とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集


ドンドン!という派手な音が良く晴れた青空に鳴り響く。
ここ学園都市が未だに戦争中であったなら、それによりかなりのパニックにもなったのだろうが、今現在はそんな事にはならない。
なぜなら今日この日は一端覧祭という一大イベント当日の朝であり、多少派手な音をあげても学生達のテンションを上げるだけだからだ。

しかし第七学区のとある病院の一室では、この音に対しあからさまな不快感を表している者もいるのだった。

「…………朝から何だこの音は」

そう呟きながらまだ半開きの目を擦る少女。
ウェーブのかかった肩まである黒髪はここ日本でも良く見られるものだが、その顔立ちや褐色の肌、さらにはゆったりとした民族衣装などはここでは珍しいものだ。
彼女の名前はショチトル。中南米系の魔術結社『翼ある者の帰還』の構成員でもある。
色々とあって今はここ学園都市で休養中なのだが、やはり科学にもある程度は精通している組織とはいえ、根っこは魔術サイド。ここにもまだ馴染めきれずにいた。

そんな時、まるで彼女が起きるのを待っていたかのように、コンコンという軽いノックの音が部屋に響く。
そしてショチトルが短く「入っていいぞ」とだけ答えると扉は静かに開かれる。
扉の向こうでは、背が高く、サラサラの髪に白い肌の少年が柔和に微笑んでいた。
外見だけでいえば常盤台中学の理事長の息子、海原光貴……しかしその正体はかつてショチトルと同じ組織にいたアステカの魔術師、エツァリだ。

「病室を間違えているぞ。私にはそんな育ちの良さそうな知り合いはいない」

「ははは、これは勘弁してくださいよ。こっちにも色々と事情があるので」

そんなショチトルの冷たい言葉に海原は頬をかきながら苦笑いを浮かべる。
この顔の方が色々と都合が良いというのもあるのだが、なんだかんだ長期に渡って変装し続けていることもあって、この顔にも慣れてしまっていた。
しかしかつての同僚であるショチトルからするとあまり気に入らないようである。
そして海原がベッド近くのパイプ椅子に腰かけるのを眺めながらいかにも不満げに口を開く。

「事情……ねえ。まぁ確かにその顔の方が女ウケは良さそうだな。
 貴様がうつつを抜かす女子中学生にもさぞかし好評なんだろう?」

「い、いやいや何言ってるんです!?」

ジト目で尋ねるショチトルに焦りまくる海原。
もちろんこの変装はそんな俗っぽい理由でしているものではないのだが、確かにそういう風に思われてもおかしくない。
なぜならこのエツァリという魔術師は、その一人の少女のために組織を抜けたと言ってもなんら問題ないからだ。

「まぁいい。それで私に何の用だ?」

「いえ、調子はどうかなと」

「良くない。帰れ」

「上々のようですね。では今日は少し外を歩いてみませんか?」

「おい」

ショチトルの突き放しを笑顔でかわす海原。
普通だったら凹んでしまうかもしれないだろうが、海原は美琴のやんわりとした拒絶をも受け流していただけあって、少しも堪えないようだ。
一方ショチトルは自分の話をまったく聞いていない海原にかなり不満げな表情をしている。

「まぁまぁ、こんな病室に籠っているのもそろそろ退屈でしょう。
 今日はせっかくの一端覧祭ですし、たまには気分転換もいいのでは?」

「……いちはならんさい?」

「あぁ、まだ知りませんでしたか」

すると海原は頭にハテナマークを浮かべているショチトルに説明を始める。
大雑把にいえば大規模な文化祭である事。
学校側からすれば入学者を集める為のものなので、多くの学校が解放される事。
特に名門校なんかは、入学する気がなくても見ていく価値はある事。

そんな事を詳しく丁寧に話す海原に、初めはいかにも興味なさげに聞いていたショチトルの表情が変わっていく。
しかしそれは関心を示すようになったという事ではなく、どこか呆れた様な顔になったという事だ。

「あぁどんなものかは大体分かった。
 だが貴様はいつの間に学園都市のガイドになったんだ?」

「元々スパイのようなものでしたからね。ここの情報は結構持ってるんですよ。
 それで、どうです? やはり気が進みませんか?」

「……一つ答えろ。私に何か隠していないか?」

急に真剣な表情になるショチトルにつられ、海原の顔からも微笑みが消える。
そのまま二人は少しの間じっと見つめ合ったが、終いには海原の方が少々目線を落として小さくため息をつく。
そして海原は顔を上げると、病室の窓の向こうに広がる良く晴れた青空を見上げながら口を開く。

「…………『太陽の蛇(シウコアトル)』に微弱な魔術反応がありました」

「何だと……?」

どこか他人事のように淡々と説明する海原に、目を鋭くして噛みつくようにさらに尋ねるショチトル。
しかし海原はそんなショチトルを見て小さく笑う。

「ですが本当にごく小さなものです。あれくらいなら偶発的に起きてしまってもおかしくはありません。
 まぁしかしこのタイミングですし、一応警戒はしておいても良いかと」

「………………」

学芸都市での戦いでは猛威をふるったアステカの霊装、太陽の蛇(シウコアトル)。
もしあんなものが現在一端覧祭とやらで賑わう学園都市で発動されようものなら、どれだけの被害が出るかは想像がつかない。
だが本来学園都市は魔術サイドの敵。
あれだけの大規模霊装が展開され、科学サイドのボスに大きなダメージを与えることはこちら側とすれば都合の良い事のはずだ。
そのはずなのだが……。

『本当は、アンタだってこんなやり方がまともじゃないって事ぐらい、気づいてたんでしょ』

ショチトルの脳裏に、かつて自分の前に立ち塞がった一人の少女の言葉が甦る。
青白い翼で大空を飛び、ゲームセンターのコインなどというふざけたものを武器に強大な力を振るったあの少女。
だが彼女はそんな力を持っていながら、自分達の組織が行っていた暴力による解決を真っ向から否定した。
彼女は誰も傷つかない結末を望み、事件を起こした自分達ですら救おうとしていた。
そしてそんな甘すぎる考えは戦場では絶対に通じないはずなのだが、そんな彼女の言葉に確かに心を動かされた自分がいた事もまた事実だった。

「…………ちっ」

「どうしました?」

そんな海原の疑問には答えずに、ショチトルは病み上がりにも関わらず軽やかにベッドから下りると、部屋に備え付けられた洗面台で顔を洗い歯を磨く。
そして水滴をタオルで素早く拭い、さっぱりとした所で病室の扉に手をかける。

「ほら行くならさっさと行くぞ」

ショチトルは、思わず呆気にとられていた海原に一言告げると、扉を開け放って部屋から出ていく。
そんな彼女を追う海原が後ろでなにやら服装がどうとか言っているが、ショチトルの耳には届かない。

罪のない一般人が傷つくなんて事はあってはいけない。
幾度となく戦場に出向き、そこで人を殺めていったショチトルでもそれくらいは理解できていた。

(髪型……よし。服装……よし。だ、大丈夫よね、どこもおかしくないわよね!?)

一方同じ頃のとある自販機前。
一端覧祭でこんな朝でも人通りが多いその場所に、学園都市第三位の超能力者(レベル5)、御坂美琴は立っていた。
しかしその様子は明らかに挙動不審で、数分おきに鏡を取り出して髪型などをチェックしたり、服装を気にしたりしている。
といっても服装は常盤台の校則によりいつも通りの制服なのだが。

(えっと、待ち合わせの時間までは……後20分か。でもアイツの事だしどうせ遅れてくるんだろうな……)

そわそわと腕時計を眺めながらそんな事を考える美琴。
なんだかんだここには一時間前に来てしまったのだが、待たされることよりも一緒に居れる時間が減ることが嫌だった。
幸い知り合いは誰も通りかかったりしていないが、こんな彼女の様子を見たら目を丸くするだろう。
頬はほんのりと紅くなっていて、いつもは肩に担いでいる鞄を両手で可愛らしく持ち、さらには目を少し伏せてモジモジしている。
そこにいるのはまぎれもなく常盤台のエースなのだが、今はただの恋する中学生になっている。

そしてその時、

「おっすー。悪い、待ったか?」

「ふぇ!?」

突然背後から聞こえた聞き間違いようのない声に飛び上がらんばかりに驚く美琴。
そして彼女がすぐさまグルンと音が聞こえるかというくらい素早く振り返ると、そこにいたのはやはりツンツン頭の高校生、上条当麻だった。

「ももももう来たの!? ま、まだ10分前よ!?」

「既に上条さんは遅刻常習犯てきなイメージがついてるんですか……」

やたらと驚く美琴に、頭をかきながらなんとも言えない表情を浮かべる上条。
その格好は一端覧祭用の学校紹介情報が詰め込まれた特注学ランという変わったものだったが、美琴は事前に知らされていたのでそれに対しては驚いてはいない。
上条としてはちゃんと10分前行動をしただけでここまで驚かれるとは思っていなかったのだ。
そこでふと上条にある疑問が浮かぶ。

「あれ、もしかしてお前結構待った? そういや前の罰ゲームの時は随分早くから来てたみたいだけどさ」

「えっ!? あ、その……」

突然の上条の質問に思わず口ごもる美琴。
以前までは楽しみすぎて一時間前から待ってましたなどとは恥ずかしくて素直には言えなかっただろう。
しかし今の彼女は違う。
この目の前の超絶鈍感男を落としてやると決意した恋する乙女なのだから。

「い、一時間前から待ってたわよ!! アンタ……とと当麻とのデートが楽しみで仕方なかったの!! 好きな人と少しでも長く居たかったの!!」

「お、おい!! そんな大声で……!!」

そんな上条の言葉にキョトンとする美琴。
だがふと周りに注意してみると、なにやらみんなニヤニヤしながらこちらを眺めているような気がする。
そう、普段と違い今は一端覧祭中。こんな自販機前でもギャラリーの数は多い。

(うひゃー見せつけてくれるねー!!)

(おいおい、女の子の方は常盤台のお嬢様かよ!!)

(キャー、あの子真っ赤になってる! カワイイー!!)

(リア充爆発しろ!!!)

耳を傾けてみればこんな声も聞こえてきた。
もちろん美琴はオーバーヒート状態。上条が「じゃ、じゃあどっか行くか?」などとフォローを出すがそれも聞こえていない。

「あ、あはははははははははは…………うわーん!!!!!!」

「う、うおぉ!?」

そんな恥ずかしさの許容量を超えてしまった美琴は上条の腕を掴むと猛ダッシュでその場を走り去る。
後ろからは「がんばれよー!!」などというギャラリーからの応援の言葉が二人を追いかけていった。

「はぁはぁ……ったく、お前ももうちょっとは周り気にしろよな。せっかくレーダーみてえの使えるんだしさ。
 てか前にもこんなことなかったか?」

「うっさい、うっさい!! お願いだから少し気持ちの整理をさせてえええ!!」

先程の自販機前から大分離れたとある路地裏。
そこには朝から突然の全力疾走に膝小僧に手をつき、肩で息をする上条と、真っ赤な顔のまま頭を抱えている美琴がいた。
さすがにここには先程のようなギャラリーもいないようだが、代わりにスキルアウトという別の方向にアツいギャラリーが出てきそうで内心上条の方は心配していた。

「……よし。私は当麻が好き!」

「ちょ、それ整理できてんですか!?」

「? なにかおかしい?」

気持ちの整理という作業から戻ってきた美琴が放った言葉に全力でツッこむ上条。
しかし美琴としてはこれが正常ということでいいらしく、満足そうにしている。

「まぁとにかく、ちょろっと面倒なことになったけど、ここからデートスタートよ!
 こんな人気のない所がスタート地点っていうのもなんかアレ……だけ……ど……?」

「おい? どうした?」

突然何かに気付いたのか、辺りをキョロキョロと見回し、本当に人気がないことを確かめる美琴。
そしていきなり顔を伏せると、ブツブツと何かを呟き始めた。
そんな彼女に上条はなにやら嫌な予感を感じとり、一歩後ろに下がる。
しかしそれとほぼ同時に美琴の顔がガバッ!と上がった。
驚くべき事にその顔には笑顔が浮かんでいた。しかしそれは子供が浮かべるような無邪気なものではない。
その笑顔はまるで欲望を全面に押し出したような不気味なもので、その周りにはドス黒いオーラも見える気がする。

そして美琴はその表情のまま一歩上条に近づくが、上条はまた一歩下がる。
上条はその表情に恐怖しか覚えなかったが、美琴の友人の初春や佐天ならある事に気付いただろう。
そう、美琴の今の表情は、白井黒子が愛しのお姉様の事を想い、「ぐへへへへへへ」などと言っている時のものとそっくりなのだ。

「ねぇ……いきなりこんなとこに連れ込んで……その……つもりなんでしょ……? 私、当麻とならいつでもいいよ?」

「い、いや、連れ込んだのはお前……ってちょっと落ち着け! とりあえず止まれ! ゆっくり話し合おう!!」

なおもこちらへユラユラと歩いてくる美琴を懸命になだめる上条。
決して出来が良いとは言えないレベル0の頭をフル回転させ、この状況をなんとかしようと精一杯考えるが、なかなか良い案が思い浮かばない。
その間にも美琴はどんどん近づいてくる。

「と、とうまぁ……その……私初めてだから……」

「……!? み、御坂あああ!!!!!」

「アン!!」

美琴は色々と危ない声をあげるが、決して上条が暴走したというわけではない。
追い詰められた上条がとった行動は、美琴の腕を掴んで路地裏から引っ張り出そうとしただけだ。
どんな誘惑をかけられても、男上条、中学生に手を出すなんて事は出来るはずがなかった。

そんなこんなで手を繋いだまま再び日の当たる太陽の下に出てきた二人。
しかし上条の顔には極度の焦り、美琴の顔には好きな人と手を繋いでいることからくる恍惚とした表情が浮かんでおり、とても対照的だった。

『いやーさすがカミやん。初っぱなから見せつけてくれるにゃー』

(うっせ! そんで今のとこ怪しいヤツは?)

『それらしいのは見当たらないな。まぁまだ一端覧祭は始まったばかり。気長にいこうぜい』

上条が使っているのは通信用の霊装。
一枚の紙を身に付けるだけで、わざわざ声を出さなくても相手と会話が出来る優れものだ。
幻想殺し(イマジンブレイカー)のせいで上条が使えるかどうかは微妙だったが、どうやら右手で紙を触れない限り問題なく使えるようだ。

そう、あくまで今回の目的は御坂美琴の護衛。
さすがに上条一人だけでは心もとないので、密かに土御門元春も二人の様子を遠くから監視し、怪しい者がいないか警戒していた。
ちなみにインデックスは小萌先生に預けており、ステイルと神裂が監視しているので問題ないはずだ。

『それにしても俺が監視してるんだから、さっきみたいなニャンニャン展開は止めてくれにゃー?
 エロ動画と違って親友のそんな所見せつけられても気まずくなるだけぜよ』

「んな事するかああああああ!!!!!!」

「わっ、何よ急に!!」

土御門の言葉に思わず大声で反応してしまう上条。
そしてそんな上条の隣でビックリとしているのは、今回のお姫様、御坂美琴。
あの路地裏から出て暴走状態は解除されていたが、デレデレ状態は続いているらしく、今は上条の腕に抱きついている。
そんな状態で大通りを歩いているので、周りからすればどう見てもカップルだ。

「い、いや悪い何でもない!
 ところでさっきから腕に何か柔らかいものが当たってまして、上条さん的にはとても落ち着かないのですが……」

「あ、当ててんのよ! 私だって最近ちょっと大きくなってるんだから!!」

美琴はそんな事を言って、その慎ましいながらも成長しているソレを上条の腕に押し付ける。
上条からすれば、いくら相手が中学生でも男にはないソレには反応せざるを得ない。

『どうだカミやん。感触的にはどのくらいありそうかにゃー?』

(んーまだA……いやBあるか? って何聞いてんだコラァァァああああああ!!)

土御門の言葉に心の中で全力でツッこむ上条。
そんな様子に美琴は首をかしげてハテナマークを浮かべていたが、上条は気付かない。
そしてとりあえず気を取り直した上条は、制服のズボンの尻ポケットから丸めたパンフレットを取り出す。
この一端覧祭は外部向けのイベントではないのだが、他の学区からの生徒もたくさん来るのでこのようなものも作られている。

「で、どこ行くか。確かお前の能力実演は昼だったよな?」

「うーん、そうねぇ……」

やはりレベル5ともなれば、学園都市でも七人しか認定されていないだけあって、その能力だけでも十分珍しいものがある。
有名校に見学しにくる生徒の中でも、そういった高位能力者の能力(ちから)を一目見ようという者も多い。
その為、常盤台ではレベル5第三位『超電磁砲』による能力実演などというイベントも用意されているのだった。

「じゃあ、当麻の学校は?」

「いっ!?」

そんな美琴の提案にうろたえる上条。
一応上条や土御門も「呼び込み、宣伝」という仕事をやっている。
この仕事は実質一番楽なものであり、サボって遊びまくっていてもこの宣伝用学ランを着ているだけで一応仕事をしていることにはなる。
しかしそれでも女の子を連れて自分の学校に乗り込もうものなら、それから起こる惨劇は目に見えている。
何より小萌先生に預けているインデックスと鉢合わせするという展開もありうる。

「う、うちはマズイ! てか全然大した学校じゃないし、来ても面白くもなんともないぞ!!」

「いや私は当麻はどんなとこに通ってるのかなって気になるだけなんだけど。
 あとクラスメイトの女の子とか……」

宣伝役としてはあるまじき事を述べる上条だが、美琴はなおも興味津々といった様子だ。
さらにクラスメイト云々の時には何か黒いオーラが見えた気がする。上条の母親、詩菜も時折夫に向かって見せるものと同じようなものだった。

『別にいいじゃないかにゃー。彼女が行きたいって言ってるんだから連れていってあげればいいですたい』

(お前は俺を殺す気か!? てか絶対楽しんでるだろ!?)

土御門とはこんなやりとりをしている上条。
なんだかんだ美琴と直接話したり、土御門と霊装を通して会話したりで少し頭が混乱してきていたりもする。
だが頭の中に直接叩きつけるように入ってくる土御門の声には、そんな状態の上条でも分かるほど楽しげな調子だった。

「あーえっと、じゃあ長点上機! 学園都市でも最高峰の学校だし、きっと面白い事やってるぞ!
 それにお前なら十分入れるだろうし、一度見ておくのもいいだろ!」

「えーいや、まだ進学とか決めてないし……それにもし進学するなら……その……ってちょっと!?」

そんな事を言いながら美琴はチラチラと上条の方を見るが、上条には彼女が何を言いたいのかなど理解できない。
その代わり、我ながら良い考えだと言わんばかりに、勝手に行き先を長点上機に決定し、どんどん歩いていく上条。
美琴はまだ納得していなかったが、そのまま半ば引きずられるようについていくしかなかった。


第十八学区。
学園都市の中でもエリート校が多く存在し、独自の奨学金制度まで設けられている学区である。
そんな学区なので、普段なら無能力高校生、上条当麻なんかは場違いな所だ。
しかし現在は一端覧祭が開かれている影響で、学園都市の中でもこの学区は特に色々な人で賑わっていた。
なのでここ、長点上機学園にも多くの人で賑わっているのは当然というものだった。

そんな中、人混みの中でもやたらと目立つ常盤台中学の制服を着た少女、御坂美琴は不機嫌そうな顔を隠そうともせずに上条の腕にしがみついていた。

「だー!! だからこんなとこ嫌だったのよ!!」

「あーなんつーか悪かった……」

美琴の怒りの原因。それは度重なる勧誘だった。
おそらくエリート校なだけあってレベル5の顔くらいは知っている生徒も多いのだろう。
美琴がその校内に足を踏み入れた瞬間、それはもう能力を使ったのではないかというぐらいの早さで彼女は勧誘の渦に飲み込まれてしまった。
中には学生だけではなく教師まで加わっており、やはりそれだけレベル5というものを確保したいのだろう。
そして当然というべきか、無能力高校生の上条当麻は完全スルーだった。

「ちょっと、もっとくっついてよ! もう勧誘とかはこりごりよ!」

「いやいや、もう十分くっついてるから!!」

そんな勧誘の嵐に美琴が考えた作戦は「彼氏とベタベタして付け入る気をなくさせる」といったものだった。
美琴からすれば勧誘をかわせる上に上条ともくっつく事ができてまさに良い作戦だと思っていた。
しかし上条としてはこんなにベタベタされるのは気まずく、さらには彼氏認定もされるという事で溜め息をつくことしか出来ない。
それに勧誘が減ったのはこの作戦の効果というよりも、美琴の不機嫌な顔によるものが大きいのではないかと、密かに上条は思っていた。
レベル5を怒らせることの恐怖。それはきっとここの学生なら良く分かっているはずだからだ。

「あら久しぶりね」

どこからともなく突然聞こえた声に二人はキョロキョロと人混みを見回す。
すると美琴の方が先にその声の主を見つけたらしく、ある一点を見て首を止めた。
その目線の先にいたのは、長点上機の制服に肩まである黒い髪。そして少し不気味なギョロっとした目が特徴的な少女だった。

「あ、アンタは! たしか布束砥信……あぐっ!」

「み、御坂!?」

その少女に驚きの声をあげる美琴だったが、最後まで言い切る前にやたらとキレのいいドロップキックを腹にもらう。
そしてその側では上条が驚きの声をあげていた。

「前にも言ったけど、長幼の序は守りなさい。AND あなたは中学生、私は高校生」

「くっ……お、お久しぶりです布束先輩……!」

布束はそんな美琴に若干満足げに頷くと、今度は隣にいた上条の方に視線を送る。
こっちもどつかれるのか? と上条は思わず背筋を伸ばしてしまう。
しかし彼女は特に何もせず、だがやたら関心ありげにじっと見つめながら口を開く。

「あなたが例の無能力者ね」

「は、はい……?」

いきなり「例の」などと言われて混乱する上条。
しかし隣にいる美琴は何かを知っているらしく、やたらと真剣な表情で布束を見ている。
どこか蚊帳の外に置かれている感覚があり、この空間に居づらくなっていた上条だったが、そんな上条を置いて美琴が再び口を開く。

「やっぱり、知っているのね」

「ええ、私はしばらく学園都市の深い所にいたわ。equal 情報はいくらでも入ってきた」

美琴は布束の言う深い所という言葉に顔をしかめる。
おそらくその意味を理解しているのだろう、あれから布束がどんな世界にいたのか、そんな事を考えているようだった。
しかし布束の方は別段表情を崩さずに、相変わらずの無表情で淡々と言葉を並べる。
その単調さこそが、長くその世界にいたという証なのかもしれないが……。

そんな中上条はこの居づらさに限界を感じており、なんか面白いものでもないかと辺りをキョロキョロとしていた。

「あら、その表情、心配してくれているのかしら?」

「当たり前でしょ。アンタあの裏でヤバイことやって捕まったって聞いたわよ」

「……さすがのハッキング能力ね。でも私は平気。because 最近その世界は解体された」

「あのー何やらぶっそうな単語が聞こえるんですが……」

何とか会話に加わってみようとする上条だったが、やはりこの二人の話していることは少しも理解できない。
しかし何やら上条にでも分かるような危なげな単語が出てきていたので、黙っていることも出来なかったのだ。

「…………そう、それならいいわ」

しかし美琴はやはりそんな上条を置いてきぼりにして勝手に自己完結してしまった。
だがその表情はどこか穏やかなものに戻っていたので、まぁいいのか? などと上条はぼんやりと思っていた。

「ところでそこの彼とは恋人……というものなのかしら?」

「!? え、えぇ、そうよ!!」

「違うみたいね」

上条の「おい!?」という言葉を遮ったのは布束だった。
上条は自分の代弁をしてくれた事に感謝しつつ、このキッパリとした言い方に驚いていた。
というのも今はお互い少し離れているが、先程まで二人はこれでもかという程くっついており、むしろカップルではないという事の方が変だったからだ。
しかし美琴はそんな疑問よりも先に怒りの方が出ていた。

「ちょっと!!! 何勝手に決めつけてくれちゃってんのよコラ……あぐっ!?」

本日二度目の布束のドロップキックにうずくまる美琴。
そしてしばらくプルプルしてた後、若干涙目になりながら再び口を開く。

「な、何を勝手に決めつけてくれちゃってらっしゃるんでしょうか?」

それでもお嬢様かというような敬語に呆れる上条だったが、布束の方はひとまずこれで良しとしたらしい。
そして布束は説明のためか、美琴と上条を順番に指差す。

「まずあなたの顔が完全に動揺していた。AND そこの彼も私の質問を聞いた瞬間、不安な顔をしていた」

上条は内心舌を巻いていた。
一つの質問をしながら同時に二人の表情を読み取り、分析した上で正解を導き出すなどという事は常人には出来そうもない。
さすが長点上機だなどと感心していた。

そして美琴の方は、おそらく彼女のそういう力の事は知っていたのだろう。
明らかに悔しそうな顔をしていたが、反論できずにいた。

「……そんなあなた達に面白いものがあるんだけど、ちょっと試してみない?」

布束は突然そんなことを言うと、近くにあった教室の一つを指し示す。
二人は顔を見合わせたが、特に他に行きたい所もなかったので素直についていってみることにした。

布束に案内された教室は机が全て端に寄せられ、真ん中に大きなスペースを作っていた。
そしてそのスペースには、布束が考案した学習装置(テスタメント)に良く似た人一人が十分入れるような機械が二つ置かれていた。
そんな機械を見て顔をしかめたのは美琴の方だ。

「ねえ、まさか私達の脳を弄くり回したりしないわよね?」

「こんな公の場所でそんな事は出来ないわ」

美琴の疑いの目を、一言でかわす布束。
一方上条もまた、別のものを見て顔をしかめていた。
それは奥の黒板にかかれたこの装置の名称と、効果について書かれたものだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

                          『ドキッ☆ 最先端の想い人発見装置!!』

                               そこのカップルのあなた達!
           日頃から愛の言葉を交わし合っている関係でも、その心の中までは中々分からないものでしょう!?
             自分は本当に一番なのかな…………もしかしたら他に好きな人とかいるのかな…………。
                   そんな悩めるカップルのための次世代装置がこちらの『想い人発見器』!!
    ただこの装置の中に入って少し待つだけ! それでその人の心の中にある異性への気持ちの強さがランキングとなって表示されます!
         その検索幅は親からただのクラスメイトまで! ただし、ある程度印象に残っていないと表示されないので注意!
             さぁ隣の彼、彼女の一番は本当に自分なのか!? この装置でバッチリ確かめちゃってください!!

            ※これの結果によるトラブルに対して、こちらは一切責任を持ちませんのでご了承ください。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「……………………」

「ちなみにその宣伝文句は私の考えたものじゃないわ」

上条は笑顔のままダラダラと冷や汗を流しながら硬直していた。この機械はヤバイと本能が告げている。
ランキング一位が母親、二位が彼女というのならばまだマシだろう。
マザコンだなんだと罵られるだろうが、他の女が出てくるよりかはまだ関係回復の希望は十分にある。

しかし自分に当てはめるとどうか?
普通は特に気になる子がいない場合は、一位の可能性が一番高いのは、本人と長い間関わってきた母親だろう。
だが記憶喪失の上条は?
記憶喪失直後から親元から離れて寮生活の状態の上条は、実の両親よりもクラスメイトとの関係の方が長い。
つまり決して母親、詩菜の事が嫌いなわけではないのだが、一番に来る可能性は低いだろう。
そしてそんな上条が今までで一番接する機会が多かった異性といえば…………。

「あ、あはははははは!! いやーでもこれカップルでやるもんだろ? 別に俺らはそんなんじゃねーし……」

「やるわよ」

上条の逃げ道を素早く両断する美琴。
その表情は完全に覚悟を決めたものになっており、おそらく何を言ってもダメだろう。
そんな美琴の様子に上条はいよいよ切羽詰まった表情になる。

「な、なぁ!!! 別にこれってランキング一位が誰でも、そいつの事が好きって訳じゃないよな!?」

「えぇ、母親が一位というものもあったし、どれだけ大切に思っているかという感じね。
 however それはつまり恋愛における優先度とも同義」

あらかじめ他の逃げ道を確保しようとする上条だが、これも布束の言葉によりそれも断たれる。
その間にも美琴は装置のすぐ側まで近づいており、腕を組んで上条を待っていた。

「ほら、早くしなさいよ。どうせなら一緒にやりましょ」

「…………はい」

上条はまるで死刑台に向かうような重い足取りで装置の元へ向かう。
近くで見ると、人一人がすっぽり入るそれは、まるで巨大生物が大口を開けて待っているかのようだった。
そして上条は最後の抵抗とばかりに若干涙目になりながら美琴の方を向く。

「な、なぁ、お前はいいのかよ? プライバシー大暴露されんだぞ?」

「別に見られて困るもんじゃないわ。当麻が一位ってのは絶対だし。
 何、もしかして当麻は見られるとなんか困るわけ?」

「う、うぐっ…………!」

美琴の鋭い目線に思わず一歩二歩と後ずさりする上条。そして頭の中で美琴の順位の予想をしてみる。
おそらく極端に低いという事はないだろう。それなりに関わりも多かったし、頼りにする事も多かった。
だから最低でも五位以上……のはずだ。
しかし仮に五位であったとして、美琴はどんな反応をするだろうか? そこまで考えて上条は思考を停止した。
なぜならその結果、頭の中には美琴が怒り狂って電撃を撃ちまくる光景しか出てこなかったからだ。

「準備終わったわ。それじゃ入ってちょうだい」

布束の言葉が死刑宣告のように教室に鳴り響く。
美琴は特に怯むこともなく、装置に入る。
一方上条の方はビクビクしながら恐る恐るといった感じだ。

その装置は仰向けの状態で使うらしく、上条が近づくと透明な扉が後方にスライドして入れるようになる。
上条が装置の中に寝転ぶと、頭の上から何かヘルメットの様なものが下りてきて、頭全体をすっぽりと覆った。
そして次の瞬間、ピコピコ、ピコピコという一定のリズムの電子音が鳴り始める。
上条はそれで測定が開始されたんだと気付く。

(御坂の事だけ考えろ俺!! 御坂御坂御坂御坂!!)

上条はなんとか美琴を一位にしようと、無理矢理頭の中で彼女の事ばかりを考える。
おそらくこんな事をするのは上条が初めてでもなく、浮気がバレそうになった男も同じことをやったことだろう。
しかし上条の場合は、美琴とは恋人でもなんでもないのに、なんでこんな事をしているのだろう……と若干疑問にも思ったが、あまり余計な事を考えている余裕もない。

それからすぐ頭のヘルメットは外され、装置の扉が開いた。
時間にして一分あったかどうかだったが、上条にはその何倍もあるように思えた。

「解析結果はすぐに出るわ」

布束はその装置に繋げられたパソコンのキーをカタカタと叩きながら淡々と言う。
一方上条と美琴は今は装置の前に並んでたっていたが、その様子は随分とお互い違ったものだった。
まず美琴は明らかにワクワクしていて、占いの結果を待つ女の子といった感じだ。
だが上条の方は緊張しきっており、まるで出来の悪かった受験の合格発表を待っているような感じだ。
同じ機械を使ったのに、ここまで反応に差が出るのはなかなか面白いものでもある。

その時、ピピピッ!という音と共に美琴の入っていた装置がわずかに発光する。
そして次の瞬間、その装置は自身の目の前に、教室に貼ってある時間割りと同じくらいの大きさのモニターを表示した。
それは順位の隣に顔写真と名前、さらには本人との関係が書かれた『想い人ランキング』だった。

「うん、まぁ当然ね!」

「ははは…………」

その結果を見て満足そうに頷くのは当事者である美琴だ。
ランキングの一番上にはツンツン頭の高校生が写っている。
しかし上条の目線はその一つ下の人物の所で固定されていた。
その人の名前は『御坂旅掛』。関係は……父。

(うわーどう見ても気難しそうな感じじゃねーか……。絶対『娘はやらんぞ!』とかって言うタイプだ……)

大覇星祭には来ていなかったみたいだが、美琴と一緒にいる時は絶対に会いたくないと思ってしまう上条。
別に何も悪いことはしていないのに、何故かぶん殴られて吹っ飛ばされる光景が頭の中に広がる。

とその時、またもやピピピッ!という音が聞こえた。今度は上条の入った装置だ。

(き、きたっ!!)

思わずビクッと体を震わせる上条。
一方美琴の方はやたら真剣な表情になる。それがまた上条の不安を増大させる。

やがてその装置は美琴の時と同じようにモニターを表示させるが、その時点で美琴との違いがあった。その大きさだ。
美琴のランキングは教室の時間割りくらいだったのに比べて、上条のものは教室の床から天井まで届く巨大なものだった。
そして上条の生死を決定する、気になる一位の結果は…………。

「…………ほう」

(…………あはは、死んだ。死にましたよ、俺)

巨大なランキングの一番上。
ご丁寧に金の王冠マークと共に表示されている顔写真。
それは銀髪碧眼に白い修道服を着た外国人シスター。毎日顔を合わせている上条家の居候、もとい穀潰しだった。
表示されている名前は『Index-Librorum-Prohibitorum』。
ちなみに二位は実の母、上条詩菜。美琴は皮肉にもレベル5の序列と同じ第三位だった。
己の死を覚悟した上条は、短い人生だったなぁ……とランキングにある母親写真を見つめる。
写真の中の詩菜には笑顔が浮かんでいたが、何故かそれは『自業自得だからさっさと逝け☆』などと言っているようにも見えた。

「……いいわ。どうせあのシスターにはまだ勝てないと思ってたし、そこはこれから逆転するつもりだから」

「えっ!? そ、それなら……!!」

「でも私が怒ってるのはそこじゃない……!!」

「ひっ!!」

一瞬まさかのお咎めなしか!? などと顔を輝かせた上条だったが、その直後にドス黒いオーラに電撃を纏い始める美琴を見て体を硬直させる。
そして美琴はそんな恐怖のあまり動けない上条の元にユラユラと歩み寄ってくる。
顔は俯いていて良く見えないが、声と威圧感だけでもどれだけ怒っているのかが分かった。

「なーんでアンタのランキングってこんなにもデカいのかしら? てか女の知り合い多すぎでしょ、ねえ?」

「そ、それはその……色々と事件に巻き込まれるもんでして、その時に……」

そう、美琴が怒っている原因は上条の女性関係の交遊の広さだった。
それは学園都市だけではなく、外国にも及ぶ。
普段から上条にはやたらと女の影が多いと思っていた美琴だったが、ここまでの数は予想外だったのだ。

「それに何よ!! コイツにコイツにコイツにコイツ!!! そんなに巨乳がいいかコラァァァアアアアアア!!!!!」

「ちょ、落ち着け御坂!!」

ついに怒りが限界を迎えたらしく、いきなり顔を上げたと思ったら、青白い電撃が辺り一体にバチバチと炸裂し始める。
ちなみに美琴が指したのは、吹寄、風斬、神裂、オルソラなどだ。
一方上条としては自分の命のために、それとここが他校である事から、電撃騒ぎなんていうものは避けたいのだが……。

「いっぺん死ねええええええええええ!!!!!」

「不幸だああああああああああああ!!!」

次の瞬間、教室中を真っ白に染めるほどの電撃が迸り、いつも通りの大喧嘩が始まった。
この二人の場合、河川敷だろうが街中だろうが長点上機学園だろうが場所は関係ないらしい。
関係に少し変化があっても、こういう所はまったく変わらない二人だった。

「機械の近くで電撃は……ってもう遅いみたいね」

そんな美琴の攻撃の影響で黒い煙を上げ始めた装置を見て、布束はため息をついていた。


ウィキ募集バナー