とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part20

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匿名ユーザー

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― 制約と誓約 ―


「本当に死ぬかと思いましたよ……今まで受けた中で一番キツい攻撃だったかもしれねぇ…」
「いちいち大袈裟なのよ。……って言うか、本当言うとああいう場合は医者に行くべきだったんだけど、別に大丈夫よね?」
「あのな、本当に痛かったんだぞ!?なんならお前もくらってみるか!?ってか最善策がちゃんとあったんじゃねえか!」
「はいはい、それにちゃんと反省してんの?」
「……まぁ反省って点ならしてるよ、今まで本当に悪かったと思ってる」
「そう、ならいいわ」

今二人の状況は、とりあえず上条は上半身裸で美琴に背を向けてベッドの前で座っている。
そして美琴は彼の背中を後ろからタオルで拭いているという図だ。
消毒などをしようにも、まず背中の血をなんとかしなければならないためだ。
だが上条の背にこびりついた血は存外とれにくく、今も拭き取るのに悪戦苦闘していた。
美琴はお湯にタオルをつけて拭いているのだが、今やそのタオルは赤く染まり、お湯も赤黒く濁っている。
それでも、完全にはまだとれない。

「しつこいわね……もういっそお風呂でシャワーかけながらやった方がずっと早いような気がしてきた」
「……お前さらっとすごいこと言ってんじゃねえよ。別にここまでやってくれれば俺一人で…」
「ダメ、私がやる。アンタが自分でやってたらどの程度拭けたかとかわからないでしょう?」
「それでも一緒に風呂に入るのは色々まずい気がするのですが!?」
「べ、別に一緒に入るわけじゃないわよ!あくまで入るのはアンタだけだけど、拭くのは私ってこと!」

結果として結局上条が裸を晒すことになるので、彼にとっては大して差はない。
確かにどれだけとれたか、どれだけ拭けばいいのかは上条一人ではわからないが、ある程度とれて消毒ができればそれでいい。
だから彼としてはできたらそのイベントはごめん被りたい。
彼女の前で裸になったとしたら、彼としては色々とまずいことになる。

「あの…やっぱり俺一人だけでも…」
「ダメ。というかアンタはずっと背中向いてればいいんだけなんだから別にいいじゃない。……じゃあ早く準備してきて。準備できたら呼んでよ。もし呼ばなかったら…」

美琴はニッコリといかにも裏がある笑顔を目の前の上条に見せながら、彼女のまわりにビリビリと放電させて威嚇する。
ここがもし外なら上条はこの命令を無視できたかもしれない。
どれだけ放電されても、死ぬほど怖い思いをするが、自分は彼女の攻撃は打ち消せるから。
だがここは自分の家であって、彼女がむやみやたらと放電されると自分自身は無事でも、彼としては絶叫ものの二次災害が起こる。
一年間"外"で仕事をしてきたわけだが、それは基本的には無報酬で、上条が貧乏学生であることには以前と何ら変わりない。
だから家電の破壊という二次災害だけは避けたい。
美琴は恐らくそれをわかってやっているのだろう。
上条にとって自分の電撃は全くもって意味がなく、ここぞという時の脅しとしてはあまり効果をなさないということはよく知ってるはずだから。
上条は無言で頷き、嫌々ながらも渋々といったような表情でゆっくりと動き、新しいタオルを一枚手にとって風呂のある洗面所へと素直に向かった。

「準備ができたらちゃんと言いなさいよー」

彼女の言葉を背に聞きながら、上条はゆっくり洗面所のドアを閉めた。
洗面所に入った上条は、少し戸惑いながらも残された下半身の服を脱ぎ捨て、それを小さな洗濯物のカゴにいれる。
そして手に持っていたタオルを一枚腰に巻いて準備完了。
久々となる我が家の風呂場へと赴き、仕方ないので待たせている彼女を呼ぶ。
するとドアの前で待機していたのか、もの数秒で洗面所のドアが開く。
そこで何やらごそごそとしているかと思えば、少し経つと風呂場へと顔を出す。
しかし流石に恥じらいの念があったのか、堂々とというわけにはいかず、始めはドアの隙間からひょこっと顔を出すだけにとどまっていた。

「お前な、自分から言っといてそれはないだろ。……やっぱり一人でやってってオチか?まぁ上条さんとしてはそれでも全然構わないのですが」
「わ、わかってるわよ!入ればいいんでしょ!入れば!」
「なんで俺が強制させてるみたいになってんだよ…」

少し自暴自棄気味な言動でズカズカと入ってくる美琴に対して、上条はやや呆れ顔でため息をつく。
この時期は世間的には春ということになっているものの、夜はまだ昼のように暖かいわけではない。
逆に夜は少し肌寒いくらいの気温だ。
だから上条としては今この状況はあまり好ましくない。
彼の今の着衣は腰に巻いたタオル一枚だけで、他は何も着ていない。
なので今は寒くて仕方ない。
やらないならさっさと一人で温かいシャワー、やるならさっさとことを終えたかった。
もちろん年頃の健全な男子である上条にとって、この自分が裸で自分の恋人が同じ風呂場にいるという状況も、あまり好ましくないのは言うまでもない。
いつ自分が暴走してしまわないか冷や汗ものだ。
しかしそんな彼の心情を知ってか知らずか、美琴は入ってからもすぐには作業には移らない。

「おーい、早くしてくれないと上条さんは寒くて仕方ないのですが」
「ぅ、うん…」

美琴の調子が少しおかしい。
先ほどまでの彼女らしい威勢はなく、どこか大人しい。

「…?どうした?」
「っ!?わ、わわっ!こっち向くな!!」

美琴の調子がおかしいことに疑問を持った上条は後ろを向いて確認しようとする。
それを美琴が直前で止めようとするが、人間、言われた瞬間そんな早くに行動には移せるわけがない。
止まれという信号が発せられてから、動作に移るまでは若干のタイムラグがある。
結果的に、上条の顔は美琴をはっきり見れる範囲まで後ろにまわり、その状態でようやく止まる。

「…………」

しかし彼が止まったのは美琴からの注意もあったが、それ以外にも要因はあった。
それは今上条の後ろにいる美琴の姿。
彼は今の彼女の姿をさっきまでと同じく、どこかで見たことのあるセーラー服かと思っていた。
だが彼女の姿を視界にいれた直後、上条はその考えは当然のようであって間違っていることに気づく。
冷静に考えてみれば、これからすることは水を盛大に使う作業。
そのままの格好では水は飛び跳ね、服は濡れてしまう。
だからあの格好のままでできるわけがなかった。
少なからず服を脱いでいるという可能性の方が確実に高い。
どうしてそれが思いつかなかったのだと上条は後悔する。
今の美琴の格好は、上はセーラー服の下に恐らく着ていたのだろう彼女らしいカワイイ系のキャラがプリントされたピンク色のシャツ。
そして下は彼女の最後の砦たる短パンは履いておらず、下着だけ。
シャツによってチラリと見えるか見えないかくらいに下着が隠れ、そこからスラリとモデル並みのキレイな太ももを露わにしている。
その姿は健全な男子にとっては下手に脱いだ姿よりも断然破壊力がある。
無論それは上条にとっても例外ではない。
上条はその彼女の姿を目にして固まり、美琴は顔がリンゴのように赤く染まっていった。

「……はっ!!わ、悪い!服を脱いでるとは思ってませんでした!」

はっと、意識を取り戻した上条はぐりんと顔を急回転させる。
そのあまりの早さに少し首筋を痛めたが、今彼が置かれている状況を考えればそんなことは些細なこと。
今は命さえも危うい。

「…………」

沈黙。
美琴は何も言わず、場を沈黙が支配していた。
こういう黙っている時からくる怒りは、変にギャーギャー言いながら怒る時よりも逆に怖い。
黙ってるくらいなら罵声でもいいから何かしゃべってほしいというのが上条の本音。

(あぁ…死んだな、俺。……でもこいつに殺されるなら本望だ)

冥土の土産に良いもの見れたし、などと彼の思考は完全に違う方向へと向かっている。
他にも色々とパターンを考えるが、やはり美琴は黙ったまま。
流石におかしいと感じた上条は、美琴には背を向けまま、

「あの……美琴サン?一体、どうしたのでせうか?」
「な、何でもない…じゃあさっさとやっちゃうわよ」
「…………あれ?」

美琴はそう言って、何もなかったかのようにホースをとって上条の背中にお湯をかけ始める。
それはまた自然のように見えてどこか自然ではない。
以前の彼女なら自分の今の姿を見られた場合、すぐに上条に雷撃を放つことうけあい。
いつも短気で勝ち気で活発な彼女がこんなに大人しいと逆に気持ち悪い。
だが当の彼女は依然として、それが当然のように背中をこすっている。
時々その力が強くなって痛くなるが、それは怒りがこもっているようなものではなく、許容範囲内の痛み。
それよりも今の美琴の方が理解の許容範囲を超えている。

「……あのさ、怒らないで聞いてくれるか?」
「なによ?やっぱりやめて、なんてのは受け付けないから」
「違う違う。……えっとだな、美琴サンは、どうして私めがその姿を見たことを怒ってないのかなと思いまして…」
「何?怒ってほしいの?」
「んなわけあるか!…ただ、前のお前なら当然怒ると思ったからだよ」
「別に、大した理由はないわよ。……さっきのは早くやらなかった私が悪いと思ったし」
「本当に、それだけか?」
「……なんで?」

なんで、と問われて上条は返答に困った。
しかも、自分から本当にそれだけかと聞いておきながら、なんでこんなことを聞いたのか自分でもよくわからなかった。
なんとなく、と答えればそれまでだろう。
だが上条はそう答えるのを躊躇い、口にしようとはしない。
自分の理性による問いではないにしろ、本能的にでもこんなことを聞いたのは何かしらの理由があるはず。
その理由がなんなのかは、今の段階では何とも言えない。
それでも敢えて言うのであれば、それは違和感。
思えば再会したときから、彼女に少なからず違和感はもっていた。
その再会時の違和感は、さっきのやりとりのようなあからさまな違いや違和感ではなく、もっと微妙感覚での違和感。
彼女の言動、挙動、仕草、態度。
何か、何かが違う。
きっと何かが彼女の身にあった。
それは自分がいなかったということ以外の何か。
自分のことなのではあるが、恐らく自分はその違和感から彼女に先ほどの問いをしたのだろう。
ほんの少しの沈黙の後、上条は美琴の問いに対して、

「上手くは言えないけどよ、なんか、違うと思ったから?」
「……何かが、違う?」
「あぁ、色々考えたけど、やっぱり何かが違う気がするんだ。俺のいない間に、何かあったのか?多分、俺いなかったってだけでそこまでは変わらないと思うんだ。そりゃあ俺がいないことで寂しい思いはさせたろうけどさ……でも、それ以外にも何かある気がする」
「…………」

美琴はまた黙る。
先ほどと違うことと言えば、彼女の背中をこする手は止まっておらず、ピチャピチャと水の跳ねる音がして完全な沈黙ではないこと。。
そして、彼女を取り巻く雰囲気が少し変わったこと。
さっきまでの美琴はいつも通りとは言わずとも、明るさがあった。
でも今は、それがない。
ただ明るさがないだけで、暗いというわけでも、思い詰めているという風でもないのだが、それでも、少し違う。
それでも、背中越しで、顔を見ていなくてもわかる違い。

「……普段は鈍感なくせに、こういうことだけは敏感なのね。とは言っても、これも元はと言えば、アンタがいなかったからなんだけどさ」

雰囲気はそのままで、上条の背中越しに美琴はしゃべりだす。

「アンタがいない一年間は、それはもう耐え難いものだったわよ。できたらもう二度とあんな思いはしたくない」
「……それは悪かったと思う」
「ううん、とりあえずはちゃんと帰ってきてくれたからいいの。……それでもね、離れてても電話声とか聞いてたり、去年誓ってくれたことを思い出せばどれも堪えられた」
「……そっか」
「そして、その私にとって重要な生命線の一つの連絡が途絶えて、私は落ち込んでた。それを黒子達は慰めてくれたけど、立ち直れなかった。立ち直れるわけなかった」

彼らを今取り巻く環境は、美琴がまだ手を止めないため水が跳ねる音がするだけ。
それ以外には二人がしゃべるくらいしか音はない。
しかし上条には妙に静かに感じられた。
彼女のこれまでの話を聞いているとどうしようもない闇が自分を覆ってくる。

「そんな落ち込んだ状態で受験して……まぁもちろん余裕で通ったけど、気が気じゃなかった。そんな中で、一番きつかったことは、今日のあのよくわからない男の話」
「あいつが、美琴に何か言ってきたのか?」
「……あいつが、上条当麻の話をしたいって私に近づいてきて、それで……アンタは、当麻はもう、死んだって言ってきて…」
「なっ!」
「もちろん言い返したわよ?嘘だって、そんなわけないって。…でも連絡がないこととか、あっちでの私の知らないこととか言われて、言い返せなくなって…」
「それで、あいつはお前が話を信じてへたれこんだところを狙ってきて、そこに俺が飛び込んできたってわけか?」
「…………ぅん」
「そっか……お前があいつの攻撃を避ける素振りを見せてなかったからおかしいと思ってたら、そんなことがあったのか…」
「……ぅん」

とうとう美琴はシャワーを止め、動かしていた手を止めてしまった。
作業が終わったからなのか、辛いからなのかはわからないが、恐らく話す、思い出すだけでも十分キツいだろう。
まだ言ってはないが、上条の連絡が途絶えてしまったことには理由はちゃんとある。
だがそんなことを抜きにしても、何か自分にやれることはなかったのか。
不安で、不安定だった彼女を救う手立てが何か。
その何かが結局何も思いつかなかった自分が腹立たしい。
自責と自虐の念が絡み合った闇が上条をひたすらに覆っている。

「はい、終わり。血はきれいにとれたと思うけど、一応拭いとこっか?」
「ん?あ、あぁ頼む」

美琴が聞いてきたので上条は返答したものの、それはちゃんとした思考の元での返答ではなかった。
別のことに思考を向け、聞いてきたことに思考は向けなかった、向けられなかった。
美琴は今まで寂しい思いをしてたと言った。
それは自分にも言えることだが、彼女に比べれば、やるべきこと、しなければならないことがあった分、自分は軽いのかもしれない。
彼女は耐え難い一年間だったと言った、連絡がとれない期間はひたすらに落ち込んでたと言った。
自分も向こうでは数多の死線をくぐり抜け、何度も何度も死にそうな目にあった。
そういう意味でとても自分も耐え難い一年間だったと思う。
しかし、自分の耐え難い一年間とは言うなれば身体的なもの、一方彼女のものは精神的なもの。
身体的な傷や疲労などは一定のラインさえ越えなければ、時が全て解決してくれる。
自分のものはそのラインを越えていないものと言えるだろう。
それは今自分がこうして元気にしていることからも明らか。
だが、精神的な傷や疲労というのは必ずしも時が全て解決してくれるとは限らない。
精神的に追い詰められることで、どうにかなってしまうことなんてザラだ。
こうして見れば、上条のダメージと美琴のダメージ、どちらが重いかは明白。
そんな美琴に追い討ちをかけるかのような一報。
確かに、それまでに蓄積されたものを考えれば、彼女を精神的にどん底に突き落とすことなど容易い。
そこをついてきたのは相手だったが、その状況にまで彼女を追いやったのは自分。
自分が、原因…

「っ!?」

そんな重く、暗い思考に陥っていた上条を現実に拾い上げるかのように、背中が何かに覆われる。
何かとは言ったが、そんなものは一人しかいない。
今まで背中を拭いていた美琴だ。

「あったかい……人肌って、こんなにあったかくて、心地良いのね。今までは服越しだったから知らなかった…」
「なっ…!!」

美琴は彼の背中を拭き終えた後何を思ったのか、水分はとれたものの、裸のままの上条に背中から抱きついている。
そして抱きついている美琴は一応服は着ているものの、上はシャツ一枚に下は下着だけ。
そんな状況が状況なだけに、上条は布越しでも後ろにいる存在の体温を感じられ、同時に女性特有の体の柔らかさもまた、感じられる。
普段の状態なら変な方向に調子が向かっていってしまいそうだが、今の上条の状態は普段のそれとは言い難い。
それでもこの状況は、上条にとっては非常によろしくないのは言うまでもない。
ただ今まで考えていたことが暗い分、こんなことをされるのは予想外にも程があった。

「アンタの…当麻の、心臓の鼓動も聞こえる。これはちゃんと生きてる証拠よね。うん、当麻は……ちゃんと生きてる、ここにいる」
「……!」

心なしか、美琴の腕の力が強まる。
美琴の呟きは上条に言ってるものではなく、自分自身に言い聞かせてるように感じられた。
今日は今までも彼と接してきたのに、彼の存在を感じていたはずなのに、それをさらに確たるものにために。

「美琴、おまえ…」
「私、やっぱり無理してたって言うか、まだ不安だったみたい」
「……?」
「当麻と再会した時あれだけ抱きついて、今の今まで会話したり手をつないだり触れたりしてたのに、それでもまだ不安だったのかもしれない。当麻はいないんじゃないかって」
「……そんなこと、あるわけないだろ」
「そう、そんなことはない。それでも少し不安だったのよ、なんか今日起きたことは全部夢みたいでさ。何かの拍子に夢から覚めてしまうことを」

上条は黙って話を聞いていた。
今までこういう不安を吐き出す場は美琴にはなかったはず。
恐らくこれ以外にも言いたいことは他にもたくさんあるのだろう。
だから、今まで吐き出さず、中に溜め込んでいたのなら、今それを吐き出せばいい。
ならば自分から何かをとやかく言うより、今は黙って彼女が吐き出すのを待っていた方がいい。

「でも、これは夢じゃない。現実で、本物の生きてる上条当麻はここにいる。今確認した」
「あぁ…」
「ちゃんとここに当麻がいるから、もう失いたくないの。一度、擬似的にでも当麻を失った悲しみ、痛みを知ったから余計に。……だから万が一の確率でも、冗談で放った電撃で失ってしまったら元子もない。だからさっきのはそういうこと。前よりも、もっともっと当麻を大切にしたかったから」

風呂場は今、さっきまでお湯を出していたからか、はじめよりは寒くない。
そして背中には美琴が抱きついているためか、そこから伝わる様々な感触のためか、体は火照っている。
今は上条は裸でも、そこまでこの状態でいるのは苦じゃない。
それに、先ほどまで彼女が真剣な話をしていた分不謹慎かもしれないが、背中に感じる彼女の存在は様々な意味で気持ちがいい。
そこから美琴は黙ってしまった。
どうやらとりあえず今彼女が言いたいことは言い終えたらしい。
美琴は上条の背中で何も言わずに、何やらもぞもぞ動いている。
少しでも内に溜め込んでいたものを吐き出すことで、彼女が楽になれればそれでいい。
美琴のために今自分がしてやれることは、そばにいてやることと話を聞くこと。
それが彼女の笑顔に繋がるのなら、いくらでもそうしてやりたい。

「…………なぁ美琴、言い足りないことがあるなら、もっと話してっっ!!」

突然、上条の肩の後ろ辺りに痛みが走る。
彼女に何かをされた。
始めはわからなかったが、時間が経つにつれ、その何かとは後ろを向かずとも、感触で大体はわかった。
痛みが走った肩の辺りに何やら生暖かいものがあたっており、そこに硬いものが突き立てられている。
恐らく自分は美琴に肩を噛まれている。
でもそれは銀髪シスターがしてきたような、ただ怒りに身を任せた噛みつきとはまた異なっているように思えた。
それが証拠に、その間の時々に彼女の熱っぽい吐息が漏れている。
そして彼女のそれは上条の肩を甘噛みするだけにとどまらず、最後にその小さい口でちゅっと吸い上げられた。
一体彼女が何をしたかったのか、それを敢えて言うまでもないだろう。

「んんっ……ふぅ」
「お、お、おおお前!何してんだよ!!」

立て続けに起こる予想外の出来事に、上条は戸惑いを隠せない。
上条は背を向けているため見ることはできないが、今美琴はこの一年間の中では最高と言えるかもしれないほどの笑顔を見せている。
始めは彼を抱きしめたい衝動に駆られ、彼の温かさを知り、それを独り占めしたいと思った。
そんな唐突で、突然湧いた感情で起こした行動ではあったが、後悔などは一切ない。
もっと言えば、この感情を抑えつけたくなかった、抑える必要もなかったとまで思っている。
自分は彼の恋人であり、甘えられるのは当然。
それに、

(今まで、一年間我慢してたのだから、これくらい、いいよね?)

こんなことをしても彼は自分のものにはならないのはわかっているのに、彼が自分のものになったように感じられて、満足感でいっぱいだった。

「何って…痕をつけてた?私のしるし…」
「痕って、痕って……お前、俺が今ここで理性を崩壊させてたらどうするつもりだったんですか!?」
「その時はその時よ。それに、私はもう高校生なんだから手を出しても別に大丈夫なんじゃないの?」
「それもそうか……じゃなくてだな!」
「はいはい、アンタの言いたいことはわかってるわよ。……それじゃ私はもうでるから、アンタはまたシャワー浴びるなり好きにしなさい。出てきたら包帯巻くから」
「はっ?えっ、ちょっとまっ!」

美琴はそれだけ言って、上条を無視して風呂場からでていった。
色々と美琴にもて遊ばれ、とり残された上条は、何故だかもの悲しい気分になった。


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