とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part1

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前編


上条家は当麻・刀夜・詩菜の順、
御坂家は美琴・旅掛・美鈴の順、で向い合って座っている。

(どうして…)
(こうなった…)
まだ、上条と美琴は呆然としている。

「さて、お集まり下さった皆様」
司会進行は美鈴が取り行うらしい。
「本日は新年サプライズ企画といたしまして、上条家・御坂家の合同お食事会を開きたいと思いまぁす!」
ぱちぱちぱち~、と詩菜だけが手を叩く。
「テーマは『当麻・美琴の擬似お見合い~』。ちなみに、パパさんたちも、今!初耳でございま~す!」
母親と子どもたちの目が父親に向かう、が、様子が変だ。

お互い探り合うような顔をしており、
上条刀夜は比較的気楽そうな表情、御坂旅掛は何やらいぶかしげな表情をしている。
(ちょっと無茶な企画だったかしら…)
(しーらない、お父さん怒らせちゃってー)
御坂母娘が居心地悪くなり始めた、その時、旅掛が口を開いた。
「そうか、ロンドンの居酒屋…か?」
「ピンポーン♪酔っ払ってたから憶えてないか、と思ったがね」
「…くっくくく。なるほどなるほど…。面白い、それならこの席もまた、一興」
「そうこなくてはね、ふっふっふ」
お互い、ニヤリと笑う。

「なんだよ、知り合いってことか?」
「ま、腐れ縁とでも思ってくれればいいさ。よろしく、上条くん。いや当麻くんと呼ぼうか。俺は旅掛でいい」
刀夜の代わりに旅掛が答えた。
「よ、よろしくです」
母親たちも父親同士が知り合いであることに驚いている。
「ねえ美琴ちゃん」
「な、何よ。」
間に父親を挟んでいるため、やや大声になる。
「母親は仲良し、父親は別ルートで知り合い、もう運命よこれ。アンタたち結婚するしかないんじゃない?」
「ばっ…・・!!」
美琴は真っ赤になって固まる。
(運命?呪いじゃないのか…?)
上条は周りがノリノリになってきた事を感じ取って、ゲンナリしていた。

(俺はどうにでもなるが、御坂は大丈夫なのか本当に)
上条は美琴を見ながら考えていた。
(好きでもない男とこんな席を設けられて、擬似とは言えつらくないのか…?)
アイツの性格からすると、直接聞いても強がるだけだろうしな、と考え込む。

(何だかアイツ、気乗りしてなさそう)
美琴はちらっと上条を見て思う。
(そりゃ私だってこんな強引な展開はちょっと…だけど。でも…)
やっぱり私とじゃ擬似とは言えこういう席はイヤなのかなあ、と少し悲しくなっていた。


詩菜が刀夜に耳打ちすると、刀夜は一瞬考え込む顔になったが、すぐに頷き、切り出した。
「えー、上条当麻の父、上条刀夜です。まずは新年の挨拶を改めて行いたいと思います。」
呼吸を整えた刀夜が一言、『明けまして、おめでとうございます』
「「「「「おめでとうございます」」」」」
何だかやたら息があったせいか、美鈴がクスリと笑い声を漏らす。

「まあ、妻たちがせっかく企画してくれたこの席、私は大いに楽しむべきだと思う。
 当麻、美琴さんもややこしい事は考えず、めったに会えぬバカな親たちに付き合ってあげてくれ。以上!」
拍手が巻き起こる。
(ま、そうだな。御坂も割りきって楽しんでくれてる、と思うしかないな)

「んじゃ俺からも。今回初めて当麻くんと会って…ということでだな。
 俺はコンサルタント業をやってる事も有り、人を見る目だけは自信がある。
 が、しかし今回に関しては、妻が当麻くんにベタ惚れであり、もはや嫉妬で判断ができない」
「さすが旦那、分かってるね~」美鈴がケラケラ笑っている。

「だから美琴、当麻くんへの判断は親の意見を取り入れず、お前が考えるんだ。
 お前の考えに俺は従うし、信じる。いい男だと思ったら、全身全霊でぶつかれ。それだけだ。」
「ちょ、ちょっと何マジになってんのよ!」
また真っ赤になった美琴が手をブンブン振り回しながら言い返す。
「ウン、まあ冗談だ。なにをマジになってるんだ?」
美琴は口をぱくぱくさせたかと思うと、プイッと横を向いてしまった。


「聞いていいのか分からないが、当麻くんは何か能力は持っているのか?」
「残念ながら無能力者ですね」
「しかし娘は君に勝てないような事を言ってたような気がするが」
美琴は真面目な顔で頷く。
「俺の右手には特殊能力がありまして、これは生まれつきなんです」
「! まさか原石か!?」
「…? 原石、ってのが何かわかりませんが、この手で触れると、あらゆる能力を打ち消せます」
「生まれつきなんだ」
美琴も初めて知った。
「それで御坂の電撃が俺には効かないんです。まあ女の子殴るわけにいかないし、俺も御坂に勝ったことないですよ」
「こうやって強者の余裕かますのよね、もう…」
美琴はジト目で上条を睨んだが、すぐ旅掛に問いかける。
「お父さん、原石って何なの?」

「簡単に言うと、天然の能力者だ。いうなれば美琴は人工の能力者だな。」
「嫌な言い方ねえ、それ」
美鈴が口を挟む。
「とはいえ、天然というだけあって非常に少ない。学園都市はその人材を集めているようだ」
「でもそれならアンタは原石と言えるんじゃないの?」
「うーん?初耳だけどなあ」
「確か、LV5の7人目が原石のはずなんだ。当麻くんも原石なら、少なくともLV0って判定にならないと思う」
「LV5って謎なのよね。7人いることだけは公表されても、誰が誰だか」
美琴は首をすくめた。
「ま、こういう席で難しい話はやめておこう。とりあえず君が最強の無能力者であることは、分かった。」

パンパン!と美鈴が手を叩く。
「じゃ、キリがいいみたいだから、皆さんそこのベランダから外へ出て、写真撮影しましょうか」
上条の顔に縦線が入る。
(こんなの御坂の引き立て役じゃねーか…もうちょっとマシなスーツはなかったのか、昔の俺。)
別段そこまでひどいわけでもなかったが、きっちり着こなしている父親勢の横では、確かに厳しいものであった…


いつも2ショットではトラブルになる写真撮影も、流石にベッタリくっつく必要の無い状況のせいか、
滞りなく終了した。振袖姿を撮って貰った美琴は上機嫌だった。
「あらあら、美琴さんホント可愛らしい~。こんな娘が欲しかったわぁ~」
「当麻くん次第で現実となるわよー。あたしだって当麻くんみたいな息子欲しいし」
キャッキャと母親同士が盛り上がっている。
「どうなんだよ、あの母親共は」
「あそこまでいくと、私も乗り切れないわよ」
2人してハーッとため息をつく。

振り返ると、父親同士も何やら話し込んでいる。
「ま、普通こういう話って父親同士が複雑な関係になりそうなモンだが…知り合いなせいか平和だな」
「ウチの父さんはクセがあるから、一般的な日本の父親じゃ合わない気がする」
御坂旅掛は長身でワイルドな風貌だ。まず雰囲気だけで圧倒されるだろう。

「ふー、ちょっとあのベンチに座るか」
「う、うん」
天気がいいせいか、さほど寒く感じない。
2人は並んで腰かけ、少しまどろむ。
「御坂、まあその…大丈夫か?」
「ん?何が?」
「無理やりこんな話になっちまってさ」
「こんなのお見合いでも何でもないでしょー。皆最初から知り合いなお見合いなんて聞いたことないわよ」
「ま、それもそうか…」
2人、黙り込む。

「アンタは…」
「うん?」
「アンタは…私と、擬似でも、こういうことするのは、イヤ、なの、かな」
美琴は言葉を千切るように問いかける。
「俺に関して言えば、お前が嫌がってないなら問題ねえ」
「ホントに?」
「ああ、好きでもない奴とお見合いなんて普通、嫌だろ。ま、普通お見合いは事前に好き嫌いも無いけどな」
何の気なしに美琴を見た上条は、固まった。美琴が目を見開いて震えていた。

「誰が?」
「?」
「誰が、誰を、好きでもない、の?」
「お前が、俺を」
「どうして?」
「って言われてもな。そうじゃないのか?」
「私そんなこと言ったことない…でしょ」
「そりゃ直接言われてないけど。俺はLV5のお前のプライドをズタズタにした男だろ?」
「…」
「まあ色んなこともあったし、嫌われてはいないとは思ってるけどな…好かれるような事もしてねえし」

限界、だった。
今までなら、電撃をぶちかまして怒るか、何らかの形で怒りを表現して立ち去っていただろう。
でも今回は、怒りでごまかせないほど、悲しみの方が大きかった。
手も足も動かせない。自分の想いがまるっきり空回りしていた悲しみに、あふれ…。

美琴はうつむくと、涙をとめどなく流し始めた。嗚咽もなく、拭おうともせず、ただひたすら。


上条は大パニックである。
「ど、どうしたんだ御坂!」
さすがに気配で気づいた母親たちが駆けつけてくる。
美鈴と詩菜はどちらがどちらを見るか一瞬迷っていたようだが、
詩菜がカバンからタオルを取り出すと、美琴の隣に座って、何も聞かずにタオルで涙を押さえ始めた。

美鈴は上条を一定距離まで引きずると、手を頭にあて、どうしたもんかと考え込んでいる。
上条は悲痛な表情をしている。
「そうだねえ…」
美鈴はつぶやく。
「『好きでもない奴とよくこんな茶番に付き合えるなあ』みたいな事、言ったかな?」
上条はズバリ問われて驚愕する。
「な、なんで…」
「当たり?」
「まあそんな感じの…ですね」

美鈴は詩菜の言葉を思い出していた。
『あの子は、何もせずに自分の都合の良いことは絶対に起こらない、って思っているみたいなんです。
 そして、生来の不幸体質が相まって、
 何かを救い、不幸が起こらなくなった事が最大の喜びになってしまったんです。
 マイナスをゼロにすること、そこに限界点を置いてしまっているんですよ。
 ゼロからプラス…つまり好意とかですね、ありえないと最初から遮断してしまってるんです。』

(ここで、美琴ちゃんはこう思ってるのよ、ていうのは簡単だけど、この子また同じミスしちゃうわね)
やっぱり我が娘に踏み込んで貰うしかないか、と考え込んでいる上条を見つめる。


美琴はようやく落ち着きを取り戻していた。
その様子を見た詩菜は、タオルを美琴の手に持たせ、「ちょっと外すわね」と父親たちの所へ向かった。
(最低だ、私…)
今度は違う感情が自分に襲いかかる。
さっきの感情は、「なぜ分かってくれないの!」という悲しみからだったが、よく考えれば。
会っては些細なことで電撃を発し、怒鳴っていた女を、誰が好いてくれるというのだ。
少しは好意持ってくれてるのかな、等とどうして思えたのか。
そしてそんな女の行為を見て、好かれているはずがない、と、上条が思うのは、当たり前だ。
また、涙が浮かんできた。タオルで目を押さえつける。

そして、今。
あのタイミングで泣いてしまっては、自分の想いも、ほぼ最悪の形で伝わってしまった。
御坂美琴が、上条当麻を、好きであること。
あんなにボロボロ泣いてしまっては、ちょっと好きとか、気になる、程度でない事もまず気付くだろう。
もう、昨日までの、淡い、友達以上かなと思えるような付き合い方も、終わってしまう。
万が一、受け入れられたとしても、泣いて脅したようなものだ。
受け入れられなければ、…それが当然なのであるが、もはやどうなるか自分でも分からない。

(なんで…こんなことになっちゃったのかな)
涙は永遠に枯れないのだろうか、と思うほどに、美琴は泣き続けていた。今度は声を殺しながら…


意を決した上条は、まっすぐ美琴の元に歩み寄り、真横に腰掛けた。





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