「ちっ、美琴が待ってるっていうのに……」
舌打ちした上条がギリッと奥歯を噛みしめたその時、教室の戸が開いて担任の小萌先生が入ってきた。
「はいはーい、皆さん、席に着いてくださーい」
「あ、小萌先生」
クラス中の視線が無意識にそちらを向く。
その瞬間、上条の大声が教室中に響いた。
「おすわりぃ――!!」
「ひゃい!」
上条の声に反応して思わず床に座り込む小萌先生。
「悪い、小萌先生!」
次の瞬間には、今まで小萌先生の頭があった空間を飛び越えるようにして上条は廊下に飛び出していた。
「こんな馬鹿馬鹿しい連中、相手してられるか!」
そのまま上条は校門に向けて走り出した。
クラスメート達もそれに続くように廊下に飛び出し、上条を追いかけ始めた。
舌打ちした上条がギリッと奥歯を噛みしめたその時、教室の戸が開いて担任の小萌先生が入ってきた。
「はいはーい、皆さん、席に着いてくださーい」
「あ、小萌先生」
クラス中の視線が無意識にそちらを向く。
その瞬間、上条の大声が教室中に響いた。
「おすわりぃ――!!」
「ひゃい!」
上条の声に反応して思わず床に座り込む小萌先生。
「悪い、小萌先生!」
次の瞬間には、今まで小萌先生の頭があった空間を飛び越えるようにして上条は廊下に飛び出していた。
「こんな馬鹿馬鹿しい連中、相手してられるか!」
そのまま上条は校門に向けて走り出した。
クラスメート達もそれに続くように廊下に飛び出し、上条を追いかけ始めた。
ちなみに、
「クスン、おすわりって……先生、上条ちゃんに調教されちゃいました……。これって、もうお嫁に行けない体にされちゃったってことですよね……」
泣きじゃくる小萌先生の姿に、萌心やら他にも青少年特有のいけない心を刺激され、教室から出ることができなかった男子生徒がいくらかいたりする。
「クスン、おすわりって……先生、上条ちゃんに調教されちゃいました……。これって、もうお嫁に行けない体にされちゃったってことですよね……」
泣きじゃくる小萌先生の姿に、萌心やら他にも青少年特有のいけない心を刺激され、教室から出ることができなかった男子生徒がいくらかいたりする。
数分後、美琴はうんざりした顔で校舎から走ってくる上条を見ていた。正確には上条というより、彼の後ろから殺気立った表情で上条を追いかける集団を、であるが。
「あの馬鹿、どうしてこうもやっかいごとばかり持ち込むのかしら」
額に手を当てた美琴は、ポケットをごそごそと探り一枚のコインを取り出しピンと上空にはじいた。
落ちてきたコインは右手の親指の上に乗ると、そのまま上条の高校の校庭に向けられる。
タイミングは一瞬。その場所を上条が通り過ぎ、クラスメート達がそこに到達する寸前だ。それを外すと大惨事になりかねない。
従って出力もできる限り最小限に抑える必要がある。
美琴は静かに心の引き金を引いた。
「いっけ――!」
美琴は口を開くと同時に最小出力の超電磁砲を発射した。ドーンという音と共に上条の高校の校庭の一部が吹き飛び、その爆風が上条を追いかけていたクラスメート達を襲った。
「さ、片付けたわよ。……なんて顔してんのよ、大丈夫だって。出力も範囲も最小に絞ったから悪くてもあの人達、軽傷のはずよ。ほら、現にほとんどの人が立ってるでしょ」
「……お前、無茶すんなあ」
ゴミを捨てる程度の気軽さで言う美琴に、上条は顔を引きつらせた。
しかし上条の視線の端に捉えられていたクラスメート達は爆風で立ち止まっただけで、皆体そのものは大丈夫そうに見える。それを見て上条は心の中で安堵の息を吐いた。
「何よ、助けてあげたんでしょ。私としては当麻に感謝してほしいんだけど」
「ま、まあ今日の所は助かったな。じゃあ、帰るか」
「うん」
「それにしても明日、どんな言い訳しよ。むしろ休もうかな……」
明日のことを考えて憂鬱になる上条。
それに対し美琴はニコニコ笑みを浮かべながらその横に立った。
「あの馬鹿、どうしてこうもやっかいごとばかり持ち込むのかしら」
額に手を当てた美琴は、ポケットをごそごそと探り一枚のコインを取り出しピンと上空にはじいた。
落ちてきたコインは右手の親指の上に乗ると、そのまま上条の高校の校庭に向けられる。
タイミングは一瞬。その場所を上条が通り過ぎ、クラスメート達がそこに到達する寸前だ。それを外すと大惨事になりかねない。
従って出力もできる限り最小限に抑える必要がある。
美琴は静かに心の引き金を引いた。
「いっけ――!」
美琴は口を開くと同時に最小出力の超電磁砲を発射した。ドーンという音と共に上条の高校の校庭の一部が吹き飛び、その爆風が上条を追いかけていたクラスメート達を襲った。
「さ、片付けたわよ。……なんて顔してんのよ、大丈夫だって。出力も範囲も最小に絞ったから悪くてもあの人達、軽傷のはずよ。ほら、現にほとんどの人が立ってるでしょ」
「……お前、無茶すんなあ」
ゴミを捨てる程度の気軽さで言う美琴に、上条は顔を引きつらせた。
しかし上条の視線の端に捉えられていたクラスメート達は爆風で立ち止まっただけで、皆体そのものは大丈夫そうに見える。それを見て上条は心の中で安堵の息を吐いた。
「何よ、助けてあげたんでしょ。私としては当麻に感謝してほしいんだけど」
「ま、まあ今日の所は助かったな。じゃあ、帰るか」
「うん」
「それにしても明日、どんな言い訳しよ。むしろ休もうかな……」
明日のことを考えて憂鬱になる上条。
それに対し美琴はニコニコ笑みを浮かべながらその横に立った。
「ただいま、マロン!」
美琴は上条の部屋に入るなり彼の右手を掴み、マロンの元へ駆け寄っていった。
マロンも美琴の姿を見て嬉しそうにしっぽを振っている。
美琴は上条が自分の頭に右手を置いたのを確認するとマロンを抱き上げて頬ずりした。
「寂しかった、マロン? ゴメンね、でも後は夜までずっといっしょだからねえ」
嬉しそうな表情の美琴。しかしその笑顔はあくまで上条が側にいて美琴の電磁波を打ち消していないと見ることができない笑顔である。
もし何かの都合で上条の帰るのが遅くなれば、それだけこの笑顔が見られるのが遅くなってしまうのだ。
美琴は上条の部屋に入るなり彼の右手を掴み、マロンの元へ駆け寄っていった。
マロンも美琴の姿を見て嬉しそうにしっぽを振っている。
美琴は上条が自分の頭に右手を置いたのを確認するとマロンを抱き上げて頬ずりした。
「寂しかった、マロン? ゴメンね、でも後は夜までずっといっしょだからねえ」
嬉しそうな表情の美琴。しかしその笑顔はあくまで上条が側にいて美琴の電磁波を打ち消していないと見ることができない笑顔である。
もし何かの都合で上条の帰るのが遅くなれば、それだけこの笑顔が見られるのが遅くなってしまうのだ。
上条は思う。少々荒っぽい手段を使ったってこの笑顔を見るためならば別に構わないのではないか、と。
そしてこうも思う。下らない勘違いから悪意を持って自分の邪魔をする奴ら、それはすなわち美琴が喜ぶのを邪魔する奴らなのだと。
自分は絶対そんな奴らに屈するわけにはいかないのだと。
さらに思う。追試や補習といった、早く帰りたがる今の上条にとっては邪魔となる物。追試や補習そのものは上条の身から出たサビなのだから、学生として甘んじて受けなければならない。しかし勉強を頑張って、そういう物を受けなくていいようにすることは必要なのだと。
だから上条は決意する。今までは半ば当たり前として考えていた追試や補習をなるべく受けないで済むように努力しようと。
今日のように悪意を持って自分に絡んでくることによって、自分の行動を邪魔する連中には屈しないようにしようと。
そうすることによって、美琴の笑顔を少しは護ることができるはずだから。
美琴とマロンを見ているうちに上条の心の中にはそんな想いがあふれ始めていた。
そう思っているうちに、先ほど美琴の超電磁砲を受けたクラスメート達に対する罪悪感は上条の中でなくなっていた。
そしてこうも思う。下らない勘違いから悪意を持って自分の邪魔をする奴ら、それはすなわち美琴が喜ぶのを邪魔する奴らなのだと。
自分は絶対そんな奴らに屈するわけにはいかないのだと。
さらに思う。追試や補習といった、早く帰りたがる今の上条にとっては邪魔となる物。追試や補習そのものは上条の身から出たサビなのだから、学生として甘んじて受けなければならない。しかし勉強を頑張って、そういう物を受けなくていいようにすることは必要なのだと。
だから上条は決意する。今までは半ば当たり前として考えていた追試や補習をなるべく受けないで済むように努力しようと。
今日のように悪意を持って自分に絡んでくることによって、自分の行動を邪魔する連中には屈しないようにしようと。
そうすることによって、美琴の笑顔を少しは護ることができるはずだから。
美琴とマロンを見ているうちに上条の心の中にはそんな想いがあふれ始めていた。
そう思っているうちに、先ほど美琴の超電磁砲を受けたクラスメート達に対する罪悪感は上条の中でなくなっていた。
その日も昨日と同じように上条はできる限り一生懸命勉強に励み、美琴はそんな上条とマロンの世話を甲斐甲斐しく行った。
そして夜になり、美琴は名残惜しそうにマロンに別れを告げ、上条の部屋を後にしようとした。
「ちょっと待て、美琴」
「何?」
きょとんとした表情で上条を見つめる美琴。上条は恥ずかしそうに頬をかきながら美琴を見つめ返した。
「あの、今日も、その、ありがとうな。勉強も、家事も、その、学校のことも」
「別にいいわよ、ある意味私が好きでやってることだし。当麻の学校のことはちょっと、やり過ぎたかな、と今は思ってるけど……ゴメン」
「気にすんな、あれはアイツらが悪いんだ。それよりも、俺、勉強とか頑張るから。なるべく学校から帰るの遅くならないようにするから」
「うん、いい心がけね。でも急にどうしたの?」
「だって、そうすればお前とマロン、なるべくいっしょにいさせてやれるだろ。うん、だから俺、頑張るから。んじゃあお休み」
「お、お休み……」
そして夜になり、美琴は名残惜しそうにマロンに別れを告げ、上条の部屋を後にしようとした。
「ちょっと待て、美琴」
「何?」
きょとんとした表情で上条を見つめる美琴。上条は恥ずかしそうに頬をかきながら美琴を見つめ返した。
「あの、今日も、その、ありがとうな。勉強も、家事も、その、学校のことも」
「別にいいわよ、ある意味私が好きでやってることだし。当麻の学校のことはちょっと、やり過ぎたかな、と今は思ってるけど……ゴメン」
「気にすんな、あれはアイツらが悪いんだ。それよりも、俺、勉強とか頑張るから。なるべく学校から帰るの遅くならないようにするから」
「うん、いい心がけね。でも急にどうしたの?」
「だって、そうすればお前とマロン、なるべくいっしょにいさせてやれるだろ。うん、だから俺、頑張るから。んじゃあお休み」
「お、お休み……」
寮への帰り道、美琴は先ほど上条が言った言葉を思い返していた。
「あれって、どういう意味なんだろう。私のため? マロンのため? ……もし私のためなんだったら、当麻、私のために苦手な勉強頑張るって言ってくれたの? 嘘、ウソ、うそ!」
頬を染めた美琴はキャーキャー言いながら、一人家路を急いだ。
「あれって、どういう意味なんだろう。私のため? マロンのため? ……もし私のためなんだったら、当麻、私のために苦手な勉強頑張るって言ってくれたの? 嘘、ウソ、うそ!」
頬を染めた美琴はキャーキャー言いながら、一人家路を急いだ。
上条は翌日からもなんとか追試や補習を回避し続けていた。初めこそ薄氷を踏む思いで毎日の小テストなどをクリアしていた上条だったが、美琴の指導のおかげもあり、徐々にではあるが勉強するということに慣れつつあった。
しかしそれはあくまでも徐々に、であったのだ。人間、急にそんなに変われるわけがないのだ。
にもかかわらず上条は油断した。結果としてその日上条はとうとう補習を言い渡されてしまったのだった。
しかしそれはあくまでも徐々に、であったのだ。人間、急にそんなに変われるわけがないのだ。
にもかかわらず上条は油断した。結果としてその日上条はとうとう補習を言い渡されてしまったのだった。
「美琴、マロン、すまん。ふがいない上条さんを許してくれ」
放課後、上条は補習用の教室で美琴に連絡した後の携帯に頭を下げていた。
そんな上条に土御門と青髪ピアスがニヤニヤしながら近づいてきた。
「カミやん、そんなに落ち込むことはないぜい。普段のカミやんに戻っただけなんだにゃー」
「そうそう、それにカミやんだってたまには小萌先生の授業を放課後も受けたいと思ってたんやろ?」
「うるせえ」
上条は露骨に不機嫌そうに二人から顔をそらした。
「まあまあそう言うなや、久しぶりにデルタフォース揃い踏みなんや。仲良くせな、な」
「うんうん。最近のカミやんは超電磁砲にばっかりかまけて友情を軽視していたからにゃー。たまには男同士の付き合いを思い出すべきなんだぜい」
「友情……友達、付き合い?」
「そういうことや」
それまで不機嫌そうにしていた上条だったが、ふいに二人の言葉に何か思うことがあったのか、考え込み始めた。
その様子に土御門達は頭に疑問符を浮かべながら自分達の席に戻った。
放課後、上条は補習用の教室で美琴に連絡した後の携帯に頭を下げていた。
そんな上条に土御門と青髪ピアスがニヤニヤしながら近づいてきた。
「カミやん、そんなに落ち込むことはないぜい。普段のカミやんに戻っただけなんだにゃー」
「そうそう、それにカミやんだってたまには小萌先生の授業を放課後も受けたいと思ってたんやろ?」
「うるせえ」
上条は露骨に不機嫌そうに二人から顔をそらした。
「まあまあそう言うなや、久しぶりにデルタフォース揃い踏みなんや。仲良くせな、な」
「うんうん。最近のカミやんは超電磁砲にばっかりかまけて友情を軽視していたからにゃー。たまには男同士の付き合いを思い出すべきなんだぜい」
「友情……友達、付き合い?」
「そういうことや」
それまで不機嫌そうにしていた上条だったが、ふいに二人の言葉に何か思うことがあったのか、考え込み始めた。
その様子に土御門達は頭に疑問符を浮かべながら自分達の席に戻った。
上条はその日、たっぷり二時間の補習と確認の再テストを受けることになった。
ようやく補習と追試から解放された上条はとぼとぼと家への道を歩いていた。
土御門達から帰りにどこかへ寄らないかと誘われたのだが、それに関しては丁重に断った。疲れていたし、美琴やマロンのことが心配だったからだ。
とはいえ誘ってくれたこと、そのこと自体は素直に嬉しかった。
土御門達から帰りにどこかへ寄らないかと誘われたのだが、それに関しては丁重に断った。疲れていたし、美琴やマロンのことが心配だったからだ。
とはいえ誘ってくれたこと、そのこと自体は素直に嬉しかった。
「ただいまー……何やってんだ、お前?」
家に帰ってきた上条は玄関に入るなり、訝しげな表情を浮かべた。
廊下の片隅で膝を抱えてじいっと遠目にマロンを見ている美琴がいたからだ。
「もしかして、それ以上近づけないのか?」
美琴はこくりとうなずいた。
「えっと、帰るのが遅れた俺に怒ってる?」
美琴は再びこくりとうなずいた。
「その、悪い。やっぱり上条さんの頭はまだまだだったということです、はい」
美琴はすっと部屋を指さした。
「食事はできてる。後、今日の課題も。模範解答も置いておいたから私がいなくてもちゃんとやること。もう追試も補習も許さないわよ」
「……すまん、頑張る」
「じゃあ手貸して。時間までマロン抱いてる」
「そうだな」
上条は美琴の頭に右手を置くと、彼女といっしょに部屋に入っていった。
家に帰ってきた上条は玄関に入るなり、訝しげな表情を浮かべた。
廊下の片隅で膝を抱えてじいっと遠目にマロンを見ている美琴がいたからだ。
「もしかして、それ以上近づけないのか?」
美琴はこくりとうなずいた。
「えっと、帰るのが遅れた俺に怒ってる?」
美琴は再びこくりとうなずいた。
「その、悪い。やっぱり上条さんの頭はまだまだだったということです、はい」
美琴はすっと部屋を指さした。
「食事はできてる。後、今日の課題も。模範解答も置いておいたから私がいなくてもちゃんとやること。もう追試も補習も許さないわよ」
「……すまん、頑張る」
「じゃあ手貸して。時間までマロン抱いてる」
「そうだな」
上条は美琴の頭に右手を置くと、彼女といっしょに部屋に入っていった。
美琴がマロンと遊び始めた傍らで上条は美琴の作った課題と模範解答を何度も何度も繰り返し読んでいた。美琴のために右手を使ってしまっている上条にとっての唯一の勉強法だ。
上条からすると本当は書きながらでないと、勉強の内容はなかなか頭に入らないのだが、それでもやらないよりはマシである。というより、本来暗記重視の高校の授業レベルの勉強なら慣れてくればこの方が効率がいいのだが、残念ながら上条の頭はまだその域には達していないのだ。
それでも上条は問題と解答を頭に入れようと必死で読み続けた。美琴にも、マロンにも寂しい思いを二度とさせたくないから。
上条からすると本当は書きながらでないと、勉強の内容はなかなか頭に入らないのだが、それでもやらないよりはマシである。というより、本来暗記重視の高校の授業レベルの勉強なら慣れてくればこの方が効率がいいのだが、残念ながら上条の頭はまだその域には達していないのだ。
それでも上条は問題と解答を頭に入れようと必死で読み続けた。美琴にも、マロンにも寂しい思いを二度とさせたくないから。
そして美琴が帰る時間になると、上条はうんとのびをしながら玄関まで美琴を見送りに行った。
「ほんとに勉強頑張ってよ。マロンだって、私だって、寂しかったんだから……当麻が帰ってくるまで」
「わかってる。ほんとに今日は迷惑かけたな。ところでさ、今日気づいたんだがお前って昼休みもここ来てるんだろ?」
「毎日じゃないけどね」
「そん時って、どうしてるんだ? 今日みたいにしてるのか?」
「うーん、ちょっと違うわね。はっきり言ってぼんやりしてるだけ。具体的に言うとベッドに横になりながらマロンを見てる。後はトイレのパッドを代えるくらいかな?」
「ふーんって……お前俺のベッド使ってるのかよ!」
「悪い?」
美琴は首を傾げた。
「いや、悪いとかはないけど。でもなんつーか、当人いないとはいえ、男のベッドに若い女の子が寝てるなんてな……」
「減るもんじゃないしいいじゃない。いかがわしいことなんてしてないわよ。もしかして、して欲しかった?」
「だ、誰がそんなこと考えてるか! もういい、気になった俺が馬鹿みたいだ!」
「何よそれ」
美琴はつまらなさそうにに口を尖らせた。
実は美琴としては上条への軽いアピールのつもりだったのだが、堅物の上条のせいでなんとなくつまらない方向に話が進んだため、面白くなくなったのだ。
「ほんとに勉強頑張ってよ。マロンだって、私だって、寂しかったんだから……当麻が帰ってくるまで」
「わかってる。ほんとに今日は迷惑かけたな。ところでさ、今日気づいたんだがお前って昼休みもここ来てるんだろ?」
「毎日じゃないけどね」
「そん時って、どうしてるんだ? 今日みたいにしてるのか?」
「うーん、ちょっと違うわね。はっきり言ってぼんやりしてるだけ。具体的に言うとベッドに横になりながらマロンを見てる。後はトイレのパッドを代えるくらいかな?」
「ふーんって……お前俺のベッド使ってるのかよ!」
「悪い?」
美琴は首を傾げた。
「いや、悪いとかはないけど。でもなんつーか、当人いないとはいえ、男のベッドに若い女の子が寝てるなんてな……」
「減るもんじゃないしいいじゃない。いかがわしいことなんてしてないわよ。もしかして、して欲しかった?」
「だ、誰がそんなこと考えてるか! もういい、気になった俺が馬鹿みたいだ!」
「何よそれ」
美琴はつまらなさそうにに口を尖らせた。
実は美琴としては上条への軽いアピールのつもりだったのだが、堅物の上条のせいでなんとなくつまらない方向に話が進んだため、面白くなくなったのだ。
「それからさ、今度の土曜日なんだけど」
「何?」
美琴は自分の中の不機嫌さを隠そうともせずに答えた。
「俺、一人で頑張れるから、たまには友達と遊んだりしたらどうだ?」
「は? アンタ、何言ってるの?」
「だからお前毎日大変だろ、マロンの世話して、俺の面倒まで見て。最近白井なんかと会話してるか? それに、誰だっけ、えっと、あの、初春とか佐天だっけ、ああいう後輩なんかとも会ってないだろ。たまには友達との付き合いもした方がいいと思うぞ。マロンには夕方くらいから会えばいいだろ」
「イヤよ、せっかくマロンと過ごす週末なのよ。一日いっしょにいるつもりなのに」
「でも、それじゃ友達付き合いが疎かになるだろ。今更かもしれないけど」
「何?」
美琴は自分の中の不機嫌さを隠そうともせずに答えた。
「俺、一人で頑張れるから、たまには友達と遊んだりしたらどうだ?」
「は? アンタ、何言ってるの?」
「だからお前毎日大変だろ、マロンの世話して、俺の面倒まで見て。最近白井なんかと会話してるか? それに、誰だっけ、えっと、あの、初春とか佐天だっけ、ああいう後輩なんかとも会ってないだろ。たまには友達との付き合いもした方がいいと思うぞ。マロンには夕方くらいから会えばいいだろ」
「イヤよ、せっかくマロンと過ごす週末なのよ。一日いっしょにいるつもりなのに」
「でも、それじゃ友達付き合いが疎かになるだろ。今更かもしれないけど」
上条が土御門達との会話で気づいたこと、それはすなわち「自分達の交友関係」であった。
上条自身、マロンに関わってからというものほとんどクラスメートとの交流がなかったのだ。
あるとしたら理不尽な鬼ごっこくらい。それすらも最近、無意識にクラスメートと距離を置いていた上条からは縁遠くなりつつあった。こういうことも所詮はお互いの信頼関係に基づいた一種のじゃれ合いだったのだろう。
そういうことに気づいた上条は、美琴も自分と同じような状況になっているのではないかと心配になったのだ。
ベースの人格が馬鹿なため、なんだかんだいって人の輪に入ることのできる自分と違い、優秀すぎる美琴にはなかなか心を許せる友人ができづらい。
そんな美琴と普通に付き合ってくれる白井、初春、佐天といった人間は美琴にとって本当に大切にすべき人達なのだ。
だからこそ上条は美琴に勧めたのだ、彼女達と付き合う日を設けるようにと。
人間という生き物は意外と薄情なもので、付き合いがないと案外あっさりと心が離れてしまうものだから。
上条自身、マロンに関わってからというものほとんどクラスメートとの交流がなかったのだ。
あるとしたら理不尽な鬼ごっこくらい。それすらも最近、無意識にクラスメートと距離を置いていた上条からは縁遠くなりつつあった。こういうことも所詮はお互いの信頼関係に基づいた一種のじゃれ合いだったのだろう。
そういうことに気づいた上条は、美琴も自分と同じような状況になっているのではないかと心配になったのだ。
ベースの人格が馬鹿なため、なんだかんだいって人の輪に入ることのできる自分と違い、優秀すぎる美琴にはなかなか心を許せる友人ができづらい。
そんな美琴と普通に付き合ってくれる白井、初春、佐天といった人間は美琴にとって本当に大切にすべき人達なのだ。
だからこそ上条は美琴に勧めたのだ、彼女達と付き合う日を設けるようにと。
人間という生き物は意外と薄情なもので、付き合いがないと案外あっさりと心が離れてしまうものだから。
しかしそんな上条の心を知ってか知らずか美琴は露骨に不満そうな表情をした。
「余計なお世話よ。私の交友関係にまでアンタに口出ししてほしくないわね」
「でもな」
「今の私に一番大切なのはマロンの世話をすることなの。私はあの子のお母さんなのよ、お母さんが子供をほったらかしにして自分の付き合いを考えてどうするのよ。そんな無責任な人間、母親じゃないわ」
「あ……」
「確かに最近、黒子とプライベートな会話がほとんどないのは事実だし、初春さん達に至っては会ってもいない。でも、それで心が離れてしまうような、そんなヤワな友情じゃないわよ。それに、もしそれで離れてしまうような関係なら……」
「美琴……」
「それでも、当麻とマロンは、私の側にいてくれるでしょ?」
「…………」
上条は小さく舌打ちすると、イライラしたように頭をかいた。
美琴は美琴なりにきちんと考えて行動していたのだ。少なくとも上条が美琴やマロンに対してしているよりもずっと、マロンに対しても、上条に対しても責任ある行動を取っていた。
「悪かったな、俺がちょっと浅はかだった」
素直に頭を下げる上条。
結局上条はまたもや年下の女の子に敗北感を味わうのだった。
同時に美琴なら大丈夫、なんとなくだがそう思った。
「余計なお世話よ。私の交友関係にまでアンタに口出ししてほしくないわね」
「でもな」
「今の私に一番大切なのはマロンの世話をすることなの。私はあの子のお母さんなのよ、お母さんが子供をほったらかしにして自分の付き合いを考えてどうするのよ。そんな無責任な人間、母親じゃないわ」
「あ……」
「確かに最近、黒子とプライベートな会話がほとんどないのは事実だし、初春さん達に至っては会ってもいない。でも、それで心が離れてしまうような、そんなヤワな友情じゃないわよ。それに、もしそれで離れてしまうような関係なら……」
「美琴……」
「それでも、当麻とマロンは、私の側にいてくれるでしょ?」
「…………」
上条は小さく舌打ちすると、イライラしたように頭をかいた。
美琴は美琴なりにきちんと考えて行動していたのだ。少なくとも上条が美琴やマロンに対してしているよりもずっと、マロンに対しても、上条に対しても責任ある行動を取っていた。
「悪かったな、俺がちょっと浅はかだった」
素直に頭を下げる上条。
結局上条はまたもや年下の女の子に敗北感を味わうのだった。
同時に美琴なら大丈夫、なんとなくだがそう思った。
上条はその時ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
「なあ、なんとなく不思議だったんだがな、さっきお前白井ともあまり会話がないって言ってたよな?」
「ええ、そうよ」
「なんでそうなるんだ? 白井ってはっきり言ってしつこいくらいお前のことを慕ってるはずなのに、よくそんな軽い感じで済ませられるな」
「そう? 黒子って確かに困った癖のある娘だけど、ちゃんと空気の読める娘よ。私が本当に何も言って欲しくない時は黙って見て見ぬふりをしてくれるわ」
「……なるほどな」
上条は絶対能力進化の実験の際の白井の行動を思い出した。
あのときも白井は心配のあまり上条と話はしたものの、美琴の行動自体には一切干渉していなかった。
このような白井の行動とそれに対する美琴の反応、これが美琴の言うヤワな友情でない証拠なのだろう。
やはり、美琴の交友関係における自分の心配は杞憂なのだな、そう上条は確信した。
「なあ、なんとなく不思議だったんだがな、さっきお前白井ともあまり会話がないって言ってたよな?」
「ええ、そうよ」
「なんでそうなるんだ? 白井ってはっきり言ってしつこいくらいお前のことを慕ってるはずなのに、よくそんな軽い感じで済ませられるな」
「そう? 黒子って確かに困った癖のある娘だけど、ちゃんと空気の読める娘よ。私が本当に何も言って欲しくない時は黙って見て見ぬふりをしてくれるわ」
「……なるほどな」
上条は絶対能力進化の実験の際の白井の行動を思い出した。
あのときも白井は心配のあまり上条と話はしたものの、美琴の行動自体には一切干渉していなかった。
このような白井の行動とそれに対する美琴の反応、これが美琴の言うヤワな友情でない証拠なのだろう。
やはり、美琴の交友関係における自分の心配は杞憂なのだな、そう上条は確信した。
土曜日、そして日曜日。美琴は先日の会話の影響というわけではないが、両日とも朝から晩まで一日中ずっと上条の部屋にいて、さもそれを当然だと言わんばかりの態度を取っていた。
けれど、
「……冷静に考えたら俺、結構ものすごいことしてないか? 付き合ってるわけでもない女の子を一日中部屋に連れ込んで。てかもう毎日のように美琴は俺の部屋に入り浸ってるわけだろ」
一方の上条は今頃になって気づいた悩みに頭を抱えていた。
けれど、
「……冷静に考えたら俺、結構ものすごいことしてないか? 付き合ってるわけでもない女の子を一日中部屋に連れ込んで。てかもう毎日のように美琴は俺の部屋に入り浸ってるわけだろ」
一方の上条は今頃になって気づいた悩みに頭を抱えていた。
「何ブツブツ言ってるの。ほら、あと一時間以内にその章を終わらせる。先は長いわよ」
「……それって、ちときつくないか?」
「うるさいわね、アンタは勉強の根本的なことが理解できてないのよ。だからまずはこういう基礎的なことをみっちり頭にたたき込む。理想としては夢に出てくるくらいの丸暗記よね。そして後は小学生レベルの計算を完璧にこなすこと。意外とこういうことができてない人って多いのよ。さあ、せっかくの休みなんだからとことんまで鍛えるわよ!」
「美琴ー、やっぱり今日くらい白井達と遊びに行ってくれー」
「黙りなさい」
「……それって、ちときつくないか?」
「うるさいわね、アンタは勉強の根本的なことが理解できてないのよ。だからまずはこういう基礎的なことをみっちり頭にたたき込む。理想としては夢に出てくるくらいの丸暗記よね。そして後は小学生レベルの計算を完璧にこなすこと。意外とこういうことができてない人って多いのよ。さあ、せっかくの休みなんだからとことんまで鍛えるわよ!」
「美琴ー、やっぱり今日くらい白井達と遊びに行ってくれー」
「黙りなさい」
今頃になって現状把握をしようとした上条だったが、その試みは美琴のスパルタ教育の前にあっさり潰えることになった。
とはいえ、
「ただで家事一切をやってもらえる上に勉強まで教えてもらえるなんて、上条さんはやはり幸福なんでしょうか? でも厳しすぎるような……」
「はあ? 何言ってるの。私が側にいるのよ、今のアンタ以上に幸せな奴なんてそうはいないわよ」
「…………」
そうは言いつつも、上条は結構、現状に満足していたりする。
「ただで家事一切をやってもらえる上に勉強まで教えてもらえるなんて、上条さんはやはり幸福なんでしょうか? でも厳しすぎるような……」
「はあ? 何言ってるの。私が側にいるのよ、今のアンタ以上に幸せな奴なんてそうはいないわよ」
「…………」
そうは言いつつも、上条は結構、現状に満足していたりする。
それからさらに数日後。今日はマロンを病院に連れて行く日である。
「さあマロン、今日は病院に行くわよ」
美琴がそう言った瞬間、マロンはびくりと体を硬くするとそのまま美琴からじりじりと遠ざかった。
「ちょっとマロン、アンタ何やってんのよ」
上条はそんな一人と一匹を見ながらため息をついた。
「何って、マロン露骨に嫌がってるだけだろ、病院行くの」
「え?」
美琴は改めてマロンを見た。
マロンは美琴をにらみながらケージの端にまで逃げていた。
美琴はほうっとため息をついた。
「イヤー。マロン、かわいいー」
「違うだろ」
上条は美琴の頭に乗せている手で軽く美琴をこづいた。
「病院行ったら俺らと離されるし、注射打たれるし強めの薬塗られるしで嫌なんだろう。この間散々マロン怖がってたろう?」
「そう言えばそうね」
美琴は先日病院にマロンを連れて行ったときのことを思い出した。
「さあマロン、今日は病院に行くわよ」
美琴がそう言った瞬間、マロンはびくりと体を硬くするとそのまま美琴からじりじりと遠ざかった。
「ちょっとマロン、アンタ何やってんのよ」
上条はそんな一人と一匹を見ながらため息をついた。
「何って、マロン露骨に嫌がってるだけだろ、病院行くの」
「え?」
美琴は改めてマロンを見た。
マロンは美琴をにらみながらケージの端にまで逃げていた。
美琴はほうっとため息をついた。
「イヤー。マロン、かわいいー」
「違うだろ」
上条は美琴の頭に乗せている手で軽く美琴をこづいた。
「病院行ったら俺らと離されるし、注射打たれるし強めの薬塗られるしで嫌なんだろう。この間散々マロン怖がってたろう?」
「そう言えばそうね」
美琴は先日病院にマロンを連れて行ったときのことを思い出した。
その際もマロンはガタガタと震えながら、病院そのものをかなり怖がっていた。
「今となってはカエル先生もマロンにとっては恐怖の対象みたいだしな」
「うん」
本来ならば命の恩人であるはずの冥土帰しさえも、今のマロンには理不尽に注射を打つ怖い人になりつつあったのだ。
「でも連れて行かないと」
「まあな。だからこういうときは黙って連れて行くんだよ、無理矢理にでも」
上条は強引にマロンをキャリーに入れた。
キャリーの中のマロンはガタガタと震えている。
「完全トラウマになってるわね、病院が……」
美琴はやれやれと言わんばかりに首を横に振った。
「今となってはカエル先生もマロンにとっては恐怖の対象みたいだしな」
「うん」
本来ならば命の恩人であるはずの冥土帰しさえも、今のマロンには理不尽に注射を打つ怖い人になりつつあったのだ。
「でも連れて行かないと」
「まあな。だからこういうときは黙って連れて行くんだよ、無理矢理にでも」
上条は強引にマロンをキャリーに入れた。
キャリーの中のマロンはガタガタと震えている。
「完全トラウマになってるわね、病院が……」
美琴はやれやれと言わんばかりに首を横に振った。
「うーん……」
冥土帰しは困ったように額に手を当てていた。
「すいません、すいません、マロンは後でちゃんと叱っておきますから!」
そんな冥土帰しに必死で頭を下げ続ける美琴。
「…………」
黙って雑巾で病院の手術台の上を拭き続ける上条。
「…………」
自分は悪くない、むしろ被害者だと言わんばかりにキャリーの中ですねているマロン。
数十分後、マロンの診察室である冥土帰し専用の手術室の中は、概ねこんな有様になっていた。
「まさか、漏らしちゃうなんて……」
美琴はちらりとキャリーの中のマロンを見た。
キャリーの中でマロンは相変わらずふてくされたかのように丸まっていた。
冥土帰しは困ったように額に手を当てていた。
「すいません、すいません、マロンは後でちゃんと叱っておきますから!」
そんな冥土帰しに必死で頭を下げ続ける美琴。
「…………」
黙って雑巾で病院の手術台の上を拭き続ける上条。
「…………」
自分は悪くない、むしろ被害者だと言わんばかりにキャリーの中ですねているマロン。
数十分後、マロンの診察室である冥土帰し専用の手術室の中は、概ねこんな有様になっていた。
「まさか、漏らしちゃうなんて……」
美琴はちらりとキャリーの中のマロンを見た。
キャリーの中でマロンは相変わらずふてくされたかのように丸まっていた。
なんのことはない、冥土帰しによる注射や検査を受けているうちに緊張が限界を超えたマロンがおしっこを漏らしたのだ。
もちろんマロンからすれば、自分に怖い思いをさせた冥土帰しや上条達が悪いのだから罪の意識を感じるはずもない。
しかし飼い主である上条達にとっては堪ったものではない。慌ててマロンをキャリーの中に入れると、雑巾で汚れた手術台や手術室の床を拭く羽目になった。そして美琴は必死で冥土帰しに謝罪を繰り返す。
もちろんマロンからすれば、自分に怖い思いをさせた冥土帰しや上条達が悪いのだから罪の意識を感じるはずもない。
しかし飼い主である上条達にとっては堪ったものではない。慌ててマロンをキャリーの中に入れると、雑巾で汚れた手術台や手術室の床を拭く羽目になった。そして美琴は必死で冥土帰しに謝罪を繰り返す。
冥土帰しはなおも困ったように額に手を当てていた。
「僕は一応あの犬の命の恩人のはずなのに、すっかり悪役なんだ……」
「すいません、すいません!」
「まあいいけど。でも、たった一週間で完全に君達の家の子になったんだね。それに、本当に大切にされているんだ」
「はい?」
困った顔ではあるが決して怒っていない冥土帰しの口調に美琴は頭の中で疑問符を浮かべた。
「あの犬は最初の一週間はここで面倒を見ていたんだ、だから本質的に病院が嫌いなわけではないはずなんだよ。なのに、その後の一週間ですっかり君達に懐いて逆に病院が嫌いになるなんてね。大切にかわいがられている証拠だよ」
「そんな……」
美琴は頬を染めた。
「まあ、後の希望としては病院嫌いを少しでも直してくれると嬉しいけどね」
「ああ! すいません、すいません、すいません!」
美琴は今日48度目となる謝罪をした。
「僕は一応あの犬の命の恩人のはずなのに、すっかり悪役なんだ……」
「すいません、すいません!」
「まあいいけど。でも、たった一週間で完全に君達の家の子になったんだね。それに、本当に大切にされているんだ」
「はい?」
困った顔ではあるが決して怒っていない冥土帰しの口調に美琴は頭の中で疑問符を浮かべた。
「あの犬は最初の一週間はここで面倒を見ていたんだ、だから本質的に病院が嫌いなわけではないはずなんだよ。なのに、その後の一週間ですっかり君達に懐いて逆に病院が嫌いになるなんてね。大切にかわいがられている証拠だよ」
「そんな……」
美琴は頬を染めた。
「まあ、後の希望としては病院嫌いを少しでも直してくれると嬉しいけどね」
「ああ! すいません、すいません、すいません!」
美琴は今日48度目となる謝罪をした。
その翌日のこと。上条は家に帰るなり美琴やマロンそっちのけで部屋の片隅にある買い物袋をがさごそと焦りだした。
「当麻、何やってんの、アンタ?」
「うーん? 昨日病院行った時さ、先生に許可もらっておいたんだ」
「何の許可?」
上条は美琴の方をくるっと振り向いてニヤリと笑った。
「ふふーん、これこれ」
「あ」
上条が袋から出したのは子犬用のおもちゃだった。
「そういえばそんなのも買ってたわね」
美琴は上条からおもちゃを受け取った。子犬用のおもちゃ、それはゴム製の小さなボールで力が加わると潰れてピーピーと音が鳴る物だった。
美琴はマロンの側に行き、おもちゃをマロンの顔に近づけた。
おもちゃを見て不思議そうな顔をするマロンに向けて、美琴はぎゅっとボールを握りつぶした。その途端ボールから鳴る音。
マロンはびっくりして後ずさった。
「キャハハハハ! マロンかわいい! かわいすぎる! もう、どうしてこんなにかわいいのよ!」
美琴はおよそお嬢様らしくない大声で笑い出した。
そんな美琴を見ながらマロンは再び美琴に近づいた。
そして再び美琴はボールを握りつぶす。
やはりびっくりして後ずさるマロン。
「キャハハハハ!」
「俺もマロンと遊びたかったのに……」
上条は美琴とマロンのじゃれつき合いを寂しそうに見ていた。
「当麻、何やってんの、アンタ?」
「うーん? 昨日病院行った時さ、先生に許可もらっておいたんだ」
「何の許可?」
上条は美琴の方をくるっと振り向いてニヤリと笑った。
「ふふーん、これこれ」
「あ」
上条が袋から出したのは子犬用のおもちゃだった。
「そういえばそんなのも買ってたわね」
美琴は上条からおもちゃを受け取った。子犬用のおもちゃ、それはゴム製の小さなボールで力が加わると潰れてピーピーと音が鳴る物だった。
美琴はマロンの側に行き、おもちゃをマロンの顔に近づけた。
おもちゃを見て不思議そうな顔をするマロンに向けて、美琴はぎゅっとボールを握りつぶした。その途端ボールから鳴る音。
マロンはびっくりして後ずさった。
「キャハハハハ! マロンかわいい! かわいすぎる! もう、どうしてこんなにかわいいのよ!」
美琴はおよそお嬢様らしくない大声で笑い出した。
そんな美琴を見ながらマロンは再び美琴に近づいた。
そして再び美琴はボールを握りつぶす。
やはりびっくりして後ずさるマロン。
「キャハハハハ!」
「俺もマロンと遊びたかったのに……」
上条は美琴とマロンのじゃれつき合いを寂しそうに見ていた。
「よっと」
美琴が散々マロンで遊び倒したのを見計らって、上条はケージの中のマロンを担ぎ上げ床に置いた。
「許可を取ったのはそういう遊び方じゃない、こういう遊び方」
「ん? どういう遊び方なの?」
美琴はマロンが怖がらないよう距離を取りながら上条に尋ねた。
「そろそろマロンの怪我の具合も良くなってきてるからな。やっぱりケージの中だけじゃつまんないだろ」
そう言いながらマロンに向かってコロコロとボールを転がした。
マロンはそのボールをビシッと前足ではじき返した。
返されたボールを再度マロンに向かって転がすと、マロンはボールにがばっと飛びついた。ボールからピーピーと音が鳴る。
「うわー! マロンかわいい!」
マロンの様子を見て我慢しきれなくなった美琴は上条を突き飛ばし、マロンに近づいた。
やむを得ず美琴の頭に手を置く上条。
「結局俺はこういう役回りかよ……」
しかし今の美琴に上条の呟きはまったく聞こえていなかった。
美琴が散々マロンで遊び倒したのを見計らって、上条はケージの中のマロンを担ぎ上げ床に置いた。
「許可を取ったのはそういう遊び方じゃない、こういう遊び方」
「ん? どういう遊び方なの?」
美琴はマロンが怖がらないよう距離を取りながら上条に尋ねた。
「そろそろマロンの怪我の具合も良くなってきてるからな。やっぱりケージの中だけじゃつまんないだろ」
そう言いながらマロンに向かってコロコロとボールを転がした。
マロンはそのボールをビシッと前足ではじき返した。
返されたボールを再度マロンに向かって転がすと、マロンはボールにがばっと飛びついた。ボールからピーピーと音が鳴る。
「うわー! マロンかわいい!」
マロンの様子を見て我慢しきれなくなった美琴は上条を突き飛ばし、マロンに近づいた。
やむを得ず美琴の頭に手を置く上条。
「結局俺はこういう役回りかよ……」
しかし今の美琴に上条の呟きはまったく聞こえていなかった。
その後しばらくボールと遊んでいたマロンだったが急に遊ぶのを止めてしまった。
「あれ、どうしたのマロン? 遊ばないの?」
首を傾げた美琴に上条がつまらなさそうに答えた。
「飽きたんじゃないのか? 15分も遊べば十分だろ、今のマロンには。さ、疲れたろ。ゆっくり休みな」
上条はそう言いながらマロンをケージの中に戻した。
やはり上条の言う通り疲れたのだろうか、ケージの中に戻ったマロンは水を飲むと眠ってしまった。
上条は冥土帰しにもらった薬をマロンの患部に塗ると、グルグルと右肩を回した。
「さて、勉強でもしますか」
一方美琴は上条とマロンを交互に見ると、その口からはふわぁと大あくび。
「私、ちょっと寝るね。なんかわからないことがあったら起こして」
言うが早いか美琴は上条のベッドですやすやと眠ってしまった。
「……馬鹿。男の部屋で堂々と寝るな」
上条はベッドの上の美琴にそっと毛布を掛けた。
「あれ、どうしたのマロン? 遊ばないの?」
首を傾げた美琴に上条がつまらなさそうに答えた。
「飽きたんじゃないのか? 15分も遊べば十分だろ、今のマロンには。さ、疲れたろ。ゆっくり休みな」
上条はそう言いながらマロンをケージの中に戻した。
やはり上条の言う通り疲れたのだろうか、ケージの中に戻ったマロンは水を飲むと眠ってしまった。
上条は冥土帰しにもらった薬をマロンの患部に塗ると、グルグルと右肩を回した。
「さて、勉強でもしますか」
一方美琴は上条とマロンを交互に見ると、その口からはふわぁと大あくび。
「私、ちょっと寝るね。なんかわからないことがあったら起こして」
言うが早いか美琴は上条のベッドですやすやと眠ってしまった。
「……馬鹿。男の部屋で堂々と寝るな」
上条はベッドの上の美琴にそっと毛布を掛けた。
「それにしても、本当マロン元気になってきたよな。元気になって、大きくなって……でも、それは……」