「と、とうま、トウマ、とうま、当麻、当麻当麻当麻当麻当麻当麻……よし、完璧! これで明日からバッチリね。さあ、覚悟してなさい!」
「……お姉様、さっきから何をバスルームでブツブツ呟いているんですの?」
「……お姉様、さっきから何をバスルームでブツブツ呟いているんですの?」
翌日の朝。ただ朝とはいってももう日の出から何時間も経っているのだが、上条はまだ夢の中にいた。それはそうだろう、学校は土曜日で休みだし、マロンの抜糸も午後からだ。
目覚ましをかけることもなく上条はゆっくり朝寝を楽しんでいた。
目覚ましをかけることもなく上条はゆっくり朝寝を楽しんでいた。
だがそんな上条の平穏な朝をぶち壊すかのように聞こえてくる、部屋のドアをドンドンと叩く音。しかも一度や二度ではない、何度も何度も繰り返し叩く音が聞こえてくる。さらにその音はどんどん大きく激しくなってくるのだ。
さすがに上条もそのしつこさには目を覚まさざるをえず、のろのろとベッドから起き上がった。
「はいはいはい、こんな朝早くからどこのどなた様ですか?」
寝ぼけ眼で上条が鍵を開けた途端、バンと派手な音を立ててドアが開いた。
「遅い!! いつまで寝てるのよ!!」
ドアの外にいたのは全身に怒りの電流を纏った美琴だった。
「……えっと、おはようございます、でいいのか?」
寝ぼけている上条にはとりあえず、それくらいしか言うことはできなかった。
さすがに上条もそのしつこさには目を覚まさざるをえず、のろのろとベッドから起き上がった。
「はいはいはい、こんな朝早くからどこのどなた様ですか?」
寝ぼけ眼で上条が鍵を開けた途端、バンと派手な音を立ててドアが開いた。
「遅い!! いつまで寝てるのよ!!」
ドアの外にいたのは全身に怒りの電流を纏った美琴だった。
「……えっと、おはようございます、でいいのか?」
寝ぼけている上条にはとりあえず、それくらいしか言うことはできなかった。
「まったく、朝飯作りに来てくれたっていうのは素直にありがたいけど、なんでこんな朝早くから来てるんだ?」
上条は美琴が作ってくれた朝食を食べながら、ぶつぶつと文句を言っていた。
「アンタねえ、口に物を入れて喋らないの。行儀悪いわよ。あ、そのお味噌汁、味濃くない?」
「うーん、そんな濃いとかは思わないな。普通に美味いぞ」
「そう、よかった。で、さっきの話だけど別にそんな朝早くないでしょ、私がここ来た時って八時過ぎてたわよ」
「休みの日なんだから十分早いだろ。それになんであんなにドアをガンガン叩くんだよ。勝手に入ってくればいいだろ」
「鍵持ってればそうしたけど、まだできてないでしょう。何言ってるのよ」
「ああ、そっか。えっとじゃあ、病院行く前に鍵取りに行かなきゃな」
「そのつもりで来たのよ。後、朝のうちにアンタの課題でも見てあげようと思ってね、どうせ週末だからって馬鹿みたいに出てるんでしょ、アンタだけ」
「……御坂、じゃなくて美琴様の卓越した読みには恐れ入ります。はい、まさにその通りでございます」
上条は綺麗な土下座をすることによって美琴への感謝の意を表現した。
上条は美琴が作ってくれた朝食を食べながら、ぶつぶつと文句を言っていた。
「アンタねえ、口に物を入れて喋らないの。行儀悪いわよ。あ、そのお味噌汁、味濃くない?」
「うーん、そんな濃いとかは思わないな。普通に美味いぞ」
「そう、よかった。で、さっきの話だけど別にそんな朝早くないでしょ、私がここ来た時って八時過ぎてたわよ」
「休みの日なんだから十分早いだろ。それになんであんなにドアをガンガン叩くんだよ。勝手に入ってくればいいだろ」
「鍵持ってればそうしたけど、まだできてないでしょう。何言ってるのよ」
「ああ、そっか。えっとじゃあ、病院行く前に鍵取りに行かなきゃな」
「そのつもりで来たのよ。後、朝のうちにアンタの課題でも見てあげようと思ってね、どうせ週末だからって馬鹿みたいに出てるんでしょ、アンタだけ」
「……御坂、じゃなくて美琴様の卓越した読みには恐れ入ります。はい、まさにその通りでございます」
上条は綺麗な土下座をすることによって美琴への感謝の意を表現した。
朝食を食べ終えた上条は、美琴に手伝ってもらいながら週末用の課題を午前中いっぱいかけて終わらせた。
その後、昼食を取った二人は昨日訪れたスーパーに向かった。
その後、昼食を取った二人は昨日訪れたスーパーに向かった。
専門店で出来上がった合い鍵を受け取った上条は、それをじっと見つめていた。やがて上条は小さくうなずくとそれをすっと美琴へ差し出した。
美琴は上条の行動に目を丸くした。
「……え? わ、わたた私?」
「お前が欲しがったんだ、お前以外、誰がいるんだよ。金だってお前が出してるんだ……お前のだよ」
美琴はごくりとつばを飲み込むと、おそるおそる右手で鍵を受け取る。左手を胸に当ててすっと目を閉じた美琴は、その鍵をぎゅっと握り胸の前に持って行った。
その様子はまるで大切な宝物を手に入れたかのようだった。
「私、これ、大事にするね」
わずかに頬を染めてぽつりと呟く美琴の声を聞きながら、上条はぽりぽりと頭をかいた。
「あー、みさ、美琴さん。言いたいことはいろいろあるんだが、とりあえず、病院、行こうぜ。手術の時間もそろそろだしな」
上条の声にはっと目を開けた美琴は頬を染めたままこくりとうなずいた。
その様子に、上条の胸の中はむずがゆいような気持ちいいような、なんとも言えない感覚に囚われていた。
美琴は上条の行動に目を丸くした。
「……え? わ、わたた私?」
「お前が欲しがったんだ、お前以外、誰がいるんだよ。金だってお前が出してるんだ……お前のだよ」
美琴はごくりとつばを飲み込むと、おそるおそる右手で鍵を受け取る。左手を胸に当ててすっと目を閉じた美琴は、その鍵をぎゅっと握り胸の前に持って行った。
その様子はまるで大切な宝物を手に入れたかのようだった。
「私、これ、大事にするね」
わずかに頬を染めてぽつりと呟く美琴の声を聞きながら、上条はぽりぽりと頭をかいた。
「あー、みさ、美琴さん。言いたいことはいろいろあるんだが、とりあえず、病院、行こうぜ。手術の時間もそろそろだしな」
上条の声にはっと目を開けた美琴は頬を染めたままこくりとうなずいた。
その様子に、上条の胸の中はむずがゆいような気持ちいいような、なんとも言えない感覚に囚われていた。
スーパーを出た二人はそのまま病院に行き、いつものように冥土帰しの部屋に向かった。
部屋の前では冥土帰しが待ちかねたかのようにこちらを見て立っていた。
「待ってたよ、二人とも。さあ、余計な仕事が入らないうちにちゃっちゃと済ませてしまおう」
そう言って冥土帰しはキャリーを抱えると、手術室に入っていった。
部屋の前では冥土帰しが待ちかねたかのようにこちらを見て立っていた。
「待ってたよ、二人とも。さあ、余計な仕事が入らないうちにちゃっちゃと済ませてしまおう」
そう言って冥土帰しはキャリーを抱えると、手術室に入っていった。
「先生、マロンのこと、よろしくお願いします」
美琴と上条は閉じられた手術室のドアの前に立つと、恭しく礼をした。
美琴と上条は閉じられた手術室のドアの前に立つと、恭しく礼をした。
一時間後、ようやく手術室のドアが開いた。
二人は待合いの椅子からガタッと立ち上がるとドアから出てきた冥土帰しをじっと見た。
冥土帰しは手術用のマスクを取ると静かに息を吐いた。
「ただ麻酔をかけて抜糸するだけだから、本当は大げさな格好なんだけどね。まあ、それでも医者の端くれとして万全の体制で行動したいんだ」
冥土帰しは自分の手術用の格好を指さして苦笑いを浮かべた。
「抜糸自体は何の問題もないよ、もちろん成功だ。ただ麻酔が切れるまではまだ様子を見たいからね。その後だ、あの犬が君達の家に行くのは」
「ありがとうございます」
二人は冥土帰しに深々と頭を下げた。
二人は待合いの椅子からガタッと立ち上がるとドアから出てきた冥土帰しをじっと見た。
冥土帰しは手術用のマスクを取ると静かに息を吐いた。
「ただ麻酔をかけて抜糸するだけだから、本当は大げさな格好なんだけどね。まあ、それでも医者の端くれとして万全の体制で行動したいんだ」
冥土帰しは自分の手術用の格好を指さして苦笑いを浮かべた。
「抜糸自体は何の問題もないよ、もちろん成功だ。ただ麻酔が切れるまではまだ様子を見たいからね。その後だ、あの犬が君達の家に行くのは」
「ありがとうございます」
二人は冥土帰しに深々と頭を下げた。
自分の部屋の椅子に腰掛けた冥土帰しはいくつかの紙を机に広げ、机の前に立っている上条達を順に見た。
「麻酔が切れるまでまだもう少し時間がかかるからね、それまでに必要なことの説明をしておこう。まず、あの子犬の年齢だが、歯の生え方なんかから考えるとだいたい生後一ヶ月くらいだね。正確には一ヶ月と一週間かな? それから本当は少し早いんだけど、最低限の予防接種なんかは済ませてある。あの犬がどういう環境で生まれたかがわからないからね。あの小ささで野良犬だったってことを考えると、おそらくあまりいい環境で生まれてはいないだろう」
「あの、先生。一ついいですか?」
「なんだい、上条君?」
「俺達、マロン、あの犬のことなんですけど、マロンが首輪もしてないし、道端に普通にいたことから勝手にアイツは野良犬だって思ってたんですけど、誰かの飼い犬だってことはないんですか? 今さらになって気になったんですが」
「…………」
上条の行動に美琴は何も言わなかった。あえて考えないようにしていたことだが、どこかではっきりしなければいけないことだともわかっていたからだ。
なぜ今聞くのか、という疑問もあるにはあったが、ここまで来たのならはっきりさせた方がいいだろう、そうも思った。
だから美琴は黙っていた。マロンが野良犬であることを願いながら。
「それは、ないんじゃないかな」
「……な、なぜ、ですか?」
冥土帰しの言葉に美琴ははっと息を呑んだ。
「うん、お節介だと思ったけど一応御坂君がその犬を助けた場所の辺りに迷い犬のチラシを貼っておいたんだ。後、ネット上にも知らせを出しておいた。けど」
「何の反応もなし?」
冥土帰しはうなずいた。
「あのくらいの子犬が仮に飼い主とはぐれたんなら、飼い主は必死で探しているはずだ。特にあんな事件現場ではぐれたとなれば、心配しない方がおかしい。それに僕のツテでそういうのに詳しい人がいるんだけど、この数ヶ月、迷い犬自体がいないみたいなんだ。だから」
冥土帰しは上条と美琴をじっと見た。
「君達二人があの犬の飼い主だ、しっかり面倒を見てあげてほしい」
上条はうなずくと、ぽんと美琴の肩に手を置いた。
「よかったな」
「…………」
美琴は何も言わずただこくりとうなずいた。
「さあ、それで話の続きだけど。怪我の経過を見たいから最低四日に一度はあの犬を見せに来てほしい。できるかい?」
「はい」
「うん、散歩はさせなくても大丈夫ってことはこの間も言ったよね。後、なるべく側に付いていてあげてほしいけど、そんなに過保護にする必要もない。ただ、あまり怪我の痕を舐めたりするようならそれはそれでまた相談してほしい。それからこれが患部に塗る塗り薬だ。犬は薬を塗ったら舐めてしまう癖があるから、寝る前とかタイミングを見て塗ってあげてくれ」
その後も冥土帰しは次々に説明をしていった。食事やトイレの躾の他、基本的な躾そのものまで、微に入り細に入り非常に丁寧な説明だった。
「麻酔が切れるまでまだもう少し時間がかかるからね、それまでに必要なことの説明をしておこう。まず、あの子犬の年齢だが、歯の生え方なんかから考えるとだいたい生後一ヶ月くらいだね。正確には一ヶ月と一週間かな? それから本当は少し早いんだけど、最低限の予防接種なんかは済ませてある。あの犬がどういう環境で生まれたかがわからないからね。あの小ささで野良犬だったってことを考えると、おそらくあまりいい環境で生まれてはいないだろう」
「あの、先生。一ついいですか?」
「なんだい、上条君?」
「俺達、マロン、あの犬のことなんですけど、マロンが首輪もしてないし、道端に普通にいたことから勝手にアイツは野良犬だって思ってたんですけど、誰かの飼い犬だってことはないんですか? 今さらになって気になったんですが」
「…………」
上条の行動に美琴は何も言わなかった。あえて考えないようにしていたことだが、どこかではっきりしなければいけないことだともわかっていたからだ。
なぜ今聞くのか、という疑問もあるにはあったが、ここまで来たのならはっきりさせた方がいいだろう、そうも思った。
だから美琴は黙っていた。マロンが野良犬であることを願いながら。
「それは、ないんじゃないかな」
「……な、なぜ、ですか?」
冥土帰しの言葉に美琴ははっと息を呑んだ。
「うん、お節介だと思ったけど一応御坂君がその犬を助けた場所の辺りに迷い犬のチラシを貼っておいたんだ。後、ネット上にも知らせを出しておいた。けど」
「何の反応もなし?」
冥土帰しはうなずいた。
「あのくらいの子犬が仮に飼い主とはぐれたんなら、飼い主は必死で探しているはずだ。特にあんな事件現場ではぐれたとなれば、心配しない方がおかしい。それに僕のツテでそういうのに詳しい人がいるんだけど、この数ヶ月、迷い犬自体がいないみたいなんだ。だから」
冥土帰しは上条と美琴をじっと見た。
「君達二人があの犬の飼い主だ、しっかり面倒を見てあげてほしい」
上条はうなずくと、ぽんと美琴の肩に手を置いた。
「よかったな」
「…………」
美琴は何も言わずただこくりとうなずいた。
「さあ、それで話の続きだけど。怪我の経過を見たいから最低四日に一度はあの犬を見せに来てほしい。できるかい?」
「はい」
「うん、散歩はさせなくても大丈夫ってことはこの間も言ったよね。後、なるべく側に付いていてあげてほしいけど、そんなに過保護にする必要もない。ただ、あまり怪我の痕を舐めたりするようならそれはそれでまた相談してほしい。それからこれが患部に塗る塗り薬だ。犬は薬を塗ったら舐めてしまう癖があるから、寝る前とかタイミングを見て塗ってあげてくれ」
その後も冥土帰しは次々に説明をしていった。食事やトイレの躾の他、基本的な躾そのものまで、微に入り細に入り非常に丁寧な説明だった。
「さあ、説明はこんなものだ。何か質問は?」
「えっと、大丈夫です。本当に細かいことまでありがとうございます」
美琴は何度も何度も頭を下げた。
それに対して上条はあまりにも多岐に渡った説明を必死で頭の中で整理しており、とてもお礼まで頭が回っていなかった。
「そうか、じゃあそろそろ麻酔の切れる時間だ。さあ、あの犬は今日から君達の家の子だ、頼んだよ」
「はい」
二人は声を合わせた。
「えっと、大丈夫です。本当に細かいことまでありがとうございます」
美琴は何度も何度も頭を下げた。
それに対して上条はあまりにも多岐に渡った説明を必死で頭の中で整理しており、とてもお礼まで頭が回っていなかった。
「そうか、じゃあそろそろ麻酔の切れる時間だ。さあ、あの犬は今日から君達の家の子だ、頼んだよ」
「はい」
二人は声を合わせた。
病院を後にした二人は、なるべくマロンを刺激しないよう気をつけながら家への帰り道を急いだ。そのためいつもよりやや時間はかかったものの、病院を出て一時間後、ようやく二人と一匹は上条の住む寮へたどり着いた。
「さあ、ようやく着いたわね。マロン、ここが今日からあなたの家になるのよ」
上条の部屋に入った美琴は、上条が持ったキャリーの中に入っているマロンに笑顔で声をかけた。
しかしマロンは何の反応も示さない。
「マロン? どうしたの?」
マロンの様子が気になった美琴はマロンの様子を確かめてみる。
「あら……震えてるわね」
マロンはキャリーの中でがたがたと震えていたのだ。
上条の部屋に入った美琴は、上条が持ったキャリーの中に入っているマロンに笑顔で声をかけた。
しかしマロンは何の反応も示さない。
「マロン? どうしたの?」
マロンの様子が気になった美琴はマロンの様子を確かめてみる。
「あら……震えてるわね」
マロンはキャリーの中でがたがたと震えていたのだ。
無理もないだろう。
マロンは一週間前、理不尽な力で痛い思いをし、その後は狭いキャリーの中で痛みの残る体と傷口をふさぐワイヤーの違和感を我慢しながら過ごし続けた。そしてようやく抜糸をしてもらい違和感が拭えたと思ったら、突然見知らぬ場所に連れてこられたのだ。
人間だって短い間になんの情報もなくそれだけの環境の変化があれば大きなストレスを感じるはず。ましてや子犬のマロンに我慢できるはずもない。
そのことに気づいた美琴はキャリーの中からマロンを出すと、ゆっくりと抱きしめた。
「怖がらなくていいから、これからは私があなたのお母さんだから。安心して生きていっていいのよ」
上条は美琴の肩に手を置きながらじっと彼女の様子を見ている。
やがて何かに気づいたかのように口を開いた。
「美琴、今すぐマロンをトイレの場所に置くんだ、でないとマズい」
「え? な、なんで?」
「いいから早く」
「う、うん」
美琴はゆっくりとマロンをケージの中に作った犬用トイレの中に立たせた。
次の瞬間。
「あ」
「やっぱり」
ぷるぷると震えたマロンはそのままトイレの中でうんちをしていた。
マロンは一週間前、理不尽な力で痛い思いをし、その後は狭いキャリーの中で痛みの残る体と傷口をふさぐワイヤーの違和感を我慢しながら過ごし続けた。そしてようやく抜糸をしてもらい違和感が拭えたと思ったら、突然見知らぬ場所に連れてこられたのだ。
人間だって短い間になんの情報もなくそれだけの環境の変化があれば大きなストレスを感じるはず。ましてや子犬のマロンに我慢できるはずもない。
そのことに気づいた美琴はキャリーの中からマロンを出すと、ゆっくりと抱きしめた。
「怖がらなくていいから、これからは私があなたのお母さんだから。安心して生きていっていいのよ」
上条は美琴の肩に手を置きながらじっと彼女の様子を見ている。
やがて何かに気づいたかのように口を開いた。
「美琴、今すぐマロンをトイレの場所に置くんだ、でないとマズい」
「え? な、なんで?」
「いいから早く」
「う、うん」
美琴はゆっくりとマロンをケージの中に作った犬用トイレの中に立たせた。
次の瞬間。
「あ」
「やっぱり」
ぷるぷると震えたマロンはそのままトイレの中でうんちをしていた。
マロンのお尻をウェットティッシュで拭きながら、上条はふうとため息をついた。
「いやいや、上条さんの鋭い目がマロンの様子の変化に気づいてなによりでした。な、美琴」
美琴はこくこくとうなずく。
「抜糸して体の違和感がなくなったから、こう緊張が解けたんだろうな。それで思わずお漏らししちゃった、と。まあこの場合うんちだけど。ん? 悪い、もしかしてうんちとかそういう言葉苦手か、お前?」
美琴は今度はぷるぷると首を横に振る。
「ううん、そりゃ下ネタなんかは大嫌いだけど、この子の世話をするときに普通に出る言葉でしょ、うんちとかおしっことかって。なんの問題もないわよ。そもそもあんまり女の子に夢見るなって言ったことなかったっけ?」
「そうだっけか」
上条はマロンをケージの中に置くと、汚れたトイレのパッドを取り替えだす。
「まあ、そう考えりゃそうだよな。赤ちゃんのうんちやおしっこをゴチャゴチャ言う奴がいないのと同じか。俺だってお前だって縁のない話じゃないんだしな、案外意外なほど早かったりして」
「赤、ちゃ……私と、アンタの……!」
美琴は傍目にもわかるほどびきっと顔を引きつらせた。
「ど、どうした美琴? もしかして今のって、セクハラになったりするのか?」
美琴の様子がおかしいことに気づいた上条が目の前で手をプラプラとさせても、美琴はまったく反応しない。
しばらく美琴を見ていた上条だったが、ため息をついて洗面所で手を洗うと、美琴の頭に手を置いた。なんとなく漏電が起きるような気がしたからだ。
「いやいや、上条さんの鋭い目がマロンの様子の変化に気づいてなによりでした。な、美琴」
美琴はこくこくとうなずく。
「抜糸して体の違和感がなくなったから、こう緊張が解けたんだろうな。それで思わずお漏らししちゃった、と。まあこの場合うんちだけど。ん? 悪い、もしかしてうんちとかそういう言葉苦手か、お前?」
美琴は今度はぷるぷると首を横に振る。
「ううん、そりゃ下ネタなんかは大嫌いだけど、この子の世話をするときに普通に出る言葉でしょ、うんちとかおしっことかって。なんの問題もないわよ。そもそもあんまり女の子に夢見るなって言ったことなかったっけ?」
「そうだっけか」
上条はマロンをケージの中に置くと、汚れたトイレのパッドを取り替えだす。
「まあ、そう考えりゃそうだよな。赤ちゃんのうんちやおしっこをゴチャゴチャ言う奴がいないのと同じか。俺だってお前だって縁のない話じゃないんだしな、案外意外なほど早かったりして」
「赤、ちゃ……私と、アンタの……!」
美琴は傍目にもわかるほどびきっと顔を引きつらせた。
「ど、どうした美琴? もしかして今のって、セクハラになったりするのか?」
美琴の様子がおかしいことに気づいた上条が目の前で手をプラプラとさせても、美琴はまったく反応しない。
しばらく美琴を見ていた上条だったが、ため息をついて洗面所で手を洗うと、美琴の頭に手を置いた。なんとなく漏電が起きるような気がしたからだ。
「う、うーん……はっ! あ、あれ、あれ?」
しばらくして美琴は上条のベッドで目を覚ました。結局そのまま気絶した美琴は上条にベッドまで運ばれていたのだ。
「あ、起きたか」
体を起こした美琴はベッドの側で自分を見ていた上条に声をかけた。
「当麻、私どうしたの?」
「こっちが聞きたい。なんで急に気絶するんだ」
「私、気絶してたの?」
「ああ、しかも漏電のおまけまでついてな。で、美琴、この際だからはっきり言っておくぞ。この家で漏電は絶対止めろ、どんなことがあっても意地でも止めろ。俺は我慢できるし壊れた家具は買い替えればいい。けど、マロンに何かあったらどうする気だ?」
やや強い口調で放たれた上条の言葉に美琴ははっと息を呑んだ。
「……そう、そうよね、うん。そうだ、き、今日は大丈夫だったの?」
「ああ、なんとかギリギリで俺が止めた」
「そう、ありがとう」
「で、話は戻すがなんでさっき気絶したんだ?」
「さあ?」
首を傾げる美琴。
どうやら美琴の中では、先ほどの会話そのものが記憶から消えてしまったらしい。
「それで、これからどうするんだお前?」
「えっと、その……」
のろのろとベッドから下りて立ち上がった美琴は、じっとマロンを見つめた。
「はいはい」
上条はそれ以上何も追求せずにぽんと美琴の頭に右手を置いた。
「マロン寝てるからな、そっと撫でるくらいだぞ。いいな」
美琴はこくりとうなずいた。
しばらくして美琴は上条のベッドで目を覚ました。結局そのまま気絶した美琴は上条にベッドまで運ばれていたのだ。
「あ、起きたか」
体を起こした美琴はベッドの側で自分を見ていた上条に声をかけた。
「当麻、私どうしたの?」
「こっちが聞きたい。なんで急に気絶するんだ」
「私、気絶してたの?」
「ああ、しかも漏電のおまけまでついてな。で、美琴、この際だからはっきり言っておくぞ。この家で漏電は絶対止めろ、どんなことがあっても意地でも止めろ。俺は我慢できるし壊れた家具は買い替えればいい。けど、マロンに何かあったらどうする気だ?」
やや強い口調で放たれた上条の言葉に美琴ははっと息を呑んだ。
「……そう、そうよね、うん。そうだ、き、今日は大丈夫だったの?」
「ああ、なんとかギリギリで俺が止めた」
「そう、ありがとう」
「で、話は戻すがなんでさっき気絶したんだ?」
「さあ?」
首を傾げる美琴。
どうやら美琴の中では、先ほどの会話そのものが記憶から消えてしまったらしい。
「それで、これからどうするんだお前?」
「えっと、その……」
のろのろとベッドから下りて立ち上がった美琴は、じっとマロンを見つめた。
「はいはい」
上条はそれ以上何も追求せずにぽんと美琴の頭に右手を置いた。
「マロン寝てるからな、そっと撫でるくらいだぞ。いいな」
美琴はこくりとうなずいた。
上条は美琴が表情を蕩けさせてマロンを撫でているのを見ながら、改めてマロンを観察してみた。
冥土帰しによると年齢は生後一ヶ月程度。垂れた大きめの耳に大きな目、ふさふさとしたしっぽに子犬にはやや不釣り合いなほどもこもことした大きな手足。それらは幼犬特有のまるまるとしたお腹が特徴の体にくっついている。そして全身を包むのは鮮やかな栗色をした柔らかい毛。
見たところゴールデンレトリーバーが混じった雑種のようではあるが、いずれにせよかなりかわいい子犬だった。
さらに子犬ということもあって性格もおとなしい。マロンを助けた美琴ならいざ知らず、ほとんどキャリー越しにしか会っていない自分にもマロンはほとんど抵抗らしい抵抗もせずにお尻を拭かれていた。
改めて確認した、マロンは見た目も性格もかわいい子犬だと。
「それにしても」
上条はチラと美琴を見た。
冥土帰しによると年齢は生後一ヶ月程度。垂れた大きめの耳に大きな目、ふさふさとしたしっぽに子犬にはやや不釣り合いなほどもこもことした大きな手足。それらは幼犬特有のまるまるとしたお腹が特徴の体にくっついている。そして全身を包むのは鮮やかな栗色をした柔らかい毛。
見たところゴールデンレトリーバーが混じった雑種のようではあるが、いずれにせよかなりかわいい子犬だった。
さらに子犬ということもあって性格もおとなしい。マロンを助けた美琴ならいざ知らず、ほとんどキャリー越しにしか会っていない自分にもマロンはほとんど抵抗らしい抵抗もせずにお尻を拭かれていた。
改めて確認した、マロンは見た目も性格もかわいい子犬だと。
「それにしても」
上条はチラと美琴を見た。
――かわいい子犬とそれを抱きしめる美少女、か。
美琴を見ながら、上条は先ほど美琴がマロンを抱きしめている姿を思い浮かべてみた。
子犬と美少女、悔しいが非常に絵になる姿だった。けれど上条はすぐにその姿を頭の中から消した。
昼間、スーパーで美琴を見たときと同じような感覚に囚われたからだ。
自分で自分の感情が制御できないことが、なんとなく面白くない。
美琴に負かされた、そんな気分になっていた。
子犬と美少女、悔しいが非常に絵になる姿だった。けれど上条はすぐにその姿を頭の中から消した。
昼間、スーパーで美琴を見たときと同じような感覚に囚われたからだ。
自分で自分の感情が制御できないことが、なんとなく面白くない。
美琴に負かされた、そんな気分になっていた。
「当麻、ありがとう」
「へ? な、なんか言ったか?」
上条は突然話しかけてきた美琴の言葉で、急に現実に引き戻されたような気分になった。
「だからありがとう、もういいわよ」
「えっと、そ、そっか、うん、わかった」
上条は美琴といっしょにケージから離れると、美琴の頭から手を離した。
「へ? な、なんか言ったか?」
上条は突然話しかけてきた美琴の言葉で、急に現実に引き戻されたような気分になった。
「だからありがとう、もういいわよ」
「えっと、そ、そっか、うん、わかった」
上条は美琴といっしょにケージから離れると、美琴の頭から手を離した。
結局その後はこれといった事件が起こることもなく夜になった。その間、美琴は甲斐甲斐しくマロンと、そして上条の世話を焼いていた。
マロンのご飯を用意し、トイレの世話をする。それが終われば上条の勉強を見、上条の夕飯の準備をする。さらにその間も常にマロンのことを気にかけながら何かあれば側に駆け寄る。
まさに八面六臂の活躍であった。
もちろん美琴がマロンに関わるときは必ず上条が彼女の頭や肩に右手を置いているのだから、上条とて大変ではあったのだが。
マロンのご飯を用意し、トイレの世話をする。それが終われば上条の勉強を見、上条の夕飯の準備をする。さらにその間も常にマロンのことを気にかけながら何かあれば側に駆け寄る。
まさに八面六臂の活躍であった。
もちろん美琴がマロンに関わるときは必ず上条が彼女の頭や肩に右手を置いているのだから、上条とて大変ではあったのだが。
てきぱきと動く美琴を見ながら上条はほうっとため息をついていた。
お嬢様という肩書きを持っているにもかかわらず美琴の動作には無駄がない。長年一人暮らしを続けている上条よりも遥かに手際がいいのだ。これでは昨日、彼女が料理をするというだけで心配していた自分が馬鹿みたいである。
改めて美琴の完璧超人ぷりに感心する上条であった。
お嬢様という肩書きを持っているにもかかわらず美琴の動作には無駄がない。長年一人暮らしを続けている上条よりも遥かに手際がいいのだ。これでは昨日、彼女が料理をするというだけで心配していた自分が馬鹿みたいである。
改めて美琴の完璧超人ぷりに感心する上条であった。
そうして時間は過ぎていき、門限ギリギリになってようやく美琴は帰っていった。
マロンがいるために今日から上条は美琴を送っていくことはできない。それを若干寂しく思いつつも、それでも明日からの上条とマロンとの生活に思いを馳せ、美琴は足取りも軽く帰宅の途につくのであった。
マロンがいるために今日から上条は美琴を送っていくことはできない。それを若干寂しく思いつつも、それでも明日からの上条とマロンとの生活に思いを馳せ、美琴は足取りも軽く帰宅の途につくのであった。
翌々日の朝、上条は起床時間ギリギリになってもまだ眠っていた。起床時間、つまりこれ以上眠っていては食事の支度などを含めて余裕を持った登校ができない時間だ。その時間になってもまだ上条は眠っていた。
実は普段の上条はもう少し寝起きはいい方なのである。だが昨日、そして一昨日とマロン絡みで色々ありすぎた。
一昨日はマロンが家にやってきて、さらに昨日は慣れないマロンの世話で一日中慌ただしかった。それに美琴に教えられながらではあるが、授業の予習のために頭脳さえ普段の何倍も使ってしまった。結果として上条は学校をさぼり、今日一日中泥のように眠る、はずだった。
だが、それを許してくれない女性が一人。
「コラ――当麻! いい加減起きなさい! アンタは私がいないと朝も満足に起きられないのか!」
マロンの朝食を作るためにやってきた御坂美琴である。
実は普段の上条はもう少し寝起きはいい方なのである。だが昨日、そして一昨日とマロン絡みで色々ありすぎた。
一昨日はマロンが家にやってきて、さらに昨日は慣れないマロンの世話で一日中慌ただしかった。それに美琴に教えられながらではあるが、授業の予習のために頭脳さえ普段の何倍も使ってしまった。結果として上条は学校をさぼり、今日一日中泥のように眠る、はずだった。
だが、それを許してくれない女性が一人。
「コラ――当麻! いい加減起きなさい! アンタは私がいないと朝も満足に起きられないのか!」
マロンの朝食を作るためにやってきた御坂美琴である。
「ほら、さっさと起きなさい。アンタ達の朝ご飯は私が用意してあげるから。あー、マロンおしっこしてるじゃない! アンタちゃんと面倒見てあげてよ!」
「えーと……」
上条は必死で現状把握に努めようとした。
しかし上条の頭に搭載されているお世辞にも能力が高いとは言えない脳みそ、しかも寝起きモードのそれではまったく状況に対応することができず、上条はただ首を傾げるのみだった。
「えーと……」
上条は必死で現状把握に努めようとした。
しかし上条の頭に搭載されているお世辞にも能力が高いとは言えない脳みそ、しかも寝起きモードのそれではまったく状況に対応することができず、上条はただ首を傾げるのみだった。
そうしているうちにも美琴はてきぱきと家事をこなしていく。あっという間にほぼ全ての家事が片付いてしまっていた。
後はマロンと上条が朝食を済ませるのみである。
「ほら、私だけじゃマロンに近づけないんだから早く動いてよ」
実は美琴は昨日、一人だけでマロンに近づいてみようとしていたのだ。しかし結果は予想通り、できる限り美琴から距離を取ろうとするほど、マロンは彼女を嫌うだけだった。
「あー」
ここに来てようやく起動を開始した上条。のろのろとマロンに朝食をあげると自分はあっという間に朝食を食べ終えてしまった。
そしてマロンが朝食後のトイレを済ませたのを確認するとパッドを代え、マロンの頭を優しく撫でてその行為を誉めた。
美琴は上条の一連の行為を羨ましそうに見ていたが、すぐに気持ちを切り替えて家から飛び出した。
「ほら、時間ないわよ。遅刻したら大変でしょ、急いで!」
上条は一言も発することなく美琴に続いて家を出た。
後はマロンと上条が朝食を済ませるのみである。
「ほら、私だけじゃマロンに近づけないんだから早く動いてよ」
実は美琴は昨日、一人だけでマロンに近づいてみようとしていたのだ。しかし結果は予想通り、できる限り美琴から距離を取ろうとするほど、マロンは彼女を嫌うだけだった。
「あー」
ここに来てようやく起動を開始した上条。のろのろとマロンに朝食をあげると自分はあっという間に朝食を食べ終えてしまった。
そしてマロンが朝食後のトイレを済ませたのを確認するとパッドを代え、マロンの頭を優しく撫でてその行為を誉めた。
美琴は上条の一連の行為を羨ましそうに見ていたが、すぐに気持ちを切り替えて家から飛び出した。
「ほら、時間ないわよ。遅刻したら大変でしょ、急いで!」
上条は一言も発することなく美琴に続いて家を出た。
今日の最終時限の終了を知らせるチャイムが鳴った。
「補習を受けなくて済むってこんなに気楽なんだ、ハーいい気持ちだぁ」
美琴のおかげで遅刻することもなく、しかも課題までできていた上条は勝者の余裕で終業後のホームルームを待っていた。さらに言うなれば、昨日美琴が勉強を見てくれたおかげで、今日抜き打ちで行われた小テストも合格したのである。
しかしそんな上条の普通の生活を快く思わない者もいる。
「カミやん、いったいどんな魔法をつこうたんや? 遅刻はせえへん、課題はばっちり終わっとる、その上小テストまでクリアするやなんて?」
「そうだにゃー、今洗いざらい吐いたらグーで殴る、くらいで許してやるぜい」
今日の小テストで不合格になり補習が決まったデルタフォースの二人、青髪ピアスと土御門である。
「補習を受けなくて済むってこんなに気楽なんだ、ハーいい気持ちだぁ」
美琴のおかげで遅刻することもなく、しかも課題までできていた上条は勝者の余裕で終業後のホームルームを待っていた。さらに言うなれば、昨日美琴が勉強を見てくれたおかげで、今日抜き打ちで行われた小テストも合格したのである。
しかしそんな上条の普通の生活を快く思わない者もいる。
「カミやん、いったいどんな魔法をつこうたんや? 遅刻はせえへん、課題はばっちり終わっとる、その上小テストまでクリアするやなんて?」
「そうだにゃー、今洗いざらい吐いたらグーで殴る、くらいで許してやるぜい」
今日の小テストで不合格になり補習が決まったデルタフォースの二人、青髪ピアスと土御門である。
二人はバンと机を叩くと上条をにらみつけた。
「さあ、カミやん、どんな不正を働いたかちゃんと吐くぜよ」
「そうや、今ならまだ小萌先生も許してくれるはずや」
「なんでそうなるんだよ、あくまでもこの上条当麻様の実力じゃねえか。不正なんて俺がするわけないだろ」
上条は手で二人を追い払うような仕草をした。
しかし二人はそんなことで納得はしない。上条追及の手を緩めようとはしなかった。
「確かにカミやんの性格で不正はあり得ないにゃー。カミやんはそんな卑怯なことするくらいだったら堂々と零点を取る奴だぜい」
「そうだろう、そうだろう」
「でもやっぱおかしいわ。あの量の課題をほぼ完璧に済ませた上に、これまでの授業のおさらいまでちゃんとしてるやなんて。そんな勉強のできる奴、カミやんやあらへん!」
「だから変じゃねえっつってんだろ! そりゃ確かに課題は手伝ってもらったし、勉強も教えてもらったけど。それでも俺の実力に違いはねえ!」
「さあ、カミやん、どんな不正を働いたかちゃんと吐くぜよ」
「そうや、今ならまだ小萌先生も許してくれるはずや」
「なんでそうなるんだよ、あくまでもこの上条当麻様の実力じゃねえか。不正なんて俺がするわけないだろ」
上条は手で二人を追い払うような仕草をした。
しかし二人はそんなことで納得はしない。上条追及の手を緩めようとはしなかった。
「確かにカミやんの性格で不正はあり得ないにゃー。カミやんはそんな卑怯なことするくらいだったら堂々と零点を取る奴だぜい」
「そうだろう、そうだろう」
「でもやっぱおかしいわ。あの量の課題をほぼ完璧に済ませた上に、これまでの授業のおさらいまでちゃんとしてるやなんて。そんな勉強のできる奴、カミやんやあらへん!」
「だから変じゃねえっつってんだろ! そりゃ確かに課題は手伝ってもらったし、勉強も教えてもらったけど。それでも俺の実力に違いはねえ!」
「ほう、手伝ってもらったと? それは興味深いわね、貴様のような劣等生の成績を普通レベルにまで引き上げられる人間がこの世に存在するなんて」
今まで上条達の会話を側で聞いていた吹寄制理が、突然会話に参加してきた。
そのことに若干驚いた上条は改めて教室を見回してみる。そうしてみて、なぜかクラスメート全員が上条の次の言葉を興味津々で待っていることに気づいた。
彼らの醸し出す異様な空気に顔を引きつらせた上条に、吹寄は顔を近づけた。
「さあ、白状してもらうわよ。貴様に勉強を教えたというその奇跡のような存在の名を」
「……べ、別に、そんな奇跡とかじゃねえよ。美琴に、教えてもらっただけだ」
「…………!」
上条がぼそぼそっと呟いた瞬間、教室の空気が凍り付いた。
「あ、あれ。な、なんだよお前ら。ち、中学生に勉強教えてもらうのがそん、そんな恥ずかしいことかよ! 美琴は天才なんだから別にいいじゃねえか!」
高校生が中学生に勉強を教えてもらったことがクラスメートの顰蹙を買ったのだと思った上条は必死で弁解を試みる。
そんな上条の肩に土御門がぽんと手を置いた。ノリとしては非常に軽い感じである。
しかし上条はなぜか気づいていた。土御門のサングラスの下、そこでは彼が血の涙を流していることに。
「カミやん、今誰に教えてもらったって言ったんだにゃー?」
「み、美琴、だけど……くっ!」
上条が答えた瞬間、土御門は上条の肩をものすごい力で握りしめた。
「カミやん、常盤台の超電磁砲と何やったんだにゃー?」
「何って……?」
「まさか、口ではとても言えないような、18歳未満お断りなことをしたとか言うんじゃ!」
上条は肩の痛みに耐えながら必死で言葉を繋いだ。
「ど、どっからそんな発想が出てくるんだ! 別に美琴となんかあったわけじゃねえよ。妙な勘ぐりするな」
「でもおかしいわね、確か貴様は御坂さんのことを名字で呼んでいたわよね、先週までは。ううん、そもそも貴様は他人のことは名字で呼ぶわ、名前で呼ぶことはあり得ない」
吹寄の指摘にクラスメート達がうんうんとうなずく。
「それが急に名前で呼ぶようになった。とすると、貴様達の間になんらかの関係の変化を生じさせる、そんな出来事が起こった。そう考えられない?」
「べ、別にそんな大したことなんて――」
吹寄はずいと上条に顔を近づける。
「貴様、御坂さんを押し倒したの? 押し倒されたの? どっち?」
「どっちもねえよ! 誰が中学生に手出すか!」
「じゃあ何をやった、カミやん! どうせ超電磁砲もカミやんのこと『とうま』って呼んでるんだろ! そうに決まってるぜよ!」
「呼び方はそうだけど、だからなんにもしてねえよ!」
「じゃあただ二人の仲が名前で呼び合うほど親密になっただけって言うの? ふーん」
吹寄はギロリと上条をにらみつけた。
上条はそんな吹寄の視線から逃れるかのように自らの視線を落とした。
「だから親密っつーか、なんつーか……」
「まあいいわ。完全下校時刻まで時間もたっぷりあることだし、そのうち貴様も白状する気になるでしょう」
吹寄の宣告を聞いた瞬間、上条の表情がさっとこわばった。
「ま、待てよ吹寄。お前ら、俺がなんかお前らの気に入ったこと言うまで開放しないつもりか? 冗談じゃねえ、いくらなんでも悪ふざけが過ぎるぞ!」
上条は思わず声を上げたが、誰もその抗議に耳を貸そうとはしなかった。
今まで上条達の会話を側で聞いていた吹寄制理が、突然会話に参加してきた。
そのことに若干驚いた上条は改めて教室を見回してみる。そうしてみて、なぜかクラスメート全員が上条の次の言葉を興味津々で待っていることに気づいた。
彼らの醸し出す異様な空気に顔を引きつらせた上条に、吹寄は顔を近づけた。
「さあ、白状してもらうわよ。貴様に勉強を教えたというその奇跡のような存在の名を」
「……べ、別に、そんな奇跡とかじゃねえよ。美琴に、教えてもらっただけだ」
「…………!」
上条がぼそぼそっと呟いた瞬間、教室の空気が凍り付いた。
「あ、あれ。な、なんだよお前ら。ち、中学生に勉強教えてもらうのがそん、そんな恥ずかしいことかよ! 美琴は天才なんだから別にいいじゃねえか!」
高校生が中学生に勉強を教えてもらったことがクラスメートの顰蹙を買ったのだと思った上条は必死で弁解を試みる。
そんな上条の肩に土御門がぽんと手を置いた。ノリとしては非常に軽い感じである。
しかし上条はなぜか気づいていた。土御門のサングラスの下、そこでは彼が血の涙を流していることに。
「カミやん、今誰に教えてもらったって言ったんだにゃー?」
「み、美琴、だけど……くっ!」
上条が答えた瞬間、土御門は上条の肩をものすごい力で握りしめた。
「カミやん、常盤台の超電磁砲と何やったんだにゃー?」
「何って……?」
「まさか、口ではとても言えないような、18歳未満お断りなことをしたとか言うんじゃ!」
上条は肩の痛みに耐えながら必死で言葉を繋いだ。
「ど、どっからそんな発想が出てくるんだ! 別に美琴となんかあったわけじゃねえよ。妙な勘ぐりするな」
「でもおかしいわね、確か貴様は御坂さんのことを名字で呼んでいたわよね、先週までは。ううん、そもそも貴様は他人のことは名字で呼ぶわ、名前で呼ぶことはあり得ない」
吹寄の指摘にクラスメート達がうんうんとうなずく。
「それが急に名前で呼ぶようになった。とすると、貴様達の間になんらかの関係の変化を生じさせる、そんな出来事が起こった。そう考えられない?」
「べ、別にそんな大したことなんて――」
吹寄はずいと上条に顔を近づける。
「貴様、御坂さんを押し倒したの? 押し倒されたの? どっち?」
「どっちもねえよ! 誰が中学生に手出すか!」
「じゃあ何をやった、カミやん! どうせ超電磁砲もカミやんのこと『とうま』って呼んでるんだろ! そうに決まってるぜよ!」
「呼び方はそうだけど、だからなんにもしてねえよ!」
「じゃあただ二人の仲が名前で呼び合うほど親密になっただけって言うの? ふーん」
吹寄はギロリと上条をにらみつけた。
上条はそんな吹寄の視線から逃れるかのように自らの視線を落とした。
「だから親密っつーか、なんつーか……」
「まあいいわ。完全下校時刻まで時間もたっぷりあることだし、そのうち貴様も白状する気になるでしょう」
吹寄の宣告を聞いた瞬間、上条の表情がさっとこわばった。
「ま、待てよ吹寄。お前ら、俺がなんかお前らの気に入ったこと言うまで開放しないつもりか? 冗談じゃねえ、いくらなんでも悪ふざけが過ぎるぞ!」
上条は思わず声を上げたが、誰もその抗議に耳を貸そうとはしなかった。