とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

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三人の長い一日~仲良し編~


~ゲーセンに向かう途中~

「そういえば以前から聞こうと思っていたのですが、お二人はミサカ達の判別は出来ますか?とミサカは無理難題と思いつつも聞いてみます」

少し前を歩いていた10039号が突然振り返り、二人にそう問いかける。
突然の言葉に目を丸くする二人だが、当麻が先に答える。

「あー、悪いんだけど俺は出来てない…あいつ(10032号)はネックレスつけてるから分かるんだけど…悪いな…」

左手で頭を掻いた当麻は申し訳なさそうに謝る。
何かワンポイントあれば気付くのだが、基本的に同じ顔で、似たような性格の為に誰が誰だか分からないというのが本音だ。
その様子を見た10039号は、慌てて当麻に言葉を返す。

「別に責めているわけではないので暗い顔をしないでください、
 それに、個体単位の判別は困難だと思いますので、とミサカはお義兄様にフォローを入れます」

1万人近くもいたら普通に考えて判別出来ない事など分かっている。
でも、もし判別出来るならそれはとても嬉しいな~などと考えていると、今度は美琴が問いに答える。

「私もはっきりとはつけられないけど、ある程度会話をすればなんとなく分かるわよ」
「…ほう、それは興味深いですね。どのような違いがありますか?とミサカはお姉様に問いかけます」

美琴の回答に驚いた10039号はその理由が知りたいらしく、ソワソワと落ち着かない様子だ。
『そうねぇ…』と少し考えるような仕草を見せた美琴は10039号に違いを話し始める。

「基本的に悪戯好きなのは変わらないけど、10032号って子はどこか落ち着いた雰囲気が漂ってる。
 19090号って子はちょっと恥じらいがある感じかな?…あんたは無類の悪戯好きね…。隙あらばからかってきそうなオーラが見える気がするわ…」
「失礼な!ミサカはお二人の進展の為に努力をしているというのに…、とミサカはショックを隠しきれませんが大体合っているので反論はしません」

ぷんぷんと怒ったような顔をする10039号だが、普段の行いを省みると確かにそうかも。と思い、それ以上は何も言わなかった。
対して美琴は彼女の言葉に肩を落とし、溜め息を一つ付く。

「一応自覚はあるのね…」
「それがこのミサカの個性ですから、とミサカはこの個体を猛アピールします」

疲れた顔をする美琴を尻目に胸を張って自分の存在を強調する10039号。
すると、当麻が横から『へぇ…』と、感心したような声を上げる。

「美琴はこいつらのこと良く見てるんだな、流石は姉って所か?」
「全員把握できればいいんだけど…ごめんね」

1万人全てを覚える事など不可能に近い。それどころか、いつも会う三人ですら怪しい時がある。
自分の妹なのにその全てを把握できないという事実に少し表情を暗くする美琴。

「いえ、その気持ちだけで十分です、とミサカは気にする必要は無いことを伝えます。
 それに、ミサカはお二人に暗い顔をさせるためにこの話題を振った訳ではないのです、とミサカは己の会話の進め方を反省します」

美琴が自分達を個別に判断しようとしてくれている事や、ある程度それが出来ているという事に喜びは隠せない。
だが、当麻に続いて美琴にまで暗い顔をさせてしまった事を反省する10039号はそれを押さえ、本題に入るべく言葉を続ける。

「時にお義兄様、お姉様と妹達の区別はつきますが?とミサカはお義兄様に問いかけます」
「ああ。勿論だ」

10039号の質問に即答する当麻。
その答えを聞いた10039号は更に質問を続ける。

「ならば何を基準に判断しているのですか?とミサカは再度お義兄様に問いかけます」
「そうだな…表情と、雰囲気かな?上手く言葉に出来ないけど、そばにいると安心できるっていうか、落ち着くっていうか…うーん、難しい…」

首を傾げながら問いに答える当麻。こういう感覚的なものは説明しづらいと思っていると、
突然腕を組んで歩いていた美琴が抱きついてきた。

「本当?えへへ…嬉しいなぁ…」

先程の当麻の言葉が嬉しかった美琴は満面の笑みで当麻にしがみ付く。
突然抱き付かれ、驚いている当麻に10039号が話しかける。

「ふむ、それなら安心ですね、とミサカはお義兄様の回答に満足します」
「で?それがどうしたんだ?」
「いえ、お義兄様が見た目や口調以外でちゃんと判断してるか知りたかっただけです、とミサカは質問責めの理由を説明しました」

10039号は、美琴と妹達の違いさえ分かっていればそれで良いという事が言いたかったのだ。
もし、彼が外見(短パン、アクセサリー、ゴーグル等)で判断するようであれば…と考えていたが、ちゃんと分かっているようなので安心する。

「良かったですねお姉様、とミサカはニヤついているお姉様を見てこっちも嬉しくなります」

視線を美琴に移した10039号は彼女の表情を見てやんわりと微笑む。
すると、当麻に抱きついている彼女と目が合う。

「ありがとね、今までそんなの気にしたこと無かったけど、凄く嬉しい!」

笑顔のまま10039号にお礼を言う美琴。
その横で抱きつかれたままの当麻が自らの疑問を口にする。

「にしてもどうしたんだ?いつもならここら辺でからかい始めると思ったんだが…」

いつものパターンが来ない事がかえって不気味に思えてしまった彼は、恐る恐ると言った感じで10039号の方を見る。
すると、10039号が当麻の方を見てこの行動を起した理由を話し始める。

「糖分の取りすぎは体に良くありませんが、たまには大量に補給するのも乙なものなのですよ、とミサカは適当な例えで答えます」
「なんだそりゃ?」
「っ!」

10039号の言葉の意味が分からない当麻に対して、その意味を理解した美琴は真っ赤になり、その顔を隠すように当麻にしがみ付く。
強く抱きつかれ、身動きが取れなくなってしまった当麻は、ドキドキしながらも気を逸らすかのように話題を変える。

「…まあいいか。ところでお前等時間は良いのか?美琴は門限過ぎてるっぽいけど…」

既に時刻は7時半を過ぎ、本来ならもう帰っている時間ではある。
特に美琴の場合は門限を破り過ぎると寮監からキツイお仕置きが待っている筈だ。
そんな当麻の心配を他所に、美琴は深呼吸をして気を落ち着かせると、当麻の質問に答える。

「私はいつもの事だし大丈夫よ。それにこうして三人でいるのは楽しいから、もうちょっと遊びたい所ね」
「ミサカは門限など無いので大丈夫です、とミサカはお義兄様に返答します」
「…お前等は女の子なんだからあんまり夜遊びを常習化させるなよ?」

二人の言葉にはぁ…と溜め息を付いた当麻。何かあったらどうすんだよ…と思いつつも、そんな事しようものなら消し炭か、と結論付ける。
そんなやり取りをしつつ、少しずつ歩みを進める三人だが、10039号がお腹をさする仕草を見せる。

「所でミサカはお腹が空いてしまっていますので何か食べませんか?とミサカは空腹である事を主張しつつ提案をします」
「そうだな~、俺も腹減ってるからゲーセンの前に食べに行くか?」
「私も少しお腹空いてた所だしそうしましょうか」

二人も昼にクレープを食べて以来、何も口にしていなという事を思い出し、10039号の提案を受け入れる。

「んで?何食うんだ?ってもファミレスかファーストフードになりそうだけど…」
「私はどっちでもいいわよ?」
「俺もどっちでもいい」
「…お二人とも優柔不断ですね、とミサカは嘆息します。
 ミサカはハンバーガーが食べたいのでファーストフード店に行きましょう、とミサカは勝手に決めてお店に向かいます」

二人に任せていては時間が掛かりそうだと予想した10039号は即決すると、スタスタと歩いていく。
その後に続く二人だったが、店の前に到着した時、大問題が発生する。

「…ねえ、腕離してもいいかな?」
「命令なので駄目です、とミサカはお姉様の主張を切り捨てます」
「頼む御坂妹、店内はマジで勘弁してくれないか?」
「お二人は恋人同士であることを周囲にアピールすればよいのです、とミサカはお義兄様の主張をスルーします」

二人のお願いを却下して店内に入ろうとする10039号だが、その腕を少し涙目になった美琴が掴む。

「お願い!本当に恥ずかしいから許して!」
「…仕方がありませんね、とミサカはお姉様がトマト並に赤くなってしまったのでこの辺で勘弁することにします。
 さ、中に入りましょう、とミサカは二人を促します」

流石にこれ以上意地悪するのはやめた方が良いと判断した10039号は許しを出す。

(律儀に命令を守る辺りはお姉様らしいですね)

本当に嫌なら、自分の言葉を待たずに離してしまえば良いものを…と考える10039号だったが、それ以上は考えずに店内に足を入れる。
美琴と当麻も10039号に続いて店内に入り、さくっと注文を済まて商品を受け取ると、階段を上る。
そして、四人がけのテーブルに美琴、当麻。向かいに10039号と座る。

「今日はジャンクフードばっかりね…」
「昼はホットドッグだったしな…」

二食続けてのファーストフードにげんなりする二人の向かい側で、10039号が既に食べ始めていた。
彼女は二人に視線を送らずに口を開く。

「ミサカは朝食を食べてから何も食べてませんでしたので何でもいいです、とミサカは待ちに待った食事に歓喜します…もぐもぐ」
「…は?何で食べなかったのよ?」

もぐもぐとハンバーガーを食べながら放たれた衝撃の言葉に目を点にする美琴。
その問いを聞いた10039号は口に含んでいた物を飲み込み、ドリンクを一口飲んで一息つくと、その問いに答える。

「ミサカはお二人を尾行していましたし、集音担当でしたので食べる暇がなかったのです、とミサカは食事を取らなかった理由を説明しました。…もぐ」

答えてすぐにまた一口食べる10039号。
その答えを聞いた二人は揃って呆れたような顔をすると、それぞれ言葉を返す。

「何もそこまでしなくても…」
「ったく、そんな事して倒れたりしたらどうすんのよ?もうちょっと自分を大事にしなさいよね?」
「申し訳ありません、とミサカは素直に謝ることにします。…もぐもぐ」
「はぁ…まあいいわ、あんたには何を言っても無駄っぽいし…」

半分諦めたような顔をした美琴は、その後も黙々と食べる10039号を見ていたのだが、不意に彼女と目が合う。
その視線は自分と当麻を交互に見るようにしている。何だろう?と思いながら当麻の方を見るとその口元にソースが付いている事に気付く。
視線を10039号に戻すとその顔は既にニヤ付いている。『拭き取ってやれ』という事なのだろうか?と思っていると、10039号が声を出す。

「『でも、美味しかったわよ』とミサカは昼間の痴態を唐突に思い出します」
「!!!」

予想外の言葉に美琴の顔は一瞬で真っ赤に染まる。

(って事は何!?舐め取ってやれって事!?いやいや無理だし!恥ずかしくて死んじゃう!……うわぁぁ―――ん!!)

10039号としては拭き取ってやれというつもりで言ったのだが、美琴の思考は既に暴走している。っと言ってもあの言い方なら勘違いして当然だろうが…
美琴は昼間に自分がした事、そしてそれが妹達全員に知られてしまっているという事実を思い出し、空気をバチバチ鳴らし始める。

「おや、もう手遅れのようですね、とミサカは放電を始めてしまったお姉様が限界であることを察知します」
「み、美琴?どうした?」

美琴の異変に気付いた当麻が美琴の肩に右手を置いたその瞬間…

「ふにゃー」

右手が触れていたので漏電は免れたが、美琴は当麻に倒れ掛かるようにして気を失ってしまうのだった。
美琴を抱きとめた当麻は、久々の気絶に戸惑い、

「どうすんだよこの状況…」

とポツリと呟いた。
それを聞いた10039号はやれやれといった表情を浮かべると、

「気が付くまでそのままにしておいて、ミサカ達は世間話でもしましょう、とミサカは提案します」
「う~ん、暫くすれば気が付くだろうしそうするか…」

どうにもならないと判断した二人は気絶した美琴が復活するまで雑談をする事にした。

暫くして、話題が主婦顔負けの激安情報から昼間のメールの件になった。

「そういえばあの時の最後の一文って何だったんだ?」
「ふむ、あれはですね…」

そう言って美琴の方をチラリと一度見た10039号は首を傾げて何かを考えるような仕草を見せると、少しの間を置いて当麻の質問に答え始める。

「普段お義兄様に情報を提供してばかりでしたので、そのお礼としてデートでもしましょうか?
 というお誘いです、とミサカはあの一文について懇切丁寧に説明しました」

淡々と話す10039号。その言葉の中にあった『デート』という単語に当麻は溜め息を付く。

「デートって…悪いが却下だ」
「…では、今度お義兄様の手料理を食べさせてください、とミサカは別の案を提案してみます」
「ん~、それは構わないけど…美琴も一緒でいいよな?」

別案といっても結局二人きりならデートと言ってもおかしくない。
当麻もそれは理解しているようで、きちんと美琴に話を通して、彼女も一緒に食べるのならと考え、10039号に伝えた。
すると、10039号は面白くなさそうな顔を浮かべる。

「中々ガードが固いですね、こんなに可愛らしいミサカが懇願しているというのに、とミサカはお義兄様の鉄壁ぶりにやや呆れます」

やれやれといった表情で当麻を見つめる10039号。
すると、急に当麻が真剣な顔つきになり、真っ直ぐ10039号を見つめる。
その表情を見た10039号も何か重大な言葉が来る。と感じ、その表情を真剣なものに変える。
そして…

「お前等には感謝してるけど、俺は美琴一筋だからな。だから美琴を裏切るような真似は絶対にできない」

当麻の告白にも似た言葉。昔だったらとても悲しくて辛い言葉になっていただろう。
…でも今は違う。その言葉から美琴を一番大切にするという想いを読み取った10039号は真剣な表情を崩さずに言葉を発する。

「その言葉に二言はありませんね?とミサカはお義兄様に確認を取ります」
「当たり前だ」

当麻のその言葉に真剣な表情を崩し、どこか嬉しそうな顔をする10039号。
二人の幸せを願う者として、そして、美琴の事を誰よりも大切に思う自分にとって、とても嬉しい言葉だった。

「そうですか。…本当の事を言いますとあの一文はお義兄様が困っていたようでしたので空気を変える為の策だったのです。
 それと、先程の要求はただの遊びです、とミサカは真相を語ります」
「…は?」

さっきまでの真剣な表情が一気に崩れ、仰っている意味が分かりません。といった表情で10039号を見つめる当麻はとりあえず浮んだ疑問を口にする。

「じゃあなんでさっきはあんな要求を?」
「ミサカが楽しむ為です、とミサカは回答します。
 それに、ミサカ達が本気でお姉様の信頼を裏切るような事をする筈がありません、とミサカは断言します」

当麻の疑問に答え、自分も同じ気持ちであることを伝えると、立ち上がる10039号。

「では区切りも付きましたので、そろそろゲーセンへ行きましょうか、とミサカはお義兄様を促します」
「おいおい、美琴を置いていく気か?」
「おや?お姉様ならとっくに起きていましたよ?…そうですよねお姉様、とミサカは気絶しているフリをしているお姉様に確認を取ります」

ニヤニヤとした顔で美琴の方を見ると真っ赤になった顔で彼女がビクッとなったのが見えた。
そして、気まずそうに目を開いた美琴は、上目遣いに10039号を見る。

「…気付いてたの?」
「はい、お姉様の発する微弱電波が変化しましたので起きたと判断しました、とミサカは判断材料について説明しました」
「嘘!?そんな事で分かるの!?」

10039号の言葉に驚きを隠せない美琴。
レベル5の自分にだってそんなことは出来ない、と思っていると…

「当然嘘です。ミサカにそんなスキルはありません、とミサカはしれっと言ってのけます」
「あ、あんたねぇ…」

10039号の言葉にガックリとうな垂れる美琴。
実は表情の変化から美琴が起きている事に気が付いた10039号は、美琴の反応を見たいが為にデートのお誘いをしていた。
当麻とやり取りしている間、青くなったり赤くなったりしている美琴を見て楽しんでいたのだが、
当麻が真剣になってしまった所為で、10039号も本気で対応せざるをえなくなったというのが真相である。

「んだよ、気が付いたなら早く言えよ。心配したんだぞ?」
「う、うん…ごめん…なんか混ざり辛かったから…」

当麻の言葉に小さくなって謝る美琴。
すると、いつの間にか座り直した10039号が、突っ込みを入れる。

「お義兄様の発言を聞いて顔を真っ赤にしていた人の言葉とは思えませんね、とミサカはお姉様の白々しい言葉に嘆息します」
「な、何よ!?あんたが当麻とデートしたいとか言い出すから悪いんでしょ!?」

素知らぬ顔で淡々と言葉を続ける10039号に美琴がどもりながらも噛み付く。
だが、10039号はそれを気にも留めていないといった様子で言葉を返す。

「まあまあ、そんなに照れてないで早くゲーセンに行きましょう、とミサカは照れているお姉様を促します」
「え?ちょっと待ってよ…、私まだ食べ終わってないんだけど…」

その言葉を聞いて彼女のトレーを見る10039号。すると確かにハンバーガーが一つ、手付かずのまま乗っている事に気が付く。
そして、少しの間を置いて10039号が立ち上がる。

「では少し待っていていただけますか?とミサカはお姉様にお願いをします」

そう言うと10039号は自分と当麻のトレーを片付けて、一階に降りていってしまった。

「どうしたのあの子…?」
「さあ…?」

二人は10039号の行動がさっぱり理解できず、揃って首を傾げる。
とりあえず言われたとおり待つ事にした二人だが、当麻が「そういえば」と美琴に話しかける。

「さっきはどうしたんだ?」

美琴が気絶するのは久しぶりの上、今回の事に関して全く理由が分からない当麻は、何故あんな事になったのか気になるようだ。
当麻の言葉を聞いた美琴は、先程の事を思い出し、顔を少し赤く染めると、

「当麻の口元にソースが付いててね…それでその…あの子に言われて昼間の事思い出しちゃって…」
「あ、ああ…そういう事か。確かにあれは恥ずかしかったな…」

当麻の方も昼間の出来事を思い出し、美琴と同じく顔を染めると視線を少し上に逸らす。

「まさか見られてたなんて…しかも妹達全員に知られてるなんて…」
「まあいいじゃないか、見られたのがあいつ等だっただけマシだと思うが…」
「それは…そうだけど…」
「何だかんだいって今日はあいつ等のお陰で楽しく過ごせてる部分もあるし、良しとしないか?」
「…それもそうね、私としてもそのお陰で当麻から嬉しい言葉も聞けたしね」

それだけではない。思い返してみれば、今日は妹が当麻から色々と引き出してくれていた。
普段から当麻が自分を大切にしてくれている事は分かっているが、言葉にされるとやっぱり嬉しいものだ。
そんな事を考えながら彼を見ると、何故か慌てている。そして、

「!?な、なんか言ったっけ?俺…」

と、何の事か分かっていない様子だった。その反応に美琴は少しだけ残念そうな表情を浮かべると、

「え~?もうさっきの言葉を忘れちゃったの?あの言葉は嘘だったの…?」

と、少し意地悪なことを言った。
すると更に慌てた当麻は、必死に思い出そうと頭を巡らせると、やがて思い至る。

「…あ!あれか!あれなのか!?」
「もう一回言って欲しいな…」

ようやく答えに辿り着いた当麻だが、目の前には上目遣いで懇願してくる美琴。
既に逃げ場が無くなりつつある状況で、何とか回避しようと試みる。

「うぅ…あの時は美琴が気絶してると思ってたし…恥ずかしいです…」
「……」
「うわぁああ!!分かったからそんな顔しないで!い、一回だけだぞ!もう言わないぞ!?」

やっぱり失敗。
無言で見つめてくる彼女の視線に敗北した当麻は観念し、もう一度だけ言う事にする。
すると、待ってました!といわんばかりに表情を明るくした美琴は、

「うん!」

と言うと、今か今かと、当麻の言葉を待つ。
その笑顔を見た当麻は顔を真っ赤にするが、覚悟を決めると言葉を発する。

「俺は美琴一筋だ!だから美琴を裏切るような真似は絶対にしない!」

と、先程の言葉をもう一度、今度は美琴に向けて宣言するかのように言い切る。
そのとても力強い言葉を聞いた美琴は、

「えへへ…」

と、ふにゃふにゃに顔を緩めると、そのまま当麻の腰に抱きついた。

「こ、こらこら!こんな所で抱きつくなって!」
「だって嬉しいんだもん…もうちょっと、もうちょっとだけ…ね?」
「…ったく、ちょっとだけだぞ?」

そう言うと、右手で美琴の頭を撫で始める当麻。
あっという間に幸せ空間を形成した二人は、暫くそのままじゃれ合っていた。

――――

――

(…完全に混ざるタイミングを見失いました、とミサカはお邪魔虫に成り果ててしまったことに衝撃を受けます。
 さて、どうしましょうか?とミサカは途方に暮れますが、もう少しここで待ってみることにします)

10039号は用事を済ませて階段を上がってきたのだが、その途中で美琴が当麻に抱きつき、頭を撫でられている場面に遭遇してしまったのだ。

(それにしても、一体この数分で何が…、とミサカは考えますが、詮索するのは野暮というものなので考えるのは諦めます。
 とはいえ、お姉様の恥ずかしさの基準は未だに分かりませんね、とミサカは首を傾げます)

改めて二人の方を見ると、未だにラブラブな空気を周囲に振り撒いている。

(……)

あの空間に水を差すようなことをしたくない。というか非常に気まずい。
少々残念ではあるが、ここで自分は帰ったほうがいいのだろうか?
などと考えていると、不意にこちらを見た当麻と目が合う。すると彼は慌てて口をパクパクさせながら美琴の肩を何度か軽く叩く。
恐らく自分の存在を教えているのだろうと予想していると、美琴が慌てた様子で当麻から離れ、こちらを見てきた。

(やれやれ、折角の空気をミサカがぶち壊してしまいました、とミサカはやらかしてしまったと反省します)

そして、心の中で申し訳ありません。と呟いた10039号は階段を上り、二人のところまで歩いていくと、両手で持っていたトレーを置き、再び席に着く。
そのトレーにはハンバーガーとドリンクが二つずつ乗っている。

「お、遅かったな。何処行ってたんだ?」
「ミサカはもう少し食べたかったので追加で買ってきました、とミサカは回答します。
 階段を上ってきた時にお二人が抱き合っていましたので混ざりにくかっただけです、とミサカは遅くなってしまった理由を述べます」
「うぅ…また見られた…」 

またしても恥ずかしい所を見られてしまった美琴は真っ赤になって俯く。
それと同時にこの後どんなからかわれ方をされてしまうのか?などと考えていると、10039号が口を開く。

「今のは不可抗力です。それに完全に予想外でしたので、とミサカは言い訳をします。
 それはさておき、早速食べましょう、とミサカはお二人を促します」

とにかくこの微妙に気まずくも恥ずかしい空気を入れ替えようと試みる10039号は、当麻にハンバーガーとドリンクを一つずつ渡す。

「ん?なんだこれ?」

とりあえず受け取った当麻は10039号を見て疑問を口にする。

「三人で食べた方が美味しいだろうと思いましたのでついでに買ってきました、とミサカは精神論を述べつつお義兄様に回答します。
 そのハンバーガーはミサカの奢りですので遠慮なく食べてください、とミサカは上から目線で物を言ってみます」
「いや、自分の分は自分で出すぞ?」

昼間の話を聞く限り、自分よりお金を持っていないと考えた当麻は財布からお金を出そうとするが、
10039号が首を横に振るとやや強い口調で言葉を返す。

「ミサカのハンバーガーが食べられないというのですか?とミサカは酔っ払いのような絡み方をしてみます」

半ば強引に受け取らせようとする10039号だが、本気で絡んでいるわけではなくただ言ってみたかっただけのようだ。
そして、恥ずかしさから二人の会話を黙って聞いていた美琴が10039号の言葉に酔っ払い(母親)を思い出し、クスリと笑う。

「この子がこう言ってるんだし、ありがたく受け取ったら?」
「ん~、そうか?じゃあありがたく頂くことにするかな。ありがとな」
「気を遣わせたみたいでごめんね。でもあんたのその気持ちはとっても嬉しいわ。だからありがと」

まだお腹が空いていると言ったのは嘘ではなさそうだが、ゲーセンに行きたがっていた事や、財政状況からして無理をしているとは思う。
それでも、落ち着いて食べれるように配慮してくれた10039号の行動を嬉しく思う美琴は、笑顔と共に素直な気持ちを口にした。

「おや?お姉様にはバレバレでしたか、とミサカは流石にこの作戦は無理があったと反省します。
 ですが気にする必要など無いです。ミサカはこうして三人で食べれればそれで満足ですので、とミサカは率直な言葉を口にします」

バレているのなら隠す必要も無い。下手に隠そうとすればかえって気を遣わせてしまう。
そう考えた10039号もまた、薄い笑みを浮かべると、素直な言葉を美琴に返す。

「ん?お前等何の話してるんだ?」

笑い合う姉妹の様子を見ていた当麻だけは状況が理解できずにキョトンとした顔をする。
その言葉を聞いた10039号は少し驚いたような顔をする。

「おお、ここに天然記念物級の鈍感男が、とミサカは驚愕を露にします」
「当麻らしいわね。…ハンバーガーが美味しくなる方法を話してただけよ」
「?」

当麻の相変わらずの鈍さと、それを容赦なく切り捨てる妹の突っ込みを聞き、クスクスと笑いながらハンバーガーを手に取ると、ぱくっと一口食べる。

(ん、美味しい…)

美琴は心の中でそう呟く。ハンバーガー自体は時間が経ってしまった所為で少し冷めてしまっていたが、
妹の気遣いと、いつもの慌しくも楽しい会話によって、それはとても温かく、美味しく感じられた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時刻は8時半を過ぎている。
あの後、食事を終え、ゲーセンに向かうべくファーストフード店を後にした三人だったが、
店を出た瞬間に10039号が二人に向かって『さあ、腕を組みなさい』と言い、強引に腕を組ませた。
そして、少し歩いた所でようやくゲーセンに到着し、現在はプリクラを撮るべく機械の前に立っていた。
当麻を真ん中に右に美琴、左に10039号といつもの布陣なのだが…

「ちょっと、いくら狭いからって当麻に引っ付くなっての!」

当麻の右腕に抱きついた10039号に美琴が噛み付く。
いくら狭いといっても抱きつくのは許せないらしい。

「ミサカは初体験ですので少しくらい我侭を聞いてくれても良いではないですか、とミサカは主張します」
「うぅー、そう言われると…ってダメダメ!三人で撮るのは私も初めてなんだから!」

一瞬折れかけた美琴だったが、三人で撮るのは初めてだったと思い出した彼女は10039号を引き剥がしにかかる。
目の前でギャーギャー騒ぐ二人に当麻がまたか…といった表情を浮かべる。

「だー、お前等!狭いんだから暴れるな!御坂妹もちょっとは自重しろって!」
「…仕方が無いですね、ではミサカはここら辺で映っておきます、とミサカは適当に半分だけ顔を入れます」

美琴の抵抗に加え、当麻からも拒絶されてしまった10039号はしょんぼりすると、二人から少し離れて、隅っこに移動する。

「拗ねなくてもいいじゃない、ほら、こっちに来なさい」

その様子を見た美琴が扱いづらいなぁ…と溜め息を付くと、自分と当麻の場所を入れ替えて、10039号の首を抱えるようにしてグイっと引き寄せる。

「折角なんだしさ、そんな風にしてても面白くないでしょ?当麻に引っ付くのは駄目だけど、私がこうしててあげるから…ね?」
「…仕方が無いですね、とミサカはお姉様の譲歩案を渋々了承します」
「んで?フレームはどれにする?」

画面を操作してフレームの選択画面を表示する。
10039号が初めてという事があり、カテゴリごとに一覧を表示し、見せていく。

「私としては水玉なんか良いと思うんだけど?」
「またそんなお子さ…痛い!痛いって!!」

相変わらずのセンスに突っ込む当麻は当然のように足を踏まれる。その横で一覧を眺めていた10039号がハッとする。

「…!これです、とミサカは即決します」

返事を待たずにフレームを決定し、美琴の腕から抜け出す10039号。
そのまま素早い動きで当麻と美琴の位置を入れ替え、当麻の右手を美琴の右肩に乗せる。

「な、何?何なの?」
「お義兄様、狭いのでもうちょっとお姉様とくっ付いて下さい。それと手は離したら駄目です、とミサカは念押しします」
「一体どうしたんだ?それより少し恥ずかしいのですが…」

突然の事態についてこれていない二人を他所に、10039号は中央で姿勢を少し低くする。
一体どうしたのか?と美琴が考えながら画面を見ると、10039号の変化の理由を知る。

(…なるほど、そういう事か)

その画面には自分達を囲うように星が散りばめられていた。
そして、彼女がこのフレームを選び、自分達のポジションを決めたという事は、これが10039号、ひいては妹達にとっての理想の形なのだろうと美琴は気付く。
後は自分達がこの形を受け入れるかどうかだけだが、そんな事は考えるまでも無い。

「当麻、この子がこう言ってるんだからもうちょっとしっかり抱いてよね!」
「うぇ!?急に大胆になられても困るのですが!?」

いつもなら真っ赤になって逃げ出しそうな美琴の反応に戸惑う当麻。

「たまにはいいでしょ?それとも当麻は嫌なの?」
「いや、そんな事は無いが…御坂妹の前では恥ずかしいです…」
「どうでも良いですが撮りますよ、とミサカは覚悟が出来ていないお義兄様を無視して撮影をします」

まだ準備は出来ていないようだが、またもや勝手にボタンを押す10039号。
セルフターマー式なので数秒後には撮影されることになる。

「ほら!三人で撮るのは初めてなんだから覚悟を決めなさい!」
「だー!もう!分かったよ!」

半ばやけくそ気味に美琴をグイっと引き寄せる当麻。
突然引き寄せられた美琴だが、驚く事無く左手を妹の頭の上に置き、右手でVサインを作る。
10039号は画面に映る二人に満足げに口元を吊り上げると、右の親指を立てる。
程無くして機械的なシャッター音が響き渡る。
そして美琴の手によって『とぉま』『みこと』『10039ごー』と可愛らしい文字で名前が落書きされたプリクラを三人で分ける。
そのプリクラには三人の確かな笑顔がしっかりと収められていた。

「さーて、どうしようか?もう何枚か撮る?」
「いえ、ミサカは満足しましたので後はお二人のツーショットタイムで良いですよ、とミサカはさり気無くお二人の時間を作ってみます」

それに、こんなに嬉しい一枚を撮ってしまった以上、今日はこれ以上良い写真は撮れないだろうという思いがある。

(ミサカの宝物がまた一つ増えたのは大変嬉しいのですが…)

嬉しい反面、この後病院に帰ったら集中砲火と奪い合いが待っているという事実に肩を落とす。
…というか既にミサカネットワーク上では『またお前か!』『勝手なことばかりしやがって!』と非難轟々なのだが…
だが、他の妹達が怒るのも無理は無い。10039号の行った事は、あの日の出来事を一人で掻っ攫っていくような行為だったからだ。

(後悔も反省もしません。ですがあなた達の怒りは甘んじて受けます。…プリクラは渡せませんが)

ミサカネットワークでそう言い残した10039号はネットワークを切断する。
きっと今から、自分の処遇を巡って会議が行われるだろうが、そちらは気にしない事にする。
意識を戻すと、何か心配そうに見つめてくる二人の姿が目に入る。

「さっきからずっと黙り込んでたけど、どうしたの?体調でも悪くなったとか?」
「調子悪いなら早く言えよ?」
「…先程のプリクラの件で他の妹達から非難されていただけです、とミサカは素直に固まっていた理由を説明しました」

こういう時は隠すより素直に言った方が良いと今までの経験から判断した10039号はミサカネットワーク内での出来事を断片的に教える。
すると、美琴が呆れたような顔でミサカネットワークに再接続するように言うと、

「写真位ならいつでも撮ってあげるから喧嘩しないの。それとも、初めて撮ったのがあれじゃ不満?」

美琴の言葉にミサカネットワーク内は沈黙する。
不満なはずが無い。10039号と記憶を共有している彼女達にとっても、あのプリクラを撮れた事はとても嬉しい事だ。
それが手元に無いのは悔しいが、お姉様がそう言うのでしたら…と、妹達は引き下がる。
美琴の一言によって命(?)を救われた10039号はほっと胸を撫で下ろす。

「ありがとうございます。お陰でミサカはまだ生きることが出来そうです、とミサカは感謝の言葉を述べます」
「どういたしまして。それじゃあ最後にあれやっていかない?」

美琴が指を差した先には例の射撃ゲームがある。
それを見た瞬間、10039号は先の忌々しい記憶が甦り、そのオーラが黒く変わりかける。
それに気付いた美琴が、彼女の頭に軽くチョップを浴びせる。

「はいはい、今度は勝負じゃないからね?」
「お?じゃああれか?」

10039号をなだめると機械の前に立つ三人。実はこのゲーム、4人まで同時プレイが可能である。
そして、プレイ人数に応じて初期の難易度が変わり、ランキングも別になる。
美琴が銃を取り、準備をしている間に、当麻が10039号に遊び方を細かく教える。

「難易度は…一番難しいので良いわよね?」
「うへぇ、マジかよ…」

ただえさえ難易度の上がった状態でVery Hardを選択した事に反応した当麻だが、その顔はやる気満々といった感じだ。
その横で10039号は教えてもらった事を復習しながら徐々に集中力を高めていく。
そして、ロード画面になり、もう間もなくゲームスタートという所で美琴が二人の方を見る。

「狙うはランキング一位!当麻、妹、準備は良い!?」
「こっちはいつでも良いぞ?…なんか燃えてきたな!」
「ミサカも準備オッケーです、とミサカは銃を構えつつ返答します」

美琴の言葉に答える二人。
その言葉とやる気に満ちた表情を見た美琴はニヤリと笑う。

「よし!じゃあいっちょ私達の力を見せ付けてやるわよ!」
「おう!任せとけ!」
「ミサカがお二人をお守りします!とミサカは鉄の意志をこの野郎(機械)に見せ付けることを宣言します!」

その言葉と共に彼等の共闘がその幕を開け、店内には銃声と、三人の叫び声や笑い声が響く。
三人の長い一日はもうすぐその終わりを迎えることになるが、
今日という何気ない一日を特別な一日に変えてしまうその笑顔はこれからもずっと続いていく―――


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