とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part19

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― 制約と誓約 ―


「……ったく、これ以上逃げても無駄ってことがわからないのか?……さて、」

そう呟き、美琴に盛大に抱きつかれている上条当麻へと視線をやる。
その様子を見る彼の顔もやはり少し呆れている。

「カミやーん?久しぶりの再会だからって、白昼堂々こんなところでいちゃいちゃするのはどうかと思うぜよ?」
「お、おま…!これがいちゃついているように見えんのかよ!っていてぇ!……というか、お前はあいつ向かわなくてもいいのか?」
「うんにゃ?俺も後で追うが、ひとまずは後で追跡もできるし、神裂が向かっているはずだから心配ないのにゃー」
「お前、あんまり雑に仕事すんなよ……じゃあ美琴?そんなわけで、俺も後を追わなきゃだから一旦離れてくれないか?」
「いや、カミやんは別に追わなくてもいいぜよ」
「??どういうことだよ?」
「理由は二つある。一つは単純にカミやんが怪我をしてるせいでついてこられても足手まといだから。二つ目は、俺が言うのも少し無粋な気がするのだが…そうだな、その抱きついてる超電磁砲よく見てるとわかるんじゃないかにゃー?」

何を馬鹿なと、上条は視線を土御門から今自分を抱きしめてくる美琴へと移す。

「あ…」

さっきまでは上条は土御門と会話していたことで意識がそちらへと逸れていたため、深く美琴を見てはいなかった。
しかし土御門に指摘されたことで彼女へと視線をやり、よく観察してみると、土御門が言った意味がなんとなくわかった気がした。
美琴は小刻みに震えており、小さい声でよかった、よかった…と呟いている。
その様子はとても弱々しく、離れてしまっては壊れてしまいそうに思えるほど。
そして心なしか嗚咽らしきものも聞こえる。
実際には美琴は長い間会っていなかったことによる喜びと、男との会話で死んだと聞かされ、深い悲しみに襲われていたため、生きていたことによる喜びが相まって、自分でも今どういう状況なのかがわかっていない。
とにかく美琴は上条の存在を確かめるように抱きしめるのを止めない。

「その子をおいていく勇気と、足手まといにならない自信があればついてきてもいいぜよ。……ま、カミやんにそんなものはないと思うけどにゃー」
「……悪い」
「気にすることなんて何にもないと思うぜい。……特に今回の件ではカミやんには感謝してる。まぁ今は今までの分、盛大にいちゃついとくといいにゃー。あとまたなんかあった時は頼むわー」

それだけ言うと、土御門は背を向け男が走り去った方へ駆けていった。

「なんか色々違うし、たとえなんかあったとしても今回みたいなのはもうごめんだからな!!」

上条は少しずつ小さくなっていく土御門の背中に向かってそう叫んだが、大きい声を出そうと身を乗り出すと、背中の切り傷が痛むため、ちゃんと彼に聞こえたかはわからない。
その切り傷自体は飛び込んだタイミングと角度がよかったおかげで、幸い浅い。
それでも、どれだけ浅かろうが切り傷は切り傷、血はそれなりの量はでる。
今までは会話で意識が逸れていたが、意識を背中にやるとそれがよく実感できる。
今も上条のシャツは、胸の辺りは美琴の涙で濡れ、背中は傷口から流れ出す血で赤色に染められていることだろう。
早く傷口を消毒して包帯も巻きたいところだが、それも美琴が彼を離してくれない限りかなわない。
しかし今は、彼は無理に彼女を引き剥がそうとは思えなかった。
彼には、美琴が先ほどまでいた男に何をされたかはわからない。
わからないが、今このときは、上条はこの状況ですべきことは彼女を引き剥がすよりもむしろ、優しく接した方がいいように思えた。
だから上条は空いている両腕で優しく未だ小刻みに震えて涙を零す美琴を包み込み、

「美琴……ただいま。遅くなって悪かったな。約束…ちゃんと守ったぞ?」

と、静かに、優しく囁いた。
それらに反応したのか、美琴は体をピクッと動かすと、上条の胸に顔を埋めたまま、

「…………ばか」
「……本当に、悪かった」
「……本当にばか…ばかばか」
「そ、そんなにバカバカ言わなくてもいいだろう?上条さんだって一生懸命生きてだな…」
「ばかばかばかばかばかばかばかばか!!」
「ちょっ!美琴サン!?流石にそれは酷くはないですか!?」

いつまで一度に言われたことがないくらいバカと言われ、上条の目は若干涙目になっている。
美琴からすればこれは彼を茶化しているなどの理由は全くなく、彼女の本心。
彼が、上条当麻がいないことでどれだけこの一年間苦しかったことか。
上条との連絡がとれないことがどれだけ精神的にきつかったことか。
それだけでも十分すぎるくらいきつかったのに、上条が死んだと聞かされた時、どれだけの絶望の波に飲み込まれたことか…
また思い出すだけでも身の毛がよだつ。
もし助けてきたのが上条ではなかったら、あの男が言っていたことが真実だったら。
果たして助けられても自分は今後ちゃんと生きていけただろうか。
美琴がこの一年間という年月で蓄積されたもの、今日という一日で受けたものはそれほどのものだ。
だが幸いにも現実はそうではなく、目の前にはちゃんと生きている彼がいる。
今の美琴にとっては実はそれだけでも胸がいっぱい。
目の前の彼の存在が、美琴をちゃんと立たしてくれる。
とにかくそれだけ言ってようやく少し落ち着きを取り戻し、上条の胸に埋めていた顔を上げ、彼に全てを預けていた体を持ち上げて彼の顔を見下ろし、

「お帰り、このばか」
「また言った!?上条さんだって傷つく時くらいあるのですよ!?」

その声は美琴の体同様微かに震えていたが、彼女らしい芯の通った声だった。
彼女の目も、上条が飛び込む直前に一瞬目を見た時でもわかるほど死んだような目をしていた先ほどまでとは違い、今は涙ぐんではいるものの、しっかりと光がともっていた。
二人は少しの間そのまま見つめ合い、やがて美琴の方から体をどかし、横になっている上条へと手を差し伸べる。
その顔はまだいつもの彼女のものとは言い難いものの、確実にかつてのようなものへと戻りつつあった。
上条は差し伸べられた手を取り、美琴にあまり負担がかからないようにして立ち上がる。

「あぁ、服がこんなに涙でびしょ濡れに…」
「う、うっさいわね!元々アンタが原因でしょうが!少しは反省なさい!」
「……って、背中も背中で血まみれじゃねぇか。これは一旦家にに帰ってさっさと治療してシャツ変えないと…」
「こ、この状況ので無視するのね…!後で見てなさいよ……じゃあこれからは部屋に戻るの?」
「あぁ、土御門もああ言ってたしな。それに早く止血とかしないと流石にまずいしな」
「どれどれ…」

今まで向かい合って話していた美琴が上条の後ろに回り込み、背中の様子を見始める。
彼のシャツは、端から見たら何事かと思うくらい赤に染まっていた。
シャツ自体の色が元々オレンジなのが唯一の救い。
それでも今こうしている間にも、彼の背中からは血が少量ながらも流れ、また赤く染められた部分は増えつつある。

「アンタね、こんななら早く治療したいって言えばよかったじゃない!」
「いや、だってお前がずっとどかなかったから…」
「何よ、何か文句あるの?」
「……いえ、何もありません。すぐに言わなくてすいませんでした。早く帰って傷の治療をしましょう」
「ふん、わかればいいのよ」

ものすごい剣幕で睨む美琴に、上条は為す術もなく屈する。
傍若無人なところは全然変わってないんだなと、上条が本当に小さく呟いはずなのに、美琴は機敏に反応して睨んできた。
今度は声には出さずに心の中で、どんな地獄耳だよと呟いた。
そして上条は帰ってきてすぐ、それも命懸けで彼女を助けたというのに今のこの状況に追い込まれることを不幸と嘆いた。
だがそれと同時に、この状況をよかった、楽しいと安心したりもしていた。
それは上条はもとより、特に美琴にはとても強く言えること。
二人は恋人同士、そんな中約一年間も会えずにいたのに、寂しくないはずがない。

(飛び込んだ直前にこいつを見た時はどうしたものかと思ったが、今は少し変わったところはあるけど大体はいつも通りの美琴だ。とりあえずは元気そうで何よりだ…)

上条は隣にいる少しご立腹気味なな彼女に向かって小さく微笑んだ。
この程度でこのお姫様が納得してくれるかはわからない。
というか、きっと納得してくれないだろう。
それでも、少しでも彼女が笑顔になるのなら。
こんな小さな笑顔でも効果があるのなら。これくらい、いくらでもする。
上条はどういうわけか少し戸惑った風な感じの美琴の手をとり、自分の学生寮へと歩を進めた。


同日18時過ぎ、上条宅前

二人はしっかりと手をつなぎ、公園から上条の家まで歩いてきた。
美琴にも上条にも、積もる話や、すべきことはあったのだが、道中での会話はほとんどなかった。
だがそれだけでも美琴は胸いっぱいになり、上条の表情もまた柔らかい。
今の二人には余計な言葉など必要ないのだろう。
二人は等しく再会が嬉しく、これまでの時間は寂しく思っていた。
ただ再会を喜んで笑顔になり、繋がる手のぬくもりを感じとる。
言葉を使わずとも、これだけでも伝わるものは十分伝わる。
逆に言葉にすると、意識せずとも安っぽく聞こえるかもしれない。
そんなことはあってはならない。
これは二人にとっては、とても大事なことだから。
だから、この沈黙には言葉にならないくらい重要であり、時にはこういうも沈黙も必要。

「久々の我が家ですよっと…ってあれ?」

上条は小さいカバンの中から家の鍵を取り出し、家の鍵を開ける。
彼は約一年ぶりの家になるわけだが、家の中に入ってを感じる。

「どうしたのよ、早く中に入ってけば?」
「……俺の部屋、きれいすぎね?」

上条が感じた違和感。
それは家が少しも埃っぽくなく、むしろきれいすぎることだった。
彼としては以前の戦争からの帰還時以上に埃っぽく、悪ければ蜘蛛の巣さえもはっていると思っていた。
だが実際はそんなことはなく、蜘蛛の巣どころか埃も少しもない。
まるで最近掃除したかのようなきれいさだ。

「あ、それ私が定期的に掃除してたから…」
「はぁ!?お前他人の家で勝手に何してんだよ!」
「だ、だって……当麻は全然帰ってこないし、私もやることあんまりなかったから暇で、帰ってきた時に少しでも気持ちよく帰れるようにって……ダメだった?」

少し涙目になりながら、怯える子犬のような目をして美琴は上条を見て言った。
別にこれを彼女は狙ってやっているわけではなく、よかれと思ってやったことを否定されることが単純に不安だったから。
対して上条は、可愛い女の子がこういうことをしてはダメだろと素直に、率直にそう思った。
もし道端でこんな顔をした美少女がいたなら、助けない男がいないなんてことがあろうか、いや、必ずいる。
その行為はそれだけの破壊力を持っていた。

「……はぁ。いいよ、他のやつならぶん殴ってるところだけど、美琴なら許す」
「よかった…」
「まぁそれは不問にするとしてだ、鍵はどうしたんだよ?」
「あぁ、そこはもちろん能力で。一応電子系のロックも少しは絡んでっぽいからいけたの」

美琴は学園都市が誇る最高の電撃使い。
普段の彼女は上条に対しては攻撃目的にしか使わないが、電撃使いの本質はそこではない。
通り名となっている超電磁砲や数億ボルトの電撃の槍などの爆発的な破壊力につい目がいきがちだが、電撃使いの本質はその応用性にある。
電子を用いた機械の操作にコンピューターを介した電子戦、そして電気を応用した磁力と、その応用性は実に多彩と言える。
そんな電撃使いの頂点に立つ彼女にとって、電子ロックは朝飯前。
それもこんなセキュリティーの緩い学生寮のロックなど、なんの苦労も必要としない。

「……お前な、俺の家だからいいとは言ったけど、他の家とかでもやってないだろうな?これは不法侵入って言って、立派な犯罪だぞ?」
「そ、それくらい知ってるわよ!馬鹿にすんな!……それに、少なくとも他人の家とかには使ってないわよ」
「……なんか含みのある言い方だな。まぁいいんだけどす」

上条は無理やり納得したといった感じで、まだ附に落ちない表情ではあったが、深くは追求せずに部屋へと入る。
確かに美琴は他人の"家"などに入るなどのことにはむやみやたらと使ったりはしない。
だが、後輩の白井黒子がいる風紀委員一七七支部や、とある会社の研究所を複数件と、法的には十分不法侵入と言えるレベル留のことはしている。
無論、研究所へはやむを得ない事情があってのことなのではあるが…
とにかくそういう事情があって、上条にとって部屋に入るのは久しぶりでも、美琴にとってはそこまで久しぶりでもなかった。
「いてて…」
「だ、大丈夫なの?ちょっと包帯とかとってくるから、服脱いで待ってて」
「お、おぅ…」

そう言って美琴は包帯を含む、医療関係のものがいれてある棚の方へと一直線で向かっていく。
これは上条には言ってないことなのだが、掃除する過程で、部屋のどこに何があるかといったことまでも大体は熟知している。
だからと言ってはなんだが、包帯とかが置いてある場所もわかるし、恐らく彼が見られたくないようなものがある場所も…

「いっでーー!!!」
「ちょっ…!どうしたのよ!?」
「背中が…背中がぁぁ!!」

実はそんなに酷い怪我だったのかと、美琴は急いで傷を看ようと上条のところへ戻るが、上条はまだ服さえも脱いでいない。
端から見たら彼の状態は戻る前と何ら変わりない。

「アンタ…なにやってんの?さっさと服脱ぎなさいよ」
「だ、だって…背中に、服が…」
「はぁ?背中に服がどうしたのよ?」
「はりついてる…」
「……あぁ」

美琴はここに来るまでの道のり、上条のシャツはずっと背中に張り付いていたのを思い出す。
その道中でシャツを離したりもすれば結果は変わっていただろうが、もう遅い。
さらにその前にも、彼を下にして盛大に抱きついたりもしていた。
それも、それなりに長い時間。
再会の喜びに浸りすぎてそっちに気が全くまわらなかったが、当然と言えば当然の結果。

「血が固まって肌と服がくっついちゃったのか。……まぁ道中あれだけ放置してたらそうなるわよね」
「冷静に分析してないでどうにかしてくれよ!少なからず原因はお前にもあるだろ!?」
「どうにかって言われても……まぁ、普通に考えて方法は一つしかないんじゃない?」
「……なんか嫌な予感しかしないのですがが敢えて聞こう。その唯一の方法とはなんなのですか!?」
「決まってるじゃない。……ち・か・ら・わ・ざ」

美琴が口にしたことは今の上条の状況を考えれば、とてつもなく恐ろしいこと。
今や肌と一体化しつつあるシャツを力業で剥ぎ取る。
傷口にあてたガーゼがそのまま傷口に盛大に張りついてるのを想像すればわかりやすいかもしれないが、あれば痛い。
それを今回はガーゼのような面積ではなく、背中のそこそこの大きさに渡る面積。
結果が一体どうなるかを想像するのは容易い。
その力業が決行された場合を頭の中で思い描くと、思わず背筋が寒くなる。

「ちょっ!美琴サン…?なんでそんなこの時を待っていたみたいな顔をして手をワキワキさせながら近寄ってくるんです…?や、やめてください!そんなことをしては上条さんは死んでしまいます!!」
「人間、そんな簡単には死なないもんなのよ?……大丈夫よ、苦しまないよう一思いに決めてあげるから」
「それ全然大丈夫じゃない気がするのですが!?」
「大丈夫って言ってるじゃない。……あと、」

にじりよる美琴の表情は上条からは悪魔のようなものに見えたかもしれない。
美琴は本当に様々な気持ちを胸に秘めながら、上条の背中に回り込み、彼のシャツに手をかけ、そして、

「今まで帰りが遅かったとか私を悲しませたとかその他諸々の罰よ!!!!」
「ふ……!!」

その後、上条の住む学生寮に不幸だという奇妙な叫び声が響き渡るが、この叫び声を有事を認識した者は誰一人いなかった。


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