とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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ここは学園都市。オカルトすら霞む科学の街。
紆余曲折を経て平和になったその街に、その平和を作り上げた張本人がいる。

その男、上条当麻は上の空だった。

目は四六時中どこか遠いところをみているし、それを茶化す青髪ピアスや土御門の声も聞こえているのか怪しい。
それを見かねた小萌先生が声をかけるがこれさえもスルー。
結果、吹寄のデコがとんだわけだが・・・逆に吹寄のほうが額を押さえて涙目になってしまった。

イギリスのインデックスからの電話にさえ、聞いているのかいないのか曖昧な返事を繰り返し、ステイルに電話口で怒鳴りつけられたこともあった。
一方通行や妹達に声をかけられても全く微動だにせず、本気で心配された。
『不幸だ』という台詞の代わりに、深い深いため息が定着しつつあった。

以上のように、上条当麻は上の空だった。この状態がすくなくとも一週間ほど続いている。

上条にしかその理由はわからない。そう、上条はわかっていた。
自分がいかに上の空か。自分がいかに普通じゃないか。鈍感な彼にしてはめずらしく、それをわかっていた。


上条当麻は恋をしていた。


いつからだろう。戦争が終結しロシアから帰ってきたときに彼女の顔を見たときだろうか。
涙を浮かべ、しかし嬉しそうに自分に抱きついてきた彼女を見たときだろうか。
おそらくその頃だろう。彼が『恋』を知ったのは。彼が自分でもその時まで気づかなかった、彼女に対する莫大な気持ちに気づいたのは。

「・・・御坂・・・」

下校途中の上条は愛しい少女の名前をつぶやき、やはり深いため息をつく。

話は変るが、上条は記憶を喪失している。知識はあるが経験はない、というような体なのだ。
トンカツを食べたことのなかった人間が初めてトンカツを食べ、その美味しさに感動したとする。するとどうなるだろう?
同じように、恋を知らなかった少年が、そのあまりに莫大な感情に気づき、恋をしてしまったらどうなるだろう?
・・・たとえが悪いかもしれないが言うまでもないだろう。
『上条当麻』は『御坂美琴』のことが、好きで好きで、愛しくて仕方がなかった。
今の彼ならば、たとえ彼女が『妹達』と並んで歩いていたとしても、誰が美琴か当てることが出来るだろう。

笑顔が見たい。泣いて欲しくない。自分だけを見て欲しい。自分にだけ『特別』な視線を向けて欲しい。
―――彼女の『特別』になりたい。

上条の『幻想殺し』でさえ、この幻想(おもい)は消すことは出来ない。できたところで消そうなどとは思わないだろうが。

「気づかなきゃよかったのでせうか・・・」

再びため息と共に言葉が漏れる。この言葉の半分は本心だが、半分は違った。
自分の思いに気づかなければ、こんな気持ちになることはなかった。そう思うのは本当だ。
だが『恋』を知った時、いや、彼女に恋をしたと分かったとき、上条は例えようもない幸せな気分になったのだ。ゆえにすべてを否定する気にはなれなかった。

上条はまっすぐな人間だ。自分の感情に正直で、損得の勘定など抜きに人のために頑張れる。命をはれる。
今回は、その『まっすぐさ』があだになりつつある。

自分で自分を制御できない。気づいたときからレッドゾーンを振り切っていた気持ちは、今まさに爆発しようとしていた。
上条は今、真っ直ぐに一途で、だからこそ始末におえない『暴想恋車』(ラブトレイン)になろうとしていた。


               ――――【とある少年の猛烈恋慕】―――――


・・・とはいえ、上条には勇気がなかった。今の関係から1歩踏み込むだけの勇気が。
その勇気があれば、一週間も上の空になったりはしない。
幾度も死線をくぐった彼といえど、こういうことに関してはたやすく踏ん切りをつけられずにいた。

告白したい。でも、恐い。でも――

その単純な思考を延々と頭の中で繰り返すだけ。
言葉にすれば『好きだ』『愛してる』、たったこれだけだろうが、これだけでは二万回言っても収まらないほど少年の気持ちは莫大だった。

「上条さんらしくないのはわかっているんですけどねぇ・・・」

学園都市に帰ってきたときに一度会ったきり、上条は御坂美琴に会っていなかった。
いや、こちらから声をかけられる機会は何度かあった。だが、出来なかった。

彼女の後姿を見るだけで心臓の鼓動が早く強くなり、全身が燃えるようになる。きっと顔は真っ赤だろう。
彼女は中学生。恋愛対象にはなりえないと思っていた。少し前までは。

いまはそんなことはどうでも良くなっている。他人からからかわれようがバカにされようが、今以上に自分が不幸になろうが構わない。
どうなっても、どんな手段を使ってでも、彼女のそばにいたい。その一念しかなかった。

「・・・・・・いつの間にか来てしまいましたよ。こりゃ重症ですねぇ。」

まとまらない思考を纏め上げようと必死になっているうちに、いつの間にか足はあの公園のあの場所へと向っていた。
上条の、御坂美琴との最も古い思い出の場所。上条のなけなしの財産を飲み込み、愛しの少女にサンドバッグのように蹴られる自販機の前。
その近くのベンチに腰掛け、再び思考を始める。もっとも、いくらそうしたところで延々と続く自問自答なのだが。

「・・・・・・・・・」

もはやクセのようになってしまったため息を吐き、首を上げて空を見る。
夕日で焼けた茜の空の中に、思い人の笑顔が写ったような気がした。

「・・・・・・御坂・・・・・・・」

情けないやら、哀しいやら。そんな顔をしながら、自嘲じみた笑いと共にぽつりとつぶやく。そして周囲を見回した。
人通りのとても少ないこの場所。時刻は夕刻。どうせ誰も聞いていやしないのだ、と上条は思った。
ごくりと息を飲んで、言葉を用意する。立ち上がって、目の前に御坂美琴の姿をイメージする。

「御坂・・・・・・」

「・・・・・・好きだ。」

そして、はっと我にかえる。自分は何をしているのだろう。こんな、こんな恥ずかしいことを。

「うわあああああああああ・・・・」

頭を抱えて己が体を揺さぶる。いつか、ここの自販機に飲まれた時と同じように。
違うのは首筋まで赤く染まり、どこか嬉しそうな、恥ずかしそうな表情を浮かべていることだけだ。

「・・・・・・」

同刻、同場所。少しはなれたところで少女は少年のことを見ていた。
いとしの少年を見なくなって久しくなり、ならばとここで待ち伏せしていたのだ。

少年がここにやってきた時すぐに声をかけようとしたのだが、どうも様子がおかしい。
なにやらフラフラしているし、立ち止まったと思ったら『ここはどこだ』といわんばかりにキョロキョロしている。

「アイツ、何してんのかしら・・・」

上条の行動が気になった美琴は、物陰に隠れて様子を伺うことにした。

なにやら思案顔でベンチに腰掛ける上条を見て、また厄介ごとに巻き込まれているのかと心配になる。
すぐにでも駆け出していってやりたいが、そこを我慢して上条を監視する。
なににまきこまれているのか盗み聞いて、今度こそついていってやる。そう思いながら。

そのうち上条がため息をつき空を見上げ・・・・ふっ、と笑った。
美琴も見たことがないようなとても穏やかな、優しい顔で。

「・・・アイツ、あんな顔するんだ・・・」

『・・・・・・御坂・・・・・・・』

「!?」

名前を呼ばれた。ばれたかと思い体を縮こまらせるが、上条の目は何もない空間を見つめている。

「なんだ、独り言かぁ。ビックリするじゃない全く・・・・って!
なななななんで独り言であたしの名前を・・・・」

上条のほうを見る。愛しの少年はよくわからない表情を浮かべ、乾いた笑いをこぼした。
そしてフッと真面目な顔になって立ち上がり、言った。

『御坂・・・・・・』

「?!」

ビクッと体が跳ねる。ばれたかもしれないという驚きからか、名前を呼ばれたということに対してなのかは解らないが。
上条のほうを見るが、こちらに気づいたわけではないらしい。

「またなにか面倒なことにまきこまれてるんじゃないでしょうね・・・」


・・・・・・・・・


沈黙。その間に美琴は決心していた。

「しょうがないわね。こうなったら直に言ってやるんだから!」

『・・・・・・好きだ。』

「そう、好きって」

「・・・・・・・・・え?」

思考が停止する。数秒の後、美琴の顔は夕焼けよりも鮮やかに染まった。
少し遠くにいて、身もだえする少年と同じように。
ひとしきり身悶えた後ベンチに座って、右手を夕日にかざし見る。
異能を打ち消す右手。神の加護さえも打ち消す右手。結果的に、不幸を呼び込む右手。

「これのおかげで、御坂を助けられたんだよな・・・」

あのときはなかなかヘビーだった。『不幸』だったかもしれない。
でも今思えば、おかげでかけがえのないひとを救うことができたのだ。

「不幸じゃない、な。むしろ―」

と、視界の端に何かを捕らえた。木の影に誰かが隠れているらしい。

「まさか・・・聞かれてた・・・?」

不幸だ、と久しぶりにこぼす。知り合いでなければいいと思い、すこし目を凝らす。
ちらりと木陰から見える後姿。茶色い髪に常盤台の制服。

上条の心臓が跳ねる。

それだけの情報で彼にはわかる。何故だかわらないが、わかる。
たった一人の愛しい人、見間違いようもない。御坂美琴があそこにいる。
暴走する恋心が、鈍い彼の心のセンサーの感度を限界まで引き上げたのかもしれない。


聞かれた いやまさか でも 不幸 ・・・聞かれたな 間違いない

誰に 御坂に ウソだろ 不幸? むしろ幸せ? 偶然? 必然?


脳がすさまじい勢いで回転する。意味の無い思考を繰り返す。が、それもすぐに終わった。


自然と足が動いた。

 ラヴトレイン
『暴想恋車』は走り出す。フルスロットルで終点と始発点へ。

「アイツ・・・今なんていったの?あたしのことを好きって言ったの?」

先ほどの衝撃的な出来事を整理する。しようとする。だが、できない。

「~~~~~~~~~ッ!」

片思いだと思っていた。どうしたらいいのだろうと悩んでいた恋。それが叶ってしまった。

身を隠す木にもたれ、真っ赤な頬に手を当て悶える。気を抜いたら漏電してしまいそうだ。
体が熱い。しびれるような感覚がからだを走る。

ウレシイ。嬉しい。うれしい!

「(これはチャンスよ!今なら、今ならきっと―――)」     「御坂!」

「へっ?」

「あ、あの、これは、えっとその、そう!ネコがこっ『御坂。』ちに・・・」

「・・・御坂。」

三度、呼んだ。
最初は強く、気づかせるように。二度目は静かに、なだめるように。三度目は優しく、包むように。

「・・・俺は、だめな男だ。頭は悪いしお金もないし、顔は・・・まぁ平均だと思いたいけど。」

「とにかくもう一度、しっかり聞いてくれ。俺は、御坂が、好きだ。」

本心のままに、話し続ける。美琴はそんな上条をじっと見ている。

「俺は不幸体質だから、一緒にいると不幸になるかもしれない。だめな男だから、いいカッコできないかもしれない。
困ってる人がいたら放っておけないから、いつかみたいにどこかにフラッと行ってしまうかもしれない。」

「でも、我慢できないんだ。どうにかなっちまいそうなんだ。
俺と付き合って欲しい。俺を好きになって欲しい。御坂じゃなきゃ、だめなんだ。」

さぁっと風が木々の枝を揺らす。夕日の中で、二人はお互いを見つめあう。

「・・・アンタ、もっとムード考えたり、ロマンチックなこといったりできないの?」

「・・・・・・・・すまん」

「でも、それでいいわ。ううん、それがいい。アンタらしくって。」

ぎゅっと。

一歩踏み出して、美琴は上条に抱きつく。

「あたしだって、アンタじゃなきゃだめだもん。とっくにアンタのことが大好きよ!」

「・・・・・・」

「あたしも、もう我慢しないわ。あたしをアンタの彼女にして?」

「・・・・・・御坂ぁ・・・」

「・・・アンタ、泣いてるの?こういうときに泣くのは、普通女の子のほうなんじゃないかしら?」

「しょうが、ねーだろ・・・うれしくって、とまらねーん、だからよ・・・」

照れくさそうに言った後、上条も美琴を抱きしめた。
はじめてみせる上条の表情としぐさに、美琴はハートをぶち抜かれた気持ちになる。

「・・・わりとダメージがおおきいわね・・・」ドキドキ

「・・・なんの、ことだよ・・・」

「・・・こっちの話よ。」

「ねぇ、もう・・・・」 「いやだ」

ぎゅうっ

「あう」  「もうすこし、こうさせててくれ。」

しばらくたったが、二人はいまだ公園にいた。
上条はベンチに座り、自分の膝の上に美琴を乗せて、抱きしめている。

「アンタね、それでどんだけながいことこうしてるかわかってるの?」

「イヤなら、ビリビリするなりなんなりして離れりゃいいじゃねーか」

「う、だって、その・・・」

「・・・今日だけは、俺のワガママ聞いてくれよ。確かめてたいんだよ。現実なんだって。」

「・・・仕方ないわね。今日だけ特別よ。」

自分を抱きしめる上条の腕に、美琴はそっと手を添える。
橙色の光の中で、二人は幸せそうに微笑む。

「好きだぞ、美琴。」   「好きよ、当麻。」

 ラヴトレイン
『暴想恋車』はかくして路線を変えて走り出した。
これからも、尽きぬ愛を燃料に、まっすぐにとまることなく走り続けるだろう。

これはただのはじまり。波乱がないとは限らないが、きっと乗り越えることが出来るだろう。

この二人なら、きっと。

                はじまりのおわり。


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