とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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2日目


「さてと、そろそろ本題に入ろうと思います。」

上条がトイレからでるやいなや、佐天はコホンと咳払いし、話をきりだした。
イヤな汗が出る。今度は御坂がキューティーエスケープしたい所だがそうもいかない。
今から上条が何を語るかはわからないが、自分がいなくなれば話の訂正【フォロー】ができなくなる。
佐天のことだ。話を面白い方向に解釈し、盛りに盛って初春へ報告するだろう。

(落ち着け私! 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!)

がんばれ御坂美琴。
神は乗り越えられる試練しか与えないって、南方しぇんしぇいも言うちょったぜよ。

「ん?本題って?」

上条はドリアを口に入れながらテイクアウト用のミックスピザ(コレは自腹)を注文した。同居人用のお土産だろう。

「上条さんのケータイってペア契約してますか?」
「あぁしてるぞ?御坂とだけど。」

佐天のど真ん中ストレートな剛速球【しつもん】に、フルスイングホームランで打ち返す【こたえる】上条。
見ていて清々しいが、もうちょいやんわりできないものだろうか。
ほらー、何か漏電しかかってる娘がいるよー。

「上条さん、ペア契約っていうのは恋人同士でやる事なんですよ!」
「いや、どうやら夫婦でもするものらしいぞ!」

やめたげてー。もうパチパチいってるからー。

「ちょっとよろしいですの?」

見かねた白井が助け舟を出す。
このまま佐天が進行役では埒が明かないと思ったのだろう。

「なぜそうなったのか、一から説明してもらいます?」
「あー…罰ゲームだったな、元々は。
 大覇星際で負けたほうは、何でも言うことを聞くって事になったんだよ。」
「なるほど、そして見事に上条さんが負けたと。」
「まぁな。それでペア契約したわけだな。」
「異議あり!! 間がごっそり抜けてるじゃないですか!
 私達は何でお二人がペア契約したのか!その理由が知りたいんですよ!」

ちょっと待って。といい、上条は自分のケータイを取り出す。
そこには緑色の謎生物がぶらさがっている。

「えーと、なんだっけコレの名前?…ケロロ…いやケロヨンか?」
「ゲコ太よ!ゲ・コ・太!! 一文字くらい当てなさいよ!
 百歩譲って前者はカエルだけど、後者はただのそば屋のオッサンじゃない!」

アンタ、カエル顔の医者【オッサン】にちょっとトキメイとったがな。

「あぁ悪い悪い。とにかくペア契約特典のコレがほしかったんだよ。だよな?御坂。」
「そ、そうよ!他に意味なんて無いんだから!」
「でもそれなら、私や白井さんでも良くないですか?」
「いや、男女ペア限定だったんだよ。
 …そういやツーショット写真撮るとき、白井にドロップキック食らわされたな…」
「ツーショット写真とな!?」

佐天がおもしろワードを聞き逃すはずが無い。
だがドロップキックのくだりはスルーでいいのか?

「証明写真みたいなものだな。まぁ俺は消しちまったけど。」
「な!アンタあの写真消したの!?」
「いや…万が一誰かに見られたら、誤解されて御坂に迷惑が掛かると思って…」

当然ながら御坂はその写真を保存してある。
というより、待ち受け画面に設定して毎日見ている。そしてニヤニヤしている。
その様子をルームメイトである白井は毎日見ている。そしてイライラしている。

「大体のところはわかりましたの。
 (まぁわたくしはその場に居たのだから初めから察しは付いておりましたが…)」

佐天は腑に落ちない。
ストラップが欲しいからって、どうでもいい相手とペア契約などするはずがない。
だがどうやら目の前のこの男、女性にもてるくせに鈍感力がハンパないらしい。
まるでラブコメマンガか、ギャルゲーか、もしくはラノベの主人公のようだ。
これに関してはひくしかなさそうだが、まだ武器はある。

(あわてない、あわてない。ひと休み、ひと休み。)

佐天の頭の中の坊主が横になる。
一呼吸して佐天はもうひとつの爆弾をぶん投げた。

「ところでお二人が『逢引』したっていうのは本当ですか?」
「ふにゃあぁ~…」

罠カード「漏電」発動。上条のターン。伏せカードオープン。
幻想殺しでこれを無効化する。
佐天さん、最近 NO!と言える日本人は少なくなってきている。
物事をはっきり言えるのはすばらしいことだ。
でもたまには言葉をオブラートで包んでね。
その若さで感電死したくないのなら。

「あっぶねぇ~…急にどうしたんだ御坂?」

昨日もそうだった。
この逢引騒動の話が出ると、御坂は漏電する。
彼女はこの話題になると、どうしても思い出してしまうのだ。
上条が無自覚に言った、あの一言を…

「…本当に大丈夫か?気分が悪いなら休んでる方がいいぞ?」

心配して優しい言葉をかけてくるは、漏電対策とはいえずっと頭を撫でてるは、
なんか色々思い出しちゃうはで、御坂の顔はますます真っ赤になっていく。
アッチッチーー!!ゆでだこ!?ゆでだこ!? な状態である。
佐天はニヤリとしながら話を戻す。

「で?で?どうなんですか?」
「どうもこうも、それ何の話だ?」
「忘れたとは言わせませんわよ!8月の31日!
 寮の前で堂々と!お姉様に後ろから抱きつか(タックルさ)れ、そのままお二人で逃避行なさったことを!
 キィーー!!何と、羨ま忌々しい!!」
「あぁ、アレか。そりゃ恋人ごっこの時だ。」

な、なんだってー!! と、ふたりは超常現象の真実を聞いたかのようなリアクションをとる。
信じるか信じないかは貴方しだいである。
恋人という響きに佐天は顔を赤くし、白井は顔を青くする。
トマトと医者の関係みたいだ。
ちなみに御坂はテーブルに突っ伏して、煙を出したまま動かない。
最初の「逃げちゃダメだ」宣言はどこ行った。

「その時の御坂はしつこい男に付きまとわれてたんだよ。
 で、俺が恋人役になって、そいつを諦めさせようって事になった訳。
 まぁ、俺は無理やり巻き込まれただけなんだがな。」
「それで!?それで!?その後は!?」

興奮しすぎだ佐天さん。ちょっと落ち着け。
上条は魔術師のことなど言わないように、言葉を選びながら話を続ける。

「そいつ本気で御坂が好きだったみたいでさ、
 イイ奴だったし、俺も応援しようかなーなんて思ったんだよ。
 けど色々あって対立しちまって…結局最後はケンカして終わった。」

それだけ聞くと、「やめて!私の為に争わないで!」のシチュエーションである。
佐天は、どこからツッコめばイイのかと頭をひねる。
白井は、さっきからイラつきすぎて貧乏ゆすりが止まらない。
ただいま12膳目の割り箸をへし折ったところだ。お店に迷惑だからやめなさい。
とうとう耐え切れなくなったのか、御坂はガタッと席を立つ。
みことは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!

「フッフッフ…どこに行くんですか?御坂さん。」
「いや…ちょっと…お花を摘みに…」
「一人用のポッドでですかぁ? アレレ~?おかしいぞ~?
 …お手洗いは逆方向です。そっちは出入り口ですよ?」

うわ~ん!ジャイアンがいじめるよ~!
もし上条があの一言を言おうものなら、もう演算どころではなくなる。
今までギリギリ保っていた意識は確実に吹っ飛ぶだろう。
御坂の様子を見て、さらに追求すればもっと面白い事実が聞けるだろうと、
見た目はちょっと大人、頭脳はちょっと子供の名探偵佐天は推理した。

「その人とケンカ後、何かありました?」
「…ちょっとした約束を、な。」

「約束」という響きに白井ははっとする。
残骸事件の時、白井は尋ねた。なぜ自分の為に命を張ったのかと。
上条は応えた。ある男と約束したからだと。
名前も知らないキザでいじけ虫な野郎との約束。
白井は先程までとは打って変わって真剣な表情で上条に問う。

「その約束とは?」
「白井には前に言っただろ?

 御坂美琴と彼女の周りの世界を守る。

 って。」

さすがの佐天も言葉を失った。
今の言葉を、プロポーズ以外で使うシチュエーションが思い浮かばない。
この男はこれを無自覚に言ったのだ。

本人の予想通り、御坂は本日最大出力の電流を垂れ流し、そのまま気絶した。

「…やっぱり気分が悪かったんだな御坂…ったく無理しやがって。」

御坂は横になっている。相当体が熱い。
熱でもあるんじゃないか?などと思っているのは上条だけである。

「じゃあ俺はもう帰るけど、本当に送らなくて平気か?」
「わたくしが空間移動使いなのをお忘れですの?
 お二人はわたくしが責任をもって寮へとお送りいたしますので、無問題【モウマンタイ】ですの。」

そっか。じゃーなと言いながら、カバンから財布を出す上条。
そこで財布に挟まっていた紙クズを手に取り思い出す。

「あ、そうだ。お前ら明日ヒマか?もし良かったらコレ使って欲しいんだけど。」

上条が取り出したのは例のフレンドパークのチケットだ。使用期限は明日のみ。
同居人は一緒に行けないので、持ってても仕方ないと思い、佐天たちに譲ることにしたようだ。

「つってもコレ、ペアチケットなんだった…3人じゃ行けないか…」
「どのみちわたくしは行けませんわね。休日は人通りが激しく、事件も起きやすいため
 風紀委員のお仕事も増えますの。」
「そっか。じゃあ佐天に渡しとく。御坂と一緒に行ってきてくれ。」
「あ、はい!わかりました!じゃー御坂さんと…」

言いかけて佐天はイイコトを思い付いた。
イイコトを思い付いたはずなのに悪い顔をしている。

「わかりました…御坂さんを誘えばいいんですね?」
「?まぁ都合が悪ければ別の人でもいいけど…」
「いえ!絶っっっ対に御坂さんを誘います!!!」
「お…おぅ、そうか。まぁ楽しんできてくれ…」

佐天の気迫におされながらも、上条は帰っていった。
お土産【ミックスピザ】が冷める前に帰った方がいいだろう。
佐天は絶賛気絶中の御坂の顔を眺めながら、もう笑いが止まらない。
勘の良い白井は、佐天が何を企んでいるのか容易に想像ができる。
今日一番の深い溜息をつき、もう冷たくなったファミレスの安い紅茶を一口飲んだ。

御坂にとって、佐天にとって、そして上条にとって、
明日は幸運な日なのか不幸な日なのか。

どのみち明日は面白くなりそうだ。


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