とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part19-2

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見知らぬ記憶3


 『ア』の国の侵攻を撃退してから、半年の月日が過ぎようとしていた。
 タビカケの領地に新たな『勇者の里』を築くべく、ミノル師範を初めとした者たちが集まり、その地の開拓に精を出していた。
 その中には、トーマの姿もあり、そしてミコト姫も当然のようにその場に足を運んでいた。
 また、『ア』の国との戦闘でトーマに倒され、残された『最強の戦士・アクセラ』の姿もそこにあった。

 だが、この半年の間はミコト姫にとって決して充実した時間ではなかった。
 あの看病の日以来、トーマのミコト姫に対する態度は余所余所しいモノに変わっていた。
 共に居られる時間はあるモノの、それは彼女が望むモノからすれば程遠いモノになっていた。
 そんなある日のこと……。

「オイ、ヒーロー。ここはこンなモンでイイのか?」

「オイ、アクセラ。オレにはトーマって名前があるって何度言ったら分かるんだよ。その『ヒーロー』って呼び方、やめろよ……」

「何照れてやがる。毎日来てくれてるお姫様を邪険に扱いやがってよォ。「好きだ」って言われてンだろうが。サッサとモノにしちまえよ」

「ばっ、バカ野郎!!そんなコトが出来る訳ねぇだろう!!!アイツはお姫様なんだぞッ!!!!!」

「へーへー、ヒーロー様はそンなコトに拘ってンのかよ……ッたく……」

「そう言うお前こそ、ラスト姫様にエラく懐かれてるじゃねぇか?」

「あっ、アレは……森の中をウロウロしやがって、それで猛獣に襲われそうになってやがったのを、助けてやっただけで……」

「何だァ~……白が赤に変わってんじゃねぇか?お前……もしかして……」

「ばっ、バカ野郎!そンなンじャねェ!!!」

「へヘッ……そう言うことにしといてやるよ。『最強の戦士』さん」

「てンめェ~~~、何だったらもう一回、この場で勝負してやったってイインだぜぇ~」

「やめとけ、やめとけ。まず体術を習得しねぇと、今のお前じゃあ軽くあしらわれるだけだぜ。何せ、得意の『ベクトル変換』はその腕輪で封印されてんだからよ」

「グッ……」

「《龍氣》の習得もソコソコ行けてるみたいだけど、……そういやミノル師父が言ってたな。《龍氣》そのものを『ベクトル変換』するのは不可能だったって……」

「あのクソオヤジ……要らねえことをベラベラと……」

「知らねえぞ、ミノル師父を『クソオヤジ』なんて言ったってバレたら……タダじゃすまねぇぞ」

「ヘッ、こンな会話が聞こえる訳が……」

「……それが、ちゃんと聞こえてたりするから、世の中ってのは面白いんだよな。なァ……アクセラ?」

「ゲッ!?……い、いつの間に……まさか……トーマ……テメエ!!!」

「『氣』が読めないお前が悪い」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「アクセラ、ここが終わったらオレのトコロに来い。可愛がってやる……フッフッフ」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「あ、そうだ。トーマ、ミコト姫様が来ておられるぞ。お前もここが終わったら、戻って来いよ」

「えっ!?……あ、……ああ」

「何だ……まだ迷ってるのか?」

「そ、そんなんじゃ……でも、アイツはお姫様で……オレは……」

「シン老師様から聞いただろう?姫様はそれを捨てる覚悟さえして居られると……。それほどのお気持ちを……」

「だからだよっ!!!オレには……オレには……アイツに姫を捨てさせるような価値は……、……無いよ……」

「トーマ……」

「ミコトほど綺麗で、凛々しくて、眩しくて、輝いてるお姫様をオレは知らない……。都のインデックス姫なんて……アイツの前だったら……誰が見たって翳んじまうに決まってる……そんな姫様に、姫を捨てさせるなんて……オレには……オレには……」

「……ハァ……ッたく、下らねェな」

「何だよ!?お前に何が判るってんだよっ!?アクセラッ!!!!!」

「要するに……ヒーロー様は、自分に自信がないから、拗ねてるだけだ。ッてコトじャねェか……」

「何だとっ!!!」

「……アクセラの言うことも、半分は当たってる……って感じだな」

「ミノル師父まで……」

「己の気持ちをしっかりと見取ることだ。逃げた分だけ、闇が近づいてくるぞ。……忘れるなよ」

「ウッ……」

「じゃあ、俺は一度戻るから……サッサと終わらせて戻って来いよ。特にアクセラ……逃げるなよ(ニタァ~)」

「~~~~~~~~~~~~~~~(ダラダラ)」

「ッたく……よう、トーマ。サッサと終わらせちまおうぜ。……オイ、トーマ?」

「……クソッ……(自分の気持ちが分からねぇから困ってんじゃねぇか……)」

「ヘッ……クソッたれが……」

「……ぅ、うるせぇ……」



 そんなトーマの気持ちを知ってか、知らずか。ミコト姫は毎日のようにここに通ってきていた。

「コレはコレは、ミコト姫様。わざわざのお越し、痛み入ります」

「そのように畏まらないで下さい。わたくしはただ……(ポッ……/////)」

「トーマなら、おっつけ戻ってくると思います。それまで暫しお待ちいただけますか?」

「あっ……は、はい……(カァアアア……//////////)」

(ミコト姫様にこんな表情をさせるなんて……オレ、トーマさんを殴りたくなりますよ……)

(言うなよ、グンハ。オレだってブン殴りたくなってんだからさ……)

(えっ!?ハマヅラさんも?だよな……。こんな人に想われてるってのに……トーマさん、何考えてんだか……)

(だろ、だろ。オレもなァ……あんな姫様とお知り合いになりたい……)

「二人とも何をボソボソ言ってるの?」

「「ビクゥッ!!!」」

「なっ、……何だ……リコか……。脅かすなよ……」

「リコか……じゃない。はまづらはお姫様も好きなの?」

「ヘッ!?……『も』って何だよ……『も』って?」

「この前、私に送りつけた『ウサギさんスタイルのお姉さん』の写真。アレが趣味だと思ってた……」

「イッ……あ、アレは……その……」

「大丈夫、して欲しいのなら、してあげてもイイ。はまづらになら……(ポッ……/////)」

「い、イヤ……リコは、今のままで……充分可愛いし……/////」

(オイオイ、誰だよ……さっき『あんなお姫様とお知り合いになりたい』って言ってたのは……。その舌の根が乾かないウチにこれ……?)

「リコ……/////」

「はまづら……/////」

(ああ~……もう……何でオレだけ、一人な訳?……もしかして……オレって……メチャ不幸?)

「クッソー、女なんか!……女なんか!!……男は気合いだ!!根性だぁぁぁあああああ!!!!!」

 グンハ、それは負け犬の遠吠えって言うんだよ。(インデックス風に……トドメ。w)

 【閑話休題】(チョイと一休みしゅーりょー)

「姫様、トーマ殿はまだお戻りになられないのでしょうか?せっかく姫様がわざわざ来ておられるというのに……」

「控えなさい、クロコ。ここにわたくしが来ているのはわたくしのワガママです。わたくしが……トーマに……会いたいだけ……(ゴニョゴニョ……/////)」

(キィィィイイイイイイイ~~~~~~~~、姫様に、姫様に……こ~~~~~~~~~~~~~んな表情(おかお)をさせるなんて……、あの腐れ勇者めぇ……ハァ、ハァ、……羨ましすぎますわッ)

「ハァ、ハァ……」

「クロコ?どうしたのです?さっきから息が荒いようですが……」

「あっ、いゑ……ご心配には及びませんの……オホホホホホ」

「???」

「あっ、あの……イツワさん?」

「はいッ!?……ミコト姫様。何かご用でしょうか?」

「あっ……いえ……その、……わたくしのようなものでも、何かお手伝い出来ることはないかな……と……」

「姫様、なりません!!」

「お下がりなさい、クロコ。ここは『勇者の里』です。ここに居る間はわたくしは『姫』ではありません!!!」

「ウッ……」

「……」

「イツワさん、何か……何でもイイんです。お掃除でも、お洗濯でも、炊事でも……」

「そっ、そんなことを……姫様に……」

「先程も申しましたように、ここに居る間はわたくしは『姫』ではなく、一人の女です。トーマに会いに押し掛けて来た一人の女なのです。ですから……」

 その頬を染め、それでも真っ直ぐにトーマを想うミコト姫の表情は、同じ女であるはずのイツワでさえ、『ドキッ!!』とさせ、惚れ惚れしてしまうモノだった。
 だが……イツワの内側に、『ドキッ!!』とし惚れ惚れしてしまうと同時に……小さな『闇』が渦を巻く。

「……でしたら、コレから「キコの実」を取りに行くのですけれど……ご一緒されますか?」

「はいッ。喜んで!!!」

 パッと明るくなったミコト姫の表情を見つめ、イツワは内に渦巻く『闇』が大きくなるのを抑えられなくなっていた。

「ハァ、ハァ……あ、あの……イツワさん……ハァ、ハァ……も、もう少し……ゆっくり……お願い出来ませんか……ハァ、ハァ……」

「あ……申し訳ありません……『姫様』には少々険しかったでしょうか?」

「そ、そんなことは……ハァ、ハァ……」

「ほら、もうすぐですので……お手を……」

「あ……ハイ。ん……っと……」

 イツワはミコトの手を取ると、グイッと引き上げた。
 その瞬間、ミコトのドレスの裾が音を立てる。

『ビリビリリィィーーーーーーー』

「キャッ……!?」

「あっ……コレは……とんだことを……申し訳ありません。すぐに戻って……」

「いえ、大丈夫です。それに……この様な格好でココに来てしまうこと自体が間違いでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「そ、そんな……(クッ……)」

「あ……ココが……?」

「あ……ハイ。そうです。『キコの実』がなっているところです。カワイいでしょう?」

「ええ、ええ。カワイいですし、それに綺麗ですね」

「はい。トーマの好物でもあるんです」

「トーマの……好物……」

「赤くなっている実だけを取って下さい。ミコト姫様の手の届く範囲で結構ですから……」

「はい、分かりました……あの……イツワさん……」

「はい?何でしょう。姫様?」

「あの……その『姫様』というのは……やめていただけませんか?……ミコトと呼び捨てにして下さって構いませんから……」

「そっ……そんな畏れ多い……(なんて表情をするのっ!?そんな顔をされたら……私は……私は……クッ……)」

 キコの実がなっている樹はそれほど背が高くなく、ミコトの手が届く範囲にも充分実がなっており、収穫出来るモノだった。
 だが……高くはないと言っても、それなりの高さはある。
 イツワはミコトの手の届かない高さにまで樹に登り、そちらに多くなっているキコの実を手際よく取っていく。
 それを見たミコトは、思わずいつもの『負けん気』が顔を出してしまう。
 それに『トーマの好物』と聞いて、ミコトはその実を取る事に夢中になっていた。

 そんなキコの実を取る事に夢中になっているミコトを見て、イツワは内側に広がる『闇』の渦に呑まれて行く。

(この辺りならそんなに危険じゃないし……ホンのちょっと置き去りにして、ホンのちょっとだけ迷ってもらって……ホンのチョット懲らしめるだけ……)

(トーマのことを真っ直ぐに想っていて、本当に羨ましい。私もあんな風に自分の気持ちを表に出せたなら……)

(自分の気持ちを正直に出せるアナタが羨ましい。私には逆立ちしたって出来ないことを……アナタは素直にやってしまう……)

(トーマはまだ気が付いていないけれど……あの人がアナタを見る目を見ていれば……分かる……)

(トーマはいつか気が付く。トーマの眼にはアナタしか映っていないことを……そして、私の居場所はそこにはないってコトを……)

(そうなったら……私は……私の想いは……私だって、アナタに負けないくらいトーマのことが好きなのにッ!!!)

 自らの内に渦巻く『闇』に呑まれたイツワは、自分の想いをコントロールすることが出来なくなっていた。
 そして……感情の高ぶりと共に……音もなく『フッ』と姿を消してしまった。

「……フウ……想ったより、沢山取れた……かな?……アレ?……イツワさん……イツワさん?……ドコに行っちゃったんだろう?」

 イツワの計画通り、イツワの姿を探してミコトは「キコの実」がなる場所を離れ、あちこちを探し始めるのだった。
 その頃、トーマはやっと里に戻ってきていた。

「……ミコト姫が来てるって言われて、戻ってきてみたら……居やがらねぇ……ん?……アレは……クロコ?」

「あっ、腐れ勇者殿……」

「その呼び方は……ちょっと勘弁しろよ……で、お姫様は何処行ったんだ?」

「さっき、イツワさんという方と共に……わたくしはココで待つようにと……」

「ヘッ!?イツワと……って、……アレ?……イツワ?……オマエ、ミコト姫と一緒だったんじゃ……?」

「えっ!?……と、トーマ!?……いつ帰って来たの?」

「今さっきだよ。……ミコト姫と一緒じゃなかったのか?」

「あ……えっと……その、途中ではぐれちゃって……戻ってないかと思って……」

「オイオイ、はぐれたって……どの辺りだよ?」

「え、ああ、あの……キコの実がある辺り……」

「何だって!?……アソコには……」

「大丈夫よ、あの辺りにはもう猛獣も危険な動物も居ないから……」

「バカ野郎!!……あの辺りは……この前『バシリスク』が巣を作ったって……」

「えっ!?……『バシリスク』ってあの……大型の人喰い鳥のっ!?」

「まさか……アイツ……ミコトッ!!!」

『ズドンッ!!!』

「あっ、トーマ!!!」

 トーマはミコトの身を案じ、慌てて里を飛び出し、キコの実のなっている林に向かう。
 と、その時……。

「キャアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ミコトの悲鳴がトーマの耳に届く。

「ミコトッ!!!!!!!」

 ミコトの名前を呼んだその時、トーマの眼に入ったのは、バシリスクに追われて崖まで追い詰められているミコトの姿だった。
 バシリスクは追い詰めた獲物を、今正に食べようとしている。
 それを見た瞬間、トーマの中で何かが弾けた。

『ガオンッ!!!!!!!!!』

 トーマの速度が一気に上がる。

「ミコトから離れろぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 トーマの叫びと共に、気合いと《龍氣》が一体となって、その拳より放たれる。

『ドンッ!!!!』

 その強烈な一撃は、バシリスクを簡単に吹き飛ばし、崖下へと突き落とす。

「ミコト!!!無事かっ!?」

 ミコトの無事を確認するためにトーマが地に降りる。

「あ……と、トーマ……。……ああ……」

 死の恐怖から解放され、安心して緊張が解け、気を失うミコト。

「オイ、ミコトッ!!……えっ……血……血が……オイッ!?しっかりしろ!!!しっかりしろ、ミコトォォォオオオオオ!!!!!!!」

 トーマはミコトを抱き抱え、必死に呼びかけ続けるのだった。

「ふう……もう、問題はないだろうね。ケガも大したことは無いし……、後は安静にしていることだ」

「ありがとうございます。ドクトル……」

「うん、お大事にね……」

 ケガをしたミコトを急いで里に連れ帰ったトーマは、すぐにドクトルにミコトを診てもらい、今その治療が終わったところだった。

「……ミコト……良かった……無事で……ホントに……良かった……」

「スースー」

「……ミコト……」

 薬のお陰もあって、美琴は静かに眠っている。
 安堵の表情で、優しくミコトを見つめるトーマ。
 その横で、イツワは身体を震わせていた。

「……ゴメン……ゴメンなさい……トーマ……」

「……」

「ゴメン、トーマ……。ホントにゴメンなさい……」

「オレに謝ったって仕方がないだろう?……お前が本当に謝らなきゃならない相手は……ミコト……姫様だ……」

「うっ……グスッ……ううっ……」

「……何でだ?」

「えっ!?」

「何で……あんなことをしたんだ?」

「そっ……それはっ……」

「探査系もできて、後方支援にも入れるお前が……ミコトを……姫を見失う訳がない。……違うかっ!!!!」

『ビクッ!!!』

「何で、あんなことをした!!!……なぜミコトを森に置き去りにしたんだ!?……事と次第によっちゃあ、お前といえど……」

「……殴ってよ……私を……足腰立たなくなるまで……殴り続けてよっ!!!!!」

「なっ!?……イツワ……」

「こんなコトになるなんて……思っても居なかった。……ただ、ちょっとだけ、ホンのチョットだけ……意地悪するつもりで……」

「何で!?何でそんなことを……」

「私が……私が……私がアナタを、……トーマを好きだからよっ!!!!」

「えっ!?」

「分かってた……『闇』に呑まれているのは……分かってた。『嫉妬』だって分かってた……。でも……でも、……自分をどうする事も出来なかったのよっ!!!!!」

「……イツワ」

「この人が羨ましかった。ミコト姫様が羨ましかった。……アナタに向かって真っ直ぐに想いを伝えられて……「好き」って言えて……」

「……」

「私にはそんなコト出来ない。逆立ちしたって出来ないことを、この人は普通にやってしまって……。それが……、それが、どうしようも無く羨ましくって……どうしようも無く、妬ましかった……」

「……」

「アナタを好きだって言う気持ちなら、私はこの人に負けない……。それに……アナタの好物だって、好きな花や、樹や、得意な技や、それから、それから……」

「……イツワ……」

「私の方が、沢山知ってる……アナタのことを……この人より沢山知ってる……けど……」

「……けど?……」

「アナタの眼は……トーマの眼は……ミコト姫様しか……見ていない……」

「えっ!?」

「アナタの眼は、ミコト姫様しか見ていない。アナタの瞳には、ミコト姫様しか映って無いのよっ!!!」

「ばっ……バカなっ……」

「分かるのよっ……アナタしか見てない私だからこそ、アナタが何を見て、その瞳に何を映しているのかが……分かってしまうのよっ!!!」

「そ、そんな……そんなはずは……」

「トーマは気づいていないだけ……。自分の気持ちを分かっていないだけ……。でも……その内に気付く……。アナタはミコト姫様のことが……」

「やめろっ!!!」

「……トーマ……」

「……もうイイ、……もうイイよ……イツワ……」

「トーマ……私はっ……私はっ……」

「出て行ってくれ……」

「えっ!?」

「この部屋から……出て行ってくれッ!!!!!」

『ビクッ!!!』

 トーマの一言に、何も言えず、顔を伏せたまま部屋を出ていくイツワ……。
 その瞳からは、ポロポロと大粒の滴がこぼれ落ちていた。

 トーマは、スヤスヤと眠っているミコトの顔を見つめる……。
 そして、自問自答する。

(オレが、ミコトしか見ていない?)

(オレの瞳は、ミコトしか映していないだって?)

(そんなバカな……確かに、ミコトのことを想うことは多いけど……)

(オレは……オレは……ただ、コイツを……守りたい……守ってやりたいだけだ……)

(コイツは笑うとカワイくて、怒らせると面倒だけど、面白くって、ビリビリしてくるけど……それは別にどうってコト無くて……こいつの泣いてる顔だけは……絶対に見たくない……)

(ただ……ただ……それだけなのに……)

(それに……コイツは本当に『お姫様』で……オレは……オレは、ただの【勇者】でしか……無い……)

(『トーマは気づいていないだけ……。自分の気持ちを分かっていないだけ……。でも……その内に気付く……。アナタはミコト姫様のことが……』)

(自分の気持ちを分かっていない……?)

(オレは……オレは……ミコトのことをどう思っているんだ?)

(ミコトには……ミコトには……もっと相応しい相手が……)

(オレ何かより……ずっと相応しい……ヤツが……)

(コイツが……別の男と……オレ以外の男と……一緒に居る?)

『ドキッ!!!』

(うあッ……なっ……何だ?……胸の奥が……急に……締めつけられるような……)

(コイツが……ミコトが……オレ以外の男に……笑いかけている……)

(イヤだ……イヤだ……イヤだ!イヤだ!!イヤだ!!!そんなの、絶対にイヤだ!!!!!!!!)

「ヘッ……へヘッ……何だよ……何なんだよっ!?……コレはっ……この、この……訳の分からない感情はよっ!!!!!」

「ぅ……ん……トーマ……」

「えっ!?ミコトッ!?」

「えっ!?……あ……トーマ……トーマ……」

 目を覚まし、トーマの名を呼び続けてその両の手をトーマに向けてのばしながら、ポロポロと大粒の涙を流すミコト。
 どうしてイイか分からず、でもその涙だけは拭ってやりたいと、思わずミコトを抱き締めるトーマ。

「と、と、ととととトーマ?(トーマに抱き締められてるッ!?トーマが私を抱き締めてるッ!?……(ポンッ!!!)/////)」

「だ、大丈夫か?ミコトッ……ドコか痛いところとか、……無いのか?」

「……うん……大丈夫……」

「そうか……」

「うん……」

「……」

「……トーマの胸……大きくて、広くて……温かい……」

「あっ……ゴメン……」

「ダメ……ヤダ……放しちゃ……ヤダ。もっと……ずっと……このまま……このままがイイ」

「ミコト……姫様……」

「ヤダッ……『姫様』なんて呼ばないで。アナタの前では……私は……ただの女の子で居たい。一人の女の子で……居たいの……」

「そんな……そんなコト……」

「私はあなたが好き。アナタが、トーマが大好き。トーマでなきゃ、私はもう……私は……」

「でも……オマエは、ミコトは……ミコト姫様は……」

「……どうしてっ!?……どうして……そんな風にしか言ってくれないのっ!?……アナタが望むなら、私は……私は……」

「オレにそんな価値はないよ。オレは闘うことしか知らない……。ただの【勇者】でしかない……。オレなんかオマエに……相応しく……無い」

「相応しいとか、相応しくないとか、そんなの……そんなの関係無いッ!!!!!」

「ミコト……」

「そんなコト言ったら、アナタはこの国を救った【勇者】なのよっ!!大国の『ア』の国や『ラウ』の国の侵攻を退けて国を守った英雄なのよっ!!!そんな人に私なんか……こんな辺境の土地の領主の娘でしかない……私なんて……全然相応しく……無い……」

「ばっ、バカ野郎!何言ってんだよっ!?オマエ以上のお姫様なんて、この世界中探したって何処にだって居やしねぇぞ!!!」

「えっ!?」

「都のインデックス姫なんてなァな、あんなのタダの大メシ喰らいだし、アイサ姫だって影が薄いっつーか、姫様って言うより巫女さんみたいな感じだし……、ヒョウカ姫は……アレはインデックス姫の友だちでしかないし、それから……それから……姫じゃないけど……オルソラとか、……カオリとか……、イツワとか……アニェーゼとか……シェリーとか……オリアナとか……他にも……えっと……」

「トーマ?(何か……ムカつく……む~~~~~~~ッ)」

「とっ、とにかく……オレは、オマエ以上の女の子なんて、オマエ以上のお姫様なんて知らないんだよっ。オレにとっちゃ、オマエは『世界一』の女の子でお姫様なんだ!!!世界で一番大事で、世界で一番大切なヤツなんだよっ!!!!!!!!!」

「えっ!?」

「そんな『世界一』を、オレが独占してイイ訳がないだろう!?」

「……トーマ……あの……今、自分が何言ってるか……分かってる?(ポッ……/////)」

「ヘッ!?」

「それって、……私は世界一の女の子で、お姫様で……私が世界一大事で……世界一大切で……私を独占したいって言ってるのと……同じ……だよ?(ポンッ!!!……//////////)」

「えっ!?えっ!?えっ!?~~~~~~~~~~~~~~~ええェェェェェェェっ!?」

「トーマって、……トーマって……ホントに……鈍感なんだね……。自分のことも……それ以外のことも……」

「オレは……オレは……ミコトが世界一の女の子で、世界一のお姫様で……世界委一大事で、世界一大切で……それを独占したい?」

「今、そう言ったんだよ?……分かってるの?……トーマ」

「オレが……ミコトが世界一のお姫様で……、世界一の女の子で……」

「うん……」

「オレ……が……?ミコトのことが世界一大事で、大切だ……って?」

「うんっ!!」

「そして……ミコトを独占したいって……オレが……そんなこと……言ったのか?」

「うんっ!!!!!」

「それって……オレが……ミコトのことを……『好き』ってコトじゃねぇか!?」

「うんっ!!!!!そうだよっ!!!!!!!!!!」

「ヘッ!?……えっ!?……アレ?……ミコトッ!?……えっ!……えっ!?……ええっ!!??……ウーン……」

「トーマ、えっ!?どうしちゃったの……?そんな、……急に押し倒すなんて……、ま、ま、まだ、告白もされてないのに……そりゃあトーマなら……イイけど……アレ?……トーマ?……トーマったら?……って、何でトーマが気絶してるのよっ!!!!!」

「ふ……ふ……ふにゃぁあぁぁぁぁああぁあぁぁあぁぁぁぁぁ……」

「ふにゃぁあぁぁ……じゃないわよっ……なんで、こんな……せっかくの告白なのに……。この後、優しくキスしてもらって……、永遠の誓いを一緒にして……、それで……それで……結ばれちゃったり何かしたりして……っていう予定だったのにぃ~~~~……トーマのバカァ~~~~!!!!!!!!!」

 必死に『お姫様』しようと頑張ってきたミコトだったが……最後の最後に『素』が出て……暴走気味のご様子。
 それにしても、最後の最後でツメを誤るところは……今も昔も変わってないようで……。
 でも、こんな告白って……アリなんですかね?

(ん……?アレ?……オレ、どうしたんだっけ?)

(何か……柔らかいモノの上に……寝てるよーな……抱き締められてるよーな……)

(そう言えば……さっき……オレは……ミコトが……ミコトのことが『世界一』大事で……大切で……好きだって……)

(それに気が付いて……その……それを横で……ミコトが聞いてて……ええっ!?)

「あ……トーマ……起きた?」

「ヘッ……アレ……オレ……ワッ!?……わ、ワワッ……。あ……あの……ミコトッ!?」

「ダーメ、動いちゃ……、もうちょっとこのまま……ね♪」

「だって、オマエ……コレって……オレ、オマエの胸の上で……寝てる~~~~~~~~~~~~~~~ッ」

「エヘヘ……放さないよ~だ」

「ばっ、バカ野郎!……こんなの、誰かに見られたら……どうすんだよっ!?」

「イイよ……別に……トーマに襲われちゃったって……言っちゃうもん……(ポンッ!!!)/////」

「おっ、おまっ……オマエッ……言うに事欠いて、なんてコトをっ!?」

「だって、さっき……私のこと……『好き』って……言ってくれたんだもん……もう、嬉しくって……」

「あ……イヤ、そのッ……それはっ……えっと……だから……あの……うん……(ゴニョゴニョ)」

「トーマ?」

「えっ!?……何だよ?」

「まさか……さっきの……ウソ……とか言うんじゃ……」

「……うっ……い、……言わねぇよっ!!!……ミコトのことは……ホントに……好きだ……」

「……//////////」

「……ただ……」

「えっ!?」

「ただ……オレにとって、オマエが眩しすぎるって言うのも……本当なんだよ……」

「トーマ……」

「オレは、出来るなら……オマエと一緒に居たい。それは間違いない……と思う」

「トーマ……嬉しい」

「でもな……オレは【勇者】なんだよな。……いつ、闘いの中で死ぬか分からないんだ……」

「ッ!!!」

「そんな男と一緒に居てくれ。なんて……オレは……言えない……」

「でも……それでもっ……私は……アナタの傍に……居たい」

「ありがとう……ミコト……」

「トーマ……」

「だけど、オレ……オマエが泣くところを見たくないんだよな。オマエが泣いてたら……オレは……本当にどうしてイイか分からなくなるから……」

「私だって……私だって……トーマが死ぬなんて……考えても……居なかった……。でも……アナタは、世界を守る【勇者】なんだもんね……」

「だからさ……オマエのことは好きだけど……もう少し、待ってくれないか?」

「えっ!?」

「オレはもっともっと強くなるよ。強くならなきゃいけないんだ。オマエが泣かなくてすむように。オマエを泣かすことがないくらいに……オレは強くなってみせるよ。……だから……」

「……だから……?」

「それまで、オレが強くなるまで待ってて欲しい。必ず迎えに行くから。タビカケ様に「オマエをくれ」って言いに行くから。それまで待っていてくれないか?」

「トーマ……」

「必ず、必ず迎えに行く。絶対に、周りの誰からも文句が出ないくらい強くなって、必ずオマエを迎えに行くから……それまで待っていてくれ」

「トーマ……あの……それって?……もしかして……プロポーズ?」

「ヘッ!?……アレッ!?……オレ……テンパってて……何言ってたんだ?」

「……ホントに……トーマは、トーマなんだね……」

「へっ!?」

「自分の気持ちにも、相手の気持ちにも鈍感で……、何も考えてないクセに、要らないところには気が回って……、バカなクセに鋭くって……」

「オイ……」

「でも、いつも真っ直ぐで、いつも真剣で……、私を守ってくれる……世界で一番大切な……【勇者】様なんだね」

「ミコト……」

「私……待つ」

「えっ!?」

「トーマが私を迎えに来てくれるまで……待つね……」

「……ミコト……ありがとう……」

「でも……」

「えっ!?……『でも』ってなんだよ……『でも』って……」

「トーマって、約束守らないからなぁ……私がおばあさんになるまで、待たされたりして……」

「なっ!?何だとっ!?……おっ、オレが……オレがいつ『約束』を守らなかったって言うんだよっ!?」

「む~~~~~~~~~~ッ……ホントに忘れてるんだ……」

「ハァ?」

「ホンットに……忘れてるんだねっ!!!!!」

「だから……何のコトだよッ!?」

「……もう一回……」

「ヘッ!?」

「もう一回……飛んでくれるって……」

「ハァ?」

「もう一回……私をダッコして……空を飛んでくれるって……言った……」

「えっ!?……ああっ!!!」

「トーマは『またな』って言ったのに……その後……約束果たしに来てくれてないもん……」

「あっ……イヤッ……それはそのッ……だから……えっと……ううっ……ゴメン……」

「む~~~~~~~~~~ッ!」

「お、怒るなよ……」

「む~~~~~~~~~~ッ!!」

「分かったよ、分かったって……」

「む~~~~~~~~~~ッ!!!」

「ケガが治ったら、すぐにしてやるから……なっ!?」

「一回じゃヤダ……」

「ヘッ!?」

「一回じゃ……ヤダもん……」

「……もう……分かったよ!」

「えっ!?」

「分かったって言ってるんだよっ!!」

「ホントに……?」

「ああ、……ミコトがイイって言うまで……してやるよ。ダッコして、空を飛んでやる」

「ホントにっ!?」

「ああ、ホントだ」

「ホントにホントだねっ!?」

「ああ、ホントにホントだ」

「ホントにホントにホントだねっ!?」

「ああ、ホントにホントにホントだよ」

「ホントにホントに……」

「オイ……しつこいと嫌われっぞ」

「うっ……む~~~~~~~~~~ッ」

「まあ、そこがミコトらしいっちゃミコトらしいけどな……」

「む~~~~~~~~~~ッ!!!!!」

「……で、……あの……あの……さ……ミコト……」

「何よ……」

「あの……いつまで、オレは……ミコトに抱き締められてれば……イイのかなって……?」

「あっ……ああっ……//////////」

「アレッ!?……オイ……離せよ……」

「ヤダ……」

「オイ……ミコト……」

「ヤダ……離したくない……離れたくない……」

「で、でもさ……重いだろ?」

「イイの……今は……トーマの重さを感じていたいから……」

「襲っちまっても知らねぇぞ……」

「イイよ……トーマなら……」

「本気にするなよ……出来る訳ねぇだろ……」

「だったら、してくれるまで離さない……」

「バカ……何言ってんだよ?」

「アナタに抱かれたい。私をアナタのモノにして欲しい」

「バカ言ってんじゃねぇよ……オレたちは今……約束したばかりじゃねぇか……」

「だから……だからこそ……今は……私に、アナタを……刻みつけて欲しい」

「ミコト……?」

「私を抱いて……アナタの印を私に刻んで欲しい」

「おっ……オイッ」

「私が、……私がアナタを待てるように……そして、アナタが私を忘れないように……」

「そんなことしなくったって……オレは……」

「私を安心させて欲しいの……お願い……」

「ミコト……」

「トーマ……あっ……ンッ……」



「……当麻……」

「……美琴……」

 『夢』から目覚めた二人に言葉など不要だった。
 ただ『夢』の中と同じように、互いを求め合い、互いを貪り、互いに互いを刻みつけて……、そして互いを愛しみ、互いを慈しんだ。
 今、二人は初めて結ばれ、一つになった。


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