とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

548

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

ゆれる髪、時々ココロ



 夏に向けて、少し暑く感じるようになった頃。
 上条当麻はとあるベンチに腰掛けて、すやすやと寝息をたてていた。
「んっ………」
 上条は眩しそうに目を開ける。
(寝ちまってたか……ここのところハードだったからな)
 相変わらずの補習祭りをクリアし、なんとなくベンチに腰をかけたのだった。
「……あれ?」
 上条は左肩に妙な違和感を感じ、そちらを見る。
「ふにゅぅ」
「…………ど、どういうことですか?」
 上条は苦笑いを浮かべつつ、違和感の原因に困惑する。
 茶色い髪に小さな花柄の髪留め、そしてなにより気品溢れる常盤台中学の制服。
 レベル5の第3位、御坂美琴が上条の肩に頭を預けて眠っていたのだった。
「み、みさか?」
 驚きのあまり、上条の身がビクリと跳ねる。その拍子に、美琴の頭も少しズレる。
「う……ん?」
 美琴は寝ぼけた目を擦り、身を起こす。
(や、やべぇ、まずったか!?)
 上条は美琴を起こしてしまった事に慌てる。
 特に何かをしでかしたわけではないものの、なんとなく嫌な予感がするのだった。
(『アンタ、なんかしようとしたでしょビリビリィ!!』なんて事になりかねんっ!)
 上条は寝起きでまだ気だるい身体に鞭打ち、その場からの脱出を試みる。
 足に力を入れるものの、妙に重い腰をベンチから上げられなかった。
 美琴がその細い腕を上条の身体に回し、ガッチリとホールドしている。
 寝ぼけているのか、その顔はふにゃーんと緩みきっている。
「とうまぁ」
「っ!? ちょ、ちょっと、み、みみみ、みさかさん!?」
 いつもの勝気な態度とは180度違った、甘い声で美琴が呟く。
(これはやばい。紳士上条さんでもこのコンボはやばいですよっ)
 ぎゅぅっと、SEがつきそうなくらいしっかりと抱きつかれている上に、気だるそうな甘い声。
 その上、とろんと幸せそうに緩んだ笑顔ときた。
 この状況で精神をやられない男は修行の末に悟りを開いた人間かそっち側の人たちだけだろう。
 紳士を名乗る上条も、目の前の美琴を抱きしめたい痛烈な欲望に飲まれそうになるが、なんとか踏みとどまっている。

「み、御坂ッ!!」
「…………みこと」
「……へ?」
「なんで美琴って、呼んでくれないの?」
 美琴は不満そうに眉を吊り上げ、頬を膨らませている。
(うあああぁぁぁぁっ!?)
 そんな美琴の姿を見て、上条は頭を抱えた。
(がんばれ、耐えるんだ!!)
 上条は『内なる自分』の暴走を食い止めつつ、膨れたままの美琴に向き直る。
「み、みみ、みこみこっ、みことっ」
「んー、なぁに、とうまぁ」
 上条がどもりながらも名前で呼ぶと、満足そうな笑顔を浮かべて、美琴は再び上条の胸に飛び込む。
 喉を鳴らしながら、甘える猫のようにスリスリと頬を摺り寄せている。
 心なしか、『やわらかいなにか』が当たっているようにも感じる。
「だ、だあぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」
 上条は自分の中から煩悩を追い出すかのように大きく叫び、美琴の細い肩に手を置くと勢いよく引き離した。
「美琴!!」
「………とうま」
「落ち付――」
「初めてだから、やさしくしてね?」
 上条の言葉を遮って、恥ずかしげな美琴が口を開く。
 その頬は桜色を通り越してリンゴのようになっており、切なげな目は潤んでいた。
 プツリと、上条は自分の中で何かが切れたような音を聞いた。
 それが一体何の音なのかは分からないが、ダムが決壊したかのような色々なものの奔流が上条を支配する。
「み、美琴っ!!」
「えっ!?」
 上条はベンチの上で、美琴を押し倒す。
 一瞬の空白。
 先程までの、ぬるま湯のような温かさはなく、妙な気まずさのみが場を支配する。
 上から美琴を見下ろす上条の顔は、ひきつった笑みが。
 下から上条を見上げる美琴の顔には、羞恥に頬を染めているも、明らかな怒りが見て取れる。
「…………」
「…………覚悟は、出来てるわよね?」
 美琴はふぅと溜息をつくと、バチバチッと洒落にならない音を生み出す。
「み、みみ、みこみこっ、み」
「黙れ、この野郎がぁぁァァッッ!!」
 ズバァンッ!と甲高い爆発音が響いた。

「不幸だぁぁぁぁ、ぁあ、あ、あれ?」
 上条は自分の身体を見た。まともに食らったかのように思えた美琴の電撃の跡は見当たらない。
 あたりを見回す。
 傾いた日は学園都市をオレンジ色に染め上げている。
「ゆ、ゆめ?」
 火照った身体に、爽やかに吹く風が心地いい。
 ベンチに腰掛けて眠ってしまったのだろうか、上条はこしこしと目を擦る。
(いやいや、しかし夢でよかったですよ)
 上条はホッとしたように息を吐く。あれ現実であったならば、上条の身体は確実に炭化していただろう。
(次、あんな状況になったら耐えれねぇかもなぁ)
 ボーっとする頭で、夢の中に出てきた甘える美琴を思い出す。
 いったい何の夢を見ていて、どう寝ぼけたらああなるんだろうか、と鈍感紳士の上条は首を捻った。
「さて、インデックスに怒られる前に帰るとしますか」
 よっこいしょ、と口に出しながら、上条はベンチ腰を上げようとする。
「………あ、あれ?」
 思いの外、重い身体に嫌な予感を感じながら、上条は恐る恐る自らの左に目をやった。
 心地の良いそよ風に、茶色の髪と可愛らしい花柄の髪留めが揺れていた。


ウィキ募集バナー