とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part20

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だれでも歓迎! 編集


見知らぬ記憶3


「……ん……うん……あ……」

 美琴が目を覚ますと、隣には愛しい人の寝顔があった。
 思わず、昨夜の行為を思い出し、頬を染める。

「とうとう……しちゃったんだ……。本当に……結ばれたのね……私たち……」

「……ん?……おはよう……美琴……」

「……当麻……んっ……おはよう……愛してる……」

「オレもだよ……んっ……チュッ……昨夜は素敵だった……」

「……もう……ドコでそんなセリフを覚えてくるの?……嬉しいけどさ……」

「……ダメか?……」

「……一応、合格ね……あっ!?……やンッ……」

「合格……貰えたからな……」

「……バカッ!……そういう……意味じゃ……あんっ!……」

「……愛してるよ……美琴……」

「……もう……ね……ギュッてして……」

「……ハイハイ……カワイいぜ……美琴……」

「……バカ……んっ!……ああんっ!」

 上条さん、理性のタガが外れてしまっている模様……。
 ヤバい、ヤバい……。



「……ン……ん~……あ……あ……アレ?……ミコト?」

 隣で寝ているはずのミコトの姿がない。
 トーマは慌てて飛び起きて、辺りを探す。

「ミコト?……ミコト?……」

『ガチャッ』

「あ……トーマ……おはよう……」

「……おはよう……ミコト……居ないからビックリしたよ……どこかに行ったのかと……」

「行く訳ないじゃない……ただ、ちょっと外が見たかっただけ……」

「……そ、そうか……」

「湖が見える……綺麗……」

「あ……そ、そうだな……」

「ねぇ……トーマ……そばに来て……」

「あ、ああ……」

「ありがとう……私のワガママを叶えてくれて……」

「そんな……オレこそ……強引すぎたんじゃないか?……その……初めてだったし……/////」

「うん……すごかった……/////」

「えっ!?……ご、ゴメン……」

「謝ることない……素敵だった……アナタで良かった……。トーマ……好きよ……んっ……」

「ンムッ……ミコト……オレも、オマエで良かった。……好きだよ……」

 愛を確かめ合い、キスを交わす二人。
 唇を離し、ミコトを見つめた時、トーマは思わず『ドキッ』とする。

(ミコト……だよな?……間違いない……よな?……でも、何か……何かが違う?……スゴい……綺麗だ……)

「どうかしたの?」

「あ……イヤ……別に……」

「変なトーマ……フフッ……」

(ミコトを泣かせない。ミコトを絶対に泣かせるようなことをしてはいけない。オレは死んじゃいけないんだ。その為には……オレは……強くならなきゃいけない!!!)

(ミコトを守る。オレの命を賭けて守る。そしてオレも生き残る。難しいけど……でも、絶対にあの約束を果たすんだ!!!)

 心の中で『約束を果たす』と再び誓うトーマは、思わず力が入り、傍に居るミコトをグッと引き寄せ右腕でギュッと抱き締める。
 その力に全てを委ねるように、トーマの肩に頭を乗せるミコト。
 二人の絆は、一夜を経て、より確かなものへと変わっていった。



「だぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

「って……テメッ……コノッ……グッ……グハッ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ッたく、少しは手加減しろッてンだ……ットォ……」

「だだだだだだだだだだだだだ……ダァッ!!!!!!!」

「(グッ……『ベクトル変換』を使っているって言うのに……正面から受け止めきれねェ……あり得ねェ……トーマのヤロウ……すげェ……)」

「……『双頭・九頭竜閃』……」

 ……ズドンッ!!!

「……ウッ……」

「……ハァッ……よしッ……」

「……そ、それまでッ……ウ~ム……」

「ありがとうございましたっ!……サンキューな、アクセラ。……ハァ……疲れたぁ~……。先にシャワー浴びてくらぁ……じゃな……」

「……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

「……凄まじいな……」

「凄まじい……なンてモンじャねェぞ……アリャ……」

「……ああ、そう……だろうな……」

「オレの『ベクトル変換』が通常攻撃でも通じねェ……。別に《龍氣》が混じッてる訳じャねェ……。『変換』が間に合わねェくらい早ェンだ……」

「最後の『九頭竜閃』……オレの目にも見えなかった……」

「……師父のアンタが見えねェンじャ……オレが見えねェのも当然……か……」

「寸止めだから良かったが……」

「……クソッたれが……」

「……(アクセラは強くなってる。元々『最強の戦士』として名を馳せ、『ベクトル変換』を使いこなせる『力』を持っていた。その上に【勇者】としての力と技を足し、トーマと共に将来を担える一人としていこうと考えた。本格的な修行に入ってもう2年近い。今では《龍氣》もかなりのレベルまで使いこなせている。普通に考えれば、トーマよりも実力は上になる……はずだったのだが……)……うーん……」

「何、唸ってンだ?……師父」

「オマエでも、トーマの組み手の相手にならんとなると……」

「ばっ、バカ言うンじャねェッ!!!……ちょっと、ちょっと押されただけだ……。次は……次は……勝つッ!!!!!」

「本気でそう言っているのか?」

「ぐっ……」

「今の『ベクトル変換』に頼った闘い方じゃあ、トーマには勝てん。もっと《龍氣》を錬らねば……な」

「……わ、分かっている……」

「……そうか……ならイイ……」

「しっかしよォ……トーマのヤツ……ドコまで強くなるつもりなンだ?この1年の成長ッぷりは尋常じゃねェぞ……。オレだって強くなってるつもりだが……ヤツはその上を行ってやがる」

「確かに、今のオマエはこの国に来た時とは比べものにならんほど強くなっている。だが……トーマはそれ以上に成長している」

「師父……アンタより強いのか?」

「……さあな……だが、更なる高みを目指す……か……ワシも負けられんな……」

「オイオイ……マジかよ……(だが……だったら……オレもだ……な)」

 だが、そんなことを言っている二人の顔はどこか嬉しそうだった。



 時代は動き始めていた。
 賢帝・名君の誉れ高き『ワ』の国王が提唱し、推し進め始めたこの大陸を一つの『国家』としてまとめるという一大事業は、今一つの転機を迎えようとしていた。
 『ワ』の国は西の隣国『ナ』の国と同盟を結び、両国の周辺の小国とともに、その事業を推し進めてきた。
 大国として名を馳せており、以前からこの大陸の覇権を争ってきた『ア』の国と『ラウ』の国も、『ワ』の国王の説得に応じ、一時は同盟を結ぶまでに至っていた。
 後はもう一つの大国『ロ』の国を残すのみ……となったその時、『ワ』の国王が若くして急逝する。
 『ワ』の国王は、子を為しては居たが全て女の子であり、しかも皆幼かった。
 その為、国内では跡目争いが起き、国そのものを二分しかねない内乱にまで発展するところだった。

 その事態を収拾したのが、『ワ』の国で【智の人】と呼ばれる現教皇『アレイスター』と、【武の人】と呼ばれる【勇者】の長『シン老師』であった。
 【智の人】であるアレイスターは元々先に記した国王の右腕であり、先代の国王の時代より文官として『ワ』の国に仕えていた。
 亡くなった国王が即位する際、アレイスターに請われ呼び出されたのが【武の人】シン老師である。
 以前シン老師がタビカケに説明した通り、【勇者】は『漂白の民』『道々の輩』と呼ばれる人々であり、国家権力とは一切の関わりを持たず、自由に生きる『無縁』をその基としてきた。彼らがその根とするのは、この世界を作った『創造主』であり、その意志である。
 始めは渋っていたシン老師であったが、新国王の志の高さと、『この地に住む全ての人々に平和をもたらしたい』という願いに『創造主』の意志を感じた彼は、アレイスターとの友誼もあって『ワ』の国の一員として、この事業に参加することを約束した。
 その後、二人は国王の両輪となり事業を推し進めた。国王の急逝と共に起こった国内の内乱を未然に収拾出来たのも二人の働きがあってのことだ。特にこの機に乗じて『ワ』の国を攻め滅ぼそうとした『ロ』の国の大軍を、自らが率いる【勇者】達と共に瞬く間に薙ぎ払い、周辺各国に『『ワ』の国に【勇者・シン】その人有り』と知らしめることになったのである。

 その後、『ロ』の国は『ワ』の国と『ナ』の国の連合軍(【勇者】達は参加していない)によって攻め滅ぼされ、大陸の統一は成ったかに思われた。
 だが、この大陸の覇権を狙う【ア】の国、【ラウ】の国の両国が、最終的には同盟より離脱し、大陸は再び争いの日々に戻ってしまう。
 今は三つの勢力の力が均衡し、三竦みの状態になっている。

 教皇アレイスターはこの状況を打破すべく、最後の切り札を切る覚悟を決めた。



「コイツは一体何なんだ!?」

 中央府からタビカケ城に送りつけられた一通の手紙。
 それを見て一番憤っているのは、師父であるミノルだった。

「中央府は一体……何を考えている?」

 城主であるタビカケも不安と憤りを隠せずにいた。

「我ら【勇者】に対する呼出状……いや、召集令状といったところ……じゃな」

「しかし老師様、我ら【勇者】には先の国王より戴いた『拒否権』があります。その闘いが『創造主』の意に沿うものかどうかを見極める『拒否権』が!!」

「……ああ、そうじゃな……」

「だが、この『呼出状』はそれを完全に無視して居るではありませんか!?」

「……うむ……」

「どうなされますか?老師様?」

「もはや、一線を引いたワシが決めることではない。コレを決めるのは、『師父』であるお主じゃよ……ミノル」

「それは出来ません。『師』である老師様を差し置いて、そのようなことは……」

「それに関しては私も同感です。この中央府からの書状の内容は皆様の立場を完全に無視している。特に先の国王と老師様が結ばれた約束すら反故にするつもりですぞ!老師様が前に出なければ収まりますまい」

「……むう……」

「とりあえず、皆を集めましょう。そして皆にこのことを伝え、皆で話し合って、そこで出た意見を老師様がおまとめになる。そうしなければ、皆の気持ちがバラバラになってしまいます」

「……分かった……では、そのように致そう……」

「では、直ちに……」

「老師様。その席に私も同席させていただくことは出来ませんか?」

「タビカケ殿……それは……いや、是非お願い致そう。この地の領主であるタビカケ殿に同席して戴く事で、中央府にも話が通しやすくなるでしょうからな」

「ありがとうございます。では日取りは……」

「うむ……明日の正午に……里で……と致しましょう」

「心得ました」

「では、お待ちしておりまする」

「はい、必ず」

 中央府から送られてきた書状には、『ア』の国と『ラウ』の国に侵攻するので、その先鋒として【勇者】軍を編制せよ。という内容が書かれていた。
 【勇者】達にとって、中央府からのこの様な命令は決して珍しいものではない。
 だが、彼らはこの中央府からの命令に対する『特例』を有していた。
 先王の時代にその呼びかけに応じたシン老師は、協力するに際して一つの条件を提示した。
 それは、いかなる命令であろうと、【勇者】達はそれに対する『拒否権』を持たせて欲しい。というものであった。
 『創造主』の意志を第一とする【勇者】にとっては、その闘いが『創造主』の意に適うモノなのかを見極める必要があるとシン老師が主張したからである。
 先王はそれを快く受け入れ、【勇者】達は特例として『拒否権』を持つことが認められることとなった。
 シン老師もその約束があればこそ、自由人である『道々の輩』として『ワ』の国に協力することが出来るようになった訳である。
 また、そうしなければ絶対的な力を誇る【勇者】達を武力・戦力として使うことに対する歯止めがかけられない。
 だからこそ、この先王との約束は【勇者】達にとっては、絶対不可侵の『条約』で有り『契約』であった。
 だが今回、中央府から届いた書状には、『この命令に対して如何なる『拒否』も認めない』という一文が最後に記されていたのだ。
 コレは正に先王との約束を反故にする『条約違反』『契約違反』そのものだった。

「以上が、中央府からこちらに届けられた書状の内容だ」

「「「「「「「「「ザワザワザワザワ」」」」」」」」」」

「本来なら、一蹴すべき内容だ。だが、今回中央府は『拒否権』を認めないと言って来た。そこが問題となる」

「「「「「「「「「ザワザワザワザワ」」」」」」」」」」

「だから、皆の意見を聞かせて欲しい。ここに集まっているのは第一戦で実際に闘ってきた者たちばかりだ。忌憚なき意見を聞かせてくれ」

「お聞きしたいことがあります」

「何だ?カオリ」

「今回中央府は、なぜ『拒否権』を認めないと言って来たのですか?」

「そンなのァ、簡単なことじゃねェか」

「オイ、アクセラ……」

「イイじゃねェかよ、トーマ」

「何が言いたい?……アクセラ」

「聞くまでもねェ事を聞くんじゃねェッつッてンだよ、カオリ」

「どういう意味だ?」

「中央府としちゃあ、サッサとこの大陸を支配してェンだろう。だから俺たちを使いたいンだろうな。その方が手っ取り早くコトが進む」

「だから『拒否権』を剥奪し、我らの意志に関係なく……戦力として戦場に送り込む……と言うことか?」

「分かってンなら、聞くまでもねェだろうがよ」

「でもそれでは、『創造主』のご意志に反することになります!」

「おーおー、よい子のイツワか……」

「他国に侵攻するなど、『創造主』が望まれることではありません!」

「私もそう思います!」

「わたくしも!!」

「オレもだ!!」

「ワシもだ!!!」

「オレも!!」

「師父である私も、そして老師様も同じ意見だ。だが……中央府は今回、老師様が先王となさった約束を反故にして『拒否権』を剥奪してきた。コレは間違いなく『契約違反』だ。コレが『契約違反』である以上、我らとしては中央府の命令に従う必要はない。と判断する」

「……ちょっと、待ってくれねぇか?」

「ん?……何だ、トーマ」

「オレはちょっと違うんだけどな……」

「えっ!?」

「ほほう……言うてみよ、トーマ」

「結論から言っちまえば、オレは中央府がどうしようがどうだってイイんだ。『契約違反』だろうが何だろうがどうだっていい。それより……いい加減、この下らない闘いを終わらせたいんだ」

「……む……」

「『ア』の国も、『ラウ』の国も一度は同盟に加盟して、この大陸を一つの国家にするって言う先王の理想に同調した。なのに今はそうじゃない。それは何でなんだろうな?」

「オレが居た『ア』の国じゃあ、同盟に賛成する者は少なくねェ。だが、その意見を抑えてるのが今の『大老』らしい。ソイツが実権を握ってる限り『ア』の国は折れねェな」

「……アクセラ」

「オレが掴んだ情報だと『ラウ』の国も同じようなモンらしい。先代の王が『上皇』って言う地位に収まってるんだが、ソイツが実権を握ってるって噂だ。今の国王は傀儡に過ぎないんだそうだ。ただ……今の国王一派は同盟に参加したいらしいぜ」

「ハンゾウ?」

「大国って言ってもな、この争いが長引いてるから『ラウ』の国も相当に疲弊しているらしい。今の国王一派は何とか争いを止めて、国を立て直したいらしいが、『上皇』一派が頑なになってるって訳さ」

「ってコトは……『ア』の国も『ラウ』の国も同盟に加盟する可能性が全くないって訳じゃないんだよな?」

「「ああ」」

「老師様が先王の理想に協力するって決めたのは、この大陸を一つの国家としてまとめ、ここから争いを無くすことが、『創造主』の意志に倣ってるって思ったからだろ?」

「……」

「だったら、中央府が言って来た『拒否権』の剥奪なんて、小せえ問題なんじゃねェの?」

「オイ……トーマ?」

「そんなのどうでもイイじゃんか?オレたちが本当にやりたいのは、この大陸から争いを無くすことじゃねェの?」

「……」

「中央府の意向なんて無視すりゃイイよ。オレたちはオレたちで動けばいい。『拒否権』がどうこう言う前に、やるべきコトがあるんじゃねェの?」

「……トーマ……」

「……」

「……ろ、老師様?」

 皆がトーマに注目していた時、トーマの意見をシン老師がどのように思っているのかを聞こうとしてそちらに向いたミノルは驚いた。
 シン老師は声もなく、ただただ涙を流していたのだ。

「……トーマよ……」

「はいッ!」

「そなたの言う通りじゃ……。ワシは大切なことを忘れておったようだ……。ワシがなぜ先王の志に共感したのか?先王の中に何を見たのかを」

「老師様……」

「オマエが言うように、『拒否権』の問題なぞ小さなコトじゃ。そのようなもの、反故にされようとも構わんわ」

「老師様?」

「ミノルよ、我らは我らで動こうぞ!!!」

「……と、仰いますと?」

「中央府はおそらく、我らを先陣に押し立てて両国に侵攻し、その国の政府そのものを壊滅させる目論見じゃろう。そうすることでこの大陸の覇権を一手に握るつもりじゃ」

「それは……おそらく……間違いないかと……」

「ウム。……じゃが我らはこの国から争いが無くなればそれでよい。同盟に加盟し、共にこの大陸の平和を望む者であれば、協力して行けよう」

「はいッ!」

「同盟が結ばれた後も、中央府の抑止力となる勢力を残しておかねばならん。そうしなければ、中央府は増長し独走しかねんからな」

「確かに……」

「ならば……我らは我らの目的のために動こうではないか?」

「おお……」

「中央府に返書を送れ。此度の闘いに参加すると!!!」

「はっ!!!」

「但し、『拒否権』を剥奪する以上、我らは我らで動くとな!!!」

「心得ました!!!」

「皆も異存はないな!!!!!」

「「「「「「「「「「はいッ!!老師様っ!!!!!」」」」」」」」」」

 その会議の席に参加していたタビカケは、会議が一旦休憩に入った時にトーマに声をかけた。

「トーマ殿、少し良いかな?」

「タビカケ様……。オレもタビカケ様に……お話しが……」

「ミコトのことか?」

「あ……、は、はい……」

「構わんよ。連れて行きたまえ」

「えっ!?……エエッ!?」

「君ほどの男の嫁になれるのだ。何の文句があろうか?」

「い、イヤッ……あの、……そのッ……」

「何だ?いらんのか?」

「あっ……イヤッ……そういうコトじゃなく……」

「『一発殴らせろ』とでも言われると思っていたのかい?」

「そこまでは……思ってませんでしたが……」

「だったら、イイじゃないか?連れて行きたまえ。……但し……」

「うっ……」

「必ず、生きて帰って来い!!……そして、ミコトを幸せにしてやってくれ。私に言えるのはそれだけだ」

「た、タビカケ様……」

「ミコトは君に命を救われている。君が居なければ今のミコトはない。もう、あの時からミコトは君のものだ」

「あ……いや、そんな……」

「老師様も、ミノル師父も、そして私自身も、中央府からの『拒否権』剥奪に眼を奪われ、大切なことを見失っていた」

「……」

「だが、君は違った。皆が眼を奪われていたことを「小さなコト」と言い捨てて、本来の目的を真っ直ぐに見据えていた」

「そんな……オレはただ……」

「それほどの男を認めぬ訳には行かないだろう?それに、そんなコトをしたらミコトは私を捨ててサッサと君の元に行ってしまいかねんよ。ハッハッハ」

「そ、そんな……」

「それに『無縁』となり親子の縁が切れるとしても、ミコトがこの世から消えてしまう訳ではない。里がこの地にある限り、会うことも出来るだろう」

「タビカケ様……」

「この世界から争いを無くせば、君たちももう闘わずに済むだろう。そうすればずっとミコトと一緒に居られる。ミコトもそれを望んでいるはずだ」

「はい……」

「ならば……我らが成すべき事は一つだ。私も出来る限りの協力をさせて貰おう」

「いや、しかし……」

「トーマ殿……ミコトを頼む。君になら、安心して任せられる」

「で、では……」

「ああ。喜んで君にミコトを差し上げよう」

「ほ、本当に……本当に……イイんですか?」

「何だ?物分かりの良い父親というのは、調子が狂うかね?」

「あ……その……『オマエになぞ、娘はやれん!!』と言われるだろうと……ミコトから……脅されまして……」

「アイツめ……」

「あ……言っちゃダメですよっ!!そんなコト言われたら……後でどんなに怒られるか……」

「オイオイ……何だ?……もう尻に敷かれてるのか?」

『ギクッ!!!』

「君はそっちをもう少し勉強した方がイイかもな?……ハッハッハッハッハ」

「……そ、そんなァ……」

「歴戦の勇者も形無しだな。ハッハッハッハッハ」

「……うう……不幸じゃないけど……不幸じゃないけど……何か……不幸……っぽいなぁ……」

「それじゃあな」

「えっ!?……あっ、あのッ……?」

「ん?何かね?」

「オレに何かお話しが……」

「ああ、もう済んだよ。……じゃあ、次に会う時は『婿殿』と呼ばせて貰うよ。トーマ殿」

「タビカケ様……」

「オイオイ、今はそれでも良いが……次に会う時は『父上』と呼んで欲しいものだな」

「えっ!?」

「だってそうだろう?」

「あ……それは……その……えっと……はい……」

「じゃあ、吉報を待っている。……この国の未来を頼むぞ!!!」

「はいッ!!!!!」

 動くと決めた【勇者】達の動きは早かった。
 翌日の正午には『ア』の国と『ラウ』の国に対して、敢えて『ワ』の国の名は使わず『創造主の意志に従い、人々が幸せに暮らせる争いのない世界を築くため、この大陸を統一する』とミノル師父が宣言し、【勇者】軍として両国に宣戦を布告。と同時に『ア』の国の『大老』一派の拠点をトーマとアクセラが強襲した。
 『ア』の国の『最強の戦士』と怖れられたアクセラと、そのアクセラを倒したトーマの二人にいきなり強襲された『大老』一派は抵抗らしい抵抗も出来ず、そのほとんどが壊滅した。
 その後、間を置かず同盟推進派の新政権を発足させ、『ア』の国の全権を掌握させた。

 この事態を見守っていた『ナ』の国は、機を見るに敏であった。
 【勇者】軍が『ア』の国に侵攻したと見ると、直ぐさま軍勢を『ラウ』の国に向けて派兵した。
 そして、全軍の指揮をミノル師父に委譲し、一国の軍隊が【勇者】の指揮下に入るという、前代未聞のことをやってのけた。
 この行為によって、『ナ』の国は『【勇者】と共に創造主の意志に従う』という『錦の御旗』を手に入れた事になる。
 実は、この『ナ』の国の機敏な動きの裏には、タビカケとエリザード女王のホットラインが存在したからなのだが、【勇者】達はそれをも計算に入れて動いていた。

 一方、『ラウ』の国の『上皇』一派は突然の【勇者】達の侵攻に対し、全軍をあげて抵抗する姿勢を見せていた。
 『ラウ』の国は宣戦布告があったのと同時に『ワ』の国の国境線に戦力を集中させ、【勇者】に対する備えを固めた。
 だが事態は思わぬ方向に向かう。
 『上皇』一派が派兵した直後、首都で現国王が『上皇』派に対するクーデターを決行。
 それを支援する形で『ナ』の国軍が『ラウ』に侵攻した。
 現国王は信仰心に厚い人柄で、ハンゾウの報告にもあったように、一刻も早く争いを止め疲弊した国の立て直しをしたいと常に願っていたのだ。
 彼もまた『機を見るに敏なり』であり、何よりも民の平和を望む名君の要素を持った人だった。
 『上皇』軍は前方に【勇者】軍、後方に『国王』軍と『ナ』の国軍に挟まれ、その上『ア』の国を制圧したトーマとアクセラに側面を突かれる格好になった。
 結果、『上皇』軍は四分五裂し、【勇者】軍は大した戦闘もなくそれを制圧。『上皇』は『ナ』の国で幽閉されることとなり、こうして大陸の統一は本当にあっという間になされたのだった。

 大陸の統一がなった。平和の時代が来る。
 多くの民が待ち望んだ時代が来たのだ。
 大陸中が希望に満ちあふれ、新しい時代の幕開けを人々は喜んだ。

 この新たな時代を切り拓いた【勇者】達は、統一国家を築いた英雄として人々に迎えられることになる。
 『ワ』の国は沸き立っていた。長年の夢でもあった先王の願いがついに果たされたのである。
 凱旋パレードでは【勇者】達が一人ひとり紹介され、全国民からの圧倒的な支持を得るに至ったのである。中でもトーマとアクセラの人気は凄まじかった。
 特に『天然フラグメイカー』であるトーマは、パレードの最中もあちこちでフラグを立てまくっていたようだし、女性ファンに揉みくちゃにされるといった事態に陥ってしまうこともあったようだ。
 アクセラはその無愛想な表情が幸いしたのか、それほどのコトはなかったようだが……。

 そんな凱旋パレードも終わり、【勇者】達は里に戻って仲間達と共に、改めて統一の喜びを噛み締めることが出来るのだった。

 そしてトーマは……タビカケ城を訪れていた。
 理由はもちろん、ミコト姫を妻として迎えるためである。
 だが……

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

「だからさぁ、いい加減機嫌直してくれよ……ミコト」

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

「だから……アレは事故なんだって……オレはそんなつもりは……」

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

「オレはオマエ以外の女には興味がないんだからさ……」

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

 ミコトが不機嫌な理由……それは、パレードの最中にトーマが女性ファン達に揉みくちゃにされていたのを、中継で見たことが原因なのだ。
 しかも悪いことに、女性ファンの一人に抱き締められ、その大きな胸に顔を埋めながらニヤけているトーマの顔がアップになっていたのをミコトはシッカリ見てしまった。
 どれ程トーマが言い訳をしようが、ミコトとしては聞き入れる訳にはいかない。
 例え自分を妻として迎えに来てくれたとしても、その直前に浮気まがいの行為をしていた男をそう簡単に許せる訳はない。

「ハァ……不幸だ……」

「……何が不幸よ……あんなに嬉しそうにニヤけてたクセに……」

「いや、だから……アレはホントに事故で……」

「事故、事故って、トーマがパレードでイイ気になってるから……あんなコトになるんじゃない……」

「あ……アレは、ファンサービスじゃないか。そういうのも必要なんだよ……」

「何がファンサービスよ……。このニヤけた顔は何なのよッ!!!!!」

「ゲッ!?……オマエッ……こんなモン録画してたのか!?」

「当たり前じゃない。将来の旦那様の晴れ姿なんだもん。妻としては当然の務めなのよ。……それなのに……それなのに……トーマったらさ……」

(だ……旦那様って……オレのこと?/////……んでもって……妻としてって……//////////)

「何、一人でデレてんのよ!?……私の機嫌はまだ直ってないんだからねっ!!!!!」

「分かった、分かった。オレが悪かった。なっ、なっ。……ミコトのお願いなら何でも聞くから……頼むから許してくれよ……これこの通り……」

 ミコトの前で手を合わせて頭を下げまくるトーマ。
 歴戦の【勇者】形無しである。

「ホントに何でも言うこと聞いてくれる?」

「ああ、ミコトの言うことなら何でも聞いてやるから……」

「ホントに?」

「ホントだって」

「ホントのホントに?」

「ああ、ホントにホントだ」

「ホントのホントのホントに?」

「ホントのホントのホントだってば……」

「ホントのホントのホントのホントに?」

「……オイ、しつこいと……」

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

「ああっ!?ごっ、ゴメン、ゴメン……ホント、ホントのホントのホントのホントのホントだからっ……なっ、だから……機嫌直してくれよ……ミコト」

「もう、ミコトちゃん、それくらいにしておいてあげなさいな」

「あっ……ママ……でもさ……トーマったらさ……」

「あらあら、申し訳ありません、ミコト姫様……まったくトーマさんと来たら、一体誰に似たのかしら……」

「えっ!?……あっ……母さん!?」

「えっ!?……トーマのお母様っ!?」

「お初にお目にかかります。トーマの母、シーナと申します」

「はっ……初めまして……ミコトです……トーマとは……その……」

「トーマから聞いていますよ。といってもこの前いきなり「オレ、結婚するから」って言って来ただけですけど……」

「えっ!?……(ポンッ!……//////////)」

「こんな美しいお姫様の心を射止めちゃうんだから……我が子ながら……」

「ホント……ミコトちゃんをここまで惚れさせちゃうなんてねェ……(ニヤニヤ)」

「それより……どうして?……何で母さんがここに居るんだ?」

「あらあら……トーマさんとミコト姫の結婚式のためじゃないの。当事者のアナタが何を言ってるの?」

「ヘッ!?……結婚式……?」

「今日はウチのダンナに「ミコトを下さい」って言いに来たんでしょ?」

「えっ……あっ……あのッ……それは……そうなんですけど……」

「えっ!?……ホントなのっ!?……トーマ?」

「あ……うん……今度の闘いが終わったら、ミコトを迎えに行くって……前に……。オマエには言ってなかったけど……ビックリさせようと思って……」

「……と言うより、私が「サッサと連れて行け」と言ったんだがな……」

「た……タビカケ様っ!?」

「オイオイ、婿殿……呼び方が違うだろう?」

「あ……その……ち……父上様……(ゴニョゴニョ)」

(パパがトーマを『婿殿』って……。それにトーマがパパを『父上様』って……//////////)

「【勇者】になった時から、オマエとの『縁』が切れたとは言え、オマエが私たちの息子であることに代わりはないんだからな」

「とっ……父さん!?」

「お久しぶりですな、タビカケ殿。今回の闘いもタビカケ殿の手際、おみごとの一語に尽きます」

「こちらこそお久しぶりです。トーヤ殿。私の働きなど微々たるもの。前線での婿殿の活躍がなければ、ここまでのことは成せませんでした」

「おやおや、もうトーマは『婿殿』ですか……?ならば我らもミコト姫様の呼び方を考えねばなりませんなぁ」

「あらあら、ミコト姫様はトーマのお嫁さんですよね?」

「ああ、そうか……ハッハッハッハッハ」

(お、お、お、お、おおおおお嫁さんっ!?……私が……トーマの……お嫁さんっ!?)

「あ……あの……このいきなりの展開は……一体……」

「善は急げと言うだろう?だから、君たち二人の結婚式をやってしまおうという訳だ」

「「エエッ!?」」

「そっ、そんな、いきなりっ!?」

「こっ、心の準備が……」

「二人とも何を言ってるんだ?もう、将来を誓い合っているんだろう?」

「そっ、それは……その……」

「……ぅ、うん……(ゴニョゴニョ)」

「だったらもう、周りを待たせる必要もないでしょ?」

「ママ……」

「ミスズ様……」

「アラッ?ウチのダンナは「お父様」って呼ぶクセに、私は「ミスス様」なの?『婿殿』?」

「……何か……ミスズさんから『婿殿』って呼ばれると……違う意味で怖いよーな……」

「へェ……そーゆーコト、言うんだ……」

『ギクゥッ!!!』

「アハハ、ジョークよ、ジョーク」

(ジョークに聞こえねぇんだよなぁ……この人の場合……)

「何か言った?」

「い、いえ……別に……」

「そう……なら良いわ。……それじゃあ、始めちゃいましょうか?」

「えっ……もう?」

「ハイハイ、ミコトちゃんはコッチ、トーマ君はアッチね」

「「えっ?……えっ?……えっ?」」

 二人は訳も判らぬまま、それぞれに準備した部屋に連れて行かれ、そこで着替えをさせられる。
 そして、タビカケ城にある、聖堂へと連れて行かれるのであった。
 聖堂には、二人を祝うために多くの仲間が集まっていた。

「これより、【勇者】トーマとタビカケ城城主の姫君ミコト姫の婚儀を行う」

「新郎トーマ、これへ!」

 進行役は、師父ミノル。祭壇に立つ司祭はシン老師である。

「はっ……はいっ!!」

 トーマが純白の【勇者】の正装で祭壇の前に立つ。

「新婦ミコト、これへ!」

「……」

 静々と、純白のウェディングドレスに身を包んだミコトがゆっくりと歩を進めトーマの横に並ぶ。
 その姿は、見る者に息を呑ませるほどの美しさであった。
 特に、新郎のトーマはそのミコトの晴れ姿を見て、呆然としている。

 その時、シン老師が言葉を紡ぎ始める。

「創造主よ、今、貴方の前に揃いましたるこの二人は、これよりの人生を共に歩むと誓う二人であります」

 嗄れた、しかし『凛』としたその声に聖堂内は静寂に包まれる。

「別々に生を享けた二つの命は、多くの愛に支えられながら、自らの人生を切り拓き、そして出会い、小さき二筋の流れが一つになるように、今日、新たな門出を迎えております」

「この二人の契りが、真に貴方に応える約束かを証すのは、他の誰でもなく、これからの二人によってなされます」

「苦しい時も、辛い時も、嬉しい時も、いつどんな時であっても、二人で共に歩んで行くこと。二人で共に背負って行くこと。二人で共に支え合って行くこと。二人で共に生きてゆくことが、貴方との約束を果たす、何よりの証しとなります」

「不安の嵐の中に飛び込もうとも、退屈な凪に出会おうとも、如何なる時と場に於いても、一番大切にしなければならないものを、この二人が心を一にして見失うことがないように、お導き下さい」

「違いを含めた相手の全てを認め受けとめられますように……」

「成り行く者としての命を愛し続けられますように……。そして、この二人に創造主のお導きがありますように……」

 シン司祭の創造主への祈りが捧げられる。
 そして……

「トーマよ」

「はっ……はいっ!」

「そなたは、このミコトを生涯の妻とし、病める時も、健やかなる時も、共に道を歩む伴侶として、生涯の愛をここに誓うか?」

「ちっ、誓いますっ!!」

「ミコトよ」

「はい……」

「そなたはこのトーマを生涯の夫とすることで、全ての『縁』から『無縁』とならねばならん。それを引き受けられるか?」

「はい」

「ウム。ではその上で、このトーマを生涯の夫とし、病める時も、健やかなる時も、共に道を歩む伴侶として、生涯の愛をここに誓うか?」

「はい……誓います」

「二人に創造主の光あらんことを!!!」

「「「「「「「「「「「トーマ、ミコト。おめでとう!!!」」」」」」」」」」」

 万雷の拍手と祝福の言葉が聖堂を満たす。
 トーマとミコト、二人は今不壊の絆に結ばれ、永久の誓いを創造主の元に捧げたのだった。


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