とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part59-1

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とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)4


「むむむ。何だか今日は珍しい。上条君。お弁当?」

 とある高校の新学期の昼休み。
 オレはクラスメイトの姫神秋沙から声を掛けられた。

「あ……ま、まあな……」

 と曖昧に返事をするオレ。
 まぁ……曖昧にしか答えられないのだが……。

 ─────◇─────◇──────◇─────◇─────◇─────

 春休み中補習を受け続けるハメになり、その上山のような課題を出されたオレは、アイツの助けもあって(と言うかそれが有ったからこそ……)その全てをクリアし、何とか進級することが出来た。

 ただその為、補習を受けることで自動的にアイツと一緒に居られる時間は減ることになり、アイツの機嫌はいつもあまり良いものではなかった。
 そんな時、春休み中でヒマだったことも有ってか、いきなりアイツが『コレからは朝も来る!!』と言い出しやがった。
 オレとしては有り難いことではあったが、やはり申し訳なさが先に立つ。
 その事をオレが言うと、アイツは『私がやりたいだけだから、アンタが気にする必要はない!!』と言われ、結局押し切られてしまった。
 そうまで言われると、オレもその好意を無碍にする訳にも行かず、それに甘えることになってしまった訳だ。

 ただそれは、オレは春休みの間だけだと思っていた。
 ところが、それが新学期になっても続いてしまっている。
 結局アイツは、毎朝オレの朝食と弁当を作りに俺の部屋に来るのが日課になってしまっていた。

 今のオレたちの関係は非常に微妙なモノだ。
 『好き』とか『嫌い』といった感情の入る隙間をなくしている。
 ……というよりも、そういった感情があったとしても見て見ぬフリをする。
 そんなかなり『ズルい』関係だ。
 前にアイツが暴走してしまったこともあって、今は冷却期間ということで、この関係が続いている訳だ。
 だから、今はまだこのままでイイのかも知れない。

 でも、この関係は何時か必ず崩壊する。
 その『何時か』がいつになるのか、オレにはまだ分からないし、多分アイツにも分からないのだろう。
 オレは、一刻も早く自分の中にある『答え』を見つけ出さなければならない。
 それがもう一つの世界の『御坂美琴』との約束だ。

 だが……今の関係に流されているオレが居る。
 今までの全てを棚上げにしたまま、アイツに頼り始めているオレが居る。

(このままじゃいけない。っていうのは……分かってるんだけどな……)

 春休み最後の補習を受け、晴れて進級が決まったその日に寮に戻った時、オレの部屋でくつろいでゲームをしているアイツを見て……

(いつの間にか、コイツがここに居るのが当たり前みたくなっちまったよなぁ……)

 ……と、そんなコトを考えている自分が居た。
 そして、その事を良しとしている自分が居ることに気が付いた。

(オレは、美琴のことをどう思っているんだろう?)

 その事に向き合わなければならない。
 そんなコトを漠然と考え始めている頃、新学期が始まり、オレは何とか高校2年になり、美琴は当然の如く中学3年に進級した。

 ─────◇─────◇──────◇─────◇─────◇─────

 そこら辺にある椅子をズリズリと引き摺り、カワイらしい柄の入った小さな巾着袋に入れた弁当を持って姫神は近づいてくる。
 いかにも純和風美少女な美貌の長く美しい黒髪をした彼女は、さすがに学校では指定のセーラー服を着ている。
 ただ、普段着に巫女服を愛用しているのは……未だに謎だ。
 コイツにはコイツなりのアイデンティティというモノがあるのだろうな……と思うのだが……。

「姫神は毎日弁当か?前にも聞いたけど、良く持ってこれるよな?」

「前にも言った。一度習慣づけてしまえば。それほど苦労することはない」

「あ~……さいですか……」

「今日も。トレード。する?」

 そう言えば、何時だったか……おかずの交換で『不幸』な目に遭ったような記憶が……。
 オレが残り物を詰め込んだ弁当を持ってきた時、今日と同じように姫神が近づいてきて……。
 オレの里芋と、姫神のカボチャの天ぷらを交換して……。
 コイツが里芋をノドに詰めてしまって、背中をさすっていたら……いきなり鳩尾に鋭い一撃を食らった……よ~な?

「あ~……今日は里芋はねぇぞ」

 と弁当箱を開けながら、俺は何気にそう言った。

「女の敵」

 と姫神はそう言って、胸を押さえて真っ赤になってオレを睨み付ける。

「ひ……姫神さん?……あの……どうしてそんなに真っ赤になって上条さんを睨んで居られるのでせう?」

「(なぜ。そう言う覚えていなくて良い事を。覚えている?)」

「ん?……何か言ったか?」

「……もうイイ。……バカ」

 と言って、オレの向かい側に『ストン』と座る。
 但し、顔は伏せ気味だが、目だけは上目遣いにオレを睨み続けている。

「うう……この憩いの時間にいきなり『バカ』と言われ、そのような涙目の上目遣いで睨まれるほど……上条さんはいけないコトをした覚えはないですのことよ?」

「だからもうイイ。この女の敵」

『ジャキンッ!!』

「ヘッ!?」

 いつの間にか姫神の手には、彼女曰く『魔法のステッキ』と呼ばれる電磁警棒が握られていた。
 以前お気に入りだった電動ガスガンは、余りに危険だと言うことで小萌先生に取り上げられたらしい。

「それ以上。黒歴史に触れるのなら。この『魔法のステッキ』の一撃をお見舞いする」

 姫神が纏う、どす黒いオーラを見るまでもなく、即座に土下座モードに突入するオレ。
 ……不幸だ……。

「オレが何したっていうんだ……」

「いい加減。その話題から離れない?」

「あ……悪い……」

「ん?……ところで。上条君。そのお弁当。アナタが作ったの?」

「えっ!?(ギクッ!!!)」

「パッと見は普通のお弁当。でも。冷凍食品が使われていない。コレはかなり手が込んでいる」

「そ……そうか?(アセアセ)」

「この筑前煮。見た目は普通だけど、お弁当に入れられるように。具を小さく切ってある。でも。全ての具材の大きさが揃っているので違和感がない」

「うっ……」

「パクッ……モグモグ。うん。ダシも本格的に取ったモノ。カツオとコンブと椎茸のダシが効いてて。美味しい」

「あっ……こら、勝手に……」

「はい。トレード」

 そう言うと姫神は自分の弁当から小ナスの天ぷらを差し出す。

「あ……ああ……」

「このヒジキは。……炒り煮で作ってる」

「えっ!?……分かるのか?」

「うん。分かる。炒り煮は煮るより手間がかからないけれど。味が染みやすいので冷めても美味しい。お弁当に合う。パクッ」

「あ……また……」

「はい。トレード」

「あ……ああ……」

 そう言って、同じヒジキの煮物を一口分、オレの弁当の白米の上に乗せる姫神。

「私のは冷凍。食べ比べたら分かる。しかもこのヒジキ。色んな具材が入っている。大体10種類くらい」

「そ、そうか……」

「パクッ。ほうれん草のお浸しに塩もみのキュウリ。何気ないけれど、栄養のバランスを考えてある。箸休めにも最適」

 その後も姫神は、オレの弁当から1つおかずを摘む度に、自分のおかずをトレードしてくる。

「うっ……うう……」

「ハンバーグも手作り。特にかかっているソースの量がすごい。全体にかかっているけれど。周りに浸食しない量が計算されている」

「えっ!?」

「そして。何より絶品なのは。このだし巻き卵」

「あっ……そっ、それは……」

「パクッ。……モグモグ。ダシがすごい。しかもこれほどのダシを入れながら。ほとんど漏れていない。シッカリと巻いてあるのに柔らかさを失っていない。コレは普通の料理スキルじゃ無理」

「ううっ……」

「誰に作ってもらっているの。上条君?」

「えっ!?……あっ、イヤ……コレは……」

「アナタが作ったものじゃない。このお弁当にはアナタに食べて貰うための愛情が籠もっている。コレは誰にでも作れるお弁当じゃない。まして。自分のためにココまでのお弁当は絶対に作れない」

「(ギクッ!!ギクッ!!!)」

「さあ吐け。誰に作ってもらっているの?」

 ズイッと身を乗り出し、オレの目の前に顔を寄せてくる姫神。
 その迫力は、今までの姫神からは想像も付かないものだ。

「姫神さん、どうしたの?……また、このバカが何かしたの?」

「あ……吹寄さん。ううん。違う。でも……上条君は何かを隠している」

「何ッ!?上条当麻。貴様また何をしでかしたの!?何を隠しているの!?」

「あっ……イヤ……そのッ……」

「お弁当。コレは上条君が作ったものじゃない。誰かに作ってもらっている」

「何ッ!?姫神さん、それは本当なのッ!?」

「間違いない。このお弁当は。上条君に食べて貰えることを思って作られている。愛情が籠もっている」

「さあ吐け。上条当麻!!一体誰にこのお弁当を作ってもらっているの!?」

「あっ……だから……その……」

 オレは吹寄に胸ぐらを掴まれ、ガクガクと揺さ振られながらも別のことを考えていた。

(美味い弁当だとは思っていたけど……アイツ、そんなに手間ひまかけてくれてたなんて……)

 その時……

『バンッ!!!』

 吹寄に揺さ振られているオレの横で、いきなり大きな音がした。

『『ビクッ!?』』

 その音に驚くオレと吹寄。
 その音がした方を二人で見ると、姫神が机に両手を叩き付けたらしいことが分かった。
 当の姫神は全く周りを気にする様子もなく、立ち上がって両の手を机に叩き付けた格好のまま、プルプルと震えている。
 幸い、お弁当はカラになっているので、問題はない。

「……姫神さん?……どうしたの?」

 吹寄が慌てたように尋ねる。

「……負けられない……」

 姫神が震えながら、呟くように、声を絞り出す。

「えっ!?」

「……負ける訳には。いかない……」

「な……何のコト?」

「このお弁当には。負けられない。負ける訳にはいかない」

 そう呟くと姫神は『バッ』と顔を上げ、吹寄を押し退けてオレの胸ぐらを掴むと、オレの顔を自分の顔の前まで引き寄せてこう宣言した。

「このお弁当には負けられない。明日からアナタの分も作ってくるから。美味しいと思う方を食べて貰う。イイ!?」

「なっ……何で、姫神がそこまでする必要があるんだ?……第一美味しい方を食べろって……意味が分かんねぇよ!?」

「鈍感。……分からないのならイイ。でも。私はやる。このお弁当には負けられないから」

 普段の姫神からは想像も付かないほどの迫力に気圧されるオレ……。
 今の迫力は、吹寄すら凌ぐほどのモノだ。

「じゃあ。上条君。約束したから。……私。絶対に。負けないから」

 そう言うと姫神は、自分の弁当箱を巾着袋にしまい、踵を返すとそのままカバンを持って教室から出て行ってしまった。

「あっ……姫神さんっ!?」

 慌てて吹寄が姫神を追う。

「何なんだ……一体……ん?」

 『ぽつん』と一人取り残されたオレは、その時初めて刺すような視線がオレに集中していることに気が付いた。
 そこには、購買でお気に入りの調理パンを調達出来ず、学食で残り物のメニューにしかありつけなかった雰囲気満々の土御門や青ピの姿もあった。

「上や~ん、イイ度胸しとるがぜよ。ドコかの誰かに『愛情の籠もったお弁当』を作って貰うだけでは飽きたらず……姫神に再びフラグを立て直すとはにゃ~……」

「えっ!?……エエッ!?」

「そうやでぇ~……。僕らなんか、ホンのチョット出遅れただけで、学食の素うどんとご飯しか当たらへんかったんやで!?……それやのに、それやのに上やんは……たった一人で二人の女の子からのお弁当をせしめようなんて……」

「いっ……イヤ……だから……オレが要求した訳じゃなくって……」

「その『愛情の籠もったお弁当』を作っている人物ってのも気になるにゃ~。……そういや、最近『常盤台の超電磁砲(レールガン)』をウチの寮の近くで見かけるぜよ……。ん?……まさか……?」

「(ギクゥッ!!!)」

「何や?……上やん……その反応はぁ~……」

「「「「「「「「「「(ギンッ!!!!!!!!!!)」」」」」」」」」」

 オレに向かって突き刺さってくる視線の圧力が一気に上昇した。
 その圧力に押されたオレは……また、とんでもない『不幸』を呼び込むハメになる……。

「あっ……イヤ……だから……アイツは、美琴は……そのッ……」

「ちょっと待ちなさい。……上条、貴様。今何と言ったの!?」

「あ……だから……その……美琴は……」

「み・こ・と?」

「えっ!?……あっ!!!」

「確か……『常盤台の超電磁砲(レールガン)』って……御坂……美琴……ッ!!」

「へェ……名前を呼び捨てにしてるとはにゃ~。……コレはちょっとしたスクープぜよ」

「そうやねぇ……土みー。それにしても上やん、まさかとは思うが、フラグ回収に走ったんじゃないやろねぇ……?」

「なっ……何だよ!?そのフラグってのはっ!?……第一オレは何にもしてないだろうがッ!!!」

「この……『天然フラグメイカー』は……マジで自覚なしなのにゃ~。さっきもシッカリ姫神に再フラグを立てたクセに……」

「その姫神さんはさっき帰っちゃったわよ。何でも明日の『お弁当』ために仕込まなきゃならないモノがあるって……」

「なっ……何ィィィイイイイイイ!!!!!!!」

「上やん……オマエぇぇぇえええええッ!?」

 と土御門と青ピがオレに飛びかかろうとしたその瞬間……。

『バンッ!!』『バンッ!!』『ババンッ!!』『バンッ!!』『ババンッ!!』

 教室のあちこちから、大きな音が響き渡った。
 オレたちが慌てて周囲を見渡すと……何人かの女生徒達が、先程の姫神と同じような格好で立ち上がっていた。

「ゎ……私だって……負けられないわ……」

「私も……負けないから……」

「私だって……せっかく上条君と同じクラスになれたんだから……」

「ボクも……負けられない……上条君は……ボクのモノだ……」

「アタシも……負ける気なんて、サラサラないわ……」

「ちょっと待てッ!?……今、変なのが混じってなかったか!?」

「「「「「上条くんっ!!!」」」」」

「はっ……はヒッ!?」

「「「「「明日、私(ボク)のお弁当も味見してよねっ!!そして美味しい方を食べてっ!!!」」」」」

「えっ……えっ……エエッ!?」

『ガラッ』

「アレッ!?皆さんどうかしたのですか~?……まあ、元気いっぱいなのは先生としても嬉しいのですよ~。でも、何か雰囲気が……」

「「「「「先生ッ!!」」」」」

「はっ……はいっ!?」

「「「「「私たち、早退しますッ!!!!!」」」」」

「えっ!……エエッ!?……だっ、だってコレから……午後の授業が……」

「明日のためにやらなきゃならないコトがありますので……。失礼しますッ!!!」

「じゃあ、上条君……約束したからねっ!!!」

「上条君、私……負けないから」

「ボクも……負けない……」

「アタシだって……じゃあ、先生。失礼します」

「アッ……あのッ……コレは一体……?」

「上条……貴様……」

「えっ!?……なんでッ……コレってオレが悪い訳ッ!?」

「上や~ん……」

「覚悟はイイかにゃ~……」

「上条ちゃん……どうやら原因はアナタのようですねぇ……」

「えっ……イヤ……だから……その……エエッ……だァ~~~~ッ……不幸だぁ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」

 ─────◇─────◇──────◇─────◇─────◇─────

「はぁ……ヒドい目に遭った………」

 今日の出来事を嘆きつつ、トボトボと通学路を歩く。
 だが……頭の中で考えるのは……姫神が言ったコト。

『このお弁当は。上条君に食べて貰えることを思って作られている。愛情が籠もっている』

(アイツが……美琴がどんな想いでこの弁当を作ってくれているかなんて……考えたこと無かったな……)

(今のままで居る訳にはいかない。でも……今が心地イイと思ってしまう自分が居る)

『それにここから先はアンタ自身が見つけなきゃいけない。アンタ自身が気付かなきゃいけない問題だから』

(御坂……そうだよな……オレ自身の問題なんだよな……コレって……)

(オレって……ホントに……鈍感なんだなぁ……)

「何ブツブツ言ってるのよ?」

「ヘッ!?……アッ……」

 オレに声をかけ、断りもなしに右腕にしがみついてくる。
 もう慣れたつもりになってた右腕に当たる柔らかい感触に……。
 今日は思いっ切りドキドキさせられる。

「どうしたの?……当麻?」

「あ……イヤッ……なんでも……ない……(ゴニョゴニョ/////)」

「変なの?……エヘヘ……」

「何だよ?……エラく嬉しそうだな?……何か良い事あったのか?」

「良い事?……そうね。今が今日で一番良い事……かな?エヘッ(ギュッ!)……」

「おっ……オイ……」

 最近、コイツは……美琴はオレに思いっ切り甘えてくる。
 まるでオレが全てを許してくれると言わんばかりに。
 こんな中途半端な関係なのに……コイツはオレを信頼してくれている。

「あ……あんまり引っ付くなよ……歩き難いじゃないか……」

「どうしたの?いつものコトなのに……今日の当麻……何か照れてて……カワイいよ……」

「ばっ……バカッ……からかうんじゃねぇ……そっ……そんなんじゃねぇよッ……(//////////)」

「何が『そんなんじゃねぇ』なの?」

「あっ……イヤ……その……ハァ……」

「『不幸だ』は禁止だからねッ……(ギュッ!)」

「(うっ……今日はこの(ギュッ!)が……この刺激が……余計に……)」

「ねぇ……ホントに変よ?……今日の当麻」

「うう……おっ……オマエの……その……柔らかいのが……当たってるのが……その……」

「エヘヘ……わ・ざ・と・よ」

「ばっ……バカやろうっ……何で、そんなコトッ!?」

「あのね……(ゴニョゴニョ/////)……なったの……」

「えっ!?……なんだって?」

 ふと見ると、美琴は耳まで真っ赤になってる。
 どうしてこんなに真っ赤になっているのか分からないのだが……。
 そう思っていると美琴が『チョイチョイ』と手招きをし始めた。
 どうやら何か、ナイショ話があるらしい……。
 手招きに誘われるように、耳を美琴の口に近づけると……

「(あのね……(ギュッ!)ってするようになってから、ちょっとずつだけど……大きくなり始めたの)」

「(ボンッ!!!)//////////」

「当麻にするようになってからなの……。だから……」

「//////////……ヘッ!?……だからって!?」

「もっとするのッ!!!」

「ばっ……バカ言うんじゃねぇよッ!?……おっ……オマエッ!!オレの理性を崩壊させる気かっ!?」

「何よォ~……当麻は嬉しくないの?」

「うっ……嬉しいとか、嬉しくないとかって言う問題じゃなくってだな……オレたちはまだ……」

「あ……そっ……そうだったね……ゴメン……」

 オレたちの関係に触れた途端、シュンとなる美琴。
 あ……また、やっちまった。

「あ……イヤ、……その……そういう意味で言ったんじゃ……あ……ゴメン……」

「誤らないでよ……もっと、哀しくなるから……」

「うっ……」

「でも……いつまで……続けるの……この関係……」

「……美琴……」

「私……そろそろ……限界……かも知れない……」

「えっ!?」

「当麻が私のこと、どう思っているかは分からない。……でも……私は……」

「……だけど……オマエの中には……『もう一人のオレ』が……」

「うん……まだ『あの人』は居るよ……でもね……最近は、ちょっと違うんだ……」

「えっ!?……違うって?」

「私の中に『あの人』は確かに居るの……でもね今、私の目の前にいる上条当麻が占める割合がどんどん増えて行ってるんだよ……アナタが、私の中でどんどん大きくなって行ってるの……」

「お……オイ……」

「私の『あの人』に対する想いは……『憧れ』だった。こんな恋人が欲しいって言う理想形。だから『好き』になったと思った。……でも、それは……違うんだよね……」

「美琴……オマエ……」

「当麻が居ない間に……当麻の居ない部屋で……ずっと考えてたの……。私は本当はどう思っているんだろうって……」

「あ……それって……」

「うん……あのメッセージ……聴けたんだ……」

「えっ!?……いっ……いつだよ!?どんな内容だったんだ!?」

 オレがそう尋ねた時、美琴はゆっくりと首を小さく、でも確かに横に振った。

「春休みに入って少し経ってからかな……。朝にも行くって言い出した頃の少し前だよ。……それと、いくら当麻にでも、あのメッセージは話せない。私と向こうの世界の私の大切な約束だもん。そしてその約束のお陰で、私は私に向き合えたんだから……」

「あ……そ……そうか……そうだよな……」

「だけど……だからこそかな?……今の関係がおかしいって……思うようになってきたの……」

「あ、……ああ……そうか……」

「聞いた時はそんなに思わなかった。今のままでもイイって思ってた。でもね……」

「美琴の言いたいことは……分かるよ……でも……オレは、まだ……」

「うん……分かってる……つもり。でも……」

「ああ……分かったよ……もう、待たせないようにする。自分の気持ちにちゃんと向き合うよ……オレ」

「当麻……」

「オレもオマエと一緒でさ、ドコかで『今のままでもイイんじゃないか』って思ってたんだよな。……だってさ、今って結構心地良いからさ……」

「うん……だよね……」

「でも、コレって……この今の『中途半端な関係』が見せている『幻想』なんだろうな」

「……そうなのかな?……ううん、多分そう……だと思う……」

「だったら……その『幻想』はオレの右手で壊さなきゃいけないんだ。そうしないと……前に進めなくなるから……」

「フフッ……」

「なっ……なんだよッ!?」

「当麻にも……向こうの私のメッセージが伝わっているんだなって……」

「うっ……」

「でも……ちょっと妬けちゃうな……向こうの私に……」

「そっ……そりゃあ……向こうの御坂の方が、メシも美味かったしな……あ……」

「(ピクッ!)……ふうん……そーゆーコト、言うんだ……」

「あっ……ゴメン……いっ、今の無しッ!!無しだからっ!!!」

「ダメよ……今ので私……相当傷ついちゃったから……」

「ううっ……ごっ……ゴメン……」

「どうやって……償って貰おう……っかなぁ~?」

「う……ううっ……」

 コレはもう、土下座モードに入るしかない……。
 そう思った時だった。

「エヘヘ……(ギュッ!)……今はコレで許してあげる……」

「あっ……おっ、オイ……」

「買い物……行こッ!」

「あ……ああ……」

 流されているなぁ……と思いつつも、美琴に従うオレ。
 でも……もう時間は無いんだ……。
 美琴は美琴で自分に向き合った。
 今度は本当にオレの番だ。
 どんな答えがでるかは分からないけれど……ちゃんと自分の気持ちと、自分の想いと向き合わなければ……。
 もう……待たせる訳にはいかない。
 コイツを悲しませることだけは……したくないんだ……。



「ちょろっと……当麻?……何よ、コレ?」

「ヘッ!?……何って……ナスのヘタ……あっ!!」

「こんなモノ、私お弁当に入れてないわよッ!?」

「あっ……そっ、それは……クラスメイトの姫神とおかずを交換して……」

「ふうん……当麻は私のお弁当より、その人のお弁当の方が良いんだ!!!」

「いっ、イヤ……そうじゃなくって……それは姫神が勝手につまんで……その代わりにトレードしてくれて……」

「へェ……当麻って私の作ったお弁当を使って、そんなことしてんだ……」

「違う、違う。断じて違うからっ!!……オマエが愛情込めて作ってくれた弁当をそんな風には使ってないからっ!!!」

「えっ!?」

「美琴がオレに食べさせるために、この弁当には愛情が籠もってるって……今日、姫神に言われてさ……そんなにオレの事考えてくれてるんだって……嬉しかったよ。ホントに……」

「(ポンッ!!!)//////////(愛情が籠もっている。……だなんて……それは……そうだけど……でも……)」

「ゴメンな……オレ。ホントに……鈍感だから……」

「人に言われて気が付くなんて……当麻らしいけど……でも、……でも……」

 そう言いながら、美琴はオレに向かってダッシュして来た。
 そして、オレの胸に抱きつくと、そのままオレをベッドに押し倒す。

「ウワッ!?」

「嬉しい……嬉しいの……アナタが……私の気持ちに少しでも気が付いてくれることが……当麻の中で、私の居場所が増えるのが……嬉しいの……」

「美琴……」

「もう……今のままじゃイヤッ!!……私は当麻を独占したいッ!!!私だけを見て欲しい!!!!!私のそばにずっと居て欲しいのッ!!!!!」

「おっ……オイ……」

「当麻……好き……なの……。アナタが好きなの……」

「美琴……オマエ……」

「もう、自分を抑えられない……。自分の気持ちを隠しておくなんて……もう出来ない……」

「で……でも……」

「ううん、もうイイの。『あの人』は……『あの人』のことは、自分の中で決着が付いたから……。『あの人』は向こうの私のための人。私のじゃない」

「オマエ……」

「いっぱい、いっぱい、悩んだんだ……いっぱい、いっぱい、泣いたんだよ……。当麻は知らないだろうけど……。でも……私は……アナタを……アナタへの気持ちを……」

「でも……オレは……オマエを……泣かせたんだぞ……。オマエを傷つけた男なんだぞ!?」

「え?……あ、あの時のことを……?」

「そうだよッ……オマエを泣かせたんだぞ。あんなにオマエを傷つけたのに……オマエは……そんなオレの事を……『好きだ』と言ってくれる……」

「だって……アレは……私が原因で……そう言われても仕方がないことを……」

「だとしてもだよ……オレはオマエを守れなかったんだ……守ってやれなかった……約束……してたのに……」

「当麻……」

「オレには……オマエに『好きだ』なんて言って貰える資格なんて無いんだよ!!!……オマエを傷つけた時から、オレにはお前の傍に居る資格すらなくしているんだ。なのにオレは……オマエに甘えて……自分の気持ちを見ることもせずに……逆にオマエを傷つけるばかりで……」

「(ギュッ)……」

「みっ……美琴……?」

「当麻の胸……広くて……温かいの……」


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