3日目
上条は御坂をベンチに置いて、自販機コーナーに向かっている。
なにやら御坂の調子が悪かったので、とりあえず休ませてジュースでも買ってくることになったのだ。
というのも、御坂は自分で命令したくせに
上条に「美琴」と呼ばれるたびに「ギムッ!」だの「メメタァ!」だの、へうげた奇声を発していたのだ。
そりゃ心配もするわ。
そんなわけで、小銭を入れジュースを選ぶ上条。
学園都市には食品衛生法ギリギリの奇抜な飲み物が数多く存在するが、
外の世界もシソペプシとか普通にあるからどっこいどっこいかもしれない。
上条は無難にポカリのボタンを押したところで、
なにやら御坂の調子が悪かったので、とりあえず休ませてジュースでも買ってくることになったのだ。
というのも、御坂は自分で命令したくせに
上条に「美琴」と呼ばれるたびに「ギムッ!」だの「メメタァ!」だの、へうげた奇声を発していたのだ。
そりゃ心配もするわ。
そんなわけで、小銭を入れジュースを選ぶ上条。
学園都市には食品衛生法ギリギリの奇抜な飲み物が数多く存在するが、
外の世界もシソペプシとか普通にあるからどっこいどっこいかもしれない。
上条は無難にポカリのボタンを押したところで、
「お!」 「あァ?」
知り合いと鉢合わせしたのだ。それも二人も。
浜面仕上、一方通行、そして上条当麻。
三人とも第三次世界大戦を潜り抜けてきたヒーローであり、今最も熱い都市伝説の中心人物達でもあった。
浜面仕上、一方通行、そして上条当麻。
三人とも第三次世界大戦を潜り抜けてきたヒーローであり、今最も熱い都市伝説の中心人物達でもあった。
「なんだ、お前らも来てたのか。」
上条はポカリを持ったまま話しかける。ぬるくなるぞ。
「チッ!……ガキのお守りだがなァ。」
「俺は滝壺とデート…のはずだったんだけど余計なのが二人もついてきちまってさ……」
「いいじゃねぇかよ。上条さんもデートできる相手が欲しいですよ……」
「俺は滝壺とデート…のはずだったんだけど余計なのが二人もついてきちまってさ……」
「いいじゃねぇかよ。上条さんもデートできる相手が欲しいですよ……」
その言葉を聞いて二人は怪訝な顔になる。
あの時10人以上の女性をひきずっていたのはなんだったのか。
あの時10人以上の女性をひきずっていたのはなんだったのか。
「じゃあテメェは何でここにいンだ? 一人で来てンのか?」
「いや、御坂と遊びに来てるけど。」
「いや、御坂と遊びに来てるけど。」
それを聞いて今度は唖然とする二人。
世間一般ではそれをデートと呼ぶのではないだろうか。
逆にこれをデートと呼ばなければ、何をもってデートと呼ぶのか。
これは単純に上条が鈍感だからなのだが、二人はそれぞれ違う結論に達したようだ。
世間一般ではそれをデートと呼ぶのではないだろうか。
逆にこれをデートと呼ばなければ、何をもってデートと呼ぶのか。
これは単純に上条が鈍感だからなのだが、二人はそれぞれ違う結論に達したようだ。
(そ、そうか! 恥ずかしいンだな三下ァ!!
そりゃそうだよなァ! デート中に友達と会った時の気まずさったら無ェもンなァ!!
……ン?ってことは俺は三下からと、と、友達として認識されてンのかァァ!!?)
(そ、そうか!コイツはもうモテすぎてこの程度じゃあデートとすら呼べないって事か!!
さすがは俺が師匠と認めた男だぜ!! きっと夜は美女達をはべらせて、
酒池肉林のドンチャン騒ぎをしてるんだろうなぁ……くそう!羨ましいぜ!!)
そりゃそうだよなァ! デート中に友達と会った時の気まずさったら無ェもンなァ!!
……ン?ってことは俺は三下からと、と、友達として認識されてンのかァァ!!?)
(そ、そうか!コイツはもうモテすぎてこの程度じゃあデートとすら呼べないって事か!!
さすがは俺が師匠と認めた男だぜ!! きっと夜は美女達をはべらせて、
酒池肉林のドンチャン騒ぎをしてるんだろうなぁ……くそう!羨ましいぜ!!)
ほんのり頬を染めてそわそわする元一流の悪党と、鼻血を出しながら尊敬の眼差しを向けてくる不良少年。
はっきり言って気色が悪い。
はっきり言って気色が悪い。
「まァ、テメェも色々大変なンだな。何かあったらいつでも言いやがれ!
俺たちの間には…その…友情パワーがあンだからよォ!!」
俺たちの間には…その…友情パワーがあンだからよォ!!」
と、よく分からんことを言い残し、缶コーヒーを買って去って行く一方通行。
友情パワー…アイツが言うとこれほど虚しい言葉も無いな、と上条は思った。
言わせてやれ。生まれて初めて使う言葉だ。
また浜面のほうも、
友情パワー…アイツが言うとこれほど虚しい言葉も無いな、と上条は思った。
言わせてやれ。生まれて初めて使う言葉だ。
また浜面のほうも、
「次の夜会はぜひ俺も呼んでくれ!」
と、こちらもわけの分からん事を言い残しコーラを買って去って行く。
改めて上条は思った。自分の周りは変なヤツが多すぎる、と。
だがその変なヤツには自分が含まれていることに、彼は気づいていない。
改めて上条は思った。自分の周りは変なヤツが多すぎる、と。
だがその変なヤツには自分が含まれていることに、彼は気づいていない。
御坂はベンチに腰掛けボーっとしていた。
顔が熱く、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。
要するに緊張しているのだ。
顔が熱く、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。
要するに緊張しているのだ。
(はぁ…もっと気軽に楽しみたかったんだけどな……)
以前から名前で呼ばれる事はちょくちょくあったのだが、
あの日、上条が記憶喪失だとわかったとき、自分の気持ちを知ってしまった。
それからというものダメなのだ。
一日の大半は上条のことを考えているし、ほんの些細なきっかけで漏電するようになってしまった。
あの日、上条が記憶喪失だとわかったとき、自分の気持ちを知ってしまった。
それからというものダメなのだ。
一日の大半は上条のことを考えているし、ほんの些細なきっかけで漏電するようになってしまった。
「あーもう!全部アイツが悪いのよ!!」
理不尽な言いがかりにも程がある。お前は空き地でリサイタルするガキ大将か。
と、その時首筋に冷たい感触が走る。
ビクッとして振り返ると、ポカリを首筋に当てている上条の姿があった。
と、その時首筋に冷たい感触が走る。
ビクッとして振り返ると、ポカリを首筋に当てている上条の姿があった。
「よっ! 少しは落ち着いたか?」
落ち着けるわけが無い。そもそもの元凶はコイツなのだ。
さらに言えば御坂本人が原因なのだが。
さらに言えば御坂本人が原因なのだが。
「その様子だと激しい乗り物とか無理そうだな。観覧車でも乗るか?」
御坂はポカリを飲み干し、頷いた。
すると再び上条は御坂の手を握り歩き出す。
移動する度にこれだ。上条はただの迷子対策のつもりだが、上条を意識している御坂としてはたまったものではない。
これも彼女をテンパらせている大きな要因なのであった。
係員にカードを見せて観覧車に乗り込む上条と御坂。
徐々に小さくなっていく景色を見ながら、
すると再び上条は御坂の手を握り歩き出す。
移動する度にこれだ。上条はただの迷子対策のつもりだが、上条を意識している御坂としてはたまったものではない。
これも彼女をテンパらせている大きな要因なのであった。
係員にカードを見せて観覧車に乗り込む上条と御坂。
徐々に小さくなっていく景色を見ながら、
「見ろ! 人がゴミのようだ!!」
と、お約束をぶちかます上条。だが御坂の反応は薄い。
溜息をついて上条はこんな事を言い出した。
溜息をついて上条はこんな事を言い出した。
「その…ごめんな美琴。俺なんかが来ちまってさ。」
「……? 何で謝るの?」
「だってお前、俺の事嫌いだろ?」
「……? 何で謝るの?」
「だってお前、俺の事嫌いだろ?」
………どういうことだってばよ?
御坂の思考はコンマ数秒停止した。
御坂の思考はコンマ数秒停止した。
「な、何で!? 何であたしがアンタの事嫌ってるって思ってるわけ!?」
「だってしょっちゅう電撃ぶっ放してくるだろ。
どっかの海賊みたいに全身ゴムでできてるわけじゃねぇんだぜ?
それに今だって何かつまんなそうだし……」
「ち!違うわよ!!あたしは―――」
「だってしょっちゅう電撃ぶっ放してくるだろ。
どっかの海賊みたいに全身ゴムでできてるわけじゃねぇんだぜ?
それに今だって何かつまんなそうだし……」
「ち!違うわよ!!あたしは―――」
その先が続かない。これがツンデレのつらいところである。
だがここで退いたら誤解は解けない。
だってコイツは上条だから。LEVEL5の鈍感力者なのだから。
だがここで退いたら誤解は解けない。
だってコイツは上条だから。LEVEL5の鈍感力者なのだから。
「き、き、嫌いじゃ…ないわよ……」
何かごにょごにょ言っている。
上条は聞き取れなかったらしく、「ん? 何?」と聞き返す。
もう一度言えというのか、この男は。
御坂はキッと上条を睨み、今度は大声で言ってやった。
上条は聞き取れなかったらしく、「ん? 何?」と聞き返す。
もう一度言えというのか、この男は。
御坂はキッと上条を睨み、今度は大声で言ってやった。
「嫌いじゃないっつってんのよ!!
つーか、嫌ってる相手を追いかけてわざわざ戦争のど真ん中突っ込むバカがどこにいんのよ!!!」
つーか、嫌ってる相手を追いかけてわざわざ戦争のど真ん中突っ込むバカがどこにいんのよ!!!」
顔を真っ赤にして、荒い息を吐きながら、自分の想いをぶつけた御坂。
ついでに勢いに任せて「好きだ」と言ってしまえば良かったのに。
やはりこれがツンデレのつらいところである。
ついでに勢いに任せて「好きだ」と言ってしまえば良かったのに。
やはりこれがツンデレのつらいところである。
(何かよくわかんねぇけど、とりあえず嫌われてはなかったのか……)
御坂の言葉に上条は少しホッとした。
その奥にある本当の気持ちを察せ無いのが、上条らしいといえば上条らしい。
と、ここで観覧車はタイミング良く一周したようだ。
御坂が先に降り、次に上条が降りようとしたとき、彼の不幸が発動した。
いや、不幸と言うかなんと言うか……
彼は不幸と引き換えに会得しているもうひとつの体質がある。
ラッキースケベである。
段差に足が引っかかり、御坂を押し倒すように倒れこむ上条。
これだけなら日常【いつものこと】だが、今回は違う。
『ぶつかった』のである。
頭の中でズキュウウウンと音がした。
上条は慌てて起き上がる。
その奥にある本当の気持ちを察せ無いのが、上条らしいといえば上条らしい。
と、ここで観覧車はタイミング良く一周したようだ。
御坂が先に降り、次に上条が降りようとしたとき、彼の不幸が発動した。
いや、不幸と言うかなんと言うか……
彼は不幸と引き換えに会得しているもうひとつの体質がある。
ラッキースケベである。
段差に足が引っかかり、御坂を押し倒すように倒れこむ上条。
これだけなら日常【いつものこと】だが、今回は違う。
『ぶつかった』のである。
頭の中でズキュウウウンと音がした。
上条は慌てて起き上がる。
「ままま待て美琴!!!今のは事故だ!!つまりはノーカウントだ!!」
イカサマをした班長の様にノーカウントを主張する上条だが、御坂の脳には届いていない様子だった。
レモンの味がすると昔の人は言っていたようだが、勢いよくぶつかったせいで少し血の味がする。
ロマンチックもクソもあったものじゃない。
この唇に残る感触。
御坂は唐突に奪われたのだ。大切な『初めて』を。
レモンの味がすると昔の人は言っていたようだが、勢いよくぶつかったせいで少し血の味がする。
ロマンチックもクソもあったものじゃない。
この唇に残る感触。
御坂は唐突に奪われたのだ。大切な『初めて』を。
フリーズしていた頭が徐々に解凍され、今何が起こったのか御坂は理解し始める。
が、理解しないほうが良かったかもしれない。
あのまま止まっていた方が良かったかもしれない。
いっそのこといつもの漏電でもして気絶できれば楽だったろうに、今回に限ってなぜかそれも無い。
もう恥ずかしいどころの騒ぎではない。
もうどうすれば良いのか分からない。全く考えがまとまらない。
なので御坂はとりあえず逃げた。
「うにょわ~~~!!!」と謎の言語を発しながら、あっという間に消えていった。
上条はすぐに追いかけ、とにかく謝ろうと思ったのだが、
その瞬間誰かに肩をつかまれた。
が、理解しないほうが良かったかもしれない。
あのまま止まっていた方が良かったかもしれない。
いっそのこといつもの漏電でもして気絶できれば楽だったろうに、今回に限ってなぜかそれも無い。
もう恥ずかしいどころの騒ぎではない。
もうどうすれば良いのか分からない。全く考えがまとまらない。
なので御坂はとりあえず逃げた。
「うにょわ~~~!!!」と謎の言語を発しながら、あっという間に消えていった。
上条はすぐに追いかけ、とにかく謝ろうと思ったのだが、
その瞬間誰かに肩をつかまれた。
「見ちまったぜ~い? カ~ミや~ん。」
「いきなり乙女の唇を奪うとはなーやるなー上条当麻ー。」
「いきなり乙女の唇を奪うとはなーやるなー上条当麻ー。」
振り返るとそこには邪悪なまでにニヤニヤした土御門兄妹が立っていた。
厄介な人物たちに厄介な現場を見られたものである。
彼は半泣きの状態で、いつものアレを、世界の中心でも何でもないが、おもいっきり叫んだ。
「ふ、不幸だ~~~!!!」
厄介な人物たちに厄介な現場を見られたものである。
彼は半泣きの状態で、いつものアレを、世界の中心でも何でもないが、おもいっきり叫んだ。
「ふ、不幸だ~~~!!!」
そしてここは風紀委員第177支部。
ここにも厄介な人物がいた。
このクソ忙しいときに勝手にサボったため、初春は同僚の白井にこってり絞られていた。
だがこの娘、説教を受けながらも御坂たちの盗聴を続けていたのだ。
その根性はナンバーセブン並かもしれない。
ここにも厄介な人物がいた。
このクソ忙しいときに勝手にサボったため、初春は同僚の白井にこってり絞られていた。
だがこの娘、説教を受けながらも御坂たちの盗聴を続けていたのだ。
その根性はナンバーセブン並かもしれない。
「大体貴方は…どうしましたの初春?急に立ち上がったりして……」
「みみみ御坂さんとかかか上条さんが!!!」
「お姉様と類人猿が?」
「キキキキスしたそうです!!!!!」
「みみみ御坂さんとかかか上条さんが!!!」
「お姉様と類人猿が?」
「キキキキスしたそうです!!!!!」
その瞬間、白井の意識は天に召され、彼女はただの屍となった。
おおくろこよ、しんでしまうとはなさけない。
おおくろこよ、しんでしまうとはなさけない。
土御門達を振り切り、上条は急いで外に出る。
だが、もはや御坂の姿は見えなかった。
ケータイにもかけてみたが、一向に出る気配は無い。
だが、もはや御坂の姿は見えなかった。
ケータイにもかけてみたが、一向に出る気配は無い。
(こりゃ相当怒ってんな……今度こそ完璧に嫌われちまったな……)
とりあえずほとぼりが冷めてから謝ろうと決意し、上条はとぼとぼと自分の寮へと帰っていく。
彼はまだ知らなかった。
今回の事件がきっかけで、
「上条勢力」と呼ばれている大きな派閥にどでかい波紋が広がることになるとは―――
今回の事件がきっかけで、
「上条勢力」と呼ばれている大きな派閥にどでかい波紋が広がることになるとは―――