小ネタ ロシアに行く爆撃機の中で…
ここはロシアへと向かって飛行中のある任務を遂行するはずであった爆撃機の中。
そして本来なら複数の人間は収容できる能力を有するその航空機の中に、一人で過ごすには少し広いその空間で、悠々自適に佇む少女が一人いた。
学園都市第三位の地位に立つ少女、御坂美琴である。
「全く、一体全体どうしてアイツが狙われてなんかいるのよ」
アイツとは、無論ツンツン頭がトレードマークの不幸な高校生、上条当麻のことである。
そもそも今彼女はある事情があり、ロシアに向かっている。
その事情というのが、アイツこと上条当麻が今第三次世界大戦が勃発しているロシアの戦場の真っ只中にいるということ。
さらに加えて、その上条の状況に応じて、もし学園都市が不利益を被るような状況になれば、学園都市からも彼は狙われていた、ということが大きく関わっている。
狙われているとは言っても、あくまで命は取り留めるというような趣旨のことが見つけた資料には書かれていたが、あの資料に書かれていた『第二位と同様の処置』の程度を美琴は知らない。
なので放置しておいて安心でない作戦であることはわかっていた。
「まぁ、どうしてかとか、今はもうそんなのどうだっていい。とにかく今は、早くアイツに会いたい……じゃなくて、早く会わないと!」
美琴にとって、前者の方はまだいいのだ。
今までにも上条が学園都市の外に勝手に出て行ったことが何度もあったようだったからだ。
しかし後者の場合においては少しばかり事情が違ってくる。
学園都市の学生である上条は、本来学園都市によって守られなければならない存在のはずなのに、状況に応じてではあるものの、その学園都市から狙われていた。
これは非常に由々しき事態である。
当初編成されていた部隊こそ既に美琴が壊滅させるのに成功したが、いつまた部隊が再編成されるかわかったものではない。
「とりあえず会って、アイツから事情を聞き出して、問題はそこから」
彼が確実に生きて、かつ安全に帰る為には自分自身が連れ戻しに行くしかない、と美琴は考える。
嘗て美琴は妹達の件、偽海原の件などで彼には多大な借りと恩がある。
しかもそのしばらく後で上条が本当は記憶喪失であったことを知り、その事実を知っているということを彼に暴露した時、美琴は一つのことに気づいてしまった。
その暴露に対して彼は特に何も言わず、彼女の説得に対して自分の心情を語ることで振り切ったのだが、問題はそこではない。
美琴は自分の胸の中に、本来なら揺るぎ得ないはずの自分だけの現実すら粉砕するほどの、莫大で圧倒的な感情が眠っていたということに気づいてしまったのだ。
それが一体なんなのか、あれから時間がそれなりに経過した今でもま美琴はまだはっきりとは把握しきれていない。
だがその彼女にも一つだけわかること、はっきりしていることはある。
それは、
「こんな、こんなところでアイツを失うわけにはいかない、失っちゃいけない!」
借りがあるからとか、恩があるからなどというのは、上っ面だけの理由であって本当の理由ではない。
美琴の本心は上条をとにかく守りたい、ただそれだけだった。
美琴にはまだまだやりたいこと、解決したいことが山ほどあった。
それは将来のこと然り、自分のこと然り、自分の中に眠る莫大な感情然り。
しかしそれらは全部、上条当麻というピースが存在しなければそもそも成り立たないのだ。
ピースが一つでも欠ければ、そのパズルを解くことはできない。
上条当麻という人間がその時に存在しなければ、やりたくてもできない。
それはもっと上条と一緒にいることで、もっと上条と話をすることで解決ができると、美琴は漠然とながらも考える。
しかも、たとえそれを抜きにしたとしても美琴は心のどこかでもっと彼と一緒にいたいと願っている。
だから美琴は行く。
向かう先が戦場だろうがなんだろうが、そんなものは初めから関係ない。
上条がそこにいて、そこにいることで彼の身に危険が及ぶ。
理由はそれだけでもう十分であり、それ以外のことなど些細なことでしかない。
上条のこと、今後のことで頭の中を満たし、美琴は今、上条の元へ。