とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ 弱気な当麻君も可愛いと思うんだ。



とある冬の日

(寒…早く帰ろ……ん?アイツこの寒い中何して…?)

彼は、私達がよく待ち合わせに利用する公園のベンチに座り、徐々に翳っていく夕焼けを見つめていた。
学校帰りに買い物をしてきたのだろう。
ベンチの左側には、学生鞄とスーパーのビニール袋がふたつ置いてあった。
声をかけようか、とも思ったが、その背中が妙に寂しそうで。

背後から無言で、彼を抱きしめた。

「ん?ああ、美琴か。どうしたんだ急に」
「それはこっちのセリフよ。この寒い中こんなところで何してんの?」
「いや…別に何も?ただ夕焼けが綺麗だなーって痛い痛い痛い痛い!?」

適当にごまかそうとする彼の耳を思い切りつねる。

「何もないわけないでしょ?まったく、そんな寂しそうな顔して…
 どうせあの子のことでも思い出してたんじゃないの?」
「………そんな寂しそうな顔してたか?」
「うん。すごく。で、どうしたのよ?」
「…概ね正解だよ。インデックスが帰ってもう2か月くらい経つだろ?
 そりゃ時々お前が夕飯作りに来てくれることはあるけどさ、
 やっぱり誰もいない部屋に帰るのは寂しいなぁ、って思っ痛い痛い!」
「アンタね…私という彼女がいるのに他の女のこと考えてたの…?」

今度は彼の頬を左右に引っ張る。長時間外にいたことで、完全に冷え切っている。
「誰もいない部屋に帰るのは寂しい」 そりゃそうだ。
親元から離れ、学園都市で一人暮らしを続けてきたとはいえ、
彼はあの子と同居する以前の記憶を失っている。
つまり、彼の一人暮らし歴はまだ2か月なのだ。

彼に「寂しい」なんて言わせたあの子に少しだけ嫉妬。
でも、寂しがってる彼が可愛くて、私に弱音を吐いてくれたことが嬉しくて。

後ろから彼を抱きしめていた腕を離し、彼の右側に座り直す。
そして彼の右腕を抱き、上目使いでこう言った。

「じゃあ、私が一緒に住んであげようか?」

彼のことだ、狼狽えながら一蹴するだろう、そんなことを思っていたら



「そうだな…それもいいかもなぁ…」



なんて、予想だにしない答えが返ってきた。

「へ……?」
「…ん?いやいやいや、すぐってわけじゃないぞ?
 ただほら、来年の4月には美琴も高校生だろ?そしたら一緒に住んでもいいかなって」

意外な答えに舞い上がりかけた私の心は、その後の補足で急に地に落とされる。

「なーんだ、残念。でもどうしたの?いつもは『駄目!』とか『無理!』とかの一点張りなのに、
 急にそんな具体的な期間を挙げてくるなんて」
「……わかんね」
「ったく!ホラ立って!寒いから早く帰ろ!」
「帰ろ!って…お前の寮あっちだろ?」
「はぁ…だーかーらー!晩御飯作ってあげるって言ってるのよ!気付きなさいよ馬鹿!」
「いいのか?時間…はまだ大丈夫か。じゃあお言葉に甘えますかね」

そう言った彼の顔に、ようやく笑顔が戻ってきた。



「あ!」

しばらく歩いて、もうすぐ彼の寮、という所で私は”あること”を思いついた。

「どうした?学校に何か忘れたか?」
「ううん、違うけど…ちょっと荷物貸して。あとアンタの部屋の鍵も」
「いいけど…重いぞ?それに鍵なんて…あ、美琴っ!」

彼の手から、学生鞄以外の荷物と鍵を引っ手繰り、走ってエレベーターに駆け込む。
足元に落ちてしまった学生鞄を取って、彼も追いかけてくる。
が、不意を突かれた為、私の乗ったエレベーターは、彼を待たずして無情にも扉を閉めた。

「よし!」

息をつく間もなく、エレベーターは7階に止まる。
私はエレベーターを降り、その扉が閉まる寸前に回数ボタンを全部押す。
せめてもの時間稼ぎだ。

「えーっと当麻の部屋は…ここ」

急いで部屋に入り、鍵をかけ、コートと上着をハンガーにかけ、エプロンを着ける。
時間稼ぎをしたとはいえ、もうすぐ彼も到着するころだろう。
大きく深呼吸をして乱れた息を整える。
耳を澄ますと、彼らしき足音が聞こえた。

ガチャガチャッ……ピンポーン

鍵がかかっていることを確認した後、チャイムが鳴らされる。
私はとびきりの笑顔を浮かべ、鍵を開けて彼を出迎え、口を開く。


私の口から出るのは、恐らく彼が今一番聞きたいであろう言葉。
まだ一緒に住むことはできないけど。いつかは毎日聞かせてあげたい言葉。



「おかえり、当麻!」
「…ただいま、美琴」


(終)


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