とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part14-2

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海に行こう☆☆


 酸欠と軽い熱中症と見た二人は急いで19090号を日陰に運び、クーラーボックスから保冷剤を取り出し、タオルを巻いて彼女の体を冷やす。
 すると、その異変に気が付いた三人も本拠地に戻ってきた。

「どうしたの!?」

 慌てた様子で美琴が横になっている19090号に駆け寄るが、搬送中に気を失ってしまった彼女から返事は無い。
 その状態に一層焦りを見せる美琴に、10039号が冷静に状況を説明する。

「ただの酸欠と、直射日光の下で作業を続けた事による軽い熱中症だと思います、とミサカ10039号は簡単に症状を説明します」
「大丈夫なのか?」
「このまま暫らく休ませてれば大丈夫だよ。それより、火を放っておくほうが危ないから10032号はそっち見てて」
「分かりました。ではここはお願いします、とミサカ10032号は大人しく指示に従います」

 番外個体の言う通りだと判断した御坂妹は、心配そうに19090号を見つめると、後ろ髪を引かれながらもその場を後にする。
 そして残った中で美琴が19090号の体を冷やしながら、

「ご、ごめんね…私達がちゃんと見てあげてればこんな事には…」

 申し訳なさそうな顔で応急処置を続ける美琴は、自分達が火を起している間、彼女の方を見ていなかった事を悔やんでいた。
 ほんの少し気を配っていれば回避できた事だと自分を責める。
 そんな彼女の心中を察した番外個体は、震える肩に手を置き、声を掛ける。

「ま、過ぎた事を言っても仕方ないし、自分の体調を管理できなかった19090号が悪いんだから、そんなに気にしなくて良いと思うよ」
「でも…」
「では19090号が復活するまで見てあげていて下さい、とミサカ10039号はぶっ倒れた19090号の替わりに作業を続ける事にします」

 立ち上がり、スタスタと歩いて行った10039号は、ビニールプールを膨らます作業に取り掛かる。
 手早くビニールプールを完成させた彼女はポリタンクの中身をぶちまけると、番外個体に合図を送る。
 すると、番外個体がタオルを持って行き、ビニールプールの中の液体に浸した後、再び戻って19090号の顔を拭き始めた。

「それは?」
「水道水。さっき近くの公園から運んできたんだけど、まさかこんな事に使う事になるとはね。
 あ、折角だしお義兄様が19090号の体拭く?柔らかくて気持ちいいよ?」

 ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながらタオルを渡そうとする番外個体。
 すると、当麻は溜め息混じりに、

「あのなぁ…今はふざけてる場合じゃないだろ?」
「ちぇ、つまんないの。じゃあミサカが思う存分堪能させてもらおうかなー。へっへっへっ」

 手をワキワキさせながら19090号に近づき、スク水を上から脱がし始めた番外個体。
 瞬間、当麻は顔を背け、美琴は慌てて番外個体の行動を阻止する。

「ちょっと!何やってんのよ!?」
「このままじゃ体拭けないからね。それと、お義兄様にちょっとしたサービスをしよっかなーと思って」
「やめなさい!あんたの体じゃないのよ!」
「まあまあ、そんな固いこと言わずに。あ、硬くなるのは違う所か!なーんちゃって☆」
「…アンタ、いい加減にしないと本当に怒るわよ?」

 倒れている19090号の体を使って遊ぼうとする番外個体を睨みつけるように見る美琴。
 その視線にやれやれと肩をすくめた番外個体。
 二人の間に微妙な空気が流れる。っとその時、作業を終えた10039号が戻ってきた。

「番外個体、あなたはまだまだ未熟ですね、とミサカ10039号は空気作りの下手くそな番外個体に嘆息します。つか怒らせてどうすんだよ」
「こーいうのはミサカの守備範囲じゃないから仕方ないじゃん」
「では、ここはミサカが立て直すので、水の追加をお願いします、とミサカは指示を飛ばします」
「了解。じゃ、この場の収拾よろしくー」

 立ち上がった番外個体は10039号の右肩にぽんっと手を乗せた後、ポリタンクを回収してその場を後にする。
 その背中を見送った10039号は19090号のスク水を整え終えた美琴と向き合う。

「お姉様、番外個体の事ですが、あまり怒らないでやってください、とミサカは番外個体のフォローを開始します。
 彼女は場を和ませる為にああいった行動に出たのです、とミサカは番外個体の狙いについて説明します」
「…とてもそうは見えなかったんだけど?大体、あんなので和むわけないでしょ?」
「そもそもそんな場面でもなかったと思うんだが…」
「…お二人がこのミサカ(19090号)を心配してくれるのは嬉しいのですが…」

 一旦言葉を切り、少し考え込む10039号。
 確かに目の前で大事な人が倒れてしまっていれば心配するのは当然だし、そういう場面である事は理解できる。
 だが、自分の望む事は二人の笑顔であって、辛そうな顔ではない。それは同じ妹達である19090号にも当てはまる。
 だからこそ、この場において必要なのは…

「このミサカ(19090号)が目覚めた時『バカだなぁ』と言ってくれるくらいの気軽さでいいのですよ、とミサカは暗に心配しすぎは逆に気を遣うという事を伝えます」
「あんたねぇ、そうは言うけど、熱中症って下手すれば死んじゃう可能性だってあるのよ?そんな気軽な気分でいられる訳ないでしょ?」
「…はぁ、でしたらこのミサカの生体電気を読んで安心感を得てください、とミサカは心配性のお姉様にアドバイスを送ります」 

 10039号の言葉を聞いた美琴は、あっ、と思い出したかのようにぽんっと手を叩く。
 どうやら気が動転して、そこまで頭が回らなかったらしい。
 美琴は19090号の額に手を置くと生体電気の流れから、脳波と心拍数の計測を始める。
 同様に10039号も19090号の手を取り、胸に持っていく。

(…脳波、心拍数共に正常。呼吸も安定。体温…正常…?…これは…まさか…)

 計測を続ける10039号は首を傾げると、何かに気が付いたように当麻の方を見て、その右手を掴む。
 そして、そのままその手を19090号に近付けると、小さな膨らみに押し付けた。
 瞬間、当麻はどわぁ!という叫びと共に、手を引こうとするが、10039号によって阻止される。

「おまっ、離せって!」
「良いではないですか、どうせ柔らかくて気持ち良いーとか思っているのでしょう?とミサカは何気に胸を鷲掴みするお義兄様に驚愕します」
「こ、こらー!何やってんだあんた等はー!!」
「待て美琴!これは不可抗力だ!俺は無実だぁ――!!」
「妹の胸揉みながら言っても説得力ないっつーの!」

 真っ赤になった美琴は19090号の胸から二人の手をどける。
 そして、10039号を睨みつけながら、

「アンタ何やってんのよ!よりにもよってむ、胸を触らせるなんて!!」
「……」
「こら!聞いてんのか!」

 怒る美琴を無視して、なにやら真剣に19090号を見つめる10039号。

(…やはり…この野郎…)

 何かを確信した10039号は、怒り狂う美琴と、右手首を左手で掴み、ぬおぉーと唸っている当麻を見ると、

「…このミサカは寝たふりをしています、とミサカは衝撃の事実を告げます」
「「 は? 」」
「お義兄様がこのミサカの胸を揉んだ後に、心拍数が急上昇したことから確信しました、とミサカは判断材料について説明します。
 おう、いつまで寝たふりして二人に心配かけてんだコラ、とミサカは怒りを露にします」

 乱暴に19090号をひっくり返すと、彼女が慌てて起き上がり、正座をして三人の方を見ると、

「申し訳ありません、とミサカ19090号は誠心誠意の土下座をしつつ謝罪をします」
「無駄に二人を心配させた罪は重いですよ?とミサカは普段の恨みを晴らすべく、ここぞとばかりに叩きます」

 土下座をし、許しを請う19090号の正面で仁王立ちし、見下ろす10039号は、黒いオーラを放ちながら何をさせようか考える。
 そんな彼女とは対象的に、19090号が目覚めた事に安堵し、先程の怒りが嘘の様に萎んだ美琴と、
 少し申し訳なさそうな顔をした当麻は、

「大丈夫?どっか悪いとこない?」
「まだ起きたばっかなんだからあんまり無茶すんなよ?」

 揃って19090号の心配をする。
 そんな二人の優しげな言葉と口調に顔を上げた19090号は、上目遣いに二人を交互に見ると、

「…怒ってないのですか?とミサカ19090号はおずおずと尋ねます」
「怒ってなんかないわよ、あんたが無事ならそれで良いわ。それよりごめんね、気が付いてあげられなくて…」
「ミサカの方こそ起きるのが遅くなって申し訳ありません、とミサカは謝罪の言葉を口にします」
「気にすんな。というかいつから起きてたんだ?」
「番外個体と10039号が交代した辺りなのですが、空気的に混ざるタイミングを逸してしまいました、とミサカ19090号は説明します」
「そんな事はどうだって良いわ。それより、もう少し寝てた方が良いんじゃない?あんたの調子が良くなるまでここに居てあげるから」
「いえ、もう昼食の準備も済んでるようですし、ご飯にしましょう、とミサカ19090号は……!!」

 御坂妹の居る方向を見た19090号は言葉を失う。
 そこからは煙が立ち上り、御坂妹がモゴモゴと口を動かしていたからだ。
 19090号は勢い良く立ち上がり、御坂妹を指差すと、

「あの野郎!食ってやがる、とミサカ19090号は抜け駆けをした10032号の事を非難しつつ状況を伝えます!」

 その言葉に振り向いた三人は、

「うわ、本当に食べてるし!こっちがこんな状況だってのに!何でこの子達はこうも自分勝手な奴等ばっかなのよ!!」
「…(お姉様のクローンですから、とミサカ10039号は小声で突っ込んでみます)」
「あ?何か言ったか馬鹿妹!?」

 ぎろり、と何かを言った10039号を睨みつける美琴。
 10039号は恐怖を感じ『ひっ』っと小さな悲鳴を漏らした後、当麻の後ろにササッと隠れると、

「何でもありません、とミサカ10039号はあまりの迫力に圧倒されビクビクします」
「だーかーらー!!当麻に引っ付くなっつーの!」
「ま、まあまあ、そんなに怒るなって。それより俺達も行くか?」
「そうしましょう、とミサカ19090号は、お肉の香ばしい香りに誘われつつお義兄様の意見に同意します」
「…あんた、もう体は良いの?」

 怒った表情から一転、心配そうな表情をした美琴に『完全復活です』と答えた19090号。
 その返事に安堵の表情を浮かべた美琴は、未だに当麻の影からチラチラ覗いている10039号を乱暴に引き剥がすと、心底疲れたような顔で、

「ったく、あんた達と居るとストレスが溜まって仕方ないわ…」
「気にしすぎると禿げますよ?とミサカ10039号は怒りんぼうのお姉様を気遣います」
「…一体誰の所為だと思って…」
「10039号、その辺にしておきなさい、とミサカ19090号は調子に乗る10039号を嗜めます。時にお義兄様…」

 そこまで言うと、19090号は当麻の後ろに回りこみ、その背中を美琴の方向に向かって力いっぱい押す。
 すると、当麻が『うわぁ!』という声を上げながら美琴に向かって行き、そのまま覆いかぶさるように彼女とぶつかる。
 更に美琴の背後に素早く回りこんだ10039号が当麻の両手を掴むと、美琴を抱きしめるように手を回す。
 突如当麻に抱きしめられる形になってしまった美琴は驚いた顔で、

「な、ななな!?何すんのよあんた達は!?」
「お姉様の機嫌を直すにはこれが一番と思いましたので、とミサカ19090号は行動を起こした理由を説明しつつ、ミサカネットワーク無しでの10039号との見事な連携に満足します」
「この程度なら当然です、とミサカ10039号は返答します。
 お義兄様、お姉様の怒りを鎮める為、しっかり抱きしめてあげてください、とミサカ10039号はお義兄様を促します」
「な、何言ってんのよあんた達…。と、当麻も、この子達の前なんだからそんなに強く抱きしめないでよ…」
「…悪ぃ、ちょっと押さえられないかもしんねぇ…」

 ここに来てから数々の誘惑を耐えてきた当麻だが、先程の19090号との一件もあり、遂にその理性にヒビが入る。
 彼は離れようとする美琴を強引に引き寄せると、抱きしめる手を強くする。

「…あっ、ちょっと…、本当にダメだって…」

 とは言うものの、美琴の両手はしっかりと彼を抱きしめ、トロンとした瞳で彼を見つめている。

(どうしよう、離れなきゃいけないのに…でも…)

 素直に嬉しいと思う。
 普段は彼から抱きしめてくる事など殆どないだけに、こうして求めてくれる事が嬉くてたまらない。
 でも、それでも、妹達の前である今は、それに浸り続けるわけにはいかない。
 そう考える美琴は、まだ抱きしめられていたいという欲求を押さえつけ、ほんのり赤くなった顔で、当麻を上目遣いに見つめると、

「ねぇ…、この子達の前だからそろそろ離れない?わ、私はこのままでも良いんだけど、こ、この子達が…」

 ちらちらと視線を二人の妹達に向ける美琴。
 そんな彼女の態度と言葉に、二人の妹達は揃って口を半開きにし、呆れたような顔をすると、

「ミサカ達の所為ですか、とミサカ10039号はお姉様の態度に心底呆れます」
「先程ドンと来いと言ったばかりだというのに、とミサカ19090号は嘆息します」
「だ、だって、だってぇ~~!」
「美琴っ!!」

 美琴の必死の抵抗ですら可愛いと感じてしまった当麻は、腕の中でじたばたと暴れ始めた美琴をがっちりと抱きしめる。
 彼は既に妹達に見られているという事を忘れ、目の前で可愛らしい仕草を見せる彼女しか見えていないようだ。

「ちょ…っと…当麻…、落ち着いて…よ…。そんなにしたら…」

 美琴ももう限界だ。
 妹達の前だから、恥ずかしい、といった彼女を抑制する理性を、このまま抱きしめられていたいという欲求が覆い尽くしていく。
 それでも最後の理性を振り絞るように妹達の方を見ると、 

「お願い…、もう許してぇ…」

 美琴は涙目になりながら妹達の二人に懇願する。
 すると、やりすぎたと判断した妹達の二人は慌てて二人に近づくと、当麻にピリッとする程度の電気を流す。
 そして、二人を引き離した妹達と、正気(?)を取り戻した当麻は、

「「お姉様、お義兄様、申し訳ありませんでした、とミサカ10039号(19090号)は調子に乗りすぎたことを謝罪します」」
「…すまん美琴。…俺、どうにかしてたみたいだ」

 深々と頭を下げて公開羞恥プレイについて謝罪するのだが、美琴の方は俯いてしまっている。

「…お姉様?とミサカ19090号は怒ってしまったのかと予想しつつ返事のないお姉様に問いかけます」
「どうしたのでしょうか?とミサカ10039号は内心ハラハラしつつも小首を傾げます」
「美琴?」

 相変わらず反応の無い彼女にどんどん不安になる妹達は、

「ま、まさかミサカがやりすぎた事でミサカの事を嫌いになってしまったのでは!?とミサカ10039号は一番あってほしくない事を考えて凍りつきます!」
「そんな!お姉様に限ってそんな事ある筈がありません!とミサカ19090号は力いっぱい否定しますが可能性がゼロでないだけに焦りを隠し切れません!」
「お姉様に見捨てられてしまったら、ミサカ達は……」

 ――居場所を失い、孤独になってしまう。
 そう言おうとした10039号だが、19090号が被せるように言葉を発する。 

「10039号!ネガティブな思考は良くありません!それに、ミサカ達は決めたではないですか!とミサカ19090号は大混乱しつつも10039号を励まします」
「それでも嫌なものは嫌なのです!とミサカ10039号は本音をぶちまけます」
「ミサカだって嫌に決まってます!ですが、お姉様がそうあるというのならそれを受け入れるのがミサカ達の務めです!とミサカ19090号は妹達のあり方を再認識します!」
「…っ、それは…」

 言葉に詰まった10039号が、下を向き、何かを考え始めようかというその時、二人のやり取りをキョトンとした表情で見ていた当麻が、

「…もしもーし。なんでそんな重い話になってんだ?そんな事ある訳ないだろ?なぁ美琴?」

 その呼びかけにも答えなかった美琴は、無言で二人の妹達に向かって歩いていく。
 そして、顔を強張らせながら言葉を待つ二人の妹達の肩にふわりと腕を回し、抱え込むように抱きしめると、

「…ごめん、さっきの仕返しでもしようと思って黙ってただけなんだけど、まさかこんな深刻な話になるなんて思ってなくて…」

 美琴は彼女達のこんな表情を見たかったわけではなかった。
 ただ、いつもやられてばかりだったので、少し困らせてやろうと考えてやったことだった。
 それが結果として、二人の不安を煽り、辛そうな顔をさせてしまったという事を激しく後悔した彼女は、二人の頭を撫でながら、

「でも安心して。私があんた達を嫌いになるなんて事、絶対にあり得ないから」

 優しい口調で安心感を与えるようにそう告げると、二人の妹達は少し戸惑ったような反応を見せつつ、

「…ミサカが我侭言ってもですか?お姉様とお義兄様を強引にくっ付けようとしてもですか?とミサカ19090号はお姉様に問いかけます」
「そんなのいつもの事でしょ?」
「では、ミサカがお義兄様とくっ付いたり、お姉様の嫉妬を買うような事をしてもですか?とミサカ10039号は更に問いかけます」
「……まぁ、あんまり良くないけど、それで嫌いになったりなんかしないわよ。あんた達が本気で当麻を狙ってない事は分かってるつもりだから。
 だから、あんた達はこれからも、あんた達のままで居てくれればいいのよ」
「お姉様…」
「でも、悪戯は程々にしなさいよ?あんまりタチの悪いことしたらその時は怒るからね?」
「肝に銘じておきます、とミサカ10039号は嫌われていなかったことに安堵しつつ返答します」

 心底安心したような表情を浮かべた二人を見た美琴は、よし!と言いながら二人の肩を軽く叩くと、

「じゃ、気を取り直してご飯にしましょ!早くしないとあのバカに全部食べられちゃうわよ!…って!?いつの間にか番外個体も帰ってきてるし!」
「おお!?本当です、とミサカ19090号は自身の電磁波レーダーの使えなさに愕然とします」
「…あいつも食ってやがる、とミサカ10039号は呑気に手を振る番外個体にイラッとします」

 美琴の気持ちに触れた二人は、いつもの調子を取り戻し、こめかみをヒクヒクさせながら勝手に食事を取っている二人の下に歩みを進める。
 ニコニコと笑顔でその様子を見ている美琴は、

「うん、やっぱりあの子達はこうでないと」

 と、独り言のように呟くと、彼女達に付いていこうと歩みを進めようとするが、隣に当麻の気配がないことに気付き、振り返る。

「当麻?そんな所でぼーっとしてないで早く行くわよ?」

 近づいていく美琴。
 すると、当麻は頭をガジガジと掻きながら、

「やれやれ、相変わらず仲良いなお前等」

 割り込む隙さえ無いくらいの暖かな空間を肌で感じ取っていた当麻はそう口にする。
 美琴は彼の意外な言葉に目をぱちぱちさせていたが、やがて何か思いついたかのように小悪魔的な笑みを浮べると、

「な~に?もしかして、羨ましいの?」
「ん~…、少し…」
「ま、あの子達と私は姉妹だからね。切っても切れない絆があるし、私自身、あの子達のこと好きだしね。うかうかしてるとあの子達に私を取られちゃうわよ?」

 当然、冗談で言ってることではあるのだが、美琴からしてみれば、妹に嫉妬する当麻が可愛くて仕方ない。 
 ニヤニヤする彼女とは対照的に、苦笑いを浮かべた当麻は、

「それは無い…と思いたいけど、お前等見てるとありそうだから怖いな…」
「…もし本当にそうなったら当麻はどうする?」

 当麻の困り顔を覗き込むように見ながらそう問いかける美琴。
 すると、当麻は顔を逸らしながら、

「…相手があいつ等でもそれは考えたくねーな」
「ふーん。じゃあ、万が一にでも私があの子達に取られないようにするにはどうしたら良いと思う?」

 人差し指を顎に当て、小首を傾げながら当麻に問いかける。
 すると、当麻は美琴に近づき、その両肩に手を置く。
 美琴は待ってましたと言わんばかりに少し顎を上げ、目を瞑る。

「美琴…」
「当麻…」

 お互いの名前を呼びながら、軽く触れる程度の口付けをする。
 顔が離れると、美琴は『えへへ』と声を漏らし、満面の笑みで当麻の右腕にしがみ付き、その腕を引っ張るように歩き出す。
 …が、そこで気付く。
 四人の妹達がそれぞれ異なる反応を見せながら二人を見ていた事に。

「あー…、あはは…、そういえばすっかり忘れてたわ…」
「あ、ああ…俺も…」

 笑顔を引きつらせた二人。
 普段なら絶対に人前ではキスなどしない当麻と美琴だが、今日は開放的になり過ぎている所為か、どうも周りが見えていない。
 更に、先程の一件で二人の感情が高まり、欲求に対して素直になってしまったのも一因だろう。
 どうやってこの状況を切り抜けようか考える二人だが、決定的瞬間を見られてしまってはどうにもならない。
 観念した二人は、この後自分達に襲い掛かる羞恥プレイを想像しつつ、からかう気満々のオーラを醸し出す妹達の元へ再び歩き出すのだった。


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