とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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You_are_my...? 2 [2/13]



 2月13日、日曜日。上条当麻は一人で家にいた。もうすぐ美琴が訪ねてくる。

 結局、この3連休のほとんどを上条は美琴と過ごすこととなっていた。
祝日だった金曜はほぼ丸一日かけて、ファミレスで美琴に課題を手伝ってもらった。小萌先生が通常の宿題に加え、「上条ちゃん専用課題」なるものを手加減なしで出してくれたおかげである。それでも一日で終わったのは、ひとえに学園都市第3位を誇る美琴センセーのおかげだ。
土曜は今日の為の買い出しをした。せっかく外に出たのだからと、何故か映画も観ることになった。前日に頭を使い過ぎて疲れていた為、上条は鑑賞中ずっと爆睡していた。その間ずっと美琴が上条に寄り添って手を握っていたなんて話は、寝ていた上条が知る由もないことだ。
ちなみにこんな3連休が実現したのは、小萌先生が「三日間食べまくりツアー」とやらにインデックスを誘ってくれたからである。上条ちゃんは三日間課題で忙しいだろうと考えた小萌先生による素敵な配慮だった。

 上条がここ数日のことを思い出していると、不意にインターフォンが鳴った。
「お、きたきた」
 ドアを開けると、そこにはいつも通り常盤台中学の冬服に身を包んだ御坂美琴が立っていた。
「迷わなかったか?」
「大丈夫よ。アンタが昨日GPSの使用コード送ってくれたしね」
「そっか。寒いし早く入れよ」
「え? あ、うん」
「? どうかしたか?」
「ふえ!? う、ううん。なんでもにゃい……」
「ならいいけど。ほら、どうぞ」
 上条が招き入れると、
「お、お邪魔します……」
 まるで迷宮にでも入るかのように、美琴はおずおずと中に入った。ドアを閉めた瞬間「にゃ!?」という変な声が聞こえたのは気のせいだと思う。
 だって考えてみたら男の子の部屋に入るのなんて初めてで緊張したんだもん! というのは後の美琴の言い分である。

 美琴に洗面所などの説明を一通りすると、上条はエプロンを身に着けて台所へと美琴を手招いた。
「これでいいか? 一応お前に言われたものは用意しといたつもりなんだけど」
「ふむ。どれどれー?」
 調理台の上には今日のチョコ作りに必要な調理器具が並べられていた。昨日の内に美琴がメールで指示した通りだ。
「生クリームとかはまだ冷蔵庫の中だけど」
「問題ないわよ。ちゃんと準備出来てるじゃない。これなら手際よく作れそうね」
 作るのはトリュフ。作り方も単純で、簡単に可愛くデコレーション出来るのが嬉しい定番チョコレシピだ。
「じゃあ早速作り始めましょうか」
 今日買った材料を冷蔵庫に入れ、持参したエプロンを身に着けた美琴が言う。
「アンタはお湯を沸かしてくれる? 私は板チョコ刻むから」
「わかった」

 現在時刻13時過ぎ。
上条当麻と御坂美琴の楽しいクッキングタイムが始まる。


 トントントンとまな板を叩く軽快な音が響く中、
「結構な種類買ったけど、アンタはどれが好みなの?」
「味か? そうだな……俺はビターとか好きだぞ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「ホワイトも好きだけど、たくさん食べると飽きるしな」
「ふーん、なるほどねぇ」
「ストロベリーや抹茶とかって、あんまり普段食べないからなぁ」
「じゃあもしかすると今日から好物になっちゃうかもよ?」
 そんな感じで雑談(のようで実はちゃっかりした美琴の情報収集)をはさみながら、二人は順調にトリュフ作りを楽しんでいる。
 すでにいくつかの溶かしたチョコレートは冷蔵庫の中で冷やされており、今は第四弾となる抹茶チョコレートを刻んでいる。
「そろそろいい時間かしら。冷蔵庫の中チェックしてみて」
「おう」
「包丁で切れるくらいの硬さだったらOKよ」
「……、ミルクとビターは大丈夫そうだぞ? ホワイトはまだ掛かりそうだな」
「そう。じゃあこれ刻み終わったらミルクとビターから丸めていきましょ。パウダーの準備しといてくれる?」
「任せとけ」
 ココアパウダーを大きな皿にふるい入れつつ、上条はチョコレートを刻む美琴を盗み見る。
(ビリビリさえなけりゃコイツも可愛い普通の女の子なのになぁ……。面倒見も良いし、見る限り料理や家事も出来そうだし、結構いい奥さんになりそうだよなぁコイツ)
「……、何アンタこっち見てんのよ? あッ!? よそ見しないで入れなさいよアンタ! 粉末こぼれてるんだけど!?」
「え? ええッ!?」
 そんなハプニングがありながらも、二人の平和なクッキングタイムは楽しく過ぎてゆく。


「出来たっ♪」
 時刻はすでに17時。
「おおっ!!」
 エプロンを付けた二人の目の前には丸いコロコロした色とりどりのトリュフがたくさん並んでいた。冷蔵庫の中にある分も合わせると相当な数になる。
「じゃあ私は夕飯作るからラッピングは……」
「5つずつだろ? 上条さんに任せなさいっ!」
「うん。ありがとね」
 トリュフは完成した。後は袋に小分けするだけだ。
 ただ門限のこともあるので、美琴には夕飯を作ってもらい、その間に上条が一人で小分けすることになった。
「あんまり時間ないから焼き飯にしちゃうけどいい?」
「御坂に任せるよ」
 そうこうしている内に小分け作業も3分の1ほど終わり、台所からは美琴の楽しげな鼻歌が聞こえている。
 内職ってこんな感じなのかなー? とか思いつつ、台所から漂う美味しそうな匂いを嗅ぎながら黙々と小分け作業を続ける上条であった。


 2月13日、真夜中の常盤台学生寮。御坂美琴は寮内の調理室にいた。普段は鍵が掛かって入れないのだが、とある給仕の少女との取引を経てその鍵を今夜だけ貸してもらったのだ。少女曰く「これかー? みさかがくれたんだぞー。私好みな兄と妹でドロドロになるマンガだぞー」らしい。
 あの後は上条と一緒に夕飯を食べ、上条が小分けしてくれたトリュフを美琴の取り分だけ受け取り、門限ギリギリに寮へと帰ってきた。
 夕食時の不在はいつものように白井が上手くごまかしてくれていたらしい。その代償とばかりにこの連休中のことを色々と聞かれたが、何とかごまかして今に至る。

「アイツの好みはビター。ホワイトも好きだけど、少しがベスト」
 誰に言うでもなく、美琴は今日得た情報を整理してゆく。寮監の見回りなどもある為、許された時間はわずか。一秒たりとも無駄には出来ない。
「ようし。見てなさいよッ!!」
 誰に言うでもなく、美琴は気合いの一声を出す。
 帰り際、上条と明日の放課後に会う約束もきちんと取り付けられた。というか、珍しいことに、上条の方から言い出してくれた。美琴はその時のことを思い出す。

「門限ギリギリになったな。大丈夫か?」
「何とでもなるわよ。黒子もいるし」
「そんなもんなのか?」
 上条は自ら進んで、美琴を途中まで送ってくれた。本当は寮まで送ると言ってくれたのだが、それは美琴が断った。本当に嬉しかったのだが、誰かに見られる可能性を考えて断ったのだ。
「じゃあここまでで」
 とある分かれ道で上条は立ち止まった。セブンスミストへ行く時に通る道だ。
「今日は本当にありがとな。夕飯も美味しかったよ」
「こちらこそ。楽しかったわ。ありがとう」
 自分でもビックリするくらい、素直に言葉が出てきた。この調子で明日も素直に言えるといいのだけれど。
「なぁ御坂」
「ん? 何?」
「明日も会えるか?」
「え!? そ、そりゃ放課後なら会えるけど……」
「そっか。じゃあ明日の夕方5時にいつもの自販機前で会おうぜ」
「え!? あ、うん」
 美琴が顔を真っ赤にさせながら頷いたのを確認すると、
「じゃあまた明日な」
 笑みを残し、上条は走り去ってしまった。帰り道とは違う道だったが、どこか立ち寄る場所でもあったのだろうか?

 とここまで思い出に浸って、はっと美琴は我に返る。
「しっかりしろ私!! 時間は有限なんだから!」
 レシピは……大丈夫。頭の中にちゃんとある。
 真夜中の調理場で今、御坂美琴の「本命」作りが始まる。

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