とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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 四月、とある日

 初めのうちは、特に特別な感情などはもってなかったと思う。
 ちょっとつついただけで、何かにつけて突っかかってきたり、何もないのに突っかかってきたり。
 やたらと理不尽なやつで、容姿は確かに可愛いやつなのだが、少なくとも性格面では今までの付き合いの中で、お世辞でも女の子らしいとは言えなかったと思う。
 なのに、そのはずなのに…

(何だ?この気持ち……俺、俺…)



―My heart―



「ねぇねぇ、この服可愛いと思うんだけど、アンタはどう思う?」
「どうって……お前が可愛いと言えば可愛いんじゃねぇの?」

 学校もようやく一年の課程を修了し、今は学校はなく春休み。
 そんな春休み真っ只中のある日に、俺の隣を占有しているのは“彼女”、御坂美琴。
 事のの起こりは一二月。
 こいつが俺に対して告白を、『好きだ』と言ってきたことにある。
 その当初、そこそこ話せる女友達程度には思ってはいたものの、それ以外に俺は別にこいつに対して特別な感情は抱いていなかった。
 そしてこいつも、俺のことをあまり好きではないと思っていた。
 相手の問題なのに断りもなく首突っ込んだり、はたまた何かあれば追っかけられるのを繰り返していれば、そう思うのは至極自然。
 そう思っていたからこそ、余計にこいつからの告白には驚いた。
 その告白を受け入れたので、今この状況が出来上がってしまっているのだが…
 だがしかし、その告白を受け入れた理由は好きだから、ではなく、単にこいつの悲しむ顔を見たくなかったからだ。
 一度これ以上ないくらいの絶望を味わっているこいつの顔に、また悲しむの色をおとしたくはなかった。
 そしてこいつと彼氏彼女の関係になってから何気なく時を過ごして、現在に至る。
 始めの二、三ヵ月はどうということはなく、今までの関係よりも一歩進んだ友達程度の気分でいられた。
 対してこいつは俺の態度があまり気に入らなかったらしく、帰り際には何故だか『明日も、私だけに向かってくれる?』などと、若干不安も入り混じった表情で言ってくるのが常だった。
 それに対しては、いつもそれを当然と思っていたこともあってか、軽い気持ちで『当たり前だろ』と答えていた。
 そのやりとりもここ一ヵ月ではもうほとんどみられない。
 それに関してはもう安心したのかと思っていた。
 しかし、思えば、その頃からかもしれない。
 こいつが特別な意味で気になりだしたのは。

「アンタね、ちゃんと考えてる?返答がいちいち適当すぎんのよ」
「考えてるよ、でも俺服のことわかんねぇから何も言えねえし」
「はぁ……そこはお世辞でも『きっと着たら似合う』くらいのことは言えないの?……まぁ、そこまで期待するのはちょっと我が儘かもしれないけどさ」

 そう言って、こいつはため息まじりに小さく、そして少し哀しげに笑った。

(まただ…)

 彼女が帰り際のやりとりを止めるようになると、今度はこういった哀しげな表情を頻繁にするようになった
 その一方で、最近になり、彼女のこういった表情を見ると胸がチクりと痛むようになった。
 それが何がどういう理由で痛むのかは全くわからない、わからないのだが、彼女の哀しそうな表情を見ると決まってそうなる。
 更に言うと、その胸の痛みは彼女の笑顔を見ると瞬く間にひいてゆく。
 そればかりか、彼女につられて自分もまた自然と笑顔に、嬉しい気分になれる。
 前々から彼女の笑顔には惹かれるものはあったかもしれない。
 それは彼女の告白を受け入れた理由にそれは少なからず含まれている。
 それでもそれは女の子としての魅力などのような類のもので、今回のように痛みがどうとかの作用はなかった。
 ましてや、もっと彼女の笑顔を見ていたいなどという気持ちなど、なおさら持ち得なかったのだ。
 それなのに、今は何故だかあの時とは違う。

「……?どうしたの?」
「えっ…?……あぁ、ちょっと考えて事をな」
「ふーん…?」

 気付けば、少しぼうっとしていたようで、自分の目を覗き込む彼女が目の前にいた。
 髪の色とほぼ同じ色の栗色の瞳が、不思議そうにこちらの瞳を見つめていた。

(綺麗、だな…)

 その疑問に満ちた瞳を見ていたら、素直にその二文字の言葉が脳裏に浮かんだ。
 今まではこの状況のようになったとしても、特に何も感じなかったその瞳に。
 そしてその瞳には、人をグッと惹きつける何かがあるようにも感じた。
 見れば見るほど、観察すれば観察するほど、吸い込まれるような感覚に陥る。
 これがきっと、御坂美琴という人間。
 年上だとか、年下だとか、ましてや男女などに縛られることなく人気を集める御坂美琴という人間の本質。
 論理とか、理屈とか、そんなものは関係ない。
 ただただ、単純に。

「い、いつまで人の目を見てんのよ」

 いつまで、彼女はそう尋ねてきた。
 いつまでだろうか、止められなければ、このままずっと見ていられる気がする。
 それこそ、ずっと。

(あ、あれ?なんかおかしくないか…?どうしたんだよ、俺…)

 自分の気持ちがわからない。
 何故そんなことを思ったのか、何故彼女の行動一つで自分の心は揺らぐのか。
 自分のことのはずなのに、今は分からないことだらけ。

「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫?なんか目が虚ろじゃない?熱でもあるの?」
「あ……い、いや、大丈夫だから」

 そこではっと、意識を取り戻す。
 少しだけ、自分の世界に浸り過ぎたようだ。
 彼女の瞳以外はぼやけて見えていた世界が、一気に本来の姿を取り戻し、鮮明なものへと変わっていく。
 そしてまた考えに浸らないように、彼女のことで満たされかけていた頭を一度リセットするかのように、首を大きく横に振る。
 もう大丈夫、上条当麻という人間の本来人格は取り戻したはず。
 だがしかし、彼女はそれをよしとはしない。

「そうなの?でも顔もちょっと赤いし……ちょっとごめんね」
「っ!!」

 彼女はそう言うと、彼女の手を彼女自身の額と自分の額とにあて、熱が計る動作をとる。
 なんのことはない、たったそれだけの行為。
 そのはずなのに、体は過剰なまでの反応を示した。

(っ!?)

 その瞬間、体は勝手に後ろに後ずさり、額にあてられていた彼女の手もそれにより強引にはがされる。

「……どしたの?」
「あ、いや……わ、わりぃ何でも、ない」

 ほんの一瞬ではあったが、彼女に触れられていた額が熱い気がする。
 そこだけ妙に彼女の手の感触が生々しく残っている。
 さらに、心臓が脈をうつ間隔が恐ろしく短くなる。
 今はとにかく胸のドキドキが苦しくて仕方がない。
 そこへ彼女が少し寂しそうな表情をすることで、より一層胸の苦しみに拍車をかける。
 せっかくの彼女の心遣いを無碍にしたのだ。
 当然、そうなる。

(あぁくそ、また…)

 どうして、胸が痛むのだろうか。
 それは彼女が寂しそうな表情をするから。
 この胸の痛みは、何をすればとれるのであったか。
 どうすれば彼女がいつもの表情にもどってくれるのであったか。

「なぁ、御坂」
「……何よ?」

 それを考えようとすると、考えるより先に、口が動いていた。

「今度の日曜日、どっか遊びに行かないか?」
「え…?」

 気がつけば、彼女をデートに誘っていた。
 今までのデートというデートは全て彼女が誘っていたのに関わらず、あくまで受け身の姿勢であったのに関わらず。
 今こうして、自分から彼女を誘った。
 初めて、彼女を誘った。

「え、えっと……それはで、でででデートのお誘いかしら?」
「あぁ」
「冷やかしとか、そんなんじゃなくて?」
「んなわけないだろ」
「ほんとの、本当のデートよね」
「当たり前だろ。なんでそんな疑り深いんだよ?そんなに俺から誘われるのは嫌だったか?」
「そ、そんなことない!……すごく、すっごく、嬉しい…」
「そっか、なら決まりだな。じゃあ行き先は適当に考えとくよ」
「ぅん…」

 声こそ小さく、いつもの彼女の勢いを感じない分、まだ本調子ではないように見える。
 しかし、その顔、その表情を見れば、それだけで十二分に感じられる。
 彼女の本来の、魅力的な笑顔を。
 そしてそっと、自分の胸に手をあてる。
 先ほどまでの胸を締め付けるかのような痛みは、もうない。

(はぁ……なんでまたこんな…)

 先のことを考えると、面倒そうなことしか思いつかず、それだけで憂鬱な気分になった。
 だが不思議と、誘ったことへの後悔はない。
 何よりも、彼女をこの場で笑顔にできた、また笑顔を見れる。

(俺、もっとこいつを見ていたい…?)

 その疑問の答えは、でない。
 だが直感的に、そうなのかもしれないという確信めいたものを得ていた。
 そしてその確信めいたものをちゃんとした確信にするには、もっと彼女を観ていないとダメ。
 それは、何故だか断言できる。
 だからこれから、もっと彼女を観てみよう。
 この正体不明のもやもやとした感情にけりをつけるのは、それから,
 まず、そこから。
 時間はたっぷりある。
 焦る必要は、どこにもない。


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