小ネタ とある少女の髪型事情
深々と雪が降り積もる十二月の学園都市、天気予報では晴れ…だったはずなのだが、所詮予報である。
そろそろ年の瀬というこの時期、学園都市に住む学生の四割が新年を家族と迎えるために実家に帰省しているというこの都市の中央道を、一人の超能力者(レベル5)が歩いていた。
彼女はその長い髪を後ろで一つに括った茶髪…、もといポニーテールにした髪を揺らしながら白線に沿うように歩いてゆく。
名は御坂美琴、その能力…通称「超電磁砲(レールガン)」を振りかざす学園都市第三位である。
彼女が属する常盤台中学はここから三キロの場所にあり、よってこの辺りは休みの日は基本漫画の立ち読みな彼女の行動範囲から大きく外れている。
別に確固たる目的があって歩いている訳では無いのだが、ただの散歩という訳でもなく。
大まかにいうと…この辺はあのツンツン頭の高校生の学校がある学区だからもしかしたら会えるかな…?みたいな淡い望みが見えたり見えなかったりな散歩なのだ。
「……それで新しく開発された「延毛技術」の成果たるこのポニーテール見てもらえたら嬉しかったり……って何言ってんの私!?ないない、こんなところでバッタリとか今時漫画でも見ない…」
「何がだ?」
「うひゃおうおぉえ!!??」
「斬新なビックリ声だなオイ」
まぁビックリするのも無理はない、何故なら目の前に目的のツンツンがいつの間にか立っていたのだから。
彼の名は上条当麻、その不運な能力(?)…「幻想殺し(イマジンブレイカー)」を振りかざす無能力者(レベル0)である。
「何!?今アンタどっからどこまで聞いてた訳!?」
「…とりあえずそのポニーテールが「延毛技術」っていうやつで作ったっていうのはわかった」
「結構最初からじゃないのよコラァッ!!」
「ヒィッ!?ポニーテールが帯電して逆立ってますけど!?」
その髪もまた彼の右手に触れただけで生気を抜かれたように元に戻ってしまうのだが。
「…はぁ、で?アンタここで何やってる訳!?」
場所的には彼女の方が「何やってる」なのだがそんなことを気にする学園都市第三位ではない。
「補習ですよほしゅー、二学期末のテストで盛大なる大ポカをやらかした上条さん+青いの+サングラスは担任つきっきりで補習ですよーだ」
大ポカの詳細を話すと上条が通う高校の評判を思いっきり落としかねないのでここは割愛させていただく。
「アンタそんなんで進学できる訳?…そもそも卒業できるの?」
「うっ…中学生に卒業の心配された…」
「勉強なんか結局日々の積み重ねなんだから」
「さらに中学生に勉強の事まで諭された!?」
「ねぇ、そんなことより…」
「そんなことッ!?」
「あっ、アンタこのポニーテールどう思うのよ」
ふむ、と。
ここで高校生上条当麻は考え込んでしまう。
好みは寮のお姉さん、と公言する上条にとって認めるのは少し癪なのだが、出会ったとき少し可愛いと思ってしまった。まるで女の子になったように。
………まぁ元から女だけど。
「まぁいいんじゃねぇか?何かいつもより大人っぽく見えると思うぞ……?」
「最後のクエスチョンマークが果てしなく気になるんだけど……えっと…それって褒めてるのよね…?」
「ん?うんまぁ褒めてる」
「(……何か嬉しい…)」
「おーい?何か目が泳いでるぞ?おーーーい?」
「そっ、それならもう何時もこの髪型にしようかしら……」
「うーん…だけどなぁ…」
「何よ?」
「いっつもそれっていうのも…お前らしくないっつーか」
「?結局何が言いたいのよ?」
一人のシスターがいる。
純白の修道女服…上条に言わせればティーカップのような服に身を包んだ彼女が御坂美琴のことを何と呼んでいるか。
日本人では無い、それ故に人をそのイメージで呼ぶような彼女が御坂美琴のことを何と呼んでいるか。
「……短髪、ね」
「はい?」
「俺は……俺はその髪型も良いと思うけど…やっぱりビリビリって言ったら短髪だな。それじゃなきゃお前らしくねぇ…と思う、うん」
「…けっ、結局ハッキリしないわね…」
「まぁいつも通りが一番ってこった、あの髪型似合ってたしな!……と、補習の身な上条さんはここらで急がなくては、じゃあな」
「えっ?えぇ!?ちょっと!今褒めたの!?…ってもういねぇし」
それでも。
それでも彼女は寮を出るときよりほんの少し幸せだった。
ポニーテールを褒められたことより、ショートカットを褒められたことより、彼女にどんな髪型が似合うかあの少年が真剣に考えてくれたことが。
彼が自分を異性として見てくれたことを垣間見れたことが。
「(…よし、今度はどんな髪型にしてみようかな…)」
そんなこんなで学園都市の都市は暮れていった。