とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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学園対校障害物リレー




大覇星祭三日目午後。
第七学区にあるこの競技場で、今『学園対校障害物リレー』が開催されようとしていた。

学園対校障害物リレー。
それはその名の通り、いくつもの学校が参加する障害物競走のリレー版である。
各学園で10名1組のチームを作り、それぞれの走者が200m区画にある3つの障害物を突破して、
次の走者にバトンを渡さなければならない。
しかも障害物は走者毎に別々の物が用意してある(10人×3で30もの障害物が用意されている)
という気合の入れようだ。さすがは大覇星祭といったところか。

そんな中、仁王立ちして対峙している二人のアンカーがいた。

「ふっ……ふっふっふ! とうとうこの時がやってきたわね! 白黒つけられるこの時がっ!」
「へっ…! その余裕、いつまで続けられっかな? 恥かく前に棄権する事をオススメしますぞ?」

常盤台中学二年代表・御坂美琴。
とある高校一年男子代表・上条当麻。
二人は本日、今大会初の直接対決を迎えようとしていた。
…初日に上条が玉入れの競技で乱入して美琴と対決をした(ついでに押し倒した)が、
アレは勿論ノーカンである。

大会初日は使徒十字を巡る魔術サイドとの戦い、
二日目は美琴をレベル6へと押し上げる為の科学サイドの計画と息つく暇もなかったが、
ここにきてようやく二人は、平和(?)に競技に参加できるようになったのだ。

「『約束の事』、忘れてる訳じゃないわよね?」
「ぐっ…! う、うちにもまだまだ逆転のチャンスはあるんだからな」

睨み合いながら美琴が言った『あの約束』とは、初日に交わした例のあの事だ。
「負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く」という罰ゲームを受けなければならないのだ。
もっともそれは個人戦ではなく、あくまでも学校全体で取得したポイントで勝敗を決めるので、
今回の直接対決で決まるという物でもないのだが、それはそれ、これはこれだ。
こうして戦うからには、やはり勝ちたいのである。

「チャンス~? この点差を見てもそんな事言えるのかしらん?」
「……大丈夫だ。問題ない」

上条の高校と常盤台中学の間には、かなりの点差が開いていて、
しかも先に述べた二日間に亘る連戦で上条はもうボロボロなのだが、
美琴は『あの約束』を反故にするつもりはないらしい。何か余程『上条にしてほしい事』でもあるようだ。
ハッキリ言って逆転は絶望的だが、それでも強がりだけは言っておく上条である。

二人がそんな事で言い争っていると、応援をするギャラリーの大声が聞こえてきた。

「当麻さーん! ガールフレンドが相手だからって、手を抜いたらいけませんよー!?」
「当麻ー! 女子中学生と羨まけしからん事をしてないで、
 ちゃんと競技に集中するんだぞいや違うぞ母さん羨ましいと言ったのはそういう意味ではなくて
 いやだからもう本当にすみませんでしたーっ!!!」
「とうま! 短髪なんかやっつけちゃえばいいんだよー!」
「おらぁー、上条当麻ー! 貴様、負けたりしたら承知しないわよー!」
「上条君。頑張って。…でもあまり無理しないで」
「上条ちゃーん! くれぐれも怪我には気をつけてくださいなのですよー!」
「上条ー! せっかく私が解説の仕事すっぽかしてまで応援に来てやったんだから、
 中学生をナンパするのは後にしてほしいんだけどー!?」

「御坂さーん! あたしも初春も応援しに来ましたよー!
 この競技、柵川中学【うち】は参加してませんのでー!」
「御坂さーん! 『昨日みたいに』お腹壊しても大丈夫なように、お薬用意しておきましたからー!」
「お~姉様あああああ!!! 黒子は…黒子はご一緒に戦う事はできませんが、
 せめて観客席からお姉様の勇姿この目に焼き付けておきますのでご安心を~~~!!!」
「御坂様! 今、婚后さん(常盤台中学の第九走者)にバトンが渡りましたわ!
 もうすぐ順番ですわよ!」
「白井さんも湾内さんも、勿論わたくしも、御坂様の走るお姿をここで拝見させていただきますわ!」
「美琴ちゃ~ん! ファイト、ファイトー!
 あ、それと上条くん。ちょっとくらいなら美琴ちゃんのおっぱいとか触ってもいいわよ?」
「御坂さーん! 大覇星祭限定Ver.のストラップ、もうお買いになりましてー!?」

色々とツッコミどころのある応援【やじ】に、
美琴は顔を真っ赤にさせ、上条は苦笑いを浮かべた。


婚后はドロだらけになりながら、こちらに走ってきていた。
ちなみにだが、彼女も前日に事件に巻き込まれて入院していたのだが、
幸いそれほど深手ではなく、医者の腕が良かった事も手伝って、今日の午前中には退院したのだった。

「御坂さん! これを!」

手に持っているバトンを差し出す婚后。しかしその後ろから追いかけてくる少年が一人。

「カ~ミや~~~ん!!! 後は任せたぜい!!!」

上条のクラスメイト、土御門だ。彼もまた、婚后同様ドロに塗れていた。
ちなみに彼も、能力者でありながら魔術を酷使した事で初日からボロボロになっていたのだが、
自らの肉体再生の能力を使って、何とか走れるまでには回復した。
もっとも、「舞夏【いもうと】が応援してくれてんのに、いつまでも寝てなんていられないからにゃー」
というのが本音なのかも知れないが。

現在3位の学校とは大きく差をつけ、2位が上条の通う高校、僅差で1位が常盤台中学となっていた。
全校生徒がレベル3以上で構成された常盤台ならば、
2位との差をもっとぶっち切ってもおかしくないのだが、やはりそこはお嬢様なのだ。
今の婚后や土御門の姿からも想像できるように、障害物競走というのは汚れる物だ。
(ちなみに第九走者の障害物の一つには、『砂場匍匐前進』なる物があったらしい)
箱入りの彼女達の中には、靴が汚れるのすら躊躇う者も多く、
障害物を越える事に躊躇している間に、追いつかれたりしたのであった。

美琴は婚后からバトンを受け取り、上条に「お先♪」と言い残して横切って行った。




第十走者第一の障害物・「網くぐり」

網くぐり。
コース上に網が広げており、選手はそれを潜って渡らなければならないという、定番の障害物だ。
基本的にこの競技、先頭の選手の方が不利である。
後に続く選手は先頭の選手が開けてくれた空間を渡れるのだから。
だがしかし、そこは不幸が売りの我らが上条さんだ。
美琴の数秒後に網に入ったまでは良かったのだが、

「ちょ、ア、アアア、アンタ! へ、へ、変なトコ触んないでよ馬鹿っ!!!」
「し、仕方ねーだろっ!? わざとじゃないんだし!」

美琴も巻き込んで、盛大に絡まっていた。

「や、ぁん…そこっ、は、んっ、はっ! だ…め……んにゃあぁっ!!!」
「おおお、お前こそ変な声出すなよ!!?」

狭い空間で網に締め付けられながら汗ばんだ身体を絡ませ合う、うら若き男女。
中々どうして、とてもけしからん状況である。
爽やかなスポーツの祭典で、一体何をやっているのか。
大覇星祭はテレビ中継もされて、この様子が全国のお茶の間にも流されるというのに。
きっと慌てて録画をしたお父さんも多い事だろう。

「…っぷあ! 出れた!」

結果、先に網から這い出たのは上条だった。ここに来て常盤台は、逆転を許してしまったのである。
そして残された美琴はと言えば、

「ぁ…はぁ、はぁ………んっ、くぅ…!」

未だに網の中で、見えない『何か』と戦っていた。


第十走者第二の障害物・「飴食い競争」

飴食い競争。
コース上に選手と同じ数の机と番号の付いたプラスチック容器が置いてあり、
容器の中には大量の片栗粉と一つの飴玉が入っている。
そしてその飴玉を手を使わずに探し出すという、これまた定番の障害物だ。
人数分用意はされているが、後の選手がすでに飴玉を取られた容器を選ばないように、
それぞれ使う容器の番号が決められている。現在先頭を走る上条は④番、続く美琴は③番だ。

「ぜぃ、ぜぃ…ア・ン・タ・は~~~……さ、ささ、さっきはよくもやってくれたわねっ!」

上条から遅れること数秒、美琴が上条に追いついた。
顔を真っ赤にさせて息を切らしているのは、果たして全力で駆けつけたからという理由だけだろうか。
上条は粉まみれで真っ白な顔を美琴の方に向け、口から白い煙を噴出させながら話しかける。

「ばふっ… あー…もう追いつかれたか……」

その顔に、美琴は思わず吹き出した。

「ぷっ! アンタ何て顔してんのよ」
「うるへー! お前だってこうなるんだよ!
 くっそ…リードしてたのに、飴が全然見つかんないから並ばれちまったよ…」

ブツブツと文句を言う上条。彼は不幸体質なので、
こういった『運』が必要なゲームは極端に苦手なのだ。
しかし彼がモタモタしていた理由はそれだけではない。

「しかも最初、間違って③番【みさか】のとこ行っちまってさ…
 せっかく飴玉見つけて口に咥えたのに、④番【こっち】来てやり直しだよ……はぁ、不幸だ…」
「ぶっふううううううううううう!!!?」

上条の一言に、容器に顔を突っ込んで飴玉を探し始めていた美琴は、盛大に片栗粉を噴き出した。
それはつまり、美琴が今顔を入れている容器には先程まで上条が顔を入れていたという事で、
その上更に美琴が今探している飴玉は、先程上条が口に咥えたという事だ。
それが何を意味するのかは、もうお分かりだろう。

「なっ、ば、ア、アアア、ア、アンタ何してくれちゃってる訳っ!!?
 そそそそれってつまり……その………かっ、か…かかかかかかぁあああああっ!!!」

耳まで真っ赤になる美琴に、上条は無自覚にトドメを刺す。

「あ、そうだ。ちなみにだけど御坂ん所の飴はコーラ味だったぞ」

ボフン!、と音を立てて、そのまま上半身を前倒しに顔面を容器に突っ込む美琴。
幸か不幸か、その瞬間に偶然にも飴玉が口に入る。
口の中に広がるコーラの味は、何だかやたらと甘く感じるのだった。




第十走者第三の障害物・「向かい風」

口の中でコロコロと飴玉を転がせながら、美琴はレースの最後の難所と戦っていた。
本当は第一・第二の障害物を通過する時に『色々とやらかしてしまった』ので、
気を抜けば全身から漏電させて気絶でもしそうな所(後の「ふにゃー」である)なのだが、
今は常盤台の代表としてここに立っている身だ。そんな事をしては沽券に関わる。
なので美琴は、その事をあまり考えないようにして踏ん張っているのだ。精神的にも、

「くっ…! 気ぃ抜いたら飛ばされそうね…これ…!」

物理的にも。
最後の障害物はいたってシンプル。逆風の中を突っ切ってゴールポストに辿り着く事、それだけである。
ただしゴール前で風を送っているのは、運営委員が用意したレベル3以上の風力使い達だ。
美琴の能力は応用力が高いが、風相手では流石に干渉できず、
せめて吹き飛ばされないように、地面の砂鉄と自分の体を磁石にしてくっ付けながら、
一歩一歩地道に進むしかない。
そんな中、後ろから涼しい顔して追いかけてくる少年の姿が。


「へっへ~ん! またまた追いつきましたぞ~!」
「なっ! ア、アンタ!」

上条の顔を見て先程までの恥辱の数々を思い出して、あらゆる意味で頭が沸騰しそうになる美琴だが、
顔を左右に振って冷静さを取り戻す。

「…けっこう離したと思ったのに……アンタの『それ』反則なんじゃないの?」
「ふっふっふ…俺の『これ』だって立派な能力なのですよ」

上条は右手を前に突き出し、風を打ち消しながら進んでいる。
上条にとって異能の力で作り出した障害物など、初めから無いに等しいのだ。

「んじゃ、おっ先~♪」
「あっ! んにゃろう!」

上条は仕返しとばかりにイヤらしいニタニタ顔を向けながら、「お先♪」と言い残して走り出す。
こちらはモロに風の抵抗を受けているのに対し、障害物を打ち消せるあちらは最早ただの徒競走だ。
手を前に伸ばしたまま走るその姿は若干マヌケではあるが、しかしこのままではそのマヌケに負ける。
何か打開策はないものかと、学園都市第三位の頭脳を使って演算する。
すると美琴の、一つの妙案が浮かんできた。

(そう言えば…ゴールポストも『鉄』じゃない! 何で今まで気付かなかったのかしら!)

ゴールに使われている二つの支柱。その材質は美琴の言う通り『鉄』だ。
風には干渉できなくても、鉄ならば話は別だ。
現に今もこうして、砂鉄に磁力を与えて立っているのだから。

美琴はニヤリと笑い、ゴールポストに磁力を与え、自分とゴールを強力な磁石にする。
突如、美琴の体がふわりと浮かんだ。

「わははははーっ! 一着はいただくわよ!」
「なっ!? ずっけぇ!」

もの凄い速さで上条を追い抜き、ゴールと引き合う形で文字通り「飛んで行く」美琴。
上条も、美琴が何をしたのか理解して「ずっけぇ!」と叫んだ。
しかし先程自分で発した言葉が完全にブーメランとなって返ってきた。
上条の幻想殺しが立派な能力ならば、美琴の磁力操作も立派な能力なのだ。

だがここで、上条の不幸体質が美琴にも移ったのか、
美琴はとんでもないアクシデントに巻き込まれる事となる。

美琴が上条を追う抜く瞬間、上条の右手が体に触れてしまった。
幻想殺しにON/OFF機能は無い。
それが異能の力ならば、問答無用で打ち消してしまうのが幻想殺しという能力なのだ。
つまり美琴の体に触れた瞬間、美琴の体を覆っていた膨大な磁力の塊は、
綺麗さっぱり消えてしまったのである。

「!!? きゃーっ!!!」
「っ! 御坂っ!!!」

磁力に引っ張られていた美琴は急に自分の能力が消えてしまい、
しかも空中にいた為に身動きが取れず、
前方から吹き荒れる風の能力に煽られて、後ろに吹き飛びそうになる。

「つかまれ御坂っ!!!」

しかし咄嗟に上条が腕を伸ばした事で、大惨事になる事はなかった。
…いや、ある意味においては大惨事と言えなくもないのだが。

美琴に腕を伸ばした事で上条も巻き込まれて吹き飛んだ。
二人分の体重なので大きく飛ばされはしなかったが、
それでも風の影響で、二人してゴロゴロと転がっていく。

「いっ…つー! あ、ありがとアンタ。助かっ…た…?」

止まったので、頭を押さえながら上半身を起こし、上条に礼を言う美琴。
しかし何故か疑問系だ。それもそのはずである。

「もががっ… うぁえ? わんがくわいあ…(あれ? なんか暗いな…)」

一緒に転げまわっている時は気付かなかったが、
二人はどうやら『抱き合いながら』ゴロゴロしていたらしく、
そして更に最悪な事に、今現在、上条の顔は美琴の両足の間に挟まっていた。
つまり、だ。ミコっちゃんのお股に顔を埋めてモガモガしていやがるのである。

瞬間、

「いいいいいいいいぃぃぃぃやあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

という美琴の絶叫が会場に響き渡ったのだった。



ちなみにだが、二人がこんな事をしている間に、
三位以下だった他校の選手達にごぼう抜きされてしまったので、
上条と美琴は二人仲良く最下位となってしまったのだった。

その事から、この日一日上条が肩身の狭い思いをして過ごした事は想像に難くないだろう。










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