、誤解すんなよ! 上条さんは別にお前の香りをいつも気にしたり嗅いだりしてる変態さんじゃないんだぞ! たまたま今日は気になっただけで、な! だからそんなに顔を真っ赤にしないで、泣きそうな顔にならないで、ビリビリしないでくれ――!!」 「ふにゃぁー」  例によって例のごとく漏電する美琴。  結局二人ともとても話ができる状態でなくなり、相談の続きは夜メールで、ということになってしまった。  その夜。上条は夕飯の準備をしていた。  今日のメニューは賞味期限ギリギリのため捨て値で売られていた具材を大量に使った焼き飯だ。調理もお手軽でお腹もふくれて経済的。  普段の上条なら自らの倹約家ぶりを自画自賛しながら調理しているところだが、今日の上条は夕方のことが気になって料理にまったく集中できていない。その調理のあまりの手際の悪さに抗議するインデックスの声もほとんど耳に入らないくらいだ。 「さすがにまずかったな。嫌われてなきゃいいけど……」  上条は夕方の出来事を思い出しながら失敗したな、と考えていた。  なにしろ親しいとはいえ歳頃の女の子の香りを気にしていたなんて変態の極みではないか。  しかも相手は中学生の美琴。軽蔑されても文句は言えない。少なくとも上条はそう思っていた。  実際はその相手と自分との距離に応じて相手の抱く印象はがらっと変わるのだが、上条がそこに気づけるはずもない。  大きくため息をついた上条だったがここでふと疑問に思った。  なぜ自分は美琴の香りが気になったのだろうか。  美琴の様子から考えるに、つける香水か何かが違って、とにかく今日の美琴は普段と違う香りを身に纏っていたのは確かなようだった。つまり自分の嗅覚は確かだったということになる。  だが今までの自分なら美琴のそんな変化に気づくはずもないのだ。  なぜ今日に限って美琴のそんな些細な変化に気づいたのか。  上条は必死で考えた。何か重要なことがわかりそうな、そんな気がしたのだ。  しかし。 「だあー! やっぱりわけわかんねえ――!!」  やはりそこは上条。それだけ美琴のことが気になっている、という単純な答えがさっぱり出てこず頭を抱えることになる。  フライパンの上で焦げかけになっている焼き飯を泣きそうな顔で見つめるインデックスの心配をよそに、上条の苦悩は続いた。  一方、その頃美琴の方はというと、こちらも上条に負けず劣らず頭を抱えていた。  夕食後、入浴することもなく机に突っ伏したまま悩み続けていた。  その深刻な様子に同居人である白井黒子が何度か声をかけたのだが、まったく気がつく様子もない。 「どういうつもりよアイツったら……今までこんなことなんてなかったのに。これってやっぱりああいうことって考えていいのかしら? でもでも、こんな風に期待したってアイツのことだからあっさり裏切るのはわかりきってるし」  しかし行動が同じようであってもその悩みの内容は違う。  上条と違う所は美琴自身が上条の行為が持つ意味をわかっているということ。  それだけにその意味に期待したいという想いと、期待して裏切られるのを怖がる想いがあり、その狭間で悩んでいる、ということだ。  事実、美琴は今まで上条の鈍感さに何度も期待を外されている。  家に呼んでもらったって宿題を手伝わされる以上のことはないし、名前を呼んでもらえたときだってそれは側に妹達や母、美鈴がいたから彼女達との区別のためであった。  自分の飲みかけのスポーツドリンクを飲んだってその意味に気づきもしないし、自分といっしょにいるときでさえ美人、美少女とのフラグを立てまくる。  他にもいろいろあったがとにかく、上条はその鈍感さによって何度も美琴の期待を裏切っているのだ。  これでは上条に期待できないという美琴の気持ちもわかるというものだ。  しかし、今回はなんとなくだがいつもと違うような、そんな気がするのだ。 「私の香りの違いに気づく……まったくの偶然か、本当に私を意識してくれてるか、どっちかしかない、よね。偶然か、必然か……期待していい、のかな。ううん、今度こそ、期待、したい……!」  小さくうなずいた美琴は机の引き出しを開けた。そこに入っていたのはブランド物のヘアピン。  今つけている花のヘアピンよりも遥かに大人っぽい、少女趣味の美琴の好みとはおよそかけ離れた物だ。  もちろんこれは美琴自身が自主的に選んで買った物ではない。美鈴から誕生日のプレゼントとして贈られた物。  自分の趣味とは合わないため、一度も使ったことのないそのヘアピンを美琴はそっと胸に抱きしめた。 「もし、アイツが気づいたのが」  美琴は静かな決意を胸に秘めながら目を閉じた。 「もし、気づいたのが必然なら、私は――」 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド) 好き  学園都市を襲った魔術師に上条当麻と御坂美琴が共同戦線を張って立ち向かった事件。  その結果美琴が入院し、上条が自分の中にある美琴の存在とその大切さを確認するきっかけともなった事件。  その事件が解決してからの三ヶ月。それは二人の仲を近づけるためにあったような三ヶ月だった。  その三ヶ月のおかげで、今では週末のデートや美琴による上条の家庭教師が当然のように行われており、端から見れば二人は完全に恋人同士のようにまでなっていた。  しかし実際のところは、二人は互いに告白もしていないし、デートの時もキスどころかまともに手すら握っていないのが現実で、本人達の認識としてはあくまでも友達以上恋人未満であった。  なぜそのような歪な現象が起きているのか。  原因としてはいろいろあるのだが、大きなものとしては二つある。  一つは上条が決定的にニブい事。  「フラグ男」などと不名誉なあだ名で呼ばれて女性とのフラグを数多く立てたりはするものの、当の本人は恋愛ごとにひどくウブである。他人の気持ちどころか自分の心ですらよくわかっていない。  それでも、美琴のことを誰よりも大切にしたい、というところまではようやく自覚できたのだが、なぜかそれが好きという感情にまで到達せず、なかなか認識の進化が進まないのだ。    もう一つは素直になれない美琴の性格。  上条のことが好きで好きでたまらなく、その度合いは「自分だけの現実」を破壊するほどにまで達しているにもかかわらず、素直にその想いを表に出せない。  かなりいい線にまで状況を持っていっても、結局その性格のせいで最終的には状況を破壊してしまう。  これでは上条に想いが届くわけもない。  そんなわけで二人の仲は肝心なところまではなかなか進展しないのである。  しかしそれでも刻は流れていく。  ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。  少年も少女も成長していく。心も体も大人になっていく、変わっていく。  人間同士の関係も、本人達の望む望まざるに関わらず、良くも悪くもあるべき姿に向かって行くものなのだ。  そしてその刻は、とうとう訪れようとしていた。 「あー、もうどうすればいいのよ」  学校から帰ってきた美琴は自室のベッドにだらしなく寝そべると、誰に聞かせるともなく呟いた。  最近の彼女の癖である。なかなか進展しない上条との関係を嘆いているのだ。  御坂美琴は夢見ている。  上条当麻と付き合いたい、恋人になりたい。上条当麻と結婚したい。そして、そして――。  色々と妄想は尽きない。  そのためには今の自分たちの置かれている状況を変えないといけない。だから美琴はそのための努力をしている。  一日一度は上条との接点を持とうと下校途中の彼を待ち伏せたり、会えない日でも電話もしくはメールで必ず何らかの接点を持つようにしたり。  上条へ電撃を浴びせる頻度も一日一度までと決めたし、様々な言い訳を駆使して上条の住む寮へ訪問することもできるようになった。  美琴は吹寄制理と上条の勉強会の様子をデートと誤解したあの日から、「上条が振り向いてくれるのを待つ女」から「素直になり上条の想いを自分に向ける努力をする女」へと変化している。  結果として今も続く上条とのデートがあり、また上条の家庭教師をする美琴があるのだ。  だが今の美琴としてはそこまでが限界であった。  努力の結果一番仲が良い異性にはなれたが、それでも恋人ではない。  そんなやや馴れ合いのような状況を打破し、上条と正式な恋人になる手段。それがどうしてもわからない。  いやわからないのではない、今以上の頑張りができないのだ。  普通に告白してしまえば後はとんとん拍子に話は進む、美琴はそう初春や佐天からアドバイスを受けたことがある。  美琴の方から好きだと告白してしまえば、ややショック療法的ではあるものの、上条も美琴をそういった対象として考えざるをえなくなり、そうなれば上条も煮え切らない自分の想いを自覚できる。  上条本人すら自覚していない彼の本心を見抜いた上での極めて適切なアドバイスで、まず間違いなく成功するやり方だ。  岡目八目とはよく言ったもので、恋愛も端から見た方が状況がより良く理解できるのは今も昔も変わりないらしい。  しかしその事実に気づいていない美琴は、恋愛に対する臆病さから初春達の言う最後の一歩を踏み出す勇気がなかなか出せない。  もし万が一告白を断られ、それをきっかけに今の居心地のいい関係すら壊れてしまっては元も子もない、そう思い躊躇してしまうのだ。  壊れるくらいなら今の関係のままでもいいか、そんな弱い心が頭をもたげてしまう。  だからこそ美琴は考える、関係を壊すことなく上条を振り向かせるいい方法はないものか、と。  ここ最近の美琴の悩みは全てそれである。 「ていうか、どうしてあそこまでやったげてるのにアンタは告白してこないわけよ。私が一番大切だって言ってくれたくせに」  美琴は枕に顔を埋めたまま、心に浮かんだ上条の姿に悪態をつく。  実際には上条は初春達に言っただけで、当の美琴本人には告白をしていないのだからややお門違いな悪態ではあるのだが、そんなものは恋する乙女には関係ない。  好きな人に自分の思う通りに振る舞ってほしい、誰だって思うことだ。  けれどそんなことを思ったところで何かが変わるわけでもない。  結局思考は振り出しに戻ってしまう。 「もう、このままでいいのかな? アイツが一番大切にしてる女の子は私なんだし」  振り出しに戻り、更には弱い心で安定しようとしてしまう。 「でもさ」  美琴は上条の女性関係を頭に巡らせる。  インデックス、二重まぶたの巨乳、やたら露出度の高い侍、巫女、妙なしっぽを生やしたイギリス人、巨乳金髪シスター――。  びきっとこめかみに青筋が立ったところで思考を止めた。  ダメだ。  確実に上条に強い好意を持つであろう人物を数えるだけでも両手で足りない。しかもインデックスを除けば確実に自分よりスタイルが女らしい女性ばかり。  年上の巨乳好きだと公言する上条のこと、今あんなことを言っていてもいつ彼が心変わりするかわかったものではない。  なぜなら自分は上条の「恋人」ではないのだから。  それに自分がいるから遠慮してくれてはいるものの、初春や佐天が上条に対し好印象を持っていることも知っている。  上条のことだからこれからだってどんどんそんな女の子を増やしていくだろう。  やはり上条と恋人になりたい、自分だけが上条の「特別」になりたい、美琴はそう強く願った。  むん、と両拳を握って気合いを入れた美琴はばっとベッドから飛び降りた。そしてドレッサーを開け鏡で自分の容姿をチェックしていく。 「顔は……うん、かわいい! アイツだって私の笑顔は最高だって言ってくれたし」  美琴は鏡に映る自分にウインクする。次に腰に手を当てた。 「腰なんかも細くていい感じだし、手も脚もすらっとしてる。お尻は……小さいけど形はいいわよね。結構いいんじゃない、私? あ、でも」  美琴はじっと自分の胸を見た。 「お母さんはあんなに大きいのに、どうしてわたしの胸、ちっちゃいんだろう……」  美琴はぺたぺたと胸を触りながら盛大なため息をついた。 「アイツ、大きな胸の方がいいって言ってたよね……大きくならないかな、私の胸」 「いーえ、お姉様はその慎ましい胸が似合っているのです。黒子のこの小さな手でもすっぽりと包めるナイムネ具合。素晴らしい! モデル体型のお姉様はそのままでいいのです。そのままのお姉様が至高の品なのです!」 「そう言いながら何アンタは人の胸揉んでるのよ」 「いえいえ、お気になさらずに。お姉様がどうしてもお胸を大きくしたいとお思いなのでしたら黒子が揉んで差し上げようと思いまし――へぶしっ!」  いつのまに帰ってきたのかテレポートで自分の背後に立ち胸を揉み始めた黒子の頭に、美琴は肘打ちをたたき込んだ。 「いらんことすんな! ちょっと、アンタいい加減に離れなさい!」  だがこんな程度でセクハラを止めるようならそれは白井黒子ではない。まがい物、タレ目でツインテールがポニーテールになっているようなニセ白井黒子だ。  もちろん本物であるこの白井はしつこく美琴に食い下がっていく。 「何を照れていらっしゃるんですの? お姉様はそのお体をさらに女性らしくしたいんですわよね? ならばこの黒子の愛のマッサージをお受けになってくださいまし」 「やめんか、この馬鹿!」  結局今日の美琴の思案は黒子の乱入により途中で終わることになった。 ――やっぱり、もうちょっと頑張ってみよう! どんなにかわいい女の子が相手だって私は負けない! アイツの彼女になるのは絶対、絶対、私なんだから!  数日が過ぎ、金曜日の放課後。買い物帰りの上条を捕まえた美琴は明日の予定を上条と相談していた。  予定、もちろん退院以降恒例になっているデートの予定である。  もっともこの期に及んで、未だに美琴も上条もこの手の話をする際に「デート」ではなく「遊びに行く」という言い方を使っており、こういうところにも親密になりきれない二人の心の距離がよく表されている。 「なあ御坂、何度も言うようだけどお前、最近ちゃんと友達付き合いはしてるのか? 俺なんかにばっか構ってないで自分の付き合いもちゃんと大事にしろよ」 「わかってるわよ、そんなこと。私は私でちゃんと考えてるの、別に友達をないがしろにしてるわけじゃないわ。アンタにはわからない女の付き合いってのがあるのよ」 「そんなもんか」 「そういうこと。ところでね、明日のことなんだけど」  明日のデートに思いを馳せ、美琴は半ば無意識で笑顔を浮かべながら上条を見た。  穏やかな風が吹き、美琴の柔らかい髪がふぁさと風にそよいだ。 「あれ?」  その笑顔を見た瞬間、上条はなんとも言えない違和感を覚えた。  いつもの美琴。  出会った当初はともかく、最近はしばしば見せてくれるようになった柔らかい表情の彼女。  そのはずである。  だが何かが違う。  上条は訝しげな視線を向けたままぽつりと呟いた。 「なんか妙だな」 「な、み、妙って何が?」  戸惑う美琴だが上条はそれを無視して美琴の全身をくまなく観察していく。 「ちょっと、恥ずかしいじゃない」  照れた美琴は体を隠すようにするが上条はお構いなし。不思議そうに首を傾げた。 「なあ、御坂。お前、なんっか、いつもと違わないか?」 「え、そ、そう?」  慌てて美琴はコンパクトを取り出し自分の顔や髪型をチェックする。  けれどどこも変わったところはない。体調だって健康そのもの、病気で顔色が悪いなどということもない。 「大丈夫なはずだけど。何が気になるの?」 「上手く言えないんだけど、なんかオーラが違うっつーか、雰囲気が違うっつーか」 「雰囲気って言われても……あ」 「どうした?」 「ううん、なんでもない」  美琴はようやく思い当たる節に気づいた。今日は朝シャワーを浴びる際、間違えて白井のシャンプーを使っていたのだ。  普段なら間違うはずもないのだが、今朝は寝ぼけた白井にシャワールームを強襲されそのドタバタの最中に間違えたのだ。  だがそれも朝の話、放課後の今までシャンプーの香りが続くとも思えない。 「違うのは……香り?」 「…………!」  だが美琴の考えは間違っていた。  上条は当の美琴本人が気づかない程度でしかない、わずかなシャンプーの香りの違いに気づいていた。  それはすなわち上条がそれだけ美琴のことを気にしている、ということに他ならない。  その事実に気づいた美琴の顔は徐々に朱くなっていった。  だが上条は美琴のその変化を別の意味に捕らえると、顔をさっとこわばらせて慌てて弁解を始めた。 「いや、あのその、ご、誤解すんなよ! 上条さんは別にお前の香りをいつも気にしたり嗅いだりしてる変態さんじゃないんだぞ! たまたま今日は気になっただけで、な! だからそんなに顔を真っ赤にしないで、泣きそうな顔にならないで、ビリビリしないでくれ――!!」 「ふにゃぁー」  例によって例のごとく漏電する美琴。  結局二人ともとても話ができる状態でなくなり、相談の続きは夜メールで、ということになってしまった。  その夜。上条は夕飯の準備をしていた。  今日のメニューは賞味期限ギリギリのため捨て値で売られていた具材を大量に使った焼き飯だ。調理もお手軽でお腹もふくれて経済的。  普段の上条なら自らの倹約家ぶりを自画自賛しながら調理しているところだが、今日の上条は夕方のことが気になって料理にまったく集中できていない。その調理のあまりの手際の悪さに抗議するインデックスの声もほとんど耳に入らないくらいだ。 「さすがにまずかったな。嫌われてなきゃいいけど……」  上条は夕方の出来事を思い出しながら失敗したな、と考えていた。  なにしろ親しいとはいえ歳頃の女の子の香りを気にしていたなんて変態の極みではないか。  しかも相手は中学生の美琴。軽蔑されても文句は言えない。少なくとも上条はそう思っていた。  実際はその相手と自分との距離に応じて相手の抱く印象はがらっと変わるのだが、上条がそこに気づけるはずもない。  大きくため息をついた上条だったがここでふと疑問に思った。  なぜ自分は美琴の香りが気になったのだろうか。  美琴の様子から考えるに、つける香水か何かが違って、とにかく今日の美琴は普段と違う香りを身に纏っていたのは確かなようだった。つまり自分の嗅覚は確かだったということになる。  だが今までの自分なら美琴のそんな変化に気づくはずもないのだ。  なぜ今日に限って美琴のそんな些細な変化に気づいたのか。  上条は必死で考えた。何か重要なことがわかりそうな、そんな気がしたのだ。  しかし。 「だあー! やっぱりわけわかんねえ――!!」  やはりそこは上条。それだけ美琴のことが気になっている、という単純な答えがさっぱり出てこず頭を抱えることになる。  フライパンの上で焦げかけになっている焼き飯を泣きそうな顔で見つめるインデックスの心配をよそに、上条の苦悩は続いた。  一方、その頃美琴の方はというと、こちらも上条に負けず劣らず頭を抱えていた。  夕食後、入浴することもなく机に突っ伏したまま悩み続けていた。  その深刻な様子に同居人である白井黒子が何度か声をかけたのだが、まったく気がつく様子もない。 「どういうつもりよアイツったら……今までこんなことなんてなかったのに。これってやっぱりああいうことって考えていいのかしら? でもでも、こんな風に期待したってアイツのことだからあっさり裏切るのはわかりきってるし」  しかし行動が同じようであってもその悩みの内容は違う。  上条と違う所は美琴自身が上条の行為が持つ意味をわかっているということ。  それだけにその意味に期待したいという想いと、期待して裏切られるのを怖がる想いがあり、その狭間で悩んでいる、ということだ。  事実、美琴は今まで上条の鈍感さに何度も期待を外されている。  家に呼んでもらったって宿題を手伝わされる以上のことはないし、名前を呼んでもらえたときだってそれは側に妹達や母、美鈴がいたから彼女達との区別のためであった。  自分の飲みかけのスポーツドリンクを飲んだってその意味に気づきもしないし、自分といっしょにいるときでさえ美人、美少女とのフラグを立てまくる。  他にもいろいろあったがとにかく、上条はその鈍感さによって何度も美琴の期待を裏切っているのだ。  これでは上条に期待できないという美琴の気持ちもわかるというものだ。  しかし、今回はなんとなくだがいつもと違うような、そんな気がするのだ。 「私の香りの違いに気づく……まったくの偶然か、本当に私を意識してくれてるか、どっちかしかない、よね。偶然か、必然か……期待していい、のかな。ううん、今度こそ、期待、したい……!」  小さくうなずいた美琴は机の引き出しを開けた。そこに入っていたのはブランド物のヘアピン。  今つけている花のヘアピンよりも遥かに大人っぽい、少女趣味の美琴の好みとはおよそかけ離れた物だ。  もちろんこれは美琴自身が自主的に選んで買った物ではない。美鈴から誕生日のプレゼントとして贈られた物。  自分の趣味とは合わないため、一度も使ったことのないそのヘアピンを美琴はそっと胸に抱きしめた。 「もし、アイツが気づいたのが」  美琴は静かな決意を胸に秘めながら目を閉じた。 「もし、気づいたのが必然なら、私は――」 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド)

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