とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

11-39

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

ささやかなる想いを星あかりのもとで 2 前編B



――帰国直前に行われた、上条(と美琴)の送迎会にて。

(何だか、やたら見られてるような……)
 表面上は、常盤台中学で培った完璧なお嬢様スタイルで佇み、にこやかに応対する御坂美琴。
 なぜか日本語が普通に通じる。
(堅苦しい雰囲気じゃないのは助かったけど、妙な顔ぶれよねコレ)
 王家の人間もいるわりに、やたらとお気楽な会であった。
 美琴の格好は、王女サマから借りた――着させられたと言うべきか――白いドレスをまとっている。
 まわりの人々が普通に普段着であったり修道服であったりで、正装な美琴はまるで王家側の人間に見える。


 日本人で、上条の手助けに駆けつけた最強クラスの超能力を持つ学園都市の少女。
 国際色豊かな女性陣は興味津々であった。何より、上条当麻との関係に、である。
 そもそも上条の傍らには、常にインデックスがいる。
 だが、天草式十字凄教の調査により、どうやら上条とインデックスは恋人未満であると判明している。
 実際観察してみると、上条からインデックスへの恋人っぽいアプローチが、皆無なのが分かる。肩や手すら触れない。
 上条の本命は別にいる、おそらくは未知の世界、学園都市に! ということになったのだが……

 そんなやきもきした面々の中に、子羊が投げ込まれた。御坂美琴である。
 その力はエレクトロマスターという言葉だけで、謎のベールに包まれていたのだが……、戦争の最終局面にて。
 彼女と、彼女に瓜二つな少女による、『空気中酸素のオゾン変換によるクレムリン・レポート作戦阻止』という離れ業で、
一気に名前が広まったのだ。

 上条当麻の本命第一候補はこのお嬢様か! と相成ったのは自然な流れであった。

 美琴の許へ、そばかすの小柄なシスターなど、次々に質問攻めにやって来た。……上条に関する質問ばかりを。
 にこやかに、『恩人です』『尊敬してます』『手助けに参りました』とひたすら堅苦しく、当たり障りなくかわす。
(こ、このやたらとアイツとの関係を探ろうとする空気は何なのよ!?)
 何故か、能力の方の質問がほとんどない。
 これは、美琴が知らないことであったが――事前に根回しがされていたためである。
 学園都市LV5、言うなれば学園都市の最高機密でもある。探っていると思われる行動は避けること、とされていたのだ。

(アイツひょっとして、この人達みんなにフラグ立ててんの?)
 上条の姿を探すと、インデックスを連れて王家の女性たちと話している姿が見える……
 相手女王よ、分かってんの!? と心で突っ込んでいると、緑のドレスを着た女性が美琴の視線に気付き、やって来た。
 第三王女、ヴィリアンである。
 ヴィリアンは、美琴があの時――地下鉄のシャッターで困っていた時、の上条の携帯電話の相手だったことも知って、
前日に顔を合わせてから、この10歳年下の少女のファンになっていた。
 美琴も、世間では無能と称されていた第三王女の噂は、……少なくとも別角度から見れば完全に誤っている事を知った。
 というより、美琴までこの王女を守りたくなってくる。とんでもない人徳オーラを発する王女であった。
(外からじゃ分かんないわね、このカリスマは。この人の為に笑って死んでいく騎士、一杯いるんじゃないかしら?)
 事実、王女が近くに来たというのに周りのシスターを始め皆、萎縮もせず、にこにこと王女の真横に立っていたりする。

「どうですか、皆さん? あの少年への想いを、ミコトは語ってくれましたか?」
 周りの人々は皆、ブンブンと首を横に振る……
「ち、違いますヴィリアン様! さ、昨日からご説明いたしております通り、彼は恩人でして、お役に立てるなら、と……!」
「ねえ神裂。まさにミコトのような女性をヤマトナデシコと言うのかしら?」
「ですね。清楚で凛とし、慎ましやかで、一歩引いて男性を立て、男性に尽くす甲斐甲斐しい女性……日本女性の鑑かと」
 ヴィリアンが声を掛けたのは、先日ラストオーダーの件で同席していた神裂という日本人女性だった。
 美琴はこの女性を見ると、あらゆるパーツで敗北感を感じるため、ちょっと苦手な感があったりする。

 神裂の横には、美琴が以前から知っている人物がいた。五和である。
 ただ、美琴もお久しぶり、と言う程の仲でもなく、五和もモジモジしっぱなしで、お互い微妙な空気のままだったが。
(この人は……あの銭湯以来よね。こっち関連の人だったのねー……うぅ、色々負けてる……ちくしょー!)

 その後も、ちくちくと美琴は上条の関係をつつかれたが、幸いお嬢様モードが功を奏したのか、深くは追求されずに済み。
 そうしている間に、女王エリザードが締めの言葉を語り始め、終会の雰囲気になって美琴がほっとため息をついた、その時。


 ハッ、と美琴が気がついた時には、周囲の目がこちらに集中していた!
「おっと、聞こえておらんかったか? ミス・レールガン。お主の技をひとつ、披露してもらってお開きにしたいが、どうだ?」
 周りの人々がどよめいている。
 誰も美琴の能力に触れずにいた所に、女王みずからの指名である。
「は、はい? ひ、披露と申されましても、私の技はどれも破壊的で、お見せできるものでは……」
 突然の指名に美琴はたどたどしく答える。小さな電光では締めとしては白けるだろうし、壁歩きはこの格好では無理である。
「構わん」
「……はい?」
「破壊して構わん。ここに居る者共は、皆今回の戦争で戦ってきた者。ケガの一つや二つで泣き言は言うまいよ」
「ひ、人もそうですが、部屋が滅茶苦茶になってしまいます!」
「部屋なら尚更構わぬ。また創れば良い。……だが、お主とはもう相見えることは叶わぬかもしれぬ」
「…………、」

「御坂。俺が受ければ、それほど滅茶苦茶にならねーだろ。やろうぜ!」
 上条が美琴に声を掛けた。
 美琴はちょっと苦笑い風の上条を見て、同じように苦笑いし、……意を決した。

「……分かりました。私の通り名でもあるレールガン、御覧くださいませ」

 周りから、拍手の嵐が巻き起こった!

 それからのセッティング変更は素早かった。
 部屋といっても50メートル四方はある大広間である。
 真ん中は綺麗に片付けられ、相当の衝撃波が来るということで、グラス等の吹き飛びそうなモノは片付けられた。

 向こう側の端に、受け手として上条が。距離は40メートル程、十分な射程距離だ。
 真ん中に、ハンガーにかけられた甲冑が3つ。破壊力を示すためである。
 あとはギャラリーが、めいめい好きな場所で座り込んだ。

「――甲冑の破片にはご注意願います。あと、携帯電話など、電磁波の影響で壊れるかもしれません――」
 美琴は思いつく限りの注意点を述べていった。
 が、何故かもう皆ノリノリで、あまり聞いてくれていない。
(どーなっても知らないわよ、もう……)
 美琴は上を見上げた。シャンデリアはないが、照明器具の何かは落ちてくるかもしれない。

「落下物はお気になさらずに。私が見ておりますから」
 声を掛けてきた神裂に美琴は頷くと、改めて周りを見渡した。


「それでは、参ります」
 美琴はコインを握りしめた。コインは、イギリスの正式な硬貨。
 女王の肖像画が刻まれていたが……美琴に手渡したのが他ならぬ、女王エリザードであった。使わざるを得ない。

 右手を構えた上条を見据え、ピン! とコインを跳ね上げる。
(ハンパに弾くと、甲冑を壊しきれずまっすぐ吹き飛んでアイツが危ない……、ほぼ全力でっ!)
 コインが美琴の構えた親指に戻ってきた。


 インデックスは、見た。――美琴の腕と、上条の腕が、一本の光で繋がったのを。
 オルソラは、見た。――光と共に、真ん中の甲冑が『消え』、左右の甲冑の一部が吹き飛ぶ瞬間を。
 アニェーゼは、感じた。――ガシュ!!という音は、遅れてやってきたことを。
 ルチアは、見た。――間髪入れず、御坂美琴の頭部が電光で光ったことを。
 アンジェレネは、見た。――電光が吹き飛んだ甲冑の破片を捕らえたかと思うと、全て美琴の手元に引き寄せられた所を。

――あとは、衝撃波による、暴風。


 ◇ ◇ ◇

「そうか、2人は無事帰国の途に着いたのだな」
「はっ。あの少女はパスポートを所持しておりませんでしたが、その辺りの対応も問題なく。」
「しかしあのレールガンとやら、驚いたものだな! あの威力がコイン1枚で、しかも指で弾くだけ、だと!」
「そしてあの少年もやはり恐るべき、かと。あれを片手で平然と受けきるわけですから……」
「どうだ騎士団長、お前がもし戦ったら?」
「武器と認識できないので、私奴の『ソーロルムの術式』が効かず、ゼロにできないのが厄介ですな。ただ……」
「くっくっく。少年が言ってたな。それ以前に戦うこと自体ない、か」

『凄いように見えるでしょ? でも今の甲冑にカエルのキーホルダーでも付けとくだけで、コイツ撃てなくなるから!』

 大声でからかった上条を、ドレスの裾をつまんで電撃で追いかけまわす美琴の姿を思い出し、エリザードは笑みを浮かべた。
「いやしかし、いい子たちだ! 戦争を丸く収めてしまうのも道理と言う訳だ、ハッハッハ!」

――そして、機内に場面は戻る。

「はあ、最後もやりすぎたなあ……」
「お前な、あんな冗談ぐらいで追いかけまわすとか。学園じゃねーんだからさ」
「あ、あれは、レールガン見て皆引いていたみたいに感じたのよ。だから雰囲気変えようと……」
「ほー。あれはそういうことだったのかよ」
「絶対引いてたって! あーあ、最後までおとなしくしてりゃ良かった……」

 美琴の感じていた通りであった。あの場にいた者は現実に引き戻されたのである。
 ……魔術は魔力を使って精神を浪費するのに、この少女は指一本で汗もかかず、絶大な破壊力を持つ。
 ……魔術は詠唱というワンアクションが入るが、この少女はノータイムで電撃を出せる。噂通りなら10億ボルトの。
 そして、空気を電気分解できる、ネットワークもハッキングできる、そういった情報もインプットされている者たちは――
 この白いドレスを着た少女の底しれなさに、畏れ慄いたのだ。

 だが、上条の冗談で、皆我に返った。
 この少女はチカラの使い方を知っている、『仲間』なのだ、と。――上条と同じ方向に、向かう限り。


「ま……まあ、あれでエリザード女王も上機嫌で送り出してくれたしさ。良かったじゃん。パスポートも手配してくれたんだろ?」
「あー、そうなのよね。私、身一つで飛び出してきちゃったからね……普通捕まるわよね、戦時中とはいえ。助かったわ」
「お前……大丈夫か? その、帰ったら、さ……」
「うん……まあ、何とかなる……のかなあ?」

 美琴は話しながら、まあ停学は間違いないかなー、と思っていた。
 無断欠席だけで済めば軽いが、戦闘機乗っ取りや、勝手な学園都市外活動あたりが引っかかれば、相当重くなる。
 結局は、全て知っている上層部次第だ。美琴が考えてもどうしようもない。
 どの道、常盤台中学は秩序を重んじる。能力者が集まる中学だけに、規律は厳しい。無罪放免だけは、ない。

「私の心配より、アンタは自分の心配してなさいよ。出席日数やばいんでしょ?」
「絶望的なんだよなー。補習で巻き返せるレベルじゃ、既に無い気がするんだよな」
「まさか留年?」
「ま、覚悟はしとかにゃならんかな。でも、お前は気にしなくていーさ。先生と考えるよ」
「…………、」

 世の中を救っても、この仕打ち。あまりに不条理だ。
「もし……宿題とか勉強の話で解決するなら、呼びなさいよね!? さすがにそれぐらいは協力するわよ」
「ああ。ってか、そういう時は、お前しか頼れねえからな。そんときゃよろしくだ」
 美琴は頷き、一旦上条から視線を外してため息をついた。
(こと勉強だけは頼ってくれるのよね……他のことも、頼ってくれればいいのに……)
「ところで、あのミサカネットワークとやらに、入ったりしてるのか、お前?」
「ラストオーダー単体とたまにアクセスしてる程度ね。ネットワークにはあんまり入る気ないし」
「そうなのか」
「1万人の意識が流れ込んでくるのは、さすがにね。それに……」
「それに?」
「ラストオーダーがね、シスターズの記憶には、お姉様が見てはいけないものがある、ってね。……想像はつくけど」
「……だな」
 アクセラレータに惨殺された記憶を、シスターズは全て情報共有で覚えているらしい。
 感情豊かな美琴が見ようものなら、精神が崩壊するだろう。
「だからまあ、非常時だけ、ね。たまにアクセスして異常ないかチェックするぐらいかな」
「ま、それがいいよなー」

 ちょっと上条が真面目な顔をした。
「そういや、ミサカワーストの行方は……ネットワークでもわかんねえのか」
「うん、全くアクセスログなし。アクセスできるはずなんだけどね」
 あの凶悪な作戦阻止に、オゾン生成を提案したのはミサカワースト自身だった。シスターズで生成実績があったらしい。
 実際、美琴は細菌兵器の漏れ対応を担当し、真に危険地帯へ踏み込んだのは、ミサカワースト、だったのだ。
 必死で止める美琴にボディブローを入れ、美琴が悶絶している間に、ボロボロの身体で突っ込んでいった。
――食い止めたことだけは明らかだが、その後、行方知れず。

「あの子、『これを止めれば、私の存在にも意味があったってことだよね!』なんて、言ってさ……」
「アイツが世界を救ったことは間違いねえ。――クソッ、元気でいてくれりゃいいが」
 酸素を電気分解して高濃度オゾンを生成する。それで細菌兵器を殲滅しても、オゾンもまた有毒なのだ。呼吸もできない。
 オゾンをまた酸素に戻せば呼吸は可能だが、もし細菌が生き残っていたら……
 ともかく、超難度の作業である。
「学園都市に帰っていいのかしら、って思うのよね、あの子の事を思うと……ミサカネットワーク頼りで、帰ってきちゃったけど」
「居場所分かれば、ロシア待機のシスターズ動かせるもんな」
「うん……どこで何やってんのかな」
 美琴は飛行機の窓の景色に目をやって思いを馳せる。きっと元気でいる、ただアクセスに障害があるだけだ、と信じて……

「ところでシスターズといえば、アンタ、妹達にどんな調教したのよ」
 美琴は沈んだ気持ちを切り替えるかのように話し出した。上条をジト目で睨みつつ。
「ちょ、ちょうきょうーー!?」
「ちょっとだけ、アンタの事で知ってること……私の知らないような、ね、そういうのネットワークで教えてもらおうとしたらさ」
 ごくっ、上条が唾を飲み込む。御坂妹との絡みは、一部美琴に知られるとマズイものがある……
「まさに鉄壁のブロック。『秘密』の一点張り。ほんと肩書きだけの管理者だわよ」
「……そもそも、何で俺のこと探るんだよう」
「きょ、共通の知り合いはアンタだけでしょ! まず共通の話題で話を広げていこうと、そ、それだけよ!」
「お前、新入生の友達作りじゃねーんだからさ……」
「う、うるさいわねっ!」
 空気を変えようとして、何だか墓穴を掘ったような気分になった美琴であった。

「……あとラストオーダーね。あんな小さな子をあんな酷い目に合わせるなんて、まったく……」
「しっかし、ラストオーダーの存在ってあぶねえよな。アクセラレータが保護してたってのも二重に驚いたけどさ」
「すっごい危ない仕組みよこれ。外部信号を受け付ける仕様にするなんて、悪意以外の何ものでもないわ。
でも今後は……オリジナルの私を、外部アクセスでウィルス仕込んだり操ったりは、多分不可能」
 美琴はアクセラレータの話には乗ってこず、ラストオーダーの件しか触れなかった。
「多分、て」
「うん、やっぱLV5に至るまでにはさ、『開発』って名目で、色々あるわけでね。余計な仕込みがある可能性は否定出来ないの」
 美琴は頭をトントンと指でノックした。

「ま、エレクトロマスターの私を操れる技術あるんなら、もう誰が操られててもおかしくないけどねー。シスターズいらないわよ」
「う~ん……こえー話だ」
「あと、ウチの学校にいるLV5、心理掌握とかに気をつけないとヤバイわね。自分だけの問題じゃなくなっちゃった」
 改めて上条は美琴を見やった。ミサカネットワークを引き受け、誰よりも深く、考えている。
「それに、ラストオーダーに命令できるのは私だけだけど、ラストオーダーは私の命令を否定してもいい仕組みにしてある。
絶対命令じゃないの。私が万が一おかしくなっても、ラストオーダーが否定してしまえば、大丈夫」

「何か……」
「ん?」
「何か、俺にできることはないのか? 例えば、俺の右手でしか破壊できない電子ロックみたいな? 適当に言ってるけど」
「……面白いわね。アンタがいないと解除されない、っての凄く面白い……うん、考えさせてもらうわ。
でもアンタの能力、私も完全に把握してるわけじゃないからさ。微調整できなさそうな力じゃない?」
「う~ん……」
 上条は自分の右手を見つめる。
「すまん。俺自身、把握してねーや」

 ご丁寧に美琴はズッコケてあげた。ずらした身体を元に戻しつつ姿勢を正し。
「アンタほんと適当ね!」
「はっはっは! それで今まで生きてこられてるんだから、いーんだよ!」
「なんでこんなヤツに負けるのかしら……ったくもう」

 美琴はため息をつきつつも、いい雰囲気で話せていることに満足していた。
 真剣な話であったり、他愛ない話でもあったりしたが、2人きりで邪魔されず話せるのは久々である。
 少なくとも、想いを自覚してからは初めてであり……思ったより舞い上がらずに話せている。
 結局、激昂したりむやみに電撃を発したりして、今まで雰囲気をぶっ壊していたのは自分だったと、改めて自分を省みる。

 上条もやたら友好的(?)というか、おとなしめな美琴に少々驚いていた。
 機内で電撃が使えず、シートベルトで暴れられない、ので御坂も観念したのか、と失礼なことを思っていたぐらいである。
(しっかし、コイツ何でロシアまで来たのか、結局言葉濁すばかりで教えてくんなかったなあ)

 上条を狙った特殊部隊を倒してくれたらしい事は聞いた。それの延長でロシアに来たとだけ。
 しかし上条にしてみれば、その見たこともない特殊部隊の話をされても実感が沸かず。
 聞き出すと理由らしいことを話すのだが、貸しだの借りだの力試しだの、回りくどい話ばかりでさっぱりわからない。
(一緒に行動したらしたで、レッサーと何だかいがみ合ってたしなあ。ほんと騒がしい2人だったぜ……)


 ◇ ◇ ◇


 しばし、思い出にふけっていた上条は、我に返った。
(おっとっと。準備準備!)

 講習は主要科目だけらしく、それでも教科書と問題集で結構な量である。これを事前に渡された。
 明らかに難易度が高い。単純なレベルで、教科書の文字が小さく、密度が濃い。
(これは……マジきつい)
 この目の前の山を3ヶ月で。少なくとも明日の日曜は丸一日、予習しておく気概は必要だろう。
 深くため息をつきつつ、一枚のプリントを手に取る。講習場所と、担当者が記してあった。


「布束砥信さん、なあ。どんな人だろ」

――長点上機学園、特別講習初日。

「自習室B、此処か……」
 上条当麻は、その教室の前で佇んでいた。
 こちらの校舎はあまり人気がないようだ。おそらく特別教室系が集中しているのだろう。

(3年の布束砥信さん、か。怖い人じゃなけりゃいいなー)
 なんせ今までの担任、月詠小萌先生は何だかんだいって激甘先生である。
 厳しいのには慣れていない上条であった。

 ガラス越しに中が見える。既に黒髪の女生徒が居る。
 意を決した上条は、ドアを遠慮がちに開けた。振り向いた女性を見て。
(こ、怖そーだ! これはちょっと大変な3ヶ月が予想されます!)
 上条は幸せな日々は諦めた表情になって、一歩教室内に踏み込んだ。

 後ろ手でドアを締め、頭を下げる。
「え、え~と」
「初めまして、布束砥信よ。よろしく。専攻は生物学的精神医学、テスタメントの研究やってるわ」
「は、初めまして。上条当麻、です……って、テスタメント?」

『特別講習ってのはあれやろ、テスタメント? そーでもせんと、カミやんが編入なんて無理やって』
(青髪ピアス……テメエのジョークはマジだった! シャレになんねーって!)

 ガクガクブルブルと震えだした上条を気にもとめず、布束は口を開いた。
「ふ~ん、貴方が……あの怪物を止めた男、ね」
「怪物?」

「私はね、シスターズのテスタメントを開発した人間。それで全部、分かるでしょう?」

 あの実験の関係者だと!? 上条の震えは吹っ飛んだ。
 つまり怪物とは、アクセラレータの事か。
 そして、あの2万人のシスターズのテスタメント開発……コイツが、コイツがあの悲劇の元凶なのかっ!?

 上条の驚き・怒りは予想通りだったのだろう。布束の態度は変わらない。
「……アルフレッド・ノーベルはダイナマイトを発明した。後の世界の激変は、ご存知の通りね。
私は、テスタメントを開発した。ノーベル同様、自分の発明が、何を引き起こすかを『分かっていた』のに。
被験体のシスターズと話して、目が覚めたけど、ね」

「何故……俺に話した? 隠しておくこともできた話だよな?」
「Because、感謝の言葉を述べたかった。あの実験を止めてくれてありがとう、と。
そしてシスターズの実験の邪魔をして捕まっていた私も、それに乗じて逃げ出せたから……脳だけの機械にされてたかも」
「邪魔? ……良心の呵責ってヤツか?」
「ま、正解ね。And、逃げ出せたのは」
 布束は手を挙げた。

 それが合図だったのか、ドアの開く音に、振り向いた上条は言葉を失う。
「御坂……!?」
 御坂美琴が、苦笑いしながら、そこに立っていた。

「何話してたの……じゃなくて、話してたんですか?」
「実験の話よ。捕まった私が貴方に助けてもらって逃げ出せた時の話」
 ああ、と美琴が頷く。
 上条は、美琴が一連の話を承知していると知って、驚愕する。
「み、御坂。その、諸々の事を全部知って、……コイツを許したのか?」
「ん~、まあね……って!」

 布束砥信のローリングソバットが上条に襲いかかっていた! 
「年上に『コイツ』はないでしょう。それ以前にも敬語は気になっていたけど。……however」
 上条は、不意打ちにもかかわらず、あっさりと手で払い落としていた。
「さすが1位を倒しただけあって、強いわね」
「いきなりなんで蹴るんだ!」
 上条がわめく。
「布束さんは、そういうの厳しいのよ。コイツなんていっちゃだめ」
(それにしても、なんて反射神経してんのよ。私はあのソバット、普通に食らったのに)

「それより御坂! さっきの話もそうだけど、なんでここに!? その制服は何だ!」

 長点上機学園の制服を着た美琴が、引きつった顔で頭をポリポリと掻きながら、上条から目をそらす。
「えーとね…………無期限停学、食らっちゃった。ははは……」


ウィキ募集バナー