パラレルライン
茶色の髪をなびかせる常盤台の中学生は、自分を呼ぶ声に振り向いた。
そこには、自分に向かって手を振っているツンツン頭の少年がいた。
「おーい、御坂ー!」
「……ああ、アンタか。私忙しいんだけど、何?」
声をかけられたのはレベル5にして学園都市第三位、『常盤台中学のエース』こと御坂美琴だった。彼女は、とある事件で上条に助けられて以来、何かと上条を意識するようになり、ついには上条に対して恋愛感情を抱いていることを認識したのだが、彼女の口から出たのはそんな想いとは裏腹の、きわめて不機嫌そうに聞こえる台詞だった。
(! ……こんな事言うつもりじゃなかったのに……ッ!)
美琴は唇を噛む。
美琴は上条の前では素直になれず、ついついぶっきらぼうな返事をしてしては自己嫌悪に陥るというパターンを繰り返していた。もう少し素直になれれば上条との距離も縮まりそうなものだが、今までのつきあいがつきあいだけに、なかなか態度を変えられない。今日だって、冬休みに入ってお互いが顔を会わせる機会がなくなってしまったので、我慢できずに上条を探しに寮の外へ出たというのに。
「ああ、悪りぃ。五分で良いから、俺に付き合ってくんない?」
上条は美琴の言葉を受け流し、両手を合わせて美琴を拝むポーズを作る。
「五分ね、まあいいわ。それで私に何か用?」
「そこのスーパーで、抽選会やってるんだよ。歳末福引きの」
上条はポケットから抽選券を五枚引っ張り出した。
「どうせ俺が引いても外れしか来ないから、俺の代わりに引いて欲しいんだ。当たったら山分けって事でどうだ?」
「ふ、ふーん。まぁいいわそれくらいなら」
美琴はきわめて興味なさそうに、上条の話を聞く。上条が美琴より先に相手の姿を見つけて声をかけてきただけでも僥倖というのに、どうしても上条の前では、美琴は素直な態度が取れない。美琴の懊悩は続く。
上条に誘われて抽選会会場に着くと、そこにあったのは手回し式の抽選器だった。
(あちゃー、こんなアナログだと私の能力の出る場はないわねぇ)
美琴は上条を振り返る。
「私がアンタの代わりに引くのは良いけど、外れても文句言わないでよね?」
「言わないって。そもそも俺が引いたって外れ確定なんだからさ」
美琴と上条が列に並ぶと、程なく順番が回ってきた。上条は抽選券を係員に渡すと、『この子が回しますから』と美琴を指さした。
美琴はおもむろにハンドルをぐっと握り。
周囲がびっくりするくらいの速さで抽選器を回した。
「ちょ、おま、待て御坂そのスピードじゃ速す……」
グリングリンと抽選器を回す美琴のスピードに、上条が血相を変える。
一個、二個、三個、四個と白玉が続けて抽選器から打ち出され、五回転目で黄色の玉がコロンとこぼれ落ちた。
「お、何か当たったぞ御坂」
「そ、そうみたいね。よかったじゃない」
「お客さん、おめでとうございます! 三等のスケートリンクペアチケットが当選しました! いやー良かったねお嬢さん、これで後ろの彼氏とデートに行っておいでよ」
にこにこ顔で係員が「ペアチケット」と書かれた封筒を美琴に手渡した。
「かっ、かっ、彼氏!?」
封筒を受け取った美琴の声が裏返る。
「あれ? 違うの? じゃあ顔が似てないけどお兄さんかい? ともかく当選おめでとうございます」
係員はにこやかな顔を崩さず、上条に『早くその子を連れて行け』と目で促す。上条が振り返ると、そこには順番待ちの客が幾人か並んでいた。美琴は上条に引っ張られるように、列の外へ抜け出した。
「いやー、あそこのくじってちゃんと当たり入ってたんだな。三等とはいえ引き当てるなんて、御坂は幸運の女神様様だ」
「……………彼氏」
美琴は呆然としたまま、手元の封筒を見つめる。
「んー、それにしてもペアチケットか。山分けってわけにはいかないから……そうだ御坂、それお前にやるよ」
「…………え?」
『彼氏』という単語のリフレインに意識を奪われていた美琴は、自分がチケットの封筒を握りしめていたことに気がついた。
「いや、忙しいお前に付き合わせちゃったしさ、そのお礼って事で受け取ってくれ。それ、友達とでも行ってこいよ。俺は当たりくじを見られただけで十分だから」
「…………は?」
上条はにこにこ顔である。当たりを引けたことがよほどうれしかったらしい。
「…………どうしてそこで『一緒に行こう』って台詞が出ないのかしらねアンタは」
善意一〇〇%の上条の笑顔が、美琴の胸にチクリと刺さった。いらだつ自分を抑えるために、美琴はため息を一つつく。
「ともかく、このチケットはもらって良いのね?」
「ああ。忙しいところ手間取らせちゃって悪かったな」
「じゃあ、行くわよ」
「どこに?」
「私と、アンタで、スケートに」
「へ?」
美琴から宣告を受け、上条の顔色がみるみる青ざめる。上条の表情を見て、美琴のイライラが募っていく。どうしてうまくいかないんだろう、どうしてこうなっちゃうんだろうと思いながら、口から出る言葉は美琴の思いと逆の響きを帯びる。
「何よ。私と一緒に行くのがそんなにイヤなの?」
「そうじゃねぇ。そうじゃなくて……」
上条は顔の前で両手を振る。
「笑うなよ。……俺、スケートできないんだ」
美琴は拍子抜けした。今時スケートができなくたって、誰も笑うものはいない。
「じゃあ私が教えてあげる。笑いものになるのがイヤなら、ちょうど良い機会だから覚えなさい」
所在なげに視線をさまよわせる上条を見て、美琴の世話焼きスキルが発動した。
「わ、わかった。それじゃ、いつ行く?」
「明日」
「明日!?」
ずいぶん急だなおいと言う上条の言葉を聞き流し、美琴は話を続ける。
「そうね、明日の一三時、第六学区のスケートリンク前に集合。アンタの学校も冬休みに入ってるだろうから、その時間なら来れるでしょ?」
「あ、ああ。大丈夫だけど」
「じゃ、明日ね。遅刻するんじゃないわよ」
美琴は上条に背を向けてその場を立ち去った。
「……あれ? 御坂の奴、忙しいって言ってたけど今来た道を戻っていったぞ? どこ行くんだ?」
――上条に小さな疑問を残して。
……誘ってしまった。
なりゆきとはいえ、行きがかり上とはいえ。
「さ、誘っちゃった……」
美琴の顔が徐々に赤くなる。
「い、いやこれはスケートができないアイツのために、美琴さんが手ほどきしてあげるだけであって!」
デートじゃないデートじゃないと美琴は握り拳を作って否定するが、誰もそんな言い訳は聞いていない。とはいえ、美琴も人にスケートを教えるのはこれが初めてだったりする。
「寮に帰ったらコーチングマニュアルでも調べておくか。んーと、スケートで、アイツは全く滑れないから手を……!?」
美琴が上条と手をつないで滑る場面が頭の中で精密に描写され、次の瞬間美琴の額の前でパチッと青白い火花が飛んだ。能力が軽く暴走を起こしたらしい。
「うわっ! とと、最近ずっとこうなのよね……」
上条のことを思い浮かべると、何故か美琴の能力は暴走を始める。以前などは気を抜いたとたん派手に電撃を飛ばしてしまい、たまたま隣にいた上条を驚かせたことがあった。
「コーチングマニュアルのほかに、メンタルトレーニングマニュアルも借りてきた方が良いかなぁ……」
寮備え付けの図書室に、そんな蔵書があったかなと考えつつ、美琴は翌日の算段を立てることにした。
★
「おーす御坂。お前が待ち合わせに遅れるなんて珍しいなぁ」
「ちょ、ちょっといろいろあってね……」
翌日。
時刻は一三時〇八分。
待ち合わせ場所に到着した美琴は、肩で息を切らしていた。
「いろいろ?」
「…………うん、いろいろ」
美琴が珍しく私服で出かけるのを見とがめた黒子が『どこへ行くんですのお姉様?』と追求し、あまつさえついてこようとしたのだ。振り切っても振り切っても黒子の追跡が続くので、やむなく電撃で気絶させたら待ち合わせの時間に遅れそうになったので走ってきた、というのが美琴の『いろいろ』の理由だが、あえてそこは上条には話さなかった。
「あと少し経っても来なかったら電話しようと思ってたんだ。事故とかに巻き込まれたんじゃないよな?」
「うん。遅れてゴメン」
「いいさ。いつもは俺が遅れてるし。それじゃ行こうぜ」
上条はスケートリンクを指さした。
貸しスケート靴を借りて履き替え、美琴はリンクに降りた。振り返ると上条は壁にぴったりと張り付き、そこから微動だにしない。
「アンタ、本当に滑れなかったのね」
「嘘言ってどうすんだよ!」
美琴は上条のそばへスーッと滑ると、壁に張り付いた上条の手を一つずつ剥がしていく。
「そこで壁とお友達になってても滑れるようにはならないから、まずは私の肩に手を置いて」
「こ、こうか?」
こわばった表情で、上条が美琴の肩に手を添える。上条の腰は引け、どう見ても転ぶ三秒前の状態だ。
「そんなに腰が引けてると、転ぶつもりがなくても転ぶわよ。いい? まずは基本姿勢。かかとをつけて、つま先を九〇度に開いて背筋を伸ばして」
「こ、こうか?」
引きつった顔のまま、上条が美琴の指示通りに姿勢を整える。
「そうそう。次に、その足の角度を保ったまま一歩ずつ歩く。右、左、右、左」
「みぎ、ひだり、みぎ、ひだり……」
美琴につかまったまま、ペンギンのように上条が氷の上を歩く。
「うまいうまい。じゃあ次は滑り出し。右足で氷の面に向かってエッジを立てるように踏ん張って、左足を今開いた角度のままゆっくり滑らせて。ゆっくり、ほんの少しで良いから」
「う。右足を踏ん張って、左足を滑らせる……」
上条の左足がほんの少しだけ前方に滑る。
「そうそう。そこで今度は左足を真下に押しつけるように踏ん張って、右足をさっきの左足のように滑らせて」
「こ、こうか」
ぎこちなく上条の右足が滑る。
「で、今の動きを繰り返す。左足、右足、左足、右足……そうそう、うまいじゃない」
「ひ、ひだりあし、みぎあし、ひだりあし、みぎあし……」
美琴に誘導されて、上条の足がそれっぽく滑り始める。
「アンタ、そこで足元ばかり見てたら人にぶつかるわよ? ほら顔を上げて」
「あ、ああ…………」
美琴の指示で緊張した面持ちの上条が顔を上げ、真正面にいる美琴と目が合った。
「…………ちょ、ちょっと、私の顔を凝視するんじゃなくて、私の肩越しに前を見なさい! 私の顔見てどうすんのよ!」
美琴は瞬時に上条から視線をそらすが、顔はゆでだこのように真っ赤になっている。しかし上条は、美琴の動揺に気づかない。
「ま、前だな。よし。次は?」
「つっ、つぎは、私の肩から手を離して」
「まっ、待て! 今手を離したら俺は転ぶ転ぶ間違いなく転ぶからやめてくれ!」
「落ち着きなさい! ほ、ほら、手を引いてあげるから」
美琴はおそるおそる上条の手を取った。
「これなら怖くないでしょ?」
上条に負けず劣らずのこわばった顔で、美琴が微笑む。
「て、手を離すなよ? まだ離すなよ?」
「自転車の練習じゃあるまいし、大丈夫よ。頼まれても離さないから」
「そ、そうか」
「次は、さっきの滑りを少し長くするわよ。最初に教えた『つま先を開いた姿勢』を作って」
「で、できたぞ」
「今度は、右足を踏ん張って、左足で滑り始めたら、右足を離して。勢いが止まるまで、そのまま左足で滑る。ほら、やってみなさい」
「お、おう。滑り始めたら、勢いが止まるまでそのまま……」
「で、勢いが止まったら、左足を踏み込んで、右足を降ろす。降ろした右足は最初と同じ角度を向けて、今度は左足で踏み込んで、右足で滑る」
「左足を踏み込んで、右足で滑って、左足を離す……」
「ほらそこで下を向かない」
「あ、ああ。左足で滑って止まったら右足で滑って、右足で止まったら左足で滑る……」
「そうそう、できてるじゃない」
美琴の言葉に、ようやく上条が表情を崩した。
「スケーティングの基本はそれ。後は、エッジに乗っかって滑る時間が長くなるだけよ」
「か、簡単に言うけど転びそうで怖い……」
「だからこうして手を引いてあげてるでしょ」
「な、なぁ御坂。後ろ向きのまま滑ってるのに、何でお前は人にぶつからないんだ?」
「ああ、それは私の体から出る電磁波の応用。背後にいる人の動きが見えなくてもわかるのよ」
「お前の能力ってホントに便利だな……」
上条が改めて感心する。こんなの大したことないわよ、と美琴が返す。
上条とつないだ手を意識するだけで、美琴は能力が暴走しそうになるが、皮肉にもそのつないだ手のおかげで暴走が抑えられている。アンタの能力の方がよほど便利よ、と美琴は誰聞くともなしにつけ加えた。
「……う、うわ? うわわわ?」
美琴が手を引くスピードについて行けなくなった上条が、突然バランスを崩した。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい!」
「だ、だめだうわわ転ぶ……ッ!?」
「きゃあああッ!?」
よたよたと不安定になった上条が、滑る足下もあって美琴を巻き込み、氷上で派手に転んだ。
「いたたたた……アンタだいじょう………ぶ………!?」
氷で打ち付けた腰をさすりながら美琴が目を開けるとそこには。
美琴の足の間につんのめるように転がり、美琴の薄い胸の上で顔面を着地させた上条の姿があった。
「!!!!!!!!」
「う、うわ! ご、ゴメンすまん許してください御坂さん! 決して悪気があったわけでは! 本当なんです信じてください!」
美琴が上条を払いのけようとするよりも速く、上条が飛び跳ねるように美琴から離れ、氷の上とは思えない挙動できれいな土下座を決める。
あまりの上条の早業に『馬鹿スケベ変態!』と怒鳴り立てる間を失い、そのおかげで美琴は速くなる胸の鼓動を抑えて冷静さを取り戻した。
「……わざとじゃないのはわかってるから、ほら、立てる?……あいたっ」
美琴は氷の上で立ち上がろうとして、そのはずみに自分のスケート靴のエッジで手袋の上から指先を切ってしまった。
「御坂!?」
上条は血相を変えて美琴の手袋を外す。血が流れる傷口を確認すると、上条はためらわず自分の口に美琴の指先を含んだ。
(え? え? え? 何が起こってるの? コイツが私のゆ、指、指先をくわえて……血、ちが……)
その状況を美琴の脳は処理しきれず、ぷつっと音を立てるように気を失った。
「……あれ? ここは……?」
美琴が目を覚ますと、視界に見慣れない天井とほっとした上条の顔が広がった。
「大丈夫か? お前血を見て気を失ったんだよ。軽い貧血だろうって」
「……え?」
美琴はゆっくりと起き上がった。どうやら自分はスケートリンク備え付けの救護室のベッドに寝かされていたらしい、ということをようやく理解する。ついでに、気を失った本当の原因は貧血ではないと言うことも確認した。
「指の怪我は深い切り傷じゃないから、縫うほどでもないってさ」
美琴は軽い痛みを伴う自分の右手を見た。指先には真新しい包帯が巻かれている。説明によると、皮膚を再生する特殊なジェルで傷口をふさいであるため、二日もすれば傷跡は全くわからなくなると言う。
「……あれ? そうすると私はどうやってここに来たの?」
「気が動転しててよく覚えてないんだけど、たぶん俺が御坂を担いでここまで来た」
「……アンタ滑れるようになったの? あそこリンクのど真ん中だったじゃない」
「よくわかんねぇ。誰かに助け起こしてもらった覚えはないから、多分そうなんだと思う」
「……怪我の功名?」
「馬鹿言うな。お前が気を失って、俺すげぇびっくりしたんだぞ」
そこまで言って、上条がふっと表情を暗くする。
「どうしたの?」
「いや、そのホントにいろいろと……ゴメン」
「いろいろ?」
美琴が首をかしげる。
「お前を巻き込んで俺が転んだから、お前が怪我して……貧血まで起こして」
貧血を起こしたのは上条のせいだと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうじゃないのだが、美琴はそれを口にしなかった。せっかく二人で遊びに来たんだから、今日は楽しい思い出で終わりたい。
「馬鹿ね。アンタはそんなこと気にしなくて良いの。指を切ったのは私の不注意だし」
「……ホントにゴメン」
「それはもういいから。ほら、リンクに戻りましょ。アンタ滑れるようになったんだったら、美琴センセーに成果を見せなさい」
美琴は上条を促して立ち上がる。
「お、おい? もう起きて平気なのか?」
「大丈夫大丈夫。貧血って言っても、その……大したことないし」
美琴は、包帯が巻かれた指先をちらっと見た。上条が自分の指を口に含むシーンが即座に再生される。
「………………」
「御坂? お前顔赤いけど本当に大丈夫なのか?」
「だっ、だっ、だいじょうぶよ! ほらいつまでもここ占拠してたらお医者さんが困るでしょ!」
美琴は上条の背中を押すと、お世話になりましたーと声をかけて、救護室を後にした。
「……アンタ滑れるようになったんじゃなかったの?」
美琴がんー、とこめかみに指を当てる。再びリンクに降りた上条は、最初に来たときと同じ姿勢で壁に張り付いていた。
「そ、そう思っていたんだが……だめだ、手を離すと転びそうで怖い」
「はぁーっ……ほら」
美琴は上条に手を差し出す。上条は自力で壁からゆっくりと手をはがし、美琴の手を取った。
「は、離すなよ? まだ離すんじゃないぞ?」
「大丈夫よ。頼まれても離さないから」
「絶対だからな? 絶対だからな??」
「そんな涙目にならなくても大丈夫だってば。最初の姿勢を思い出して、ほら右、左、右、左」
「みーぎ、ひだり、みーぎ、ひだり……」
「うん。できてるできてる。それじゃ少しスピードを上げてみよっか」
美琴が上条の手を引いて、バックで滑りながら心持ち滑走の速度を上げる。上条はどうやら何とかついて来れているようだ。
「滑れてるじゃない。大丈夫大丈夫。そろそろ手を離してみる?」
「い、いやそれよりも……これどうやって止まるんだ?」
「へ?」
あ、そう言えばコイツにブレーキ教えるのまだだったと美琴が思い出した瞬間、滑る勢いを殺せない上条が美琴に体当たりした。
「う、うわ、ちょ、ちょっとアンタ」
今度は巻き込まれて転ぶことなく、美琴は上条を抱き止めた。……抱き止めた?
「あ…………」
美琴は深呼吸して、状況を確認する。
リンクの端っこの方で、美琴は上条を抱き締めていて。
上条は自力で満足に立てず、美琴にしがみついていた。
……周囲の『このバカップルが』という視線が痛い、ような気がする。
「あ、あ、あ………えっと………」
「み、み、御坂すまん。手、手を離すな。今離されたらこっ、ころぶ」
「ええええええ?」
美琴が上条から手を離す
↓
上条が転ぶ
↓
美琴は手を離せない
↓
抱き合った状態のまま。
(う、嘘。ずっとこの状態のまんまなの?)
上条の美琴を抱きしめる力が、否しがみつく力が強くなる。
(ちょっと、この状態でそんなに抱きしめないでよ! ま、まずい、また意識が飛ぶ……!?)
「お、おい? しっかりしろ御坂? 大丈夫か?」
意識を飛ばさぬよう集中させると、息がかかるほど近くに上条の顔があった。
(うう……顔が近すぎ……そんなじっと見つめられ……たら……)
能力が暴走する代わりに、美琴の意識が飛んだ。
「御坂? 御坂? 目を覚ませ御坂!?」
ぺちぺちと自分の頬を叩く感触で、美琴は意識を取り戻した。
「大丈夫か?」
そこには、美琴を気遣う上条の姿があった。
「お前、また貧血起こしたんだよ。本当は体調悪いんじゃないのか?」
「あ……えっと……あれ……?」
「やっぱぼんやりしているな。少し休もう」
美琴は上条にもたれかかるようにして、リンクそばのベンチに腰掛けていた。
「手すりがすぐそばで良かった。お前気を失っちゃったから、そこまで引っ張り上げてここに座らせたんだけど、救護室行くか?」
「……ううん、いい。少しこのままでいさせて……」
美琴は体重を預けるように、上条に寄りかかる。抱きつかれたときは気が動転しっぱなしだったが、寄り添っていると心が落ち着いていくのを感じる。
(くやしいけど、やっぱり居心地良いなぁ)
美琴はこっそり笑う。これこそ怪我の功名かもしれない。
「御坂、ひょっとして眠いのか? 実はお前寝不足だったんじゃないか?」
「んー……そんなことない」
「そうか? まぁ、顔色が落ち着いてきたみたいだから大丈夫かな」
上条が美琴の前髪をそっと梳く。
「……アンタ、何やってんの?」
「お前の髪、サラサラだなぁと思って。あ、悪りぃ……」
いつもの美琴の反応を思い出したのか、上条が手を引っ込める。
「…………気になるなら、もう少しそのままで良いわよ」
美琴は、上条のしたいようにさせておくことにした。どうせ今は体に力が入らないのだから、いつものようにカリカリして邪険にあしらうつもりもなかった。
一〇分後。
元気と正気を取り戻した美琴は、三度リンクに降りた。上条から五mほど離れたところで振り返り、上条に『こっちこいこい』と手招きする。
「ブレーキのかけ方はさっき教えたでしょ? 滑り方はわかってるんだから、『怖い』っていうのを克服すればこれくらいの距離、一人で滑れるわよ」
「わ、わかった。御坂、そこを動くなよ」
「はいはい。転びそうになったら下手に暴れず、こっちに突っ込んできなさい。受け止めてあげるから」
「お、おう。い、い、行くぞ」
ぎこちない足取りで、上条が滑り出す。ゆっくり、ゆっくりと二人の距離が縮まり、美琴が差し出した手を上条が取った。
「できたじゃない」
「な、何とかだけどな」
「最初に言ったけど、あとはエッジに乗ってる時間が長くなるだけで、基本は何も変わらないの。慣れるとこういうこともできるようになるわよ」
美琴はそこから、片足を上げた状態で上条の前方一〇mくらいの距離まで滑っていく。
「ほら、ここまでおいで」
そこで美琴は振り返り、上条に手を振る。
「よ、よし。御坂、いくぞ」
「大丈夫大丈夫、ここにいるから」
上条はおっかなびっくりで滑り始める。美琴まで後三m、二m、一mのところで美琴の手をつかもうとする動きをかわすと、美琴は後ろに下がり距離を取った。
「動くなって言ったじゃねぇか!」
「いやー、ゴメンゴメン。慣性がついて滑っちゃって」
「く、くそ。絶対にそこを動くなよ」
「うんうん」
ぷるぷる震える上条を見て、美琴は笑う。上条はぐっと歯を食いしばると、意を決し美琴に向かって足を進めた。
「右、左、右、左……よし、あと少し」
美琴は自分に差しのばされた手を再度かわし、後ろへつつーっと下がる。
「あ、おい! 動くなっていっただろ!!」
「ほら、もうちょっとだからここまでおいで」
上条が美琴を追う。美琴が上条から距離を取る。そんなことを繰り返しているうちに、気づけば上条はリンク半周分を、一人で回っていた。
「アンタ一人で滑れたじゃない」
「あ……本当だ」
感極まって『おおやった、ありがとう御坂』と言う上条の右手を美琴がつかんだ。握りしめられた手の感触に気がついて、上条が美琴の方を見ると、美琴はぷいっと明後日の方向を見ている。上条はそんな美琴を見てぽつりと呟いた。
「……お前、可愛いところあるよな」
「…………………!」
「うわ、すまん御坂! 今のは俺の脳が何か電波を受信したとか本音がこぼれ落ちたとかそうじゃなくてえーと今のは聞かなかったことにしてごめんなさい!」
次に条件反射で土下座モードに移行した。そんな上条を見て、美琴はおそるおそる手を差し出した。今の発言にびっくりして上条の顔をうまく見ることができず、そっぽを向いたような体勢のまま、上条に立ち上がるよう促す。
「ほ、ほら、アンタそんなところで土下座してたら体冷えるし周りの人の迷惑じゃない。さっさと立ちなさいよ」
「あ、ああ、うん……」
上条はおそるおそる美琴の手をつかんで立ち上がった。おかしいな、いつもなら良くてグーパンチかビリビリ付きビンタ、悪けりゃ電撃が飛んでくるはずなんだが、とか何とか言うのが聞こえたが、そこは無視することにした。
「せ、せっかく滑れるようになったんだから最後の授業。この状態で、私とリンクを一周するの」
美琴は上条の方を見ずに滑り始めた。上条は美琴と手をつないだまま、ペースを合わせて隣に並ぶように滑る。
「ふ、ふん。やればできるじゃない」
「コーチが良かったからな」
上条をひっぱり起こしたあたりから、どうもうまく話せなくなっている。こんなの私らしくないと思いつつ、じゃあ私らしいって何だろうと美琴は考える。私らしい『体裁』と、自分が願う『本音』の差ってなんだろうと思い悩んでいるうちに
「え、ちょ、ひゃあっ!?」
美琴は上条にリフトされた。いわゆるウェストホールドリフトだ。
「ちょ、ちょっとアンタ何やってんのよ!」
「え? 何って、今までの練習の成果。よくTVで見るフィギュアスケートのあれが今ならできるんじゃないかと思って」
「ばっ、馬鹿! そんなの一般のスケートリンクじゃ禁止に決まってるでしょ! 降ろしなさいってば!」
上条がしぶしぶ美琴を降ろした。せっかくリフトがうまく決まったのに、怒られてがっかりしたらしい。
降ろされた美琴は上条の両肩に手を添えて、美琴をリフトした後の上条の手は美琴の腰に添えられて、二人はしばらくそのまま惰性で滑っていた。あれ、何か変な雰囲気だなと上条が思考を巡らせているうちに、美琴はニヤリと笑って突然上条の両手をガシッ! とつかんだ。
「さて、授業をしっかりこなしたアンタに、美琴センセーから卒業プレゼント」
「はい?」
美琴はピタリと止まると、上条の両手をつかんだまま、自分を軸にしてその場でスピンを始めた。もちろんスピンも一般のスケートリンクでは禁止だったりする。
「ちょ、ちょ、ちょ、みさ、これ」
ちょうど円盤投げでもするように、美琴は有無を言わさず上条を振り回すと、
「とんでけー☆」
まぶしいほどの笑顔とともに、遠心力に任せて上条の手を離した。
――上条は、遠く離れたリンクの壁に向かって投げ飛ばされた。
「これのどこがプレゼントだ! ああもう不幸だーーーーっ!!」
上条の叫びはリンク中に響き渡ったが、誰も救いの手を差し伸べてはくれなかった。
「御坂! お前なぁ、初心者を投げ飛ばすなんてひでーだろ!」
「でもアンタこけずに戻ってきたじゃない。上出来上出来」
遠く投げつけられ、壁に叩きつけられた上条がガシンガシンと足音を立てるように美琴の所に戻ると、美琴はしれっと言ってのけた。美琴の態度にかちんと来た上条は、手をわきわきと動かす。
「くっそう……。こうなったら、俺の日頃の学習成果を見せてやる! 必殺、後ろから羽交い締めホールド!」
「きゃっ!? ちょ、ちょっとアンタ何やって…………!」
「ふふふ、どうだ御坂! これでお前は電撃もパンチもキックも出せな……い……」
上条の途切れた言葉にん? と首をかしげ、美琴は自分たちの状況を整理する。
男の子が後ろから女の子に抱きついています。
二人はカップルのようです。
周囲から二人はどんな風に見えますか。
「わ、わ、ゴメン御坂! ついクラスの馬鹿どもと絡んでるつもりで……」
上条があたふたと言い訳を始めた。
「い、良いわよ」
「…………はい?」
「アンタが、そうしたいって言うなら……そうしてて良いわよ」
美琴は上条にされるがままに、上条に抱きしめられていた。正面から抱きすくめられていない分、相手の顔をまじまじと見ることもないからまだ正気を保っていられるだけで、美琴は内心がちがちのドキドキだった。
「何だかんだ言ってもアンタ、どうせ転ぶのが怖いからつかまってるだけでしょ? だったら良いわよ別に。わ、私はアンタに抱きつかれたって何ともないし」
「御坂……」
「な、何ともないもん、私は、本当に」
この期に及んでまだ強がる自分を、美琴は密かに恨めしく思った。ここで一言言えればもう少し上条と親密になれるのに、流れを変えるたった一言が言い出せない。
(どうしよう)
どうしよう、と考えても上条からうまい具合に離れる口実が思い浮かばない。しばし後、どこか気まずい沈黙を上条が破った。
「み、御坂? お前案外軽々と持ち上がるんだな」
「…………」
「体も何か細いし、もう少し飯食った方が良いんじゃないのか?」
「…………」
「ええっと、あはは、何かコメントをお願いしますよ御坂さん」
「…………」
上条の言葉で美琴の顔はこれ以上ないほどに真っ赤になっていた。しかしそれでも上条は自分から離れようとしない。よく見ると上条の腕が、自分のしでかした事への恐怖のせいか、小刻みに震えている。
(そうか、コイツだって離れたいんだ。……私から離れたいんだ)
美琴の心に小さなささくれができる。
「い、いつまでアンタはそうしてるわけ?」
いつもの不機嫌な口調がついて出た。
「いつまでって……お前がイヤだって言うまで?」
「そ、そう。わっ、私はアンタが困ってるだろうと思って背中を貸してるだけだから」
「あ、ああ」
「それだけなんだからね。変に誤解しないでよね」
「うん」
美琴は上条を背中に張り付かせたまま滑り、もとい氷の上を歩き始めた。
「御坂?」
「なっ、何よ」
「お前いったい何してるんだ?」
「何って、ここはスケートリンクだから滑って……ひゃっ!?」
美琴の耳に、上条の吐く息が触れた。
(ちょ、ちょっと待ってこれって……)
上条の吐息が美琴の耳朶を揺らし、くすぐったいような、何ともいえない妙な感覚が美琴の体の中を突き抜けた。
「御坂、何か様子が変だぞ?」
「へんじゃ……ひんっ」
首筋に自分と違う体温を感じ、美琴はビクン! と体を震わせる。
「なぁ。そろそろ機嫌直せよ」
「ぎげ……ってわたし……は……あっ……やめ……」
上条が話しかけるたびに、美琴の耳元に上条の息がかかる。イヤならさっさと振り落としてしまえばいいのだが、それができないのが乙女心。
(やだ……なんか……へん……)
震える体。跳ね上がる鼓動。赤みが取れない頬。
何かに『自分だけの現実』を浸食されつつある美琴は上条の手が自分のどこに触れているか確認しようとして
(あ……もぅ……ダメ……)
意識が三度ショートした。薄れ行く意識の中、どこか遠くで上条の声が聞こえたような気がした。
「……あ、れ? ここ……救護室?」
美琴が目を覚ますと、そこは先ほど訪れた救護室のベッドの上だった。隣を見ると、自分を心配そうにのぞき込む上条がいた。
「お前な、体調悪いんだったら無理するなよ。もっと早く言えって」
「へ……?」
「また貧血起こしたんだよ。ダイエットでもしてるのか?」
「あれ……私、どうしたんだっけ」
「お前……俺を背中に張り付かせてる状態で気を失ったんだ」
「えっと、……あれ?」
美琴は上条を背負っていたときに感じた、何とも説明しがたいあの『感覚』を心の中で分析しようとしていた。だがそれは、眠りとともに幻のように消え失せてしまい、今となってはそもそも現実だったのかはっきりしない。
「ともかく、起き上がれるようになったら今日は帰るぞ」
「…………」
「ったく、俺のコーチ役を引き受けたからって、体調を押してくるほどのことでもないだろう」
上条が美琴の不調を貧血か何かと勘違いしていることは、美琴にも理解できた。だが、誤解されたままで今日を終わるのが、美琴には不本意だった。そうじゃない、そんなんじゃない、せめて何か言い訳を取り繕おうとして
「ちっ、違うわよ! 私は無理なんかしてない! 私、今日がすごく楽しみだったんだから! アンタと二人でスケートに来たかったんだから!」
自爆した。
「…………はい?」
「…………あ、あはは……」
「御坂さん? あなたはそこで何て事を言いやがりますか?」
予想外のことを言われて上条が仰天する。
「はは、ははは、はははは……うわーん!!」
穴があったら入りたかったが、こんな時に限って都合良く失神することもできず、美琴はベッドに突っ伏した。
★
御坂と上条はスケートリンク前のロータリーにいた。美琴の体調を気遣って、今日は帰ろうという上条の主張を渋々ながら受け入れた美琴は、『なんだかふらふらして危なっかしい』と、上条に手を引かれている。
「これじゃさっきとあべこべね。アンタに手を引かれるなんて」
「状態が状態だからな。お前がスケートに来たかったのはわかったけど、だからって無理するなよ。スケートリンクは逃げやしないんだから」
「体調は悪くなかったの! あれはたまたま!」
「本当か? 無理してたんじゃなかったのか?」
「あれはね、アンタが…………!」
「俺が?」
「…………なんでもない」
自分の失神の原因が、上条のあれやこれやな行動にあると言えず、美琴は口ごもる。
「まぁでもさ」
「?」
「遊びに行きたいなら素直にそう言えよ。俺だって都合が合えば付き合ってやらなくもないんだし」
「だってアンタ、いつも素っ気ないし人のこと無視するじゃない」
「そりゃお前、後ろからスタンガン持った女が問答無用で追いかけてきたら誰だって逃げるだろうが」
「なっ!? スタンガンって何よ!」
「お前の電撃。いつもさ、お前が何かとすぐキレてビリビリしてそれで俺を追い回すんだぞ? 追われる俺はおっかなくってしょうがない」
「…………うー」
「ちゃんと言葉で話してくれればわかるんだからさ、あんまむやみやたらにキレるなよ。あ、タクシー来た」
上条はタクシーに手を挙げて止めさせると、美琴を後部座席に座らせ、自分は助手席に乗り込んだ。
(ちょっと! 何でそこで私の隣に座らないわけ?)
上条の態度に、美琴はカチンと来た。しかしここはタクシーの車内。降りるまで我慢だ我慢と、美琴は自分に言い聞かせる。
「常盤台中学寮までお願いします」
「あいよ」
上条の言葉に頷くと、運転手はなめらかに車を発進させた。タクシーの車内では、席が前後に分かれたせいもあり、上条も美琴も特に会話することはなかった。美琴はバックミラー越しに上条をにらみつけるが当の上条はどこ吹く風で、上条の代わりに運転手が後ろから発せられる殺気に身震いする。
「ほら、着いたぞ」
タクシー代を払おうとする美琴の手を遮り、上条はさっさとタクシー代を払うと、後ろに回って美琴に手を差し出した。
「ほら、つかまれ。まだだるいんだろ」
「…………」
体は本当に何ともないのだが、差し出された上条の手がうれしくて、それでもそっぽを向きながら美琴はその手を取る。
タクシーが走り去り、後には二人が残された。上条が咳払いをする。
「あー、とにもかくにも、今日はありがとうな。スケート、滑れるようになってすげぇうれしかった」
「…………うん」
「お前が楽しみにしてたって言うのも、まぁうれしい誤算だった」
「うん…………え?」
「だから、俺はお前が電撃落とすのが怖いんであって、そうでなけりゃ別にお前を嫌ってるワケじゃねぇよ。誤解すんな」
「…………うん」
「友達なんだから、もうちょっと正直に言え。今日のこととか」
「…………友達」
上条が必ずしも美琴のことを嫌っているわけではない、というのがわかってうれしかったが、その後の『友達』で美琴は複雑な気持ちになる。
「アンタは……そういやクラスの友達にああいう事するんだったっけね」
「ああいうこと?」
血が出た指をくわえたり前から後ろから抱きついてきたり耳に息を吹きかけたりあまつさえ……と美琴の頭の中で副音声が響いているが、それがアウトプットされることはない。
「なんでもない……」
「? まあいいか。次に会うのは来年か? お前も帰省するんだろ?」
「うん。アンタは?」
「俺ももうすぐ帰る。ま、お互いのんびりした正月を送れると良いな」
「そうね」
「来年、またどっかに遊びに行こうぜ。それじゃ良いお年を」
「うん。良いお年を。またね」
美琴は手を振って上条を見送った。
そして、今日一日、上条とつないだ手を見つめる。いつかこの挨拶はより親しい間柄のそれに変わるのだろうか。平行線の二人の距離が交わることはあるのだろうか。
「スタンガン、か。確かにそれじゃ避けられて当然かもね、はは……あーあ」
美琴はがっくりとうなだれた。美琴の照れ隠しの電撃で上条がおびえてしまうのは、美琴に絶対の非がある。
美琴は自分に問いかける。それがわかっていても素直になれない自分を、新しい年を迎えるように脱ぎ去ることができる?
「悩んでたって仕方がないよね。こんなの私らしくない」
美琴は吹っ切れたように笑う。目標は見えたのだ。後はそこへ向かって走るだけ。思い立ったら即実行が御坂美琴の信条だ。
「見てなさい。アンタのこと絶対振り向かせてみせるんだから」
しおらしく別れたというのに、年が明けて実家の前で二人がばったり出くわし新春早々から追いかけっこをするのは、また別のお話。
終わりです。