とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Aquarius



 今年も、学園都市に冷たい風が吹く。
 とあるファミレスのとある席。
 シャーペンを走らせているツンツン頭の少年と、雑誌をペラペラとめくる少女は向かい合わせに座っていた。
 上条当麻は今日も今日とて課題との格闘を繰り広げていた。
「えっと……これは、さっき教えてもらったアレだな」
 ふんふんと頷きながら、比較的軽快なスピードで問題を消化していく。
 そんな上条の様子を、美琴は雑誌から視線を外して盗み見る。
「順調そうね」
「その節は大変お世話になりましたよ、美琴センセー」
 そう言いつつも、上条は視線を外さない。
 礼を言う時くらいこっち見ても良いじゃないのよ、なんていう女心を分かるわけもなく、彼はプリントと睨めっこしている。
「はぁ………ま、いいけどね」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないわよ」
 これ以上言う事はない、と言わんばかりに、美琴は再び雑誌へと視線を向ける。
 その視界に飛び込んできたのは、星占いのコーナー。
 特に目的があって開いていたわけではないページの端にあったそれは、一ヶ月分の運勢をまとめて占っちゃおーぜなんていう雑なもので、当たるか否かレベルのものではない。
 そもそも、科学の最先端のここに居て、占いも何もないだろうと。
 そんなことは美琴も分かっている。
 それでも。
(ちょ、ちょっと見てみるだけよ……ね)
 なんだか悪戯をしているようなドギマギ感を抱きながら、美琴はするすると文字を追う。
(えっと、私の運勢は、っと―――)
 総合運も健康運もすっ飛ばして、ハートマークのついた欄を見てしまうのは恋する乙女、と言ったところだろうか。
 文字列を目で追って行く美琴の顔が、だんだんと難しく歪んでいく。
(えっと、何? 積極的にかつ素直に行動するべし?)
 もっと具体的に書いてくれればいいのに、という不満は胸にしまいつつ美琴は背もたれに身体預ける。
 素直になれれば、とはよく思う。
 でも、それはそう簡単なことではなかった。
 そうでもなければ、こんなま冬までこの想いを引っ張るわけがないのだから。
(な、なんとかなる………わよね?)
 来月はバレンタインもあるし、とまで思考を巡らせたところで美琴は首をブンブンと横に振った。
 幸いにも上条にはバレていないらしいが、恐らく顔は真っ赤になっている事だろう。
(落ちつけ、私! それについてはじっくりと作戦を練るのよ)
 美琴はふぅと息を吐き、雑誌へと目を戻した。
 そこで―――
「あれ?」
 ふと、疑問が浮かぶ。
 そう言えば、このツンツン頭は何座生まれなんだろうか、と。
 というか、そもそも誕生日はいつなのよ、といった具合だ。これでは相性占いも出来やしない。

「ね、ねぇ」
「おう?」
「アンタ、何座生まれなのよ?」
「ナニザ? あれか、星占いとかの?」
「そうそう。ちょうど星占いのってたから、アンタのも見てやろうかなーってさ」
 美琴は雑誌をテーブルの上に広げると、ようやくこちらを向いた上条の顔をじっと見る。
「いやいや、どうせ運勢は最悪外に出ちゃ危ないですよ―、とか書いてるので見なくて結構です」
「なんで全国の人が見んのにアンタ一人狙い打ちされてんのよ。良いから何座生まれか教えなさい」
 やたらと積極的な美琴の気迫に圧されるようにして、上条はシャーペンを動かす手を止める。
「水瓶座だけど……」
「おっけー。えっと、水瓶座は『貴方の運命の人は意外と身近にいるものです。視野を広く持ってみましょう』だってさ」
「はぁ……身近に、って言われるとロクなことを思い出さないのですが」
 上条は暴れまわる暴食シスターを思い出すと、いつもの口癖と共に溜息をつく。
「ア、アンタ………目の前に女の子がいるってのにそれはないんじゃないの?」
「? み、御坂さんはなんでそんなにバチバチされてるんでせう?」
「…………もういい」
 ぷい、とそっぽを向く。
 そんな美琴の想いなんて気づく様子もなく、上条はただ首を捻るだけだった。
「にしても、いきなり恋愛運って、お前……普通は総合運とか気にすんじゃねぇの?」
「っ!?」
「まぁ、お前も女の子だもんな。やっぱそう言うのって気にするんだ?」
「さ、最初に目に入っただけよ!」
「ふーん」
 興味があるのかないのか、上条は納得したような顔で頷いている。
(き、気にするに決まってんでしょうがっ)
 美琴はぎゅっと右手を握る。
 だが、上条の結果も美琴の結果も、考えようによっては好機ではないか。
 上条の『身近にいる』という点では、シスターさんは気になるものの、少なくとも圏内には入っているだろう。
 あとは自分が素直になることが出来れば、というだけだ。
(デ、デートに誘うにしてもきっかけが欲しいわよね)
 ふむ、と考え込む。
 なにも用なしに誘えれば一番簡単なのだが、それは少し気恥ずかしい。
(バレンタインもあるけど)
 それまでに一歩でも前進しておきたい、というのが美琴の考えだった。
 上条の事だからバレンタイン当日にライバルとなる人はたくさんいるのだろう。
 秘めたる想いの強さならば負ける気はしない。
 だが、もし先制で誰かが告白でもすれば、感涙しながら、ホイホイとついていく姿が想像できてしまう。
(課題に付き合った代わりに……っていうのはちょっと、ね)
 無理矢理つきあわせてしまったみたいになるのは気が引ける。
「そう言えば」
 ふと、雑誌に再び視線を向ける。
 水瓶座、と上条は言っていた。それならば―――。
「アンタ、誕生日もうすぐじゃないの?」
「え……あ、そういやそうだな」
 いやー、すっかり忘れてたぜ、と笑う上条に、美琴はまた溜息をつく。
「まぁ、上条さんにはお祝いしてくれるような人はいませんけどね」
「ふふん。じゃぁ私がお祝いしてあげるから、さっさと行くわよ」
「ちょ、おま、え? 行くってどこに?」
 上条の腕を掴んで無理矢理立たせる。
 美琴は困り顔で課題のプリントと鞄を持つ彼をファミレスの入口まで引っ張って行く。
「どこって、プレゼント買いに行くのよ」
「今から?」
「今から」
 にこっと、美琴は楽しそうに笑う。
「ふ………こうじゃねぇわな」
 課題を攻略しておきたい気分ではあったが、こうも綺麗に笑われてはどうしようもない。
 諦めたように課題を鞄に戻し、上条は美琴の後を追った。



 美琴に右腕を取られたまま、上条は通りを歩いていた。
 突き刺さる黒い視線が妙に痛く感じてきたころ、上条は視線を美琴へと向ける。
(なんで今日のコイツはこんなに積極的なんでせう?)
 あててんのよ、とでも言いそうなくらいに、彼女は上条の右腕を掴んで離さない。
 ハイになってしまっているのか、爛々とした表情は眩しいくらいだ。
「ねぇねぇ、あのゲコ太人形とかどうよ?」
「そりゃ、お前の欲しいもんだろうよ」
「アンタね、さっきからそればっかりなんだけど」
 そりゃそうだろうよ、と上条は言葉を飲み込む。
 ファンシーグッズの山から選んだ品を見せられても、上条としては困惑するしかない。
「じゃぁ、アンタ、何が欲しいのよ?」
「そうだなぁ………」
 考えて思い出す物と言えば。
「幸せ?」
「アンタ、真面目に言ってんの?」
 どんだけ苦労してんのよ、と白い目で見られる。
 不幸少年にとっては切実なのだが、さすがのレベル5でもこればっかりはどうしようもない。
(米俵レベルで欲しい、って言ったら流石に笑われるな)
 あれだけの大食いを飼っている身からすれば、何よりも食料が欲しいのは必然かもしれないが。
「えーっと、単位?」
「私にどうしろっていうのよ、それ」
「課題を手伝っていただけるだけで十二分ですよ、美琴センセー」
 お世話になってます、と上条は頭を下げる。
「そうじゃなくてさ……」
 美琴には頭を掻くしか出来なかった。
「出会いとかも欲しい、ってのわぁっ!?」
 バチィッ! という高音と共に美琴の前髪から雷撃の槍が飛ぶ。
 勿論、その槍は上条の右手に吸い込まれ打ち消されるのではあるが。
「アンタ、いい加減にしなさいよね」
「上条さんは何か変なこと言いましたか?」
 顔を青くする上条に、美琴はやれやれと首を振った。
 これは本格的に何かを楔になるようなものをプレゼントしなくてはいけないらしい。
 それも、上条を悩ませるようなものを。
「そうね………じゃぁ」
 うーん、と頭を悩ませた美琴は何かを思いついたように上条のすぐ隣に立つ。
「ちょっと、耳貸しなさい」
「は? こそこそ話するようなことなのか?」
「いいから」
 笑いながら『貸せ』と言う彼女に上条は怪訝な顔で耳を美琴の方へと向ける。

「……………え?」

 上条が感じたのは美琴の声ではない。
 頬に当たった、なにか柔らかく暖かい感触のみ。
「み、こと?」
「じゃ、じゃぁねっ!」
 上条がキョトンとしている間に、美琴は勢いよく走り去って行った。


「な、なんなんだ?」
 そっと、何かを感じた頬に手を触れる。
「も、もしかして―――」
(ほほほほ、ほっぺにキスとかいうやつですか? これがプレゼントとかいうアレですかぁぁ!?)
 ぼんっ! と上条は顔を赤くする。
 美琴が何を想ってそうしたのか、真相は確かめるすべがないが、どうやらそういうことらしい。

 ピリリリリ! と携帯が鳴動する。
「おわぁっ!?」
 近くにいた人が視線を向けるくらいに大きな声で、上条は驚く。
「なんだ?」
 受信したメールの差出人は御坂美琴。
 いつもよりも三割増しくらいの速さで受信フォルダを開いた。

『誕生日、おめでと』

 妙にそっけない文が、上条の心を暖める。
 楔、となったかは上条のみぞ知る。

『私の誕生日はよろしくね』

 スクロールした先に、書かれていた文に上条は微笑む。
「あんにゃろう……」
 携帯を閉じ、上条は帰路へと付いた。
 彼女の誕生日に、どう仕返しをしてやろうかと考えながら。


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