最初で最後のラブレター
「ねえパパ、ママからもらったいちばんのプレゼントってなーに?」
「んー、そうだな、教えてあげてもいいけど、絶対ママには内緒だぞ」
「うん。ぜったいいわないよ」
「ママからそのプレゼントを貰ったから、パパとママはお付き合いするようになったんだよ」
「へー、ラブラブプレゼントだね」
「あはは。そうだな」
「で、プレゼントってなーに?パパ」
「それはね、ママからもらった最初で最後のラブレターだよ」
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上条 当麻 様
いきなりこんな手紙渡してごめんね
これから伝えることは、本当は会って自分の言葉で伝えたいんだけど、素直じゃない私にはちょっと無理そうだからこういう形にしたの
いざ当麻を目の前にしたら、きっと話せなくなっちゃうし、仮に話せたとしても伝えたい事の1割も伝えられないと思う
あ、ここでは“当麻”って呼ばせてね
ほんとはね、今までもずっと当麻の事、“当麻”って名前で呼びたかったんだよ
寮で一人の時にね、「とうま」、「とうま」って何度も口に出して練習したりしたんだけど
でも、当麻を前にすると、恥ずかしくなっちゃうし、緊張しちゃうしで、結局これまで言えなかった
すごく、すごく、すごく、すごく、“当麻”って言いたかったけど言えなかった
私って、年下なのにいつも失礼で生意気な言葉遣いで当麻に接してたよね
あと、すぐ突っ掛かって、当麻に理不尽な雷撃もいっぱい浴びせたよね
やってしまった後にいつも反省して後悔するのに、また会ったら同じ事してしまって
今更かもしれないけど、これまで当麻にはたくさん迷惑掛けちゃったよね
本当にごめんなさい
ほんとはね、当麻に素直に接したかった、当麻に素直な私を知ってもらいたかった
けど、素直じゃない私はすぐ逆の態度をとってしまって全然出来なかった
私ってほんと嫌な奴だよね、ごめんね…
それなのに、当麻はそんな素直じゃない私に対して、いつも素直で優しく接してくれたよね
すごく嬉しかったんだよ、本当にありがとう
当麻と出会った最初の頃って、デリカシーがなくて、良い格好しいで、能天気で、適当で、何かムカツク奴だなって思ってたんだよ
でもね、私と妹達を地獄の底から救ってくれたあの夏の日から、当麻は私の中で特別な存在になっていったの
その時から、当麻に会いたくて、当麻を探して、当麻を見かけたら嬉しくて、当麻に話しかけて、でも当麻にスルーされて悲しくて、当麻に気付いてもらえてドキドキして、当麻とお喋りして楽しくて、当麻と喧嘩してムカツイて、でもちょっと楽しくて、当麻が他の女の人といたら胸が苦しくて、当麻に八つ当たりしちゃって、でもやっぱり当麻にこっちを見ていて欲しくて、当麻とお別れた後ちょっと切なくて、寮で一人の時当麻の事考えて、当麻の夢を見るようになって、そんな風にして、私の世界は当麻を中心に回るようになり始めたの
そして、病院から抜け出したボロボロの体で戦場に向かおうとしてる当麻と会った10月のあの時、私は当麻の事が心の底から好きで、当麻の事が私にはとてつもなく大きくて大切な存在で、どんな些細な事でも当麻の力になりたい、当麻を守りたい、当麻を助けたいって事に気付いたの
それと同時に、当麻と離れたくない、当麻を失いたくない、当麻に嫌われたくないっていう怖い気持ちにも気付かされたんだけど…
時々、当麻は大切なものを守るために、海外や私の知らない所で私の知らない何かと戦ったりして全然連絡がつかなかったりするでしょ
そんな時、当麻は無事なのかな?当麻は怪我してないかな?自分は何か当麻の力になれないかな?って心配で心配で、一人で思い悩んで泣いたりする事もあったんだ
それで、いつもの病院に入院して戻ってるって知ると、ちょっとだけ安心して、無茶をした当麻にちょっとだけムカツイて、でもやっぱり当麻が無事なことの方が全然嬉しくて
当麻って助けを求めてる人がいたら、何があっても助けに行くでしょ。それはすごい事だし、中々真似できない尊い事で、理解出来なくもないけれど
でもね、もし万が一、当麻の身に何かあったりしたら、たくさんの人が嘆き悲しむんだよ
当麻が考えてる以上に大勢の人が泣く事になるんだよ
鈍感な当麻には分からないかもしれないけど、そういう所はもう少し自分を振り返って、自分の身の回りを見つめ直して欲しいかな
少なくとも当麻がこの世からいなくなる事は、私には絶対に耐えられないし、そんな事考えたくも無い…
だから、当麻には本当に無理して欲しくない、いつでも無事でいて欲しいと願わずにいられない
実はね、この手紙を書いたのは、当麻に私の気持ちを伝えること以外に、もう一つがあるの
それはね、このままだと、当麻を好きな気持ちに、私自身が耐えられなくなりそうだから
それほど当麻の存在は私の中で大きくなり過ぎてしまったの
素直になりきれない私だったけど、それでも私なりに当麻を振り向かせようって、これまで頑張ってきたんだけど
でもやっぱり、当麻の中での私の存在は相変わらず年下の生意気な女友達って感じで変わらない
いや、こんなの言い訳なのかな
正直に言うね…
当麻の周りって、あのシスターや、胸の大きい美人や、美人巫女など、いつもいつもたくさんの可愛い女の子がいて、それを見てる私の心はもう限界なの、自分が壊れそうなの、もう耐えられそうもないの
当麻の彼女でもないのに、こんな事考えるなんておかしいよね、醜いよね、嫌らしいよね、最低だよね
こんなんじゃダメだ、こんな汚らしくて醜い気持ちでいちゃダメだってずっと悩んでたんだけど、当麻に気持ちを伝えてウジウジしてる自分にお別れしなきゃいけないって、昨日決めたんだ
でもね、気持ちを伝える以上、醜くてて汚らしくても嘘偽りのない私の素直な気持ちを当麻に伝えたかった
そのくらい、当麻が好きで、当麻が大好きで、私の頭の中は当麻の事でいつも一杯なんだよって事だけは伝えたかったから
もし、当麻に振られちゃっても、心機一転次のステップに向けて新たに踏み出そうって決めたんだ
当麻に気持ちを伝えてすっきりしたら、次の目標に向かって頑張るつもり
一応、筋ジストロフィーの研究と、妹達を助ける為のクローン技術の研究を目標にしてるんだ
当麻に会わせてくれた神様に感謝しながら、私はこれからめちゃくちゃ頑張るから、陰ながら応援してくれたら嬉しいかな
当麻もケガして休んでばかりじゃなくて、ちゃんと学校行って進級して勉強も頑張ってよね
もう美琴先生の個人授業はなくなるかもしれないけど、私が好きになった人なんだから、絶対に立派な男になりなさいよね
立派ないい男にならないと、絶対、絶対、絶~~~対、許さないんだからね
私はね、「不幸」、「不幸」っていつも言ってる当麻には、本当に幸せになって欲しいって願ってるんだよ
だって、たくさんの人に幸せをもたらす優しい当麻が不幸になるなんて、おかしいし、絶対許せない!
ほんとは私が当麻を幸せにしてあげたいんだけどね、でもそれは贅沢な幻想なのかな?
私は当麻からいっぱい幸せをもらったから、少しでも幸せのお返しをしたいんだけどな…
あのね、ここからの事はあまり深く考えないで読んでくれる?
当麻へのこの気持ちはね、きっと私にとっての一生に一度の恋の様な気がしてるんだ
きっとこの先、当麻以外の人を好きになる事はないんじゃないかな…
私の背負ってる十字架って当麻には分かるよね
そう、妹達のことなんだけど…
妹達の事って、やっぱり普通の人は理解出来ない位、重い内容だと思う
こんな重たいものを、他の人に背負わす訳にいかないし、それを知らない人、理解出来ない人を好きになる事も絶対ないと思う
でもこれは私の問題だから気にしないでね、同情で気を引こうなんて思ってないし、同情されての気持ちなんてこちらからお断りだから
当麻は優しいから私に対して変に情けをかけそうだけど、未練が残っちゃうから中途半端な優しさは絶対にやめてよね、お願いだから…
当麻との最後の意思伝達になるかもしれないから、私の気持ちを正直に素直に伝えたかっただけだから
妹達の事は一生私が背負っていかなければいけない事だし、正直その重圧に挫けそうになることもあるけど、カエル先生と妹達と一緒に頑張っていくつもりだから安心して
あ、これからはもう、探し回ったり、追いかけたり、いきなり雷撃したりしないから安心して
でも、どこかでバッタリ会ったら、笑顔でお喋りぐらいしてくれたら嬉しいかな
最後に
当麻、あなたに出会えて本当に幸せでした
当麻、あなたに助けてもらったこの命、これからも絶対大切にします
当麻、あなたと一緒に過ごした時間は、私にとって一生の宝物です
当麻、あなたの事はこれからも一生忘れません
当麻、これまで色々と本当にありがとう
当麻、大好きです。心の底から愛してます
当麻、絶対幸せになってね。当麻の幸せが私の幸せでもあるのだから
私が好きになった人への『最初で最後のラブレター』として
御坂 美琴
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「ラブレターってなあに?」
「ラブレターって恋のお手紙のことだよ」
「おてがみがプレゼントなんだー」
「そ、パパの大事な宝物だよ」
「いいなー、わたしにもおてがみちょうだいー」
「よし、今度麻美にお手紙かいちゃうぞ」
「やったー」
「おっと、そろそろ晩ごはんの準備しないと、麻美、テーブルのオモチャ片付けなさいー」
「はーい。ねえ、ママはまだかえってこないのー?」
「さっきママから電話あったから、もうすぐ帰ってくるよ」
「やたー」
ピンポーン、ガチャ
「ただいまー」
「おう、美琴、おかえりー」
「ママ、おかえりー」
「麻美、ただいまー、ちゃんといい子にしてた?」
「うん、いい子にしてたよねー、パパ」
「あはは、今日も麻美はいい子ちゃんだったな」
「うふふ、じゃあ今日はママと一緒にお風呂入ろっか」
「うん、ママといっしょにはいるー」
「麻琴は?」
「ミルク飲んで、よく寝てるよ」
「そっかそっか、あー、疲れたー」
「あはは、お疲れさん」
「ごめんね、最近帰りが遅くて。もうちょっとで落ち着くと思うけど…」
「いいさいいさ、美琴は立派な仕事してるんだから、もっと誇っていいんだよ」
「ありがと。当麻、愛してる ///」チュ
「俺もだ、愛してるぞ、美琴 ///」
「あー、またパパとママ、ラブラブしてるー」
「あはは」
「ウフフ、麻美も大好きよ」チュ
「ほんと幸せだな、俺」