とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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3日目


新しい朝が来た。希望の朝である。
本日は土曜日。全国的に2連休だ。上条には大量の宿題があるが、それでも土曜の朝はワクワクするものである。
玉子を焼く音とともに、上条の鼻歌が聞こえてくる。

「ま~ず~しさに~負けた~~♪ いえ~世間に~負けた~~♪」

選曲がシブすぎる。鼻歌くらいは不幸じゃなくてもよかろうに。
本日の朝食は、ご飯とモヤシの味噌汁。メインディッシュは目玉焼きだ。

「ごっはん!ごっはん!」
「もうちょい待ってろインデックス。今できるから。」
「にーくだー にーくだー やーきにーくだー♪」
「そんな豪華なものウチにはありません!」

インデックスは箸で茶碗をチンチンと叩きながら、メシはまだかと囃し立てる。
ただいつもより機嫌が良さそうだ。

「ホレできたぞ~。」
「うわーい!いただきますなんだよ!」

いつも思うが、この小さな体のどこにこんなに入るのだろう。
ガツガツという効果音が似合う程よく食べる。グルメ細胞でも持っているのだろうか。

「そういえば今日、出掛けるんだよな。」
「うん!今日はひょうかと遊ぶんだよ!」

上条は味噌汁をすすりながらインデックスを見る。
よほど楽しみだったのだろう。ウキウキオーラ全開の笑顔だ。
その様子に上条はある決断をする。
上条は冷蔵庫の裏から封筒を取り出した。中から一葉さんが顔を出す。

「ど、どうしたのかなとうま!もしかして『ひじょうじたい』なのかな!」

実は以前、ここ上条家では未曾有の経済危機が訪れたことがある。
そのため奨学金が下りるまでの三日間、毎日3食、米と海苔とマヨネーズのみで乗り切ったという悲しい過去があるのだ。
これは「ベルムス巻きの悪夢」として語り継がれ、上条家では非常事態専用五千円貯金法が制定されたのである。
そのお金【へそくり】に手を出すということは、今月はかなりのピンチということだ。 だが上条は、

「いや、今日は楽しみにしてたんだろ?だったらこれでパーっと遊んで来い!」

上条の座右の句は「カルピスを 薄めて薄めて ほーぼ水」である。
だがあくまで倹約家であってケチではない。
大盤振る舞いする時もあるのだ。
インデックスは一葉さんを大切に受け取り、満面の笑みでお礼を言う。

「ありがととうま!大好きなんだよ!」

おっと、ついでに本音も出たようだ。
インデックスは真っ赤になりながら、慌てて訂正する。

「あ、ち、違うんだよ!今の大好きはそーゆー大好きじゃなくてその…」
「あーハイハイ。わかってるって。ったくこんなときだけ現金な奴だなお前は。」
「あ…うん…わかってくれたならそれでいいんだよ…」

それはそれで複雑なインデックス。
冥土返しでもブラックジャックでも、この男のニブさは治せないだろう。

「それよりどうだインデックス!うまい棒なら500本買えるぞ!」
「…あのねとうま…日本には消費税と言う制度があってね…」
「ふっふっふ…甘いぞインデックス!消費税は1円未満は切り捨て、
 20円の商品には1円付くけど、10円の商品には付かない。
 つまり!500回レジに並んで、1本ずつ買えば消費税は1円もかからないのだ!」
「…!!すごいんだよとうま!!大発見かも!!」

何だこの悲しい会話。やっぱりただのケチかもしれない。




インデックスを送り出し、上条は宿題に手をかける。
量は多いが、インデックスが居ない分作業がはかどるはずだ。
うまくいけば今日中に終わるかもしれない。
と、上条は予定を立てる。まずは数学のプリントからだ。
よしやるか!とシャーペンを握った瞬間、
プルルルルルと電話が鳴る。
折角やる気になったのに誰だよと思いながら、ガチャリと受話器を取る上条。
本日の予定は大幅に変更することとなる。


現在AM8:13。
御坂と佐天は通話中である。

『じゃあ10時にセブンスミスト前ですよ!忘れないでくださいね!』
「わかってるって。あたしも楽しみだもん。」
『ホント楽しみですよね!いろんな意味で。』
「??どういうこと?」
『いえいえこっちの話です!じゃあ御坂さん、がんばってください!』

最後の一言には違和感を感じるが、佐天のことだ、
何かサプライズでも用意してくれているのだろうと、逆に楽しみになってくる。
だが忘れてはいけない。佐天は予想の右ナナメ上を行く行動力を持っているのだ。
たしかにサプライズには違いないが…

実は例のチケットは御坂の手元にある。
昨日気絶から目を覚ました御坂は、佐天から遊びに誘われた。
特に予定も無かったため了承しかが、そのとき佐天から渡されたのである。
佐天曰く、「あたしが持ってると無くしそうだから、御坂さんが持ってください!」とのことだった。
御坂としても断る理由はない。何の気もなしにそのまま預かった。
佐天的にはミッション1クリアである。

ウキウキウォッチングな御坂とは対照的に、白井はどんよりとしている。

「お姉様…本当に行かれますの…?本日のお天気はすぐれないとの予報でしたのに…」
「天気予報なんてアテになんないでしょ。それに地下街なんだから関係ないわよ。」

そう。今の樹形図の設計者の天気予報などアテにならない。
雨といったら晴れたり、晴れといったらやっぱり晴れだったりする。
鳥取県の忍者がゲタ占いでもしているのだろうか。

「しかしお姉様、やはり今日はお止めになった方が…」
「なんでよ!あたしと佐天さんが遊ぶと何か黒子に不都合があるわけ!?」
(本当に佐天さんとなら何の問題もありませんのに…)

昨日の佐天の様子から、白井はこれから何が起きるか想像が付いている。
できれば行かせたくない白井だが、止める理由も思いつかない。
どうすればいいかと11次元の演算を駆使する白井。
だが解決策が見つからないまま固法から連絡が入る。白井はしぶしぶ風紀委員第177支部へと向かった。

御坂は独りになった部屋で、どうやって時間をつぶそうかとベッドに横になる。
だがあることを思い出し、すぐにガバッと起き上がる。
忘れていた。いつも立ち読んでいる漫画雑誌、普段は月曜発売なのだが、今週号はたしか土曜発売だ。
しかもずっと休載していたマンガが今週号から連載再開される。
御坂だって人の子だ。ゴンさんがどうなったのか気にならないわけではない。

御坂は慌ててコンビニへと駆け込んだ。


「はぁ~おもしろかった~。」

御坂は漫画雑誌をパタンと閉じた。どうやら内容にご満悦頂いたようだ。
まだ時間まで少しある。
とりあえず何か買うものは無いかとジュースコーナーを見る。

ここのコンビ二は、必ず1種類の缶コーヒーが売り切れている。
実は、夜な夜な同じ種類の缶コーヒーを買い漁る男が居るのだ。
ちなみにこの男も『不幸な王子様』と肩を並べる、3種類の都市伝説の一つ『子連れアルビノ男』と呼ばれているのだが、
それはまた別のお話。

御坂はいつもの自動販売機でお馴染みの、ヤシの実サイダーをレジに置きお金を払う。
お釣りの小銭を文鎮代わりにレシートを置かれたが、
財布に入れにくいからといって仕返しをする御坂ではない。

コンビニを出ようとすると、自分にそっくりな少女が入店してきた。

「おはようございますお姉様、とミサカは朝らしくさわやかに挨拶します。」

首にはアイツからもらったネックレス。
ミサカ10032号。通称御坂妹だ。

「アンタ何やってんの?」
「徳川家康のご飯を買いに来ました、とミサカは2種類の猫缶を手に取りどちらが良いのか悩みます。」
「とく…それってあの猫の名前!?」
「はい。イヌか徳川家康かゲレゲレかで悩みましたが、最終的には威厳ある徳川家康を選びました、
 とミサカは溢れ出るネーミングセンスに自画自賛します。」

この娘は本当に自分と同じDNAなのだろうか、と御坂は自分のネーミングセンスに疑いを持ちます。
アンタのその少女趣味だって、他人にセンスどうこう言えるものじゃ無いだろうに。
そのときネックレスがキラリと光り、御坂は一瞬目を奪われる。

「羨ましいですか、とミサカはあの人との愛の結晶を見せびらかします。」
「べ、別に!?そんなモノ欲しくなんかないわよ!」
「うそつけコノヤロー、とミサカはお姉様の意地の張りっぷりに呆れながら溜息をつきます。」
「ホ、ホントよ!あたしはアイツのことなんて…別に…なんとも…」
「本当ですか。」
「え…?」
「本当に何とも想っていないのですか、とミサカは再度確認を取ります。」
「!!…それは…」
「いつまでもお姉様が勇気を出されないのなら…」

妹は一呼吸ついて、凛として宣言した。

「ミサカが本当にあの人を奪ってしまいますよ、

 とミサカは脅迫めいた宣戦布告をします。」




御坂は空になったサイダーの缶をゴミ箱へ捨てて、トボトボとセブンスミストへ歩いていた。
先程の妹の言葉が脳内再生される。
上条のことを想っているのは御坂だけではない。
あの白くてちっこいシスター。二重まぶたが印象的なショートカットの少女。
そしてもちろん妹達。 いや、知らないだけできっともっといるのだろう。
御坂は溜息をつき、時間を見るためケータイを開く。
だが目に入ってきたのは待ち受け画面だった。
ぎこちない笑顔と微妙な距離のカップルが写っている。

(アンタも少しは気が付きなさいよ…このバカ…)

御坂は上条の顔をカツンと指で弾く。
その瞬間に佐天から着信が入る。
慌てて御坂は通話ボタンを押す。

「も、もしもし!?佐天さん!?」
『あ!御坂さんですか!?もうすぐ着くと思いますんで!』
「そう、あたしは今着いたとこ。」
『それは知って…いや!すみません!待たせちゃって!』
「?ううん、そんなの気にしなくていいから。」
『そうですか!それじゃあ今日は楽しんでくださいね!』

そう言い残し通話を切る佐天。
今朝も思ったが、やはり違和感がある。
そんなことを思っていると、佐天が遅れてやって来た。

「悪いな御坂。待たせたか?」

アレ?佐天さんてこんな声だっけ?
アレ?佐天さんてこんな体つきだっけ?
アレ?佐天さんてこんなツンツン頭だっけ?

御坂は今日、佐天と遊ぶ約束をしたはずである。
だが待ち合わせ場所に来たのは佐天ではなかった。

「な、な、な、何でアンタがココにいるのよ!!」
「何でと申されましても佐天に呼ばれたからとしか…」

二人は昨日と全く同じ会話をした。


時を遡ること10分前。
初春は物陰から様子を見ていた。ここからはセブンスミストの入り口が見える。
御坂はまだ来ていない。 とそこへ、

「う~い~は~る~~!」

という掛け声とともに、初春のスカートは重力に逆らい舞い上がる。
ほほう、今日はいちご柄か。100%けしからんな。

「何するんですか佐天さん!!毎回毎回!!」
「ヨホホホホ!パンツ見せてもらってもよろしいですか?」
「もう見たじゃないですか!!」

いつものやりとりだ。これが彼女達流のあいさつの魔法なのだろう。
おはよウイハルとおやすみなサテンである。

「いやー昨日はだめ元で電話したんだけど、本当に初春が来られるとは思わなかったよ。
 休みの日って風紀委員は忙しくなるんでしょ?」
「大丈夫ですよ。白井さんも固法先輩も優秀な方達ですから、
 私の分の仕事くらい押し付けら…カバーしてくれますよ。なにより御坂さんがおもしろ…心配ですから。」

そう言ってニコッと笑う初春。今日の初春は黒春モードだ。
だが面白そうという意見には佐天も賛成だ。だってこの場にいるのだから。
その後二人は御坂たちが来るまで雑談した。

そんなこんなで待ち合わせ3分前。
まずは御坂がやって来た。だがどうにも元気がなさそうだ。

「あれ?何か御坂さんテンションが低いなぁ…どうしたんだろ?」
「う~ん…何かあったんですかね…って佐天さん!逆!逆!」
「逆って?…あ!」

初春に急かされ逆方向を見る佐天。少し遅れて上条がやって来たのだ。
佐天は御坂に電話をした。御坂はなにやら慌てている。

『も、もしもし!?佐天さん!?』
「あ!御坂さんですか!?もうすぐ着くと思いますんで!(上条さんが。)」
『そう、あたしは今着いたとこ。』
「それは知って…いや!すみません!待たせちゃって!(あっぶな~…知ってるとか言いそうになっちゃった。)」
『?ううん、そんなの気にしなくていいから。』
「そうですか!それじゃあ今日は楽しんでくださいね!(こちらはこちらで楽しませてもらいます。)…ヨシ!」
「タイミングギリギリでしたね。」
「でもここからじゃ二人の会話きけないね。」
「大丈夫です。先に来て、お店の正面入り口に盗聴器を仕込んでましたから。」
「すごいな初春!ジェバンニだね!…っていうかあたしより楽しんでない?」
「フッフッフ…昨日の内に色々仕掛けさせてもらいましたよ。…っとイヤホンしないと聞こえませんね。」
「そうだね。買ったものは装備しないと意味が無いって、町の人に最初に言われる事だからね。」
「じゃあ佐天さんも装備しますか?」
「一番いいのをたのむ!」

二人は仲良く片耳ずつイヤホンを付ける。
御坂たちの会話が聞こえてきた。

『…でと申されましても佐天に呼ばれたからとしか…』
『佐天さん!?何で!?』
『それがさ、俺もよく知らないんだけど、「ゾナハ病っていう病気にかかった」ってうちに連絡がきたんだよ。
 …アレ?そういや何でうちの番号知ってたんだろ…まいっか。』
「私にかかれば何てこと無いです。」
「初春屋…お主もワルよのぉ~。」
『で、お見舞いに行こうかって言ったら、ウイハルって子が看病してくれるからいいってさ。
 けどその代わりに御坂の相手をしてくれって頼まれた。』

御坂はパニクって鈍る頭を何とか動かし、とりあえず佐天へ連絡を取る。

「お!御坂さんからだ。…はい、もしもし?」
『佐天さん!?もしもしじゃないわよ!!
 ナニコレどーゆーこと!?なんでコイツがここにいるわけ!?』
「あれ?上条さんから聞いてませんか?
 あたし人を笑わせないと呼吸困難になる奇病に罹っちゃいまして。ゼヒィ!ゼヒィ!」
『な…だってさっきまで…』
「そんな訳でしてあたしの分まで楽しんでください。それじゃ!』

御坂は佐天涙子と言う人物を侮っていた。
彼女は面白いことの為なら手段を選ばないのだ。
御坂はこの後どうするべきかを必死で考える。 すると上条が、

『なぁ御坂…そんなにイヤなら俺とじゃなくていいんだぞ?
 他の友達誘ってもいいし…あ、そうだ!打ち止めなんか喜ぶんじゃないか?』
「??打ち止めってだれですかね?」
「さぁ…御坂さんの知り合いじゃない?でも本名じゃないよね…能力名かな。」

このままでは上条は帰ってしまうかもしれない。
御坂としてもこんなチャンスは滅多に無い。
再び妹の言葉が蘇る。

(いつまでもお姉様が勇気を出されないのなら…ミサカが本当にあの人を奪ってしまいますよ。)

『…わよ…』
『?どうした御坂。』
『アンタでいいって言ったのよ!!どうせ今からじゃみんな予定が埋まってるでしょ!!
 だからあんたと一緒でいいの!!わかった!?』
『は…はい…わかりました…』
「やりましたね!お二人とも地下街の方に向かいましたよ!
 私達も後を追いましょう佐天さん!…佐天さん?」
「あ…あ!うん!そうだね!あたし達も行こっか!」

あの時と同じだ。御坂の一言に佐天は胸の痛みを感じていた。
この感情がなんなのか、佐天本人はわからない。

少しだけ勇気を振り絞り何かふっきれた者。逆にモヤモヤがかかる者。
いつも通り不幸に巻き込まれたと諦める者。単純に面白がっている者。
四者四様の思いを胸に、4人はフレンドパークへ足を踏み入れる。

ニセモノでも罰ゲームでもない。
上条当麻と御坂美琴の正真正銘本当の初デートが始まろうとしていた。


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