とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part56

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とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)3


 オレを鍛え直すと御坂は言った。
 だから、絶対に何かをやらされると思っていた。
 ところが……アレからオレは御坂と会ってない。
 メールも無いし、電話なんてもちろんかかってこない。
 もう1週間にもなるってのに……アイツは何を考えているんだ?

「鎖に繋がれた……と思ったら……いきなり放置プレーですか?……ハァ……不幸だ……」

 ホントに……アイツはオレをどうしたいんだ?
 何か、思いっ切り引っかき回されてんな……オレ……。

「ハァ……不幸だ……」

「と言ってもなぁ……何かのアクションが有ったら有ったで……それは、それで……不幸……なんだろうなぁ……」

(なァ……御坂……オマエ、結局……何がしたいんだよ?)

 連絡がない携帯を見つめながら、オレはそんなコトを考えていた。

「まぁ……なるようになるか……それに……決めた事だしな……」

 そう言ってオレは、ウーンと伸びをした。

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「どうしよう……」

 御坂美琴は悩んでいた。
 確かに1週間前に、上条当麻から『私の言う事を何でも聴く』と約束させる事は出来た。
 『私がアンタを鍛え直してあげる』
 とまで言ったのだ。それなりの決意と覚悟がその時にはあった。

 だが……冷静になって振り返ってみると……とんでもないことをしてしまったことが分かる。

 『あの人に応えたい』

 その一念で突っ走ってしまった。
 何をすればいいのかなんて、全然考えていなかった。
 ただただ突っ走ってしまったのだ。
 前に進む事だけしか考えていなかったのだ。
 自分が何を大切にしたかったのか?
 自分は一体どうしたかったのか?
 そこに考えが及んでいなかった事が、冷静になった今なら分かる……。

 その夜は『やった!!』と思っていた。
 何せあの上条当麻から『言う事を聴く』と約束させる事が出来たのだから……。
 頬の筋肉が緩んでしまうのを抑えられなかった。
 『あんなことや……こんなことや……もしかしたら……もしかしたら……スゴい事になっちゃったりして……』
 などと要らぬ妄想に囚われて、マトモに寝られるかどうかも怪しいほどだった。

 だが、一夜明けて……冷静に考えてみたら……とんでもない事をしでかした事に気が付いてしまった。
 相手の気持ちなど完全に無視している。
 自分のワガママだけを押し付けている。
 第一、自分と上条は恋人でも何でもない。今の状況では友だちですらないのだ……。
 自分が築こうとしていたモノが、砂上の楼閣であった事を御坂美琴は思い知ったのである。

 自分が本当に大切にしたかったもの……。
 『この世界の上条当麻と一緒に歩めるようにならなきゃいけない』
 だけど、それは……本当に大切にしたかったものだったのだろうか?
 そう考えた瞬間、彼女の思考は完全に停止してしまった。

 確かに、『この世界の上条当麻と一緒に歩めるようになりたい』とは思っている。
 彼に対する『特別な感情』があることも自覚している。
 だが……それを遙かに凌駕する『想い』が自分の中にある事も知ってしまった。
 『あの人への想い』
 それが1週間前に、自分を突き動かした激情。

 どうすれば良いのか?
 その問いに対する答えを考える事が出来なくなってしまった。
 『あの人への想い』と『上条当麻への想い』の狭間に揺れる自分が居る。
 そして彼女は、上条に会う事はおろか、連絡を取る事すら出来なくなってしまった……という訳である。

「私って……何てバカなのよ……」

 そんなコトを呟きながら、寮のベッドに突っ伏しているしかない。
 彼女は今、自分が起こしてしまった出来事という『試練』の前で、ただ立ち尽くすしかなかった。

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 『あの人』とその『右手』が教えてくれた事。
 『神様は超えられない試練を与える事はない』という真実。
 それは一つの答えだと思っていた。
 だから、それを信じて前に進む事を選んだ。
 でも今、自分が起こしてしまった現実を目の前にした時、それが単なる答えではない事を御坂美琴は知った。

 自分の中にある『あの人への想い』が一番大きいのは自分でも良く分かっている。
 だが『上条当麻への想い』が決して無視出来るほど小さくはないのだ。
 『あの人への想い』が募れば募るほど『その関係を上条当麻と築く事が出来たなら……』という想いが大きくなってくる。

 あり得ない事だった。
 まるで自分の中に『もう一人の自分』が居て、私は『あの人』を求めているのに、『もう一人の私』は『上条当麻』を求めているかのように……。

 そして何より、今の御坂美琴にとっての一番の衝撃は、『あの人』が教えてくれたそれを信じられなくなっている自分が居る。という事だ。

 『あの人』は言う。『神様は超えられない試練をお与えになる事はない』『超えなければ分からない事がある』と……。
 でも、今の自分にとって、それはとてつもなく重い言葉になっている。

「アナタはそう言うけど……今の私じゃ……超えられそうにないよ……」

 答えだと思っていたものが、答えではないと分かった時……。
 それまでは答えだと思っていたものが、今は自分の足枷になっている……と感じた時。
 『あの人』を信じて前に進んだのに……そこに現れたのは、想像もしていなかった現実。
 『もう一人の自分』が大切にしたいと願っている人を、傷つけてしまったという事実。
 自分で自分を裏切ってしまった。
 その事実を目の前にした時、御坂美琴は立ち止まってしまった。足が竦んで前に進めなくなってしまった。

「今の私には……何もない……から……」

 前に進むと決めたのに……。
 折角一歩が踏み出せたのに……。
 その次の一歩が踏み出せない。
 目の前にある壁はとてつもなく巨大な壁……。
 その壁を見て、自分の足は竦んでいる。
 自分はこんなに弱い人間だったのか……。
 それを改めて教えられた気分だった。
 自分だけが独り取り残されてしまったかのような……とてつもない孤独感がそこにはあった。

 前に進む事で生み出した現実。
 それが今は、自分の足を竦ませている。
 そこにあるのは……後悔……。

 傷つけてしまった。
 本当は誰よりも大切にしたかったあの人を、自分が傷つけてしまった。
 もう一人の『あの人』が教えてくれたからこそ、『上条当麻』に向かえると思った。
 そして、正面から向かっていった。
 でも……その時は、何も考えていなかった。
 無我夢中で、自分勝手に突っ走って、無手勝流に突っ込んでいった。
 その結果が……これだ。

「もう……会えない……会える訳がない……どんな顔して会えばいいのよ……」

 そう呟いた瞬間だった……。ゲコ太携帯から、お気に入りの曲が流れてきた。

♪~(fu woo.. fu woo.. Try to be glorious believer. Just to.. go on.. realize soulful heart) Let's fly faraway! 届きたい 君と約束した未来
躊躇(ためら)いも 踏み越えて 飛び立てる 胸に 響く 夢があるから~♪

(うそっ……これって……!?)

 慌てて携帯に飛びついて画面を見る。
 そこに表示されている名前は……
 『上条当麻』

「!!!」

 思わず息を呑む。
 通話ボタンを押す指が震える。
 『押したい』……でも……『押せない』
 そんな葛藤のウチに、留守電機能がはたらいてしまう……。

 そして、メッセージが聞こえてくる。

『ああ、御坂か?上条だけど……。……ちょっと話したい事があるから……悪いんだけど、いつもの場所に来てくれないか?渡したいものもあるし……。来てくれるまで待つから……。じゃあ……』

 彼らしい、素っ気ない中にも、優しさが溢れるメッセージ。
 そのメッセージを聴いた途端……美琴の中に溜まっていたものが、一気に溢れ出した。

「……どうして?……どうしてそんなコト言うのよ……私はアンタを……アンタを傷つけたのよ……。自分だけが勝手に突っ走って……自分のワガママだけを押し付けて……アンタを『あの人』と勘違いして……。そんな私が……どうやったら、アンタに会えるって言うのよ……。……うっ……ううぅっ……うゎぁぁぁあああああああああ……」

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 いつもの自販機のある公園で、待ち惚けを喰らっているオレの携帯が言葉を吐き出す。
 画面を開き、差出人を確認する。

「御坂……」

 ゆっくりと届いたメールの中味を確認する。


 to 上条  from 御坂

 sub ゴメンなさい

 私は行けません。
 今の私は、アナタに会う資
 格がないから。
 ゴメンなさい。
 しばらく、会わない方がイ
 イと思う。


「……バカ野郎が……」

「何で、オマエが苦しむんだよ?……何で自分だけで苦しむんだよ?……オレはまた……またやっちまったのか?」

「……でも……ココで止まったら……」

 そう呟いたオレは、すぐに返信を打つ。


 to 御坂  from 上条

 sub いいから来い!

 資格とかそんな話をしてる
 んじゃない。
 今会わなきゃいけないと思
 うから、出て来てるんだ。
 いいから来い!!
 来なきゃ、寮まで押し掛け
 るぞ!!!


「脅し文句じゃねェからな……っと。……来ねぇんなら、マジで押し掛けてやる……」

 そう言って俺は送信ボタンを押す。
 そして、心の中で呟く。

(オマエだけじゃねぇんだよ……あの不思議な体験をしたのは。……オレはオレで……大切なものを貰ってるんだからな……)

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 返信はすぐに来た。


 to 上条  from 御坂

 sub 本気?

 寮にまで押し掛けてくるっ
 て……。本気なの?

 お願い。そっとしておいて


 メールを見た途端『ムッ!』と来た。
 急いで返事を打って送る。


 to 御坂  from 上条

 sub 本気だよ!!

 これからそっちに行く。
 クビを洗って待ってろ!!


 『送信完了』のメッセージが画面に出たのを確認して、携帯を畳んでコートのポケットに押し込み、すぐに常盤台の寮に向かって走り出す。

(また、泣かせちまう……かもな……。でも……今行かなきゃ……、今伝えなきゃ……、今渡さなきゃ……絶対に後悔するから……)

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 走り出したオレのコートの中で携帯が叫ぶ。
 それはまるで、アイツの……御坂の悲鳴のような気がした……。
 オレは立ち止まって、メールを確認する。


 to 上条  from 御坂

 sub 来るな、バカ!!!

 そっとしておいてって言っ
 てるでしょ?
 お願い。来ないで。


「……あの……バカが……。だから独りで抱え込むなって言ってんだろうがッ!!!!!」

 携帯の画面を見たオレは、そう叫ばずにはいられなかった。
 そして、アイツの携帯に電話をかける。

『トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……』

(今のアイツが出る訳はない……。それは分かっている。でも……オレはアイツに会わなきゃいけないんだ……。オマエがオレにワガママを押し付けたように……今度はオレの番だ……。オレの番なんだよ……御坂……)

『トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……ピッ……も、もしもし……』

「あ……み……御坂か?上条だけど……」

『……何で……何でよ……何でなのよォ……。……来ないでって言ってるじゃない……来てくれたって……私……どんな顔してアンタに会えばイイのよォ……』

「いいから出て来いよ!……オレはお前に話さなきゃならないコトがあるんだからっ!!!」

『話せる訳無いじゃない……私はアンタを傷つけた……私のワガママだけを押し付けたのよ……。そんな私が……アンタに会う資格なんて……』

「誰も資格がどうとか、そんな話がしたいんじゃない!!!会って伝えなきゃいけないコトがあるんだよッ!!!何で独りで抱え込むんだよ……。このままじゃあ……このままじゃ……オレはまた……」

『何で……何で……そっとしておいてくれないの……?……どうして……どうして……こんなコトになっちゃったのよ……ううッ……』

「今回だけは、オマエが泣こうが喚こうが……オレは行くからな。お前に会いに行くからなっ!!!……オマエがオレにワガママを押し付けたって言うんなら、今度はオレがオマエにワガママを押し付けてやる。……それでアイコだ……。だったら……文句ねェだろう!!!」

『……でも……でも……だって……だって……』

「もうすぐ……着くぞ!!」

『!!!』

「ハア……ハア……ハア……ハア……着いたぜ……御坂……」

『……バカ……どうして……どうして……』

「ハア……ハア……ハア……最後通告だ……5分待つ……その間に出て来い。……もし出て来なかったら……」

『出て行かなかったら……?』

「ココで大声で叫んでやるよ。……『お前が好きだ。御坂美琴が大好きだ!!!』ってな……。大声で叫んでやる!!!」

『えっ……?』

「風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)を呼ばれたって構わない。変質者扱いされたってイイんだよ。それだけの覚悟があって、今日会おうって決めたんだから……」

『……アンタ……バカよ……』

「知ってるよ……。誰よりも自分が一番知ってる……。だから来たんだ!!!」

『……本気……なの?……』

「ああ……あと4分……」

『まだ1分も経ってないわよ……バカ……』

「オレの中じゃ、経ってるんだよ……。いいから早く出て来いよッ!!!」

『……グスッ……このまま待って……アンタを変質者として……黒子に捕まえて貰うっていう手もあるわよ……』

「構わねぇよ……それならそれで……白井に金属矢を打ち込まれたって……オレはココを動かないからな」

『アンタって……ホントに……バカ……』

「何度も言うんじゃねェ……。……あと3分……」

『……分かったわよ……でも、ちょっとだけ待って……。支度するから……』

「ダメだ……。一度顔を合わせてからでなきゃ、信じられねぇ」

『わ……分かったわよ……』

「早くしろよ……。……あと2分……」

『……バッ……バカ……ピッ』

「来なかったら……ホントに叫んでやるからな……御坂……ピッ」

 とは言え、さすがに恥ずかしいので……最初に宣言したトコから5分キッチリ待つ事にした。
 時計を見ながら、御坂を待つ。
 だけど……アイツ、ホントに出て来ねぇぞ……?

 まさか……マジで……オレを変質者扱いにするつもりか?
 この前のアイツだったら……やりかねねぇな……。

 だが、コッチだって引き下がれるか……。
 やると決めたんだ。絶対にやってやるよ……。……男だからな……うん……。

 でも……ちょっと……な……。
 あと2分……。
 マジですかァ~……御坂さ~ん。
 アンタは鎖につなげた愛玩奴隷を、1週間も放置したあげく、変質者扱いさせて……ポイッ……するおつもりですかぁ……?
 ポイ捨てはダメですよォ~……。

 あと1分……。
 オイオイ……マジで、出て来ねぇぞ……。

 あと45秒……。
 気配のカケラもねェ……。マジかよ……?

 あと30秒……。
 出て来るよね……出て来てくれるよね……御坂さん……。(ダラダラダラダラ……)

 あと20秒……。
 ま……マジで……かよ?

 あと10秒……。
 しょうがねぇ……覚悟……決めたんだからな……。

 9……8……7……6……5……4……3……2……1……

 ゼロッ!!

「すぅぅぅううううう……」

「わぁぁぁあああああっ……待って!待って!!待って!!!待ってぇ~!!!!!」

「……オレは……モガッ!?……」

「だから待ってって言ってんでしょうがッ……このバカっ!!!!!」

「モガッ?……モゴモゴ……」

「い……言わない?」

「……(コクリ)……」

「ホントにもう……言わない?」

「……(コクコク)……」

「ホントよね?……ホントにホント……よね!?」

「(コクコクコクコク)」

「じゃあ……手……離すわよ……」

「みさッ……モガッ!!!!!」

「言わないって言ったでしょうッ!?」

 俺は御坂の手をつかんで口から離すと……

「ジョーダンだよッ……へヘッ……1週間前のお返しだ」

 と舌を出して言ってやった。

「じょっ……冗談って……あ……アンタねぇ……」

「今のが冗談だって言う意味だよ……。出て来なかったら、マジで叫んでたぜ」

「ッ!?……バカ……」

「バカで結構。……さあ、行こうぜ……」

「い……行くって……ドコへ?」

「二人っきりで話が出来るなら、ドコでもイイよ……。ただ……さすがにココに長居するのは……マズいだろ?」

「ヘッ!?」

「ほら……上」

 そう言ってオレは寮の方を指差した。
 そこには……あの、夏休み最後の一日を思い出させるような光景が再現されていた。

「あ……/////」

 それを見た途端、御坂は真っ赤になって俯いた。
 オレはその御坂の手を取って、その場を離れようとした。

「あ……えっ……あ……あの……」

「ほら……行くぞ。……もしアイツにでも見つかったら……」

「アイツとは誰の事ですの?……類人猿さん?」

「ただじゃァ……あ……ゲッ!?……し、白井……」

「風紀委員(ジャッジメント)ですのっ!!!お姉様、誘拐の現行犯で逮捕しますッ!!!!!」

「だっ……誰が、誘拐犯なんだよッ!?」

「この期に及んでシラを切るおつもりですか?……何なら……この場で死刑執行まで代行して差し上げても宜しいんですのよッ!!!」

「じょ……冗談じゃねェ……逃げるぞっ!!!御坂ッ!!!」

 そう言ってオレは白井と反対方向に御坂を引っぱる。

「えっ!?……アッ……うんっ!!!」

 顔は赤いままだが、俯いてた御坂が慌てて着いてくる。

「ヘッ!?……おっ……お姉……様?」

 その様子に白井が一瞬呆気に取られた。

「くっ……黒子……ゴメン……後でチャンと話すからぁ~……」

「お……お姉様?」

 御坂が走りながら白井にそう叫ぶと……白井はオレたちを追うのを諦めたようだった。



「ハア……ハア……ハア……ハア……ココまで来れば……ハア……ハア……大丈夫だろ……ハア……ハア……」

「ハア……ハア……ハア……ハア……いきなり……ハア……ハア……走り出すんだもん……ハア……ハア……」

「だって……ハア……ハア……しょうがねぇだろ?……ハア……ハア……アイツに見つかっちまったんだから……ハア~……」

「もう……ハア……ハア……回復したの……ハア……ハア……どんな……ハア……ハア……スタミナしてんのよ……ハア~……」

「そんなオレと一晩中、追いかけっこ出来るのを一人知ってるけど……」

「うっさいわねぇ……このバカ……」

「……コイツ……また『バカ』って言いやがったな……でも……何とか連れ出せたぜ……」

「あ……えっ……えっと……その……」

「とりあえず……座らねえか?」

「あ……うん……」

 御坂は怖ず怖ずとオレの横に少し距離を取って座る。
 この距離が……オレと御坂の距離……なのかもな……。

「まず、とりあえず謝っとく。今日は無理に引っ張り出してすまなかった。ゴメン!!」

「そっ……そんな……。……だって……先週に……私が……あの……」

「その事なんだけど……あの……これ……」

「え?……何これ?……USBメモリー?」

「向こうの世界のオマエからのメッセージだそうだ。預かってきた」

「エエッ!?……『あの人』が居る世界の私からの……メッセージ……?」

「ああ、らしいぜ……」

「一体……何て?」

「知らねぇ……。どうしようも無くなったら、オマエに渡せって。そう言われたから……」

「どうしようも無くなったら……って……」

「マジで、どうしようも無くなってんじゃねぇの?……今?」

「あ……うう……」

「もしかしたら、そういう意味じゃないのかも知れないけど……オレにはそう見えたから……」

「うっ……ううっ……」

「アッ……ごっ……ごめんっ……そういうつもりじゃなかったんだけど……」

「だって……だって……全部……私が……アンタを……傷つけて……」

「イイんだ……」

「なっ……何でよッ!?……他に好きな人が居るって言ったのに……アンタを『あの人』みたいにするって言ったのに……何で……」

「ソイツと直接会った訳じゃねェからさ……良く分からねぇところもあるんだけど……な……ホントにスゲェヤツなんだってコトは……分かるよ……」

「えっ!?」

「今のオレじゃあ……敵いっこないよ……」

「……どうして……どうして……そんなコトが言えるの?」

「向こうの御坂を見れば……分かるよ。あんなのと対等に付き合ってるんだぜ……。お互いを支え合いながら……。オレなんか……足元にも及ばねぇよ……」

「そんな……」

「闘う前から……『負けた』と思ったのは……ホント初めてだけど……納得しちまった……」

「あの……」

「ん……何だ?」

「そんなに……凄いの……向こうの私って?」

「ああ。……オマエなんか、霞んじまうくらいにな」

「うっ……」

「ショックか?」

「……そう……だよね……『あの人』と一緒に歩める人なんて……私が……どんなに頑張っても……敵う訳ないよ……ね……」

「詳しい事は分からねぇけど……多分、ソイツに入ってんだろうから……聞いてみればいいよ」

「そう……ありがと……」

「あ……後さ……その……インデックスの事なんだけど……」

「あ……うん……」

「アイツ……オマエにオレの部屋のカギ……渡したろ?」

「え?……うん……」

「アイツ……ホントに渡しやがったのかよ……」

「えっ!?……知ってたの?」

「ああ、かなりその事で話したからな……」

「えっ!?……じゃあ、何にも言わずに出て行った訳じゃ……」

「今のアイツはそんなコト……しないよ……」

「そう……なんだ……」

「あっちと入れ替わって、コッチに戻ってきて……部屋に戻った時に、アイツが居るのを見て……何か『ホッ』とした自分が居たのは間違いないよ」

「う……うう……」

「だけど……同時にビックリしたのも間違いないんだ。だってアイツ……インデックスが全然変わっちまってたから……」

「変わってたって?」

「オマエが言ったんじゃねェかよ……あんな子どもをあんな風に決心させられるなんてってさ……」

「あ……そう……だっけ?」

「あのなぁ……まあ、イイや。……そうなんだよな、オマエが言ったように、アイツをあんな風に変えられるなんて……たった一晩一緒に居ただけでさ……」

「インデックスが言ってた……いっぱい話をしたって……」

「ああ、聴いたよ……」

「全部……話してから……行ったんだね……インデックス」

「ああ、そうだよ。アイツはさ……『私がやらなきゃならないコトが見つかったんだよッ』ってすんげー嬉しそうに言うんだよな……」

「あ……」

「オレと、向こうのオレを比べたからじゃない。『自分がやらなきゃならないコト』が見つかったから、イギリスに帰るんだ……ってな……」

「そう……そうなんだ……」

「思い知ったよ……オレと……向こうのオレの『力』の差って奴を……」

「……うん……分かる……分かるよ……」

「嬉しそうに言うな……バカ……」

「あ……アンタにバカ呼ばわりされるなんて……ショック……」

「ざまあ見ろ……いつも言われてるオレの気持ちが少しは分かったか……へヘッ……」

「アッ……アンタねぇ……」

「なんだよ?」

「今日の……今日の……アンタは……優しくない……」

「ハァ?」

「む~~~~~~~~~~~~~ッ」

「何、カワイくむくれてんだよ!?……似合わねぇぞ……」

「ぶ~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

「ハイハイ……カワイい、カワイい」

 そう言ってオレは御坂の頭を撫でてやる。

「あ……(ポンッ!!!)//////////」

「久しぶりに見たな……その顔……」

「えっ!?」

「いつも怒ってばかりの顔しか見てなかったからさ……なんか……懐かしい」

「……うう……バカ……(ゴニョゴニョ)」

「インデックスが最後にオレに言ったのは……二人のとうまを比べたからじゃない。私は私がやらなきゃならないコトを見つけさせて貰えた。だからイギリスに戻って、勉強したい。オレと離れるのは寂しいけれど、その為に自分のやりたい事を犠牲にはしたくない。だから帰るんだ……ってな」

「そう……」

「そしてさ……『どっちが好きだなんて決められないんだよ』……だってさ。んで、あのヤロウ言うに事欠いて『私は敬虔なるシスターなんだから、みんなに平等に愛を与えなきゃいけないんだよ』……何て言いやがってさ……」

「……何か……一番似合わない……台詞よね?」

「だろ……それを平然と言いやがったんだよ……アイツ……ッたく……アイツをあんな風に変えるなんてさ……アイツに道を示してやれるなんて……ホントにスゲェよ……」

「うん……」

「だから……オマエの気持ちが分からない訳じゃないんだよ……」

「えっ!?……」

「あっちのオレに憧れちまったオマエが、オレをあんな風にしたいって思ったって仕方がない……そう言ってるんだよ……」

「えっ……うそ……」

「うそじゃねぇよ……オマエがそうなったっておかしくないって言ってるだけだぞ。……オレがそうなるって言ってる訳じゃねェからな……」

「あ……そうか……ゴメン……」

「ただ……たださ……負けっ放しは……その……やっぱり……イヤかなぁ……って……」

「えっ!?」

「出来れば、ちょっとは追い付けたらって……思うんだよな……」

「うそっ……アンタの口からそんなコト……」

「うっせぇ!!……オレだって、こんなこと言いたかねぇよ……だけど……そう思っちまったんだから……しょうがねぇだろ……うがよ……」

「でも……だからって……私がやっちゃった事が……」

「ああ、正しいとは言わない……だけど、それほど間違ってるってコトでもないんだよな……オレにとっちゃ……」

「えっ!?……どういうコト……?」

「凄いズルい事をこれから言うんだけど……イイか?」

「ズルい事?」

「ああ。……あのさ、この前の事でオマエがオレにワガママ言って、無理矢理オレに言う事を聴かせようとした事を後悔してくれてるんなら、今日ここに引っぱってきたワガママと一緒にもう一つ、オレのワガママを聴いて貰えないか?」

「えっ!?……アンタのワガママって?」

「すっ……好きとかっ……キライとかっ……そんなのを抜きにして、オレが……オレが向こうのオレにせめて並べるくらいになるまで……サポートして貰えねぇかな……(ゴニョゴニョ)」

「えっ……エエッ!?」

「恋人とかさ、友だちとか……そういう関係は抜きでさ……ある意味パートナーとして、サポートして貰えねぇかな……って……」

「そ……そんな……ズルいよ……」

「分かってるよッ!!!どれだけズルい事を頼んでるかってコトくらい……分かってるけど……今のオレたちじゃあ……そうしないと……前に……進めない……だろ?」

「あ……そ……それは……うん……」

「だっ……だから、そういうのを全部一度棚上げにして、……もう一度、一から始められねぇかなって……思うんだけど……どうかな?」

「ホント……ズルいよ……それ……」

「ああ……分かってるって……」

「でも……アンタの言う事も……分かる……な……」

「御坂……」

「……いいわよ……」

「ヘッ!?」

「イイわよッて言ってるの」

「いっ……イイのか?……ホントにっ!?」

「ええ……但し、交換条件があるわ」

「交換条件?」

「うん……恋人じゃないけど……名前で呼び合うって言うのは……ダメ?」

「う……うう……ダメ……じゃ……ない……」

「ホントにっ!?」

「あ……ああ……イイぜ……みっ……美琴……」

「(ドキッ!!)……うう……もう一回……」

「ヘッ!?」

「もう一回ッ!!!」

「みっ……美琴……」

「とっ……ととっ……当麻……」

「(ドキッ!!)……うっ……」

「……当麻……」

「……美琴……」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」」

「じゃあ……イイんだな……これで……」

「うん……イイよ……当麻……」

「分かったよ……美琴……」

「じゃあ、とりあえず……明日から勉強でも見てあげようかな……」

「え゛……。あの……美琴さん……いきなり……それですか?」

「もちろん、『あの人』に追い付きたいんでしょ?」

「あ……ああ……そうだ……けど……」

「だったら……せめて……追試や補習は受けないようにしないとね」

「……ああ……不幸だ……」

「そういう関係を望んだのは……とっ……当麻……何だからねっ……。今更『不幸だ』なんて言わないの」

「ヘイヘイ、分かりましたよ……パートナーの美琴様……」

「プッ……」

「ククッ……プッ……」

「「アハハハハハハ……」」

「じゃあ、明日から頼むぜ」

「ううん、今からよ」

「えっ!?」

「晩ご飯……作ったげる……」

「マジッ!?……ホントにっ!?」

「だって……パートナーなんでしょ?健康管理も私の仕事になるんじゃないの?」

「あ……そうか……」

「じゃ、行きましょ?」

「あ……オイッ!!……引っぱるなよッ」

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(なあ……御坂……今日はとりあえず、美琴を泣かせずにすんだよ……。明日は大丈夫って言う保証は何もないんだけどな……)

(オマエが教えてくれた事はまだまだだけど……とりあえずは、前に進めた……と思う)

(なんか……凄くズルいやり方しかできなかったけど……今のオレたちには……これが精一杯なんだよな……)

(こんな風に、少しゆっくり考えるやり方も……アリなんじゃないかな……)

(でも……必ず見つけてみせるよ……オマエが教えてくれたあのやり方で……必ず……オレが一番大切にしたい想いを……)

(ありがとな……御坂……アンタに会えて、ホントに良かったよ……。ありがとう……向こうの世界の御坂美琴……)


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