聖日目録―クリスマス―
「母さん、そろそろ行かないと」
「あらあら、もうそんな時間なのかしら」
今日はクリスマスイブだ。そして明日はクリスマス。刀夜は今日明日のために半年前からこの二日に休みを希望していた。それだけ前でも望み薄と会社から言われたが、何とかそれが叶った。
「母さん、早くしないと美鈴さんを待たせてしまうよ」
「少し待ってくださいな。えーっと、ガスと電気と…」
「買い物に行くだけなんだから大丈夫だって…」
「えーっと、窓は閉まっていますし大丈夫ですね。さ、刀夜さん。行きましょう?」
詩菜のおっとりペースに合わせていたら遅刻しそうなので、刀夜は奥さんの手を引いて玄関を出て待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ場所が近くて助かった。10分もしないうちに場所に到着し、その向こうから美鈴が歩いてくるのが見えた。よかった、間に合った。刀夜は内心ほっとした。女性をこの寒空の下待たせるというのは心苦しい。
「こんにちわー! 上条さんに詩菜さん」
「こんにちは、美鈴さん」
「あらあら、美鈴さんってばいつでも元気ですね。若いからかしら?」
「やだなぁ! 詩菜さんの方が若いですって!」
傍から見たら、娘二人と出かけている父親、という構図に見えるかもしれない。そう思うほどに詩菜と美鈴は実年齢と外見年齢にギャップがある。実年齢は刀夜とそう変わらないはずなのに。
「ところで、美鈴さんはお昼はもう?」
「はい、食べてきちゃいました」
「あらあら、それでしたらすぐに買い物に行けますね」
「そうですね。早く終わらせちゃいましょう!」
刀夜が美女二人を侍らす形で三人はスーパーに向かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
学園都市といえど季節の行事には乗り気だ。クリスマスも当然だった。しかも、学園都市のクリスマスというのはかなり凄い。何が凄いって、試作品とかその手の最新技術を使った出し物のオンパレードだ。
立体映像で学園都市を駆け回るサンタやトナカイもいるし、限りなく本物に近づけ解ける事のない雪だるまとか、なんかやたらとでかくて合体変形機構があるクリスマスツリーもある。…、合体変形機構って、ツリーに必要か?ともかく、とても騒がしかった。
上条と美琴もその騒がしさの中二人でクリスマスを過ごす予定だったが、今年は二人とも両親に呼ばれクリスマスから年明けまで帰省することになった。幸い、両家族の家が近いので全くの離れ離れという訳ではない。
「けどなぁ、二人だけで過ごしたかったなぁ…」
「まぁまぁ、そう言うなって。たまにはいいじゃないか。親とのクリスマス、ってのもさ」
「たまにって…、クリスマスは年に一度しかないイベントなのよ?やっぱり二人だけの方がいいじゃない…」
「ん~、最初から最後まで父さんたちと一緒にいなきゃならないって訳じゃないだろ?途中で抜け出しゃいいじゃん」
「………」
「どした?」
「いや、当麻がそういう事言うの意外だなぁって…」
「そりゃあ俺だって美琴たんと二人だけのクリスマス過ごしたいって思うからな」
「たんって言うなっ」
「美琴ちゃん?」
「なんか、それは気持ち悪い…」
「うわひでぇ」
騒がしいクリスマスなど何のその。二人はしっかり二人だけの空気を作りながら通りを歩いている。美琴はわざわざ左手の手袋を外して上条の右ポケットに手を突っ込み、上条も右手は手袋を外しポケットの中で彼女の手を握っていた。
残った手に着けている手袋はお揃いだし、二人が巻いているマフラーもお揃いだ。上条が巻いているのは既製品以上によくできているが、それに対し美琴が巻いているのは所々網目を間違えていたり模様がずれていたりと、正直、不細工なものだった。
二人が付けているマフラーはお互いの手作りだ。美琴の提案で、上条のマフラーは美琴が、美琴のマフラーは上条が作ろうという事になった。
言い訳にしかならないが、マフラーを初めて作る上条にとっては時間が足らなさすぎた。おかげで美琴に比べ随分と格好の悪いものになってしまった。それとは反対に美琴は時間が余り、二人が今付けている手袋まで作っていた。
「なぁ、本当にそれでいいのか?時間掛かるけど作り直すぞ?」
「ううん、これがいいの。だって、当麻の初めての手作りだもん」
「でもなぁ…」
美琴はそう言ってくれるが、上条としては納得しきれないところがある。やっぱり、可愛い彼女さんには自分が満足できるものを作ってあげたいじゃないですか。うん、やっぱり作り直そう。どれだけ時間がかかるかわからないけど。上条はひそかにそう決めた。
「ねぇ、それよりさ、そろそろ時間じゃない?」
「おっと、そうだな。行くぞ、美琴たん」
「だからたんって言うなっ」
「行くぞ美琴ちゃま」
「さっきのより気持ち悪い…」
「うん、俺も思った」
手を繋ぎながら、それでも危なげなく走り二人はタクシー乗り場へ向かう。実家に帰るために乗る電車に間に合うようタクシーを予約しておいた。本来なら結構な料金を取られるらしいが、クリスマス料金という事で上条さんのお財布にも優しくなっていた。
手を繋ぎながら器用にタクシーに乗り込み、既に行先は告げてあるので車はすぐに発車する。乗り込んだ瞬間、タクシーの運転手がチッと舌打ちしたのは気のせいだ。
「ところでさ、クリスマスの間って男の人ってどうしてるの?」
「うん?」
「だってさ、歩いている間男の人だけってのは見なかったじゃない」
「あー…」
言われてみれば。大半がカップルだが、家族連れや女の人達のグループもちらほらいたが男のみっていうのは見なかった気がする。
「それはな、男どもで集まって負け犬の遠吠えの如く部屋でドンチャン騒ぎをやってるんだよ、きっと」
「へぇ~。当麻も去年はそうだったの?」
「うっ…」
去年のクリスマスといえばそれは上条にとってはとても退屈なものでありとても大変だったという記憶しかない。
その頃はまだ美琴と付き合う前で、インデックスと慎ましやかにクリスマスを過ごす予定だった。けれど、いきなり現れた魔術サイドの面々にインデックスと一緒に拉致された。そして気付けば場所はイギリス。聖ジョージ大聖堂と呼ばれる教会の中にいた。インデックスは今年もそれに参加で、一昨日から出立していた。
「どうせ当麻の事だからまぁた厄介事に首突っ込んでたんでしょ」
「その通りと言いますか、そうじゃないと言いますか…」
「…?歯切れの悪言い方ね?」
「あまり聞かないでくれるとありがたいです、はい…」
「…?」
魔術サイドの面々は基本的に信徒だ。当然、彼らのクリスマスとは日本のように騒ぐだけの日ではない。きちんと作法に則ったミサを行う。インデックスはともかく非信徒である自分が参加していいものかと思ったが、クリスマスに限り非信徒も気軽に参加できるものもあるらしい。
はっきり言ってつまらなかった。ミサと言うのは決して非信徒が参加するものではないなと、上条は不謹慎にも最中に思っていた。
そんな上条に配慮してか、彼を直接知る者だけで日本と同じクリスマスパーティーが催された。大半が未成年だが、それでも成人もいるため酒も出た。それがダメだった。
予想通りというか、土御門と建宮が悪乗りした。そのせいで上条以外が酒に沈んで悪酔いした。とくに神裂が酷かった。あの人に酒を飲ませちゃいけない。
いきなりジャンピングニーとかされたし、キスを迫られたりもした。それは何とか回避したものの、それを見た女性陣に詰め寄られた。その後も神裂はいろんな人にキスを迫っていたが、シェリーが神裂の餌食になっていたのは気のせいだと思いたい。
「お客さん、着いたよ」
「あ、はい。ありがとうございました~」
駅前に着いて上条が料金を渡して礼を言いながら降りていく。美琴も同じように礼を言いながら降りて行き、車内に残ったのは当然ドライバーの人だけだった。
「彼女、欲しいなぁ…」
結局ずっと手を繋ぎっぱなしだった、駅のホームに消えていく二人の背中を見ながら思わず口から零れた。
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御坂家では主婦二人がキッチンで奮闘していた。普段、家でもそれなりに手伝っている刀夜も今回ばかりは手伝う気にはなれなかった。あの二人が出す気迫に押されてしまった。
「詩菜さん、味付けはこの位でいいですか?」
「ん~、もう少し濃くていいかもしれませんね。当麻さんは濃い目の方が好きですから」
「はいはい~」
「あ、美鈴さん。これはこの位でいいですか?」
「ん~、もう少し水気ない方がいいですね」
主婦二人の奮闘をBGMに刀夜はコーヒーを飲みながら今にも雪が降りそうな空を眺めていた。昨日の天気予報では久方ぶりのホワイトクリスマスになると言っていた。それが当るといいんだが。
ふと時計を見るとそろそろ二人が駅に到着する時間だった。どれ、迎えに行こうかと、刀夜は立ち上がり玄関へ向かう。外は寒いのでしっかり着込んでいく。
「母さん、美鈴さん。当麻達を迎えに行ってくるよ。美鈴さん、車、お借りしますね」
「あらあら、刀夜さん。気をつけてくださいね」
「すいません、何だか押しつけちゃったみたいな形になって…」
「いえいえ、気にしないでください。綺麗な女性に寒空を歩かせる訳にはいきませんから」
「あらあら、刀夜さん?またかしら…?」
カンッ! と、手元の包丁から音を出しながらもの凄い陰影と背景効果の笑顔を浮かべる詩菜。それを視界に収めた瞬間、刀夜の顔から血の気が音を立てて急速に引いていった。
「か、母さん…!? 決してそういう事でないからですよ…!?」
「ひどいっ! 私の事は遊びだったのね!?」
「美鈴さん!? 何を言ってるんですか!?」
「あらあら、刀夜さん…? これは一体どういうことなのかしら…?」
「それは美鈴さんの嘘です! 父さんは決してそんなことはしませんよ!」
「大好きだよ! 刀夜!!」
「美鈴さん!? だからそういう事は言わないでください!!」
「あらあら、刀夜さんったら…。これは一回きつく言わなきゃダメかしら…?」
「だから何もないからですって!! 美鈴さんも何とか言ってください!!」
「あーっ! このお酒おいしーっ!」
「投げっぱなし!? ていうかいつの間に酒!? そして既に酔ってるぅ!?」
「刀夜さん…?」
「父さんの事信じてくださいってば!! 何もないから!! あぁもう! 不幸だーーーー!!!!」
結局、軽くスイッチの入った美鈴に遊ばれ刀夜は詩菜から逃げるように二人を迎えに行った。
「すいません、遊びすぎちゃいました♪」
「いえいえ、私も楽しかったからいいですよ」
旦那で遊んで満足した二人はキッチンに視線を戻し、気迫全開で料理作りを再開した。
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電車から降りた二人は途方に暮れていた。どこに行けばいいのかわからなかった。親からは迎えに行くからと言われ、どこに行けばいいかとは聞いていなかったのだ。しかしその迎えがいない。さて困ったぞ。
「俺か美琴ん家だとは思うんだけど…」
「そのどっちかわかんないわよね。って、当麻。携帯鳴ってない?」
「お? 本当だ。…もしもし? …父さん? 今どこにいるんだよ。…うん、わかった。こっちは大丈夫だから。うん。運転気をつけろよ」
「なんだって?」
「少し遅れるってさ。それまで近くの喫茶店で待ってってくれってさ」
美琴に答えながら上条は首をめぐらし当りを見渡す。当然と言うべきか、彼にその景色に見覚えはなかった。地元であるはずなのに。それが少しだけ、寂しかった。
「当麻…?」
「ん? どうした?」
「なんか、寂しそうな顔してた…」
「…っ!」
美琴に隠し事は出来ないな。表情に出したつもりはなかったが、それでも美琴には気付かれてしまった。けど、なんだかそれが少しだけ嬉しかった。
「大丈夫。大丈夫だ」
ポンポンと、美琴の頭を軽く叩きながら返すその言葉は、彼女へ向けた言葉か。それとも己へ向けた言葉か。あるいはその両方か。
「それより、いつまでもここにいるのも寒いしな。駅前のあそこに入ろうぜ」
「うん…」
「そんなに気にすんなって。俺は大丈夫だから」
「うん…」
「それに…」
「…っ!?」
彼の言葉が途切れたのが気になって顔を見ようとした瞬間、僅かな間、視界と呼吸を奪われた。時間にして1秒あるかないか。たったそれだけの時間だが、残ったのは心地よい余韻だった。
「美琴がいるしなっ」
にかっと笑う少年の顔にはもう寂しさはない。あるのはいつもと同じ、暖かくて優しい、美琴の大好きな笑顔だった。けど、ちょっとだけ悔しかった。自分が少年を安心させたかったのに、気付けば自分が上条の顔を見て凄くホッとしてる。
「……なんか、悔しい……」
「ほら、行くぞ美琴たん」
「むぅ…。たんって、言うな…」
「…、とりあえず店に入るぞ」
なんだか沈んでしまった美琴を見ながら上条は小さくため息を吐く。そして、何だか申し訳なく思ってしまった。
自分が鈍感だという事はなんとなくわかっている。おかげで、気付けば美琴にこんな顔をさせてしまう事が何度かあった。それが凄く嫌だった。もの凄くエゴだが、なにがあっても美琴にだけは笑顔でいてほしかった。
美琴の笑顔は自分の首に飾られている物と同じ気持ちを俺にくれる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
なんか、ずるい。当麻はいつもずるい。いっつもいっつも人の事に全力で、自分の事はその次にしてる。さっきだって寂しそうな顔してたのに。私が何とかしてあげたいと思ってたのに、気付いたら私が励まされてる。
ずるい。私の事を助けてくれるくせに、当麻は私に助けさせない。すっごくずるい。私だって当麻の事を助けたいのに…。
当麻…、当麻も誰かに頼っていいんだよ…?この宝石みたいに、自分ひとりだけでやり抜かなくていいんだよ…?ねぇ当麻…。いつかは、私の事頼ってくれる…?
私も、この宝石みたいに当麻に希望、あげる事が出来るのかな…。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二人が入って喫茶店は時間帯もあってか、人もまばらだった。適当に席について、どうせすぐに迎えが来るのだから二人ともコーヒーと紅茶だけを頼んだ。
席について上条はマフラーと手袋を外す。テーブル席を選び美琴は向かいではなくそのまま隣に腰を下ろす。最初は気になったが、今ではこれが当たり前になっていた。
「美琴、他になんか頼むか?」
「んー、いいかな。すぐに来るでしょ?」
「多分な~。それほど時間はかからないと思うぞ」
言いながら上条は窓から外を見やる。空はどんよりと重い雲が見える範囲一面に広がっている。今朝見た天気予報は関東地方はちらほら雪が降るらしいが、降るといいなぁ。ホワイトクリスマスっての経験してみたいし。
「雪、降るかなぁ」
「ん~、降りそうな感じだけどなぁ」
「降ってほしいけど、ちょっと嫌だなぁ」
「何で? 楽しいじゃん。シロップかけて食いたいよな」
「当麻、雪を食べるって子供の特権じゃないの…?」
「そうかぁ? なんだかかき氷みたいで美味そうじゃん」
「あんまり食べすぎは良くないのよ? アレって、元は雨だから汚い上に落ちてくるまでに空気中のゴミと一緒になっちゃうんだか」
「げっ!? そうなのかっ!?」
廊下側にいる美琴から上条のほのかな希望を砕く言葉を言われ、ちょっぴり残念そうな表情になる。雪ってどんな味なのかちょっと気になったんだけどなぁ。そんなこと言われたら食べる気無くなるよ。
「お待たせしました。コーヒーの方は?」
「あ、俺です」
店員がそれぞれ飲み物を二人の前に置いていく。二人ともそれぞれ一口飲む。上条的な好みは、コーヒーの酸味はない方が好きなのだが、ここはバッチリだ。酸味もなくて、苦みと香ばしさが程良くて結構おいしい。
紅茶の方も香りもあって濃くもなければ薄くもないし丁度いい。ここの店は当りかもしれない。こっちにいる間は通っちゃおうかな。飲みながらそう美琴は思った。
「ここ、結構おいしいな」
「ねー。学園都市にもあればいいのに」
「あ、お二人とも学園都市の方なんですか?」
二人で話していると急に先ほどコーヒーと紅茶を持ってきた女性店員が話しかけてきた。
「この店、学園都市にもありますよ。向こうはここのマスターのお姉さんがやっているんですよ」
「へえ~。そうなんですか」
「あの、店名は同じなんですか?」
「確か同じの筈ですよ」
美琴に答えて、引く時も急な店員をすぐに意識から外し、二人の話題はその店の事になっていた。
「ね、学園都市に戻ったら探してみようよ」
「そうだなー。…ただ、ちょっと怖い人がいそうなんだけどな…」
「…?」
なんだか急にどこか遠い目になる上条の視線を追うと、どんよりした曇り空の中、一つだけあった白い雲の塊だった。
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「へっくし!」
「汚ーい! ってミサカはミサカは自分のカフェオレを全力死守!」
「アクセラ君、風邪かい~?」
「さァな~。誰か噂でもしてンじゃねェのか。っと、悪ィンだけど、マスター。コーヒー、新しいのくれ」
「仕方ないね~。ただし、値段は倍にさせてもらうよ~」
「えー! 2杯目の値段が倍なんて横暴だー! ってミサカはミサカは暴れちゃうぞ!?」
「暴れンな! 迷惑になンだろうが!」
「アクセラ君だけだよ~。コーヒーを無駄にされちゃったからそのお返し、かな~」
「あァ、ソイツは仕方ねェ。2倍でも10倍でも払うさ」
「あ、そう? じゃあ10倍で~」
「はァ!? 言った途端それかテメェ!!」
「冗談に決まってるじゃん~」
「……テ、メェ………!!」
「あなたが手玉に取られてるのってなんだか新鮮ー! ってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」
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上条は既にコーヒーを飲みほし、美琴もそろそろ紅茶を飲み終わる頃になっても迎えは来ない。2杯目を頼もうかと思っているところに、喫茶店の扉がカラカラと音を立てる。
「当麻に美琴ちゃん! 悪いな遅れて!」
言いながら刀夜が二人の正面に腰を下ろし、メニューを取りに来た店員にいつもの、とだけ言って終わらせる。それをなんだか羨ましそうに上条は見ていた。
「ん、なんだ当麻。どうかしたのか?」
「いや、いつものって言って通じるのってなんかかっこいいなぁ、と」
「ふふふ。それはな、当麻。父さんがかっこいいおじさんだからだぞ!」
「言ってろバカ親父」
笑いながら軽口を交わす親子に美琴は自分の位置を少し考えていた。決して刀夜が嫌いな訳ではない。むしろ好意を抱ける。けれど、親子の会話に割って入るほどの度胸は美琴にはなかった。
そんな美琴と、隣に座る上条の表情と雰囲気に刀夜は僅かだけ違和感だけ感じた。物足りない感じがするというか、具体的にどう表せばいいのかわからない。けれど、確かに違和感はある。
「お待たせしました~」
「ああ、ありがとう」
刀夜専用ブレンドのコーヒーを受け取り、刀夜は口に含む。ここに来たらこれを飲まないと落ち着かない。飲みつつ窓の外を眺める、その落ち着いた姿は不覚にもかっこいいと上条は思った。
「さて、そろそろ行こうか」
「早っ!? もう飲んだのか!?」
「いつも少しだけぬるくしてもらってるんだ」
車のカギを手に立ち上がりながら上着を羽織り、刀夜は一足先に喫茶店から出て車に乗り込む。その飲み終わる速さに驚きながらも、上条と美琴も上着を着こんで続いて車に乗り込む。
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車に乗っていたからさほど時間がかからず御坂家の前に到着した。が、刀夜は駐車場に停める前に振り向いて後部座席へと声をかける。
「どうだ、当麻。少しこの辺りを散歩してみたら」
「え?」
「お前、帰ってくるのはもう10年ぶりくらいだろう。この辺りも大分様変わりしたからな。美琴ちゃんも久しぶりだろう? 料理が出来るまでまだ掛かるだろうから、少し歩いてお腹を空かしておいで」
と言われて車から放り出されてしまった。駐車場に停める刀夜から「いってらしゃーい!」と手を振って見送られている。これは、行かなければならない感じではないか。そして気付けばなんだか家の窓から美鈴と詩菜も手を振っていた。
「………行くか」
「………そうね」
適当な方向へ歩いて消えていく二人の背中を見ながら刀夜は「やれやれ…」と腕を組んでいた。そして駐車場すぐそばの窓から、寒いにも関わらず大きく開けて美鈴と詩菜も出てきた。
「あの二人、どうかしたんですか?」
「なんだか元気がなかった気がしますけど、刀夜さんはご存知ですか?」
「私も知らないよ。ただ、ああいう時は二人っきりの方がいいかなと思ってね」
「あらあら、刀夜さんったら。気を利かせてあげたんですね」
「そうしたつもりだけど、当麻は口下手だからなぁ」
「あ、そうだ。刀夜さん。料理の味見してくれませんか?」
「あ、はい。いいですよ」
美鈴に答えつつ刀夜は玄関の方へ歩いていき、ふと二人が歩いていった方へ視線を向けた。
この三人では刀夜しか気づいていない。あの二人の胸元にそれぞれ宝石が輝いていた事。当麻の事だ。自分が付けている宝石は美琴ちゃんの事だが、お前の本当に欲しい物は美琴ちゃんの首に飾られている方だろう?
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追いやられる形になったが、二人はのんびりと歩いていた。今は通りかかった公園のベンチで自販機で買ったココアを飲みながら休憩している。
「当麻、なんでそんなにキョロキョロしてたの?」
「え、そんなにキョロキョロしてた、か?」
「うん。おのぼりさんみたいだった」
それも仕方のない事だった。上条にとってここは地元の筈だが、彼にここの記憶は全くない。知らない街だった。『この公園でこんな遊びをしたんだ』『あの店は今もまだあるのかな』などといった思いを馳せる事が出来ないでいた。
それがちょっとだけ寂しかった。以前、父から聞いた限りではあまりいい思い出はなさそうだが、それでも自分が過ごしたはずの街を知らない街としか思えない事は、やっぱり寂しい。
「……また寂しそうな顔してる…」
「そんなつもりはないんだけどな…」
しまった。そう思いながら頭をかきながら明後日の方向を見る。表情には出したつもりなかったのに、何で美琴にはすぐにばれるんだ?
「ねぇ、話せないの…?」
話してほしかった。目の前の少年はいつもいつも自分の内側にため込んでしまう。だけど、今は自分がいるのだ。全てを支えるとは言わない。けど、少しは支えさせてほしかった。じっと見つめていると、やがて上条は諦めたように頭をかきながら話してくれた。
「…俺、覚えてないんだよ」
「覚えて、ない…?」
「ああ、この街の事、何にも覚えてないんだよ」
「何、にも…?」
それは、なんて寂しい事なんだろう。自分が生まれた街を、育った街を懐かしむ事も出来ないなんて。自分はその気持ちになる事は出来ない。自分はちゃんと覚えている。そんな幸せな自分が、言える事なんて何もなかった。
「俺さ、幼稚園出てすぐ、学園都市に行ったんだよ。もう、ここの事何にも覚えてないんだ。ここで遊んだかもしれないのに、それもわからない。何かを懐かしんだりも出来ないんだ。『俺』にとってここは、初めての街なんだ」
(だから、寂しそうな顔してたんだ…)
「だぁかぁらぁ! 美琴がそんな暗い顔することないんだってば」
「わぷっ!?」
いきなりぽふっと頭を叩かれ頭がガクッと下がる。上げるとそこにはやっぱりいつもの笑顔だ。寂しそうな感じはしない。隠している、という感じもしなかった。この少年は自分で思っている以上に不器用だ。何でもすぐに顔に出てしまう。
だから何も言えなくなってしまった。
「ってことでさ、美琴。少し案内してくれねぇかな」
こちらの気持ちを知りもせず、上条はいつもの調子で言ってきた。目の前の少年が笑顔でいるのだ。こちらも笑顔でいたい。一抹の寂しさを抱えながら、美琴は笑顔で上条の地元を案内した。
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『ただいまー!』
元気のいい声で御坂家に帰宅する二人を出迎えたのは刀夜だった。美鈴と詩菜は料理の盛り付けをどうするかとキッチンで奮闘していた。
「おかえり、二人とも。寒かっただろう。風呂を用意したから先に温まってくるといい」
二人から上着を受け取り、近くの上着かけにかけながら少し寒そうな二人に言う。ちゃんと美鈴に許可を取って風呂の支度をしたが、馴れない風呂に少しばかり苦戦した。
「え、でも、もうすぐパーティー始まるんじゃないか?」
「盛り付けに時間がかかっているようでね。大丈夫だから入ってくるといい」
「ふぅん。なら美琴から先に入ってこいよ」
「美琴ちゃんを先に入らせるとは、そうか読めたぞ当麻!」
「読まんでいいわ!! というか何から何をどう読みとった!? 美琴を先に入らせるのは普通だろ!!」
「魂胆はこうだろ、当麻…」
「それ以上喋ったらギロチンアッパーかます!!」
「……、去年の夏といい、お前はいつからそんなバイオレンスなコミュニケーションを覚えたんだ…?」
他人の家で始まる親子漫才を視界に収めつつ、実際に寒かったので上条の好意に甘え先に風呂を頂くことにした。自分の家の風呂で、頂く、という表現の奇妙さを覚えながら。
「じゃあ私お風呂入ってくるねー」
「おー。しっかり温まれよー」
風呂場に消えていった美琴に返事をしてから刀夜の案内でリビングへ行こうとしたが、そこの扉を開ける前に刀夜が聞いてきた。
「ところで当麻。お前、ちゃんとプレゼントは用意してあるんだろうな?」
「プレゼント? …あっ! やべぇ! 美琴の分しか用意してねぇ!!」
「ああ、ならいいぞ。彼女の分があればいい」
「…?」
上条にとって初めて彼女と過ごすクリスマスだ。そのためにプレゼントも奮発した。それだけで満足して他の人の分を用意するのをすっかり忘れていた。
あっさりと会話を打ち切りながらリビングの扉を開け、見えた光景に上条は思う。リビングが広い。テレビがでかい。ソファーもでかい。暖炉がある。豪邸だ。美琴はやっぱりお嬢様なんだなと再認識していた。
「あ、当麻さん。丁度いいところに」
「ちょっとこっちに来てくれないー?」
キッチンにいる二人から呼ばれたので向かうと、凄くいい匂いなんだろうけど混ざり過ぎてよくわからなくなっている香りの中、もの凄く豪勢に盛られた料理の数々があった。その横に色の強い、トッピング用に小さく切られた野菜がいくつかの小皿に盛られていた。
ビーフシチューやローストチキン、チーズフォンデュならぬトマトフォンデュなる物もあるし、クリスマスから連想される豪華な料理が一通りある気がする。
「盛ってはみたんだけど、なんか色が足りない感じがするのよね」
「そこで、当麻さんの若者のセンスで選んでみてくださいません?」
「俺のセンスで…?」
上条のセンスは良くもなければ悪くない。至って平凡な物だ。言ってしまえば無難な物だ。そこに悪い言い方をすれば突飛な発想はない。ましてや料理の盛り付けに関するセンスなんて皆無と言っていい。そんな自分に意見を求められても困る。
「そ、そういう事なら父さんに選んでもらえばいいんじゃない?」
言って自分で失敗だと気付いた。刀夜の買ってきたお土産というのはお世辞にもセンスがいいとは言えない物ばかりだった。ナチュラルにセクハラをかます様なセンスの持ち主には、あまり聞こうとは思わないかもしれない。
「ほら、いいから決めちゃって!」
「そうですよ、当麻さん。適当にやっちゃってください」
「あの、えと、そのー…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上条が予想外の盛り付け地獄に地味に襲われている間、ブクブクと泡を出しながら美琴は口元まで湯船に浸かっていた。
(何もできないなんて……)
話してくれた事は素直に嬉しかった。自分を頼ってくれたんだと。でも、自分は何もできなかった。話を聞いてもそれは誰にもどうしようもない事だった。理屈はそれで納得しろと言っている。けれど感情は何かしたいと叫んでいる。自分がアイツを助けたいんだと。アイツを笑顔にしたいんだと。
(私だって当麻に何かしてあげたいんだよ…? 何かさせてよ……)
逆上せてきて少しボーっとしてる頭でそう思う。湯船からあがり、脱衣所で替えの服に袖を通して最後にネックレスを首に回す。握るとチャリ、と小さく音を立てた。
風呂からあがってリビングに行くと美味しそうな匂いがした。ソファーにはコーヒーを飲みながら、キッチンから聞こえる喧騒に笑みを浮かべている刀夜がいた。湿った足がフローリングを踏む足音に気付いて、刀夜がこちらに顔を向けてきた。
「おお、上がったね。何か飲むかい?ココアならすぐに出せるけど」
「あ、お構いなく…。水でいいですから」
「わかった。持ってくるからソファーに座ってるといい」
「はい、ありがとうございます…」
勝手知ったるなんとやら、といったところか。既に御坂家の物を我が家のように使っている刀夜を見ると、自分が他人の家に上がった錯覚すら覚えてしまう。その刀夜は器用に喧騒を回避してコップに水を入れて持ってきてくれた。その前に、
「当麻、美琴ちゃんが上がったからお前も温まってきなさい」
「うーい」
と言いながら当麻は美鈴に場所を聞いてから浴室に消えていった。そして再び始まるキッチンの喧騒。もう盛り付けその物は終わっているというのに。
「はい、美琴ちゃん」
「あ、ありがとうございます…」
「どういたしまして。ところで、美琴ちゃん」
「なんですか?」
ふと見ると、刀夜の顔がどこかだらしのないおじさんの顔から凛々しい父親のそれへと変わっていた。
「失礼を承知で聞くけど、当麻に何を言われたんだい?」
「…っ!」
「これでも私は当麻の父親だ。なんとなくだけど、わかるものなんだよ。君もいずれ親になる。その時になるとわかるさ」
「………………………」
「もちろん話したくなければそれでいいよ。これは世話焼きなおじさんのいらないお節介だ。不愉快に思ったら素直に謝るよ」
「………何かを言われたって訳じゃないんです…」
「うん…」
相づちを打つ刀夜の声は優しくて柔らかい。
「ここに着いてから当麻、寂しそうな顔ばっかりするんです……」
「寂しい?」
「…、この街の事、覚えていないそうなんです。それが少し、寂しい、って…」
「そうか…」
上条がここを離れたのは幼稚園を出てからすぐのことだった。覚えていないのも無理はない。上条も進んで帰ってくることもなかった。当麻にとって、いや、私たちにとってここはつらい思い出も多い…。
「…でも、当麻、笑うんです…。寂しいはずなのに…」
「うん…」
「いつも、当麻は助けてくれるのに…、私は、当麻を助けられないのが‥寂しいんです……」
「…、大丈夫だよ、美琴ちゃん。寂しがらなくていいよ。大丈夫だ。君はちゃんと、当麻を助けてくれている」
「え…?」
そんなはずない。だって、自分はいつもいつも当麻の背中を追っている。あの背中に追いつきたくて、ようやく追いついたら今度はその背中があまりに大きくて。追いつこうと頑張っても、空回りして当麻に助けてもらって。その繰り返しばっかりで…。
「…?」
気付くと刀夜が自分の胸元を指さしていた。その先にあったのは上条から初めて貰ったネックレスだった。
「私もあまり詳しくないんだけど、確かその宝石の言葉は『希望』だろう?当麻は口下手だ。それに超がつくほどの鈍感だ。当麻が何故君にその宝石をあげたか、言っていないと思うんだけど、どうだい?」
そういえば、言っていなかった気がする。もう片方は言っていたが、こちらの宝石は言っていなかった。単に知らなかっただけなのかもしれない。けれど、あの宝石店には宝石言葉も書いてあった。もしかしたら、当麻は知っていたかもしれなかった。
そして宝石を差していた指をあげて、その指は美琴の顔を差していた。
「それはね、美琴ちゃん。当麻にとって君が『希望』なんだよ」
「……っ!」
「当麻は君がいればそれで笑っていられるんだ。寂しい気持ちがあっても、君がいれば何とかなると思っているんだ。君がいれば、それだけで当麻は嬉しいんだよ」
「…………」
「だから、助けられないなんて、言わないでくれ。そんな事を言われたんじゃ、私もお礼を言いにくいじゃないか」
一呼吸入れて刀夜は言った。
「当麻の傍にいてくれて、ありがとう」
……あぁ、やっぱりこの人は当麻の父親なんだ…。
不意にガチャリとリビングの扉が開く。ウニのような髪がペタンとなった上条だった。
「ふぅー、気持ちよかっ…。って美琴!? おい! どうした!? まさか親父に泣かされたのか!? そうかそうなんだな!? 親父ー!!」
「まっ待て当麻!? その考えはおかしい!!」
親を殴ろうとする子、というおかしい構図がしんみりしていたリビングを一気に騒がしいものへとがらりと変えた。そこにようやく盛り付けに決着がついた奥さんたちがやってきた。
「あらあら、二人とも。人の家でこれは騒ぎ過ぎではないのかしら…?」
『っ!?』
詩菜のたったそれだけの言葉で親子の追いかけっこはすぐに止まった。しかし親の地獄はまだ止まっていなかった。
「さっき、美琴ちゃんを泣かしたって声が聞こえてきたんですけど…?」
「あらあら、刀夜さんったら…。あんな可愛い子を泣かせてしまったのかしら…?」
「だっ、だからそれは当麻の勘違いで…!?」
そして勘違いをした当人に助けを求めようと見やると、美琴の前にしゃがんでいてこちらの事など既に意識から外れているようだった。
『詳しく話してくれますよね…?』
「不幸だーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
阿修羅と化した奥さんズに押され刀夜は叫んでいた。
その叫びを背景に美琴は、濡れた目を擦りながら上条の袖をひっぱり自分の部屋へと連れて行く。引っ張ってこられた本人はドキドキしていた。彼女の部屋に入るのはかなりドキドキする。
「…、どうしたんだ、美琴…」
尋ねるも美琴は顔を俯かせ黙っていた。そこから大体5分くらいか。ようやく美琴が口を開いた。
「……私は、当麻と一緒にいていいんだよね…? …、隣にいていいん、だよね…?」
「はぁ?」
あまりに突拍子もない質問だった。そしてあまりにどうでもいい質問だった。
「お前以外の誰が俺の隣にいるんだよ。お前、意外とお馬鹿さんか?」
「…………………うん…………」
小さく返事をして、またぽろぽろと涙をこぼす美琴に、上条は困っていた。何でこんな当たり前の事で泣くのか。頭を撫でても泣きやまないし、こんな時に何を言えばいいのかもわからないし。
いや、言葉はあるんだけど、これは明日、用意していたクリスマスプレゼントと一緒に言いたいし…。う~ん、一日フライングするのも、ありかなぁ。
そして、クリスマスイブだし美琴が泣きやむならいいか、と考えがあっさり決まる。コホン、と小さく咳払いをしてから美琴の肩を掴み正面から見つめる。
「いいか、一回しか言わないからな。よーく聞いとけよ?」
「…?」
「俺の『Puーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』れ」
「?」
「…………っ!!」
外でトラックがドでかいクラクションを鳴らしたようだった。結局何を言ったのかまるで聞こえなかった。
「……、いいぜ、テメェが俺の邪魔をしたいってんなら! まずは! テメェのそのふざけた幻想をぶち殺してやる!!」
「わっ!? 危ないってば!!」
部屋の窓を開けて、雪が降りしきる中、素足のまま飛び降りようとしている上条の袖を慌てて引っ張る。そして上条も急に引っ張られてバランスを崩して後ろへ倒れ込んでしまった。
「っ!?」
美琴を押し倒す形になり、彼女の腕は自分に首に回されていた。決して離さないように力強く。
「ねぇ、もう一回言って…?」
「……仕方ねぇ。これで最後だからな。……ふぅ。俺の『Puーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』。………」
「あはは……」
「……やっぱりぶち殺してくるわ…」
「だから危ないってば!!」
ふらぁ、と不穏な空気を纏いながら立ち上がり窓の縁に足をかけて飛び降りようとする。今度は腰に抱きついて止める。そしてやっぱり後ろに倒れこんでしまう。
「わ、悪い。頭、大丈夫だったか?」
「痛い…」
「悪い! 今すぐ氷持ってくるから!」
「氷はいらないからさ、その…えと……」
「ん? なんだよ?」
「……ちゅーしてくれたら、………治る……」
意表を突かれた。何が意表を突いたって、美琴が「ちゅー」って言った事がもう可愛すぎて。小さく笑みを浮かべて、電撃姫のお言葉の通り上条は「ちゅー」をした。
当麻、その言葉、私ずっと忘れないから。あと、一つだけわがままいいかな?来年の今日、もっかい言って欲しいな。その時はちゃんと返事するから。
だって、プロポーズにはまだ一年、早いよ?