嫌い!好き!
上条当麻とデートをした翌日の土曜日。彼女、御坂美琴はせっかくの休みだというのに、誰もいない部屋で朝からずっと机に突っ伏したまま頭を抱えていた。
「あーもう、何やってんのよ私は! あんな……あんなことを!」
頭を抱えながら呪詛のように恨み言を呟くその様は、一見、昨日の自らの行動をただひたすら後悔しているように見える。
「あーもう、何やってんのよ私は! あんな……あんなことを!」
頭を抱えながら呪詛のように恨み言を呟くその様は、一見、昨日の自らの行動をただひたすら後悔しているように見える。
実際、美琴は自らが取った昨日までの行動を後悔していた。
大した理由もないのに上条の姿を求め続け、会えないからといって落ち込み、しかも上条の姿を目撃したら目撃したで勝手な誤解をしてさらに落ち込んだ。
また、ようやく会えたと思ったら感情が上手く制御できず泣き出すわと、どう贔屓目に見ても昨日までの美琴は散々な行動を取り続けていた。
けれど美琴の後悔の一番の理由はこれらのことではない。
後悔の理由、それは。
大した理由もないのに上条の姿を求め続け、会えないからといって落ち込み、しかも上条の姿を目撃したら目撃したで勝手な誤解をしてさらに落ち込んだ。
また、ようやく会えたと思ったら感情が上手く制御できず泣き出すわと、どう贔屓目に見ても昨日までの美琴は散々な行動を取り続けていた。
けれど美琴の後悔の一番の理由はこれらのことではない。
後悔の理由、それは。
「それに、それに……」
いったん顔を上げた美琴は、ガンと大きな音を立てて机に額を打ち付けた。
「よりによって、なんてこと言ってるのよ、私は! 何が『ホント』のデートよ! 馬鹿馬鹿馬鹿! 私の大馬鹿!!」
そう、美琴が一番後悔しているのは上条とデートをしたこと、そのことだったのである。
しかも海原除けのためにした偽のデートではなく、正真正銘、本当のデート。
いっしょに洋服を見て回り、公園を歩き、ベンチに座ってアイスを食べ、ゲームセンターで遊び、すっかり日が落ちてから「またね」と笑いあって別れる。それらはどこからどう見ても、付き合いたての初々しい恋人同士のデートであった。
若干涙目になった美琴は携帯を取り出すと、電池カバーを外してその裏を見た。そこには昨日上条といっしょに撮ったプリクラが張ってある。
プリクラを見ながら美琴は小さく舌打ちした。
「何よ、この顔は……」
半ば無理矢理上条といっしょに撮ったツーショット写真ではあったが、そこに写っていた美琴は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。
風紀委員の活動のために朝から出かけている美琴のルームメイト、白井黒子ならばおそらく金に糸目を付けずにその写真を買おうとするだろう、それくらい素敵な笑顔だった。
隣に写っている上条が喜びとも困惑とも区別が付かない、微妙な表情をしていることに若干の問題点はあるものの、デートの記念として申し分ない写真である。
しかし美琴は自らが浮かべたその笑顔が気にくわないのである。
「なんて嬉しそうな顔してるのよ、私。これじゃまるで、まるで……」
ガタッと立ち上がった美琴は天井を見上げ大声で叫んだ。
「アイツとのデートが楽しくてしょうがなかったみたいじゃないの! ……まあ、実際楽しかったんだけど。でも、でも……。あー、もう! どうしたってのよ、私は!」
美琴は荒い息をつきながら椅子に座ると、もう一度プリクラを見つめた。思わずほう、とため息が出る。
「デート、か……。デート、デート……」
呟きながら美琴はチラリと窓を見た。そこには顔を真っ赤にしたまま面白くなさそうな表情を浮かべた自分の顔が見える。
「…………!」
一瞬、その表情が一昨日までの自分とダブったように美琴には思えた。
上条に会えなくて、話がしたくて、辛くて、辛くてしょうがなかった自分と。
「…………!」
そう思った瞬間、美琴はごくりとつばを飲み込んだ。
窓に映った一昨日までの自分が、自分を責めているように見えたのだ。
なぜ後悔することがあるのか、何が気に入らないのか、ひねくれるのもいい加減にしろ、と。
そう自分を責めているように見えたのだ。
実際は今の自分の表情なのだからそんなことはあり得ないはずなのだが、それでも責められているように思えた。
美琴は先程とは違った意味のため息をつきながら、同じく先程とは違った意味で頬を朱く染めた。
「わ、わかったわよ。そうよ、楽しかったわよ……。なんでこんな気持ちになるのかわかんないけど、楽しかったわよ……アイツに会えて、アイツと、デート、できて……。もう、なんなのよ、いったい……。なんで私が、あんな奴と……」
美琴は机の上に顎を乗せると、恨めしそうにプリクラ上の上条をにらみつけた。
「馬鹿……」
美琴はピンとプリクラに写る上条の顔を指ではじいた。
いったん顔を上げた美琴は、ガンと大きな音を立てて机に額を打ち付けた。
「よりによって、なんてこと言ってるのよ、私は! 何が『ホント』のデートよ! 馬鹿馬鹿馬鹿! 私の大馬鹿!!」
そう、美琴が一番後悔しているのは上条とデートをしたこと、そのことだったのである。
しかも海原除けのためにした偽のデートではなく、正真正銘、本当のデート。
いっしょに洋服を見て回り、公園を歩き、ベンチに座ってアイスを食べ、ゲームセンターで遊び、すっかり日が落ちてから「またね」と笑いあって別れる。それらはどこからどう見ても、付き合いたての初々しい恋人同士のデートであった。
若干涙目になった美琴は携帯を取り出すと、電池カバーを外してその裏を見た。そこには昨日上条といっしょに撮ったプリクラが張ってある。
プリクラを見ながら美琴は小さく舌打ちした。
「何よ、この顔は……」
半ば無理矢理上条といっしょに撮ったツーショット写真ではあったが、そこに写っていた美琴は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。
風紀委員の活動のために朝から出かけている美琴のルームメイト、白井黒子ならばおそらく金に糸目を付けずにその写真を買おうとするだろう、それくらい素敵な笑顔だった。
隣に写っている上条が喜びとも困惑とも区別が付かない、微妙な表情をしていることに若干の問題点はあるものの、デートの記念として申し分ない写真である。
しかし美琴は自らが浮かべたその笑顔が気にくわないのである。
「なんて嬉しそうな顔してるのよ、私。これじゃまるで、まるで……」
ガタッと立ち上がった美琴は天井を見上げ大声で叫んだ。
「アイツとのデートが楽しくてしょうがなかったみたいじゃないの! ……まあ、実際楽しかったんだけど。でも、でも……。あー、もう! どうしたってのよ、私は!」
美琴は荒い息をつきながら椅子に座ると、もう一度プリクラを見つめた。思わずほう、とため息が出る。
「デート、か……。デート、デート……」
呟きながら美琴はチラリと窓を見た。そこには顔を真っ赤にしたまま面白くなさそうな表情を浮かべた自分の顔が見える。
「…………!」
一瞬、その表情が一昨日までの自分とダブったように美琴には思えた。
上条に会えなくて、話がしたくて、辛くて、辛くてしょうがなかった自分と。
「…………!」
そう思った瞬間、美琴はごくりとつばを飲み込んだ。
窓に映った一昨日までの自分が、自分を責めているように見えたのだ。
なぜ後悔することがあるのか、何が気に入らないのか、ひねくれるのもいい加減にしろ、と。
そう自分を責めているように見えたのだ。
実際は今の自分の表情なのだからそんなことはあり得ないはずなのだが、それでも責められているように思えた。
美琴は先程とは違った意味のため息をつきながら、同じく先程とは違った意味で頬を朱く染めた。
「わ、わかったわよ。そうよ、楽しかったわよ……。なんでこんな気持ちになるのかわかんないけど、楽しかったわよ……アイツに会えて、アイツと、デート、できて……。もう、なんなのよ、いったい……。なんで私が、あんな奴と……」
美琴は机の上に顎を乗せると、恨めしそうにプリクラ上の上条をにらみつけた。
「馬鹿……」
美琴はピンとプリクラに写る上条の顔を指ではじいた。
「ぉあたぁ! ……っつー、なんで近くにグラウンドもないのにボールが飛んでくるんだよ。いてて」
その頃、自宅近所のスーパーでやっている朝のタイムセールに参加すべく家を出た上条は、どこからともなく飛んできた野球のボールに額を強打されていた。
その頃、自宅近所のスーパーでやっている朝のタイムセールに参加すべく家を出た上条は、どこからともなく飛んできた野球のボールに額を強打されていた。
「あーもう、なんかやたらムカツくわね」
時計が十一時を回った頃、上条とのデートを肯定したい自分と否定したい自分との板挟みに疲れ果てた美琴は、気分転換のために常盤台の学生寮を後にした。
「せっかくの休みにアイツのことばっかりウダウダ考えるなんて私らしくないわよね。よし!」
ウンと伸びをした美琴は、何か美味しい物でも食べて上条のことを頭から消そうと思い、繁華街へ向けて歩き出した。
時計が十一時を回った頃、上条とのデートを肯定したい自分と否定したい自分との板挟みに疲れ果てた美琴は、気分転換のために常盤台の学生寮を後にした。
「せっかくの休みにアイツのことばっかりウダウダ考えるなんて私らしくないわよね。よし!」
ウンと伸びをした美琴は、何か美味しい物でも食べて上条のことを頭から消そうと思い、繁華街へ向けて歩き出した。
「さて、何を食べようかしら……」
繁華街に着いた美琴はきょろきょろと辺りを見回した。
お嬢様である美琴は別に懐具合を気にしたりはしていない。しかしせっかく外食をするのであるならば、美味しい物を食べたいと思ったのだ。
しかもその目的が、ずっと自分の心を不安定にする上条のことを忘れるためとあれば尚更である。是が非でも美味しい物を食べなければならない。
「でもいざ何かを、と言われてもいまいち食べたい物なんて思いつかないわよね」
何を食べるか決まらない美琴は、腕を組んでうーんと唸った。
そのとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「御坂さーん! おーい、御坂さ――ん!」
「ん?」
美琴は声のした方を向いた。
そこには良く見知った顔、美琴の友人である佐天涙子の姿があった。
「佐天さん!」
手を振りながら走り寄ってくる佐天に向かって、美琴も手を振り替えした。
繁華街に着いた美琴はきょろきょろと辺りを見回した。
お嬢様である美琴は別に懐具合を気にしたりはしていない。しかしせっかく外食をするのであるならば、美味しい物を食べたいと思ったのだ。
しかもその目的が、ずっと自分の心を不安定にする上条のことを忘れるためとあれば尚更である。是が非でも美味しい物を食べなければならない。
「でもいざ何かを、と言われてもいまいち食べたい物なんて思いつかないわよね」
何を食べるか決まらない美琴は、腕を組んでうーんと唸った。
そのとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「御坂さーん! おーい、御坂さ――ん!」
「ん?」
美琴は声のした方を向いた。
そこには良く見知った顔、美琴の友人である佐天涙子の姿があった。
「佐天さん!」
手を振りながら走り寄ってくる佐天に向かって、美琴も手を振り替えした。
「こんにちは、御坂さん」
「こんにちは」
笑顔で自分に挨拶をしてきた佐天に向かって、美琴は同じように笑顔を返した。
「あら?」
美琴は佐天を見て、ふと感じた違和感をそのまま言葉にした。
「佐天さん、今日は一人? 初春さんは?」
他意なく呟いた美琴に、佐天はジト目で返事を返した。
「御坂さん、いくらあたしだっていつも初春といっしょなわけないじゃないですか。今日は一人です。後一応言っておきますと、初春は朝から風紀委員の仕事ですよ」
佐天からの思わぬ反撃に美琴は困ったような笑みを浮かべた。
「ご、ごめん佐天さん。そんな変な意味じゃないのよ。ただ、あなた達っていつも二人仲が良いから、つい」
謝る美琴だが佐天の怒りは治まらない。口を尖らせて愚痴り続けた。
「もう、最近はアケミ達まで御坂さんと同じこと言うんですよ。いっしょに遊ぼうって声をかけたら、必ず『初春さんはどうしたの』って返してくるんです。あたしは初春の保護者じゃないっつーの!」
「あ、あはは……」
やたらぷりぷりと怒る佐天に美琴は苦笑を浮かべるしかなかった。
やがてひとしきり愚痴り終えた佐天は何かを思いついたのか、ころっと態度を変えて美琴の顔をのぞき込んだ。
「ところで、御坂さんこそお一人ですか? 白井さんはいっしょじゃないんですか?」
いたずらっぽく自分を見てくる佐天の言葉の真意を読み取った美琴は、軽く佐天をにらみつけた。
「私だって黒子抜きの一人よ。私は黒子の保護者じゃないっての!」
「へえ、そうなんですか……」
「そうよ!」
「……くすっ」
「ふふっ」
顔を見合わせた二人は互いにくすくすと笑い出し、やがて大声で笑い始めた。
しばらく笑った後、美琴は目尻の涙を拭いながら口を開いた。
「確かにあんな言い方されたらちょっとムカってくるわね。さっきは本当ごめんね、佐天さん」
「いいですよ、もう。あたしもちょっと大げさに言ってみただけですし。それよりお一人なのはわかったんですが、御坂さんはこんなところで何を? あたしは一一一のシングルの予約をしに来たんですけど」
「私? 私は、その、ちょっと、何か美味しいものでも食べたいな、と思って、ね……」
美琴は微妙に佐天から視線をそらせる。
「はあ、美味しいもの、ですか。ということは、まだ何を食べるか決めてないんですよね? あたしも今日はお昼外で食べようと思ってたんで、どうせならいっしょに食べませんか?」
佐天の提案を聞いて、美琴は頬に指を当てた。
「そうね……じゃあ、たまには二人でどこかで食べようか」
「はい」
美琴の言葉に佐天は笑顔を返した。
「こんにちは」
笑顔で自分に挨拶をしてきた佐天に向かって、美琴は同じように笑顔を返した。
「あら?」
美琴は佐天を見て、ふと感じた違和感をそのまま言葉にした。
「佐天さん、今日は一人? 初春さんは?」
他意なく呟いた美琴に、佐天はジト目で返事を返した。
「御坂さん、いくらあたしだっていつも初春といっしょなわけないじゃないですか。今日は一人です。後一応言っておきますと、初春は朝から風紀委員の仕事ですよ」
佐天からの思わぬ反撃に美琴は困ったような笑みを浮かべた。
「ご、ごめん佐天さん。そんな変な意味じゃないのよ。ただ、あなた達っていつも二人仲が良いから、つい」
謝る美琴だが佐天の怒りは治まらない。口を尖らせて愚痴り続けた。
「もう、最近はアケミ達まで御坂さんと同じこと言うんですよ。いっしょに遊ぼうって声をかけたら、必ず『初春さんはどうしたの』って返してくるんです。あたしは初春の保護者じゃないっつーの!」
「あ、あはは……」
やたらぷりぷりと怒る佐天に美琴は苦笑を浮かべるしかなかった。
やがてひとしきり愚痴り終えた佐天は何かを思いついたのか、ころっと態度を変えて美琴の顔をのぞき込んだ。
「ところで、御坂さんこそお一人ですか? 白井さんはいっしょじゃないんですか?」
いたずらっぽく自分を見てくる佐天の言葉の真意を読み取った美琴は、軽く佐天をにらみつけた。
「私だって黒子抜きの一人よ。私は黒子の保護者じゃないっての!」
「へえ、そうなんですか……」
「そうよ!」
「……くすっ」
「ふふっ」
顔を見合わせた二人は互いにくすくすと笑い出し、やがて大声で笑い始めた。
しばらく笑った後、美琴は目尻の涙を拭いながら口を開いた。
「確かにあんな言い方されたらちょっとムカってくるわね。さっきは本当ごめんね、佐天さん」
「いいですよ、もう。あたしもちょっと大げさに言ってみただけですし。それよりお一人なのはわかったんですが、御坂さんはこんなところで何を? あたしは一一一のシングルの予約をしに来たんですけど」
「私? 私は、その、ちょっと、何か美味しいものでも食べたいな、と思って、ね……」
美琴は微妙に佐天から視線をそらせる。
「はあ、美味しいもの、ですか。ということは、まだ何を食べるか決めてないんですよね? あたしも今日はお昼外で食べようと思ってたんで、どうせならいっしょに食べませんか?」
佐天の提案を聞いて、美琴は頬に指を当てた。
「そうね……じゃあ、たまには二人でどこかで食べようか」
「はい」
美琴の言葉に佐天は笑顔を返した。
まずは佐天の予約を済ませることにした美琴達は、連れだってCDショップに向かった。
「…………」
その道すがら、美琴はちらと佐天の方に目をやった。
佐天の着ているのは白のワンピース。特に高級そうな服ではないが、佐天の長い黒髪が映えてとてもよく似合っている。それに佐天自身元の素材が悪くないだけに、幅広の麦わら帽などを被り白のハイヒールを履いた日には深窓の令嬢に見えるかもしれない。
そんなことを考えながら美琴はちらちらと佐天の姿を盗み見続けた。
そして時々思い出したかのように自分の着ている制服を見て、小さくため息をつく。
「? どうしたんですか、御坂さん? あたし、どこか変ですか?」
何度も見られていて、さすがになんとなく気まずくなったのか、佐天が美琴に声をかけた。
美琴は慌てて手を振る。
「ううん、そうじゃないの。ただ佐天さんの着ている服、かわいいなと思って」
佐天はきょとんとした表情で自分の服を見て軽くその端をつまんだ。
「そうですか? 大して高くない、ノーブランドの服ですよ。でもかわいいのはそうですね、私も気に入ってます。それにこれ、2wayのロングスカートですからいろんな季節で使えるから重宝しますよね。白いから体型も隠せるしアクセサリーも映えるし……うん、まさにお買い得品って奴です」
佐天は照れくさそうに笑みを浮かべた。
その言葉に対して素直に感心する美琴。
「へー、そうなんだ……」
「はい。お金がない中でいかにかわいく着こなすか、これも女子中学生のおしゃれの醍醐味の一つですよね! ……あ、ご、ごめんなさい。その、別に嫌味とかじゃなくて」
着ている服を誉められて嬉しそうに自慢していた佐天だったが、突然ばつが悪そうに美琴に頭を下げた。佐天の話を聞きながら不意に美琴が見せたやや寂しそうな顔を見て、失言をしたと思ったのだ。
なぜなら休日は自由に服を選べる自分と違い、いかなる時でも常盤台の制服着用を義務づけられている美琴にはそのようなおしゃれの楽しみがないのだから。
「あの、本当にごめんなさい。その、フォローってわけじゃないんですけど、あたしは御坂さんのその格好、すごく羨ましいんですよ。だってお嬢様の証だし、制服自体すごくかわいいし。だから、その……」
そう言ってうつむいてしまった佐天を見て、美琴の方が逆に明るく振る舞いだした。
「えっとその、こっちこそごめんなさい。別にそんなこと気にしてたわけじゃなくてね、私にはどういう服が似合うのかな、とかなんとなく思っただけなのよ。だからいろんな服を着たりできないのが寂しいとか、そんなんじゃないのよ」
「あの、そうなんですか?」
未だ申し訳なさそうにする佐天に、美琴はこくこくと首を縦に振った。
「そうそう、だからね、そんな気を遣わないで。大体私、常盤台に入ってから服のことなんか大して気にしたこともないんだから、ね」
「そう、ですか……」
「そうよ。さ、早くCDショップに行きましょう」
そう言うや否や、美琴は佐天を置いてCDショップに向かって走っていってしまった。
「ち、ちょっと御坂さん! 行っちゃった……。でも、今まで気にしたことないって……あれ? じゃあどうして急に自分に似合う服のことなんか気にしだしたんだろう?」
首を傾げ、ぽつりと呟いた佐天の疑問に答える者は誰もいなかった。
「…………」
その道すがら、美琴はちらと佐天の方に目をやった。
佐天の着ているのは白のワンピース。特に高級そうな服ではないが、佐天の長い黒髪が映えてとてもよく似合っている。それに佐天自身元の素材が悪くないだけに、幅広の麦わら帽などを被り白のハイヒールを履いた日には深窓の令嬢に見えるかもしれない。
そんなことを考えながら美琴はちらちらと佐天の姿を盗み見続けた。
そして時々思い出したかのように自分の着ている制服を見て、小さくため息をつく。
「? どうしたんですか、御坂さん? あたし、どこか変ですか?」
何度も見られていて、さすがになんとなく気まずくなったのか、佐天が美琴に声をかけた。
美琴は慌てて手を振る。
「ううん、そうじゃないの。ただ佐天さんの着ている服、かわいいなと思って」
佐天はきょとんとした表情で自分の服を見て軽くその端をつまんだ。
「そうですか? 大して高くない、ノーブランドの服ですよ。でもかわいいのはそうですね、私も気に入ってます。それにこれ、2wayのロングスカートですからいろんな季節で使えるから重宝しますよね。白いから体型も隠せるしアクセサリーも映えるし……うん、まさにお買い得品って奴です」
佐天は照れくさそうに笑みを浮かべた。
その言葉に対して素直に感心する美琴。
「へー、そうなんだ……」
「はい。お金がない中でいかにかわいく着こなすか、これも女子中学生のおしゃれの醍醐味の一つですよね! ……あ、ご、ごめんなさい。その、別に嫌味とかじゃなくて」
着ている服を誉められて嬉しそうに自慢していた佐天だったが、突然ばつが悪そうに美琴に頭を下げた。佐天の話を聞きながら不意に美琴が見せたやや寂しそうな顔を見て、失言をしたと思ったのだ。
なぜなら休日は自由に服を選べる自分と違い、いかなる時でも常盤台の制服着用を義務づけられている美琴にはそのようなおしゃれの楽しみがないのだから。
「あの、本当にごめんなさい。その、フォローってわけじゃないんですけど、あたしは御坂さんのその格好、すごく羨ましいんですよ。だってお嬢様の証だし、制服自体すごくかわいいし。だから、その……」
そう言ってうつむいてしまった佐天を見て、美琴の方が逆に明るく振る舞いだした。
「えっとその、こっちこそごめんなさい。別にそんなこと気にしてたわけじゃなくてね、私にはどういう服が似合うのかな、とかなんとなく思っただけなのよ。だからいろんな服を着たりできないのが寂しいとか、そんなんじゃないのよ」
「あの、そうなんですか?」
未だ申し訳なさそうにする佐天に、美琴はこくこくと首を縦に振った。
「そうそう、だからね、そんな気を遣わないで。大体私、常盤台に入ってから服のことなんか大して気にしたこともないんだから、ね」
「そう、ですか……」
「そうよ。さ、早くCDショップに行きましょう」
そう言うや否や、美琴は佐天を置いてCDショップに向かって走っていってしまった。
「ち、ちょっと御坂さん! 行っちゃった……。でも、今まで気にしたことないって……あれ? じゃあどうして急に自分に似合う服のことなんか気にしだしたんだろう?」
首を傾げ、ぽつりと呟いた佐天の疑問に答える者は誰もいなかった。
佐天から離れた美琴は自己嫌悪に陥りながら走り続けていた。
「何やってんのよ、私は! 佐天さんに変な気遣わせて! くっ」
走りながら美琴は胸に手を当てた。
その奥に何とも言えない違和感を感じていたからだ。
それは昨日、上条に会うまで感じていた痛みではない。だが上条に会えた後からずっと胸の中にある気持ちの良いあの感情でもない。
そのどちらでもない新しい感情。美琴の中に芽生えた上条に対する第三の感情。
それが美琴の胸の奥で違和感として生じていたのだ。
「なんでこんな気分になるのよ。ただ、佐天さんの服がかわいいなと思っただけじゃない。私もあんなかわいい服を着てみたいなと思っただけじゃない。そう思って佐天さんの話を聞いていただけなのに……それだけでなんでアイツの顔が浮かんでくるのよ!」
美琴が違和感を感じたのは、佐天の服に刺激されそこから自分に似合う服を想像しようとしたときだった。
お気に入りのかわいい服を着た自分を想像し、その姿を他の誰でもない、上条に見せている自分を想像してしまったのだ。しかし現実には今の美琴の側に上条は居ない。
そう考えた瞬間、痛みでもなく、気持ちよさでもない、寂しくて鼻の奥がツンとなるような、そんな感情が胸の中に生まれた。
だから美琴の表情は佐天から見ると寂しそうなものになり、その感情から来る違和感をごまかすために美琴は走り出したのである。
「何やってんのよ、私は! 佐天さんに変な気遣わせて! くっ」
走りながら美琴は胸に手を当てた。
その奥に何とも言えない違和感を感じていたからだ。
それは昨日、上条に会うまで感じていた痛みではない。だが上条に会えた後からずっと胸の中にある気持ちの良いあの感情でもない。
そのどちらでもない新しい感情。美琴の中に芽生えた上条に対する第三の感情。
それが美琴の胸の奥で違和感として生じていたのだ。
「なんでこんな気分になるのよ。ただ、佐天さんの服がかわいいなと思っただけじゃない。私もあんなかわいい服を着てみたいなと思っただけじゃない。そう思って佐天さんの話を聞いていただけなのに……それだけでなんでアイツの顔が浮かんでくるのよ!」
美琴が違和感を感じたのは、佐天の服に刺激されそこから自分に似合う服を想像しようとしたときだった。
お気に入りのかわいい服を着た自分を想像し、その姿を他の誰でもない、上条に見せている自分を想像してしまったのだ。しかし現実には今の美琴の側に上条は居ない。
そう考えた瞬間、痛みでもなく、気持ちよさでもない、寂しくて鼻の奥がツンとなるような、そんな感情が胸の中に生まれた。
だから美琴の表情は佐天から見ると寂しそうなものになり、その感情から来る違和感をごまかすために美琴は走り出したのである。
CDショップが入っている複合型ショッピングセンターの前に来た美琴は、胸に手を当てたまま荒い息をついていた。
「まったくムカツくわね。なんでこんな……」
「――さん」
「私はアンタみたいな男のこと、気にもしてないってのに……」
「――坂さん」
「勝手に人の妄想に出てくるんじゃないわ――」
「御坂さん!」
「はひっ!」
背後からの大声に美琴はびくりと体を硬くした。そのまま美琴は声のした方にそうっと視線を移動させた。
そこには腰に手を当てた佐天の姿があった。
「まったくムカツくわね。なんでこんな……」
「――さん」
「私はアンタみたいな男のこと、気にもしてないってのに……」
「――坂さん」
「勝手に人の妄想に出てくるんじゃないわ――」
「御坂さん!」
「はひっ!」
背後からの大声に美琴はびくりと体を硬くした。そのまま美琴は声のした方にそうっと視線を移動させた。
そこには腰に手を当てた佐天の姿があった。
佐天は憮然とした表情で美琴をにらみつけた。
「もう、御坂さん。一人で行かないで下さいよ」
「ご、ごめん佐天さん。つい……」
「何が『つい』ですか」
「うう……」
「御坂さん、昨日もそうですけど、あんな風に放置されるのって、結構寂しいんですよ。なのに二日連続で……」
「本当、ごめんなさい」
自分の方に一方的に非があるため美琴は平身低頭で謝り続けた。
何度か美琴が頭を下げたとき、ぽんと美琴の肩に佐天が手を置いた。
「御坂さん、本当に反省してますか?」
「うん、してる」
「昨日、あたしと初春を放置したことも、反省してますか?」
「えっと、そのことも、本当ごめんなさい」
「……わかりました、許してあげます。だから顔を上げて下さい」
「本当?」
美琴はばっと顔を上げた。
だがその視線の先に佐天の表情を捉えた瞬間、美琴は思い切り顔を引きつらせた。
佐天の表情は、いたずらが成功した子供のように無邪気で、それでいて清々しい程の笑顔だったからだ。その笑顔の裏にある意味に気づかない程美琴は鈍感ではない。
「ですが許してあげる代わりに、御坂さんにはあたしの質問に色々と答えてもらいます。いいですね?」
「え……」
美琴は思わず佐天の提案を拒否しようとした。
「あの、佐天さん。それはちょっと勘弁してもらいたいな、と思ったりなんかしたり……」
だが、
「でも御坂さん、昨日は本当に辛かったんですよ。突然御坂さんはあたし達を放り出してどこへともなく消えてしまって、しかも連絡も付かないからあたし達は途方に暮れるしかなく……信じていた友達に裏切られるのって本当に酷いことだと思いませんか、御坂さん?」
笑顔を崩すことなく言い放たれた佐天の言葉によって、美琴の抵抗は虚しく潰えてしまうのだった。
「……わかりました、できる限り答えさせていただきます」
「はい、ありがとうございます。実を言うと、昨日から御坂さんに聞きたいことがあって仕方なかったんですよね」
結局諦めて力なくうなずいた美琴を見て満足げにうなずく佐天。
あまりにも対照的な二人の姿だった。
「もう、御坂さん。一人で行かないで下さいよ」
「ご、ごめん佐天さん。つい……」
「何が『つい』ですか」
「うう……」
「御坂さん、昨日もそうですけど、あんな風に放置されるのって、結構寂しいんですよ。なのに二日連続で……」
「本当、ごめんなさい」
自分の方に一方的に非があるため美琴は平身低頭で謝り続けた。
何度か美琴が頭を下げたとき、ぽんと美琴の肩に佐天が手を置いた。
「御坂さん、本当に反省してますか?」
「うん、してる」
「昨日、あたしと初春を放置したことも、反省してますか?」
「えっと、そのことも、本当ごめんなさい」
「……わかりました、許してあげます。だから顔を上げて下さい」
「本当?」
美琴はばっと顔を上げた。
だがその視線の先に佐天の表情を捉えた瞬間、美琴は思い切り顔を引きつらせた。
佐天の表情は、いたずらが成功した子供のように無邪気で、それでいて清々しい程の笑顔だったからだ。その笑顔の裏にある意味に気づかない程美琴は鈍感ではない。
「ですが許してあげる代わりに、御坂さんにはあたしの質問に色々と答えてもらいます。いいですね?」
「え……」
美琴は思わず佐天の提案を拒否しようとした。
「あの、佐天さん。それはちょっと勘弁してもらいたいな、と思ったりなんかしたり……」
だが、
「でも御坂さん、昨日は本当に辛かったんですよ。突然御坂さんはあたし達を放り出してどこへともなく消えてしまって、しかも連絡も付かないからあたし達は途方に暮れるしかなく……信じていた友達に裏切られるのって本当に酷いことだと思いませんか、御坂さん?」
笑顔を崩すことなく言い放たれた佐天の言葉によって、美琴の抵抗は虚しく潰えてしまうのだった。
「……わかりました、できる限り答えさせていただきます」
「はい、ありがとうございます。実を言うと、昨日から御坂さんに聞きたいことがあって仕方なかったんですよね」
結局諦めて力なくうなずいた美琴を見て満足げにうなずく佐天。
あまりにも対照的な二人の姿だった。
その後一一一のCDを予約した二人はショッピングセンター内にあるお好み焼き屋に来ていた。庶民代表である佐天お勧めの店である。
「どうですか御坂さん、あたしや初春は結構気に入ってるお店なんですよ」
「へえ……」
初めて訪れたお好み焼き屋というものが珍しいのか、美琴は店内をきょろきょろと見回していた。
「どうですか御坂さん、あたしや初春は結構気に入ってるお店なんですよ」
「へえ……」
初めて訪れたお好み焼き屋というものが珍しいのか、美琴は店内をきょろきょろと見回していた。
「あら佐天ちゃん、いらっしゃい」
「おばちゃん、こんにちは。奥の座敷、使わせてもらうね」
店の女将らしい大柄の女性に挨拶をした佐天はつかつかと店の奥に向かっていった。
「御坂さん、こっちこっち」
「う、うん」
佐天に促された美琴は店の奥にある障子で仕切られた座敷部屋に入ると、その部屋の中央にあるテーブルの前に既に座っていた佐天の向かいに正座した。
美琴が座ったのを見た佐天は美琴にメニューを渡した。
「御坂さん、何にします?」
「えっと、それじゃあ……」
「おばちゃん、ミックス二つね!」
「へ? あの、佐天さん?」
「いいからいいから。迷ったときは全部てんこ盛りのミックスに限りますって、ね。御坂さんって、確か苦手な物ないですよね?」
「ええ」
「じゃあ問題ありませんね。大丈夫ですって。ここ、安くて美味しいんですから」
どんどんと話を進めていく佐天。
「は、はあ」
佐天の妙に高いテンションにすっかり呑まれている美琴であった。
「おばちゃん、こんにちは。奥の座敷、使わせてもらうね」
店の女将らしい大柄の女性に挨拶をした佐天はつかつかと店の奥に向かっていった。
「御坂さん、こっちこっち」
「う、うん」
佐天に促された美琴は店の奥にある障子で仕切られた座敷部屋に入ると、その部屋の中央にあるテーブルの前に既に座っていた佐天の向かいに正座した。
美琴が座ったのを見た佐天は美琴にメニューを渡した。
「御坂さん、何にします?」
「えっと、それじゃあ……」
「おばちゃん、ミックス二つね!」
「へ? あの、佐天さん?」
「いいからいいから。迷ったときは全部てんこ盛りのミックスに限りますって、ね。御坂さんって、確か苦手な物ないですよね?」
「ええ」
「じゃあ問題ありませんね。大丈夫ですって。ここ、安くて美味しいんですから」
どんどんと話を進めていく佐天。
「は、はあ」
佐天の妙に高いテンションにすっかり呑まれている美琴であった。
佐天の注文が通ると、すぐに女将が美琴達が座っている席にやってきた。
女将はテーブルのほとんどを占める鉄板部位に油を塗ると、鮮やかな手つきで二人分のお好み焼きを焼き始めた。
しばらく後に片側が幾分焼けたお好み焼きをひっくり返すと、女将はうんうんと満足げにうなずいた。
「これでよし、じゃあまた後で来るからね」
「ありがとうおばちゃん、いつもいい腕だね」
「誉めたっておまけはしないよ」
佐天のお世辞にからからと明るく笑いながらカウンターに戻っていく女将を見ながら、美琴は佐天にそっとささやいた。
「ねえ佐天さん」
「なんですか?」
「普通こういうお店って、材料をもらって自分達で焼くんじゃないの?」
「えっとそうですね、確かにそういうお店が多いのは事実ですね」
「そうよね」
「でもこのお店はそういうところとは違うんです。この鉄板はあくまでも出来上がったお好み焼きを保温するためだけの物。この店でお好み焼きを焼くのはあのおばちゃんの役目なんです」
佐天はちらりと女将の方へ視線をやった。
カウンターでは女将がお好み焼きを焼きながら、カウンター席に座ったお客の相手をしている。
「お客さんにはできる限り最高に美味しいお好み焼きを食べてもらいたい。だから調理はあくまでも店側の人間、プロがするものだっていうのがおばちゃんの考え方なんです」
「なるほどね」
「まあ、あたしもたまには自分で焼いてみたいなと思ったりもするんですけどね。だから自宅で作ったりもするんです」
「そっか、佐天さんって料理得意だもんね」
「まあそれなりには。でも作ってみていつも思うのは、やっぱりおばちゃんには敵わないなってことですね」
「やはりプロはレベルが違うってことかな?」
「そういうことでしょうね」
そんなことを話しているうちに、お好み焼きから香ばしい匂いが漂ってきた。どうやらもうすぐ出来上がりのようである。
その様子を察したのか、大型のヘラを持った女将が美琴達の席に近づいてくる。
女将はテーブルのほとんどを占める鉄板部位に油を塗ると、鮮やかな手つきで二人分のお好み焼きを焼き始めた。
しばらく後に片側が幾分焼けたお好み焼きをひっくり返すと、女将はうんうんと満足げにうなずいた。
「これでよし、じゃあまた後で来るからね」
「ありがとうおばちゃん、いつもいい腕だね」
「誉めたっておまけはしないよ」
佐天のお世辞にからからと明るく笑いながらカウンターに戻っていく女将を見ながら、美琴は佐天にそっとささやいた。
「ねえ佐天さん」
「なんですか?」
「普通こういうお店って、材料をもらって自分達で焼くんじゃないの?」
「えっとそうですね、確かにそういうお店が多いのは事実ですね」
「そうよね」
「でもこのお店はそういうところとは違うんです。この鉄板はあくまでも出来上がったお好み焼きを保温するためだけの物。この店でお好み焼きを焼くのはあのおばちゃんの役目なんです」
佐天はちらりと女将の方へ視線をやった。
カウンターでは女将がお好み焼きを焼きながら、カウンター席に座ったお客の相手をしている。
「お客さんにはできる限り最高に美味しいお好み焼きを食べてもらいたい。だから調理はあくまでも店側の人間、プロがするものだっていうのがおばちゃんの考え方なんです」
「なるほどね」
「まあ、あたしもたまには自分で焼いてみたいなと思ったりもするんですけどね。だから自宅で作ったりもするんです」
「そっか、佐天さんって料理得意だもんね」
「まあそれなりには。でも作ってみていつも思うのは、やっぱりおばちゃんには敵わないなってことですね」
「やはりプロはレベルが違うってことかな?」
「そういうことでしょうね」
そんなことを話しているうちに、お好み焼きから香ばしい匂いが漂ってきた。どうやらもうすぐ出来上がりのようである。
その様子を察したのか、大型のヘラを持った女将が美琴達の席に近づいてくる。
「さあ、これで出来上がりだ。冷めないうちに食べとくれ」
「うわー、美味しそう!」
「じゃあいただきましょうか、御坂さん」
お好み焼きの出来映えに満足げにうなずく女将の目の前で、美琴達は小さなヘラをその手に持った。
目の前のお好み焼きをヘラで小さく切った美琴は、その欠片の一つをヘラに乗せて口の前に持ってくる。
その欠片に何度か息を吹きかけて冷ますと、ゆっくりと欠片を口の中に入れた。
美琴は口の中に入れたお好み焼きを何度か咀嚼する。噛むごとに口中に広がる小麦粉やキャベツ、かつおぶし、ソースなどの味。
美琴は目を大きく見開いた。
「……美味しい!」
「でしょ!?」
素直な美琴の反応に佐天は笑顔を返した。
「お好み焼きなんて売店で売ってるような物しか食べたことなかったけど、これはもう次元が違うって感じね」
そう言いながら、上に乗っているかつおぶしが未だにゆらゆら揺れているお好み焼きを美琴はどんどん食べていく。
その様子に若干圧倒されながら、佐天も自分の分のお好み焼きを食べ始めた。
「…………」
二人の、特に初めての客である美琴の様子に目を細めた女将は何も言わずにカウンターに戻っていった。
「うわー、美味しそう!」
「じゃあいただきましょうか、御坂さん」
お好み焼きの出来映えに満足げにうなずく女将の目の前で、美琴達は小さなヘラをその手に持った。
目の前のお好み焼きをヘラで小さく切った美琴は、その欠片の一つをヘラに乗せて口の前に持ってくる。
その欠片に何度か息を吹きかけて冷ますと、ゆっくりと欠片を口の中に入れた。
美琴は口の中に入れたお好み焼きを何度か咀嚼する。噛むごとに口中に広がる小麦粉やキャベツ、かつおぶし、ソースなどの味。
美琴は目を大きく見開いた。
「……美味しい!」
「でしょ!?」
素直な美琴の反応に佐天は笑顔を返した。
「お好み焼きなんて売店で売ってるような物しか食べたことなかったけど、これはもう次元が違うって感じね」
そう言いながら、上に乗っているかつおぶしが未だにゆらゆら揺れているお好み焼きを美琴はどんどん食べていく。
その様子に若干圧倒されながら、佐天も自分の分のお好み焼きを食べ始めた。
「…………」
二人の、特に初めての客である美琴の様子に目を細めた女将は何も言わずにカウンターに戻っていった。
「ごちそうさまでした」
「でした」
しばらくしてお好み焼きを食べ終わった美琴達はコップに入った水を飲んで一息ついていた。
「ね、御坂さん。ここのお好み焼き、本当に美味しいでしょ」
「本当、すごく美味しかった。ありがとう佐天さん、こんな美味しいお店紹介してくれて」
「どういたしまして」
笑顔で礼を言う美琴につられて佐天も笑顔を返す。
しかし不意に佐天の唇の端がほんの少し歪んだ。そのまま、ずいと佐天は顔を美琴に近づける。
「と、こ、ろ、で、御坂さん? 約束、覚えてますよね?」
「あ、えと、やっぱり、あ、あれ?」
顔を引きつらせた美琴はできるだけ自然に首を傾げた。
「はい」
その様子に対し、目を閉じ仰々しくうなずく佐天。
そして自分の席に戻ると目を開き、にぱっと本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「それでは、やって来ました質問ターイム!」
その言葉と同時にパチパチパチと拍手をするのは佐天。
「…………」
一方、がっくりと肩を落とすのは美琴。
「でした」
しばらくしてお好み焼きを食べ終わった美琴達はコップに入った水を飲んで一息ついていた。
「ね、御坂さん。ここのお好み焼き、本当に美味しいでしょ」
「本当、すごく美味しかった。ありがとう佐天さん、こんな美味しいお店紹介してくれて」
「どういたしまして」
笑顔で礼を言う美琴につられて佐天も笑顔を返す。
しかし不意に佐天の唇の端がほんの少し歪んだ。そのまま、ずいと佐天は顔を美琴に近づける。
「と、こ、ろ、で、御坂さん? 約束、覚えてますよね?」
「あ、えと、やっぱり、あ、あれ?」
顔を引きつらせた美琴はできるだけ自然に首を傾げた。
「はい」
その様子に対し、目を閉じ仰々しくうなずく佐天。
そして自分の席に戻ると目を開き、にぱっと本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「それでは、やって来ました質問ターイム!」
その言葉と同時にパチパチパチと拍手をするのは佐天。
「…………」
一方、がっくりと肩を落とすのは美琴。
佐天は悪びれた様子もなく言葉を続けた。
「まあまあ御坂さん。お腹もいっぱいになったことですし、じっくりと話ができるじゃないですか、ね」
「……そうね。で、でも長居したりしたら迷惑じゃないの、お店に?」
美琴は上目遣いで佐天に最後の抵抗を試みる。
「大丈夫ですよ。このお店は夜まではあまりお客いないし、他のお客に迷惑にならないようにわざわざ店の奥で仕切りもあるこの個室を陣取ったんですから」
しかしその抵抗は個室のふすまを閉める佐天にあっさりと切って捨てられた。
「というわけで、質問です」
「……はい、どうぞ」
佐天から目をそらせ、やけくそ気味に美琴は返事を返した。
「もう、そんな変なこと聞かないんですから、もっとスマイルで話しましょうよ」
「…………」
美琴は唇をほんの少し尖らせ、佐天をにらみつけた。
「まあまあ御坂さん。お腹もいっぱいになったことですし、じっくりと話ができるじゃないですか、ね」
「……そうね。で、でも長居したりしたら迷惑じゃないの、お店に?」
美琴は上目遣いで佐天に最後の抵抗を試みる。
「大丈夫ですよ。このお店は夜まではあまりお客いないし、他のお客に迷惑にならないようにわざわざ店の奥で仕切りもあるこの個室を陣取ったんですから」
しかしその抵抗は個室のふすまを閉める佐天にあっさりと切って捨てられた。
「というわけで、質問です」
「……はい、どうぞ」
佐天から目をそらせ、やけくそ気味に美琴は返事を返した。
「もう、そんな変なこと聞かないんですから、もっとスマイルで話しましょうよ」
「…………」
美琴は唇をほんの少し尖らせ、佐天をにらみつけた。
佐天は軽く咳払いをすると、再び美琴の方へずいと顔を近づけた。
「それでは御坂さんに質問です。昨日、御坂さんが会っていたあの男性は、いったい誰ですか?」
「き、昨日の男性……?」
「あたし達とオープンカフェを出た後に御坂さんがぶつかった、ツンツン頭のあの男性のことですよ。ちなみにこれはあたしのカンなんですけど、さっき御坂さんが呟いていた『アンタ』って、あの男性のことだと思うんです。どうです? 合ってます?」
「う、うう……」
「ほらほら、素直に答えて下さい、御坂さん」
「あ、アイツは、名前は、上条当麻。高校生、よ」
「それで?」
「それでって、それだけだけど……あ、あれ、どうしたの?」
絞り出すように答えた美琴だったが、佐天はそんな美琴を呆れたような顔で見つめていた。
「……別にそういう一般的なことを聞きたいわけじゃないんですが。まあ、それはそれとして。カミジョウ、トウマ、さんですね」
佐天は取り出したメモ帳に、何やらメモを取り始めた。
「ち、ちょっと佐天さん。なんでメモなんか?」
「え? だって、後で整理しないといけませんから。初春にも報告しないといけないし」
美琴の指摘に佐天はきょとんとながら首を傾げた。
「そんな、整理することなんて。ていうか、初春さんに報告ってどういうこと?」
「いいからいいから。じゃあ次の質問です。そのカミジョウさんと御坂さんはどういう関係なんですか?」
「どういう関係って……」
「だから、ただの知り合いとか、友達とか。まあ、ただの知り合い、というわけではないですよね、昨日の様子からしても。で、どういう関係なんですか?」
メモ帳を手に持ったまま興味津々といった様子で自分の方を見る佐天に対し、若干引き気味になりながら美琴はボソッと呟く。
「……えっと、アイツは、その、らりるらろ、ら、ライバルよ、ライバル。絶対に許せない宿命のライバルよ」
「はい?」
美琴の答えに佐天は目を丸くした。
「だから、ライバルなのよ、ライバル! アイツは私のライバル! 宿敵と呼んでもいいわね!」
「ライバル。友達じゃ、ないんですか?」
佐天の指摘に、美琴は一瞬声を詰まらせた。
「そ、それはその、とも、友達じゃ、ない、わよ。あんな、奴……」
「あんな親しそうだったのに?」
「親しくなんかないわよ」
「そうは見えなかったんですが。だって……」
「だ、だって?」
急に言葉を濁した佐天を美琴はじっと見つめた。
「だって、昨日の御坂さん、すごく元気がありませんでしたよ。それがあのカミジョウさんと会った途端に元気になって、顔を真っ赤にして、とうとう瞳を潤ませながらカミジョウさんを見つめて。そして止めがこれ。デート、ですよね、これ?」
佐天は携帯電話を取り出して、ある写真を美琴に見せた。
その写真を見て美琴は顔を引きつらせた。
「え……な、何これ!」
それは昨日、美琴が上条の手を引っ張って、文具屋に向かっている様子を写した写真だった。
「何って、証拠写真?」
「こ、こんなの撮られてたなんて」
美琴は佐天の携帯を手に取ると、まじまじと見つめた。
そこに写っているのは確かに昨日の自分と上条。上条と「ホント」のデートができるということで、本当に嬉しそうな表情をした自分の姿だった。
その写真を見ているうちに、美琴の心には昨日上条と会ったときと同じような感情が蘇ってきていた。
無意識のうちに綻ぶ美琴の口元。
「…………」
佐天はそんな美琴を見ながらすっと携帯を美琴から取り上げた。
「あ……」
その途端、美琴はお気に入りのおもちゃを取り上げられた子供のような哀しげな表情になる。
佐天は初めて見るそんな美琴の様子に内心驚きながらも、携帯を操作し始めた。
次の瞬間、美琴の携帯がメールの着信を示した。
美琴は慌てて自分の携帯を取り出すと、その画面と佐天の顔を交互に見比べた。
佐天は美琴ににこりと微笑んだ。
「これでよし。後で一人でゆっくり見て下さい」
「……ありがとう、佐天さん」
「どういたしまして」
佐天に礼を言うと、美琴はもう一度携帯の画面を見る。
そこに写っていたのは佐天からメールで送られてきた、先程の美琴と上条の写真であった。
「それでは御坂さんに質問です。昨日、御坂さんが会っていたあの男性は、いったい誰ですか?」
「き、昨日の男性……?」
「あたし達とオープンカフェを出た後に御坂さんがぶつかった、ツンツン頭のあの男性のことですよ。ちなみにこれはあたしのカンなんですけど、さっき御坂さんが呟いていた『アンタ』って、あの男性のことだと思うんです。どうです? 合ってます?」
「う、うう……」
「ほらほら、素直に答えて下さい、御坂さん」
「あ、アイツは、名前は、上条当麻。高校生、よ」
「それで?」
「それでって、それだけだけど……あ、あれ、どうしたの?」
絞り出すように答えた美琴だったが、佐天はそんな美琴を呆れたような顔で見つめていた。
「……別にそういう一般的なことを聞きたいわけじゃないんですが。まあ、それはそれとして。カミジョウ、トウマ、さんですね」
佐天は取り出したメモ帳に、何やらメモを取り始めた。
「ち、ちょっと佐天さん。なんでメモなんか?」
「え? だって、後で整理しないといけませんから。初春にも報告しないといけないし」
美琴の指摘に佐天はきょとんとながら首を傾げた。
「そんな、整理することなんて。ていうか、初春さんに報告ってどういうこと?」
「いいからいいから。じゃあ次の質問です。そのカミジョウさんと御坂さんはどういう関係なんですか?」
「どういう関係って……」
「だから、ただの知り合いとか、友達とか。まあ、ただの知り合い、というわけではないですよね、昨日の様子からしても。で、どういう関係なんですか?」
メモ帳を手に持ったまま興味津々といった様子で自分の方を見る佐天に対し、若干引き気味になりながら美琴はボソッと呟く。
「……えっと、アイツは、その、らりるらろ、ら、ライバルよ、ライバル。絶対に許せない宿命のライバルよ」
「はい?」
美琴の答えに佐天は目を丸くした。
「だから、ライバルなのよ、ライバル! アイツは私のライバル! 宿敵と呼んでもいいわね!」
「ライバル。友達じゃ、ないんですか?」
佐天の指摘に、美琴は一瞬声を詰まらせた。
「そ、それはその、とも、友達じゃ、ない、わよ。あんな、奴……」
「あんな親しそうだったのに?」
「親しくなんかないわよ」
「そうは見えなかったんですが。だって……」
「だ、だって?」
急に言葉を濁した佐天を美琴はじっと見つめた。
「だって、昨日の御坂さん、すごく元気がありませんでしたよ。それがあのカミジョウさんと会った途端に元気になって、顔を真っ赤にして、とうとう瞳を潤ませながらカミジョウさんを見つめて。そして止めがこれ。デート、ですよね、これ?」
佐天は携帯電話を取り出して、ある写真を美琴に見せた。
その写真を見て美琴は顔を引きつらせた。
「え……な、何これ!」
それは昨日、美琴が上条の手を引っ張って、文具屋に向かっている様子を写した写真だった。
「何って、証拠写真?」
「こ、こんなの撮られてたなんて」
美琴は佐天の携帯を手に取ると、まじまじと見つめた。
そこに写っているのは確かに昨日の自分と上条。上条と「ホント」のデートができるということで、本当に嬉しそうな表情をした自分の姿だった。
その写真を見ているうちに、美琴の心には昨日上条と会ったときと同じような感情が蘇ってきていた。
無意識のうちに綻ぶ美琴の口元。
「…………」
佐天はそんな美琴を見ながらすっと携帯を美琴から取り上げた。
「あ……」
その途端、美琴はお気に入りのおもちゃを取り上げられた子供のような哀しげな表情になる。
佐天は初めて見るそんな美琴の様子に内心驚きながらも、携帯を操作し始めた。
次の瞬間、美琴の携帯がメールの着信を示した。
美琴は慌てて自分の携帯を取り出すと、その画面と佐天の顔を交互に見比べた。
佐天は美琴ににこりと微笑んだ。
「これでよし。後で一人でゆっくり見て下さい」
「……ありがとう、佐天さん」
「どういたしまして」
佐天に礼を言うと、美琴はもう一度携帯の画面を見る。
そこに写っていたのは佐天からメールで送られてきた、先程の美琴と上条の写真であった。
「それで御坂さん、その写真を見た上で改めてお聞きしますけど、本当にカミジョウさんは御坂さんのライバルなんですか? 宿敵なんですか?」
「そ、それは……」
自分をじっと見つめる佐天の視線から逃げるように、美琴は自らの視線をそらせた。
「だってそれ以外、言いようがないし。アイツは、友達じゃ、ないんだから……」
「…………?」
佐天は軽く首を傾げた。美琴の態度にわずかな違和感を感じたからだ。だからその違和感のままにぽつりと呟いた。
「デートしてたのに?」
佐天の呟きに、美琴は頬を染めて立ち上がった。
「だから! あれは!」
「あれは?」
オウム返しに質問をする佐天の言葉に、美琴はばつが悪そうに座布団の上に正座し直した。そして美琴はごくりとつばを飲み込む。
「……アイツは、たぶん、ううん、絶対、デートなんて思ってない。思ってくれなんか、しない」
「…………」
辛そうに言葉を吐き出す美琴を見て、佐天は美琴に感じた違和感が徐々に形になり始めるのがわかった。
佐天はその違和感をさらにはっきりさせるために質問を続けた。
「あの、質問を変えますね。カミジョウさんって、どういう人なんですか?」
急に質問の方向を変えられた美琴は呆気にとられたような表情になった。
「どういう、人? 一般的にってことでいいの?」
「はい、それでいいです。それでカミジョウさんって、どういう人なんですか?」
「そ、そうね……」
美琴は軽く頬に指を当てた。
「アイツは基本はグータラで、適当で、私に勉強を教えてもらわなきゃいけない程頭も悪くて、なんかめちゃくちゃどうしようもない奴、かな?」
「は、はあ」
「そのくせ人のことガキ扱いして、人の都合を無視して勝手に助けに来てくれて、その後もこっちの話なんて聞かずに人の心の中にまでズカズカ入り込んできて、ずっと出て行かなくて、なんて言うか、失礼が服着て歩いてる、みたいな奴」
「…………」
「自分はそんなことばっかりするくせして、なのにこっちの気持ちなんか全然考えようともしないし、気づこうともしない奴。鈍感で、えっと、だから、とにかくアイツの顔を見てるとなんかもう無性に腹が立ってきて、許せなくて、だから、アイツは、アイツは……」
美琴はイライラしたように髪の毛をいじりだした。
「だからアイツは、私のことなんか無視してばっかりの、ムカツく奴なのよ。そのくせしてなんでこんなに……」
ギリッと奥歯を噛みしめた美琴は胸に手を当て、その手をぎゅっと握りしめた。
「アイツの顔を見るだけで腹が立つのに、アイツのことを考えるだけでムカツくのに、ムカツくはずなのに……。ああ……もう!」
ずずっと鼻をすすった美琴は、ぎゅっと目を閉じて息を止めた。そして目を開けると肺に溜めた重い空気を一気に吐き出した。
「とにかく、アイツはムカツく奴なの! なんて言われようとムカツく奴じゃなきゃいけないの!」
自分に無理矢理言い聞かせるように繰り返す美琴を見てやや表情を曇らせた佐天は、小さくうなずいた。
「そうですか、わかりました。カミジョウさんって人は御坂さんにとって、ムカツくライバルなんですね」
「そう、そうなのよ! わかってくれた?」
我が意を得たりと美琴は佐天にずいと顔を近づけた。
「はい、わかりました。それでは御坂さん、最後の質問です」
「最後? これで終わりってこと?」
「そうです、これに答えていただければ」
「そう」
美琴は胸をなで下ろした。
確かに予想通り上条絡みで質問されはしたが、それらは自分の対処できる範囲内のものだった。これでようやく終わる、最後の質問とてそこまで酷い物ではないだろう、そう思い美琴は一瞬気を抜いた。
だが美琴をじっと見つめた佐天は、美琴のそんな期待をあっさりと裏切るような質問をぶつけた。
「ぶっちゃけた話、御坂さんはカミジョウさんのことをどう思っているんですか?」
「はい?」
「ですから、御坂さんはカミジョウさんのことが好きなんですか? 嫌いなんですか?」
「すき、スキ、好き……? は、は、は……は――――!?」
今日一番の大声を出した美琴は乱暴に立ち上がった。美琴が座っていた座布団はその衝撃で部屋の隅まで飛んでいっていた。
「そ、それは……」
自分をじっと見つめる佐天の視線から逃げるように、美琴は自らの視線をそらせた。
「だってそれ以外、言いようがないし。アイツは、友達じゃ、ないんだから……」
「…………?」
佐天は軽く首を傾げた。美琴の態度にわずかな違和感を感じたからだ。だからその違和感のままにぽつりと呟いた。
「デートしてたのに?」
佐天の呟きに、美琴は頬を染めて立ち上がった。
「だから! あれは!」
「あれは?」
オウム返しに質問をする佐天の言葉に、美琴はばつが悪そうに座布団の上に正座し直した。そして美琴はごくりとつばを飲み込む。
「……アイツは、たぶん、ううん、絶対、デートなんて思ってない。思ってくれなんか、しない」
「…………」
辛そうに言葉を吐き出す美琴を見て、佐天は美琴に感じた違和感が徐々に形になり始めるのがわかった。
佐天はその違和感をさらにはっきりさせるために質問を続けた。
「あの、質問を変えますね。カミジョウさんって、どういう人なんですか?」
急に質問の方向を変えられた美琴は呆気にとられたような表情になった。
「どういう、人? 一般的にってことでいいの?」
「はい、それでいいです。それでカミジョウさんって、どういう人なんですか?」
「そ、そうね……」
美琴は軽く頬に指を当てた。
「アイツは基本はグータラで、適当で、私に勉強を教えてもらわなきゃいけない程頭も悪くて、なんかめちゃくちゃどうしようもない奴、かな?」
「は、はあ」
「そのくせ人のことガキ扱いして、人の都合を無視して勝手に助けに来てくれて、その後もこっちの話なんて聞かずに人の心の中にまでズカズカ入り込んできて、ずっと出て行かなくて、なんて言うか、失礼が服着て歩いてる、みたいな奴」
「…………」
「自分はそんなことばっかりするくせして、なのにこっちの気持ちなんか全然考えようともしないし、気づこうともしない奴。鈍感で、えっと、だから、とにかくアイツの顔を見てるとなんかもう無性に腹が立ってきて、許せなくて、だから、アイツは、アイツは……」
美琴はイライラしたように髪の毛をいじりだした。
「だからアイツは、私のことなんか無視してばっかりの、ムカツく奴なのよ。そのくせしてなんでこんなに……」
ギリッと奥歯を噛みしめた美琴は胸に手を当て、その手をぎゅっと握りしめた。
「アイツの顔を見るだけで腹が立つのに、アイツのことを考えるだけでムカツくのに、ムカツくはずなのに……。ああ……もう!」
ずずっと鼻をすすった美琴は、ぎゅっと目を閉じて息を止めた。そして目を開けると肺に溜めた重い空気を一気に吐き出した。
「とにかく、アイツはムカツく奴なの! なんて言われようとムカツく奴じゃなきゃいけないの!」
自分に無理矢理言い聞かせるように繰り返す美琴を見てやや表情を曇らせた佐天は、小さくうなずいた。
「そうですか、わかりました。カミジョウさんって人は御坂さんにとって、ムカツくライバルなんですね」
「そう、そうなのよ! わかってくれた?」
我が意を得たりと美琴は佐天にずいと顔を近づけた。
「はい、わかりました。それでは御坂さん、最後の質問です」
「最後? これで終わりってこと?」
「そうです、これに答えていただければ」
「そう」
美琴は胸をなで下ろした。
確かに予想通り上条絡みで質問されはしたが、それらは自分の対処できる範囲内のものだった。これでようやく終わる、最後の質問とてそこまで酷い物ではないだろう、そう思い美琴は一瞬気を抜いた。
だが美琴をじっと見つめた佐天は、美琴のそんな期待をあっさりと裏切るような質問をぶつけた。
「ぶっちゃけた話、御坂さんはカミジョウさんのことをどう思っているんですか?」
「はい?」
「ですから、御坂さんはカミジョウさんのことが好きなんですか? 嫌いなんですか?」
「すき、スキ、好き……? は、は、は……は――――!?」
今日一番の大声を出した美琴は乱暴に立ち上がった。美琴が座っていた座布団はその衝撃で部屋の隅まで飛んでいっていた。