とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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夢よりも現実の



『なあ御坂、俺イギリスに行くことになったんだ』

『へえ…いつ頃帰ってくるの?』

『えーと…多分もう帰ってこないと思う』

『―――え?』

『だからさ、御坂妹たちにも伝えといてほしいんだよ』

『ちょ…ちょっと…!』

『じゃ、俺準備が忙しいから!今までありがとな!』

『ダメ…!行かないで…!』

「―――待って!」

叫んだ瞬間、目が覚めた。

「ゆ、め…?」

これで何回目だろうか、と美琴は考える。
このような内容の夢を見るようになったのは、恋心を自覚したあの日―――
……彼が、ボロボロの体で戦場に向かうのを見送ったあの日からである。
夢の中の彼はいつも自分から離れて行ってしまう。
こんなことが3日に一回はあるのだ。
彼女が正夢なのかもしれない、と思うのは当然だった。

「黒子は、風紀委員の仕事か…」

休日だというのに御苦労なことだ。
だが、自分も負けていられない。
美琴は気持ちを切り替えるため、まずは洗面所に向かった。

         ☆

「ふっふっふ…今日は珍しくツイている!今の俺なら一方通行だろうがちょちょいのちょいだな!」

本人が聞いていれば確実に黒い翼を出して襲ってくるような発言をしているのはご存知上条当麻。
確かに彼はツイていた。
本来今日はあるはずだった補習が無くなり、
おばあちゃんの荷物をもってあげると商品券をもらい、
例の自販機もお金を呑み込まないといった感じに。

「よーし、今日は奮発しちまうかー?って、あれは……」

早くも運を使い果たしそうな発言をすると共に、彼の視界に見知った顔が映った。

「おーい、御坂ー!」

いつもならスルーしていただろうが、今日は機嫌がいいからか、駆け寄りながら声をかける。
だが、返事が無い。
目の前に居るというのに、振り向きはしたが、何も言ってこない。

「御坂?どうかしたの―――」

言い終わる前に軽い衝撃を感じた。
見れば、美琴が抱きついている。

「……あのー、御坂サン?」

返事は無い。
とりあえず上条は待ってみることにした。

         ☆

美琴が歩いているとき、声をかけられた。
その相手は、今最も会いたくて、同時に今だけは会いたくない相手である上条当麻だった。
いつもなら、美琴が返事をして、彼が余計なことを言って、電撃沙汰になっているはずだった。
だがしかし、上条の服装が悪かった。
彼は補習が無かったので、私服で歩いていた。
その服装がちょうど、美琴の夢で着ていたものと同じだったのだ。
美琴は頭の中が真っ白になり、気づけば彼に抱きついていた。

「……御坂、なにかあったのか?」

空気に耐えきれなくなったのか、上条が美琴に問いかける。

「夢、を見たの…」

「夢?」

「そう、アンタがどこかにいっちゃう夢……」

「―――ッ」

上条は自分のせいで美琴がこんな状態になっていると理解し、自分をひどく責めた。

(ちくしょう、何がコイツとその周りの世界を守る、だ!今コイツを傷つけてんのは俺自身じゃねえか!)

どうにかしようと考えるが、かける言葉が見つからない。
上条は考えるのをやめ、自分の正直な想いを伝えることにした。

「……御坂」

名前を呼ばれ、顔をあげた彼女には、確実に涙を流したであろう痕跡が残っていた。
そんな姿に罪悪感が湧くが、このまま放っておくわけにもいかなかった。

「俺はこれからも何かあるたびに、どこか遠いところにいかなきゃならないかもしれない」

「ッ!!」

美琴の上条を抱きしめる力が強くなる。

「でもさ、どこに行っても、どんな用事だったとしても、お前の居る、ここに帰ってくる
  ―――絶対だ、約束する」

言い終わると共に美琴を抱きしめる。

「―――わかった、ずっと待ってる。……信じて、待ってるから」

         ☆

「ただいま~」

二人はその後、少し買い物に付き合ってから別れた。
朝出ていく時よりずっと、美琴は上機嫌だった。
だがしかし。

「お姉さま!往来で殿方と抱き合っていたとは本当ですの!?」

どうやら同室に居る彼女にも伝わっているらしい。
確かにあの時、周りからの視線をひしひしと感じた気がする。

「え、えっと、その…」

「そ、その反応!やはり相手はあの類人猿ですのね!!きぃぃぃいいいいい!!あの若造がぁぁああああああ!!!」

上条への怨嗟で頭がいっぱいだったのだろう。
白井黒子は後ろから寮監が出現したことに気付かなかった。

「白井…騒ぎすぎだぞ…?」

「あ、あの、これには深い―――」

白井が言い訳をする前に彼女の首は220°回転した。

「…御坂」

「ハ、ハイッ!!」

「ほどほどにしろよ」

「え、あ…はい」

寮監の意味深な言葉は気になったが、これで黒子の詮索は無くなった、と美琴はほっと胸をなでおろした。


ちなみにその日の夢は、いちゃいちゃ甘甘仕様だったらしい。


end


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