16年後
30歳の誕生日を迎え、当麻からなかなか気の利いたプレゼント
をもらった美琴は悩んでいた。
「なんてつまらない男と結婚してしまったのだろうか?」
そのつまらない男とは、
10代で世界の混乱を収集させ、20代で学園都市の統括理事になり
学園都市の不条理を全て片づけてしまった上条当麻のことで、
32歳でありながら、国際的にも最も発言力の強い男である。
しかし、基本的に世の中が平和になってしまって、
外交にしても内政にしても、基本は役人たちとミサカネットワーク
に任せておいて、「みんなが幸せになるように」といった抽象論
さえ述べておけばあとは流れるように片付いていく。
昔の武勲を知る人たちからは、恭しく扱われ、
なにか表だって発言すれば、それにもっともらしい解釈がついて
世界中の新聞の一面を埋め尽くす。それとは裏腹に、
家庭内では、いまや小学生の娘にさえ馬鹿にされる始末だ。
この娘も、かなり優秀なので、勝手にどんどん育っていく。
そうなると、上条夫妻はやることがない。ただ外国だ、国内だで
パーティーに出席して、当たり障りのないことをしゃべっていれば
全てがすむのである。
統括理事公邸の近くには、官舎があり、一方通行、打ち止め夫婦等住んでいる。
彼らはついこの前結婚したばかりで、
身重の打ち止めは、旦那の帰りが遅いとぼやくのだが、
自分たちより幸せそうだしか思えない。
一方通行は、一流の悪党から飛び級で一流の外科医に転身して
毎日のように難病者を死のふちから蘇らせる戦いに挑んでいる。
一方通行だって、出産後は、また医大の学生に戻る。
つまり、やることがある。
当の上条さんも悩んでいた。
「俺は年に一億ももらっているが、ここ5年ぐらい
外国旅行にいっては、中身のないおしゃべりばかりをして、
仕事らしい仕事なんかしちゃいない、いっそうのこと、
なにか別の仕事をしたほうが世のためではないだろうか?」
外国の大使の謁見前一席で、こんなことを述べた上条さんの
言葉を聞くや否や、同席した理事の一人浜面は、激しい剣幕で
異論を述べる。「上条統括理事がいるから、世界が安定しているんです。
これがいなくなってしまったら、誰が世の中を丸く収めるんだ」と。
次に、土御門理事が続ける。「上やんは、世界のために充分働いたんだし、
年収は恩給だとおもってたーんと休めばいい」
さらに、イギリスのステイル=マグヌス大使が何かを言おうとするが、
外交担当の土御門理事に、「内政干渉はこまる」とつきかえされてしまう。
ステイル=マグヌス大使としては、妻(インデックス)を奪い合った
仲の上条さんが、生ける屍になってしまっているのは、どうもつまらない
ので、個人的には土御門理事や、浜面理事とは異なったスタンスではあるのだが、
世の中がおかしくなった場合の恐ろしさを知っているが故、彼らの制止を
基本的に受け入れることにするが、一言
「そういえば、上条さんのお嬢さん、彼氏でもできたんですかね、
男の子と、女の人と一緒にあるいていましたよ」
その一言に、上条さんは、反応する。
「なんだって?、男の子はいいとして、「女の人」というのはいったい何者だ?」
その問に、「男の子は青髪、女性は赤髪でしたねー。それ以外は」
とステイル。わかった。念のため、探してみる。
国内警備担当の浜面は即座に「では、自分の部下に探すよう指示を出します」
と杓子定規に答えるが、これを無視して、上条は、席を立つ。
「どうせ、イギリスと学園都市の友好を確認したでおわりなんだろ?」
とステイル。「今回だけですよ」と土御門。
そのころ、上条さんの娘は…。
さあ、おべべをぬぎぬぎしましょうか…。
「母さんそういうことは…。」
「うるさいわね、の一言で、彼氏は外に飛ばされてしまう」
「さあ、これで誰も邪魔はいなくなった...。」
それにしても、お姉さまそっくりで、なんてかわいらしい。
あられもない姿になった上条さんの娘…。
そのとき…。
「おい…。」
「なんであんたがここに」
「赤い髪の女いっしょにいたと聞いたんで、赤い髪といったらお前ぐらいしか思いつかなくってな」
「そんな、私はお姉さまと添い遂げることができなかったので、せめて男の子をうんで、お姉さまの
娘と結婚させ、遠いところから見守っていようと」
「で、お前の息子は、外で伸びていて、お前はなにやってるんだ?黒子」
「母さん…。みっともないからやめてよ」
「まあ、今回は大目に見てやるけど…。次やったら」
「涙目の黒子」
「次はきちんと守ってやるんだぞ青髪」
ばつがわるそうな青髪。
「母さんは、変態のくせに能力が高いから」
「能力は関係ない。どれだけ守りたいとおもうか、だろ?」
じゃあ、後は任せたから。
あられもない姿を彼氏にみられて真っ赤になる娘…。
「父さんなんか大嫌い」
と叫ぶ瞳には、「少しかっこよかった」という
表情がみられた。
16年後の世界では、各部門の理事が、学生の代表からなるそれぞれの委員会
に対して説明責任を負う委員会制になっていて、理事は忙しい。
(統括理事は、承認をするだけなので、暇)
仕事がなく、9時5時の生活の統括理事とは違い、基本、
理事は忙しい。比較的暇な法務担当とか、施設担当ですら
激務である。そのなかでも財務を担当し、委員会対応
に追われる上条美琴理事は、特に忙しい。今日も、一方通行の病院の
医療器具が金を使いすぎているという件と、ミサカネットワークの
維持の資金について散々なめにあって帰ってきたところだった。
「そんなことがあったの。」
帰宅後に自分の娘の話を聞く。
そこに、黒子を連れて当麻が帰ってくる。
美琴:「あんた、何やってるの、昨日は委員会の準備で忙しかったから今日あたしの誕生日を祝うっていったでしょ?」
当麻:「だから、美琴の友達をつれてきたんじゃないか」
美琴:「そいつが何をやったか知ってるの」
当麻:「あぁ、こいつは昔から少し変態だからな」
黒子:「でも、うちの初春社長だって、女と同棲してるっていうじゃないですか?」
当麻:「わかったから、話をややこしくするな、お前は素直にあやまって、美琴野誕生日を祝えばいい」
娘:「でも、お父さん少しかっこよかった」
黒子:「なんていうことでしょう。せっかく私の息子と結婚させて私の果たせなかった思いを…」
美琴:「あんたは黙ってなさい」
黒子:「おねぇさま~っ。でも自分の娘にフラグを立ててしまうなんてあなたも罪な男ね」
美琴:「当麻…。あんたって人は…」
当麻:「お前、もう彼氏いるだろ、お前からもなんかいってやれよ」
美琴:「えっ彼氏がいるの?」
娘:「あんな頼りないの…」
当麻:「男っていうのは普段たよりなくってもだなー」
娘:「普段たよりないお父さんがいっても説得力無い」
美琴:「どんな子なの?」
黒子:「私の息子」
美琴:「いやな予感が」
当麻:「少し頼りなさそうな感じだけど、芯は強そうだった、父親は俺の高校時代の友達だし」
美琴:「あんたの友達なんてろくなのいないでしょう?」
当麻:「それは…」
しばしの歓談のあと、黒子が帰り、娘が寝て、
当麻と美琴が2人きりになる。
当麻:なあ美琴、俺は普段たよりないけど見せ場もなくなってしまって、いまや生ける屍になってしまった。
美琴:そうね。
当麻:見せ場がないというのは、みんなにとっては幸せで、俺が飾りでいることが何かの役に立っているのはわかる。
美琴:そうね。
当麻:でも、このままだと、駄目になってしまう。俺はどうすればいいんだろう?
美琴:あんたは昔からダメでしょ?だったら、ダメじゃないように頑張るしかないじゃない。
当麻:そりゃそうだと思いますよ。でも、同じダメでも、身動きがとれるダメと取れないダメとでは…。
美琴:じゃあ、聞くけど、もしあんたが死んだらどうなる?
当麻:縁起でもない。
美琴:もっと理路整然と考えて。あんたが死んだら、また混乱が生じる。それに…。
当麻:じゃあ、培養器の中で生きろと?
美琴:そうじゃなくって、あんたがいなくても混乱が起きないようにする方法を考えるの?そりゃ難しいけどさ。
当麻:難しいけど、やりがいはありそうだな。娘も大きくなって、子育てもほっておけばいい、金の心配もない、
可愛い奥さんはいる。でも失っていたやりがい。これを取り戻す価値は、世の中にとってもありそうだな。
美琴:ところで、誕生日プレゼント…。あんな心のこもってないもので許されると思う?
当麻:そうだな。なあ、娘も大きくなったことだしもう一人とかじゃ駄目か?
美琴:なっ何言い出すのよ
当麻:ダメ?
美琴:わかったわよ。今度はあんたに似てできの悪い子供だったらあんたも暇じゃなくなると思うし…。
当麻:なんだよ…。
美琴:で、プレゼントくれるの、くれないの…。
こうして、2人の夜はふけていくのであった。
==完==