とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part11

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海に行こう☆


梅雨も空け、もうすぐ夏休みが始まろうかというある晴れた日の事。

「すっかり夏ですね、とミサカ10032号はこの暑さにうんざりします」

時刻は昼の三時半と一番暑い時間帯は過ぎているのだが、じっとしていても汗を掻くような暑さ。
そんな中、散歩をしていた御坂妹は休憩の為、公園のベンチに座るとミサカネットワークに愚痴を零す。
すると、ミサカネットワークに接続している他の妹達から返信が帰ってくる。

(10032号、そんなに暑いなら冷房の効いたお店にでも行けば良いのでは?とミサカ17550号は冷静にツッコミを入れてみます)
(夏といえば海ですね、とミサカ17203号はイタリアの施設から先日遊びに行った地中海の潮の香りを思い出し感慨にふけってみます)
(…学園都市組みは簡単に外に出られないのでプールしかありませんね、とミサカ19090号は学園都市の鉄壁ぶりに落胆します)
(まあまあ、ミサカ達はこうして記憶を共有しているのでいつでも行った気分になれるではないですか、
 とミサカ15600号は学園都市組みに優越感を覚えつつフォローを入れます)

確かに彼女の言う通り、世界中と繋がっている妹達はそこに行った気分や感覚は味わえるのだが、自分たち自身が実際に行ったわけではない。
その事もあって15600号の心情を読み取り、上から目線で放たれた言葉に少なからずカチンと来た学園都市組み。

(…ミサカはそれでもいいのですが、あの二人はそうはいきません、とミサカ10039号はお義兄様とお姉様の事を思い浮かべながら会話に混ざってみます)
(あの二人なら学園都市内のプールにでも行くのでは?とミサカ17403号は二人の行動を予想します)
(それに、学園都市のプールなら仮想映像や海水の再現も出来る場所があったはずですし、あまり気にする必要もないと思いますが、
 とミサカ19900号は学園都市のハイテク技術に戦慄します)

どうせあの二人は第六学区だか第二十二学区にあるレジャー施設でイチャイチャするんだから気にする必要ないという意見が多数寄せられる。
そのことに対して御坂妹が言葉を返す。

(いくら似せた所で本物ではありません、とミサカ10032号は主張します。
 ミサカとしてはあの二人を海に連れていきたいと考えますが、何か良い案はありませんか?とミサカ10032号は他のミサカに問いかけます)

淡々と会話が進む中、御坂妹の意見を聞いた彼女は二人に何かしてやれないだろうかと考えて妹達に伝える。
しかし、自分も含め、良い案が浮ばない為かミサカネットワークは沈黙する。
っとそこへ怪しげな笑い声と共に会話に混ざってくる者がいた。

(んふふー、なんか面白そうな事やってるね、ミサカも混ざって良い?)

突然ミサカネットワークに接続してきた番外個体はそれまでの流れをおおよそ掴み、会話に混ざる。
だが、妹達は突然混ざられたことに対して不快感を露にしつつ彼女に言葉をかける。

(番外個体…いつも突然割り込んでくるのはやめろとあれほど…、とミサカ19090号は注意を聞かない番外個体に溜め息を付きます)
(そんな事言って良いのかな?ミサカにとっておきの案があるんだけど?)
(ほぅ…、それはどんな案ですか?とミサカ16836号は番外個体の意味深な発言に釣られてみます)
(この学園都市を容易に出る事は出来ない。お姉様に至ってはかなりの手続きが要るみたいだからね)
(それは知っています。だから困っているのではないですか、とミサカ10039号は焦らす番外個体に少々イラつきます)
(だから、それらの手続きをしなくて済むような状況に持っていけばいいだけだと思わない?)
(何が言いたいのですか?とミサカ19090号は問いかけます)
(さっさと案を言いなさい、とミサカ10090号は我慢の限界である事をアピールします)

突然会話に割り込まれた上、焦らす番外個体にイラついている妹達は彼女に集中砲火を浴びせて急かす。
番外個体もその勢いに圧倒されると同時に、鬱陶しい事この上ない状況に溜め息を一つ付く。

(…やれやれ、そんなに急かさなくても言うよ…。ミサカの案は―――)

番外個体の口から学園都市から二人を連れ出す案が妹達に伝えられる。
それを聞いた妹達は少しばかり沈黙すると、それぞれ意見を出す。

(…なるほど、そんな手があったとは、とミサカ11899号は番外個体のとんでもない案に驚愕します)
(正直無茶苦茶ですがそれならミサカ達にも出来そうですね、とミサカ10032号は番外個体の提案にノッてみようと考えます)
(しかし、これがバレたらお姉様は怒るのではないでしょうか?とミサカ10039号は若干不安である事を訴えます)
(今回は前回と違って一般人に被害は出ないので大丈夫ではないのでしょうか?とミサカ19090号は予想します)
(さて、どうする?やる?やらない?)

番外個体が確認を取ってくるが、妹達は即賛成とはいかない。
少数ではあるが、二人に怒られると考えた妹達が反対したからだ。
だが、結局賛成派の妹達が『二人の思い出作りの為に一肌脱ぎましょう』と反対派を説得し、番外個体の案に乗る事となった。

(それじゃ、この作戦には大掛かりな準備も要るし、今週末辺りに決行って事にしておこうか)
*1)))
(あの二人にはミサカが伝えに行きます、とミサカ10032号はこの炎天下の中移動を開始すべく立ち上がります)
(いえ、その役目はミサカに任せてください、とミサカ10039号はイソイソと出かける準備をします)
(10039号、あなたはこの前裏切り行為をしたので今回は大人しくしなさい、とミサカ16836号は強い口調で命令します)

同時にミサカネットワーク内で集中砲火を浴びる10039号。
前回のプリクラの一件から立場が悪くなってしまった彼女は何かにつけて容赦なく攻撃されるようになってしまったようだ。

(…分かりました。ではミサカは大人しく病院で反省することにします、とミサカ10039号は憔悴しきった顔でうな垂れます)

集中砲火を浴びせられた10039号は余程ひどい事を言われたのか、準備をやめて病院内にある部屋の隅で小さくなってしまった。

(では10032号に伝達の役目をお願いしましょう、とミサカ17203号は10039号をボコボコに出来た事に満足しつつお願いをします)
(今回もタイミングの悪いミサカは…、とミサカ19090号は培養液の中なのでお二人のところに行けないという事実にしょんぼりします)
(では、今度の土曜日に予定し、お二人の返事を聞いた後連絡をしますので、
 各地のミサカは学園都市に来る準備をしてください、とミサカ10032号は纏めに入ります)
(金銭面と時間から考えますと集まれるのは100人くらいでしょうか?とミサカ13577号はざっと見積もります)

今日は火曜日。
日本に移動する準備や旅費、宿泊費など、資金面が圧倒的に足りない。
それだけに、実際に計画に参加できる人数はこのくらいが限界だろうと予想する。
その事について、妹達の一部から声が上がる。

(そんなにいらないのでは?とミサカ14000号は突っ込みます)
(備えあれば憂い無しという事で、とミサカ18871号は前回の教訓から多めの配置で安全に行った方が良いと提案します)
(まあ集まれるだけ集まりましょう、とミサカ10032号は移動を開始しながら答えます)
(もういいかな?じゃあミサカは早速準備に取り掛かるよ)
(では、これで作戦会議を終わります、とミサカ19090号は一旦区切りをつけるべく会議の終了を宣言します)

こうしていつの間にか雑談から『二人を海に連れて行く』という作戦会議になった会話は終了する。
そして、各々が準備を始める中、御坂妹はこの暑い中を常盤台女子寮に向かって歩き出す。
だが、この時の妹達はこれから自分達の予想を遥かに超えた事態が起こることをまだ知らない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

~常盤台女子寮近くの路地~

「と、いう訳でミサカ達と一緒に海に行きませんか?とミサカはお姉様に提案します」

番外個体に美琴を呼び出してもらった御坂妹は事情を説明する事無く美琴にそう告げた。

「どういう訳よ…っていうか海?学園都市のアミューズメント施設の事?」

いつもの如く何の説明も無しに放たれた御坂妹の言葉に疲れたような顔をした美琴だが、
海に行くという言葉に反応し、確か第六学区にそんな場所あったようなと思考を巡らせ、質問をする。
すると、御坂妹は首を横に振ると、美琴の質問に答える。

「いいえ、学園都市の外です、とミサカはお姉様の問いに答えます」
「外って…あんた簡単に言うけど、レベル5が簡単に出られるわけないでしょ?」

学園都市の外に出るためには三枚の申請書にサインをし、血中に極小の機械を入れ、保証人を用意するのがルールなのだが、
レベル5である自分がその程度、しかも海に行きたいと言う理由で外に出れるはずが無いと予想し、言葉を返す。すると、

「良い案がありますのでその辺は心配しなくて大丈夫です。今週の土曜日に行きますので予定を空けておいて下さい、とミサカは淡々と会話を進めます」

自信満々と言った表情で親指を立てる御坂妹だが、美琴の表情は優れない。

「いや、あんた達が絡むから心配なのよ…」
「海に行きたくないのですか?お義兄様と夏の思い出を作るには最適だと思いますが、とミサカはちょっと卑怯な言葉で押してみます」
「そりゃあ行きたいに決まってるけど…」
「なら決まりです。ではお姉様はお義兄様を『悩殺』すべく水着を用意しておいて下さい、とミサカはニヤニヤします」
「の、悩殺って…別にそんなの…」

美琴に考える暇を与えないといった感じで強引に話を押し進めていく御坂妹。
そして、トドメと言わんばかりに程よく美琴をからかった事で、彼女の思考を自分達の計画から逸らすことに成功する。
御坂妹の言葉にほんのり頬を染めた美琴はぺたぺたと自分の胸を触る。するとしょんぼりした顔ではぁ…と溜め息を付く。
どうやら中々成長してくれない胸に落胆しているようだ。

「…で、他に誰が行くわけ?」
「お姉様、お義兄様、このミサカ(10032号)、10039号、19090号、番外個体の計6名です、とミサカは参加予定者を説明しました」
「いつものメンバーって事ね。んで、結局どうやって『外』に出るの?」

淡々と参加メンバーを説明した御坂妹に対して美琴は目下一番気になっている疑問を解消すべく外に出る方法の話を再び持ち出す。
すると御坂妹は顔色一つ変えずに言葉を返す。

「それは当日のお楽しみです、とミサカは硬く口を閉ざします」
「…あんた、何かとんでもない事しようとしてるでしょ?」

妹の態度を怪しんだ美琴はある種の予想を立てつつ彼女に詰め寄り、その瞳を覗き込む。
すると、その視線が泳ぎ、額から汗を掻き出した事に気が付いた。

「な、何を根拠にそのような事を?とミサカは流れが悪くなってきた事に焦りを隠し切れません」

何とか逃げようとする御坂妹だが、ジト目で見つめてくる美琴に動揺した彼女は、自分の口調で焦っていることをばらしてしまった。
それを聞いた美琴はやっぱりか、と言った表情で御坂妹を更に追い詰めていく。

「私に言えないような事するつもりなの?事と次第によっては怒るわよ?怒られたくなかったら素直に吐きなさい」
「……」

美琴の言葉に黙り込む御坂妹。同時にミサカネットワーク内で緊急会議を開き、計画について話すか話さないか協議が始まる。
とはいえ、もはや話す以外の道は無い。話さなければ美琴に怒られ、下手をすれば海に行かないと言いかねない。
どうしたものかと考えていると、美琴から声が掛かる。

「ま、立ち話もなんだし、喫茶店にでも行ってゆっくりじっくり話しましょ?お茶くらいなら奢ってあげるからさ」

そう言うと妹の手を掴み、強引に喫茶店へ引っ張っていく美琴。
程無くして喫茶店へ到着した二人。テーブルに座り紅茶を注文すると、美琴は先の件について尋問を始める。

「んで?言う気にはなった?」
「はい、とミサカは観念して話すことにします」
「ん、よろしい」

美琴の追求にもはや逃げ場が無いと判断した妹達は今回の計画について話す事を決定、そして御坂妹がその内容を話し始める。
今回の計画は、外に出るための作戦と、中に入る為の作戦がある。
外に出る時は10名程の少数精鋭部隊による奇襲作戦。
ゲート周辺に潜伏し、合図と共に13577号がゲートの管制室を制圧する。残った妹達は周辺の各監視カメラからゲート突破時の映像を改竄するといった内容だ。
単独で制圧する理由としては、多くの人数で突入した所を管制室で意識を落とした人間が覚えていた場合、中に入る時に警戒が厳しくなる可能性があるからだ。
そして、中に入る時は大部隊による陽動作戦。
妹達が4箇所程のゲートに分かれ、それぞれ状況を見た上でどのゲートが一番手薄かを判断、残りの三箇所を襲撃し、混乱しているうちに侵入するといった内容だ。
また、作戦に参加しない妹達にも役割はある。各地の施設等からネットワークを介して学園都市を監視する衛星カメラなどを一時的にダウンさせる事だ。
学園都市を出ている間は13577号が美琴の代わりに常盤台女子寮で生活し、アリバイ作りをする事になっているという事などを細かく説明していく。

「大体こんな感じです、とミサカは作戦の概要を説明しました」
「…却下。そんな危ない事してまで海に行く必要なんかないわよ。
 あんた達があれこれ考えてくれるのは嬉しいけど、危険な事しないでって何回言ったら分かってくれるの?」

妹から語られた衝撃の内容に呆れ果てた美琴は妹の計画を破棄した上で、わざわざ危険な事をしようとする妹達を嗜める。だが、

「それほど危険という程でもないのですが…それにミサカとしても海には行きたいのです、とミサカは訴えます」
「そりゃ私だって行きたいわよ。でもその方法はダメ。大人しくプールにでも行きましょ?」

その提案を聞いた御坂妹は考え込む。彼女は今、ミサカネットワークで外に出る方法を他の妹達と模索していた。
美琴は危険なことをするなと言った。なら自分達が危険なことをしなければまだ交渉の余地はある…と。

「…ではこういうのはどうでしょう?とミサカは新たな案が思いついてのでお姉様に提案をしてみます」
「今度は何よ?」

新たな案とは先程よりも単純な作戦。ゲートをハッキングで開けた後、周辺を停電させて、その隙に脱出&侵入するといった内容だ。
ただ、先の案とは違い、見張りの人間にゲートを通過する所を見られてしまうという欠点はあるのだが…

(まあ、こっそり狙撃して昏倒させれば良いだけですが、とミサカは心の中で呟きます)

何気に恐ろしいことを考える御坂妹はミサカネットワークで詳細を妹達と決めていく。
美琴の方はというと目を閉じ、腕を組んで悩んでいる。
そして、再び目を開けると御坂妹に話しかける。

「分かった。それなら私がハッキングしてゲートを開けるのと予備電源ごと停電させるのをやるから、あんた達は監視カメラの改竄をお願い出来る?」
「 ! 」

美琴の申し出に驚く御坂妹。危険なことをするなと言った彼女が自分達に協力する姿勢をみせたからだ。
御坂妹の驚いた顔を見た美琴は紅茶を一口飲んだ後、協力することにした理由を話す。

「ま、本音を言うと私も行きたくてしょうがないからね。あんた達が危ない事しないんだったら反対しないし、協力もするわよ」

それに、こうなってしまった妹達は絶対に譲らないことを嫌というほど見てきた。
なら、自分が手助けをして、少しでも安全な策をとった方がいいだろうという考えもある。

「…分かりました、では監視カメラの件はお任せください、とミサカはお姉様のアシストに全力を尽くすことを約束します」

御坂妹としてはハッキングがばれた時のために美琴を計画に関らせたくないのだが、
万が一にでも失敗しないよう自分達がバックアップをしっかりすれば良いだけなので、ここらが妥当な線だと考え彼女の協力を受け入れた。
そして、外に出る話も済んだ所で、美琴が大きく一伸びすると、笑顔で妹に話しかける。

「それにしても海か~なんだかわくわくするわね。あ、時間があれば花火でもしようか?」
「おお、良いですね、とミサカは同意します」
「スイカ割りも外せないわね」
「ふむ、お姉様が叩き割ると食べる所が無くなってしまいそうですね、とミサカは少々不安になります」

叩く瞬間に電撃も打ち込み、スイカがバラバラにはじけ飛ぶ様を想像した御坂妹はそう考えて口に出す。すると、

「んなわけあるか!ったく、どんな力で叩けば食べる所が無くなるってのよ」

何おぅ!といった顔をした美琴の鋭い突っ込みが返ってきた。
しかし、それをいつものように素知らぬ顔で受け流す御坂妹は今回の目的を口にする。

「他には、岩場でお義兄様といちゃいちゃですね、とミサカは唐突にとんでもないことを言ってみます」
「ぶふっ!あ、あんた!突然変なこと言わないでよね!」

会話の流れを完全にぶった切って放たれた言葉に噴出した美琴はその様子を瞬時に想像してしまった為か真っ赤になっている。
その様子をニヤニヤと見つめる御坂妹は更に言葉を続ける。

「おやおや、この程度で真っ赤になってしまうとは、とミサカはいつまで経っても進展しない二人に嘆息します」
「う、うっさいわね!放っといてよ!」

いつもの流れに持っていけた事に満足した御坂妹は『岩場でいちゃいちゃなんて…そんな…』ともにょもにょしている美琴を見て楽しんでいた。
そして、彼女の思考が落ち着いたのを見計らって他に何をするか話し合うことにした。

「昼食はどうしましょう?やはり王道のバーベキューでしょうか?とミサカはネットで得た知識を元に発言してみます」
「ん~それは良いけど、海水浴場とか人が多い場所では出来ないわね。ってそもそも何処の海に行くつもりなの?」
「候補としては静岡県の伊豆、神奈川県内の何処かといった割と近場ですね。
 お姉様としては海水浴場か静かに泳げそうな穴場だとどちらが良いですか?とミサカは問いかけます」

美琴の質問に淡々と答えていく御坂妹だが、一応希望を聞いておくことにする。
とはいえ海水浴場など人の多い所などは色々と危険なので妹達としては人気の無い所と既に決めている。
美琴の方はというと、顎に人差し指を当てて『ん~』と考える素振りを見せる。そして、

「そうねぇ…やっぱり静かに泳げる場所の方がいいかな?」

と返す。一応漏電癖(自覚あり)が治っていない為、万が一何かあったら大変という事から出来れば人のいない所が良いと伝える。
そんな美琴の心理など知らない御坂妹だが、穴場を選択してきたことに内心で胸を撫で下ろす。

「分かりました。ではここぞという穴場を探しておきます、とミサカは全妹達に検索を開始させます。
 それと、車の手配やその他の細々とした物はこちらで準備しますので、お姉様はご自分が必要な物を調達しておいて下さい、とミサカは纏めに入ります」
「…つかあんた等お金の方は大丈夫なの?」

おかしいと思う。以前2000円のホットドッグを買っただけでバイト代の『大半』と言った妹。
そんな彼女達が海に行くのに必要な金銭を持ってるとは到底思えない。
そう思って口にした言葉に妹は顔色一つ変えずに答える。

「海外からの支援が不要になった事と『妹達』のバイト代を結集するのでなんら問題ありません、とミサカは返答します」

確かに学園都市組みだけのバイト代なら無理な計画である。
それにあの裏切り者(10039号)のゴーグルやマシンガン(結局壊れた)の購入費で学園都市組みは悲惨な状態である。
しかも他の妹達が『制裁』という名目で助けようともしない事に怒りを覚えていた御坂妹だが、
今回の件に関しては世界中の妹達が少しづつ出し合う事で合意し、各国で集めた上で学園都市組みに送金といった感じで、
しばらくの間は大金持ち状態なのである。しかし、

「…後で掛かる費用を教えなさい。私が半分くらい出すから。それに準備なら私も手伝うわよ?」

そんな妹の懐事情を全く知らない美琴はそう口に出す。
それに、妹ばかりに負担をかけるわけにはいかないといった思いもある。
だが、そんな彼女の申し出を御坂妹は首を横に振って断る。

「いえ、お姉様のお金はお義兄様との交際費にでもしてください、とミサカは貧乏人のお義兄様に気を遣ってみます。
 それにミサカ達は普段暇なので準備の方も任せていただければ良いです、とミサカは自信を覗かせます」
「もう!何であんた達はそうなのよ!こういうのは皆で計画を立てて実行するってのも一つの楽しみなんだから、
 そうやって何でもかんでも準備されちゃうと寂しいじゃない!」

妹達の献身的な姿勢(美琴視点)に我慢できなくなった美琴は少し声を荒げて本音をぶちまけた。
その言葉を聞いた御坂妹は首を傾げて『そういうものなのだろうか?』といった顔をする。そして、首を元に戻すと美琴の言葉を受け入れる。

「分かりました。では番外個体を通じて密に連絡を取るという事でどうでしょう?とミサカは提案します」
「むー、なんか釈然としないけどそれでいいわ。当麻には後で私から連絡しておくわね」
「お願いします、とミサカは軽く頭を下げます。ところでお姉様、この後時間は空いていますか?とミサカは尋ねてみます」
「ん?空いてるけど、それがどうかしたの?」

突然話が変わった事に目をパチパチさせる美琴。
何か話でもあるのかな?などと考えていると、御坂妹が少しだけ残っていた紅茶を啜り、言葉を発する。

「いえ、こうして二人で会話するのも久しぶりなのでもう少し会話を楽しみたいと思っただけです、とミサカは赤裸々に告白します」

御坂妹の意外な言葉を聞いた美琴は驚いた顔したが、すぐに満面の笑みを見せる。
彼女が自分と話すのが楽しいと、もっと話をしたいと思ってくれている事がとても嬉しかったからだ。

「いいわよ、私も『妹達』が元気でやってるか気になるし、あんたの時間が許す限り付き合うわ」
「そうですか?ならまずはこの『ケーキセット』とやらを注文しましょう、とミサカは写真に心を奪われつつ店員を呼びます」
「ちょっと!まさかそっちが本当の目的だったって事無いわよね!?」

ツッコミを入れた美琴を無視して淡々と注文をする妹の姿に『コイツは…』と内心で毒づく美琴だが、
結局自分も同じものを注文し、姉妹の秘密の会話が始まる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あの後、散々妹にからかわれてしまった美琴は寮に帰り、そのままベッドの上にダイブする。
そして、週末の予定について当麻に連絡を取っていた。

「そういうわけで今週の土曜日にあの子達と海に行く事になったんだけど、当麻は大丈夫?」

御坂妹同様、何の説明も無く放たれた言葉に電話の相手が少しの間沈黙する。
そして、電話の向こうから小さく溜め息が聞こえたかと思うと返事が返ってきた。

『どういうわけかイマイチ分からないんだが、他に予定は無いから別に良いぞ』
「そう?じゃああの子にそう伝えておくわ。とりあえず当麻は水着と着替えだけあれば良いわよ」
『了解。他に何か手伝う事あったらその時に言ってくれ』
「うん、一応言っとくけど、この間新しい水着買ったから楽しみにしててよね」

当麻のテンションを上げるべく発言をした美琴。
先日セブンスミストに友人三人(黒子、佐天、初春)と買い物に行った彼女はその時に水着を買っていた。
というよりは佐天&初春に乗せられてついつい買ってしまったというのが真相である。
黒子だけはヒモのようなものを執拗に勧めた為、真っ黒焦げにされてしまったのだが…
そして、美琴の水着姿を見れると知った当麻はというと、

『マジ!?…いやそれは良いとして、あんまり過激なのはダメだぞ?』

と、一瞬凄まじく跳ねたような声を出すが、何か思い当たることがあったのかトーンを下げ、美琴に軽く釘を刺す。

「え~なんでよ、別に良いじゃない」

思いの他つまらない反応にむくれる美琴。
すると電話の向こうから大な溜め息が聞こえた。

『あのなぁ、他の男に美琴の水着姿を見られるのは嫌なんだよ。だからその辺も考慮してください』

当麻の言葉にピタリと動きを止める美琴。
彼の口からそんな言葉を聞けると思わなかった美琴の顔は少しずつ緩み始める。

「へ~、ふ~ん、分かった。でも大丈夫よ?あの子達と相談して人の少ない所で泳ぐつもりだから」
『そうか?まぁそれなら安心だな』
「当麻は心配しすぎ。私よりスタイル良い人なんか沢山いるんだから私の事なんか注目してないわよ」

ぶっきらぼうに放つ言葉だが、内心では彼の意外な独占欲の強さにニヤニヤが止まらない。
――美琴は俺の物だ。
――俺の美琴をジロジロ見てんじゃねぇ!
――おい、俺の彼女に気安く触ろうとしてんじゃねえ!

などと妄想する美琴の思考は既に大暴走を始め、彼女の顔はもうこの上ないくらい真っ赤になってしまっている。
そして、そこに当麻からトドメの言葉がかけられる。

『そんなこと無いぞ?美琴は十分スタイル良いし、何より可愛いしな』
「……」

美琴撃沈。

『ん?どうした?』
「…えへへ、本当?当麻にそう言われると嬉しいなぁ…」

いや、意識はあったようだ。
彼の言葉が相当嬉しかった美琴は甘えた声で言葉を返す。その表情は緩みきり、携帯電話を持ったままふるふると顔を左右に振っている。
だが、暫くして冷静さを取り戻した彼女は、ふとあることを思い出して、その動きを再び止める。

「そうそう、妹も水着になるみたいだけどあんまりジロジロ見てたら焼くからね?」
『いや、大丈夫ですよ?…多分』
「多分って…まあいいわ。じゃあ詳しい事決まったらまた連絡するわね」
『おう、分かった』
「おやすみ、当麻」
『おやすみ、美琴』

挨拶を済ませると電話を切る美琴。すると今度はある人物に電話をかける。
美琴にとっては若干面倒な人物の為、電話が繋がるとやや不機嫌そうな声になってしまう。

「もしもし、私だけど」
『美琴ちゃん?珍しいわね~美琴ちゃんから電話してくるなんて、ママとっても感激~。で、一体どうしたの?もしかして当麻君と結婚するからって報告!?』

普段連絡を寄越さない娘からの突然の電話に弾んだ声を出し、何気にぶっ飛んだ発言をしたのは御坂美鈴。
御坂美琴の母親である。
既にからかいモード全開の母親の台詞に狼狽した美琴は慌てた声で言葉を返す。

「ばっ、いきなり何言ってんのよこのバカ母!ったく、そうじゃなくてちょっと頼みたい事があんのよ」
『ん~何々?当麻君絡みの事なら何でも聞いてあげるわよ~?可愛い娘の為だしね!』
「違うわよ…、今度の土曜日に友達と海に行くんだけど、宿を取るの手伝って欲しいのよ」

宿を取る事くらいなら簡単なのだが、自分達が学園都市から来たという事は伏せたい。
そうなると、自分達の名前は使えない。妹達が日帰りを計画しているのも恐らくその所為だろう。
そこで、外の人間である母親に宿を取ってもらい、泊まりで遊んでしまおうというのが美琴の計画だ。
しかし、そんな娘の言葉を聞いた美鈴は『むふふ』と怪しげな声を発すると美琴に言葉を返す。

『またまた~そんな事言って当麻君とラブラブ海水浴なんでしょ?いいわ、ママに任せなさい!宿の一つや二つや三つくらいドドーンと用意しちゃうわよん』
「いや、一つで良いから…。それと、まだ何処に泳ぎに行くか決まってないから、決まったらまた連絡するわね。それじゃおやすみ」
『え~もうおしまい?もうちょっとあるでしょ?母娘の会話が。ほら、当麻君との進展の話とかさ~』
「それの何処が母娘の会話よ!アンタがそんなんだから長話したくないのよ!」
『うぁ~酷いわ~美琴ちゃん。遂に美琴ちゃんも反抗期なのかな~。あ、それともママに言えない様な事までやっちゃ』「じゃあね!!」

美鈴の言葉を待たずに電話を切った美琴。大きく溜め息を付くと、やはり頼るんじゃなかったかもと少し後悔する。
だが、母親の協力が無ければ日帰りという体力的にもハードなスケジュールとなってしまう為、協力を取り付けれた事には満足した。
それより、泊まりになるならそれなりの準備は必要になるので、妹達にも情報を回さないといけない。
美琴は再び携帯電話を操作し、今度は番外個体に電話をかける。

「もしも~し番外個体?」
『お姉様?どうしたの?』
「あ~っと、今時間大丈夫?土曜の事で話があるんだけど」
『ミサカなら平気だよ?それに、こっちも場所の事で相談があったし』
「そうなんだ?こっちの話は後でするから、場所の相談を先に聞こうかしら?」
『オッケー。早速だけど、妹達の会議で西伊豆の方に良いところが見つかったみたいだからそこでどうかな?それに、ちょっと行きたい所もあるし』
「そうなの?じゃあ場所はあんた達に一任するわ。それで私の方なんだけど、ウチの母に宿取ってもらう事にしたから泊まれる準備しといてね」
『え!?でも…ミサカはともかく妹達は不味くないかな?まさか4つ子なんて言えないだろうし…』

淡々と会話が進む中、美琴の宿に泊まるという発言に驚く番外個体。
いくら外部の宿とはいえ、クローンであり、美琴と瓜二つの妹達が同じ宿に泊まるという事はリスクが高すぎると思ったからだ。

「そんなの気にしなくていいの、それよかあの子達って常盤台の制服以外で服持ってるの?」
『運動着なんかはあるけど、私服は持ってないね。一応それも後で用意するけど、本当にいいの?ミサカ達なら野宿でいいよ?』
「馬鹿、野宿なんかさせられるわけ無いでしょ?私が良いって言うんだから良いの。それと服の件だけど、もし良かったら一緒に買いに行く?
 流石に学園都市でぞろぞろと行くわけにはいかないから順番って形にはなっちゃうけど…」

出来れば皆で一緒に行動したい。
そんな気持ちが滲み出るかのような美琴の心底残念そうな声を聞いた番外個体は、

『ううん、気にしないで。じゃあ妹達にはそういう風に伝えておくよ。それと、ありがとう』
「ん、こっちこそ色々考えてくれてありがとね。じゃあ明日学校が終わったら連絡するから」

そして『おやすみ』と挨拶を済ませた美琴は通話を切り、携帯電話をベッドの横に置くと横になって天井を見る。

(一緒に行動する事の出来ない姉妹か…)

自分は彼女達の存在を公言して、彼女達と普通に過ごせたらと思う。
だが、現実はそんなに甘いものではない。
下手に彼女達の存在が明るみに出てしまえば、彼女達をあざ笑う者や、貶める者が出てくるだろう。
最悪、自分より力を持たない彼女達が能力の実験台と称して弄ばれたり、危険な目に遭う事だってあり得る。
いや、それ以前に妹達が『迷惑は掛けられない』と自分達の前から姿を消す可能性のほうが高い。
そんな事を考える美琴だったが、

(あ~やめやめ、こんな事一人で考えてたってどうしようもないわ)

思考が暗いほうに向かっていた美琴はその思考を振り払うように立ち上がり、シャワーを浴びる事にする。

(とにかく、今はあの子達が考えてくれたこの計画を楽しむ事を考えよう)

脱衣所で衣服を脱ぎながらそう頭の中で呟いた美琴は、
明日、彼女達にどんな服を着させようか考えるのであった。


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注釈

*1 ((( 了解