とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

01章

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第1章 『月曜日』


上条当麻は、まだまだ寝たりないと言いたげに、眠そうな目をこすりながら学校に向かっていた。
ただ一点をのぞいては、いつもと同じ朝。
違っているのは、今がいつもの登校時間より一時間ほど早いという点だ。
彼は先週の金曜に、担任の小萌先生から補習について伝えられていた。
それは、一限の授業の前に一時間行うというものだった。
通常、補習は放課後や土日、長期休暇に行われる。
朝の時間は貴重だ。しかも、冬の寒い時期に布団が発生させる重力場を脱出することは困難を極める。
それは、先生にしたって同じ事。
にも関わらず、朝早い時間から補習を行わざるを得ない状況になったかと言えば、非常に簡単な理由だった。
すでに放課後や休みの日の補習だけでは時間が足りないからだ。
上条は、様々な厄介ごとに巻き込まれる。学園都市のみならず、魔術がらみもある。
そのたびに学校を休み、解決して帰ってきても入院することも多い。
このままでは進級できないどころか、退学処分にもなりかねない。
通常、成績が悪い場合と異なり、出席不足での補習はない。
普通の学校生活を過ごしていれば、簡単にクリアできるボーダーな分、それに対する救済処置がないのは当然かもしれない。
しかし、上条は「特別」に補習が行われる。
小萌先生の働きかけか、事情を知っている統括理事会あたりからの命令か…
理由は定かではないものの、本来、救済処置が与えられていることを、彼は喜ぶべきなのだろう。
だが、所詮は高校生。朝の貴重な時間をつぶされて、ついつい「不幸だ」と言ってしまいたくなった。

一時間も早くに来ると、学校は別世界のように見える。
補習で居残りさせられて、誰もいなくなった学校というものを何度も経験していたが、
朝の光に照らされているからか、日光にまだ暖められていない空気のせいなのか。
少しばかりの新鮮さを感じながら、上条は校舎へ向かっていた。

今日の登校はスムーズだった。
特に不幸な事に遭遇することなく、学校にたどり着いたのは、単に人通りが少なかったからかもしれない。
しかし、不幸なことに何度も巻き込まれている彼にとっては、嵐の前の静けさと捉えてしまうようだ。
「この後、すんげーことに巻き込まれるんだろうなー」
などと独りごちていたら、後ろから声をかけられた。

「上条ちゃん、おはようなのですー!」
上条から朝の貴重な時間を奪って苦行を与えた張本人。小萌先生その人だった。
いや、彼女も補習を指示された「被害者」的立場かもしれないが…
「おはようございます。先生は朝からお元気そうで…ふわぁぁ~」
と言ってわざと欠伸をする。上条にとっての精一杯の皮肉だ。小萌先生はわざとらしく欠伸をしながら、
「ふわぁぁ~先生だって眠いのです。それもこれも休んでばかりいる上条ちゃんのためなんですからねー」
と、余裕で皮肉を返されてしまった。小学生にしか見えない小萌先生だが、中身はしっかり大人だと言うことを認識してしまう。
高校生ごとき軽くあしらうのですよ!などと言いそうな目であった。
「わかりました。わたくしが悪うございました!!さっさと補習終わらせましょう」
と、観念したように言うと、小萌先生は思い出したというように手のひらをパンッと叩いて、
「補習で思い出したんですけど、今日から体験入学生が来るのです。上条ちゃんはその子の案内係なので、よろしくなのです。」
「はぁー?何で俺が??そもそも補習で思い出すんですか!?っていうか拒否権は?」
「もちろん、ないのですよーだって上条ちゃんの成績の悪さを穴埋めするためなのですから」
なんじゃそりゃ!?と思ったが、上条は観念した。
成績のことを持ち出されたら拒否できないというものあるのだが、朝っぱら言い合うテンションになれなかったのが最大の理由だろう。
上条は諦めたように、ただこれだけは言わせてくださいとばかり、いつもの言葉を口から出す。

「不幸だ-」



補習が終了し、上条は自分の座席でホームルームが始まるのを待っていた。
時間が経ち生徒が増えるにつれ、学校はいつもと同じ顔になっていく。
いつも遅刻ギリギリの上条にとっては、登校する生徒を出迎えるのは、不思議な感覚だった。

朝のざわつきがピークに達し、もうすぐチャイムがなろうかという時間になったころ、土御門と青髪ピアスが教室に入ってくる。
「おはようだにゃーかみヤン。今日は早いんだな」
「何言うてますの、土御門はん。今日は補習ですやろ。うらやましいわ~早朝から小萌先生と二人っきりで補習やなんて~」
「んなこというなら、おまえが変われ!睡眠不足のうえ、暖かい布団から出ないといけないんだぞ!!」
と、いつもの会話が始まった。
「そういえば、体験入学生がくるらしいけど、おまえら誰がくるか知ってる?俺、案内係にされちまってさ」
朝、小萌先生から聞いた話を振ってみる。
案内係といえば、来賓を迎える人のように、責任ある仕事のように聞こえるが、
小萌先生によれば、体験入学生に付き従って特別教室などの場所を教えたり、
教科書や問題集などのコピーを作成したりと、色々な雑事をしなければいけないらしい。
つまりは、雑用係とか執事のようなものか。

そこで気になるのは、誰が来るかと言うこと。
まったくの見ず知らずなら、お互い慣れるまでに時間がかかり、短い期間に変な要求をされることもないと思う。
しかし、下手に知り合いが来てしまったら…考えるだけでもおそましかった。
「ボクは、女の子なら誰でも大歓迎やわ~」
「何も知らないにゃーかみヤン、頼むから手を出すのだけはやめてくれ!」
と、二人とも知らないようだ。が、なぜ女の子決定なんだ?などと思ってしまう。
もてない男子高生としては、出会いのイベントに淡い期待を寄せるものなのかもしれない。


結局、誰が来るかわからずじまいなので、知り合いが来ても対処できるように、誰が来るかを考えてみた。
普段から不幸な彼は、あらかじめ心の準備をして、ショックをやわらげるという対抗策を練っている。
とはいえ、大抵、その上を行く事態が発生するのだが…

体験入学ということは、中学生か?三年生ってのはなさそうだから、二年生あたりが妥当だと思う。
真っ先に浮かんできたのは、御坂美琴だった。
(あいつも、このまえ進路で悩んでたみたいだしなぁ~)
などと考えていたら、もう一つの可能性が思い浮かんだ。
転入生だ。来年度から上条の高校に転入を考えていて、体験入学というのもありえる。
(一方通行…や、やめてくれー)
二学期の始業式とは違って、性別は聞いてない。
鈴科百合子なんて名乗らなくても、「ンだ、三下ァ?あン時の勝負つけるかァ?」なんて言いながら、
教室に入ってきたって、違和感なさ過ぎる。
(殺される!絶対、殺される!!)
と、拒絶度100%で上条は顔をゆがめた。
いやいや待てよと思考を180度転換させてみると…
(魔術師がくるかもしれないぞ)
と、上条の心は警鐘を鳴らし出す。
少し前なら絶対あり得ない話だったが、世界情勢の変化か最近の学園都市は一部の魔術師と接近している。
特に必要悪の教会。イギリス清教とは元々距離が近かったためか、必要悪の教会のメンバーは学園都市との接触が多い。
さっきまでしゃべっていた土御門だって、必要悪の教会の魔術師だ。
能力開発の機密情報が漏れる危険性もあるが、短期間なら視察という名目で体験入学してきてもおかしくないかもしれない。
ステイル=マグヌスは小萌先生とつながりがあるわけだし。
ただ、ステイルの場合、高校に来る以上はたばこが吸えなくなる。
たばこが吸えないのは地獄だなどと言っているのだから、体験入学なんて避けそうな気がした。
そこでなぜか浮かんできたのは、神裂火織だった。
(いやいや、それはねーだろ!!)
と、上条は全否定モードに突入する。
「神裂火織。十六歳」と言って教室に入ってくる神裂に、
上条は「十六歳はねーよ!十八歳にすら見みねーって」と、ツッコミを入れた。もちろん想像でだが…


とりとめのない想像であったが、とりあえず心の準備が出来たと思っていたら、教室に小萌先生が入ってきた。
「みなさん、おはようなのです」と、上条にとっては今日二度目に聞く朝の挨拶を済ませた先生は、
「今日から一週間、体験入学生がくるのです。みんなよろこべー」
本日最大のイベントたる体験入学生の紹介が始まった。
クラスメイト達は、初めて知らされるのだろう「おおー」という歓声を上げた。
こういうイベントはみんな大好きなのだ。

「さぁーどーぞー」
と、先生が手をドアの方に向けた。
入ってきたのは…
「おぉーバカ兄貴~~」
予想の斜め上を行く、土御門舞夏。土御門元春の義妹であった。
これぞ我が乗り物と言わんばかりに、清掃ロボットの上に乗って。
いつもと違って、少し小型の室内用のロボットだった。ご丁寧に下駄箱で乗り換えたのだろうか?
教室に入ってきた舞夏は、小萌先生の前で止 ま ら ず に、義兄のところまで移動してきた。

上条は、それをみて何かを感じた。そうデジャヴュ。二学期の始業式と同じ感覚だった。
「バカ兄貴~弁当忘れただろう!持ってきてやったぞ」
という、舞夏の言葉を受けても、上条は驚かなかった。一度体験したことだから、予測が付いていたのだろう。

こっちのアクシデントは終了と、黒板の方を向き直ると、一人の少女が立っていた。
それは、上条もよく知る少女。

御坂美琴だった。



美琴は、教室に上条がいることを確認すると、少し安心した。
クリスマスの次の日に、靴下の中にちゃんとプレゼントが入っているのがわかった子供のような気分だ。
事前の連絡で、担任が小萌先生であることを聞いていたので、上条のクラスだとは予想していた。
しかし、他の学校のことなど当然知らない彼女は、もしかしたら2クラス担任しているかも、と心配していた。
上条当麻と同じクラスですか?などと聞いてしまえば、即ち彼と同じクラスになりたいと言っているようなもの。
彼のことが好きという感情には気付いている彼女でも、それを口に出すことなど、無理なことだった。
果たして、実際に教室に入るまで、その不安は解消されなかったわけである。

土御門舞夏の乱入があったものの、教室は冷静な状態だった。
なぜみんな冷静でいられるのか、美琴は不思議に思ったが、
クラス全体が聞く体勢であることを確認すると、常盤台のエースに恥じぬように気品あふれる仕草で自己紹介をした。
「常盤台中学2年の御坂美琴です。短い間ですが、よろしくお願いします。」
「えー御坂さんは、一週間このクラスに体験入学するのです。あと、案内係は上条ちゃんがやることになりました。
 わからないこととかあったら、上条ちゃんに聞いてくださいねー。」
「えぇぇぇーーーー」
そんな話聞いてない!とばかりに美琴は盛大に驚いてしまった。さきほどの『気品あふれる自己紹介』が水泡に帰すほどに。
そして驚いている美琴の横を通り過ぎる舞夏が、
「押しかけ女房かー」と、いたずらっぽいニヤケ顔で通り過ぎたので、
「土御門ーーーー!!」
と、真っ赤になって怒ってしまった。恥の上塗りである。
舞夏を追いかけて制裁を加えたかったが、
これ以上恥をかきたくないのと、ホームルーム中という制約により断念した。
(今度会ったら、わかってるでしょうね…)

イライラが少し治まったかな、というところで
「御坂さん」
と、美琴に小萌先生が声をかけた。落ち着くのを待っていたのかもしれない。
「先生は、生徒のことを『ちゃん』づけで呼ぶので、御坂さんもそう呼びますねー」
「はい」と美琴が答えたのを確認すると、「御坂ちゃん」と改めて呼び直し、
「あそこの席に座ってくださいねー」
と、空いている席を指さした。そこは上条当麻の席のすぐ隣だった。
(ちょ、ちょっと。隣同士!?)
美琴は顔を真っ赤にしていた。さきほど舞夏に怒ったときのものとは別の。恥ずかしい。そんな「真っ赤」だった。
美琴は周りに気付かれないよう冷静に、努めて冷静に指定された席に向かう。
マンガとかって、転校生が来ると不思議と席が一つ余ってんだよねー。などと、どうでもいいことを考えながら。

着席すると、上条に声をかける。
一週間、自分の案内係になるのだから、挨拶くらいしておかないといけないだろう。という風を装って。
「よ、よろしく……」
「よっ!なんか、安心した。体験入学生が御坂さんで、上条さんはすんごく安心しましたよ」

(アイツ、私が来てうれしい?)
予想外の反応に意識が飛びそうになる。

「もっと変なヤツがくると想像してたからさー」

彼の続けた言葉に、美琴はイラッとした。正の数に-1を掛けたように…
刹那、美琴は電撃の槍を上条に向けて放った。全くの無言で。

「や、やめろ!!教室でビリビリはやばいって!!」

と、上条は叫び、右手で電撃の槍を打ち消す。

「私が来て、とってーもうれしいってことよね?だったら、電撃してもいいわよね!!」

と、もう一発放ったが、

「二人とも、仲がいいのはいいですけど、ホームルーム中ってこと忘れないでほしいですー」

「こ、この状況のどこが仲良く見えるのでせう?」
(な、何でコイツと仲良く…)

小萌先生の一言で冷静になった美琴は、周りを見渡して電撃をやめる。
クラス中の視線がすべて自分に集中しているのがわかる。
やってしまった。と。

そして、美琴は感じた。この小学生にしか見えない先生は、何か特殊な能力を持っているのではないかと。



午前中の授業が無事終了した。
美琴の隣に座る上条は、眠たそうな目で机に突っ伏している。

上条は授業中に居眠りをしていて、先生に何度も注意されていた。
彼の寝顔をゆっくり堪能できた美琴はご満悦であったのだが。
しかし、よくよく考えてみると、案内係は自分の教科書の準備とかをして朝早く来ないといけなかったのかもしれない。
もしそうなら、彼に悪いことをしたなと美琴は思ってしまう。

「あー眠い」
「アンタは昨日の夜、寝てないわけ?」
「いや、上条さんは朝から補習で…朝早くに起きたから眠くて眠くて…」

(な、なによ補習って。心配して損したじゃない!)
と、またイライラし始めたが、朝の失敗もあったので、なんとか押さえた。

「で、お昼はどうするのよ?」
「俺は弁当だけれど、おまえは?」
「あーそっかーここってお昼でないんだっけ?」

常盤台の寮は、各部屋にキッチンはない。共同のキッチンはあるのだが、全員が使えるほどの広さではない。
したがって、昼食は給食が供されるわけで、いつものつもりで、美琴は何の用意もなく登校してしまったのだった。

「私、何も持ってきてないわ」
「じゃあ、学食だな」

と言って、上条は突っ伏している状態から、瞬時に立ち上がった。

「ア、アンタも来るわけ?」
「いや、上条さんは案内係ですから。それにオマエ場所知らねーだろ」

と、上条は自分のお弁当を持って、学食に向かって歩き始める。
確かに美琴は知らないので、彼について行くしかないのだが、

(だ、誰も誘わないの?ってことは二人でご飯?なんかこれって、こ、こ、恋人同士みたいじゃない!!)

真っ赤になって、歩く美琴であった。

学食は、あまり混雑していなかったので、席も食べ物もすぐに確保できた。
上条によると、ここの高校生はみんな貧乏なので、ほとんどが自炊派だかららしい。
お弁当だけ作るのだと手間がかかるが、前日の残り物を詰めたりすれば安上がりで簡単なのだろう。
混雑している学食で、上条がお弁当を広げるのは憚られるだろうが、この混雑なら問題と思う。

「じゃ、俺行くから」

さも当然のように上条が告げてきた。
一緒に食べるものだと思っていた美琴は慌てて、

「はぁ?どこにいくのよ」
「姫神のとこ。ってもわかんねーか。クラスにいただろ、長い黒髪のヤツ。俺、アイツと弁当食うからさ」
「えっ!?そ、それって、アンタの彼女?」
「んなわけねーだろ。上条さんはもてない高校生ですよ」
「じゃあ、なんで一緒に食べているわけ?」
「アイツ、ご飯作るの上手でさ。一緒にレシピとかの研究してるんですよ」

美琴は直感した。これは方便だと。
上条ではなく、姫神という名の女が使った方便。
レシピ研究とか言って、単に一緒にご飯を食べたいだけなのだろうと。

お弁当を食べるならいざ知らず、レシピ研究と称しておかずを交換しあう二人を想像すると、
美琴の心は、嫌な感情で支配されていくのを感じる。

「ア、アンタ、私の案内係でしょ!私が迷ったらどうするのよ!?
 それに…一緒に食べ……知り合いアンタしかいないんだから、一人じゃ味気ないじゃない!!」

自分がこの学校に来ているときだけでも、それをやめさせたいと思い猛烈に引き留めたら、
「そうだな」と言って上条は携帯を取り出し、電話をかけ出した。

「―――ってわけでさー今から三人で――えっ!おい――あー切れてる」

上条は携帯を不思議そうに見ていた。

「ね、ねぇーどうだったの?」
「事情を話して、三人で食べようって言ったんだけどさ」
「…………」
「なんか、二人で食べろって。何で怒ってるんだ?アイツ」
「……鈍感………」
「ん?なんだ?」
「…なんでもない!とにかく早く食べるわよ。ご飯が冷めちゃう」
「あぁ~そうだな」

その後、ご飯を食べ始めたが、
気まずく感じてしまった美琴と、姫神のことが気になってしまった上条は、
ほとんど会話をすることもなく、食べ終えてしまった。

(……せっかく二人でのご飯だったのに……)



教室に戻ると、美琴は視線を感じた。その主は長い黒髪の少女。
おそらく彼女が先ほどの姫神なのだろう。
無表情でよくわからなかったが、おそらく怒っているのだろう。
上条との時間を奪った美琴のことを。


上条は、姫神の気持ちに気付いている様子はない。
しかし逆にそれが、はっきりとした答えがでないままズルズルと引きずることになってしまう。

美琴自身もそうだが、期待してしまうのだ。
「もしかして」という可能性だけで過ごしていくのは、案外酷なのかもしれない。
いっそのこと、好きとか嫌いとかはっきり言ってくれた方が楽なのだろう。

でも、今の関係を壊したくないという気持ちもある。
だから、告白できないのだ。


姫神という少女は、美琴と同じ立場なのだろう。
だから、美琴は姫神に敵愾心を感じながらも、同情してしまう。


改めて前途多難だなと美琴は感じながら、体験入学初日は過ぎていった。


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