とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part26

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―あれから一週間―


 ―――あれから、一週間が経ち、4月14日午前7時。

「んー…?」

 美琴は、最近ようやく慣れはじめた自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。
 彼女自身としては、毎日でも恋人である、上条の家に泊まっていたいところなのだが、それを上条が全力で否定。
 『毎日泊まってたらありがたみがなくなる』、『そんなことされたら俺がダメになっちまう』、などの理由をつきつけて彼女の言い分を撃退した。
 無論、美琴は完全に納得したというわけではなく、渋々承諾しただけ。
 その代わり、寝るまでの間は一緒にいてもいいという交換条件をだした。
 これにも上条は反対したが、対してこれは美琴が有無を言わせず承諾させた。
 そういう経緯もあって、美琴は今自分の部屋のベッドの上。

「ん~~!」

 眠気はすぐには抜けず、少しダルい体を起こし、精一杯背伸びする。
 最近は以前のように憂鬱な気持ちで朝を迎えるといったことはなく、気分は良い。
 それもこれも全ては一週間前の出来事にに還元される。
 彼が長い旅路から帰ってきて、しかもその旅路があまりに長すぎたために、留年してまた一年から。
 振り分けられたクラスは同じで、籤で決められた席では隣同士。
 これでもかというほど、彼女にとって良い出来事が起きた。

「さてと…」

 美琴は枕元に置いてある携帯に手を伸ばし、これで見たのは何度目かと思うほど見慣れた名前の人物へ電話をかける。
 それは上条当麻の家の番号。
 これはこの一週間の間で定着しつつある日課のうちの一つ。
 朝は一緒に登校しようと決めたその翌日に、いきなり寝坊して遅刻しそうになった体験がきっかけで始まったもの。
 そういうわけで電話の主な目的は上条を確実に起こすためのモーニングコールである。
 だが寝起きから上条の声が聞けるため、電話をかける美琴にとっては一石二鳥。
 最近の一日は上条の声を聞いて幸せな気分になってから始まる。

『ガチャ……うーす…』
「おはよう、相変わらず眠そうね」

 数回のコール音の後に、上条はとても眠そうな声で電話に応対する。
 恐らく彼は寝起きなのだろう。

『……なぁ、もう少し起こす時間遅くしてくれないか?上条さんは眠たくて眠たくて…』
「ダメよ、早起きは慣れない内はそんなもんなの。嫌なら早く慣れることね」
『うはぁ……じゃあせめて携帯にかけてくれよ。動くの面倒…』
「それもダメ。携帯だったらアンタ二度寝しちゃうでしょ?ってかそれ目的でやってるんだから」
『うっ…』

 そう、彼女がかけたのはあくまで上条の"家"の番号。
 携帯にではない。
 無論、彼の携帯が以前に壊れたから携帯にできないというわけではなく、わざとである。
 携帯は無いとやはり何かと不便であり、美琴の携帯も少しガタがきてるのものあって、先週末の土曜日を利用して二人で携帯を買いにいった。
 そこで買った携帯は、色違いではあるが二人ともお揃いの機種。
 機種のお揃いは美琴たっての希望であり、上条もそれくらいならとそこには首を縦に振った。
 しかし、始めに美琴が選んだあまりに少女趣味全開の機種には決して首を縦には振らなかったのだが…。
 閑話休題。
 とにかく彼女が彼の携帯に敢えてかけないのはもちろん理由がある。
 それは携帯では、寝たまま電話にでてそこで起きたと言っていても、電話が終わるとまた寝てしまうという恐れがあるからだ。
 実際、携帯を買って数日にもかかわらず、上条はそれをも一度やらかしている。
 だからこそ上条はこの美琴の対応に言葉を詰まらせた。
 その点、家の場合は電話にでるために目を覚ますだけでなく、体を起こさなければならない。
 それならば二度寝をする確率は格段に減る。

「とにかく、時間に近くなったらそっち行くから、ちゃんと用意しておくのよ?」
『……はぃ』
「声が小さい!」
『はい!了解しましたであります!』
「ん、よろしい」

 彼のしっかりした返事を聞くと、美琴は電話を切った。
 今の会話のどこかに楽しい要素があったかと質問すれば、恐らく誰しもノーと答えるだろう。
 しかし彼女は違う。
 今の本当にちょっとした、全く楽しそうでない会話の電話ですら満足げ。
 今の生活は彼女の希望、願望、憧れ、その他諸々のことがたくさん詰まった生活だから。
 だから彼の多少おざなりと言える行動や言動を除けば、何一つ不満などはない。
 美琴は今、とにかく幸せを噛みしめている。
 去年の一年間に味わえなかった分を取り返すかのように。

「さてと、私も準備しよっかな…」

 彼にあれだけ言っておいて、自分自身が遅れてしまっては話にならない。
 今日必要な用意は昨日の寝る前に全てしてあり、残りは朝食を食べるだけとはいえ、油断は禁物。
 不幸という名のハプニングは、何時如何なる時にくるかは全くわからないものである。
 それは彼女が上条と時を過ごすようになってから学んだこと。
 だから美琴は常に油断や慢心を抱かないように心がけるようになった。
 そして、美琴はベッドの脇に用意してあった今日着る下着や制服に着替えるため、今着ている寝間着へと手を伸ばした。

同日8時、上条宅前

「おはよ!」
「いつものことだけど、なんでお前はいつも朝からそんなに元気なんだ?」

 眠そうに大きな欠伸をして、上条はそう尋ねる。
 これも今となっては二人にとっていつも通りのやりとり。
 まず始めに元気に美琴が挨拶して、それに対して上条が眠そうに答える。
 今の二人には何の変哲もない、至極普通の生活。

「常盤台じゃ早起きが普通だったのよ。それよりもアンタは眠そうにしすぎじゃないの?」
「早起きなんていつもできたら遅刻なんてしねぇよ」
「じゃあ良い機会だし今の内に慣れときなさいよ。慣れると結構楽よ?」
「……できる限り頑張ります」
「できる限りって……はぁ」

 自信なさそうな、頼りなさそうな彼の返事。
 この返事に対して美琴は、思わず一つ小さなため息。
 上条がこういう返事をするとき、大抵言ったことが成されることはないことを知っているから。
 それは彼にとっての勉強と同じようなもので、彼にはどれだけ頑張っても克服出来ないこと、或いは出来そうに思えないことがあるらしい。
 人間、その気になれば大抵のことは克服出来るというのに。

「ま、今は私のモーニングコールがあるからいいけどさ。でも私がいない時はどうすんの?」
「その時はちゃんと起きるさ、今までちゃんとそうやってしてきたんだから。……というわけで朝の電話もう止めにしないか?」
「もちろん却下。前科持ちのアンタがそんなこと言っても全然説得力ない」

 もちろんその理由もちゃんとある。
 だが美琴はそれだけで上条の申し出を断っているわけではない。
 それはもしそうすると、朝に彼の声が聞けなくなってしまうから。
 本当は寝起きを共にしたいくらいなのに、その外泊を彼に止められているため叶わない。
 だけどせっかくなのでせめて寝起きには彼の声くらい聞きたい。
 その絶好の機会をみすみす逃すほど彼女は甘くはなかった。

「それじゃ行くわよ」
「あぁ学校か……せめて三年からなら、こんな不幸な気分にはならなかったんだろうな…」

 どこか遠い目をして、上条はそう空に向かって自分の今の境遇を嘆いた。
 教室で上条の周りを取り巻く人間は彼と同い年の人……ではなく、全員二つ年下の人間。
 確かにそれを考えれば彼の学生生活はあまり好ましいと言えるものではないかもしれない。
 さらに美琴が見ている限りまだ彼と同い年と思しき人物はまだ教室を訪れていないが、それも恐らく時間の問題。
 上条の話を聞く限り、彼の一年時のクラスメートの彼に対する接し方は少々ひどいものがある。
 そんな彼らにとって今の上条は絶好の的とも言える。
 むしろずっと音沙汰がない方が不自然に思える程までに。

「でもほら、何回も言うけど私がいるじゃないの。強ち不幸ばっかりじゃないとは思うんだけどなー?」
「……不幸だ」
「……ちょっと、それは私に対する宣戦布告と受けとってもいいのかしら?」

 額にうっすらと青筋とバチバチと電気を浮かべて、美琴は上条を威嚇する。

「あぁはいはい、わかったからもう行くぞ」

 が、しかし、こんな美琴に対する接し方も上条は慣れている。
 やはり美琴は能力がすごいとは言っても、女の子には違いない。
 つまり、要の能力さえ封じてしまえば彼女は、素手で数多の修羅場をくぐり抜けてきた上条には決して勝てないのだ。
 上条は猛る美琴の手を取り、早く行くぞと言わんばかりにぐいぐいと彼女を引っ張り、前へと進む。
 さっきまで額から放出されていた電気は、今は跡形もなく消え去っている。

「あ!ちょっとこら!!……もう、それずるいわよ…」

 いつもなら自分の方からなのに、上条から手を握ってきてくれたことに関しては、美琴は少し嬉しくも感じている。
 それでも、それで電撃も彼女の怒りもなかったことにされているようでやはり悔しいものもある。
 嬉しいけども、悔しいという互いに相容れないような二つの感情が入り混じる。
 常に彼の上に立っていたいなどのような願望はないものの、彼女にも超能力者としてのプライドがあってか、このままでいるのは納得いかない。
 このままでは終われない。
 上条に引っ張られて、美琴が扉に背を向けるような形でエレベーターに乗り込む。
 そしてエレベーターはその扉を閉じ、七階から一階に向かって動き始めると、

「ちょっと…」
「何ですか?もうさっきの話は終わりにッ!?」

 だから、嬉しさのお返し半分、悔しさのお返し半分を込めて、二人きりとなっているエレベーターで美琴は彼の唇を咄嗟に奪う。
 奪ったその間、少しの時間が流れる。
 その時間はとても甘く、ゆったりとしていて、少しのはずが美琴にはとても長く感じられた。
 まるでそこだけ世界から隔離された、時の流れが違う別世界かのように。
 そしてその行為も少しだけの間のつもりだったのに、いざしてみると二人きりの間は限界までしていたくなった。
 エレベーターが一階に着いて、また元々いた世界に戻るその瞬間まで。

「ん……ッ!?」

 機械的な電子音と、何か重いものが動く音がした。
 それは、エレベーターが一階に着いたことを知らせる音。
 それでも、今の時間は普通登校するであろう時間帯から少し早く、部活の朝練などをするにも遅過ぎる。
 そんな時間にうろついている輩はそうそういない。
 事実、この一週間では誰一人として会ってはこなかった。
 そういうこともあり、急に離れるのも少し名残惜しくも思っている美琴は、すぐにではなく、比較的ゆったりと離れていく。

「……?おー」
「え…?」

 扉が開いた瞬間、扉の向こう側から恐らく女の子であろう声がした。
 それは絶対に会わないであろうと思ってたかをくくっていた誰か人の声。
 それが一体誰なのかと美琴はまず、その人物と正面向いているはずの上条の顔を見てみる。
 彼の顔は何かが終わってしまったと言わんばかりに青ざめており、額から若干の汗が流れていた。
 彼にそんな顔させる人物が誰なのか気になって、美琴も視線を上条から背後の扉へと移すと、

「お前達は朝からお熱いなー。こんな時間にもう二人仲良く登校か?」
「な゛っ…!」
「ん?みさかどうした?そんな顔して」

 そこに立っていた人物、否、掃除機のロボットの上に座っていた人物は、二人のよく知る少女、土御門舞夏。

「!!な、なななんでアンタがこんな時間にここにいるのよ!?」
「それはだなー、今私が兄貴に今日の弁当を届けに行くところだからだぞー」

 最悪だ。
 二人の脳裏にそんな言葉がよぎった。
 こんなことを二人で話し合った時はないものの、彼らの中で彼女はこういう場面で会いたくない人物ランキングにおいて共通して上位に位置する。
 理由は二人で様々だが、今二人の目の前にいる彼女にこういうことがあったという事実を知られるのは、色々まずいということは一致する。
 彼女が二人の共通の知人ということは、彼女から二人に繋がる知人に伝わってしまう可能性が非常に高いからだ。

「ってうわわ!」

 彼女の存在に固まっている間に、まだエレベーターの中に人がいるにも関わらず、扉が閉まろうとしていた。
 それに待ったをかけ、手で繋がっている二人は慌てて外へと脱出する。
 その光景見ていた舞夏の視線の先は、二人の繋がる手。

「……っと、それじゃ私はお邪魔みたいだからここで退散しとくか、またなー」
「え?あ、またー……じゃなくて!!間違ってもさっきのことは誰にも言うんじゃないわよ!!」
「頼むから、頼むから兄貴には言うなよー!!」

 朝もまだ早いと言えるこの時間から叫ぶ二人を背に、舞夏はその場を後にした。
 恐らく、別のエレベーターに向かっていったのだろう。

「……あいつ、口固い方だっけ?」
「時と場合による。多分、こういう時は…」
「……不幸だ。……そもそも、お前があんなとこであんなことすっから…」
「ぅっ!……だ、だって、それはアンタが…」

 その先のことは、敢えて美琴は何も口には出さない。
 それはあまり偉そうに言えるような理由でもないから。

「……で、でも…」
「でも?」

 さっきのことは美琴がやりたくてやったこと。
 仕返しの意味もあったので、上条への配慮は全くと言っていいほどしなかったが、やりたかったには変わりない。
 しかし、それでも美琴は彼に今不幸そうな、けだるそうな顔をされるのはあまり好ましく思わない。
 まして彼がするのは嫌だったと言いたげな顔をされるのは。

「キスは、嫌…だった…?」
「!!」

 今、美琴が上条を見つめるその目は、少し潤んでいる。
 美琴が上条を見つめるその顔は、少し不安と寂寥感に駆られている。
 美琴が、上条を見つめるその状態は、少し上条を見上げて、頬を微かに赤く染めている。

「~~っ!!」

 今の美琴の姿を形容する言葉が見当たらない。
 ただ強いて言うなれば、綺麗、艶やか。
 恐らく十人が十人にそう答えるのではないだろうか。
 上条とて、彼女がまだ中学生の頃から彼女の上目遣いやら何やらといった攻撃(?)を受けてきた男。
 そのどれもこれもが理性をグラッとさせるには十分な破壊力を備えていた。
 しかし、今回のは今までの比ではない。
 一年という歳月が、彼女の魅力をより磨きあげたのだろう。
 そんな彼女を長い間見ていられるわけもなく、ものの数秒で視線は美琴からほぼ180度回転して真後ろへ。

「い、嫌なわけないだろ!……ただ、もうちょっと場所考えろって話だよ!」
「……本当に?」
「う、嘘言ってどうすんだよ」
「……じゃあ、ちゃんと目を合わせて言ってよ。目を逸らして言っても説得力、ない」
「うっ…」

 上条としては、これは少しばかり叶え難い要望である。
 別に言ったことが本当は嘘であるためではない、彼が言ったことは嘘偽りのないれっきとした真実。
 上条が今彼女の目を見ることを躊躇う理由はそれとは別に他に存在する。
 それは、今の美琴の目をまじまじと見ることは、自殺行為に等しいため。
 もし見たとしたら、ちゃんと自分を抑えられるかどうかわからないから。
 ここが自分の部屋だったり、絶対に人がこないという保証がある場所ならともかく、ここはまだ時間が早くて人がいないとは言え、学生寮。
 いつ人に出くわすかはわからない。

「すみません、無理です…」
「……じゃあ、やっぱり嘘なの?」
「………」

 嘘ではないと証明したいけれど、それはやはり何もせずして証明はできないようだ。
 上条がちらりと横目で美琴を見ると、やはり彼女は少し沈んだ表情を見せていた。
 上条としてもそんな顔をしている彼女を見るのは耐え難いものがある。
 それでも、もしこの状況を打開する術があるのなら、それはただ一つ。
 美琴の要望を叶えれば、彼女に不安や寂しさを与えているものを払拭できる。
 それが恐らく彼女の笑顔を取り戻すための最善で一番近道の策。
 だがもしそれを上条が実行するのなら、小さな決意をしなければならない。
 実行してもしっかり自我をもって、自分を制御するという。

「……み、美琴」
「!?」
「頼む、俺を信じてくれ」

 結局、上条は美琴の目を真っ直ぐと見据えることは叶わなかった。
 その代わり、彼女に体全体を使って嘘ではないと伝える。
 数秒間だけ美琴を抱きしめて、すぐに解放した。
 今周りには二人以外の人はいない。

「………」
「……美琴さん?」
「………ばか」
「おう、上条さんはばかですよ」

 その上条の返事に対して、美琴はうっすらと柔らかい笑みを浮かべる。
 彼女のその表情に、先ほどまでの暗さはない。

「はぁ……今回だけだからね」

 キッと、上条を横目で睨むが、その目が語るのは怒りではない。
 しょうがない、と少しムカつくけれど格好いいところもある彼を許す、ということをその目は言っている。
 上条もその言葉、表情を見て、とりあえず安堵の吐息。

「はいはい了解ですよっと……それじゃ、何か色々あったけど行きますか」
「……うん」

 繋がっていた手を握り直して、止まっていた歩みはまた動きだす。
 今日はどうやら一悶着ありそうだと、上条は少し憂鬱になる。
 今日は朝からあまり良くないこともあったけど、それ以上に良いこともあったと、美琴は少しだけ満足する。
 太陽の高度はまだ低く、その光が生む影は昼間のそれよりもはっきりしている
 そのため、その太陽の光が生み出す二人のシルエットは、はっきりと繋がっている。


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