小ネタ 何度目かのバレンタイン
「…………遅い」
今日は2月14日、バレンタインデー。
当然私も当麻にチョコをあげるつもりだ。
だから「放課後にいつもの公園で」とメールで待ち合わせの約束をしたのだけれど…
「そりゃ時間通りに来るとは思っちゃいないわよ…でももう1時間近く経つじゃない…」
流石に寒空の下、1時間近く待つのはつらい。
あったかい缶コーヒーでも飲もうか、でもトイレが近くなるからなー、なんて考えていると
「遅れてすんませんでしたぁー!」
「あ、やっと来た。いつも通りとはいえ、1時間は流石に待たせすぎよ」
とはいえ、今日の大遅刻の原因くらい私にも簡単に予想がつく。
大方、今必死で土下座に専念している当麻の横に置いてある紙袋の中身の所為だろう。
「ホラ、もうアンタの土下座は見飽きたから立ちなさいよ。寒いんだからさっさとアンタの部屋行きましょ」
「ゆ、許してくれんのか…?」
「どうせその紙袋の中身が原因で誰かに追いかけられてたんでしょ?私も似たようなもんだしね…」
と、私も手に持っていた紙袋を掲げて見せる。中身は当然チョコだ。
当麻はその紙袋の中をチラリと覗きこみ
「うわ…美琴お前…そのへんの男子学生より貰ってんぞ…」
なんて言ってきた。
「慕ってくれてるのは嬉しいけど…お返しが大変なのよねぇ…」
「だよなぁ…来月は金欠…か…」
「私は金欠になんかならないけどね」
「さいでっか…流石レベル5の財力は違うねぇ…」
「お金目当てでレベル5になったわけじゃないんだけど…あ!どうせならお返しは手作りにしたら安く上がるんじゃない?
クッキーとかなら手間もそんなにかからないし。なんなら手伝うわよ?」
「…マジで?マジで手伝ってくれんのか?」
「ええ。大マジよ」
「お前…自分の分のお返しも一緒に作っちまえば楽だなー、なんて考えてないか?」
「か………考えてないわよ」
「露骨に目を逸らすな!考えてたな?考えてたよな今!?」
「私だって大量にお返し用意するの大変なのよ?便乗くらいしたっていいじゃない!
…あれ?そんなことよりまっすぐ帰ってきちゃったけど、夕飯の買い物はしないの?」
「あぁ。昨日大量に買い物したから今日はいいやと思ってな。それに、俺もお前も今日は大荷物だろ?」
「それもそうね…っと着いた着いた」
そんな雑談をしているうちに、いつの間にか当麻の部屋に着いていた。
「夕飯は食ってくんだよな?」
「うん。デザート持参だもん。バレンタインだし」
「そりゃ楽しみだな。今年は何を作ってきたんだ?」
「食後のお楽しみよ。ということで私が夕食作るから」
「了解。あ、美琴。風呂はどうする?」
「んー……」
ちょっと悩むなぁ。折角だからこのまま泊まっていきたいけど…
「帰ってからにするわ。流石に明日も学校あるしね」
~夕食後~
「「ごちそうさま」」
「どうする?すぐデザート持ってきたほうがいいかしら?」
「そうだな。美琴も門限無いとはいえ、あんまり遅くなると色々まずいだろ?」
「そ。んじゃすぐ持ってくるわね」
そう言って私は台所に行き、冷蔵庫に入れてあったチョコレートケーキを等分に切り分ける。
実はこれ、当麻からのリクエストである。
とは言っても、去年のバレンタイン直後に
「来年は何が欲しい?」「んーそうだな…チョコレートケーキなんていいんじゃないか?」
程度の会話で聞いただけなので、本人が覚えているかどうかはわからないけど。
「お待たせー。今年はチョコレートケーキよ」
「…へ?」
あれ?さっきまでの期待していた様子から一転して、驚いたような顔に変わってしまった。
「どうしたの?まさかチョコレートケーキ(これ)が嫌いなんて言い出さないでよ?」
「んなこと言わねぇよ…むしろすっげぇ嬉しいんだけど、もしかして美琴…」
「そうよね、去年食べたいって言ってたもんね?」
「やっぱりか…よく覚えてたな1年も前のことなんか…」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってんのよ」
「決まってんだろ……」
「きゃ!?」
急に抱きしめられ、後ろを向かされる。
そのまま私は、あぐらをかいた当麻の脚の上に座らされてしまった。
そして
「美琴は、俺の大切な可愛い可愛い彼女だよ」
と、耳元で囁かれた。
「ととと、当麻、アンタ馬鹿じゃないの!?そんな恥ずかしい台詞よく言えるわね!?」
自分でもわかる。今、私の顔は真っ赤だろう。
漏電していないのは、当麻との触れ合いにだいぶ慣れてきたからか、
はたまた私を抱きしめている当麻の右手(幻想殺し)のおかげか…
「ふたりきりじゃなきゃこんなこと言わねぇよ…」
振り向けば、彼の顔も真っ赤だった。
「アンタ顔真っ赤…」
「お前もだろ…」
「さ、さっさと食べよっ!ホラ、あーん…」
「はむ…ん…」
「どう?おいしい…っん!」
いきなり唇を塞がれた。当麻の舌と共にケーキが私の口の中に入ってくる。
「ん…ちゅ…美琴…」
「はぁ…んっ…なぁに?当麻」
「今日、泊ってけ」
「え?でも明日…」
「いいから。泊ってけ」
「ふふ…当麻ったら甘えんぼなんだから…いいわよ、泊ってってあげる。その代わり――――」
――――たくさんキス、してね。
~(終)~