とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part25

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―バレンタイン・もう一つの決着―


同日17時頃、とある鉄橋

時刻は17時を少し過ぎた頃。
まだ月は二月の半ばであり、日の差す時間は長くなりつつあっても、この時間になると辺りも次第に薄暗くなっていく。
その人気もなく、閑散としているとある鉄橋に、美琴はいた。

「………」

今彼女がいる鉄橋は、かつて上条と二度対峙した場所であり、その内一度は彼がその身を挺して彼女が行おうとしていた暴挙を止めた。
だからここは彼女にとっては彼との思い出の場所の一つ。
その思い出の場所で美琴は何をするでもなく、目の前を流れる川をただひたすら眺めていた。
かつての絶対能力者進化実験の時のように。

「………どうして」

あの時とは違うところはある。
今はあの時のように彼女と縁のある誰かがどこかで傷つき、苦しんでいるわけではない。

「………もう、ダメなのかな」

けれども同じところもある。
それは絶望。
あの時のように彼女がどれだけ人事を尽くし、どれだけ抵抗しても抗えないことを知った故のものではない。
人を愛し、好きになってしまった故のもの。

「………あの時には、もう戻れないの…?」

彼の拒絶が、あまりにキツすぎて、あまりにショック過ぎて。
なんで彼を好きになってしまったのかと、後悔。
好きにならなければ、こんな思いはせずに済んだ。
どうして、自分は彼を好きになってしまったのだろう。
そもそも、彼さえいなければ…
そんな考えさえも、一瞬彼女の脳裏をよぎった。
しかし、それは違うとすぐに否定する。
彼は自分や自分の大切な人達を救ってくれた恩人であり、仮に彼がいなければ自分は既にこの世にはいないかもしれない。
彼のおかげでどうしようもできなかったことがどうにかなり、今こうして自分も大切な人達も生きていることができている。
だからこそ彼に惹かれたのだ。
それなのに彼がいなければと思うのは、明らかに筋が通らない。
それは十二分にわかっている。
わかってはいるが、それとは別の"違う"考えがまた生まれてくる。
深い深い悲しみと絶望の連鎖、美琴はそれに捕らわれていた。
その連鎖に呑まれ、頬を一筋の水滴が流れる。
一筋流れると、堰を切ったかのように次々と目から水滴が溢れ出す。
ポロポロと零れ落ちる涙を感じ、

(この涙と一緒に、アイツへの想いも…)

流れていってしまえばいいのに。
涙は止まらない、敢えて止めようとも思わない。
零れ落ちた涙は重力に従い、鉄橋の下を流れる川へ落ちる。

「でも、やだ……また、また話がしたい…一緒にいたいよ……当麻ぁ…」

やはり想いは涙とともには流れていってくれない。
この期に及んでまだ彼と共に時を過ごしたいと思っている。
それどころか、その想いも消えるどころか強まってもいる。
けれどもそれが叶うようなことなど、有り得ない。
彼は自分を拒絶したのだから。
そして今日、自分から彼を遠ざけるようなマネをした。
だからもう、彼は自分の目の前には、

「御坂!!」

急に横から声がした。
それは美琴が予想だにしなかったことなので、その瞬間ピクッと肩を揺らした。
そしてさらに予想外だったのは、その声は自分の目の前には現れないと思っていた相手のもの。
即座に視線をそちらに移す。

「!!…な、なん…で?」

向けた視線の先にいたのは肩で息をし、額から若干の汗を滲ませているツンツン頭の少年、上条当麻。
全力で走ってきたのか、その疲れ様はかつて彼を夜通し追いかけまわした時を彷彿させるほど。
彼は両手を膝におき、かがみ込む様な格好をとっている。

「はぁはぁ……そんなに、そんなに話がしたいなら、一緒にいたいなら…俺はいつまでもお前と一緒にいてやるよ!!いつまでもだ!!」
「ぇっ…?」

彼が今自分に向けて発した言葉が、信じられない。
彼は今、何と言った?
聞き間違いでなければ確実に『いつまでも一緒にいてやる』と言った。
本当にわけがわからなかった。
今まで生きてきた中でも一番わけがわからなかった時かもしれない。
何故なら昨日彼が言ったことと、今彼が言ったことは余りに矛盾しすぎているから。
昨日は嫌いと言って、今は一緒にいてやると言う、わけがわからない。
溢れ出す涙はいつの間にか止まっているし、目の前の彼は意味のわからないことを言う。

「な、なによ…同情でもしてくれるって言うの…?」

やめて…
ぐちゃぐちゃに混乱した頭の中だけれども、確実にその頭はその一つの指令をとばした。

「昨日私を嫌いと言って、今は違うって言いたいの…?ふ、ふざけてるの…?」

しかし、その指令に反して言葉を発するための媒体となる口は開くのを止めない。
せっかく、彼が全力で駆けつけてくれて、一緒にいると言ってくれているのに、わざわざ彼をまた遠ざける必要なんてないのに。
さっきまでの自分を忘れたかのようなことを口走ろうとする自分を止められない。
自分の中から湧き出す黒い感情が、今理性をも凌駕して、意識を支配する。

「かわいそうとかやめてよ!!…私は、私は同情心からそんなことを言われても全然嬉しくない!!そんなことをして私が喜ぶと思ってたの!?私は、そんな同情心からのアンタと付き合いたかったんじゃ、ない…!!」
「……御坂、頼む、俺の話を聞いてくれ」
「聞く?聞くって何を…?私が哀れに見えて仕方なかったから、仕方なく付き合ってやるっていう話のこと?」
「違う!違うんだ、頼むから俺の話を…」
「何が違うのよ!!アンタは昨日私に嫌いと言った、それがアンタの本心でしょ?そんな嫌いな相手と一緒にいて何が楽しいの?そんなこと嫌いなやつのことを同情をしてるくらいなら…」

お願い、もう、やめて…その先は、その先だけは言っては…ダメ…

「もう私の前に現れなければいいじゃない!!」

それを言った瞬間、二人の間を一陣の風が吹き抜ける。
そしてその風は、美琴が正気を取り戻すと同時に止んだ。
まるで頭に血が昇っていた彼女の正気を取り戻させるために吹いたのかと思わせるくらい、丁度のタイミングで。

「~~っ!!」

その瞬間、一刻も早くこの場から離れようと振り向き、走りだそうとした。
なんで大好きな彼に、一緒にいてやると言ってくれた彼に、あんなことを言ったのかと自己嫌悪に陥ったため。
何もあそこまで言う必要性はなかったのに、取り返しのつかないことを言ってしまった。
恐らくこれでもう彼が自分の前に現れることはない。
乾きかけていた涙腺からまた涙が溢れ出ようとする。
今度こそ、絶対、確実に自分の初恋が終わったと思ったから。
だがこの場を離れようと走り出そうとした瞬間、彼に腕を掴まれる。
そして、強引に彼に正面に向けさせられ、抱き寄せられた。

「!!…は、離してよ!」
「嫌だ、絶対に離さない」
「な、なんでよ……私のこと嫌いなんでしょう!?それなら…っ!」
「俺はお前が離せと言っても、話をちゃんと聞いてくれないなら絶対に離さない」
「!!」

上条の声に迷いはなかった。
それはある一つの強い意思に基づいて行動する時の、上条の声。
彼は本気で言っている。
今まで長い間彼を見てきて、近くにいようとしてきた美琴だからこそ、それが感じられた。
さらにこの状態に彼には何を言っても絶対に意志を曲げない。
そのためか、始めジタバタさせていた体も、精神も、ゆっくりと次第に落ち着きを取り戻す。
怒り狂って暴走していた黒い感情はもうない。
それは彼に抱きしめられるというのは初めてのことのはずなのに、初めてに感じない安心感を感じたのも、それを手伝ったのかもしれない。
今では美琴は体全体を彼に委ね、彼の胸に顔を埋めている。

「……御坂、落ち着いたか?」
「………ぅん」
「そっか……それじゃあ俺からの話、してもいいか?」
「………ぅん」

その確認を取りにきた時の彼の声は優しかった。
優しくて、包容力のある声。
彼女はこの彼の声が好きだった。
今のように実際に自分を抱きしめて包み込んでいない時でも、包み込まれているような気分になれるから。

「初めに言っておくが、さっき言った一緒にいてやるって言葉は別に、お前を同情してとかいうような気持ちは一切ない。あれは俺の本心だ」
「……本当に?」
「あぁ本当だよ、確かに昨日の今日で信じがたいことかもしんねえけどな」

すっと美琴は上を向き、彼の目を見た。
今見た彼の目からは、嘘をついているようには見えない。
本気の彼らしいとても真っすぐな目。
それならばと頭に疑問が残る。
昨日の告白の時のあれは何だったのかと。

「昨日の……御坂からの、告白の時にした返事は、実は本心じゃないんだ」
「なっ…!」
「俺はさ、怖かったんだよ。俺が誰かを想い、誰かに想われることで、その誰かに不幸が訪れてしまうことが……。別に実例があるわけじゃないし、そうならないかもしれない。……けど、怖かったんだよ、嫌だったんだよ」

昨日の告白の返事が実は嘘だったと言った時には、一瞬本気で電撃を浴びせたい、もしくは本気で殴ってやりたいという衝動に駆られた。
だがその後の彼が嘘をついた理由を聞いて、行動には移さなかった。
それは非常に彼らしいとも言える理由。
他人を気遣うあまり、自分を省みないところ。
そして自分が救った後の相手の気持ちをろくに考えていないところなど特に。
美琴は彼の恐れていることは真っ当な意見だとも思った。
今までの彼が歩んできた人生を考え、受けてきた仕打ちを考えれば、尚更。

「だけどな、気づいたんだよ、それは単なる自己満足で、御坂の気持ちなんて全然考えないで、しかも御坂の幸せにも繋がらないって、それどころか逆に不幸になるんだって」
「……そうよ、その通りよ。好き合うことで起こる不幸なんてそんなの、アンタにあんなことを言われた不幸、アンタと一緒にいられない不幸に比べればなんでもない。」

これは別に誇張表現でもなんでもない。
ただの本心。
本当に彼といられないのは苦しいし、不幸だと思っている。
一緒にいることで起こる不幸が些細に思えるほどに。

「あぁ。……ったく情けないよな。その事に気付いたのは今日のお前の顔を見た時で、しかもそれだけじゃ前に踏み出せなくて、白井に後押しされてようやくだ。ほんと、情けないったらありゃしねえ」
「全くもってその通りね。というかあの黒子がアンタを後押し?」

彼の話を聞いていると、意外な人物の名前が出てきた。
それは自分の後輩で、彼とはいがみ合っているはずの少女。
そのはずなのに、彼女が彼を後押ししたという。
とてもじゃないが、あまり信じられなかった。

「俺もあいつがよくわかんねえよ。今までは何かにつけて噛みついてきたくせに、昨日はやれ勝負だ質問だ、挙げ句の果てには今日俺をここまで導いてくれた」
「えっ、え?ちょ、ちょっと待ってよ、あの子やっぱり昨日もアンタに何かしてきたの?」
「なんだ知らなかったのか?あいつなら帰ったらすぐに御坂に言うと思ってたんだけどな」

初耳だった。
確かに昨日黒子が彼と会ったということは知っている。。
しかし詳しいことは何一つ聞いていない。
ただ一つ、勝負をしたということを聞いただけだ。

「あの子、アンタに何聞いたの?」
「……それを聞きますか?」
「当たり前じゃない。それとも人には言えない話でもしてたの?」
「いや、そんな話はしてないけどよ……うーん…」

彼は自分を抱きしめたまま、腕だけを動かして手を額に当てて何やら唸っている。
距離が近いので、彼の動き一つ一つで体がムズムズする。
でもそれで別に嫌な気分にはなるようなことはない。
そばにいるのは他ならぬ彼だから。

「まぁ簡潔に言うとだな……俺がお前をどう想ってるかってのと、俺がどっか誰かさんとした約束についてだよ」
「……は?」

黒子が、彼は自分をどう想っているかを、聞いた…?

(あ、あ、あいつは何てことを聞いてんのよ…!!)

後者の約束というのは今聞いても、今すぐにはぱっとは思いつかない。
自分の知らないことなのかもしれない。
けれども前者についてはちょっと聞き捨てならない。
何故そんなことを聞いたのかはわからないが、当の本人を差し置いてそんなことを聞くのはあまりいただけない。
思えば昨日の朝は彼女の様子は明らかにおかしかった。
いつもなら応援するはずのない自分と彼とのことを応援してきたのを筆頭に、らしくない行動の数々。
あれは明らかに何かがあっての変化だ。

(でも…あれ?)

彼女のことだ、何か自分のことで思うところがあったのかもしない。
それでも裏を返せば、彼女がいなければ、その事を聞いていなければ恐らく彼はここにはいなかった。
後押しというのは、その人の"本当の"心の内を知っていないとできない行動だからだ。
彼女は彼の本当の気持ちを知っていた。
そして昨日の自分の状態から、あの時自分が彼に振られたのは明白。
それをおかしいと思えたからこそ、後押しをできたのだろう。

それならば、自分は彼女に感謝をしなければならない。
変なことを彼に聞いておいて、それは非常に癪なのだが、そのおかげで今彼とこうすることができるのはれっきとした事実だから。
彼が来なければ、自分はどうなっていたかわからないから。

「……ねぇ」
「ん?」
「帰ったら黒子にお礼、言わなきゃだね」
「……まぁ、そうだな」

彼は少し戸惑っているような感じだった。
確かに今まであれだけ噛みついてきた彼女に、いきなり感謝というのは些か抵抗があるのかもしれない。
それでも、こんな形にしてくれたのは他でもない彼女だから、感謝の言葉は伝えなければいけないと思う。

「……ねぇ、そういえばさ」
「なんですか?」
「ちゃんとした、本心の返事、聞きたいな」

黒子への感謝の言葉を伝えなければと考えると、同時にそんなことも思い出した。
先ほど彼が駆けつけてきた時の言葉、先ほどの話のことでも別にいいが、ここはやはりちゃんと面向かって言葉を聞きたい。
彼の嘘偽りのない本心の言葉を。

「……言わなきゃダメか?」
「ダーメ」
「……はぁ」

彼は一つ小さくため息をついた。
それは嫌々だからといったものではなく、決意の証。
彼はそのまま今までしていた抱擁を解き、自分の両肩に手をおいて、自分の目の奥をしっかりと見据え、

「俺は確かに不幸な男だ。俺と一緒にいることでお前に不幸が起こるかもしれない、それ自体は俺自身はあまりよしとは思わない。……けどな、」

そこで彼は一旦言葉を切った。
それは今から言おうとすることを、より心に響かせるために必要な間。
彼が言ったわけではない、誰かが言ったことでもない。
けれど、直感的にそう感じた。

「俺も…お前が、御坂美琴が好きだ。この気持ちに偽りはない。だからお前が俺と離れることがより大きな不幸だと言うなら、俺はいつまでもお前のそばにいてやる。たとえお前に不幸が起きてもな。……こんな不甲斐ない俺でもよければ、これからもよろしくお願いします」

好きだ、それはずっと彼の口から聞きたかった言葉。
言い終えると、彼は自分の肩においていたをおろして、手を差し出してきた。
その手を見て、選択を迷うわけがない。
答えは既に、ずっとずっと前から決まっているのだから。

「うん……私も…たとえ不幸が起きても、アンタのそばは絶対に離れない。……それが、私にとっての一番の幸福だから…だから、こちらこそこれからもよろしくお願いします」

そして、迷わず差し出された彼の手をとった。
そして、それが自然であるかのように、また互いの距離を零にした。
今度は抱きしめられるだけじゃなく、自分からも彼の背に手をまわして、抱きしめて。
ふと、顔を上げて彼の顔を見ようと見上げてみた。
すると、彼もほぼ同じタイミングでこちらの顔を見ていた。
その些細なことでも少し心が踊る。
彼と自分の周波数がぴったり合っているような感覚になれたから。
それならばと、開けていた瞼をゆっくり閉じてみた。
この状況、この雰囲気、二人の周波数。
きっと鈍感な彼でもわかるはずと思って。
ほんの少しの間があって、それは訪れた。
長い間待ち望んでいた感触、初めての感触。
今は体と体だけじゃない、顔と顔との距離も零。
夜空に瞬く星々が燦然と輝いている中、二人は今結ばれた。

「………」

どれだけ続いていただろうか。
恐らく実時間は10秒にも満たない。
それでもその間は、とても永く感じられた。
とても、永く。
脱力して、顔だけじゃなく体全体を彼に委ねた。

「……美琴?」

さっきまでのことがあまりに嬉しすぎて、幸せすぎて、心地よすぎて。
意識がとびかけている。

「……おい、美琴?」

彼にポンポンと肩を叩かれ、声をかけられてるが、意識のベクトルは依然として内向きから変わらない。
少しだけ顔を上げると、彼は心配そうな表情でこちらの顔を覗き込んでいた。
抱きしめられているのもあってか、その距離はごく僅か。

「なんか変だぞ?どっか体調悪いのか?」

アンタのせいだと、心の中でそう叫んだ。
こうされていると、何故だか特有の心地よさと安心感に包まれているような感覚になり、されていること自体は別に反対とは思っていない。
今は脱力して抱きしめられているだけになってはいるが、彼の胸が強く当っている。
そこでは彼の心臓が鼓動する音がして、彼の匂いが鼻孔いっぱいに広がる。
それは一度味わえばやみつきになる、まるで麻薬のような心地よさ。

「……ふにゃー」
「おい!?美琴!?」

この心地よさはちょっと反則だ。
さらに今は彼が右手で自分の頭をおさえていてくれている。
意識をとばして漏電をするといった心配はないはず。
彼は何やら慌てているが、そんなのは関係ない。
こんな言い方は変かもしれないが、これならば心置きなく意識をとばせる。
それに何より、今は彼がそばに―――


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